蒼天のキズナ   作:劉翼

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グレンタウンへの里帰りとなる第55話です!


第55話:故郷

 マサラタウンのオーキド研究所を訪れたツバキ達は、オーキド博士に会う事は叶わなかった。

 しかし、代わりにメガシンカに必要なアイテム・キーストーンを受け取ると、21番水道を通り、7つ目のジムのあるグレンタウンを目指して海上を進む。

 ポケモンリーグ参加を志して旅立ったあの日と変わらぬ故郷に無事上陸したツバキ達は……。

 

「行くぞマンタイン。……それっ」

 

 イソラの投げたフリスビーを、マンタインがダイナミックに跳ねてキャッチし、イソラの元へと戻ってきた。

 

「よしよし、今日もキレのあるジャンプだったぞ」

 

「大きい身体なのに、本当にすごい動きだよね、マンタイン……!」

 

 グレンタウンの浜辺で、約束通りマンタインと遊んでいた。

 イソラに撫でられ、ツバキに褒められたマンタインは見事なドヤ顔である。

 

「言っただろう? 水上アクロバットでこいつに勝るポケモンはそういない、とな。今度はツバキが投げてみるか?」

 

「良いの? よ、よーし……! 行くよマンタイン、そー……れっ! って、ああっ!?」

 

 イソラから渡されたフリスビーを受け取り、力を込めて投げたツバキだったが、勢いあまって見当違いの方へと飛んでしまった。

 

「大丈夫だ」

 

 マンタインは素早く方向転換すると、マサラタウンを出た時同様の瞬発力と加速力でフリスビーを追い、大きくジャンプすると、空中で身体を回転させて仰向けの体勢で咥えてキャッチに成功。

 落下までの僅かな間に再び身体を回転させ、着水に備える事も怠らない。

 

「……あの大きい身体で何をどうやったらあんな事ができるの?」

 

「……まぁ……練習かな……」

 

 凄いを通り越して、もはや一種の芸術じみたマンタインの動きに、ツバキは驚きや興奮がオーバーフローしてしまったようで、一周回って普段のテンションに落ち着いている。

 とはいえ、やはり口にフリスビーを咥えて戻ってくるマンタインは可愛いので、受け取った後に頭をめいっぱい撫でているが。

 

「よし、そろそろ行くか。戻れマンタイン」

 

 満足顔のマンタインをモンスターボールの回収用光線が取り込み、その姿が消えると、ツバキも立ち上がって町を見渡す。

 

「……えへへ、当たり前だけど、全然変わらないなぁ。色々あったけど、ここから旅立ってまだ半年も経ってないんだよね……」

 

 ツバキの時間の感覚を狂わせたのは、ジム巡りやポケモン達との出会い、ロケット団との遭遇などなど、グレンタウンに籠っていてはまず知る事の無かった出来事の数々であろう。

 

「そうだな。お前が旅に出た事で見て、聞いて、肌で感じた様々な事は、そう錯覚するほどの価値あるモノだった、というわけだな。さぁ、おじさんとおばさん、カツラさん達に挨拶に行こうか。私も父さんと母さんに顔を見せたいしな」

 

「うんっ!」

 

 ツバキは砂浜を走り、追いかけるポポとイソラと共に階段を上って町中へと入ると、自宅を目指して歩き出す。

 

「おや、ツバキちゃんじゃないか。久しぶりだなぁ! お、イソラちゃんもか!」

 

 かいりきポケモンの『ゴーリキー』と共にリヤカーに大量の野菜を乗せて声をかけてきたのは、近所の八百屋のおじさんである。

 

「あっ、お久しぶりです!」

 

「ご無沙汰です」

 

 ツバキとイソラが揃って挨拶をすると、ゴーリキーを休憩させ、リヤカーに腰を下ろした。

 

「旅に出たとは聞いてたけど……ははぁん、さては…………ホームシックか!」

 

「ち、違います! ジム巡りで今度はグレンジムに挑戦するんですぅっ!」

 

 大声で反論するツバキに、おじさんはわざとらしく耳を塞いで大笑いする。

 

「とっとっと……いやいや、すんげぇ声がデカくなったなぁ! ナッハッハ! 島の外はツバキちゃんを良い方向に変えてくれたらしいな!」

 

「あらあら! 今の大きい声はツバキちゃんだったの!?」

 

 今度は近所のパン屋のおばさんがツバキの声を聞きつけて現れた。

 

「じゃあ、この立派なピジョンはポポか!」

 

 リサイクルショップのおじさん。

 

「ふぇふぇふぇ、見ない内に大きくなったのう、その内2m越えるかのう」

 

 診療所のおじいさん。

 

「心なしか、顔も凛々しくなった気がするわねぇ♪」

 

 美容院のお姉さん。

 

「うぅむ、今のツバキちゃんをモデルにフィギュアを作って良いかね?」

 

 玩具屋のお兄さん。

 と、顔馴染みの人達にもみくちゃにされ、解放されるまで1時間もかかってしまった。

 まぁ、お土産に野菜だのパンだの木の実だのあれこれ持たされたが。

 木の実が大量に入ったバスケットをぶら下げ、さすがにポポも重そうである

 

「あうぅ……目が回りそう……」

 

「ははっ、同年代の子供があまりいないのもあって、ツバキは近所のマスコットみたいな扱いだったからな」

 

 イソラはそう言いながら、行く先々で撫でられたり、触られたりするのを怖がって、自分の背中にしがみついていた幼いツバキを思い出し、自然と笑みが零れていた。

 

「……ん、見えてきたな」

 

「うん……わたしの家……!」

 

 ツバキはドアノブを握り、息を吸うと、勢いよく扉を開けて、帰宅時の定番の言葉を叫んだ。

 

「ただいま! パパ、ママ!」

 

 すると、キッチンで料理をしていた女性が振り向いて、驚きを隠せない表情を見せた。

 

「……まぁ……! まぁまぁまぁ! おかえりツバキ~!」

 

 母はコンロの火を止めるとツバキに駆け寄り、思いきり抱き締めて頭を撫でる。

 

「まぁまぁ! 本当に大きくなって、まぁ……! あら、いけない、パパも呼ばないとね! あなた~! あなたぁ! ツバキとイソラちゃんが帰ってきましたよぉ~!」

 

 母がツバキを1度放し、2階に声をかけると、ドタドタと騒がしい音と共に父が降りてきた。

 

「おおぉっ、ツバキ! よく帰ったなぁ!」

 

 夫婦の行動というのは似てくるのか、母の時と同様に抱き締めて頭を撫でてきた。

 ツバキの父・シャコバと、母・ミミナ。

 

 

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 本当にこの2人は行動パターンがよく似ており、家の中の掃除をする時にも同じ場所をやろうとしたり、別々に出かけても最終的に同じ場所に同じタイミングで現れたりと、仲良しエピソードには事欠かない。

 

「まぁまぁ、イソラちゃんもよく来てくれたわねぇ」

 

「え? ちょ……」

 

 イソラも気を抜いた隙にミミナに抱かれて撫でられてしまった。

 ツバキの家とイソラの家は、昔から家族ぐるみの付き合いをしており、彼らにとっては向かいの家の子も、自分の娘同然なのである。

 

「おお、イソラちゃん! いやいや、よくここまでツバキを……はぐっ!?」

 

 シャコバもイソラに抱き付こうとしたが、ミミナから顔面に強烈なアイアンクローを食らってしまう。

 

「……まぁまぁ、あなたぁ? いくらなんでも、18歳という年頃の女の子に中年男性が抱き付くのはNGよぉ? うふふふふ……」

 

「マ、ママ……冗談……冗談だから……いだだだだだっ!」

 

 女性に対する行きすぎた冗談にはミミナも笑顔で怒り、夫の頭を掴んだ指にミリミリと力が込められ、とうとうシャコバからギブアップを引き出した。

 

「まぁまぁ、ちょっとやりすぎたかしら?」

 

「……あいかわらずおばさんは強いですね……物理的に……」

 

「ええ、ええ、昔からケンカの強さが自慢だからねぇ、うふふふふ♪」

 

 何を隠そう、イソラのアイアンクローは彼女の直伝であり、昔、女の子の1人旅という事で他にも様々な技を教えてもらったのである。

 現在のイソラの身のこなしはそれらがベースとなっており、旅の途中の危機を脱するのにも多大な貢献をしている。

 

「うふふ、でもちょうど良かったわ。今日はツバキの好物のクリームコロッケにしようと思ってたの♪」

 

「本当に!?」

 

 ミミナの発言にツバキが食いついた。

 

「なんだか、今日は不思議と朝からクリームコロッケ作ろうかな~って気分でね~。虫の知らせかしらねぇ、うふふふ♪」

 

「いててて……そ、それじゃあ今日は、イソラちゃんのお宅も招いてパーティーにしたらどうかな、ママ」

 

「まぁまぁ! それは良い考え! そうと決まれば、気合いを入れないとねぇ。カイくん、バリリン、手伝ってちょうだいな♪」

 

 ミミナの取り出したボールから、くわがたポケモン『カイロス』と、バリアーポケモン『バリヤード』が現れた。

 2体はツバキとイソラに気付くと、嬉しそうに擦り寄ってきた。

 

「えへへ、カイくんもバリリンも久しぶりだね。ほら、ポポくんだよ! ……あ、ごめん。バスケット持たせたままだった……」

 

 母の手持ちとの再会を喜び、立派に進化したパートナーを紹介しようとしたツバキだったが、そのパートナーが必死の形相でバスケットを保持している事にようやく気付き、慌てて受け取る。

 旧友と戯れるポポをしばらく眺めたツバキは、立ち上がり、両親に顔を向けた。

 

「それじゃあ今度はお姉ちゃんの家に行ってくるね。行こう、お姉ちゃん!」

 

「ああ。では、失礼しました」

 

 2人が出ていくと、シャコバもミミナも感慨深げな表情を見せる。

 

「……声も大きくなって、表情も明るくなって……本当にツバキは立派になりましたね、あなた」

 

「ああ……旅に出たいと言い出した時は不安だったけど、良い結果に転がってくれたようだな。イソラちゃんが一緒にいてくれたのもプラスだったろう」

 

「そうねぇ。先輩トレーナーが一緒にいるのは大きいですからねぇ」

 

 同意するミミナの反応に、シャコバは鼻をふんすと鳴らした。

 

「うむ! イソラちゃんがついていれば、悪い虫が寄ってくる事も無いだろうしな!」

 

「まぁまぁ、またそんな過保護な事を……お付き合いする相手くらい、あの子はちゃんと選べると思うけど……」

 

「大事な1人娘だぞ? ヘラヘラしながら寄ってくる男になんぞくれてやる気は無いっ!」

 

「……あなた、それはツバキに付き合うべき人を見る目が無いと言いたいのかしら?」

 

 ミミナから発せられる気配が変わり、指先をわきわきさせている事に気付くと、慌てて訂正するシャコバ。

 

「あ、いやそうではなくて…………有象無象じゃなく、ツバキの心から惚れ込んだ相手ならって事だよ!」

 

「そう、それなら大丈夫ですねぇ。さて、それじゃお料理を再開しましょう。あなたはカイくんと一緒にお買い物に行ってきてくださいな。急いで」

 

 ミミナの圧に負け、シャコバは慌てて買い物かごを準備してメモを受け取ると、カイロスを伴って出かけていった。

 

「うふふふ……さぁ、バリリン! 今日はツバキが無事帰ってきたお祝いに、あれもこれも作るわよ! いざ!」

 

 ツバキ宅のキッチンに、包丁がまな板を叩く音が、ボウルの中の液体をかき混ぜる音が、そして油の爆ぜる音が響き渡った。

 

 

 

「父さん、母さん、ただいま」

 

「……! ……おかえり」

 

 イソラが玄関を開くと、リビングの椅子に座った父が新聞を読みながら挨拶を返してきた。

 

「あら、イソラおかえり! 帰るなら連絡してくれれば良いのに。お、ツバキちゃんいらっしゃい! 帰ってきたのね」

 

 イソラの母が駆け寄り、イソラとツバキの肩を抱く。

 

「ふふ、サプライズにしようと思ってね。父さんも母さんも変わってないようで安心したよ」

 

「あっははは! ポケモンの進化じゃあるまいし、そうそう人間は変わんないわよ!」

 

 朗らかに2人をもてなす母。

 父は父で、新聞の陰からちらちらと様子を窺い、口元には笑みが浮かんでいる。

 イソラの父・テンジと、母・イロハ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 寡黙な父と快活な母という対照的な夫婦だが、それ故に互いの歯車は凹凸が噛み合うようで、会話は特別多くはないものの相手の事をよく理解し合っている。

 

「あの、おばさん。今日、ママがパーティーをするって言ってて……良かったらうちでお夕飯食べませんか?」

 

「あらぁ、良いわね! それならお呼ばれしちゃいましょうか、父さん?」

 

「……そうだな」

 

 本人としては興味無さげに言ったつもりだろうが、嬉しさの隠せていない声色で呟くテンジに、イロハはやれやれといった表情。

 

「じゃ、あたしはミミナさんを手伝ってくるよ。父さんは家庭菜園から果物を用意してね」

 

「……おう」

 

 テンジは新聞を畳んで立ち上がると、裏庭へと出ていった。

 

「イソラとツバキちゃんはゆっくりしてて良いよ。イソラの部屋もそのままだから。あ、そうそう、冷蔵庫にサイコソーダとミックスオレが入ってるから、良かったら飲みな」

 

「ありがとう、母さん」

 

「ありがとうございます!」

 

 明るい笑顔を残してイロハが玄関を出ていくと、ツバキ達は飲み物とコップを持って、2階のイソラの部屋へ向かった。

 部屋の中は水色に雲の模様という空をイメージした壁紙で覆われ、飾ってある小物も飛行機や鳥ポケモンなどの意匠を含む物が多い。

 机の上のパソコン……その横には、ツバキ・イソラ両家にカツラを加えた写真が飾られている。

 

「そういえば、お姉ちゃんの部屋に来るのって、すごい久しぶりかも……」

 

「そうだな……言われてみると、私が旅に出るようになってからは全然か?」

 

 イソラがコップにそれぞれの飲み物を注ぎながら、ツバキの言葉に応じた。

 

「うん。でも、記憶の中の雰囲気とほとんど同じだね。お姉ちゃんて昔から空が好きだったし」

 

「まぁな。昔は空を見上げる度、「どこまで続いているんだろう?」「この先に何があるんだろう?」と好奇心が疼いて仕方なかったからな。狭い島の中で暮らしているからこそ、その広さにますます心惹かれたというわけだ。……ふふっ……」

 

 幼い日の子供らしいたわいない憧れを思い出し、イソラは小さな笑いが零れてしまった。

 まさかそんな何気ない子供心が、『戦翼の女帝(フェザー・エンプレス)』などという大それた異名を得るまでに自分を昇華させてくれるとは、世の中わからないものである。

 

「でも、本当に空って魅力的だもんね。わたしも火山灰に空が隠されちゃった時は、それまでそこにあるのが当たり前だった蒼い空が、見たくて見たくてたまらなかったのを覚えてる。人って、空に憧れるようにできてるのかなぁ」

 

「ふっ……そうかもしれないな」

 

 実際、人類の歴史の中で、空は海と共にその文明発展の象徴となり、人間の技術はより深くへ潜り、より高くへ昇る事を目指して向上してきた。

 そこにはやはり未知への憧れがあったのだろう。

 

「……憧れ……か……」

 

 イソラは風車に息を吹きかけて遊ぶツバキに目をやる。

 この子にとって自分は憧れの存在だ。

 だが、その小さな身体に秘めた才能を考えると、いずれは自分を凌駕するトレーナーとなるだろう。

 そうなる事への期待も大きいが、この子から憧れを向けられなくなる不安も決して小さくはない。

 

「(……馬鹿か私は。可愛い妹分の成長を喜ばないでどうする? …………以前、人間はエゴの上に成り立つ生き物かも、と考えた事があったが……案外当たってるのかもしれないな……まったく……)」

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 イソラの心中での葛藤などつゆ知らず、ツバキが純粋な眼差しを向けている。

 ……そんな目で見られては、イソラはくだらない事を考えていた自分を恥じる他ない。

 

「……いや。気にするな、大した事じゃないからな。……なぁ、ツバキ」

 

「何?」

 

「……いつかバトルする時……その時は、お互いに自分の持てる全てを出しきった、本気で最高のバトルをしような」

 

「……? うん、もちろんだよ!」

 

 突然そんな事を言い出したイソラに首を傾げつつも、ツバキは満面の笑みで頷いた。

 その時、外から自分達を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 

「あっ、ママの声だ! 準備できたって! 行こう、お姉ちゃん!」

 

「……ふふっ、そうだな」

 

 ツバキは遊んでいた風車を元の場所へ戻し、空っぽになったコップをトレイに乗せると、部屋を出ようとするが、バランスが取り辛いようだ。

 イソラはツバキが落としそうになった2つのコップを手に取る。

 

「無理をするな。こういう事は協力してやった方が良い」

 

「えへへ……ごめん、お姉ちゃん。でも、その通りだよね、ありがとう」

 

 この子が自分を超えるその時まで。

 自分はこの子の憧れでいられるよう……その期待を裏切らぬよう……この子が無事にそこまで成長できるよう、努力し、協力し、見守っていこう。

 そう改めて決意したイソラは、ツバキと共に歩き出し、かつての自分の憧れが詰まった部屋を後にした。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いしていただき、ありがとうございます!

ツバキとイソラの両親が本格的に登場しましたが、キャライメージが固まったのがわりと最近なため、以前にちょっと出た時とは微妙にキャラが違います。
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