グレンジムに挑戦するため、久しぶりにグレンタウンへ帰郷したツバキは、両親や近所の人々に祝福され、自宅でパーティーを行う事に。
母・ミミナはかなり気合いを入れたようで、イソラの母であるイロハの手伝いもあり、ツバキの好物・クリームコロッケを筆頭に様々な料理がずらりと並び、見る者を圧倒した。
ツバキ達の無事の帰還とバッジ6つ獲得を祝い、そして7つ目のバッジ獲得を願ってのパーティーが始まると、両親達は立て続けにツバキらに質問し、旅の様子を聞きたがった。
その内に両家の父がうちの子自慢を始めたかと思えば、相手方の娘も褒めて結局何がしたかったのかわからなくなったり、母達がツバキとイソラにかつての自分を重ねて昔話を始めたりなど、若干カオスながらもパーティーは大盛り上がりを見せた。
そして……。
「…………ん…………?」
ぐらぐらと揺れる感覚に、ツバキの意識が呼び覚まされる。
地震だろうかとも思ったが、それにしてはもっと身近……というより、腕の中で……。
「っ!! タ、タマゴが……!?」
ツバキは布団をはね除けて起き上がる。
そう、腕に抱いて眠っていたタマゴが、揺れ始めたのである。
「あわわわわ……! ど、どうしよう!? お、お姉ちゃん! パパ!? ママーっ! マチスさーん!!」
パニックのあまり、ここにいない人まで呼び始めたツバキの声を聞きつけ、真っ先にイソラがツバキの部屋に駆け込んできた。
「ど、どうしたツバキっ!?」
次いでツバキの両親と、泊まっていたイソラの両親がぞろぞろと集まってきた。
「なんだなんだ?」
「まぁまぁ、昨日持ってたタマゴじゃないの!」
「……孵化か」
「そういえばポケモン生まれるの間近で見るの初めてだわぁ」
「落ち着けツバキ。下半分くらいをこう、掛け布団で固定して……む?」
タマゴの周りを丸めた掛け布団で固めるイソラの腕の中でタマゴが揺れる。
「お、お姉ちゃんのタマゴも……!?」
同じタイミングでルイからもらったとはいえ、2人の持つタマゴがほぼ同時に孵ろうとしているとは。
イソラは慌てず、ツバキのタマゴと同様に自分のそれも固定していくと、少しだけ離れて様子を見守り、ツバキもそれに倣う。
間も無く揺れは大きくなり、表面にヒビが入り始めた。
「う……」
「生まれるぞ……!」
6人分のざわめきが静まり、その場の誰もが息を飲んで2つのタマゴに意識を集中し……。
2つは同時に光を放った。
「わっ……!? …………う……?」
思わず右手で目を覆ったツバキは、光が収まると指を開いてタマゴの状態を確認した。
そこにいたのは、青く、蛇のように細長い身体を持つポケモンと、緑系統の体色で口から2本の牙が生えたポケモンだった。
「まぁまぁまぁ! ミニリュウとキバゴ……両方ドラゴンとは奇遇ねぇ!」
「ドラゴン!? へぇ~、この子達ドラゴンタイプなんだぁ! わたしのタマゴは緑色だったから……キバゴの方かな」
「私のタマゴは青かったからミニリュウだな」
6人が生まれたばかりのドラゴン達を観察していると、2体は周りの人々を見渡した後、それぞれツバキとイソラをじっと見つめて飛びついた。
「わわっ!? ……すごーい、誰がトレーナーかわかるんだ……。えへへ、キバゴかぁ……わたしツバキ! よろしくね!」
「タマゴ時代に大事にされていた記憶があるんだろうな。よしよし、これからよろしくなミニリュウ」
ツバキとイソラが抱く2体を、両親達が満面の笑みで撫で、母達に至っては写真撮影まで始めた。
「いやいや、あのツバキもとうとうタマゴからポケモンを育てるまでになったか……パパは嬉しいやら寂しいやら……」
「まぁまぁ、あなたそういうのはツバキがお嫁に行く時に取っておいたら?」
ツバキの両親は、うんうんと頷きながら涙ぐむシャコバをミミナがなだめ……。
「イソラは何回か孵したポケモンを見せてくれたけど、ミニリュウは初めてじゃないかしらね父さん」
「……そうだな」
イソラの両親は、これまでイソラが孵したポケモンを思い出しながら話すイロハに対してテンジが短く相槌を打つ。
「うん、私もミニリュウを育てるのは初めてだよ。ふふっ、お前はどんな性格で、何が好きなんだろうな?」
「わたしは生まれたばかりのポケモン育てるの初めてだからなぁ……でも、精一杯お世話するからね、キバゴ!」
結局、それから30分は2体のベビー達に関する話題で盛り上がり、やがてミミナが朝食の準備に行くと、他の面々も思い出したように下りていった。
「ミニリュウ、これからお前は私の仲間だ。頼むぞ」
イソラは新品のモンスターボールを取り出すと、ミニリュウの鼻先に軽く当ててゲットし、正式に手持ちに加えた。
「じゃ、じゃあわたしも……キバゴ、これから一緒に頑張って強くなろう!」
ツバキもキバゴの額にモンスターボールを当て、ゲットに成功した。
「キバゴ……牙……うぅん、ファングから取るとファンファンと紛らわしいかなぁ……」
「ニックネームか。なら、斧から取ったらどうだ? キバゴ系の牙はどんどん鋭くなり、斧のような形になるからな」
「そうなの?」
ツバキはポケギアの検索機能で斧について検索する。
「……斧って色んな種類があるんだね……んん…………あ、これちょっとキバゴに似てるかも!」
「ふむ、バルディッシュか。三日月斧とも呼ばれる武器で、刃の部分が全体重量の大部分を占めている破壊力の高い斧だな」
「バルディッシュ……じゃあ、バルディ、かな! このくらい力強く育ちますようにって!」
「バルディか……うむ、悪くない。……さて、ではニックネームも決まったところで、私達も下りるか」
「うん、そうだね」
2人が階段を下りると、ミミナとイロハが談笑しながら朝食の準備をしている後ろで、シャコバがテレビで朝のニュースを、テンジが新聞紙を見ている。
もはやこの夫婦2組にとって、相手の家も勝手知ったるなんとやら……というより自分の家同然に慣れてしまっているようだ。
「……へえ……ママ、ニビシティで怪しい連中が逮捕されたってさ」
テレビを見ていたシャコバが、映ったニュースを見てミミナに声をかける。
「まぁ、怪しいって?」
「なんか服装からロケット団じゃないかって言ってるよ。チェーンソーやらなんやらが近くに置いてあって、木を伐採しようとしてたんじゃないかってさ」
「まぁ、怖い」
ツバキとイソラはギクリとする。
まず間違いなくトキワの森で倒した連中の事であろう。
「気を失って縛り上げられた状態でトキワの森の入口に放置されてたらしい」
「へぇ、そりゃ不思議。誰かヒーローみたいのがいたんですかねぇ」
恐らくはオーロットによって森の外へつまみ出されたのだろう。
ツバキ達はまさか自分がやりましたと言い出せるはずも無く、作り笑いを浮かべてしまう。
が、そこはやはり親……娘のおかしな様子に気付いてしまったようだ。
「……ツバキ、イソラちゃん。何か隠してないかな?」
「ナ、ナニモー?」
「ゾンジアゲマセン」
ごまかそうとするが、どうにも2人揃って嘘が苦手なようで、視線が泳いで言葉は棒読みとなってしまい、自白したも同然の状態となる。
「ツバキ?」
「……イソラ」
4人からの圧力を受けた事でとうとうツバキ達は折れ、本当の事をぽつりぽつりと話し始めた。
無論、発電所での交戦に関しても。
「危ないじゃないか!!」
案の定怒られた。
「……その義侠心には感心するが……」
「「ごめんなさい……」」
シャコバとテンジに叱られ、2人はしゅんとうなだれる。
「まぁまぁまぁ、結果的に無事だったんですし、もう良いじゃありませんか。私も若い頃は旅をしながら街中の不良に片っ端からケンカを売ったものですよ、うふふ♪」
「いや、ママ……不良グループとロケット団じゃ全然違うだろう……」
「まぁまぁ、勘違いしちゃったロクデナシの集まりって意味じゃ同じじゃありませんか」
見かねたミミナが助け船を出した。
「そうそう。それに昔から男は度胸、女は愛嬌と言いますけど、女にも度胸は必要ですよ」
「む……だが……」
イロハの援護攻撃にテンジが言葉を詰まらせる。
母親連合に妙に気迫があるためか、父親連合は分が悪くなってきたようで、普段から頭が上がらないであろう事が窺える。
「……はぁ……わかった。済んだ事はもう良い。人助けにはなったわけだしな。だが、もう危ない事をしちゃダメだぞ! そういう事は警察に任せなさい、警察に」
「義を見てせざるは勇無きなり……その精神は素晴らしいが、まずは自分の身を守る事が最優先だ」
「「はい、ごめんなさい……」」
とはいえ父親という立場からすれば、大事な娘が危ない橋を渡っていたと知れば厳しく叱らずにはいられないものである。
対する母親勢は同じ女性としての立場から、娘達の動かずにはいられなかった気持ちを理解できるため、どうしても娘サイドにつきたくなるのだろう。
「まったく……それでツバキ。次はこのグレンタウンでジム戦をするんだろ?」
「う、うん…………あっ……」
父からの問いかけに、下げていた頭を上げたツバキはハッとする。
「……そうか、グレンジムに……カツラさんに挑むという事は……」
「そうだ。まずはパパを倒してみなさい」
そう、ツバキの父・シャコバは、グレンジムのジムトレーナー……チャレンジャーが進むべきジムリーダーへ続く道を塞ぐ壁なのである。
「……言っておくが、娘だからと手加減はしない。ママもわかってるだろ?」
「ええ、ええ。ポケモンバトルは真剣勝負ですからね。もちろんそこには何も言いませんよ」
「うむ……そういう事だツバキ。ジムに挑むなら、万全の態勢で来なさい。パパもジムトレーナーとして、易々と道を開けはしないからな」
真剣な面持ちの父の気迫に、ツバキは息を飲む。
娘を応援する父であると同時に、その娘を阻むジムトレーナーでもある……当然葛藤はあるが、そこは歴戦のポケモントレーナーとして割り切らねばならない。
「……うん……! 絶対にパパに勝って、カツラさんに挑んで見せるよ……!」
そんな父の心境を理解しているツバキもまた真剣な眼差しで見つめ返し、力強く頷いた。
父と娘……親子の演じる激戦の日は近い。
――――イワヤマトンネル・頂上
イワヤマトンネルは、基本的に内部の洞窟を通る場所であり、険しい山道……いや、そもそも道すら無い外周部を通ろうとする者はまずいない。
そのイワヤマトンネルの最上部で、激しい稲光と轟音が幾度も轟いた。
「……無駄だ。貴様の雷は私のドサイドンには掠り傷すら付けられんよ。仮にも伝説と呼ばれる貴様だ……もう理解しているはずだろう、サンダーよ」
そう語る男……ルプスの前に立つドサイドンは、実際に何度も雷を落とされたが、顔色1つ変えていない。
たとえ何万、何億ボルトの電圧であろうと、その顔色が変わる事は無いだろう。
それに対峙する、鋭く尖った全身の羽毛を帯電させるポケモン……でんげきポケモン『サンダー』は、男の言う通り、自身の電撃が通用しない事を……いや、そもそも勝ち目が無い事までも理解できている。
だが、電気を操るポケモンの頂点に近い存在であるが故の誇りが逃走を許さないのだ。
サンダーは渾身の力を込めて飛び上がると、身体ごと高速回転しながら急降下し、槍のような鋭いクチバシの先端でドサイドンを貫かんとする。
「“ドリルくちばし”か。ドサイドン」
ドサイドンは両腕を開くと、まっすぐ落下してくるサンダーを待ち構える。
そしてサンダーのリーチを正確に把握し、その先端が自身の胸板を貫く寸前に勢いよく掴んだのだ。
回転と落下、そしてサンダー自身のスピードが乗った“ドリルくちばし”を受け止めたドサイドンの手からは摩擦で煙が上がるが、サンダーの回転は見る見る落ちていき、やがて完全に停止して暴れ始めた。
「“ストーンエッジ”」
クチバシを掴まれ、電撃も効かない……完全に詰んだサンダーに、ルプスは容赦無く追い討ちをかける。
身動きの取れないサンダーの下腹部を、地面から隆起した鋭い岩が直撃し、その衝撃にサンダーは白目を剥いて昏倒してしまった。
「貴様に恨みは無いが、ロケット団……サカキ様の覇道の礎になってもらわねばならんのでな。悪く思うな、サンダー」
ルプスが手元のスイッチを入れると、アクイラの使用した物と同じ、黒い三角形の機械が浮かび上がり、気絶したサンダーをエネルギーフィールドの中へと閉じ込めた。
「……ルプスだ。そちらはどうだウィルゴ」
「ふたご島最上部に到着したわ。これから装置を起動してフリーザーを誘導する」
「了解、抜かるなよ。貴様は私やアクイラと異なり、捕獲対象とのポケモンの相性が特別良いわけではない。完全に実力で破らねばならんのだ」
「それは楽しみね。アタシを満たしてくれるのなら、苦戦してみるのも面白いかも?」
「おい」
「冗談よ。それじゃ装置を起動するから切るわよ」
プツンという音を最後に、通信機は沈黙した。
「……やれやれ。ともあれ、これでサンダーとファイヤーは捕獲完了か。……プロジェクト・キメラ……これが成れば、ロケット団は再び世界を窺う事が可能となり、長きに渡る雌伏の時は終焉を告げる事となる……もう間も無くですぞ、サカキ様……」
ルプスの独白……それを聞いたのは、ドサイドンと夜空の星ばかりであった……。
つづく
はい、今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただき、ありがとうございました!
いわ・じめんとかいうサンダーさん殺し。