蒼天のキズナ   作:劉翼

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おそらく過去最長となる第58話です!


第58話:その背中を超えてゆけ

 グレンジムへと挑戦し、ジムトレーナーである父・シャコバとのバトルに臨んだツバキは彼からの一喝を受けて気合いを入れ直すと、父と同時にモンスターボールを放り投げ、親子対決の火蓋がついに切って落とされた。

 

 

 

「お願い、シェルル!」

 

「行けっ、マグカルゴ!」

 

 ボールから飛び出したシェルルがフィールドに着地すると、突然部屋の中の気温がムワッと上がり、視界がぼやけた。

 

「うっ……! こ、これは……!?」

 

 ツバキがぼやける視界の中で熱の発散元を探すと、シャコバの前に岩を殻のように背負った赤いポケモンがいた。

 ようがんポケモンの『マグカルゴ』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「マグカルゴの身体は超高温のマグマで構成されている。存在するだけで周囲を灼熱地獄へ変え、その熱は思考を鈍らせる……さぁ、その状況下、お前はこいつに勝てるか?」

 

「か、勝ちます……!」

 

 額に浮いた汗を拭うツバキに対し、シャコバは間近にマグカルゴがいるにもかかわらず涼しい顔をして、ツバキを試すかのように言葉を紡ぐ。

 ツバキは始める前から精神的に負けるわけにはいかず、笑顔を浮かべて応じた。

 

「……それでは第1試合、マグカルゴ対グソクムシャ。バトル……」

 

 イソラが右手を高く掲げ……。

 

「……開始っ!」

 

 合図と共に振り下ろした。

 

「シェルル、“アクアジェット”!」

 

 先手を取ったシェルルが水流を纏い、目にも止まらぬ速さでマグカルゴへ迫る。

 が、マグカルゴに近付くに連れて身体を覆う水が蒸発していく。マグカルゴの体温が高すぎるのだ。

 結局シェルルはそのまま方向転換してツバキの前へと戻ってきた。

 

「その程度のみず技では、マグカルゴに当てる事すらできんぞ。“からをやぶる”」

 

 マグカルゴの殻の表面が弾け飛び、背中から高熱の炎が吹き出した。

 守りを捨てる事で攻撃能力を劇的に引き上げる“からをやぶる”は極めて厄介な技である事はツバキも学習済みだが、あの高温の身体もまた曲者だ。

 

「半端なみずタイプ技じゃ全然効かない……! それなら……シェルル、“たきのぼり”!」

 

 シェルルの両腕に大気中の水分が集まり、“アクアジェット”とは比較にならないサイズの水の拳を作り出し、大きく拳を引きながら突っ込んでいく。

 

「(これなら蒸発する前に当てられるはず……!)」

 

 接近中も水分を集めていたため、水の拳はほぼそのままのサイズでマグカルゴをリーチ内に捉え、強烈な水のアッパーを叩き込む……しかし、その拳は虚しく空を切る。

 

「なっ……えっ……!?」

 

「“からをやぶる”は攻撃力だけではない……身軽さも補強する技だ」

 

 マグカルゴはいつの間にかシェルルの背後へと回り込み、その背中に狙いを定めていた。

 

「シェル……!」

 

「“かえんほうしゃ”」

 

 マグカルゴの口から凄まじい勢いで炎が噴射され、無防備なシェルルの背中を焼いた。

 

「……っ! “たきのぼり”で防御!」

 

 熱さに悶えるシェルルだったが、ツバキの指示に従い腕に水分を集め、振り向いて水の盾で“かえんほうしゃ”を受け止める。

 水と炎は相殺を繰り返し、周囲は白い蒸気に覆われていく。

 

「シェルル、一旦離れて!」

 

 視界が悪くなり、不意討ちを警戒したツバキは、シェルルを蒸気の外へと出して態勢を整えさせる。

 

「良い判断だ。あのまま蒸気の中に入れば、マグカルゴの柔軟な身体で再度背後に回り、今度こそトドメを刺すつもりだったのだがな」

 

 シャコバはペラペラと想定していた戦術を話すが、それは彼のバトルにおけるポリシーである「同じ手と、機を逃した手は二度と使わない」ためであり、使わない戦術を話したところで何もデメリットは無いからだ。

 むしろ今後同じ状況になった際に相手に無用な警戒を促せるメリットとなりうる。

 考える事の増えた人間というのは、得てして視野が狭くなりがちであり、付け入る隙を自ら増やしているも同然なのだ。

 

「(熱で思考を阻害し、言葉で惑わせ、正常な判断力を奪う……なんて老獪な戦術……さすがは『焔壁(ファイヤー・ウォール)』だ……)」

 

 イソラもかつてカントーでジム巡りをした際にシャコバともバトルをしたが、やはり同様に苦しめられた事を思い出す。

 ポケモンバトルには単純なポケモンの強さだけでなく、トレーナー自身の精神力も大きな影響を及ぼす。

 なにしろポケモン……特にほのおタイプやこおりタイプはそこにいるだけで周辺の気温を変化させてしまう者も多く、中には天候自体を変えてしまうポケモンもいる。

 そういった状況下で惑わされる事無く正確な指示を出せるか否かが勝敗を分ける……それがポケモンバトルなのだから。

 

「来ないのならこちらから仕掛ける! “だいちのちから”!」

 

 マグカルゴが身体を震わせると、地面を突き破って膨大なエネルギーの柱が何本も隆起し、シェルルに迫る。

 

「“アクアジェット”!」

 

 それに対し、ツバキは“アクアジェット”の加速力を活用しての回避を試みる。

 コソクムシからグソクムシャへと進化し、体格とパワーと引き換えに平時の敏捷性は失ったが、“アクアジェット”使用時のスピードに関しては、進化に伴う全身の筋力増強によって磨きがかかっている。

 実際、シェルルはぐんぐん加速し、迫るエネルギー柱を見る見る引き離していく。

 

「(“アクアジェット”はスピードはあるけど水分が足りずに蒸発しちゃう……“たきのぼり”はマグカルゴの速さを捉えられない……どうしよう………………ん……待って……? ……行けるかも……!)……シェルル、そのまま相手の周りを飛び回って!」

 

 シェルルの加速は増していき、水の蒸発しない距離を保ちながらマグカルゴの周囲を残像が残るほどの速度で飛翔するが、そのマグカルゴはまだシェルルの姿を捉えられているようだ。

 

「(あの巨体でこれほどのスピード……初めて見たが、これがグソクムシャか……! だが……!)マグカルゴ! “かえんほうしゃ”で薙ぎ払え!」

 

 マグカルゴはその場でジャンプすると、回転しながら地上に炎を噴射し、スピードを上げるシェルルに対して点でなく面での制圧を行う。

 

「……取った! シェルル、“いわなだれ”!!」

 

「何っ!?」

 

 急停止したシェルルが地面に爪を突き立て、無数の岩塊を浮遊させると、身体に火炎を浴びながらも空中のマグカルゴ目掛けて一斉に弾き飛ばす。

 いかに素早かろうと、鳥ポケモンでもなければ空中でできる動きは極めて限定的だ。

 案の定マグカルゴは飛来する岩をよけきれずに次々にヒットして地面に落下、降り注ぐ岩の下敷きとなった。

 

「(思った通り……! パパはシェルルの……グソクムシャの覚える技を把握してない!)」

 

 現在のカントー地方は、実に多種多様なポケモンが溢れ返っているが、交流の始まったばかりのアローラ地方のポケモンだけはまだまだ浸透していない。

 いかに古参のトレーナーであるシャコバでも、イソラのように各地方を飛び回っているわけでもない以上、ただでさえ膨大な種類のポケモンの中で身近にいないポケモンまで完全には把握できていなかったのである。

 

「マグカルゴ! 脱出だ!」

 

 だが、あまりに咄嗟の出来事にマグカルゴは怯み、思うように動く事ができない。

 

「今っ! “たきのぼり”!」

 

 シェルルの十文字の目が動けないマグカルゴを見据え、両腕を激しく逆巻く水流が覆う。

 振りかぶった右腕の爪でがりがりと地面を削りながら走り出し、マグカルゴを捕らえた岩の檻へ、上半身を捻るように大きく腕を振り上げた。

 その腕力と水流は、岩ごとマグカルゴを空中へと放り出し、シェルルは飛び上がって左腕によるさらなる追撃を加え、地面へと叩き付けた。

 

「っ……!」

 

 地面に落ちて動かないマグカルゴにイソラが慎重に近付いていき、その様子を確かめる。

 

「……マグカルゴ、戦闘不能! グソクムシャの勝ち!」

 

「っ! やった……まずは1勝だよシェルル! ありがとう! ……熱かったよね……?」

 

 喜ぶツバキに対して、シェルルは水の膜越しとはいえマグカルゴに直接触れた、白い煙を上げる手を振って応える。

 当然の事ながらシェルルもダメージは大きい。

 “からをやぶる”で強化された“かえんほうしゃ”を2発も食らってしまった上、どうやらマグカルゴの特性《ほのおのからだ》によって火傷を負ってしまったようだ。

 

「戻れ、マグカルゴ。……ご苦労だったな」

 

 シャコバはマグカルゴをボールに戻すと、もう1つのボールを手に取り、じっと見つめる。

 

「(……まさか1体目だけでマグカルゴを倒すとは……。……ツバキ、お前は確かに昔から利発な子だった。だが……正直ここまでのトレーナーになるとは思っていなかった……お前の才能を信じてやれなかったんだ)」

 

 ちらりと視線をミミナに向ければ、微笑んで手を振ってくる。

 

「(ミミナ……思えば、お前はツバキの旅立ちにはほとんど反対しなかった。……お前は見抜いていたんだろうな、ツバキの中に眠る才能を……そしてこの旅で開花すると信じていた。……まったく……親としての格は完全に負けたか……ならば……)」

 

 ギリッとボールを握り、目を見開くと右腕を大きく振りかぶる。

 

「(せめて俺は壁……試練となってお前の成長の助けとなろう……! それが俺の父親として、トレーナーとしてのけじめだ!)……お前の出番だ! ギャロップ!!」

 

 決意を秘めた眼差しと共に空を舞ったボールから現れたのは、炎の鬣を持つひのうまポケモン『ギャロップ』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「こいつが俺の切り札だ。倒せるものなら倒してみろ、チャレンジャー!」

 

「……! ギャロップ……!」

 

「(ギャロップの身体はマグカルゴに比べれば遥かに体温は低い……はずだが、この熱量……ギャロップの闘志が炎をより猛らせているのか……)」

 

 イソラは頬を伝う汗を拭い、腕を振り上げる。

 

「では、ギャロップ対グソクムシャでバトルを再開します。……バトル……始めっ!」

 

 バトル再開の合図と共に、今度は両者は同時に動いた。

 

「“アクアジェット”!」

 

「“でんこうせっか”!」

 

 水流を纏ったシェルルが高速で突進を行うのと、ギャロップが前脚で地面を掻いて駆け出したのは同時。

 しかし、次の瞬間に弾き飛ばされていたのはシェルルだった。

 

「っ!? は、速いっ……! シェルル、大丈夫!?」

 

 頑丈な甲殻で覆われた背中で受け身を取ったシェルルが土煙を払いながら立ち上がり、再度戦闘態勢へ移行する。

 

「(ギャロップは地上を走るポケモンの中ではトップクラスの加速力……10歩も走れば時速240kmにも達するのだから、バトルに必要な速度となれば5、6歩あれば十分か。加えて……)」

 

 イソラが着目したのは、赤みを増したシェルルの腕だ。

 

「(火傷状態……あれではロクに力を入れる事もできん。“アクアジェット”はほとんどダメージを与えられていまい)」

 

 そう、相手の方が最高速を出すのが早く、こちらは不完全だったとはいえ、激突した以上はギャロップも弱点技を受けているはずなのだ。

 にもかかわらずダメージなどまるで感じさせずピンピンしているのは、この火傷によるシェルルの攻撃力低下が大きい。

 

「くっ……!」

 

「休んでいる暇はないぞ! “ほのおのうず”!」

 

 ギャロップの鬣と尻尾が激しく燃え上がり、空中に火の玉が形成されると、2振りの鞭のように伸びてシェルルを囲み、回転を始めた。

 それは瞬く間に渦を形作り、360度から襲いかかる火の粉と高熱がシェルルの体力を奪う。

 

「熱っ……! くぅっ……シェルル、“たきのぼり”で身体を濡らして!」

 

 渦からの脱出のため、“たきのぼり”の要領で水分を集めようとするものの、周囲を炎に囲まれている状況では集める端から蒸発してしまう。

 

「その渦に囚われた時点で詰みだ。ギャロップ!」

 

 ギャロップの角の先端が帯電し、全身に伝播、さらに強力になった電流が身体を鎧のように覆い、脚で地面を掻き始めた。

 

「“ワイルドボルト”!」

 

 その指示を待っていたかのようにギャロップが駆け出し、走った後に稲光と火の粉を残しながら“ほのおのうず”へと突進する。

 

「シェルルっ!!」

 

 ツバキの叫びも虚しく、渦の中からシェルルが撥ね飛ばされ、飛び出したギャロップが身体を横向きにして急停止する。

 

「……グソクムシャ、戦闘不能! ギャロップの勝ち!」

 

 帯電しながら落下したシェルルに駆け寄ったイソラが状態確認を行った上で宣言する。

 

「シェルル…………ごめん、ありがとう。マグカルゴからの連戦なのに頑張ってくれたね……後は任せて休んでて」

 

 申し訳なさそうなシェルルの頭を撫で、ボールに戻したツバキは元の位置に戻ると目を閉じる。

 

「…………行くよ」

 

 ゆっくりと目を開くと、隣に控えるパートナーへと語りかける。

 

「……ポポくんっ!!」

 

 待ってましたとばかりに翼を開き、ポポがフィールドへと飛び込んだ。

 

「(わたしとポポくんで始めた旅……パパを超えるこのバトルは1つの目標だった……なら、やっぱりここでポポくん以上の子はいないよね……!)」

 

 ツバキとポポが目配せして頷き合う。

 

「両者2体目となったため、ここからを第2試合とします。両者、準備は?」

 

「大丈夫!」

 

「問題無い」

 

「わかりました。では、第2試合、ギャロップ対ピジョン。バトル……開始っ!!」

 

 イソラが腕を振り下ろすと同時にツバキの指示が飛ぶ。

 

「ポポくん、“たつまき”!」

 

 ポポの羽ばたきが風の流れをコントロールし、強力な3つの風の渦を作り出してギャロップを囲むように迫る。

 

「(これが“たつまき”だと……!? なんて威力だ……! 生半可な炎は飲み込まれるな……!)ギャロップ! “でんこうせっか”で駆け抜けろ!」

 

 ギャロップが走り出し、“たつまき”の合間を縫って駆けるや、一瞬にしてポポに体当たりを食らわせた。

 

「スピードならポポくんも負けない! “でんこうせっか”!」

 

 撥ねられたポポが姿勢を制御し、墜落コースから復帰するとそのまま加速してギャロップの脇腹に一撃を叩き込む。

 

「速い……! “ほのおのうず”!」

 

 先ほど同様に全身の炎を滾らせ、炎の鞭がポポを取り込まんと襲いかかる。

 

「“でんこうせっか”でよけて!」

 

 しかし、ポポのスピードは迫る炎を上回る。

 執拗に伸びる炎をかわしながら、ポポはフィールド上空を縦横無尽に飛び回る。

 だが。

 

「っ! ダメ! どんどん下がってきてる!」

 

「もう遅い! “フレアドライブ”!」

 

 炎の鞭の回避に集中しすぎたポポは、自身の高度が落ちてしまっている事に……そして進行ルートにギャロップが待ち構えている事に気が付くのが遅れた。

 それまでポポを追い回していた炎がギャロップの周りに集まり、巨大な炎の塊と化して突撃してきた。

 慣性の付いたポポは止まる事ができず、真っ向からそれを受ける形になってしまう。

 

「ポ、ポポくんっ!」

 

 強烈な炎の突進を受けたポポだったが、落下中に羽ばたいてどうにか墜落を免れた。

 

「甘い。あまりにも甘いな。そんな程度でカツラさんに挑むつもりだったのか!?」

 

「……そうだよ。わたしは今……勝つためにここにいる!」

 

「……!」

 

 威圧したつもりが、ツバキはまったく臆する事無く声を上げた。

 

「そのためにポケモン達と一緒にたくさんたくさん頑張ってきた。でも……ここはまだ、わたしの終点じゃない! パパを超えて、カツラさんを超えて……お姉ちゃんだって超えるためにもっともっと頑張るんだから! そうだよね、ポポくんっ!」

 

 ツバキのこれまでに無いほどの気迫を受け、ポポは力の限りに声を合わせ、翼を広げ……光を放った。

 

「何っ……!?」

 

「……ポケモンはトレーナーに応える……か」

 

 眩い光。

 だが、ツバキは目を逸らさない。

 大切なパートナーの見た事の無い勇姿がそこに現れようとしているのだから。

 

「ポポくん……行こう。わたし達の旅は……これからなんだから!!」

 

 その言葉に答えるかのように勢いよく振るわれた巨大な翼が光を払う。

 頭部から伸びた長い飾り羽が、宙を舞う光の粒子を纏う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 とりポケモン『ピジョット』。

 ポッポ系統が自力で到達しうる最後の姿である。

 その大きな後ろ姿をツバキが目を細めて見つめると、小さなポッポの姿が重なる。

 

「(……すごく立派になったね、ポポくん……あんなに小さい……わたしの頭に乗れちゃうくらいだったポポくん……)」

 

 小さな友達、初めてのポケモンだったパートナーの背中が、今はこんなにも頼もしい。

 

「……さぁ、行くよ! 一緒にここを乗り越えよう!」

 

「……ふっ……進化か……だが、まだギャロップを超えるには至らない! “ワイルドボルト”!」

 

 ギャロップの全身が電気を帯び、そのまま身体をすっぽり覆って突進してくる。

 

「ポポくん、“すなかけ”!」

 

 ポポがピジョン時代よりも大型化した翼を一振りすると、砂嵐レベルの砂埃が舞い上がり、突っ込んでくるギャロップを襲った。

 

「くっ! 翼の力がさらに増している……!」

 

 砂に阻まれて標的を見失ったギャロップが急停止する。

 

「“でんこうせっか”!」

 

 だが、そんな状況下であろうと、ポポの《するどいめ》にはまったく問題にならない。

 鋭さを増したクチバシによる一撃は、無防備なギャロップの急所を直撃して大ダメージを与える。

 

「“ワイルドボルト”で脱出しろ!」

 

 全身に電気を纏う事でポポの近接攻撃を牽制しつつ、ギャロップは砂の中から脱出に成功するが、まだ目に入った砂が完全には除去できていない。

 

「(……これ以上は危険か。相手から受けたダメージだけでなく、“ワイルドボルト”と“フレアドライブ”の反動もある。……次で決めねばな)」

 

「(進化したおかげで反撃はできたけど……さっきの“フレアドライブ”がかなり効いてる……もう後は無いかも……それなら……!)」

 

 2体のポケモンはトレーナーの前まで戻って相手と十分な距離を取る。

 

「…………」

 

「…………」

 

 さすが親子と言うべきか、両者は互いに次が最後の一撃となるであろう事を察し、大技の準備をする。

 そして2人は同時に息を吸い……。

 

「“ブレイブバード”!」

 

「“フレアドライブ”!」

 

 同時に最後の指示を叫んだ。

 逆巻く空気を切り裂き、強大なオーラがポポを包む。

 鬣、脚、背中、尻尾……全身の炎が燃え盛り、ギャロップを覆う。

 2体は真正面から相手に向けて全速力で突撃を敢行する。

 膨大なエネルギーの奔流同士が真っ向から激突し、わずかに押し、わずかに押される、寄せては返すの攻防。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 衝突部から溢れる音と光は徐々に大きくなり、それが最高潮へ達した次の瞬間、相殺し合うエネルギーは大爆発を起こした。

 

「きゃっ……!」

 

「ぐっ……!」

 

 もうもうとバトルフィールドに立ち込める煙の中、2つのシルエットが浮かび上がる。

 疲弊し、もはや相手と距離を取る体力も残されてない2体が、息を切らして睨み合っていた。

 そして、両者の震える脚が同時に力を失い……。

 

 

 

 ギャロップの身体が横倒しとなり、ポポの身体が右の翼だけで支えられている。

 

「………………ギャロップ、戦闘不能! ピジョットの勝ち! よって…………勝者……チャレンジャー・ツバキ!」

 

 イソラがツバキを指し示すと、呆気に取られていたツバキがハッとしてポポへと駆け寄る。

 

「……ポポくんっ! ……わたし達……パパに勝ったんだよ……! ありがとうっ! それと……進化、おめでとう!」

 

 ポポを抱き上げて頬擦りするツバキを眺めながら、シャコバもギャロップへと歩み寄る。

 

「……よくやったな、ギャロップ。休んでくれ」

 

 シャコバがギャロップをボールに戻すと、ミミナが近付いてきていた。

 

「どうでした?」

 

「……ああ……楽しかった……もしかしたら、これまでで最も楽しいバトルだったかもしれない。やはりツバキは……素晴らしい子だよ……」

 

「うふっ、当たり前ですよ。だって……あなたと私の子ですもの♪」

 

「っ! ……ははっ……かなわないな、ママには。…………ツバキ」

 

 ミミナの微笑みに不意討ちを食らったシャコバは、苦笑してツバキへと声をかける。

 そして見上げてくるツバキの前に立つと、その小さな身体を抱き寄せた。

 

「……強くなったな、ツバキ。よくここまで頑張った、偉いぞ」

 

「ええ、ええ、本当に……ママ、少し涙ぐんじゃったわ」

 

 ミミナもシャコバの腕の上からツバキを抱く。

 

「パパ……ママ………………うん……うんっ……! わたしもポケモン達も……頑張ったよ!」

 

 太陽のような笑顔を浮かべるツバキの頭を、2人もまた笑顔で撫でた。

 

「だが……パパより強いトレーナーはたくさんいる! そして、その内の1人が……この先で待っているぞ!」

 

 シャコバが示す扉の先に待つ人物……グレンジムジムリーダー・カツラ。

 

「……うん……!」

 

「さ、ツバキちゃん、ポケモン達を回復しましょ」

 

 いつの間にか各種回復薬を持って、テンジとイロハが側まで来ていた。

 ポケモンの回復を終えれば、いよいよ7つ目のジムバッジを賭けたツバキの戦いが始まるのである……。

 

 

 

つづく




はい、今回も駄文雑文落書きにお付き合いくださりありがとうございました!

ここまで長くなってもまだ前哨戦なんだよなぁ……。
ちなみに長いのは2対2程度で2話に分けるのもアレなので1話に強引に纏めた結果です。
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