父・シャコバとのバトルに勝利し、ジムリーダーへの挑戦権を得たツバキは、ポケモン達の回復を終えるとジムの奥へ続く通路へと足を踏み入れ、先へと進んでいく。
肩にはピジョットへと進化したポポが掴まり、腕にはバトルを見学していたバルディを抱いている。
「ねぇバルディ、わたし達のバトル……どうだったかな?」
ツバキからの問いに対し、バルディは興奮冷めやらぬ様子で、拍手をしたりマッスルポーズを取ったりしている。
「えへへ……少しは参考になったら良いんだけど……いつかはバルディにも参加してもらいたいからね」
なんなら今からでもとばかりにバルディはジャブを繰り出して気合いを入れている。
「うぅん……さすがにまだ早いかなぁ……もう少ししたら、ね?」
「そうだな、何事も順序が大切だぞ、バルディ。なに、心配せずとも、いずれは活躍できるさ」
しょんぼりするバルディの頭をツバキが撫でると、隣を歩くイソラも慰めた。
……ちなみにその後ろでは……。
「うぐぅ……ツバキが……あのツバキがあんなに強くなってくれて……うぐおぉぉぉう……!」
「まぁまぁ、あなたったら今になってそんなに泣いちゃって……ツバキがカツラさんに勝った時に流す分が無くなっちゃいますよ?」
「でも本当にツバキちゃん立派でしたねぇ。堂々としてて状況もしっかり把握してて」
「うむ……」
さながら娘の発表を見に来た授業参観の親御さんのごとき会話をしながら、4人の大人達が後に続いていた。
「……もう……恥ずかしいぃ……」
「まぁ、仕方ないな。こう言ってはなんだが、昔のお前は気弱で臆病、およそバトルなどとは無縁な性格だったからな。それがジムバッジ6つを集め、父親にして手強いジムトレーナーであるシャコバおじさんを破り、今まさに7つ目のバッジを勝ち取りに行こうとしているんだからな」
と、自分で言っておきながら、改めて言葉にする事でイソラはツバキの著しい成長を実感し、シャコバほどではないものの感慨深い気持ちが込み上げてきた。
「(ふふっ……お前が私と本気でバトルする日も、そう遠くないかもしれないな……)」
守るべき対象から、好敵手へと着実に変化しているツバキの将来に期待を膨らませたところで、通路の先に光が射し込んでいるのが見えてきた。
「……いよいよだな。全力を尽くすんだぞ、ツバキ」
「うん……! バルディ、今度のバトルも見守っててね。お願い、ママ」
ツバキはミミナにバルディを手渡すと、光に向かって歩みを早める。
その先に広がっていたのは、シャコバとバトルしたよりも大きなバトルフィールドで、天井もより高くなっている。
「よく来たな、ツバキくん!!」
そしてそのバトルフィールドの向かい側に、その老人は立っていた。
「シャコバくんは我がグレンジムを守る最強の防壁。その彼を破り、ここまで来た君は、十分にこのカツラに挑む資格を有している! ワシらトレーナーの間に多くの言葉はいらん! 来たまえ!」
大仰なポージングでずれたサングラスを指で直し、カツラはツバキをフィールドへと招く。
「はいっ! よろしくお願いします、カツラさん!」
カツラの言う通り、ここまで来ればあとはただバトルをするだけ……必要以上の言葉を交わす事無くそれに臨めば良い。
ツバキはフィールドを挟んでカツラと向かい合い、あらん限りの闘志を込めた目で相手を見つめる。
「うむ、良い目だ……シャコバくん、審判を頼むよ!」
「お任せを」
シャコバがフィールドを見渡せる位置へ立ち、両者へ交互に視線を向ける。
「では、ルールの説明を行います。トレーナーレベル7なので、3対3のシングルバトルとシンプルな形式ですが……」
そう言ってシャコバがリモコンを取り出して操作すると、天井が開いて巨大なルーレットが下りてきた。
「これは……?」
「ふっふっふ、これぞワシの作り出したルーレットマシン……グルグルグレン2号改だ!」
「……いえ、名前はどうでも。これは最初のバトル開始前、そしてどちらかのポケモンが1体戦闘不能になる度に回転し、針の止まった目に応じてフィールド全体に影響を及ぼす効果が発動するシステムです」
やたら自慢げなカツラを少々冷たくあしらったシャコバの説明を受け、ツバキがじっとルーレットを見つめる。
ルーレットマシンには等間隔で区切られた中に様々なアイコンが描かれており、その数15。
「何が起きるかは止まってみないとわからない……って事ですよね」
「その通り! ポケモンバトルはフィールドもまた重要な要素だ! 刻一刻と変わる状況下においても、それに応じた適切な行動を指示できるか否かがポケモントレーナーの腕の見せどころ!」
天候やフィールドの状況変化を前提としたパーティ構成を好むトレーナーは多く、この手の戦術はパターンに嵌まると絶大な戦果を挙げる事が可能となる。
逆にバラエティに富んだパーティ構成で、多様な状況への対応力を重視するトレーナーもまた多い。
が、そのいずれも真価を発揮するには豊富な知識と冷静な判断力を持つトレーナーが必要不可欠なのである。
「……ルールはわかりました。始めましょう!」
「その意気やよし! では行くぞツバキくん! 決して鎮火できぬワシの闘志! 受け止めてみたまえ!! うおぉぉぉーーーーっっっ!!!」
――――ジムリーダーのカツラが勝負を仕掛けてきた!
「燃えて行くぞ、バクーダ!」
「お願い、ファンファン!」
地鳴りと共にフィールドに着地したファンファンと向かい合うは、背中に火山のようなコブを持つ、ふんかポケモン『バクーダ』だ。
「(うっ……つ、強そう……だけど、ファンファンのパワーなら……!)」
「(ドンファンか……あの突進力は侮れん、距離には注意せねば)」
「両者先鋒が出揃いましたので、最初のルーレット回転を始めます。回転スタート!」
ツバキとカツラが互いに相手のポケモンを警戒する中、ルーレットが回り始める。
目にも止まらぬスピードで針が回り、やがて動きが緩やかになり……1つのアイコンを指して停止した。
「最初のアイコンは水滴! 天候が雨となります!」
部屋の壁の一部が開き、中からどうたくポケモンの『ドータクン』が現れた。
「ドータクン、“あまごい”を!」
ドータクンが低い唸り声を上げると、フィールド上空に雨雲が出現し、フィールド内にのみ雨を降らせ始めた。
「(むぅ、いきなり雨とはツイとらん……雨が降る中では、ワシのポケモンが得意とするほのお技が弱まってしまう。ツキを持っとるな、ツバキくん)」
「場が整いました。それでは、グレンジム戦、ジムリーダー・カツラ対チャレンジャー・ツバキの第1戦……バクーダ対ドンファンのバトルを開始します! ……バトル……」
ツバキとカツラは瞬きもせずに相手を睨み、身構える。
「…………開始っ!」
その声が熱き激戦の狼煙となった。
「“ころがる”!」
「“ラスターカノン”!」
ファンファンが空中で身体を丸め、派手にフィールドの水滴を跳ね上げて着地すると、高速で回転しながらバクーダへと突撃する。
それに対してバクーダの全身が光輝き、その光を顔面に集束すると、光線としてファンファン目掛け発射した。
直線的な突進をしているファンファンは回避できず、真正面から被弾してしまった。
「油断はいかんぞバクーダ!」
攻撃のヒットで不敵な笑みを浮かべるバクーダに、カツラが釘を刺す。
そしてカツラの思った通り、立ち込める煙の中から回転を緩めずファンファンが飛び出してきた。
「左前方、地面に“ラスターカノン”! チャージは半端でもかまわんっ!」
先ほどよりも集束する光を減らし、足元に光線を発射したバクーダは、爆風で右側へと吹っ飛び、すんでのところでファンファンの突撃を回避した。
重量級で、お世辞にも機敏とは言い難いバクーダで攻撃を回避するための、緊急離脱法である。
「(“ラスターカノン”を受けてなおあの勢い……直撃していれば危なかったわい……! 水で濡れた地面の滑りが良いのもあるのだろうが……)」
ファンファンはカツラの前で方向転換すると、再度バクーダ目掛けて突進していく。
ドンファンへの進化で筋力とスタミナが大幅に強化されたファンファンの“ころがる”は、そうそう勢いは衰えない。
よけてもよけても戻ってくるこの突進は、相手からすれば厄介極まりないだろう。
「ならばっ! バクーダ、“ストーンエッジ”!」
バクーダが前脚で地面を叩くと、転がってくるファンファンの前に大小様々なサイズの岩柱が突き出てきた。
小さい岩で跳ねたファンファンは、ゴツゴツとした岩の上を転げ回り、勢いが落ちたところで新たに現れた岩柱の間に挟まってしまった。
「あぁっ……!? ファ、ファンファン……!」
「ふっふっふ、地面を転がるモノは、凹凸に弱いものだよツバキくん! “じしん”!」
その場で小さくジャンプしたバクーダが着地すると、強烈な震動がフィールドを襲い、ファンファンの身体は無数の岩の破片と共に放り上げられてしまった。
「“ラスターカノン”だ!」
空中で無防備になったファンファンへ、バクーダから眩い光線が放たれる。
「ファンファン、“こらえる”!」
ツバキの指示を受け、ファンファンはどうにかこうにかバクーダの方へ向き直り、頑強な外皮で防御態勢を取る。
光線がヒットし、ファンファンは着実にダメージが蓄積するが、最後の最後で踏みとどまった。
「よく耐えたね……! ファンファン、“マグニチュー”……え……?」
懐のポケモン図鑑からアラームが鳴り響く。
ツバキが図鑑を開き、ファンファンの個体情報を確認する。
「……! よぉし……! ファンファン、“じしん”!」
そう、ファンファンは新たに“じしん”を習得したのである。
高所から全体重を乗せ、身体を地面へ叩き付け、お返しとばかりに地面を揺るがす。
「むおぉぉぉう!?」
その揺れはこれまでに使った“マグニチュード”の威力を遥かに凌駕。
まるで建物その物が地盤から揺れているかのような感覚であり、審判役のシャコバはもちろん、重量級のバクーダですら立っていられなくなってしまった。
「(このタイミングで“じしん”を覚えたか……!)」
「ファンファン、“ころがる”! 相手は動けないよ!」
その隙を逃さず、ファンファンの追撃が行われる。
身体を動かす事も、意識を集中する事もできないバクーダは、ファンファンの高速回転しながらの突進を顔面に受けてしまった。
「バクーダ!」
強烈な突進を受けたバクーダの身体が宙を舞う。
しかし、それと同時に雨が止み、雨雲が霧散した。“あまごい”の効果時間が経過したのだ。
「……よし! バクーダ、“だいもんじ”だ!」
キッと目を見開いたバクーダの背中が発熱し、全身に熱エネルギーが伝導する。
次の瞬間、周囲の温度が急激に上昇し、バクーダの口から『大』の字をした凄まじい勢いの炎が地上のファンファン目掛けて発射される。
転がって回避を試みたファンファンだったが、効果範囲の広さに負け、燃え盛る炎に飲み込まれてしまった。
「ファンファン!」
地上を焼き尽くした炎が消えると、こんがり焼けたファンファンが倒れ伏していた。
シャコバがフィールドの熱さに耐えながらその様子を確認に向かう。
「…………ドンファン、戦闘不能! バクーダの勝ち!」
ツバキも慌てて駆け寄り、少し熱いがファンファンの身体を撫でさする。
「っ! ……ファンファン、よく頑張ったね、ありがとう。ゆっくり休んでて」
ツバキはファンファンをボールに戻すと、元の場所へと戻り、次のボールを取り出した。
「ファンファンがギリギリまで粘ってくれた……その頑張り、無駄にできない! 行って、シェルル!」
シャコバとのバトルに続いて、このカツラ戦でも選抜されたシェルル。
やはりツバキが持つ唯一のみずタイプ故に、ほのおタイプへの対抗策としての期待が大きいのだ。
「ほほう、グソクムシャか。カントーでは見ないポケモンだ……気を引き締めねばな……シャコバくん」
「はい。では、ルーレット回転!」
再度ルーレットの針が回り、徐々にスピードが落ちて1つのアイコンを指し示した。
「止まったアイコンは虹! フィールド全体に虹がかかります! カメックス、“みずのちかい”! リザードン、“ほのおのちかい”!」
ドータクンの時と同様に壁が開き、現れた2体のポケモン……こうらポケモン『カメックス』とかえんポケモン『リザードン』は、フィールドの真ん中に炎と水流を同時に放つ。
すると、相反する2つの技は衝突と同時に蒸発し、あとには大きな虹が残った。
「わぁ……!」
「虹が出ている間は、技の追加効果が発動しやすくなります。それでは、バクーダ対グソクムシャ。バトル………………開始っ!」
今度はカツラが先制して動く。
「バクーダ! “だいもん”……」
「“ふいうち”!」
炎を口の中に生成するバクーダの視界からシェルルが消え、その気配は瞬時に背後へ現れた。
完全に意識を前方へ集中して背後が無防備になっていたバクーダへ、シェルルの剛腕による強烈な一撃が加えられる。
「むぅっ! 速い……! 奇襲を得意とするポケモンと聞いてはいたが……!」
相手が攻撃に移る瞬間の隙を突いて死角から先制攻撃を仕掛ける“ふいうち”……この技を使う時、シェルルの俊敏性は最大限まで引き上げられ、常とは比較にならないスピードでの行動を可能とする。
シェルルの大柄な体躯に惑わされた相手を驚愕させる意味でも、まさに不意討ちであると言えるだろう。
「“たきのぼり”!」
相手が驚いた隙は逃さない。
両腕に水を纏ったシェルルは、バクーダの胴体へ捩じ込むようなアッパーを打ち込む。
さすがに220kgもあるバクーダの身体を浮かせるまでは行かないものの、ほのおとじめんを併せ持つバクーダにみずタイプ技は効果抜群だ。
「バクーダ、“ストーン”……むっ!?」
カツラが指示を止める。
めっぽう苦手なみず技を間近で受けた事で、バクーダが怯んでしまったのだ。
「(くっ、虹の影響で“たきのぼり”の怯み効果が出たか……!)」
「このまま行くよ、シェルル! “たきのぼり”!」
そして動きの鈍ったバクーダに、激しい水流で覆われた爪による追撃の一撃がクリーンヒット。
「“ラスターカノン”!」
……するかと思われたその時、バクーダの身体が輝き、シェルルの視界を光が遮った。
そしてそのまま強烈な光線に押され、強制的に距離を取る形へと持ち込まれてしまった。
「ふぅ、どうにか怯みの解除が間に合ったか……あの距離で即座に出せる技はあれぐらいだったからな……」
「……決めきれなかった……!」
バクーダに対して優位に進めていたシェルルだったが、トドメの直前で仕切り直しとなってしまった。
互いに熱を上げていくグレンジム戦。
熱戦はまだまだ始まったばかりである。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
カツラさんは何十年経ってもあの姿から変わらないだろうという謎の安心感。