力と気合いを込めて書いてたら10000字超えちゃった、最長記録更新の第61話です!
いよいよ佳境を迎えたツバキのグレンジム挑戦。
ファンファンこそ失ったものの、カツラのバクーダ、エンブオーを破り、残りポケモン数は2対1でツバキがリードする。
だが、こちらはポポとシェルルにダメージが残る一方、カツラの3体目は無傷な上に詳細が不明であり、絶対的優位とは言いがたい。
そしてその3体目……カツラの切り札がついにその姿を現す。
「ツバキくん、ワシの手持ちも残りは1体……このバトルは間も無く終わりを迎える。バトルの炎……その消える間際の熱と輝きを見せてやろう! 行けぃ、ウインディ!!」
カツラが高々と放り投げたボールから飛び出した影は、宙返りをして軽やかにフィールドに立つと、大きな咆哮を上げてポポの全身の羽毛を震わせる。
炎のような橙色の身体には黒い模様が走り、各部位から靡く白い毛はさながら炎から立ち上る煙。
これこそはその美しさと雄々しさを兼ね備えた姿故に各地の言い伝えに度々登場する、でんせつポケモン『ウインディ』だ。
「こ、この子がカツラさんの……!」
「そう! 切り札だ! このウインディというポケモンはワシのお気に入りでな。トレーナーレベル5以上の切り札は全てウインディにしているのだ。無論、全員異なる方向性の育て方をしとるがな」
カツラはウインディの事を自慢げに話そうとする。
……が。
「カツラさん、今はジム戦の最中なので、そういう話はバトル後にしてあげてください」
シャコバに遮られた。ごもっとも。
「そ、そうだな、すまんすまん。……というわけで勝負だツバキくん!」
「はい!」
「では、ルーレット回転開始!」
グルグルとルーレットが高速回転を始める。
4回目となるルーレットの回転……気まぐれな針が示す次なる目は……。
「アイコンは炎! フィールドが火の海になり、ほのおタイプ以外に持続ダメージが入ります! フシギバナ、“くさのちかい”! リザードン、“ほのおのちかい”!」
リザードンが今度はフシギバナと共に現れる。
フシギバナが背中の花から射出した緑色のエネルギーが空中で炸裂し、フィールドの周囲を囲むように広がっていく。
そこへリザードンが真っ赤なオーラを纏う炎を吐くと、瞬く間に“くさのちかい”に沿って燃え広がり、フィールド内外を炎が隔離した。
「うっ……すごい熱……!」
「ふっ、この炎の中、どれだけ耐えられるかな? 行くぞっ!」
「では、ウインディ対ピジョット。バトル…………開始っ!」
振り下ろされたシャコバの右手が、グレンジム戦終盤開始の合図となった。
「ウインディ、“だいもんじ”!」
「っ! “たつまき”!」
ウインディの全身の毛並みが炎のように揺らめき、口から高温の炎が放射され、『大』の字へと形を変えてゆく。
ツバキもポポも熱さによってほんの一瞬だけ指示と判断が遅れるが、どうにか翼で周辺の空気の流れを乱して“たつまき”を繰り出した。
エンブオーのそれと同じように、炎は風に巻き上げられて空中へ拡散していった。
だが。
「“しんそく”!」
次の瞬間、ポポの背後に現れたウインディが、強靭な前脚でポポを地面へと叩き落とした。
「ポ、ポポくんっ!?」
ポポの《するどいめ》を以てしても追いきれないスピードで空中の相手の背中を取るという、驚異の瞬発力。
「こ……これがウインディ……なんて速いの……!」
「ふっふっふっ、ウインディは最大で時速400kmを超えるとも言われるポケモンだ。当然よっぽどの事が無ければそんなスピードでは走らんが、瞬発力、加速力、そしてスタミナはそれを実現できるだけの物を備えているのだよ」
「じ、時速400km!?」
カントーとジョウトを結ぶリニアモーターカーには及ばないものの、どう考えても地上を走る生き物が出すような速度ではない。
しかし、そんな生き物が目の前に存在してしまっているのだから、本当にポケモンというのは不可思議なものだ。
「……ポポくん、大丈夫!?」
ツバキの呼びかけに、ポポは起き上がって翼を振って答える。
「……あのスピード……もしかしたらポポくんの“でんこうせっか”よりも速いかも……ポポくん、一旦戻って!」
「ほう、交代か」
ジムリーダーから明言された場合のごく一部の例外を除き、ジム戦ではチャレンジャーのみバトル中のポケモン交代が許される。
ポポが羽ばたいてツバキの隣へと舞い戻ると、ツバキは手に持ったままだったボールを構える。
「疲れてるだろうけど……お願い、もう少しだけ頑張って! シェルルっ!」
投げられたボールから、特性《ききかいひ》で戻っていたシェルルが再度姿を現した。
ボールの中で休み、多少はバクーダ、エンブオーとの連戦の疲れが取れたようだ。
じりじりと体表を焼く火の海に、汗を拭いながらツバキはシェルルの背中を見つめる。
「(時間をかければかけるだけ不利になるのはこっち……ここは弱点技で畳みかける!)」
「では、ウインディ対グソクムシャでバトル……再開っ!」
「“しんそく”!」
「“ふいうち”!」
先にウインディ、一瞬遅れてシェルルがわずかな砂埃を残して姿を消す。
ウインディの側面へ回ろうとするシェルルだったが、気が付けば逆にウインディに背後を取られ、そのスピードからの突進を受けてしまい地面へ倒れ込んだ。
「っ……! “ふいうち”よりも速い……!」
幸いと言うべきか、ポポよりも遥かに頑強な甲殻を持つシェルルにはさほどダメージは無い。
しかし、どうにかあのスピードを捉え、攻撃を当てなければジリ貧になるのは明白。
「(スピードでは追いつけない……なら待ち構えて当てるしかないけど……どうすれば……)」
「考えておるようだが、行かせてもらうぞ! ウインディ、“りゅうのはどう”!」
再びウインディの体毛が逆立ち、全身から立ち上った青いオーラが巨大な竜の姿を取ってシェルルへと一直線に突っ込んできた。
その迫力に気圧されそうになるも、息を飲んでまっすぐに見据える。
「“アクアジェット”!」
姿勢を低くしたシェルルを水の膜が覆い、地面スレスレを低空飛行で突撃し、“りゅうのはどう”の下をすり抜けてウインディへ迫る。
「“しんそく”で返り討ちにしてしまえぃっ!」
“アクアジェット”の当たる寸前でウインディの姿がかき消えた。
「……今っ! 地面に爪を突き立てて振り向いてっ!」
高速飛行状態で両腕の爪を地面へ突き刺したシェルルはそのまま前のめりになると、空中でひっくり返るように背後へ向き直る。
そこでは今まさにウインディが前脚を振り上げていた。
「な、なんとっ!?」
「“たきのぼり”っ!」
シェルルの身体から飛び散ろうとしていた“アクアジェット”の水が再度集まり、右腕に水の爪を形成、そして一気に振り上げた。
完全に背後を取った気になっていたウインディは、まさかの迎撃態勢を取っていたシェルルに面食らい、その爪の顎への直撃を許してしまった。
「ウインディっ!」
しかし、さすがはカツラの切り札。ウインディは派手に打ち上げられたものの、すぐさま空中で姿勢を制御し、前脚から着地して臨戦態勢へと移る。
「よし……! “フレアドライブ”!」
周囲の火の海から炎が舞い上がり、ウインディを炎の鎧のごとく包み込むと、音を立てて激しく燃え上がった。
「“たきのぼり”で受け止めて!」
対するシェルルは両腕に水を纏い、身体の前面を覆って防御態勢へ移る。
燃え盛る業火の塊と化したウインディが火の粉を散らし、空気を焼きながら駆ける。
荒れ狂う波浪の盾を構えたシェルルが足腰に力を込め、激しい水音を鳴らしながら待ち構える。
次の瞬間。
「ひゃっ……!」
「むうぅっ……!」
炎と水が衝突すると同時に、エンブオーの時とは比較にならないほどの水蒸気が、一瞬にしてフィールドどころか部屋全体を覆いつくした。
視界の利かぬ中、水が激しく蒸発する音だけが止めどなく響き続け、見守る者達の不安を煽る。
そして。
「っ!?」
水蒸気の中を1つの物体が凄まじい速度で突き進み、ツバキの真横を通過し……。
「……シェ……」
壁に激突する音が部屋を揺るがした。
「シェルルっ!」
晴れる水蒸気の向こうに見えたのは、部屋の壁を大きく凹ませてめり込んだシェルルだった。
ツバキが駆け寄ると、シェルルは首を動かしてツバキを見た後、ガクンとうなだれて動かなくなった。
「……グソクムシャ、戦闘不能! ウインディの勝ち!」
「……なんというポケモンだ……あの勢いのウインディとここまで競り合い……」
カツラがシェルルからフィールドのウインディへと視線を移す。
「そしてここまで疲弊させるとは……!」
ウインディは脚の震えなどは無いものの、舌を出して息を切らせ、身体を上下させて呼吸を整えている。
「……シェルル……すごく……すごく頑張ったね、ありがとう……あとは休んでてね」
シェルルの頭を撫で、ボールに戻したツバキは立ち上がると、走った事でズレた帽子を直して元の位置へと戻った。
視線を向けるは、このバトルの最後を飾る、自身の最高のパートナー。
「……ポポくん。ここまで来たらこのジム戦……泣いても笑っても、じゃなく……笑って終わろう! 皆で!」
ポポは頷き、ツバキの伸ばした右腕に掴まる。
「これで最後っ! お願い、ポポくんっ!!」
そして、ツバキが右腕を振ると同時に飛び立ったポポが、ウインディを睨みながらフィールドへと入る。
「それでは最後のルーレット回転を始めます!」
心なしか、今までよりも勢いを付けて回転を始めたルーレット。
その針が示す最後のアイコンは……。
「……決定しました。最後のアイコンは太陽! 日差しが強くなり、ほのおタイプ技が強く、みずタイプ技が弱くなります! ドータクン、“にほんばれ”!」
再度現れたドータクンが、響くような重低音を鳴らすと、天井の近くに太陽のような物が出現し、フィールドを照らし出した。
ここに来てほのおタイプを操るカツラの真価を発揮する場になってしまったが、じたばたしても騒いでも意味は無い。
それならば、目の前のバトルに集中する……それだけで良い。
「さぁツバキくん! 名残惜しいが……だからこそより激しく燃え上がろうではないか! 君の……君達の闘志を燃やし尽くすつもりで来たまえ!」
「はい! 行きます!」
「それでは、ウインディ対ピジョットの最終バトル! ……開始っ!」
シャコバが右腕を振り下ろすと、状況は即座に動き出す。
「“りゅうのはどう”!」
ウインディの闘気が竜の形を成し、強大なエネルギーの奔流が空のポポ目掛け襲いかかる。
「(“でんこうせっか”でよけられる……でも、そこを“しんそく”で狙ってくるかも……それなら!)ポポくん、“すなかけ”!」
ポポは翼をはためかせてフィールドの砂を巻き上げ、その中へと姿を隠す。
“りゅうのはどう”はポポを捉えた手応えも無く砂の中から飛び出し、空中で爆散してしまった。
「(うーむ……やはりあの砂が曲者だな。《するどいめ》とのコンボで一方的にこちらが狙われる)」
本来“すなかけ”はお世辞にも強力とは言いがたい技であり、初期に覚えていてもいずれは忘れさせる技の筆頭となる。
それを特性、そしてポケモンの種としての特徴と組み合わせる事でここまで厄介な技へ昇華させたツバキに、カツラは素直に感心する。
「(感心してばかりもいられんか。では……)ウインディ、“りゅうのはどう”を小さく連射だ!」
ウインディから湧き上がったオーラが小型の竜の形になり、次々に砂の中へと発射される。
それらは連続して爆発し、爆風は砂を吹き飛ばす。
技の爆風で砂を散らすというのは、タマムシジムでネリアのハハコモリも見せた戦術だ。
加えてこちらはトレーナーレベル7の切り札という事でポケモンのパワーはあちらを大きく上回り、技の爆発範囲も広く、数を撃っているのでポポへの被弾も狙える。
案の定1つの爆発と共にポポの声が聞こえた。
「今の声の方へ“だいもんじ”だ!」
すかさず追撃。
ウインディの口から放たれた炎が大きく形を変えながら声の主の元へ向かう。
「(さ、さすがカツラさん、鋭い……! でも、負けられない!)ポポくん、“ブレイブバード”!」
ウインディの狙いは正確で、炎はまっすぐにポポへと向かっていた。
だが、“ブレイブバード”のオーラを纏う瞬間に発生する衝撃波により周囲の砂が散り、“だいもんじ”もそれに巻き込まれてしまう。
それでもやはり“にほんばれ”の影響下故に多少勢いが弱まった程度で、この状態でもエンブオーの同じ技と同等かそれ以上の威力がありそうだ。
逆巻く空気とオーラを纏い、ウインディ目掛けて急降下するポポと、なおも勢いのある“だいもんじ”がとうとう激突した。
風と炎は互いに譲らず、混ざり合う事で周囲に凄まじい熱風を放ち続ける。
「っ……!」
「むむむむ……!」
エンブオーの“だいもんじ”は“ブレイブバード”のオーラに打ち消された事を考えると、いかにこの炎が強力であるかが否が応でもわかるというもの。
しかし、その衝突もオーラ・炎共に小さくなり、限界を迎える。
競り合う2つのエネルギーは同時に消失し、ポポは衝撃で吹き飛ばされてしまう。
ウインディにしてみれば大きなチャンスだが、体内に蓄えた炎のエネルギーをかなり消耗してしまい、思うように動けないらしい。
「ポポくん、頑張って!」
「ウインディ! 立て! 立つんだ!」
信頼するトレーナーの檄を受け、ポポは空中で体勢を立て直し、ウインディもしっかり地面を踏みしめて立ち上がる。
「“でんこうせっか”!」
「“しんそく”!」
両者は同時に姿を消し、またもぶつかり合う音だけが聞こえる。
「やっぱり……! さっきよりもスピードが落ちて、“でんこうせっか”でなんとか追いつけてる!」
「むぅ……消耗が大きくなりすぎたか……!」
やはりシェルルから“たきのぼり”の直撃を受けた事が尾を引いており、そこにさらにシェルル、先ほどのポポとの競り合いが加わる事で、身体能力の低下が見られる。
もっとも、そこまで疲弊させてようやく互角に持ち込めるというウインディの実力がとんでもないとも言えるが。
ともあれ、最初は圧倒されていたスピード面で、どうにかわずかに劣るというところまで弱らせたのは大きい。
「(でも、やっぱり“だいもんじ”と“フレアドライブ”は受けるのは怖い……撃たれたら絶対にかわさないと)」
“にほんばれ”の効果で威力が増幅されたほのお技は、放つポケモンの消耗を補って余りある脅威であり、ポポも疲弊している以上は相殺にも期待できない。
軽く10回以上は激突した両者が、一旦スピードを落として元の立ち位置へ戻った。
「“だいもんじ”!」
「“たつまき”で壁を作って!」
予想通りに炎の勢いはまだまだ盛んであり、『大』の字の炎は通過した後を焼きながら迫ってくる。
それを3つの“たつまき”を束ねた風の防壁が遮り、それぞれが異なる方向へ回転する風は炎を徐々に削り取っていく。
「さらに“だいもんじ”だ!」
そこへ第2射が放たれると1射目と一体となってさらに火力を増し、一気に“たつまき”側の分が悪くなってきた。
あれだけ弱体化してもなおこの火力なのだから、完調状態で撃たれればひとたまりもなかっただろう。
「抑えきれない……! 離れてポポくん!」
ポポが風を煽る翼を止め、空中で身体を翻して急降下すると同時に、残っていた風の壁を突き破って“だいもんじ”が先ほどまでポポのいた空間を通過し、壁に着弾した。
後には酸素の燃焼する臭いと異様な高温の空気が残り、当たった壁は焼けただれて熔解している。
「あ、あんなの当たってたら……」
ツバキは熔けた壁を見て青ざめる。
ポケモンの攻撃技は生き物に対してよりも無機物へのダメージが大きい事になってはいるが、これほどの火力となると、直撃すれば焼き鳥ルートは免れないだろう。
ただ、それだけの火力を出すには相応の消耗が付きまとうものである。
「(むぅ……さすがにもう“だいもんじ”は使えんな……あとは“フレアドライブ”を使う機を窺うのが得策か)……よし、“りゅうのはどう”だ!」
竜を模した大きなエネルギー体がウインディの身体から溢れ、大きくしなった後に突っ込んでくる。
シェルルの時は下をすり抜けられたため、今度の竜の形のオーラは大口を開け、地面を抉りながら突き進んできた。
「(たぶん、近くなった時に跳ね上がってくる!)ポポくん、“でんこう”……」
“でんこうせっか”のスピードで回避しようと試みたツバキだったが、次の瞬間、“りゅうのはどう”は無数に分裂して対空弾幕を張ってきた。
「っっ!! “でんこうせっか”!」
その驚愕から来るわずかな一瞬の隙……それが命取りとなった。
加速しようとしたところへ1発着弾し、怯んだポポの身体へ次々に襲いかかったのだ。
「ポ……ポポくんっ!!」
ツバキの声に反応してか、黒い爆煙の中からポポが飛び出してきたが、見るからにダメージは大きい。
が、それでもまだその瞳からは闘志は消えてはおらず、むしろより激しく燃え上がっている。
「……うんっ……! わたし達も苦しいけど、向こうだってあと一歩! 諦めずに行こう!」
答えるようにポポが甲高い声を上げたその時、ツバキのポケモン図鑑からアラームが鳴り響いた。
「(っ! もしかして新しい技……? ………………!!)」
ウインディの動きに気を配りながらポポの個体情報を確認したツバキは、驚いた後に頷いて見せる。
「……どのみちそろそろ限界が近い……それなら賭けに出てでも決めるよ、ポポくん! “でんこうせっか”!」
覚悟を決めたかのような表情の末、ポポが一気に加速し、旋回や方向転換なども組み合わせて攪乱しつつ突撃する。
「させん! “しんそく”!」
またも両者は高速の世界へ突入して激突するが、互いに疲労は溜まりに溜まり、そのスピードは完全に互角。
ポポがクチバシを突き出し、爪を振りかざせば、ウインディは牙と強靭な脚で応戦する。
しかし、パワーの面でウインディがわずかに勝り、ポポはその前脚の一撃で弾き飛ばされてしまった。
「よし! “フレア”……む!?」
カツラがトドメの“フレアドライブ”を指示しようとした瞬間、“にほんばれ”の効果が切れて日差しが弱まってきた。
「かまわん! “フレアドライブ”!」
ウインディは最後の炎を燃やし尽くすように炎のエネルギーを噴出し、自身の身体を包み込むと、ポポ目掛けて猛進する。
「……天気が戻る……それを待ってました! 行くよ、ポポくん!」
ポポが目を見開き、身体をひねって体勢を立て直し、ウインディを見据えると、ツバキのその指示を待つ。
「ポポくん! “ぼ う ふ う”!!!
ポポの翼が光輝き、その光が広がる事でまるで翼が大きくなったかのように錯覚する。
そして、その光の翼を振るうと同時にフィールドの風の流れが乱れ、荒れ狂い始めたのだ。
それは瞬く間に“たつまき”の比ではない、四方八方から吹き荒ぶ風を生み出し、ウインディを襲った。
「な……にぃ……!?」
あまりの突風、烈風、旋風の暴力にウインディを包んでいた炎が消え去り、その身体がふわりと浮かび上がる。
吹きつけ、切りつけ、叩き付け……まさに360度上下左右全方位から様々なベクトルの力をぶつけられて宙を舞ったウインディが、風の消失と共に力無く地面に落下してバウンドした。
「ウインディ……!」
落下から間も無く、ウインディがピクリと動き、脚を地面に押し付けるようにして起き上がると、疲労でふらふら高度の下がってきたポポを睨み……そのまま横倒しになって力尽きた。
「……ウ、ウインディ……戦闘不能! ピジョットの勝ち! よって勝者……チャレンジャー・ツバキ!!」
倒れたウインディの様子を確認したシャコバが右腕を振り上げ、ツバキを指し示す。
自身を指し、柔らかな笑みを向ける父の姿に、ツバキは心の奥から湧き上がる勝利の実感に顔を綻ばせる。
「……勝った……? 勝った……! カツラさんに勝った!!」
フィールド内に駆け込んだツバキは、とうとう力尽きて落ちてきたポポを受け止めて抱き締めた。
「勝ったよポポくん! わたし達があのカツラさんに! ありがとう~! 本当にありがとうポポくん~!!」
「……ふっ……負けたか…………立派な戦いぶりだったぞ、ウインディ。休んでいてくれ」
カツラはウインディの毛並みを撫でさすると、労いの言葉をかけてからボールへと戻し、喜び合うツバキとポポに目を細める。
「ツバキっ! やったな!」
あまりの熱戦に、思わず途中から無言になっていたイソラや両親達が駆け寄ってきた。
ミミナに抱かれたバルディも、激戦に次ぐ激戦に興奮冷めやらぬといったところだ。
「ツバキもポポくんも他の子達も本当に凄いわぁ! あんまり強くなってたから、ママもビックリしちゃった!」
「まぁミミナさん、その前にポケモン達を回復しましょ」
「うむ……さぁ、ツバキちゃん、傷ついたポケモンを」
ツバキの出したファンファンとシェルル、そしてポポがテンジとイロハのテキパキとした治療を受け、ツバキがそれを見守っていると、カツラとシャコバが歩み寄ってきた。
「見事! 見事だツバキくん! ふっふふ、互角と知りつつも指示したあの“でんこうせっか”……“にほんばれ”が切れるまでの時間稼ぎだろう?」
「じ、実はそうなんです……“ぼうふう”は晴れてる時には効果が薄いらしくて……」
「うむ! 技の特徴を理解し、それを用いた戦術を可能にするであろうというポケモンへの信頼! 本当に立派なトレーナーになったな! 見ろ、シャコバくんなんて今にも号泣しそうだ!」
言われてそちらへ顔を向ければ、シャコバは鼻をすすって涙ぐんでいる。
「うぐうぅぅ……! ツバキが……あのツバキがとうとうカツラさんに……! ぐふおぉぉぉ……!!」
「あらあらまぁまぁ、ご自分が負けた時もあんなに泣いたのに……水分が渇れ果てちゃわないかしら?」
ミミナがさっきとは別のハンカチを取り出し、シャコバの目元を拭き取るのを見ながら、カツラは白衣のポケットからプラスチックケースを取り出した。
「ツバキくん! そして……そのポケモン達!」
手当てを終えたポポ、ファンファン、シェルルがツバキの周りに集まり、カツラの言葉を待つ。
「トレーナーとポケモンが互いを信頼し合う事で、普通なら不可能と思える事でも実現は可能となる! そして君達の絆はすでにその域に達している! 重ねて言おう、見事だ!!」
そして、ケースを開くと赤いバッジを手に取り、ツバキへ差し出した。
「ポケモンリーグ公認、グレンジム突破の証・クリムゾンバッジ……君達ならば手にする資格は十分だ!」
炎のような形に真っ赤な輝きを放つそのバッジを、ツバキは手のひらに受け取ると、その表情はますます明るくなった。
「~~~っ!! ありがとうございます、カツラさんっ!!」
ツバキとポケモン達は輪になってその輝きを眺め、互いに笑顔を向け合う。
「(ふふふ……良い喜びようだ。ポケモン達もツバキくんを対等な友として大切に思っている。ポケモンを道具としか思えん連中に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわい)」
ツバキ達の微笑ましい姿に、自然とカツラの表情も緩くなる。
「ではツバキくん、これはおまけの技マシンだ! 中身は“だいもんじ”! よーく狙って使わんと当てにくいのが珠に傷だが、威力はさっきのバトルで見ての通りだ! そして……」
バッジに技マシンも受け取り満面の笑顔のツバキを余所に、カツラは懐からもう1つ手のひら大のケースを取り出した。
「今の君とポポくんにこそこれは相応しい! 持っていきたまえ!」
手渡された丸い石を、ツバキはキョトンとした顔で見つめる。
「……? キーストーンに似てるけど……これは……?」
「っ! カツラさん、これはまさか……!」
それを覗き込んだイソラが、石に負けないほどに目を丸くした。
「うむ! それはピジョットナイト! ポポくんのメガシンカに必要となるメガストーンだ!」
「…………ええぇぇぇっっ!!? い、良いんですかっ!?」
ツバキは一拍置いてようやく理解し、驚愕の声と表情をカツラへ向ける。
「もちろんだ! そのために取り寄せたのだからな!」
「……あ……ありがとうございますっ!!」
まさかまさかのメガストーン。ツバキは押し戴いて何度も頭を下げる。
「カッカッカ! なになに、かまわんよ! だが、メガシンカは消耗が大きい上にデリケートなものでな……取り扱いには注意するのだぞ!」
「はいっ!! やったよポポくん! メガストーンだって!」
バッジ、技マシン、そしてメガストーンを持ち、どれをポケモン達に見せようかと混乱した末、3体に1つずつ見せる事にしたツバキの後ろ姿。
それを見ながら、イソラがカツラに話しかけた。
「カツラさん、本当はあのメガストーン……キーストーンと同じタイミングで渡す事もできたのでは? カツラさんほどの人が、キーストーンだけ先に渡し、メガストーンの方は「手に入るかも」などという不確定要素に賭けるとは思えないもので」
「……ふっ、鋭いなイソラくん。その通りだ。……ツバキくんを疑うわけではないが……それでもメガシンカを可能とするだけの絆を築き上げるのは、容易い事ではない。どうしてもそれを自分の目で確かめねば気が済まんかったのだ」
「確かに…………可能だと思いますか? 今のツバキは」
「ポケモンとの信頼関係は申し分無い……むしろ十分すぎるほどだ。あとはどれだけ呼吸を合わせられるか、だな。まぁ、ツバキくんならすぐにマスターしそうではあるが……」
「……そうですね……」
ポケモン達と喜びを分かち合い、共に勝利を噛みしめるツバキ。
イソラには、その背中に未来へ羽ばたく翼が見えた気がした。
つづく
【ツバキの現在の手持ち】
■ポポ(ピジョット(♂️))
レベル51
特性:するどいめ
覚えている技
・すなかけ
・ぼうふう
・でんこうせっか
・ブレイブバード
■ファンファン(ドンファン(♂️))
レベル45
特性:がんじょう
覚えている技
・こらえる
・じしん
・ころがる
・じゃれつく
■ナオ(ニャオニクス(♀))
レベル42
特性:かちき
覚えている技
・サイコショック
・ひかりのかべ
・10まんボルト
・あくび
■ケーン(マグマラシ(♂️))
レベル35
特性:もうか
覚えている技
・えんまく
・ひのこ
・でんこうせっか
・ニトロチャージ
■シェルル(グソクムシャ(♀))
レベル40
特性:ききかいひ
覚えている技
・ふいうち
・たきのぼり
・いわなだれ
・アクアジェット
■バルディ(キバゴ(♂️))
レベル1
特性:かたやぶり
覚えている技
・ひっかく
・カウンター
・つじぎり
【カツラの使用ポケモン】
■バクーダ(♂️)
レベル47
特性:ハードロック
覚えている技
・じしん
・だいもんじ
・ストーンエッジ
・ラスターカノン
■エンブオー(♂️)
レベル50
特性:もうか
覚えている技
・アームハンマー
・ビルドアップ
・だいもんじ
・ふいうち
■ウインディ(♂️)
レベル54
特性:いかく
覚えている技
・フレアドライブ
・しんそく
・だいもんじ
・りゅうのはどう
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
どうしよう…“すなかけ”が便利すぎて、最後までこれ覚えてる気がする…。
“ぼうふう”はレベル1の基本技だけど…まぁ、アニメでもマシン技や教え技を自然に覚える事あるし良いよね(諦め)