蒼天のキズナ   作:劉翼

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久々にロケット団サイド付きの第62話です!


第62話:渡り鳥の帰る場所

 グレンジムでのカツラとの熱気渦巻く激戦を、ポポが土壇場で習得した“ぼうふう”を決め手として勝利をもぎ取ったツバキは……。

 

「…………すー…………すー…………」

 

 まだ自宅の布団で夢の中だった。

 

「ママ、ツバキは?」

 

「まだ寝てますよ。昨日はあれだけの接戦でしたもの、よっぽど疲れたのねぇ」

 

 シャコバとミミナがツバキの部屋の扉を少し開けて中を覗き込むと、ツバキは布団にくるまり、静かに寝息を立てて胸を上下させている。

 

「ふふっ……確かに凄く頑張ってたからなぁ。もう少し寝かしておくか」

 

「ええ、ええ。今の内に朝ごはんを用意しときましょ」

 

 両親はツバキを起こさないよう、ゆっくりと扉を閉めて1階へ降りていった。

 

 

 

「……そうですか。やはり……」

 

 イソラはカツラの家の客間で、ソファーに座って眉間に皺を寄せている。

 向かいに座ったカツラもまた、その表情は厳しい。

 

「うむ。シロガネ山で妙な機械を運ぶ一団が目撃され、通報を受けた警備隊が向かったが、ヘリで逃げられたそうだ。それも大型のポケモンが入りそうなカプセルを吊り下げてな」

 

「ファイヤー……ですか」

 

「恐らくはな。この前話したイワヤマトンネルの時も、ヘリのローター音が聞こえたらしい」

 

 ここまで情報が出揃うと、よっぽど鈍感でもなければ状況は理解できる。

 すなわち、ロケット団がサンダー、ファイヤー、フリーザーの伝説の三鳥を狙い、すでにその内の2体は手の内に収めた、という事だ。

 

「一応警察にも連絡はしたが……やはり物的証拠が無いのでは大っぴらには動けんようだ。ジムリーダーからの情報提供という事で、前向きに検討し、調査はすると言っていたが」

 

「……その分だと、警察が動く頃には事が終わっていそうですね……」

 

 仕方無いとはいえ、こういう表沙汰にはなっていないが切迫している場面において、警察という組織はあまり頼りにはならない。

 こうなってくると、そういったしがらみに囚われない一般人の方が事件解決の糸口になったりするもの。

 実際過去には1人のポケモントレーナーが悪事を働く組織を壊滅させたという話は様々な地方で語られている。

 たとえばシンオウ地方のギンガ団、たとえばイッシュ地方のプラズマ団、たとえばカロス地方のフレア団……いずれも伝説のポケモンが関わる大事件を引き起こしたが、現地のトレーナーが組織のトップを破って瓦解させている。

 

「そうなると、フリーザーの目撃例が多いふたご島周辺で張り込むのがベストでしょうか」

 

「そうだな……できればその場では取り押さえず、アジトまで案内をさせて一網打尽にしたいからな。何人か派遣して見張らせよう」

 

 組織の末端……指先を掴んだところで、切り捨てられればそれでおしまいだ。

 故に現状最も優先すべきは、今のロケット団を統率している人物……組織の頭を捕らえる事なのだ。

 

「懸念すべきは、伝説ポケモンを捕獲できるだけの手練れがいるかもしれない、という事か。不意討ちを仕掛けたとしても相手が相手だからな……下級構成員程度では返り討ちに遭うのが関の山である以上、相当な実力者と考えるべきだな」

 

「……恐らくは奴らの間で三凶星と呼ばれている者達でしょう。それらしい者を2人ほど知っています。1人はあくタイプの使い手と思われるアクイラ。1人はどくタイプの使い手ウィルゴ……これは元プロトレーナーのベラでした」

 

「『猛毒暴君(ベノム・タイラント)』か……確かに並外れた実力に対して精神面には危うい部分があったが、ロケット団に与していたとは」

 

 カツラは有望であったトレーナーの将来が歪んだ事に嘆息し、サングラスを外してレンズの汚れを拭き取る。

 

「ともかく、今のロケット団にも油断のならない人材がいるという事か……やれやれ。……では、何か動きがあったら連絡しよう」

 

「はい、ではこれで失礼させていただきます。お邪魔しました」

 

 カツラはイソラを見送ると、目を細めて空を見上げた。

 

「……ふぅ……できればこんな事件は、若者を関わらせる事無く終わらせたいものだな……」

 

 

 

「ミニリュウ、“しんそく”!」

 

 蛇のような長い胴を持つそのポケモンは、身体を縮こませると、バネのように跳ねて眼前のモコモコとした影へとぶつかっていく。

 見る見るスピードの上がったミニリュウだったが、相手……チルタリスの綿のような羽毛にはぶつかってもお互いにほとんどダメージが無い。

 ミニリュウは気合いを込めた攻撃が相手に全く効いていない事に愕然として落ち込んでしまった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 まぁ、数値に換算するとレベル1と85ほどの差があるので仕方無いのだが。

 

「ふむ、生まれたばかりなのに大したスピードだな。……気にするな、お前はこれから伸びていくんだから。誰だって初めの頃などそんなものだ」

 

 イソラが頭を撫でるとミニリュウは元気を取り戻し、再度チルタリスと向き合う。

 そう、イソラは現在、浜辺でミニリュウの特訓中なのである。

 

「やる気満々だなミニリュウ。……しかし、ミニリュウもバルディも同じタイミングで生まれたせいかどちらもなかなかに好戦的だな……まぁ、向上心があるのは良い事だ。チルタリス、もう少し頼む」

 

 チルタリスが頷くと、改めてイソラの指示が飛ぶ。

 

「“まきつく”!」

 

 ミニリュウがチルタリスへ飛びかかり、長い身体を巻き付けて締め上げる……が、やっぱりモフモフの羽毛がクッションになり、チルタリスはキョトンとした顔でミニリュウを見つめている。

 

「まぁ、さすがにパワー不足か。私のチルタリスはその羽毛の防御力を最大限発揮できるように育てているしな。よしよし、お前は素早さがなかなかのようだし、そこを重点的に育てていくとしよう」

 

 ミニリュウはイソラに褒められて嬉しそうに身体を擦り付けてきた。

 と、その時。

 

「お姉ちゃ~ん!」

 

「ん、ツバキか」

 

 浜辺への階段を駆け下り、ツバキとポポがやって来た。

 

「おはようツバキ。もう少し寝てると思ったんだがな」

 

「おはよう。……って! もう十分寝坊の時間だよぉ! 9時だよ、9時! パパもママも起こしてくれないし!」

 

 ツバキはポケギアに表示された時間を指し示して頬を膨らませる。

 

「ははっ、仕方無いさ。昨日のバトルは激戦だったからな。おじさん達も、お前を気遣って起こさなかったんだろう。……それにしても早いものだな、ジムバッジも残すは1つだけか」

 

「………………うん、そうだね。わたしもびっくりだよ」

 

 それとなく話を逸らしたイソラに、ツバキもしばらくは上目遣いに睨むが、すぐに笑顔に戻ってバッジケースを取り出した。

 バッジを納めるスペースはあと1つ分。

 それが埋まった時、ツバキはポケモンリーグ参加資格を得られるのである。

 

「だが、バッジが最後の1つという事は、相手のジムリーダーもジム戦としては最高レベルの攻略難度という事。昨日以上の厳しい戦いとなるのは間違いない。精進を怠るなよ」

 

「もちろん! ポケモンリーグに参加する前に、ジムバッジを手に入れなきゃ話にならないもんね! 最後のジム戦目指して一緒に頑張ろうね、ポポくん!」

 

 脇をホバリングするポポとハイタッチするツバキを、イソラは微笑ましく見守る……というかにやけてる。

 

「……では、もう行くのか?」

 

「うん。……やっぱり自分の家って怖いよね。優しいパパとママに、住み慣れた部屋……ついついいつまでもいたくなっちゃうから」

 

「……意志が鈍りそう、か?」

 

「……うん」

 

 生来甘えん坊なところのあるツバキは、旅でたくましくなったとはいえ、やはり本質的な部分は変わらない。

 このまま居心地の良い場所にいては、リーグ参加という苦労を伴う目的への意欲を失いかねないと考えているのだ。

 だからこそ、旅の間もテレビ電話で顔を見る事も無く、普通の電話での会話も控えめにしていたのだから、ここまで来てその意志を鈍らせたくはない。

 

「だから……もう行くよ」

 

「挨拶は済ませたのか?」

 

「え…………えっと……」

 

 ツバキが言葉を詰まらせ、視線を泳がせる。

 どうやら答えはNOらしい。

 

「ツバキー」

 

 その時、ツバキも使った階段を、ツバキとイソラの両親達が下りてきた。

 

「ツバキ、もう行くんでしょ? はい、お弁当。おにぎり作ったから、イソラちゃんと食べてね」

 

「え……えぇっ!? なんでわかったの!?」

 

 バスケットを押し付けられて困惑するツバキに、両親はにこにこと笑みを見せる。

 

「パパもママも、昔旅をしていた頃はツバキと同じ気持ちだったからなぁ。親が恋しいけど、夢にも走りたくて意地になって……」

 

「そうそう、懐かしいですねぇ。それにツバキ、朝ごはんの時も少し上の空だったでしょう? なんとなくピーンと来ちゃうのよねぇ♪」

 

「う……」

 

 さすがはツバキと同じように旅をしていた両親、お見通しである。

 

「でもね、ツバキ。そのくらい帰りたいと思える場所があるからこそ、辛い旅を頑張れるって事もあるのよ?」

 

「そうだな。苦労して苦労して……その苦労に見合う物を旅で手に入れて、胸を張って「ただいま」と帰れる場所と、たくさんの土産話を持って帰ってあげたい人。そういうのがあるから、張り合いも出てくるんだ」

 

「……そう……なのかな? でも……」

 

 まだ不安を口にしようとするツバキを、ミミナが優しく抱き締めた。

 

「大丈夫、ツバキは強い子。諦めそうになっても、ギリギリで踏み止まってまた歩き出せる子よ。ママもパパもツバキより知ってるんだから♪」

 

 シャコバはミミナに抱かれるツバキの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 

「そうだぞツバキ。それでもどうしても辛くなったら、恥ずかしがらず帰ってくれば良いさ。何度だって「おかえり」と「いってらっしゃい」を言ってあげるからな」

 

「だからツバキも何度言っても良いのよ。「ただいま」と「いってきます」って」

 

「っ……!」

 

 両親の暖かな想いに触れ、ツバキは思わず涙ぐむが、慌てて両手で目を擦って拭い去る。

 そして、それを見つめるイソラの肩に、イロハの手が置かれた。

 

「……母さん?」

 

「あんたもだよ、イソラ。いつも帰ってきたって3日といないんだから……たまには親孝行と思って、ゆっくり過ごしてよね。ねぇ、父さん?」

 

「……ああ、そうだな。お前はいつも忙しなく飛び回ってるし、休息は必要だ」

 

 不器用なりの思いやりを見せる父の姿に、イソラはツバキと同様に胸の奥から暖かい気持ちが込み上げるのを感じる。

 

「父さん………………ふふっ、わかった。次に帰ってきた時はそうする。その時は、私のポケモン達の自慢話をたくさん聞いてもらおうかな」

 

「あははっ! 良いよ、一晩中だって父さんと2人で聞いてあげる! なら、そのためにも今は……」

 

「ああ」

 

 イソラはツバキと顔を見合わせると、それぞれの両親の顔をまっすぐに見つめて声を揃えた。

 

「「いってきます!」」

 

 

 

 

 

――――ふたご島最上部

 

「いやぁ~、驚いたわねぇ……」

 

 女性は口の中で飴を転がしながら、目の前の氷塊を見上げている。

 

「まさかアタシのラピオを一撃で凍らせるなんて……さすが伝説ってとこ?」

 

 女性はさらに視線を上へと移動させる。

 そこにいたのは、青い翼と身体を持ち、長くしなやかな尾羽をたなびかせて宙に羽ばたくポケモン。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 伝説の三鳥の一角たるれいとうポケモン『フリーザー』だ。

 そして、女性……ロケット団幹部・ウィルゴの眼前にあるのは、フリーザーの“ふぶき”によって凍結したドラピオンである。

 フリーザーは「次はお前だ」と言わんばかりに冷たくウィルゴを見下ろしている。

 

「なるほどね、挑む奴はことごとくこうやって一瞬で氷漬けか……おっかないわねぇ……でもまぁ……」

 

 フリーザーの翼が冷気を纏い、大きく振りかぶる。

 

「凍らせたから何? って感じだけどねぇ♪」

 

 冷気を風に乗せて放つ直前、氷塊が砕け散り、ドラピオンが凍結前と変わらぬ姿で現れ、フリーザーは目を丸くする。

 だがそこは伝説のポケモン……さすがに肝が据わっており、技を中断する事無く翼を勢いよく振り下ろし、強烈な冷気の乗った突風が襲いかかった。

 

「“かみくだく”」

 

 ウィルゴは慌てるでもなく技を指示し、ドラピオンの身体から立ち上った禍々しいオーラが鋭い牙を備えた大顎を形成したかと思うと……“ふ ぶ き” を 丸 ご と 飲 み 込 み 爆 発 を 起 こ し た。

 これにはフリーザーも呆気に取られ、硬直してしまう。

 

「うふっ……わかった? さっきのはよけられなかったんじゃなく……わざと受け止めて()()()のよ♪ 少しは優越感てもんを感じられたかしらぁ? あっははははは!!」

 

 ウィルゴの興奮が高まって見る見る瞳孔が開き、口の端が歪に吊り上がる。

 

「勝ったと思った? 希望を抱いた? 自分への自信を再認識した? あはははは! それが全部絶望に塗り潰される気分はどう!? ねぇ、伝説のポケモンサマぁ!? あはっ! あははははは!! “ミサイルばり”よ!」

 

 ドラピオンの口から4本の針が射出され、フリーザーの翼に着弾する。

 痛みで正気に戻ったフリーザーは、羽ばたいて姿勢を制御する事で墜落を免れた。

 

「逃がさないわよぉ! “どくどく”!」

 

 ドラピオンの爪の先端から発射された毒液がフリーザーの脚にかかり、瞬く間に全身を蝕んでゆく。

 

「“クロスポイズン”!」

 

 力が抜け、地面に落ちてもがくフリーザーの背中に、ドラピオンの交差させた爪の一撃がクリーンヒットし、フリーザーはしばし痙攣した後に動きを止めた。

 

「あら、やりすぎたかしら? ま、瀕死にはなってないようだし、大丈夫でしょ。回収回収っと」

 

 ウィルゴがスイッチを入れると、黒い三角形の装置が起動し、グッタリとしたフリーザーを収容した。

 

「ふぅ……ま、そこそこは楽しめたかしらねぇ…………でも……足りない……まだまだ満たされない……アタシを満たしてくれるのはこいつでもないのね……」

 

 ウィルゴは不満げな表情で飴を噛み砕き、隣に侍るドラピオンの顎を撫でる。

 

「……ねぇ、ラピオ……どうすればアタシは満たされるのかしら……この渇きは誰が潤してくれるの……?」

 

 ドラピオンは通じぬ言葉を紡ぐ事は無く、黙ってウィルゴを抱き締めた。

 傷付けぬように、壊さぬように……護るように。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

自分で書いといてなんだけど、このドラピオン化け物すぎへんか…。
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