蒼天のキズナ   作:劉翼

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トキワジム挑戦を目指す第63話です!


第63話:試す者、試されるモノ

 7つ目のバッジを手に入れるところまで来たものの、このまま居心地の良い故郷に留まっていては、意志も覚悟も鈍ってしまうかも……そんな不安感から密かに旅立とうとしていたツバキであったが、それを見抜いて見送りに来た両親の想いを受けると、決意を新たにして別れを告げ、再びグレンタウンを飛び立った。

 そう、ツバキとイソラの2人は、現在空の上をボーマンダの背に乗って飛行中なのだ。

 

「グレンタウンに帰った時は“なみのり”で海上を進んだからな。ツバキはこうして空を飛ぶのは初めてだろう?」

 

「うんっ! 潮風を受けながら進む海も良かったけど、空の上も好きかも!」

 

 イソラの腰に腕を回したツバキが、無邪気な笑顔を見せる。

 

「ふふっ、そうだろう。私もこうしてポケモンと飛ぶのは好きだ。子供の頃から憧れていた空が近くなるからな。まぁ、いかに空を飛べるポケモンでも、人間を乗せたり掴んだりして飛ぶのは意外と難しく、一朝一夕では身に付かない技術なんだがな」

 

「そうなの?」

 

「ああ。ほら、前に発電所に乗り込む時にポポに掴まっていたが、途中でバランスを崩しそうになったし、到着後もしばらくポポがヘトヘトになっていたろう? 単独で飛ぶ時とは体力や筋肉の使い方がまるで違うし、重心も大きく変化するのでバランスが取りにくいんだ。“そらをとぶ”を覚えるとその辺りを本能的に理解して、習熟までが非常に早いらしいがな」

 

 “そらをとぶ”。

 上空まで飛び上がってからの急降下で攻撃するために発動から相手へのヒットが長く、お世辞にも優秀な技とは言い難いが、どちらかと言えばイソラの語る移動手段としての活躍が多い。

 ただし、遠くアローラ地方においては移動専用として訓練されたポケモンに騎乗する『ライドポケモン』が存在し、“そらをとぶ”や“なみのり”等のポケモンの技による移動が禁止されている。

 

「まぁ、バトルで使おうとすると癖のある技だからな……あまりオススメはしない。今のポポは“ブレイブバード”に“ぼうふう”と、ひこうタイプ最高クラスの技を2つ覚えているしな」

 

「そっかぁ……じゃあ、“そらをとぶ”には頼らずに練習あるのみなんだね……いつかポポくんに掴まって自由に飛べたら良いなぁ」

 

 ツバキがちらりと顔を横へ向けると、ポポはボーマンダの横にぴったり並んで飛び、ツバキに頷いた。

 

「ふふっ、しかし……私のボーマンダのスピードに追随できるのもさることながら、この巨大な翼の風圧に負けず、これほど近くを飛べるとは……大した奴に成長したものだな、ポポは」

 

 目を細めたイソラの脳裏をよぎるのは、今よりもずっと小さなツバキと、その腕の中に収まるほど小さなポッポ時代のポポ。

 

 

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 それが今では体躯に差こそあれ、巨大なドラゴンと並んで飛べるほどの強靭な体力と筋力を備えるようになった事に、ツバキの成長と同じくらいの感慨を覚える。

 

「……ん、マサラタウンの上を通過したな。よし、トキワシティは目の前だ、下りるぞ」

 

「うんっ!」

 

 スピードを落としたボーマンダが羽ばたきを小さくしながら徐々に降下し、4本の脚で着地すると、体勢を低くしてイソラとツバキを降ろした。

 

「グレンタウンからここまで頑張ったな、ボーマンダ、ありがとう」

 

「ありがとう、ボーマンダ!」

 

 2人から揃って撫でられ、嬉しそうなボーマンダがボールの中へと消える。

 

「さて、トキワジムだが……実のところ、あそこのジムはなんのタイプのエキスパートか、というのが決まっていない」

 

「……決まってない?」

 

 首を傾げるツバキに、イソラが唸りながら答えた。

 

「昔はじめんタイプの使い手がジムリーダーだったんだが、その次の奴は使うタイプがバラバラだったんだ。今はどうだか知らんが、細かいタイプ相性よりもパーティの総合力が試されると言って良いだろう」

 

「うぅん……総合力………………あっ!」

 

 と、そこでツバキは、バッグからキーストーンとピジョットナイトを取り出した。

 

「メガシンカ! これを使いこなせれば、勝ちも見えるかな!?」

 

「メガシンカか………………まぁ、とりあえずは試してみると良い。キーストーンを自分が、そしてメガストーンは対応するポケモンに持たせるんだ」

 

「うんっ! キーストーンをペンダントに嵌めて~、ポポくんはメガストーンを嵌めたリングを脚につけて~……」

 

 イソラが予備に持っていたメガストーン用のリングをポポの右脚にカチリと装着し、ツバキ自身はペンダントを首から下げる。

 

「準備完了だね!」

 

「ああ。まずは目を閉じて心を落ち着かせるんだ。ポポの呼吸を肌で感じ、自分の感覚を一致させる」

 

「か、感覚を一致……? え、えぇと、目を閉じて……落ち着いて……」

 

 ポポも呼吸のリズムを一定にしてツバキに合わせんとする。

 

「…………………………な、なんとなく一体感ある……気がする。よ、よぉし! ポポくん、メガシンカ!」

 

 ツバキがカッと目を見開く。

 …………。

 ………………。

 ……………………しかし何も起きなかった。

 

「……やっぱりダメ?」

 

「まぁ、これもコツがいるからなぁ……」

 

 言うなり、イソラはベルトからモンスターボールを外すと、空中へ放り投げた。

 中から現れたのはチルタリスだ。

 

「手本を見せるが……正直これはトレーナーとポケモンの相性も関わってくるからな。あまり参考にはならんかもしれん」

 

「お願い! お姉ちゃん!」

 

 手を合わせて頼み込むツバキに頷いたイソラが、チルタリスと共にツバキから距離を取る。

 

「……行くぞ、チルタリス」

 

 イソラは胸元からキーストーンを引き出すと、右手で握り込んで目を閉じ、微動だにせず深呼吸をひとつ。

 すると、指の隙間から徐々に光が漏れ出て、それは瞬く間に輝きを増していく。

 さらにそれに反応し、普段モコモコした羽毛に隠れたチルタリスの首の付け根からも似た光が溢れる。

 

「わぁぁ……!」

 

「……私達の想いの全てを乗せて……雲海へ響かせよう、優しく荒々しき旋律を! チルタリス! メガシンカっ!!」

 

 そして、イソラが右腕を掲げると同時に、イソラとチルタリスから溢れ出たオーラが絡み合ったかと思うと、一瞬にしてチルタリスの身体を包み込んだ。

 チルタリスのシルエットが見る見る内に膨れ上がり、纏った光の鎧が砕け散ってその姿が露になる。

 

 

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 青みの強かった体色はより淡い色合いとなり、尻尾も倍以上の長さとなっている。

 そして最大の特徴であった羽毛は大きく膨張し、さながら入道雲のような様相を呈している。

 

「わ……わあぁぁぁ……!!」

 

 メガシンカを初めて目の当たりにしたツバキは、目をキラキラと輝かせている。

 

「ふぅ…………」

 

 イソラとチルタリスが同時に息を吐き、ツバキの方へと顔を向けた。

 

「どうだ? 何か掴めそうか?」

 

「うーん……」

 

 尋ねられたツバキは腕を組んで唸っている。

 

「……なんとなく……感覚的には?」

 

「ははっ、まぁそうだろうな。たぶんすぐにマスターはできないだろうし、メガシンカよりも大人しく特訓した方が良いかもな」

 

「うん……そんな楽な道は無いって事だね…………よし!」

 

 ツバキはペシッと自身の頬を叩いて気合いを入れると、ポポに目を向ける。

 

「一緒に特訓頑張ろう、ポポくん! トキワジム攻略目指して……ファイトーっ!」

 

 ツバキの突き出した右手にポポが翼を合わせ、共にやる気の炎を燃やしている。

 そんなツバキ達に近付く足音が1つ。

 

「へぇ……お前、トキワジムに挑むのか」

 

「えっ?」

 

 驚いたツバキが振り向くと、黒を貴重とした服装の、赤い髪をした青年が興味深そうにこちらを見ていた。

 

「バッジは?」

 

「え……えっと……7個……ですけど……」

 

「……ほう……」

 

 青年はツバキのバッジ数を知ると、さらに興味を引かれたらしい。

 

「俺はギン。ポケモントレーナーだ」

 

 ギンと名乗ったトレーナーを、イソラが訝しげに見つめる。

 

「(ギン……? この男、どこかで見た記憶があるが……)」

 

「わ、わたしツバキって言います!」

 

「イソラだ」

 

 礼儀として名乗り返す2人を眺めた後、ギンはツバキに1つ話を持ちかけた。

 

「お前、俺とバトルをしろ」

 

「……え?」

 

「バトルだ、ポケモンバトル。トレーナーレベル8に挑めるだけの実力か試してやる。練習にもなって悪い話じゃないはずだ」

 

 ツバキがちらりとイソラの方を向くと、イソラは静かに頷いた。

 

「……受けてみなさい、ツバキ」

 

「う、うん……! わ、わかりました、お受けします!」

 

「ふんっ、そうこないとな。こっちだ、バトルフィールドがある」

 

 ギンは首をくいっと動かしてついてくるよう促して歩き始めた。

 

「……ツバキ、心してかかれ。この男、かなりの実力のようだ」

 

「わ、わかった……!」

 

 ほどなくしてフィールドに到着し、ツバキとギンはその両端に立つ。

 

「両者使用ポケモンは1体、相手を戦闘不能にすれば勝ち……で、かまわないな?」

 

「うん!」

 

「ああ」

 

 そしてギンがボールをかまえ、ツバキが肩のポポに目配せする。

 

「行くぞ、オーダイル」

 

「ポポくん、行って!」

 

 ギンの投げたボールから、青い身体をした大柄なワニのようなポケモンが四つん這いで現れ、器用に後ろ脚で立ち上がって咆哮を上げた。

 

 

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 おおあごポケモンの『オーダイル』だ。

 

「……強いな」

 

 オーダイルの身体から発せられる覇気が並のポケモンのそれではない事を見抜いたイソラがポツリと呟く。

 イソラだけでなくツバキも肌がピリピリとする覇気を受け、本能的に相手が強者である事を悟った。

 

「ポポくん、気を付けて……!」

 

 ポポもまた息を飲み、相手から目を逸らす事無く睨み付ける。

 一瞬でも隙を見せれば命取りとなる事を理解しているのだ。

 

「それでは、バトル…………開始っ!」

 

「“でんこうせっか”!」

 

 先手必勝。

 ポポが宙返りの後一気に加速し、軌道を変えながらオーダイル目掛けて突進していく。

 

「速いな」

 

 ギンはポポのスピードに素直に感心する。

 上下左右自由自在に飛び回るポポは残像ができるほどに速度を増し、隙を見てオーダイルの背中に突撃した。

 しかし。

 

「……っ……!」

 

 オーダイルはその場を動く事無く、わずかに上半身を捻って強靭な左腕でポポの突進を受け止めていた。

 

「オーダイルがよける事を諦めて受け止める方を選ぶとはな……大したスピードだ。“アクアブレイク”」

 

 オーダイルは受け止めた腕に力を込めてポポを振り払うと、地面を蹴って飛び上がり、両手の爪の先に水圧カッターのごとく水の刃を展開して振り下ろした。

 

「“でんこうせっか”でよけて!」

 

 体勢を崩したポポだったが、翼と尾羽を使って持ち直すと、地面すれすれで加速して攻撃回避に成功した。

 凄まじい音に目を向ければ、オーダイルの爪の形に地面が抉り取られている。

 

「なるほど、スピードじゃ完全に負けているようだな。なら、追い付かせてもらうぞ。“こうそくいどう”」

 

 オーダイルが地面に強く足を踏み込んだかと思うと、その姿が消え、青い影のような物が時々見えるだけという驚異的なスピードで動き回る。

 

「ポポくん、見えてる!?」

 

 隙を見せられないポポはオーダイルから片時も目を離さずに頷く。

 

「よし……! “ぼうふう”!」

 

 一層高く飛び上がったポポが翼をはためかせると、周囲の空気は見る見る荒れ狂い、旋風の刃がオーダイルを襲った。

 

「《するどいめ》で目標を見失わず、翼の力も大したもの……悪くないピジョットだ、よく育てられている。……“ハイドロカノン”」

 

 吹き荒れる風に物怖じする事も無く、オーダイルはボールから出てきた時のような四つん這いの姿勢になって地面を踏みしめる。

 

「(……! “ハイドロカノン”……! みずタイプ最高峰の威力を誇る究極技……!)」

 

 大きく息を吸い込んだオーダイルが、風の先にいるであろうポポを睨み、目を見開くと同時に大砲のような高圧水流がその口から放たれた。

 “ハイドロカノン”は幾層にも重なった風のカーテンを次々と撃ち抜き、この風を起こしている張本人……ポポへ一直線に突き進む。

 想定もしていない圧倒的な貫通力。

 動揺したポポは風を起こす翼の動きを止めるのが一瞬遅れ、真正面から“ハイドロカノン”の直撃を受けてしまった。

 

「ポポくんっ!」

 

 風が止み、多量の水が雨のように降り注いで虹がかかる。

 そして、その中をポポが力無く落下してきた。

 

「っ!」

 

 考える前に身体が動き、ツバキはポポの落下地点へと走ると、腕を広げてその身体を受け止めた……が、ピジョットへの進化で大型化して体重も増えたポポの質量を支えきれずに倒れ込んでしまう。

 

「……いたたた……ポポくん、大丈夫……?」

 

 ツバキが起き上がって腕の中のポポに声をかけると、その目が開かれた。

 だが、ポポはオーダイルをギロリと見据えてツバキの腕から抜け出そうとする。

 

「ポ、ポポくん、もういい! もういいよ! そんな身体じゃもう……!」

 

「(……“ハイドロカノン”の直撃を受けたってのに、トレーナーの面目を守ろうとまだ戦おうとするのか)……戻れ、オーダイル。ご苦労だった」

 

 ギンがボールに戻した事でオーダイルが姿を消すと、ポポは糸の切れた人形のようにがくりと力が抜けた。

 

「ポポくん……」

 

「……ほら、すごいキズぐすりだ。回復してやれ」

 

 ツバキへ歩み寄ったギンが、キズぐすりを差し出した。

 

「あ……ありがとうございます……」

 

 素直に受け取ったツバキがポポの全身にキズぐすりを吹き付けて塗り込むと、ポポが再び目を開いた。

 

「……なるほど、お前とそのピジョットの絆は相当に強いな。だが……まだ足りない」

 

「え……足りない……?」

 

「そうだ。ピジョットにはまだまだ秘めたポテンシャルがあり、そいつが信じるお前にも同様にあるんだろう。だが、微妙……本当に微妙に噛み合っていない事で、どちらもその真価を引き出せていない。トレーナーとポケモンが1つになる……そんな感覚を得られるように努力する事だ。今のお前達では、トキワのジムリーダーには絶対に勝てない。……じゃあな」

 

 それだけ言うと、ギンは踵を返して歩き去っていってしまった。

 

「……強い。“ぼうふう”の中にあって冷静に相手の位置を探る胆力と正確な射撃……トレーナーだけでなく、あのオーダイルも百戦錬磨の強者だ」

 

 ギンと入れ替わるようにツバキに歩み寄ったイソラが、ポポの頭を撫でる。

 

「……本当に強かった……わたしじゃ手も足も出なかった………………ねぇ、お姉ちゃん……ポケモンと1つになるって、どうすれば良いの……!? このままじゃポポくんも他のポケモン達もわたしがダメダメなせいで……!」

 

「落ち着けっ!!」

 

 焦りから取り乱すツバキの肩を掴み、イソラが一喝する。

 

「……ツバキ、ポケモンは物じゃない。同じ種類でも個体ごとに嗜好も性格もトレーナーとの相性も違う。他人ができるのはせいぜい技を教えたり特性の扱い方をアドバイスするくらい……トレーナーとポケモンの関係性……その向き合い方は、自分にしかわからないんだ。だからツバキ。どうすれば1つになれるか……それはお前自身が考えるんだ。トレーナーとポケモンは、迷い、悩み、その苦悩の果てに互いを理解し、真のパートナーとなるんだからな」

 

「……わたし自身が……」

 

 ツバキはポポの頬を撫で、一層強く抱き締める。

 

「……ポポくん……わたし、どうすれば良いかまだわからないけど……絶対……絶対に掴んで見せるから……! わたしらしいポケモンとの繋がり方……!」

 

 頷いたポポは、翼の先でツバキの頬を撫でた。

 自身の頬とポポの翼が涙で濡れている事に、ツバキはまだ気付いていない……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました!

やはりメガシンカは規格違いなので、安易に習得はさせられませんなぁ…。
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