蒼天のキズナ   作:劉翼

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今度はイソラ&スカーレットサイドに移る第67話です!
…長いです。


第67話:餓狼

 敵の罠により、ロケット団アジト内で別行動を取る事になってしまったツバキ達。

 ツバキがウィルゴの副官・シュルマを破り、彼からウィルゴへの勝利を託された頃、イソラ達は……。

 

 

 

「“エアスラッシュ”」

 

「“ワイルドボルト”」

 

 ペリッパーが翼を振るうと同時に響いた風切り音。

 それと共に放たれた空気の刃が、通路を塞ぐように並んだポケモン達の間を駆け抜けてその体勢を崩し、そこへ電撃を纏ったレントラーの猛烈な突撃が炸裂して、纏めて轢き倒していった。

 宙を舞ったポケモン達は、バラバラとロケット団員達の前へと落ちていく。

 

「ベ、ベトベトン! コラッタ……!」

 

「お、俺の……俺のゴルバットがぁ……!?」

 

「デルビル! ……うぐぐ……ひ、引けっ! 引けぇっ!」

 

「ち、ちくしょう! 化け物どもめ!」

 

 各々自分のポケモンをボールへ戻し、捨て台詞を吐いて逃げていく団員達。

 

「私達は化け物らしいぞスカーレット」

 

「………………がおー。鬼だぞ」

 

 レントラーと共に威嚇するようなポーズで勝利を誇示するスカーレットに少し呆れながらもイソラは歩みを進める。

 ここまでは完全に鎧袖一触という言葉の意味そのままの快進撃なのは確かだが、イソラからすればポケモンの実力をまったく引き出せていない下級団員相手では誇る気にもならない。

 それは恐らくスカーレットも同じであり、あのポーズは相手への煽りの意味が大きいだろう。

 

「……む……」

 

「………………分かれ道」

 

 通路を進んできたイソラ達の前に、まっすぐ進む道と、左へ逸れた道が現れる。

 

「見取り図によると、最終的にはどちらも最奥部へは辿り着けるが、最短ルートはこのまま直進か……だが……スカーレット、お前はそちらの脇道を頼みたい」

 

「………………いるかも。ツバキ」

 

「そういう事だ。できれば合流して進みたいからな。頼めるか?」

 

「…………ん」

 

 どちらともなく拳を突き出して打ち合わせると、微笑みを交わしてそれぞれ別の道を進み始めた。

 

「さて……ペリッパー、まだ大丈夫か?」

 

 イソラの問いかけにペリッパーが翼を高々と掲げ、自信たっぷりに答える。

 

「頼もしい事だ。……むっ」

 

 進む内に通路を抜け、広い空間へと出る。

 そして、そこに佇む影が1つ……。

 

「……くく……くははは……! はっははは! 来たなあ、女帝っ!!」

 

「……三凶星……アクイラか……!」

 

 腕を組んで立っていたその男は、イソラの姿を見るや歓喜の高笑いを上げる。

 

「そうさ、最短ルートで奥を目指すなら、必ずここを通る。そう踏んで待ってた甲斐があったってもんさ! くっくくく……! さあ、ごちゃごちゃ言うつもりはねえ……始めようぜ! バトルを! 俺に勝てたらここを通してやっからよお!!」

 

 そう言ってアクイラは1枚のカードを取り出した。

 

「くくく……奥の研究エリアに入るために必要なカードキー……その片割れだ。……しかし、安心したぜ、アンタが来てくれて。チビッ子の方に来られても、あんなのとバトルしてもつまらねえからよお」

 

 チビッ子というのは、十中八九ツバキの事を指しているのだろう。

 それを聞いたイソラの口から、嘲るように小さな笑い声が漏れ出た。

 

「ふふっ……あまり舐めない事だ。確かにあの子の実力はまだ未熟……だが、その身に秘めた才覚は私をも凌駕する、と私は信じている。仮にこちらへ来たのがあの子でも結果は同じ……貴様は道を譲る事になる」

 

「……その口振り……もうアンタが勝つ事が決まってるかのようじゃねえか?」

 

 遠回しな勝利宣言を受け、さすがに面白くないのかアクイラが顔をしかめるが、イソラは臆する事無く言葉を続ける。

 

「当たり前だ。負ける事を考えてバトルするトレーナーがどこにいる。勝つ事を考え、策を練り、ポケモンと共に全力でバトルに臨み、そして最初の考えを現実へと変える。それがポケモントレーナー……ポケモン達の生命と運命を預かった者の責任だ。……違うか?」

 

 イソラのその言葉を受け、数秒間真顔のままだったアクイラが、大声を上げて笑い始めた。

 

「……くはっ……くはははははっ! いや……ちげえねえ、その通りだ。それがポケモン達への礼儀ってもんだったな。今のは俺が悪かった。……なら、改めて……決めようぜ、女帝。俺とアンタの勝利のビジョン! そのどちらが現実のもんとなるかをな! ルール無用の裏バトルの真髄、見せてやるぜっ!」

 

――――ロケット団幹部のアクイラが勝負を仕掛けてきた!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(モンスターボール2つ……2体同時に使ってくるか)戻れペリッパー」

 

 2つのボールを取り出したアクイラに対し、イソラはペリッパーのボールをベルトへ戻し、改めて1つ構える。

 

「ほう、俺が2体出すと知ってなお1体……そいつがアンタの最強か」

 

「そうだ。私の最初にして最強のパートナー。初志貫徹を体現するポケモン。……待たせたな、お前の出番だ……オニドリルっ!」

 

 イソラが投げたボールが開き、巨大な翼を広げたポケモンのシルエットが形作られる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それと同時にアクイラに降りかかる圧倒的な威圧感、プレッシャー……それはファイヤーと相対した時の比ではないほどの物だ。

 

「く……くくく……なるほど、こいつは確かに最強と呼ぶに相応しい……!」

 

「当然。こいつは強力なドラゴンだろうと、メガシンカ体だろうと、私と共に決して引く事無く戦い、勝利を収めてきた歴戦のオニドリル。私を象徴するポケモンと呼んでも過言ではない」

 

 オニドリルはイソラの前へと着地し、鋭い眼光でアクイラを射抜く。

 

「くく……こいつなら相手にとって不足はねえ! 行くぞ、ヘルガー! アブソル!」

 

 アクイラの両手のボールから飛び出した光が、2体の獣の形を成していく。

 完全に固着した2体のポケモンは、ゆっくりと目を開いて眼前の敵を負けじと睨みつける。

 

 

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 片方は以前に対峙したダークポケモン『ヘルガー』、そしてもう片方は全身の白い体毛と対照的な黒い顔とそこから伸びる刃のようなツノが特徴的なわざわいポケモン『アブソル』だ。

 だが、その姿を見ると……。

 

「……っ!?」

 

 イソラは目を丸くする。なぜならば……。

 

「(2体ともメガストーンを持っているだと……!?)」

 

 そう、現れた2体の首には、虹色に輝くメガストーンがぶら下がっていたのだから。

 

「くっくく……さすがにアンタも……2体同時メガシンカは相手取った事はねえよなあ?」

 

「ああ。ただでさえ負担の大きいメガシンカ……それを2体分も支えるとなれば、並のトレーナーの肉体と精神では耐えられん。……正気か?」

 

 イソラのその問いに、アクイラは不敵な笑みを浮かべ、目を見開いて答えた。

 

「くっははははは! あいにくと俺は並じゃあねえ……熱いバトルのためなら……自分の命すら懸けられるほどにイカれてるもんでねえっ!!」

 

 言うなりアクイラは右袖を捲り、キーストーンの嵌まったメガリングを露にする。

 

「さあ、行くぞ! 悪には悪の絆があるってのを見せてやろう! 目に焼き付けな……俺達自身がアンタにとっての災厄だ!! ヘルガー! アブソル! メガシンカ!!」

 

 アクイラの右腕から放出されたオーラは空中に一時止まり肥大化すると、2つに分割されてヘルガーとアブソルの2体の身体を包み込む。

 ヘルガーのシルエットは激しく燃え上がり、纏っていた光を吹き飛ばすように姿を現した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 露となったその姿は、頭部と背中の骨のようなパーツ、そしてツノが大型化し、爪は赤く発色している。

 そしてアブソルはといえば、頭部の体毛が片目を覆うほどに伸び、外見上の最大の変化は翼のように広がった背中の体毛だ。

 

「……本当に2体同時にメガシンカさせるとは……なんて奴だ……」

 

 通常、公式戦でのメガシンカは1回のバトルで1体までとされている。

 それは驚異的な戦闘能力の向上故にルール上決められているのもあるが、ポケモンとトレーナー双方に大きな負荷がかかり、それ以上は肉体と精神が保たない、というのも理由の1つである。

 それを2体同時に行っているというのだから、アクイラにかかっている負担は冗談で済むレベルではない。

 

「……くっ……くくく……さああ……闘ろうぜ女帝いぃぃ……!!」

 

 放っておけばその負荷で自滅しそうではあるが、イソラのボケモントレーナーとしての矜持がそれを許さない。

 たとえそれが相手がロケット団のような悪党であろうとも。

 

「良いだろう、来い!」

 

「くっくく……なら遠慮無く行かせてもらうぜえっ! ヘルガー、“かえんほうしゃ”! アブソル、“あくのはどう”!」

 

 ヘルガーの口からメガシンカ前とは比較にならない熱量の炎が放射され、アブソルの身体からは溢れ出た漆黒のオーラがオニドリル目掛け襲いかかる。

 

「オニドリル! “こうそくいどう”!」

 

 翼をはためかせて飛び立ったオニドリルが錐揉み回転で炎を回避し、続けて直線コースに入って速度を上げると、追ってくる“あくのはどう”を引き離す。

 

「ヘルガーへ“ドリルライナー”!」

 

 かと思えば急降下を敢行し、器用に翼が床に当たらない高さを維持して高速で回転しながら弾丸のようにヘルガーへ突撃していく。

 

「“かげぶんしん”!」

 

 鋭いクチバシがヘルガーを刺し貫く寸前、その姿が霞み、横並びに3体のヘルガーが出現した。

 オニドリルはその内の1体を貫いて飛び去るが、それは分身に過ぎず即座にかき消えた。

 

「……やはり一筋縄では行かんか。(ヘルガーはメガシンカして特性が《サンパワー》に変化しているはず……)オニドリル! “ねっぷう”だ!」

 

 オニドリルの両翼が熱を帯び、そのまま羽ばたけば高熱の風がフィールド全体を覆い尽くし、ヘルガーとアブソルの身体に全方位から吹き付ける。

 ヘルガーの特性はほのおタイプ技を無効・吸収して自身を強化する《もらいび》だが、メガシンカによって変化した事で普通にダメージが通るようになっている。

 身を焼く熱風が表皮をじりじりと焦がし、ヘルガーはともかく元々打たれ強いわけではないアブソルにはかなりのダメージが入った。

 

「やるじゃねえか……! “ストーンエッジ”!」

 

 アブソルが前脚を叩き付けると、床から無数の鋭い岩塊が等間隔で突き出して風の流れをコントロールし、アブソル達への被害を抑え込む。

 

「(ちっ……ほとんど風の無い屋内なせいで風向きが計算しやすくなっている……こいつには風を使う技は通用しないか)」

 

「今度はこっちから行かせてもらうぜ! “めざめるパワー”! “サイコカッター”!」

 

 ヘルガーの首回りから青白いエネルギー弾が6つ撃ち出され、アブソルがツノを振り回すとピンク色のサイコエネルギーの刃が2つ3つと射出された。

 

「(弾数が多い……! だが……!)」

 

 オニドリルは“こうそくいどう”でスピードが大きく向上している。

 いかに数が多くとも、包囲されないように注意を払えばさほど恐れる事は無い。

 実際、次々に襲いかかる弾と刃を、急上昇、急降下、急加減速を駆使してオニドリルは器用にかわしていく。

 

「(恐らくこれはこちらを誘導する囮……! 本命は……)」

 

「“オーバーヒート”!」

 

 オニドリルの真正面にヘルガーが飛び上がり、その口の端から炎が溢れ出る。

 

「ならば“ドリル”……」

 

「“ふいうち”!」

 

「っ!!」

 

 翼を広げ、急降下からの“ドリルライナー”を決めようとしたオニドリルの背後に現れたアブソルが、強靭な前脚でオニドリルの両翼を抑え込んだ。

 そこへヘルガーから放たれた、“かえんほうしゃ”を遥かに上回る火力を誇る“オーバーヒート”が直撃し、身動きの取れないオニドリルの身体を炎が包む。

 

「オニドリル! 負けるな!」

 

 だが、イソラ最強のパートナーの名は伊達ではない。

 

「“ドリルライナー”!」

 

 着火と同時にアブソルが離れて拘束が外れると、“ドリルライナー”で身体を高速回転させて炎を吹き飛ばして復帰した。

 

「くくっ……“オーバーヒート”の直撃を受けてまだやれるとはな……化け物じみた耐久力だぜ」

 

「……化け物……化け物……化け物……貴様ら何度私を化け物呼ばわりする気だあぁぁっっ!!」

 

「……あ?」

 

 突然キレ始めたイソラに、バトル中にもかかわらずアクイラの表情が崩れる。

 が、考えてみればイソラは強いとはいえまだ18歳という年頃の女性であり、こう何度も化け物扱いされれば怒りたくもなるというもの。

 ……今化け物と言われたのはオニドリルの方だが。

 

「もはや我慢ならん! “ドリルくちばし”!」

 

 あいにくとデリケートな乙女心には疎いオニドリルが呆れたような表情を浮かべた後に一際高く飛び上がり、身体を回転させながら鋭いクチバシでヘルガーを狙う。

 

「わけがわからねえが、やる気が出たなら結構だぜ! “かえんほうしゃ”! “ストーンエッジ”!」

 

 再度ヘルガーの口から炎が噴射されるが、“オーバーヒート”でエネルギーを使いすぎたためか、炎の勢いは落ちている。

 それを補佐するように突き出た岩がオニドリルの動きを阻害しようとする……が。

 

「ドリルの名は伊達ではないっ!」

 

 凄まじい勢いで回転するクチバシは、立ちはだかる岩を次々に刺し貫き、ポケモンとしての名、そして技名が示す通りに穴を穿ち、砕き、破砕していく。

 さらには迫ってきた炎すらもその回転を以て霧散させていき、そのままヘルガーに突進をクリティカルヒットさせる。

 

「なんだとっ……!? くっ……ぐっ……!? ……ごふっ……!」

 

 その瞬間、アクイラの口から血が噴き出す。

 

「っ!?」

 

 イソラが目を剥く。

 とうとうメガシンカ2体分の負荷が本格的にアクイラの身体を壊し始めたのだ。

 吐血した主人の姿にヘルガーとアブソルが振り向くが、アクイラは逆に声を荒げた。

 

「構うなっ! バトル中だぞっ!!」

 

 袖で血を拭きながら、アクイラはなおも指示を続ける。

 

「……かふっ……! ……“めざめるパワー”! “あくのはどう”!」

 

 ヘルガー達は戸惑いつつも、指示通りに技を放つ。

 

「“こうそくいどう”!(……まずいぞ。このままでは奴は命を落としかねない………………ふざけるな! ポケモンバトルの中で死人が出るような事があってたまるか! バトルはそんな物じゃない……! ……仕方無い……頼むぞ……!)」

 

 イソラはオニドリルに指示を飛ばしながら、右腕を後ろに振る。

 オニドリルの速度はますます引き上げられ、技を狙って当てるのは難しくなってくる。

 

「“ストーンエッジ”! ヘルガーはそこに“めざめるパワー”!」

 

 だが、そこは三凶星……そんなもので完封できる相手ではない。

 点が駄目なら面で制圧する。

 無数に突き出した岩にエネルギー弾が次々にヒットし、細かい破片が膨大な数の対空砲火と化してオニドリルの全身に突き刺さった。

 

「オ、オニドリルっ!」

 

 墜落したオニドリルは、すぐさま立ち上がって全身に力を込め、刺さった破片を筋肉の膨張で弾き出した。

 

「オニドリル……まだ、行けるか?」

 

 オニドリルの甲高い声がその問いへの返答だ。

 その大きな翼を振るい、なおも継戦の構えを見せる。

 

「……よし。アブソルへ“ドリルくちばし”!」

 

 何度目かの飛翔から、これもまた何度目かの回転と急降下。

 だが、“ストーンエッジ”の破片による負傷はそのスピードを大きく鈍らせた。

 

「へ……へははは……! まだ……どうにか……追いきれるスピードだぜ……! ”サイコカッター”……!」

 

 放たれるサイコエネルギーの刃を、回転しつつも左右へ小刻みに動いて回避するが、翼の大きさが災いして1発が着弾してしまう。

 その隙にヘルガーが背後へ回り、オニドリルは完全に挟撃態勢を取られてしまった。

 

「く……くひははは…………メ……メガシンカ2体を相手に……よく……保ったもんだな…………! だが……終わりだ……女帝……! 単騎で挑んだ事を……後悔しやがれえっ!! “かえんほうしゃ”! “あくのはどう”!」

 

 息絶え絶えのオニドリルに対し、ヘルガーとアブソルが技の準備に入る。

 

「……単騎……? ……違うな……2体さ、私もな。……“かげぬい”」

 

 その小声の指示と共に、イソラの背後の通路から2本の針のような物が射出され、イソラの髪の先端を掠めて飛来する。

 

「飛べっ!!」

 

 オニドリルが残った力を振り絞って飛翔すると、一文字に並んだ形となったヘルガーとアブソルの影に、飛んできた針が突き刺さった。

 

「な……に……!?」

 

 ヘルガーとアブソルはもがくが、まるで床に縫い付けられたように身体がその場を離れようとしない。

 

「……私はひこうタイプを専門としている。だが……ほんの一握りだけイレギュラー……例外が存在する」

 

 通路を歩いてきたその影の姿が徐々に明らかとなる。

 

「良い……狙撃だ…………ジュナイパー」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 全体のシルエットは人型に近く、葉でできたフードを被り、顔には眼鏡のような模様。

 身体全体を覆い隠せそうなほど大きな茶色の翼を有するそのポケモンは、やばねポケモンの『ジュナイパー』……くさとゴーストタイプだ。

 

「……よもや、卑怯とは言うまいな?」

 

「……くくっ……言うわけが……ねえ……! 最初に言っただろう……ルール無用……ってよ……! しかし……いつの間に出しやがった……?」

 

「つい……さっきさ。白熱すると……フィールド内しか見えないというのは……本当だったようだな……」

 

 そう、アクイラの身体に変化が起きて吐血した時、予想以上に手こずったイソラは、早期にバトルを終わらせるべく後方へとジュナイパーのボールを投げ、機会を窺っていたのだ。

 通常ならば途中からのポケモン追加とバトル乱入などルール違反もいいところであるが、これはその縛りを外れた裏バトルなのである。

 

「あいにく……どんな相手にも正々堂々などと言えるほど……清くはないのでな……! “ドリルライナー”! “リーフブレード”!」

 

 ジュナイパーの放った矢によって拘束されて身動きの取れないヘルガーへ、余波で床を抉りながら回転するオニドリルが突進し、アブソルへは腕となる翼の一部が刃のように伸びたジュナイパーが斬りかかる。

 動きを封じられた2体は無抵抗のままその一撃を受けて大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「だが、拘束は外れた……! ……“かえんほうしゃ”で牽制! オニドリルに“ストーンエッジ”!」

 

 2体は空中で身体を捻ると、揃って壁を蹴ってフィールドへと復帰し、ヘルガーが炎を吹き出してジュナイパーの動きを阻害しているその間にアブソルが鋭く尖った岩を次々と隆起させてオニドリルを襲う。

 

「……“ドリルくちばし”だオニドリル! 全てとは言わん……! 手前のいくつかだけでも貫けっ……!」

 

 イソラに考えがあると信じ、オニドリルは身体の回転を早めながら、“ストーンエッジ”へ真っ向から突撃を敢行する。

 ここまでのダメージで体力は著しく低下し、“ドリルくちばし”のパワーも目に見えて落ちている。

 それでも立ち塞がる肉厚の岩柱を4本5本と貫いていくのはさすがであるが、案の定6本目以降からは勢いが落ちていった。

 ジュナイパーはオニドリルの方へ行こうとしたり、アブソルを狙撃しようとすれば、ヘルガーが敏感に察知して炎を噴射してくる。

 

「くっははは……! 終わり……だ……! ぐっ……ごほっ……ごほっ……!」

 

「……ああ…………終わりだ……! “ゴーストダイブ”!」

 

 炎が直撃するその瞬間、ジュナイパーの足元に黒い穴が開いてその姿が吸い込まれる。

 そして、ジュナイパーの消えた先には、“ストーンエッジ”をコントロールしていて動けないアブソル。

 

「っ!! よ……よけろっ……!!」

 

 血反吐の混ざったアクイラの叫びにアブソルが振り向くが、もう遅い。

 アブソルの身体が炎に包まれ、前脚を上げて熱に悶える叫びと共に岩塊がボロボロと崩れ、その先から突撃してきたオニドリルの“ドリルくちばし”が腹部を直撃。

 アブソルは白目を剥いてぐらりと揺れ、その身体が一瞬光ったかと思えば、表面が光の粒子となって弾け、メガシンカ前の姿で床に倒れ込んだ。

 

「アブ……ソル……!」

 

 そして、味方を撃ってしまった事に愕然とするヘルガーの背後に穴が開き、現れたジュナイパーが鋭利な足の爪に不気味なオーラを纏わせて振り下ろす。

 完全に無防備になっていたヘルガーは、背中でまともに受け、床に強く打ち付けられてしまった。

 

「っ……終わらせるぞ! “ドリルライナー”!」

 

 アブソルを破り、“ドリルくちばし”の回転を緩めぬまま上昇していたオニドリルが、大きく旋回して急降下し、今まさに床をバウンドしたヘルガーを勢いよく突き上げる。

 宙を舞ったヘルガーは、空中で2度3度ゆっくり回転し、アブソルのように光の粒子が尾を引きながら落下。床へぶつかると同時にメガシンカが完全に解け、そのまま動かなくなった。

 

「……が……ぁ…………はぁっ……はぁっ……」

 

 アクイラが片膝をつく。

 メガシンカの負荷から解放されたとはいえ、身心共に消耗は激しく、呼吸は荒く不規則だ。

 

「……くっ……くははっ……! ……負けたよ……俺の負けだ……」

 

「……それだけの……覚悟と実力……真っ当に使えば、ジムリーダーはおろか……四天王すら現実的に目指す事も……できたろうに……」

 

 対するイソラも、隠そうとはしているが言葉の合間合間で吐き出す息の荒さはごまかせない。

 

「……くくっ…………悪いが……もう……ルールで細かく……縛られた……表のバトルじゃ…………俺の闘争心……は…………満足……しねえのさ…………くく……は……。……楽しかったぜ……女帝……」

 

「……私は……全然楽しくなかったよ。貴様が……ロケット団でさえ……なければ……楽しめたろうが、な……」

 

「……ははっ……そうかい……そりゃ……惜しい事を…………し……た……………………」

 

 アクイラの首ががくんと垂れ、片膝立ちの体勢で硬直する。

 積もり積もった疲労と負担が祟り、その姿勢のまま失神してしまったようだ。

 

「……ジュナイパー、よく……やってくれた。戻って……休んでてくれ……」

 

 それを見届けたイソラはジュナイパーをボールへ戻し、深呼吸をひとつ。

 そして、膝から崩れ落ちそうになるところを、オニドリルの翼で支えられる。

 

「……すまない、オニドリル……お前も疲れているのにな…………まるでZ技を使った後のようだ……これほど精神を磨り減らしてしまうとはな……」

 

 イソラはオニドリルの翼を優しくどけると、その場にぺたりと座り込んでしまった。

 

「……他のポケモンや、ツバキ達には……こんな弱々しい姿は……見せられんな……ふふっ…………こんなところを見せるのは……お前の前だけだ……」

 

 座り込んだままオニドリルのクチバシをゆっくりと撫で、懐からキズぐすりを取り出すと、その傷口に吹き付けていく。

 

「こんなにまで傷付けてしまって……すまないな…………まったく……こんな奴があと2人もいるとは……先が重いな、オニドリル……」

 

 少しそのままで休んだ後、イソラは足腰に力を込めて立ち上がる。

 

「……あまりのんびりもしていられん……行こう」

 

 ゆっくりとアクイラに歩み寄り、そのジャケットのポケットからカードキーを抜くと、イソラとオニドリルは先へと進む。

 その歩みは徐々に速度を増し、ほんの数m歩く頃には背筋も伸ばし、やせ我慢が入りつつもいつも通りのイソラへと戻る。

 

「弱い私は終わりだ。……あの子のためにも、表面上だけでも強くあらねば、な。私は……あの子の憧れなのだから……」

 

 イソラは顔を上げ、しっかりと前を見据えて己の脚で歩き始める。

 脳裏に浮かぶは、今もこのアジトのどこかで懸命に戦っているであろう、大切な妹分の可愛い笑顔。

 後ろを向き、地面を見つめるのはほんの一瞬で良い。

 彼女がいずれ自分を超えていくその時まで、彼女の憧れそのままの自分でいるために……彼女の期待と信頼に全力で応えるために。

 自分は前を向いて、より高くを見上げていなければならないのだから。

 

 

 

つづく

 




今回も駄文雑文長文落書きにお付き合いいただきありがとうございます。

メガシンカ2体と拮抗するオニドリルが化け物なのか、2体がかりでオニドリル程度と互角なヘルガー&アブソルが弱いのか…その判断は読者の皆様に委ねようと思います。
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