蒼天のキズナ   作:劉翼

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三凶星戦パート2となる第68話です


第68話:暴君

 ロケット団アジトの中、ツバキとはぐれて下級団員を蹴散らしながら進むイソラは、分かれ道でスカーレットと一時別行動を取り、三凶星の一角たるアクイラと遭遇する。

 切り札のオニドリルを繰り出すイソラに対し、ヘルガーとアブソル……2体のメガシンカ体を同時に扱うアクイラ。

 数の差もあり次第に押されるイソラは、隠し玉であるジュナイパーを加えてどうにか撃破に成功。

 アクイラからカードキーを手に入れて先へと進んだイソラから、場面は再びツバキへと移る……。

 

 

 

「ベトベター! “ヘドロばくだん”!」

 

 紫色のドロリとした身体のポケモンが、自分の身体の一部を掬い取り、丸くこねて投げつけてきた。

 

「ナオ、“サイコショック”!」

 

 ナオの目が光り、両手に構成されたサイコエネルギーの塊を順番に投げつければ、1つが“ヘドロばくだん”と相殺、もう1つがベトベターの顔面を直撃し、後ろの団員を巻き込んで倒れた。

 

「うぐぐ……くそ……お、覚えてろ……!」

 

 団員はベトベターをボールへ戻し、鼻を押さえながら逃げていった。

 ベトベターも懐けばだいぶ臭いが抑えられるのだが、あの様子を見る限り、あまり懐かれてはいないようだ。

 

「ご苦労様、ナオ。……それにしても、何人いるんだろう……もう10人くらいは倒したはずなんだけど……」

 

 数でこちらに勝る相手というのは、当然の事ながら厄介なものである。

 単純に物量で押し潰そうとするのもそうだが、こうして立て続けに襲撃されると、疲労がどんどん蓄積していってしまう。

 

「ともかく早くベラさんを…………っ!」

 

 ツバキの背筋に走る、ぞくりとした悪寒。

 現在進んでいる通路の先から感じるそれに、ツバキは覚えがあった。

 

「……ごめん、ナオ……ボールに戻ってて」

 

 頷いたナオは、お気に入りのモンスターボールを持って大人しく回収光線に吸い込まれた。

 それを見届け、ツバキは表情を引き締めて通路を進む。

 そして、通路を抜けた先の広間に……彼女はいた。

 

「うふふふ……待ってたわぁ、ツバキ。調味料達のおもてなしはいかがでしたかぁ?」

 

 ドラピオンに寄りかかり、伸ばした舌先で棒付きキャンディを弄びながら、ウィルゴが横目でツバキを捉える。

 調味料……それは、ここまでにツバキが倒してきた団員達の事だろう。

 つまり、彼女はツバキを料理に見立て、下級団員達で下ごしらえをしていた……という事だ。自分が最高の味で味わうために。

 

「そりゃあ、塵を一気に散らすのも楽しいんだけど、こういうのはやっぱりある程度の抵抗が無いとねぇ。そういう足掻きを全力で叩き潰された時の絶望ってのが、一番面白い顔するし♪」

 

 メインディッシュを前にして、心底楽しそうにウィルゴは笑う。

 相手を掌中で弄び、希望を見出だしたところを絶望へと塗り潰し、その事に至高の愉悦を抱く、まさに歪な心。

 これがポケモンバトル本来の楽しさを知らぬが故に歪んだ結果だというのなら、恐怖を通り越して哀れみすらも覚える……実際、ツバキの胸中にはそういう感情が湧き上がっていた。

 

「……バトルです、ベラさん」

 

「……あら? アタシの事知ったのね。……あぁ、そういえば一緒にいた奴が知ってそうな素振りだったわねぇ……アレから教えられた感じかしらね? ……うふふ……だとしたら……勝ち目が無い事も理解できそうなもんだけどねぇ……♪」

 

 完全にツバキを格下と捉え、実際その実力にはとんでもない開きがあるのだろう。

 だが、彼女が餌や獲物と考えている相手……すなわちツバキはただの料理ではなく、いまだ調理前の牙を剥く獣である事には気付いていない。

 

「そうねぇ……どうせ勝つ事なんてできないんだし…………うん、このラピオに膝をつかせる事ができたら……このカードキーをあげちゃおうかしら? いっちばん奥に進むための2枚ある内の1枚よ。うふふふ、このくらいの条件なら、死に物狂いになればやれそうじゃない?」

 

 恐らくウィルゴは、こうして実現できそうなクリアーラインを用意し、そこに到達寸前で絶望の淵へと突き落とそうと考えているのだろう。

 

「前みたいに片っ端から一撃でおしまい……なーんてのは飽きたからやめてね? せいぜい足掻いてもがいて必死に抵抗してね♪ あっははははは!!」

 

――――ロケット団幹部のウィルゴが勝負を仕掛けてきた!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さぁ、ラピオ……遊んであげなさいな」

 

 ウィルゴが身を起こし、ドラピオンをけしかける。

 ドラピオンはウィルゴをじっと見つめた後、のそりと前へと出てきた。

 

「来た……!」

 

 かつて、まるで本気を出していないにもかかわらず、ツバキの手持ちを苦も無く一蹴し、壊滅させた怪物。

 あの時の恐怖が全身を震わせるが、ツバキは足幅を開き、床を踏みしめて自身を奮い立たせる。

 

「(トレーナーの不安はポケモンまで不安にする……そうだよね、お姉ちゃん……!)……行くよっ! ポポくんっ!」

 

 最強の敵には最高のパートナーを。

 ツバキの投げたボールから現れたシルエットは見る見る内に鳥の形へと変化し、頭部の長い飾り羽に光の粒子を纏ったポポが、甲高い雄叫びと共に宙に舞った。

 

「ふぅん、あの時のピジョンね……さて、どれだけの獲物に仕上がったかしら? まずは小手調べ……“ミサイルばり”よ」

 

 ドラピオンが上半身を後方へ仰け反らせ、体勢を戻すと同時に口から吐いた5発の針が空中のポポを追尾する。

 

「ポポくん、“でんこうせっか”!」

 

 宙返りの後、瞬く間に加速したポポは、“ミサイルばり”の間をすり抜け、一気に急上昇し、落下加速を加えた突進を叩き込むが、ドラピオンはその程度ではビクともしない。

 

「スピードはまぁまぁってとこね。でも、そんなもんじゃ当たったところで無意味も無意味、むしろそっちのが痛いんじゃないの?」

 

 ウィルゴの言う通り、ドラピオンの頑強な甲殻にはポポの打撃はまったく通用せず、逆にポポがクチバシをさすっている。

 

「(やっぱり全然効いてない……でも、物理技がダメなら特殊技!)ポポくん、“ぼうふう”!」

 

 ツバキの前へとUターンしたポポは、光輝く翼を激しくはためかせ、周囲の空気の流れを乱し、操り、ドラピオンへと叩き付ける。

 

「振り払いなさい」

 

 まったく慌てる様子も無く、ウィルゴはにやにやとした表情のまま指示を下す。

 ドラピオンは蛇腹状の胴体を活かし、鋭利な爪を有する両腕を伸ばしたまま上半身を大きく回転させ、“ぼうふう”に匹敵する強風を巻き起こす。

 2つの相反する流れを有する風が激突し、高音、低音、様々な騒音が響き渡り、やがて対消滅した。

 

「……う……そ……」

 

 技でもない、単なる上半身の回転だけでポポ最大の技である“ぼうふう”を打ち消してしまった。

 口を開けたまま唖然とするツバキを見て、ウィルゴが首を傾げる。

 

「……あら? もしかして今の……そいつの最強技だったりする? ご~めんごめん、いきなり戦意が折れちゃったかしら?」

 

 わざとらしく煽るウィルゴだが、あの時よりも経験を積んだツバキの心は、そう容易くは折れない。

 

「……まだです! バトルは最後までやらないとわかりません!」

 

「ふぅん、少しはマシになったのね。ま、その方が……心折る楽しみが大きくなるけどねぇ~♪ あ、あとね、最後までやらないとわからないって言うけどぉ……アンタがアタシに勝つってのは100%無いから♪ あっははは!」

 

 愉快そうな笑い声を上げるウィルゴを意に介さず、ツバキはバトルを続行する。

 

「“でんこうせっか”!」

 

 再度加速して高所からドラピオンへと突進していくポポ。

 

「(同じ技……こいつもそこまで馬鹿ってわけじゃないわよね……なら、次に仕掛けてくるのは……)」

 

 ポポの加速がさらに増し、急加速で一瞬にしてドラピオンの背後へと回り込む。

 

「“ぼうふう”!」

 

 相手が先ほどの動きをする間を作れない距離、しかも背後からならば決まる可能性は高い。

 

「“ミサイルばり”」

 

 だが、ドラピオンは頭をぐりんと180度回転させ、口から2発の針を発射。ポポの翼に着弾してしまった。

 

「あぁっ! ポ、ポポくん! こっちに戻って!」

 

 “でんこうせっか”の加速でドラピオンの脇をすり抜け、ポポはツバキの前へと舞い戻る。

 

「あら……まだ動けるの? おっかしいわねぇ……フリーザーはこれで相当動きが鈍ったんだけど……この辺は野生とトレーナー付きの差かしら?」

 

「フリーザーを……!?」

 

 ひこうタイプと相性の悪いむしタイプ技である“ミサイルばり”で伝説の三鳥……その一角を仕留めたというウィルゴの発言に、ツバキは息を飲む。

 

「(やっぱり強い……それも桁違いに……! だけど、逃げ出すわけにはいかない……!)」

 

 恐ろしいのは、相手はここまで効果の薄いはずの“ミサイルばり”しか使っていないのに、こちらを圧倒しているという事だ。

 もしも本気でかかってくれば、冗談抜きに一瞬で終わってしまいかねない。

 ここから相手の提示した条件まで一気に達成できる可能性があるとすれば……。

 

「(……メガシンカ……)」

 

 相手はおろか、自分にとってすらも未知数のメガシンカ。

 どれほどのパワーアップになるかはわからないが、成功すれば多少は可能性も出てくるかもしれない。

 問題は……。

 

「(……どうすれば……どうすればメガシンカできるの……? どうすればポポくんと1つになれるの……?)」

 

 肝心のメガシンカの条件がわからないのだ。

 一体感を感じろ、1つになれと言われても、どうすればそれが成せるかがツバキにはさっぱりわからない。

 

「ちょっとちょっと、なぁに考え込んでるの? まだまだ抵抗してよ、足掻いてよ。“ミサイルばり”」

 

 ツバキの思考を遮るようにしてドラピオンの口から3発の針が撃ち出される。

 

「っ! “でんこうせっか”!」

 

 最初と同じように針と針の間を猛スピードで駆け抜け回避する。

 だが。

 

「“かみくだく”」

 

 その動きを読んでいたかのように、ポポの進行ルート上に移動したドラピオンが巨大な口の形をした禍々しいオーラを形成し、鋭い牙がギロチンのように振り下ろされる。

 

「つ、翼を広げて急停止!」

 

 大きな翼と尾羽を広げ、空気抵抗を増やして急制動をかける。

 危ういところで直撃は回避できたものの、大顎が閉じた瞬間の衝撃波に煽られてポポは体勢を崩してしまった。

 

「へぇ~、今のをよけるなんて凄いじゃない! うふふ、まさに獲物が死に物狂いで逃げ回ってるってとこね♪」

 

 いつでもトドメを刺せる獲物を、手の上で転がして遊んでいる。

 だが、それはこちらにとっては大きなチャンスだ。

 相手が油断し、慢心している今こそがその急所に一撃を入れる絶好の機会……だというのに、そのために必要なメガシンカができない。

 

「(くっ……! ここには砂なんて全然無いから“すなかけ”はできないし、“ブレイブバード”が当たっても大したダメージにはならなそうだし……やっぱりメガシンカしないと……強くならないと……!)」

 

 と、そこでツバキは何かが引っかかる。

 

「(……強く……なる……? ……強くなる……そしてポポくんと1つに……? ……もしかして……)……ポポくん」

 

 ツバキは、自身の前へ戻ってきたポポの背中に語りかける。

 

「……強く……なりたい?」

 

 ツバキからの藪から棒な問いかけ。

 ポポは視線をツバキへと向け、「言うまでもないだろう」とでも言わんばかりに小さく鳴く。

 

「(……なんだ…………簡単な事だった……わたしが1人で勝手に難しく考えてただけだったんだ)」

 

「“クロスポイズン”!」

 

 ほうと息を吐くツバキになどお構い無しに、両腕の爪を紫色に発光させたドラピオンが突っ込んでくる。

 

「“でんこうせっか”でよけて!(1つになるって言葉に縛られて、逆にあれこれ考えて、余計に難しくしてただけなんだ)」

 

「“どくどく”よ!」

 

 宙を舞うポポに迫る毒液の対空砲火を見ながら、ツバキは自分の頭の中がすっきり晴れ渡るような感覚を感じ取る。

 

「(そう……わたし達はもう……)」

 

――ポポくんと一緒にポケモンリーグに行きたい……一緒に強くなりたい。

 

「(もう、とっくに……)」

 

――皆で一緒に強くなろうね。

 

「(とっくの昔に……)」

 

――皆とわたしならできるはずだよね!

 

 ツバキの脳裏を次々によぎる、これまでに何度も……何度も何度もポケモン達と交わしてきた言葉。

 仲間が増え、新しい技を覚え、進化し、ジムバッジを手にして……その度に皆で喜びを分かち合い、共により高みを目指そうと誓い合った。

 答えなどという物は、すでにツバキの中に眠っていたのだ。

 

「(わたし達は……1つだったんだ!)」

 

 刹那。

 ツバキのペンダントが虹色の光を放ち、ポポの脚に着けたリングも同じ輝きを見せる。

 

「っ!? な、何よこれ……!」

 

「……強くなりたい……勝ちたい……そして……ずっと一緒にいたい! ……わたし達の想いは、とっくに1つだったのに……わたし、バカみたいだね、ポポくん」

 

 輝きで目の眩んだドラピオンの横を通り過ぎ、ツバキの眼前でホバリングするポポは「やっと気付いたか」と言いたげな呆れた眼差し。

 答えは単純でも、1度深く考え込み、思考の沼に沈んでしまうと、その単純な答えにすら辿り着けない……そんな事は往々にしてあるものであり、今回のツバキはまさにそのパターンだった。

 

「それじゃ改めて…………一緒に強くなろう! ポポくん!」

 

 ツバキとポポはハイタッチを交わし、ドラピオンへと向き直る。

 そして、ツバキは輝きを放つペンダント……キーストーンを両手で握り込み、あらん限りの想いをそこに集中する。

 

「重ねた想いを翼に変えて、蒼い空の向こうまで……! これがわたし達の……キズナのカタチ!! ポポくん! メガシンカ!!

 

 両者の輝きは眩いオーラと化して混ざり、溶け合い、ポポの身体を覆う。

 そのシルエットは見る見る肥大化し、力強く翼を広げた瞬間に光の膜が弾け飛んだ。

 

 

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 瞼を開くと、より鋭くなった目の形がはっきりとわかる。

 頭部の飾り羽は少し短くなったが、その内の1房が大きく伸び、見ようによってはまるで尻尾のようだ。

 翼の一部と尾羽には青いカラーリングが加わり、新たなポポの姿を彩る。

 筋力の増強と共に全身はよりマッシブになり、ホバリングのため羽ばたく度に周囲に風を巻き起こしている。

 

「……感じるよ、ポポくん……ポポくんの暖かい想いが、わたしの中に流れ込んでくる。これが……メガシンカ……!」

 

 ツバキは目を閉じて微笑むと、表情を引き締め、改めてドラピオン、そしてベラを見据える。

 

「……は……ははは……! あっはははは! メガシンカ……まさかねぇ……楽しませてくれるじゃない……! そうよ、それくらい抵抗してくれないと張り合いが無いわ! “どくどく”!」

 

「跳ね返して!」

 

 ポポが力を込めて振りかぶった翼を振り下ろすと、ドラピオンの爪から放たれた毒液は勢いを落とし、ドラピオンの周りの床に水音を立てて落ちる。

 

「“ミサイルばり”!」

 

 今度は一気に5発の針が発射され、上下左右からポポへと迫る。

 

「“でんこうせっか”!」

 

 このパターンは何度目か、針の合間を縫ってすり抜けるポポと、それを待ち構えるドラピオン。

 

「“クロスポイズン”で迎え撃ちなさい!」

 

「そのまま“ブレイブバード”!」

 

 “でんこうせっか”の状態からさらに急加速し、強烈な突撃が腕を振り上げたドラピオンの身体に激突する。

 メガシンカによる筋力強化は、そのまま動きの1つ1つにも大きな影響を与える。

 瞬発力・加速力共に通常のピジョット時よりもさらに向上し、相手に突進した際にも大きな力が乗ってダメージ増加を期待できる上、強靭な筋肉は己を守る鎧にもなる。

 だが、相手も三凶星の1人とそのパートナーである。

 メガシンカしたからと易々勝てる相手ではなく、ドラピオンは“ブレイブバード”を受けつつもポポの翼をがっちり爪で拘束した。

 

「あっ……!?」

 

「“クロスポイズン”!」

 

 ポポを空中へと放り投げて自身も飛び上がると、体勢を立て直される前に、交差させた腕を振り抜くように叩き付け、その身を床へと激突させた。

 

「“ミサイルばり”!」

 

 そのまま上空から4発の針を口から発射し、起き上がろうとするポポへ追い討ちをかける。

 ポポは横へ転がるようにして必死に回避するが、最後の1発がかわしきれず、着弾して爆発を起こした。

 

「ポポくんっ!」

 

 ツバキの声に反応してか、爆煙に穴を空けてポポが飛び出してきたが、すでにかなりのダメージを負っている。

 

「ポポくん、まだ大丈夫……?」

 

 「当たり前だ」という言葉の代わりに、翼を振るい、大きな声を上げて己とツバキを鼓舞するポポ。

 

「……うんっ! まだまだ……結果はわからないよね!」

 

 ツバキも両手を握りしめ、ポポに負けないように気合いを入れる。

 だが、ツバキのその顔を見たウィルゴの表情が険しくなる。

 

「……なんなのよアンタ……なんで笑ってんのよ……」

 

「えっ……?」

 

「なんで笑ってんのかって聞いてんのよ! アンタ状況わかってるわけ!? 虎の子のメガシンカをしても、アタシのラピオに手も足も出なくてボロボロになってんの! わかる!? わかってんならもっと絶望しなさいよ! 泣き叫んで「やめてください」って言いなさいよ!」

 

 思い通りに行かないのが面白くないのか、ウィルゴが激しく憤る。

 

「……そんな事しません。わたしもポポくんも絶対に諦めません。それに……本気のバトルは……楽しいですから!」

 

「っ! ……むかつく……楽しむのはアンタじゃなくてアタシっ! 弱い奴は強い奴の玩具になってりゃいいのよっ!!」

 

「違います! 自分も相手も楽しくなるのがポケモンバトルです!」

 

 ことごとく反論してくるツバキの態度に、ウィルゴの眉間に皺が寄り、両目が左右非対称に見開かれる。

 

「……ああ、そう……もういい……興が冷めたわ。…………壊してやる……アタシの毒で侵して犯して冒してぶっ壊してやる! 恐怖で2度とモンスターボールを持つ事すらできないくらいにねぇっ!!」

 

 舐めていた飴を投げ捨て、ウィルゴが怒りを露にする。

 

「連続で“ミサイルばり”! 弾幕を張りなさい!」

 

 ドラピオンが大きく口を開き、そこから30発以上の針が次々に発射され、ポポの追尾を始める。

 

「かわしきれない……! “ぼうふう”で防いで!」

 

 メガシンカ前とは比較にならないほどに巨大な光の翼を形成し、それを勢いよく振り下ろせば、“ぼうふう”の威力もまた桁違いに跳ね上がっており、吹き荒ぶ旋風で飛んできた針はことごとく失速し、落下していく。

 

「だからなんだってのよ! そんな風なんか飲み込んでやるわ! “かみくだく”!」

 

 ドラピオンが咆哮し、今度は全身からドス黒いオーラを放出し、先ほどよりも遥かに大きな大顎を作り出す。

 大顎はフィールドに吹く風そのものを食らい、完全に牙が閉じられた瞬間、閉じ込められた膨大なエネルギーで大爆発を起こした。

 

「そのまま“クロスポイズン”! アンタの柔軟性を見せてやんなさい!」

 

 

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 ドラピオンは爆風と爆煙を爪で切り裂き、胴だけでなく腕も蛇腹状である事を利用して伸縮させ、まるで鞭のように毒の滲む爪を振り回して突っ込んできた。

 強化された視力でドラピオンの動きを見極めながら紙一重の回避を続けるポポだったが、不意に左から激しくしなってきた腕を叩き付けられ、壁に激突してしまう。

 

「ああっ……! で、“でんこうせっか”!」

 

 追い討ちをかけるように爪を突き出してきたドラピオンだが、急加速でポポに回避され、突き刺さった爪が壁を粉砕した。

 

「……ポポくん、“ぼうふう”……さっきよりまだ強くできる?」

 

 羽ばたいて戻ってきたポポに、小声で尋ねると、ポポは小さく頷いた。

 

「うん……もう後は無いから……賭けに出よう、ポポくん。……行くよ! “ぼうふう”!」

 

 ポポが甲高い声を上げると、先ほどよりもさらに大きさと輝きを増した翼が形作られ、周囲の風が逆巻き始める。

 瞬く間に無数の風の流れを内包した、旋風の檻がフィールドを包み込んだ。

 

「学習能力の無い奴……! 吹き飛ばしてやりなさい!」

 

 最初に“ぼうふう”を打ち消した時のように、腕を伸ばすドラピオン。

 

「今だよ! このまま“ブレイブバード”!!」

 

 ツバキの渾身の叫び。

 応えるようにポポは光の翼を維持したまま上昇し、ドラピオンを正面に捉えると急降下を始め、オーラを纏う。

 

「そんなもの……!」

 

「回転開始っ!」

 

「っ!?」

 

 落下スピードが上がる中、ポポはドリルのように回転し、纏ったオーラもそれに従って螺旋を描く。

 さらにはそのオーラが周囲の風すら巻き込み始めたのだ。

 

「なっ……!」

 

 風の刃とオーラはポポのクチバシ……先端部分に行くにつれ圧縮され、密度を増す。

 傍目に見れば三角錐の形となったポポは、まっすぐにドラピオンへと突撃していく。

 “ぼうふう”と“ブレイブバード”が組み合わさったそれはまるで、風で作り出された槍……“旋風突撃槍(ワールウインドランス)”。

 

 

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 槍の穂先は寸分違わずドラピオンの胴へ直撃し、なおも回転を増す。

 だが、ドラピオンも床を踏みしめ、その場で耐えきる構えを見せる。

 

「お願い……お願い! 負けないで! 頑張ってポポくんっ!!」

 

 ツバキは祈るように指を絡め、懸命に声を張り上げる。

 

「……何よ……なんなのよ! 弱いくせに……弱いくせになんでそんなに熱くなれんのよっ!!?」

 

「ポケモンが好きだからです!!」

 

「っ!?」

 

 まったく間を置かぬツバキの力強い即答に、ウィルゴは絶句する。

 そんなトレーナー同士のやり取りがポケモン達にも伝わったのか、ポポは最後の力を振り絞って回転を上げていき、ついにドラピオンの身体を一気に押し出し、背後の壁へと叩き付けた。

 

「ラピオっ!!」

 

 力を使い果たし、落下するように離れたポポを、ドラピオンは睨み続けたが、その身体を支える4本の脚からフッと力が抜け、胴体が床に接した。

 

「……っ!!」

 

 それはつまり、最初にウィルゴが提示した条件……『ドラピオンに膝をつかせる』が達成された事を意味する。

 それを自覚しているのか、ウィルゴ自身もその場に崩れ落ち、膝をついた。

 

「……そんな……アタシの……ラピオが……」

 

「……賭けは……わたし達の勝ちです……!」

 

 ポポの身体を光が包んだかと思うと、それは無数の粒子となって大気中に消えていき、通常状態に戻ったポポがその場に倒れた。

 

「……っ! ポポくんっ!」

 

 ツバキがポポへと駆け寄り、その身体を抱き寄せる。

 

「ごめん……それにありがとう……!」

 

 キズぐすりを取り出し、ポポの身体へ吹き付けていく。

 すると。

 

「……ほら」

 

 背後からかけられた声に振り返ると、1枚のカードが回転して飛んできて、ツバキは反射的にキャッチする。

 

「…………約束のカードキーよ。それ持ってさっさと消えて」

 

「……! あ……ありがとうございます!!」

 

 正直な話、ウィルゴが最初の条件を反故にする可能性もあった。

 実際、ドラピオンは一時的に体力を消耗しただけで、まだ戦闘不能には陥ってはおらず、戦意も消えてはいないのだから。

 だが、彼女はそうしなかった。

 それは、バトルで交わした約束は違えないという、ポケモントレーナーとしての最低限のプライド故だろう。

 

「……消えろって言ってんのよ……!」

 

 ぎろりと睨まれ、ツバキはポポを両腕で抱いたまま立ち上がり、ペコリと頭を下げて走り去っていった。

 

 

 

「……ラピオ……」

 

 ツバキが去った後、ウィルゴはドラピオンに寄り添い、その身体を撫でるようにキズぐすりを塗っていた。

 

「いくらなんでも気を抜きすぎたわよね……ごめん……」

 

 応急手当てを終えると、ウィルゴはしばらく無言で立ち尽くし、突然空になったキズぐすりの容器を床に叩き付けた。

 

「……なん……なのよぉっ!! 弱いくせに……! アタシより弱いくせに……!! なんで……!」

 

 壁に何度も何度も拳を打ち付け、部屋中に音が響き渡るが、やがてそれは小さくなっていった。

 

「……なんでアイツはあんなに充実してんのよ……アタシの方が強いのに……なんでアタシは満たされないのよ……!! アタシとアイツ……何が違うのよ……!」

 

 再び崩れ落ちたウィルゴに、今度はドラピオンの方から寄り添い、そっとその身体を抱き締める。

 

「……ねぇ、ラピオ……アイツにあってアタシに無いモノって……なんなの……?」

 

 ドラピオンは答えない。

 ただただ主の不安を抑えようと、抱き締めるだけだ。

 

「……そうよね……聞いても仕方無い、か………………でも……たとえあれが子供の夢想だったとしても……」

 

 回されたドラピオンの腕を撫で、ウィルゴは目を伏せる。

 

「……今は無性に……もう1度アンタの声が聞きたいわ……ラピオ……」

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

メガシンカ回は2話に分けようとも思ったのですが、さくさく進めたいので1話に圧縮してしまいました。
あといつの間にか本作用の落書きが150枚越えてましたw
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