ロケット団員達を破りながらアジト内を進むツバキの前に現れた、三凶星・ウィルゴ。
相も変わらず怪物じみた強さを誇る彼女のドラピオンを相手に苦戦を強いられる中、ツバキはポポと想いを重ね、ついにメガシンカに成功。
なおもこちらを圧倒するドラピオンに一矢報いた事で、ウィルゴに提示された条件をクリアー……勝利とは言い難いものの、先へ進むためのカードキーを受け取り、ツバキはアジト最奥部を目指して走り出した。
「………………いない。ツバキ」
レントラーを伴い、スカーレットが左右を見回しながら通路を歩いている。
すると、曲がり角の向こうから騒がしい足音が3つ近付いてきた。
「いたぞっ!」
「相手は1人だ! やっちまえ!」
「よし、行けっ! マタドガス!」
ロケット団員達はゴルバット、スリーパー、マタドガスを繰り出し、一斉に襲いかかってきた。
さすがにこれだけ最奥部に近い場所を守る団員はここまでの連中とは練度が違うようで、いずれもなかなかに鍛えられているようだ。
「………………“ほうでん”」
が、スカーレットレベルから見ると誤差の域を出ておらず、レントラーの黒い体毛から飛び散る電撃で容易く一掃してしまった。
「なっ……あぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
帯電して飛ばされてきたポケモン達にぶつかった団員達も身体が痺れ、その場に倒れて痙攣している。
その横を涼しい顔をして通り抜けるスカーレットだったが、またも進行先の曲がり角から喧騒が響いて身構える。
「どわぁーちっちちち! くっ、くそぅ! 覚えてろぉっ!」
迫る炎に追われ、ポケモンをボールに戻した団員は、恐らくこれまで何度も言ってきて言い慣れているであろう捨て台詞を吐いてスカーレットの前を横切っていった。
その後を追うように角の向こうから現れたマグマラシとそのトレーナー。
「……! ツバキ!」
「えっ……あっ、スカーレットさん!」
スカーレットはツバキに駆け寄り……。
「………………ぷにぷに」
「……あの……」
頬をぷにり始めた。
「…………良いほっぺ。ツバキの」
「……褒められてるのかなこれ……。あ、そうだ! 見てください! これ、奥に進むためのカードキーだそうです!」
ツバキがバッグから取り出したカードを見て、スカーレットは表情を綻ばせた。
「……! 凄い。ツバキ。お手柄」
「ふにゃ……えへへへ……♪」
スカーレットに頭を撫でられ、ツバキの顔が蕩ける。
「………………ふふっ……。先行ってる。イソラ」
「……あっ! そ、そうでした……! 早くわたし達も行きましょう!」
ハッとして慌てて表情を引き締めたツバキは、通路の先を指差してスカーレットの手を引いて走り出した。
「お姉ちゃ~ん!」
大きな扉の前で周囲を警戒していたイソラが、自分を呼ぶ声を聞いた瞬間に表情を変える。
「っ!! ツバキっ!!」
そして、ギャロップやウインディもかくやという加速力でツバキに駆け寄ると抱き締め、その頭を全力で撫で回し始めた。
「あぁぁ~~~~!! 良かった良かった! お姉ちゃんとっても心配したぞツバキぃ~~!!」
「ぐ……ぐるじぃ……」
押し付けられたイソラの胸で呼吸を阻害され、ツバキがもがく。
「ていっ」
見かねたスカーレットがイソラの後頭部にガツンと音を立ててモンスターボールをぶつけて正気に戻した。
「はっ……! す、すまんツバキ! 大丈夫か!?」
「ひゅー……ひゅー………………う、うん……」
「…………落ち着いて。イソラ」
若干青ざめた顔をしたツバキに慌てて頭を下げるイソラと、ぶつけたボールを指先で回しながらそれを眺めるスカーレット……とても悪の組織のアジトに潜入しているとは思えない光景だが、この面子ではこうなるのも致し方ない。
と、そこでイソラは、ツバキがキーストーンの嵌まったペンダントを首から下げている事に気付いた。
「それはキーストーン……もしかして……できたのか!? メガシンカ!?」
「……うん。わたし、今までポポくんと1つになるには何をどうしたら……って難しく考えすぎてたみたい。わたしとポケモン達の想いなんて、ずっと1つだったんだって事に気が付いたら……できちゃった」
悪戯っぽく笑うツバキの表情を見て、しばらく沈黙していたイソラだったが……。
「……お…………おぉぉぉーーーーっっ!! 凄いぞツバキ! もうメガシンカを体得するなんて! まったくこの才能お化けめ!」
抱擁地獄再び。
この暴走さえ無ければ、イソラは強くて格好良くて頼りになる理想の先輩なのだが……。
「ていっ」
今度は容赦無く拳骨が飛んできた。
「あだっ! ……ええい、さっきから執拗に後頭部を叩くんじゃない!」
「…………死んじゃう。ツバキ」
スカーレットの指差す先には、ぐったりとして口からナニか出ているツバキ。
「あ゛……」
「はふぅ……」
「すまん……本当にすまなかった」
見事な90度謝罪をするイソラに対し、溜め息を吐いたツバキが口を開く。
「……もういいから先に進も?」
そう言って扉の左右に設置されたスキャナーの左側に立ったツバキがカードキーを取り出し、イソラも右側に移動して同じようにカードキーを手にする。
ちなみにツバキがウィルゴからカードキーを勝ち取った話を聞いた際にもイソラが暴走しそうになったが、ツバキがスカーレットの後ろに隠れたので不発に終わった。
ツバキとイソラは頷き合い、同時にカードキーをかざす。
ブザーが3秒ほど鳴った後、重々しい音を立てながら扉がゆっくりと左右へスライドしていく。
それを見た3人が中へ入っていくと、待ち構えていたかのようにその前に立ちはだかる人影が1つ現れた。
「想定外だよ、こんなにも早くここまで辿り着かれるとは。……ウィルゴめ……だから遊びはほどほどにしろと常から言っておったのだ」
ロングコートを纏い、蓄えた顎髭を撫でてぼやく男。
「貴様が三凶星最後の1人か……その顔、見覚えがあるぞ」
「いかにも。私はルプス。……ふむ、かの『
「……やはりか。じめんタイプの使い手ショウマ。私がトレーナーとなった時にはすでに引退していたが、貴様も名の知れたトレーナーだった……甚だ遺憾だがな」
イソラは本来であれば偉大な先達として憧れるべき存在が、このような悪の道へ走った事に嘆くような溜め息を吐く。
「過去の話だ。……しかし、よもや女帝と戦鬼が同時に乗り込んでくるとはな……雑魚どもはいざ知らず、アクイラとウィルゴまでも突破されたのは疑問であったが、これなら納得だ。まぁ、そちらの無名の少女にウィルゴがしてやられたのは完全に自業自得だがね」
ルプスはツバキを一瞥し、呆れるような素振りを見せると、改めてイソラを睨んだ。
「だが、これ以上はやらせん。命まで取るつもりは無いが、少なくとも計画完遂までは大人しくしてもらわねばならん」
「1つ教えろ。なぜ貴様らはまた活動を始めた? ジョウト地方での一件で、貴様らは2度目の解散を宣言したはずだ」
モンスターボールを手に取ったルプスに対し、イソラが疑問をぶつける。
イソラの言う一件とは、かつてロケット団の残党がジョウト地方最大の大都会たるコガネシティを襲撃・占拠し、行方不明のロケット団ボスのサカキへ帰還を呼びかけた事件である。
この事件は、ジョウト地方出身のとあるトレーナーによってリーダー格が敗北し、解散する事で一応の解決を見たはずなのだ。
「ふむ、アポロ殿の一件か。あいにくだが、彼らと我々は派閥が異なるのだよ」
「派閥だと……?」
「いかにも。ジョウト地方で活動していたのは、ロケット団再興のため、旗頭としてサカキ様を呼び戻そうとした一派。対して我々は、サカキ様にお戻りいただくため、最初の解散以降カントー地方に潜伏し続け、密かに勢力基盤を作り直していた一派なのだ。私はその陣頭に立ち、優秀ながら表世界に不平不満を持つトレーナーを戦力として集め、様々な手法で資金確保に奔走していたのだよ」
早い話が、目的と手段が真逆の派閥同士だったらしい。
「アクイラとウィルゴもそうしてスカウトしたわけか……ふんっ、ずいぶんとペラペラ喋るじゃないか」
「問題は無い。君達をここで捕らえれば良いのだからな。無論、我々に降るのならば歓迎しよう。我が計画が成れば、世の中の珍しいポケモンを集めるのも思いのまま……トレーナー冥利に尽きるであろう?」
アクイラ達が敗れたからか、なんとルプスは両腕を広げてスカウトを持ちかけてきた。
が、当然3人は表情をより険しくする。
「降れだと? 冗談じゃ……」
「お断りしますっ!!」
イソラが否定しようとしたその時、もっと大きな拒絶の声が響いた。ツバキだ。
「わたし達は珍しいポケモンが欲しいんじゃありませんっ! 色んなポケモンと仲良くなって、一緒に成長していきたいんです! 力尽くでポケモンを連れ去ったり、物みたいに売るような人達の仲間になんか絶対になりません!!」
激昂の声を張り上げるツバキに驚くイソラだったが、すぐに口元に笑みが浮かぶ。
「……ふっ……よく言ったぞ、ツバキ」
「…………ん。偉い」
スカーレットもツバキの頭に手を置き、称賛する。
「……そうか。残念だ。ならば、しばらくの間窮屈な思いをしてもらう外無いな」
改めてボールを構えたルプスを応戦しようと、腰のボールに手を伸ばしたツバキとイソラだが、1歩前に出たスカーレットが両手で2人を制した。
「………………疲れてる。2人。……任せて」
「スカーレットさん……」
それを見たルプスが、口の端を吊り上げる。
「ほう、『
「黙れ」
強敵と対峙する喜びを口にしようとしたルプスを、スカーレットの低い声が遮った。
「…………名乗るな。ポケモントレーナー。お前なんかが」
ボールを握ったスカーレットの真紅の瞳が敵意に染まり、側にいるツバキ達すら悪寒を感じるほどの闘気が全身から溢れ出す。
「お……お姉ちゃん……」
「ああ……スカーレットの奴、かなり
だが、ルプスはまるで動じずに顎を撫でている。
「ふむ……嫌われたものだ。まぁ良い。立ち塞がる者は叩き伏せるのみ……全てはサカキ様のために!」
――――ロケット団幹部のルプスが勝負を仕掛けてきた!
「粉砕せよ、ドサイドン!」
「ルカリオ!」
地響きと共に現れ、鼻のドリルが回転して唸り声を上げ、こちらを威嚇するドサイドン。
その眼前に軽やかに着地したのは、人に近い体格の、青と黒で身体を彩られた獣人のようなポケモン。
はどうポケモンの『ルカリオ』である。
「ルカリオ……たしかスカーレットのポケモンの中でも古参の部類に入る奴だ。あいつを出したという事は、相当腹に据えかねているな……だが……」
「お姉ちゃん?」
怪訝そうに目を細めるイソラに、ツバキが首を傾げる。
「ルカリオはかくとうとはがねタイプ、対するドサイドンはじめんといわタイプ……つまり」
「……かくとう技で向こうの弱点を突けるけど、向こうもじめん技でこっちの弱点を突ける」
「そう、互いに有利であると同時に不利でもあるんだ。……まさにトレーナーの質でどちらにでも転がるというわけだが…………む……」
ツバキが固唾を飲んで見守る中、イソラはルカリオの左腕に銀色のリングが装着されている事に気付く。
そして、スカーレットがショートパンツのポケットから取り出したのは……こう言ってはなんだが、身嗜みに無頓着そうなスカーレットの持ち物としては意外なコンパクトミラー。
だが、ここで着目すべきは、その蓋に輝く虹色の石だ。
「キーストーン!」
ツバキが驚きの声を上げ、スカーレットはコンパクトをルカリオへと向ける。
「…………ワタシ達の絆。波導の奔流となって邪を祓う。……ルカリオ。メガシンカ……!」
コンパクトのキーストーンとルカリオのメガストーンが反応し、溢れ出た光が絡み合ってルカリオを包み込んだ。
ルカリオが拳を突き合わせる事で頭頂部から順に光が消失していき、変化した姿が露となった。
全体のシルエットはさほど変わらないものの、頭部から伸びる黒い房は腰辺りまでの長さとなり、手足の先端部分はスカーレットの髪や瞳のような真紅に染まっている。
不意にその手の中から青い光が溢れ、上下に伸びかと思うと、ルカリオが握り込んだ瞬間に槍のような形を成して実体化した。
「メガシンカか……さすがに君レベルともなれば使ってくるか。では、その実力を試させてもらおう。“ストーンエッジ”」
当然の事ながら開始の挨拶などは無い。メガシンカを待っただけ有情か。
ドサイドンが床を殴りつけると、次々と床から突き出した鋭利な岩がルカリオに迫る。
「“ボーンラッシュ”」
ルカリオが手にした波導の槍を車輪のように右へ左へ回転させ、向かってくる“ストーンエッジ”へ自ら突進していく。
そして、岩塊と近付いた瞬間に一閃すれば、無数に迫っていた岩の柱達は纏めて切断され、その向こうのドサイドンと視線が合った。
岩の上半分が降り注ぐ中、そのまま岩の断面を跳び移り、ドサイドンへと迫っていくルカリオだったが……。
「延」
ルプスのその言葉と共に、切断したはずの岩の断面から新たに岩塊が突き出し、真上を通過しようとしたルカリオの腹部を打った。
「……!」
しかし、タイプ相性の関係からダメージはさほど大きくはなく、ルカリオは空中で1回転をしてスカーレットの眼前に着地した。
「私のドサイドンはこう見えて技巧派でね。こいつの技をそこらのポケモンの使うそれと同じとは思わぬ事だ」
「………………」
スカーレットはいつになく真剣な面差しでルプスを睨む。
「……お姉ちゃん……」
「言うなツバキ。ロケット団相手とはいえ、これはポケモンバトル……私達が横槍を入れて良い場面ではない」
何かを言おうとするツバキを、イソラは厳しい口調で窘める。
「信じろ。あいつは……スカーレットはロケット団などに負けるようなヤワなトレーナーじゃない。何しろあいつは……『鬼』なんだからな」
イソラの信頼に満ちた視線を追うツバキ。
その目に映るのは、これまでに無いほどの激情が滲むスカーレットの背中。
鬼の激情は、果たして最後の凶星を飲み込むのか、それとも飲み込まれるのか……。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただいてありがとうございました!
ルプス戦もさっさと終わらせてしまおうかとも思いましたが、やはりこれまでほとんど表に出てこなかったキャラなので、少し尺を取ってあげようかなと。
愛用してたシャーペンがとうとう寿命で逝ったでござる…。