蒼天のキズナ   作:劉翼

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サ・ファイ・ザーと本格的にバトルが始まる第72話です!


第72話:VSサ・ファイ・ザー!悲しき合成獣を打ち破れ!

 ツバキを先へ進ませ、合成ポケモン『サ・ファイ・ザー』との戦闘を開始するイソラとスカーレットだったが、特性《トリプルオーダー》によって同時に3つの技を放つ規格外の怪物を前に、否応なしに苦戦の予感を胸に抱く事となる。

 一方、アジト最深部へ侵入したツバキは、ルプス配下の部隊を撃破し、ついに捕らえられた三鳥を発見し、その解放に成功する。

 献身的な介抱によって三鳥からの信頼を得たツバキは、イソラ達の救援に向かうべく、上のフロアへ向かうリフトへと乗り込んだ……。

 

 

 

 時間は少し遡り、ツバキが立ちはだかった団員達とのバトルを終えた頃、イソラ達は……。

 

「“10まんボルト”、“かえんほうしゃ”、“れいとうビーム”」

 

 サ・ファイ・ザーの3つの首から、それぞれ異なるタイプの技が空中へ放たれる。

 別々の方向へ飛んだ3つの技は、それぞれに効果の大きいターゲットを直撃し、床へと叩き落とした。

 

「ペリッパー!」

 

「ドータクン……! ガブリアス……!」

 

 同時に3体が戦闘不能となり、イソラとスカーレットは歯噛みする。

 

「くっ……よくやってくれた、ペリッパー。……これが3体分のパワーか……!」

 

「……ありがと。ドータクン。ガブリアス。……強い」

 

 2人はそれぞれ自分の倒れたポケモンをボールへ回収し、次なる一手を思案する。

 

「ふっ、さしもの君達も、このサ・ファイ・ザー相手では力不足か……残りのポケモンも全て出してはどうかね? その一斉攻撃ならば、掠り傷くらいは付けられるかもしれんぞ?」

 

 サ・ファイ・ザーのパワーがあまりに圧倒的だからか、緻密な戦術で知られた『地将』らしくもない、慢心の見え隠れする物言いのルプス。

 

「ふんっ……余計なお世話だ」

 

「ん」

 

「そうか……もっと一対多の戦闘データを得たいんだがな。……む?」

 

 その時、ルプスのバッジが音と光を放ち始めた。

 

「サ・ファイ・ザー、しばし独自判断で迎撃。……私だ」

 

「っ! “げきりん”! “リーフストーム”!」

 

「“エナジーボール”」

 

 ルプスが無線に出た隙に攻撃を仕掛けるイソラ達であったが、サ・ファイ・ザーは翼を振るって電気と冷気を混ぜ合わせた障壁を展開し、完全に防御の構えを取る。

 技は次々と障壁に飲まれて霧散し、怒り狂ったような雄叫びを上げて太い腕を振り下ろしたボーマンダの身体も容易く弾かれてしまった。

 

「…………3人もいて少女1人も捕らえられんのか……まぁ良い。お前達は予備のポケモンを用意して追撃せよ。私もこちらを片付けたら向かおう」

 

 ルプスは呆れ気味に無線を切ると、イソラ達に向き直る。

 

「なるほど、確かにあの少女を少し侮っていたようだ。私の部下達を破り、三鳥の元へ向かったとの事……なかなかどうして人は外見ではわからぬものだな。……まぁ、先ほども言ったように、ここを抑えている限りは逃げられんがな」

 

「そうか……さすがツバキだ。……ならば」

 

「…………負けてられない。ワタシ達」

 

 ツバキの快進撃を知り、イソラとスカーレットは己を奮い立たせる。

 ここで弱音を吐いていては、自分達よりも幼いにもかかわらず奮闘しているツバキに顔向けができない。

 ツバキが戻れば3対1となり、もしかしたら三鳥の助力も得られるかもしれない。

 今はそこに望みを託し、この怪物を相手にできるだけ長時間持ちこたえるのが最優先となるだろう。

 

「“だいもんじ”!」

 

 ボーマンダの口から高温の炎が噴射されるが、それはサ・ファイ・ザーへの直撃コースではなく、その足元だ。

 

「(ふむ……? “だいもんじ”は命中に難のある技ではあるが……)」

 

 ルプスもサ・ファイ・ザーも、防御するまでもない場所で燃え上がる炎を見つめる。

 

「“かげぬい”だジュナイパー!」

 

 ジュナイパーが首の辺りから伸びる紐を弦にして矢をつがえ、先端に自身のオーラを纏わせて引き絞り、狙いを定めて発射した。

 

「“かえんほうしゃ”」

 

 矢を迎撃するために、中央のファイヤーの口から炎が放たれる。

 だが、矢はジュナイパーの思念でカクンと軌道を変え、炎をかわしてサ・ファイ・ザー直上の天井へと向かう。

 

「……むっ……!」

 

 ルプスがイソラの意図に気付くが、もう遅い。

 矢はカツンと音を立てて天井に突き刺さる。床の炎に照らされて天井に映し出された、サ・ファイ・ザーの影へと。

 

「続けて“かげぬい”!」

 

 ジュナイパーは目にも止まらぬ速度で一気に3本の矢をつがえ、扇状に発射する。

 気が付けば最初の1本も合わせた4本の矢が天井に突き刺さり、サ・ファイ・ザーはまるで天井に縫い付けられたかのように身動きを封じられてもがいている。

 

「ふぅむ、やってくれるな。さすがは女帝か」

 

 だが、ルプスにはまるで慌てる様子は見られない。

 もっとも、相手の態度など気にしている余裕はイソラ達には無いため、この機を逃さずに攻め立てる。

 

「ともかく今はダメージを稼ぐ! “だいもんじ”! “かげぬい”!」

 

「“めざめるパワー”。……お願い、フローゼル。“ハイドロポンプ”」

 

 ボーマンダ、ジュナイパー、ドレディアの一斉攻撃に、スカーレットが新たに繰り出したうみイタチポケモン『フローゼル』の“ハイドロポンプ”も加わり、動けないサ・ファイ・ザーへと集中砲火が浴びせられ、翼も封じられたその身体を爆煙が覆った。

 

 

 

 地下アジト内にガコンガコンと重厚なリフトが上昇する音が反響している。

 リフトの稼働中も三鳥の傷と疲労を癒すべく、バッグから取り出した様々な木の実を食べさせ、薬を塗り込んでいく。

 

「お姉ちゃん達……大丈夫かなぁ……ずいぶん時間がかかっちゃったけど……」

 

 案ずるはあの怪物の前に残してきたイソラとスカーレットの事だ。

 2人とも自分とは比較にならないほどの実力者ではあるが、サ・ファイ・ザーは伝説のポケモン3体のパワーを併せ持つ、前代未聞の存在……恐らくイソラ達もバトル経験の無いポケモンだろう。

 不安から溜め息の漏れるツバキを、ファンファン達が励まそうとじゃれつき、三鳥はそれをじっと見つめている。

 

「……そうだね、考え込んでいても仕方無いよね。上についたらすぐバトルできるようにしておこう!」

 

 そうこうしている内に、リフトの進行先……上のフロアの床が左右にスライドしていき、間から光が差し込む。

 

「……! つ、ついた……!」

 

 と、せり上がってきたツバキ達のちょうど目の前を、凄まじい勢いの炎や水が横切っていき、上の方で爆発音が鳴り響いた。

 

「ひゃあぁぁっっ!?」

 

 思わずしゃがみ込んだツバキの悲鳴に、イソラ、次いでスカーレットとルプスが気付いた。

 

「っ!! ツバキっ!!」

 

 駆け寄りそうになったイソラだったが、ツバキの背後に控える三鳥を見て動きが止まる。

 

「サ、サンダー……ファイヤー……フリーザー……! 無事に救出できたんだな! 凄いぞツバキ!」

 

 改めて駆け寄ってツバキを抱き締めるイソラ、そしてそれを見て安堵の表情を見せるスカーレットとは対照的に、ルプスは驚愕の表情へと変わる。

 

「……三鳥を従えたのか……!? あれだけ痛めつけて捕らえたのだ……人間不信になっていてもおかしくないはず……」

 

 ツバキ達は揃ってスカーレットの隣へ戻り、ルプスと対峙する。

 

「ツバキはポケモンの喜びも悲しみも本気で分かち合おうとする優しい子だ。心の底から相手に寄り添い、相手が傷付いていれば、下心無くその傷を癒そうとできる。そんな真心を見せられては、サンダー達も応えぬわけにはいかないだろうさ……!」

 

 三鳥は同意するように大きな雄叫びを上げ、煙の向こうにいる自分達の力を模した怪物を睨む。

 

「……ふふふ……なるほど、認めよう。少女よ、私は君をあまりにも侮っていた。そして改めて問う。我が部下となる気は無いかね? そのポケモンを従える才は……」

 

「何度聞かれても同じです! お断りします! 第一、従えたんじゃありません! サンダー達に力を貸してほしいってお願いしたんてす!」

 

 全て言いきる前にキッパリと断られ、ルプスは苦笑する。

 

「ふっ……予想はしていたが嫌われているものだな。まぁ、仕方あるまい……サ・ファイ・ザー!」

 

 ルプスの声に反応し、強風と共に煙が晴れ、サ・ファイ・ザーがその姿を現した。

 

「さすがにあの無防備な状態で一斉攻撃を受けたからな。多少ダメージが入ってしまったようだ」

 

 ルプスはそう言うが、パッと見てそれほどのダメージがあるようには思えないのが、底知れない不気味さを演出している。

 

「では、ここまで頑張った君達に、良い物を見せてあげるとしよう。……君達は……熱いほどの冷気を感じた事はあるかね?」

 

「っ!?」

 

「“コールドフレア”」

 

 サ・ファイ・ザーの尾から溢れ出た冷気がその翼を覆い、勢いよく羽ばたいて猛烈な冷風を起こす。

 冷風はイソラが指示を下す間も無く、ボーマンダを一瞬にして包み込んだ。

 

「ボ、ボーマンダ!!」

 

 やがて弱まった冷風の中から、青いはずの身体を真っ赤に染めたボーマンダが落ちてきた。

 

「くっ……火傷状態だと……!? ……極度の凍傷か……!」

 

「もう1つサービスしよう。“フリーズボルト”」

 

 サ・ファイ・ザーは冷気を纏ったままの翼を振るい、大気中の水分を凍結させて作り出した氷塊を、電撃でコーティングして射出してきた。

 こちらも驚異的な弾速でジュナイパーに着弾し、その身体を一気に壁へと叩き付けた。

 

「ジュナイパー!!」

 

 帯電して目を回すジュナイパー。

 イソラはボーマンダとジュナイパーをボールへと戻し、苦々しくサ・ファイ・ザーを見上げる。

 

「ボーマンダ……ジュナイパー……すまない。……貴様……その技はたしか……!」

 

「さすがに各地方を旅しているだけあって知っているか。ふふっ、そう……イッシュ地方に伝わる伝説のドラゴンポケモン・キュレム……その身は己の発する冷気によって凍てつき、同じく伝説のポケモンにして半身であるレシラムとゼクロムを取り込む事によって、業火と轟雷の力を得る事ができるという。こおり・ほのお・でんき……奇しくもドラゴンを除いて三鳥とタイプが一致していた事に目を付けた私は、サ・ファイ・ザーでその力を再現できないものかと考えたのだよ。ふっ、結果は見ての通りだ」

 

 キュレムはイッシュ地方の英雄伝説に語られる、真実を司るはくようポケモン『レシラム』と、理想を司るこくいんポケモン『ゼクロム』が分割した後の抜け殻とされ、それらと合身する事で本来の力を発揮すると言われるきょうかいポケモンである。

 ルプスの語る通り、サ・ファイ・ザーはその3体のタイプをドラゴンタイプを除いて持ち併せ、しかもキュレムが同時に合体できるのはどちらか1体のみであるのに対し、こちらはそれら全てを同時に操る事が可能なのだ。

 

「くっ……!」

 

「強い……! だが……」

 

 イソラはちらりと後ろの三鳥に目を向ける。

 

「(奴はクローン技術が未熟で、サ・ファイ・ザーのパワーは三鳥の総量には劣ると言っていた。ならば、サンダー達の合わせたパワーを真正面からぶつければ、競り勝つ事ができるかもしれん……!)」

 

 問題はあちらが1つの身体で纏まっているが、こちらは別々の肉体の個体が3体であり、同レベルのパワーを発揮するには息を合わせなければならない事だ。

 仲が悪いわけではないようだが、それでも3つのバラバラの思考を噛み合わせる事は容易い事ではない。

 さらに、長らく捕らえられていたために三鳥が全力を出せるか怪しいという懸念もある。

 ならば、ここで打つべき手は……。

 

「……サンダー、ファイヤー、フリーザー。私達3人で奴の気を引く。お前達は3体で完全に息を合わせた攻撃を奴に叩き込める瞬間を待って力を溜めておいてくれ。2人も良いな?」

 

「お姉ちゃん……わ、わかった……! お願いね、サンダー達……!」

 

「…………切り札。三鳥」

 

 小声での作戦会議を終え、それぞれに目配せして頷いたツバキ、イソラ、スカーレットが前に出る。

 

「ほう、三鳥には頼らない気かね? まぁ、体力を消耗しているそいつらでは、大して役には立つまいがな」

 

 3人は持てる全ての力を一点に集中するため、この状況での切り札を1体ずつ使う事に決め、ボールから出していた他のポケモンを回収する。

 

「(オニドリルはまだ疲労が取れていない……メガシンカ体2体を相手にしたのだ、無理も無い……)……今はお前に頼るしか無い……頼むぞ、ギャラドス!」

 

「……ミミロップ……!」

 

「お願いっ! ポポくんっ!!」

 

 そして選び出された3体が、自分を信じたトレーナー達の前に降り立つ。

 

「行くぞギャラドス!」

 

 イソラが服から引っ張り出したキーストーンを握り込む。

 

「……見せる。ミミロップの全部」

 

 スカーレットがメガコンパクトを構える。

 

「ポポくん……わたし達は……勝たなきゃいけないの!」

 

 ツバキがメガペンダントを両手で握り締める。

 

「お前の挑む激流、私も共に昇って見せよう! ギャラドス!」

 

「……ワタシ達の絆を闘志と燃やす。……跳び越える。限界さえも。ミミロップ」

 

「重ねた想いを翼に変えて……! 蒼い空の向こうまで! これがわたし達の……キズナのカタチ! ポポくん!」

 

 3人のキーストーンが同時に輝きを放ち、虹色のオーラと化して己のポケモンに降り注ぐ。

 

「「「メガシンカ!!!」」」

 

 光に包まれたギャラドスの身体が肥大化し、ミミロップは長い耳のフサフサとした毛で覆われた部分が萎み、ポポは飾り羽が部分的に伸びて翼が大きくなっていく。

 そして、光の消失と共に、それらの変化した詳細な姿が露となる。

 

 

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「ほう……メガシンカ3体……さすがに少し重いか?」

 

 台詞の内容とは裏腹に、ルプスの表情からは余裕が消える事は無い。

 イソラとスカーレットは、やろうと思えばアクイラのように2体同時にメガシンカさせる事も可能かもしれないが、あまりにも消耗が大きく、そして早い。

 ここまで戦った所感としては、サ・ファイ・ザーはメガシンカ体でも対抗しきれる相手ではない。3体がかりで相手に傾きつつもギリギリ拮抗といったところだ。

 それもトレーナー1人が1体に指示を集中してようやくなので、とても複数をメガシンカさせている余裕は無いのだ。

 

「……2人とも、無理はするな。一瞬でも気を抜けば勝ち目は無い。奴の攻撃は防ぐのではなく回避する事に専念し、隙の少ない技で確実に削りを入れるんだ」

 

「う、うんっ……!」

 

「わかった」

 

 3人と3体は覚悟を決め、規格外の戦闘力を有する怪物と互いに睨みを利かせる。

 ルプスはルプスで、表面上は余裕の態度を崩していないが、メガシンカ体3体という事で警戒心を強めている。

 

「(まぁ、まず心配は無いだろうが、念には念だ。絶対的優位にあったとて、油断して足元を揺るがされてはどうなるかわからんからな。特にあの少女は実力が未知数だ……)」

 

 圧倒的な格下としてハナから脅威とは認識せず、イソラとスカーレットばかりを警戒していたが、彼女は曲がりなりにもウィルゴを突破し、多数の下っ端団員を破り、自身の訓練した部下をも撃破しているのだ。

 さらにはこの短時間で三鳥からも信頼を得ているなど、改めて見れば幼い無名トレーナーとして頭から除外するには不安要素の多い相手だ。

 

「……よかろう。君達を強敵と認め、敬意を表して全力で叩き潰してやろう!! 我が理想! サカキ様の覇道! その道を照らす篝火、消せるものならば消してみろっ!!」

 

 ポケモンを愛し、共に未来を作ろうとするトレーナー達と、望まず生を受けた悲しき怪物との戦いは、最終局面へと突入していく……。

 

 

 

つづく




はい、今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきましてありがとうございます。

えー、寒くなってまいりましたが、皆様は日々を健康に過ごせていますでしょうか?
…劉翼は盛大に体調を崩してしまい、まったく頭が働かない日々を送っております。
ようやくロケット団編も佳境だというのに、己の不摂生が原因で更新が遅れています事、深くお詫びいたします。
…だから見放さないでね(小声)
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