サ・ファイ・ザーとのガチバトルとなる第73話です!
三鳥を救出したツバキは、サ・ファイ・ザーとルプスを足止めしていたイソラ、スカーレットの2人と無事に合流する事に成功する。
だが、イッシュ地方の伝説ポケモン・キュレムの技さえもコピーしたサ・ファイ・ザーのパワーは予想を遥かに上回り、これを破るには救出したサンダー、ファイヤー、フリーザーの力を結集する外無いと判断したイソラは、彼らが全力の攻撃を叩き込めるまで時間を稼ぐため、ツバキとスカーレットの2人と共にメガシンカを敢行。
今ここに揃ったポポ、ギャラドス、ミミロップ……3体のメガシンカ体が、3つの力を併せ持つ合成獣との最後の戦いを始めようとしていた……。
睨み合う2つの勢力。
片やメガシンカによるパワーアップを果たした3体のポケモン。
片や伝説級の3つの力を宿した合成ポケモン。
互いに一筋縄ではいかない相手と理解しているが故、軽々しく動く事ができない。
だが、メガシンカは時間が経てば経つほどにトレーナーとポケモン双方への負担が増してくるため、いつまでも睨み合いを続ける事はできない。
「……“ストーンエッジ”!」
先手を打ったのはイソラのギャラドスだ。
太さを増した身体をしならせて床に尻尾を叩き付ければ、鋭く尖った岩が次々と突き出してサ・ファイ・ザーを襲う。
「“10まんボルト”」
それに対してサ・ファイ・ザーは翼を帯電させ、発生した電撃をサンダーの頭部からビーム砲のように集束して発射し、迫る岩を片端から粉砕していく。
「“ふるいたてる”から“シャドーボール”」
その隙にミミロップは全身の毛を逆立てて闘気を高め、攻撃の下準備に入る。
自分の影に手を触れると、そこから漆黒のエネルギー体を抜き取り、球状に練り上げて投げつけた。
「“れいとうビーム”」
電撃で“ストーンエッジ”を応戦しつつ、フリーザーの口から床へ超低温の青白い光線が放たれ、まるで成長する植物のように氷の壁が見る見る形作られ、“シャドーボール”を防ぐ防壁となった。
「“でんこうせっか”!」
だが、崩れる氷塊の中を、引き絞られ放たれた矢のごとくポポが驚異的な速度で突っ切ってきた。
「“リフレクター”」
あわやそのクチバシがサ・ファイ・ザーの身体に突き立てられるかと思われたが、両者の間に発生した半透明の障壁に遮られ、弾き返されてしまった。
「か……固い……!」
「さすがに技を3つまで同時に扱えるというだけはあるか……!」
「……厄介」
イソラとスカーレットで引き付け、スピードの速いポポで一撃を加えるコンビネーションを見せるも、相手の特性《トリプルオーダー》の対応力はその上を行っていた。
空中で姿勢を制御してツバキの前へ戻ったポポに倣い、ギャラドスとミミロップも距離を取って再度の攻撃態勢へ移行する。
「強力なメガシンカ体とはいえ、所詮は別個の存在が3体。3つの力を一体としたサ・ファイ・ザーの反応速度と対応能力には及ばんよ」
3体からの連続攻撃を苦も無くいなし、ルプスが自信満々で嘲る。
だが、それだけの自信を持っているだけあり、サ・ファイ・ザーは全ての面においてツバキ達のポケモンを圧倒している。
「(……“ほうでん”、“ねっぷう”、“ふぶき”、“10まんボルト”、“かえんほうしゃ”、“れいとうビーム”、“コールドフレア”、“フリーズボルト”、そして“リフレクター”……ここまで9つの技が明らかとなった……残る3つはなんだ……? ひこうタイプ技が1つは入っていると思うが、“エアスラッシュ”か“ぼうふう”か……でなければ“ドリルくちばし”か“ゴッドバード”……くっ、三鳥の覚える技全般となると候補が多すぎる……!)」
相手の技構成を読みきれず、イソラが歯噛みする。
当然の事ながら12もの技を習得できるポケモンなど相手にした事は無く、実戦に耐えうる技に限っても三鳥が覚える技は12個に絞り込むにはあまりに膨大なのである。
「お姉ちゃん」
悩んでいるところへ声をかけられたイソラが振り向くと、ツバキは目で何かを訴えてくる。
「……よし……! ギャラドス!」
そこから彼女の意図を察したイソラは、ギャラドスへ呼びかける。
「ポポくん!」
さらにツバキもそれに続き、声を揃えて次の技を指示した。
「「“ぼうふう”!!」」
ポポが翼を、ギャラドスが大型化した背中のヒレをはためかせると、まさに文字通りの意味で周囲の空気が一変。
瞬く間に風が叫び声を上げて逆巻き、吹き荒れ、身を裂く何十何百の刃と化す。
「ふむ……2体でそれぞれ異なる風速と風向きの“ぼうふう”を放ち、何重にも連なる攻防一対の風の防壁を作り出したか」
吹き荒ぶ風に煽られる髪を押さえながらも、ルプスは冷静に分析し、状況把握に努める。
「目には目を、風には風を。そちらが広範囲で攻めるならば、こちらは一点突破で応じさせてもらおう。“コールドフレア”」
サ・ファイ・ザーが冷気を纏った長い尾を円を描くように揺らすと、それは冷風の螺旋を作り出す。
そして、尾を全力で振り下ろせば、その螺旋が横向きの竜巻とでも形容すべき形となって“ぼうふう”へ突き刺さり、周りの風を巻き込んで大きくなっていく。
「っ! よけろギャラドス!」
「ポポくん! “でんこうせっか”でかわして!」
風の防壁を突き破られた事を悟ったツバキとイソラは声を張り上げ、そのポケモン達はギリギリのところで冷風の弾丸の直撃を回避した。……が、その弾丸が放つ強力な冷気は、通過時の余波となって2体を襲う。
「くっ……! メガシンカ2体の大技ですらこうも易々破られるか……!」
伝説のドラゴンポケモンの技を再現しただけあり、その威力は絶大。しかもそれを圧縮し、範囲を絞った上で撃ってきたのだからたまらない。
「“れいとうパンチ”」
その時、吹き止もうとしていた風の中から巨大な氷塊が飛び出してきた。
よく見ればそれは、両腕に氷で作り出したグローブを装着したミミロップだ。
パンチに冷気を纏わせるのではなく、パンチそのものを氷にしてしまう使い方は、以前にハナダシティ近郊で行ったイソラのメガヤンマとのバトルでも見せたものだが、メガシンカによるパワーアップで、その氷のサイズはミミロップの身体を正面から隠してしまうほど巨大になっている。
ここまで来ると、もはやグローブというよりはハンマーのような鈍器とでも呼ぶべきサイズだ。
「“かえんほうしゃ”」
自慢の脚力を駆使して遥か上方より奇襲してきたミミロップだが、ルプスは決して慌てない。
狙いを定めたファイヤーの口から炎が噴射され、その氷を正面から解かしてゆく。
「……離れて!」
これも失敗と判断したスカーレットの指示を受け、ミミロップは氷の先端部分を切り離し、それを脚で押し込むように足場にして飛び退き離脱。残った氷は即座に蒸発してしまった。
「…………ダメ。これでも」
「……なんて怪物なんだこいつは……」
「で、でも……諦めない!」
「そうかね? だが、世の中には諦めが必要となる時もあるのだ。それは恥ではない」
攻撃をことごとく捌かれたツバキらに対し、ルプスは遠回しに諦めろと告げる。
しかし、3人の表情に諦めの色などは無い。
「……そうだな。だが、それは今ではない。少なくとも貴様らのような生命を弄ぶ連中に屈するつもりなど毛頭無いのだからな!!」
イソラの切る啖呵にツバキとスカーレットも頷いて同意の姿勢を見せる。
「……これだけの力の差を見てもなお感情に任せて大言を吐くか。若さ故か、はたまた無知故か。トレーナーの無謀で負け戦に付き合わされるポケモンには同情するよ」
これ見よがしに溜め息を吐き、呆れた口調で紡がれたルプスの言葉に、今度はポケモン達が大声を上げ始めた。
「ギャラドス……」
「…………ミミロップ」
「ポポくん……?」
……メガシンカによる一体感の影響か、なんとなくではあるものの、ツバキ達にはポケモンの言わんとする事が……意思のようなモノが伝わってきた。
――自分達はトレーナーの道具ではない。戦うべきか否かは自分で決める。
――そして今戦っているのは、勝利を信じるトレーナー、そしてそのトレーナーを信じる自分を信じているからだ。
――それこそが自分達の意思であり、トレーナーとの絆なのだ。
「ふむ……抗議の声か? 健気な事だな」
無論、ルプスには意味などはわからないが、ポケモン達の表情から自分の言葉への反発である事は理解できた。
「だが、絶対的な力の差というものは、信念だ絆だでどうにかなる話ではないのだ。君達がどれだけ強固な意思を持っていようとも、地上から伸ばした手が星を掴む事などできん。“フリーズボルト”、“かえんほうしゃ”」
話は終わりとばかりにルプスが技の指示を出し、尾の冷気で作り出した氷塊に、翼から放った電撃を帯電させて射出し、ファイヤーの口からは“かえんほうしゃ”が放たれた。
「“ぼうふう”!」
「“れいとうパンチ”」
ポポの翼が起こす強風で炎の威力が多少弱まり、どうにか回避も可能な小ささとなる。
飛んできた“フリーズボルト”は、ミミロップが両手で殴りつけた床から突き出た氷の壁で防ごうとしたが、その貫徹力はこちらの予想を上回り、容易く壁を突き抜けてきた。
危ういところでミミロップは身体を折り曲げて氷塊をよける事ができたが、やはり防ぐよりもかわす方に注力するのが賢明そうだ。
と、そこでツバキはある事に気付いた。
「……お姉ちゃん」
「ん……?」
ツバキがイソラとスカーレットに耳打ちすると、2人は顔を見合わせる。
「……なるほど。言われてみれば確かに……」
「…………価値ある。試す」
「ああ。この際、打てる手は全て打ちたいからな。……よし、行くぞ!」
そう言うと、3人とそのポケモンは、バラバラと左右に分かれ始めた。
「む……? 包囲戦術に切り替えるつもりか? ふふふ、だが、サ・ファイ・ザーの3つの首、6つの目の前では無駄な足掻きだな。“10まんボルト”、“かえんほうしゃ”、“れいとうビーム”」
左へ向かったポポには電撃、右へ向かったミミロップに炎、ギャラドスに青白い光線が発射される。
「“でんこうせっか”!」
「連続“れいとうパンチ”」
「“ストーンエッジ”!」
ポポは“でんこうせっか”による急加速と大型化した飾り羽、尾羽を駆使した姿勢制御で、連続して放たれる電撃を回避。
「“10まんボルト”をかわすのは、マチスさんの時に経験済みだもん……!」
ミミロップは両手に氷のグローブを作り出しては切り離して射出を繰り返し、炎との衝突で水蒸気を発生させて姿を眩ませる。
「…………使い方次第。炎への氷」
ギャラドスは壁のように横並びに突き出した岩で“れいとうビーム”を防ぎながら、その後ろを進む。
「“れいとうビーム”は貫徹力を重視した技ではない。ならば防ぎようはある!」
そして、どうにかこうにかサ・ファイ・ザーからの迎撃をいなしながら、3人は同じ事を考えていた。
「(やっぱり……!)」
「(そういう事か……!)」
「(……それなら)」
自分達で勝つまで行かなくても良い。三鳥が力を溜め、叩き込むチャンスを作れれば十分。
その条件ならば、相手のある事情を加味すると勝機が見えてくる。
「見えたぞ……! サ・ファイ・ザーの死角……弱点が!」
「死角だと? ふっ、そんな物は幻想という奴だ、女帝。鳥ポケモン特有の可動域の広い頭部を3つ持ち、360度全てカバーするサ・ファイ・ザーに死角などは存在しない! “エアスラッシュ”! “ふぶき”!」
翼を広げたサ・ファイ・ザーがその場で勢いよく回転すると、周囲に風切り音を反響させながら空気の刃が飛び交う。
さらに、その状態で尾からも強力な冷気を撒き散らし、分散したポポ達に同時攻撃を仕掛けてきた。
「風には風、でしたよね……!」
「私達も倣わせてもらおうか!」
「「“ぼうふう”!!」」
ポポとギャラドスが先ほどと同様、周囲の風を暴走したように荒れ狂わせ、空気の刃へこちらも風の刃をぶつける。
加えて、広範囲に拡散している分、“コールドフレア”に比べてピンポイントでの勢いが劣っている“ふぶき”も威力が減衰する。
ミミロップはギャラドスの背中に乗る事で風の防壁の庇護を受け、どうにかやり過ごした。
「範囲攻撃技は、攻撃範囲が広がれば広がるほど単体への威力は落ちる! その状態ならばメガシンカのパワーでも対応可能……これが単体である事の弱点の1つだ!」
「むっ……」
「そして、もう1つ! さっきの3つの技……あの時、ポポくんに“れいとうビーム”、ギャラドスに“10まんボルト”を使っていれば、同時に2体に弱点を突けていました。……そうしなかったのは……」
「…………それぞれのタイプの技を担当する、サンダーとフリーザーの頭が左右……真逆の位置にあるから、あの状況でそうするには、身体ごと動かさなくちゃいけなかった。頭の場所のせいで融通が利かない」
「ぬぅっ……!」
ここまでに攻撃と迎撃を重ねた結果ツバキ達が掴んだサ・ファイ・ザーの欠点を突きつけられ、初めてルプスに困惑の表情が浮かんだ。
「3つの力を1つの身体に纏めた事は確かに驚異。圧倒的なパワーを生み出す。だが、それは自ら数の利を捨てたと同義だ! “アクアテール”!」
ギャラドスの尻尾部分に水分が集まり、瞬時に轟音を立てる水流の膜を作り出す。
ギャラドスは身体を車輪のように空中で回転させ、勢いをつけてサ・ファイ・ザーへ尻尾を振り下ろした。
「“れいとうビーム”!」
フリーザーの口から発射された光線がギャラドスの尻尾に命中するが、タイプ相性が悪い事に加え、タービンのように激しく回転する水流はなかなか凍らず、そのままフリーザーの頭へと叩き付けられた。
「“コールドフレア”ならどうにかなったかもしれんがな……そうしなかったのは何故か? 簡単な話だ。貴様は“れいとうビーム”以外のこおり技の機能を、フリーザーの物をそのまま移植した尾に集中しているんだ! だから、上からの攻撃に対し、下へ垂れ下がった尾を使った技での迎撃ができない!」
「おのれ……!」
そう、この強力無比な怪物と戦う上ではこれが大きい。
イソラとスカーレットは3つの力の合成と聞き、思考を司る頭部、そして生き物の機能の大部分が集中する胴体に着目していた。
だが、2人よりも目線の低いツバキの視界には、自然とその下……すなわちサ・ファイ・ザーの尾が入っていた。
結果、“れいとうビーム”を除いたこおりタイプの技が、その長い尾の冷気を使っている事に気付き、その確認を兼ねてこの包囲攻撃を仕掛けたのだ。
“コールドフレア”、“フリーズボルト”という2つの高威力技もその例外ではなく、少なくとも上方からの攻撃に対しては身体を大きく傾けなければ使えない。
それがメガシンカ体との3対1の戦闘でどれだけリスクの大きい行動かはルプスも理解しているため、動きを最小限にして出せる技を中心に攻撃を行っていたというわけだ。
「……ふっ……褒めてやろう。そこまで辿り着くとはな……だが、サ・ファイ・ザーのパワーを舐めぬ事だ! 舞え! サ・ファイ・ザー!」
ルプスの声を受け、サ・ファイ・ザーが大きく飛び上がり、ツバキ達を見下ろす。
「広範囲攻撃は威力が落ちる……だが、それは技1つの場合だ! “ほうでん”! “ねっぷう”! “ふぶき”!」
帯電する翼、熱を帯びる身体、冷気纏う尾。
3つの声が重なったサ・ファイ・ザーの叫び声と共に、それらが一斉にエネルギーの奔流と化して解き放たれる。
「っ! よけられん! “ぼうふう”!」
「ポポくんも“ぼうふう”!」
「“れいとうパンチ”!」
回避は不可能と早々にその手段は切り捨て、可能な限りの防御態勢で相殺とまでは行かずとも、ダメージの軽減に努める。
即座に風と氷の防壁を作り出し、その後ろで大柄なギャラドスが他の2体を身体で巻いて守りを固める。
渾身の力を込めての“ぼうふう”と“れいとうパンチ”で防御を固めたが、相乗効果で威力の上がった3つの技はそれでも軽減しきれない。
「くっ……!」
技の余波は離れたツバキ達にも襲いかかり、3人は姿勢を低くして耐え、イソラがツバキの身体を庇うように抱く。
「どうだ……! その程度の弱点は、パワーで補える! 力ある者こそが全てにおいて優れているのだ!」
煙が晴れると、残っていた氷の欠片がカランカランと音を立てて形を崩していく。
同時にギャラドスが身を起こし、その内側からポポとミミロップが飛び出してきた。
2体はともかく、ギャラドスは大きな身体が災いして表面に決して無視のできないダメージを受けてしまっている。
「やはり受け流しきれんか……すまん、ギャラドス。……これ以上長引かせるのは得策ではないな」
「うん……!」
「……戦術は?」
「さっきと同じように包囲……したいところだが、同じ手はそうそう通じまい」
圧倒的な力を得た事によって慢心の見えるルプスだが、腐ってもかつてはその名を知られたトレーナー……2度も同じ攻略法で仕掛けてどうにかできる相手ではないだろう。
「……あ」
その時、スカーレットがポンと手を打ち、自身の考えをツバキとイソラに耳打ちする。
「え……大丈夫なんですか……?」
「…………やるしかない」
一瞬悩む素振りを見せたツバキだったが、イソラ、スカーレットと共に覚悟と決意を固めて再度向き直る。
「“ストーンエッジ”!」
「“れいとうパンチ”」
ギャラドスが床から発生させた尖った岩を、次々と尻尾で破壊してサ・ファイ・ザーへと飛ばす。
それに続いてミミロップは氷のグローブをロケットパンチのように連続発射し、ギャラドスと共に対空弾幕を展開する。
「“かえんほうしゃ”! “10まんボルト”!」
それに対するルプスは、上方からの火炎で氷を、電撃で岩を迎撃すべくサ・ファイ・ザーに指示を下し、サンダー、そしてファイヤーの口からそれらの技を繰り出させる。
灼熱の炎は触れる前から氷を解かし、集束された電撃は岩を撃ち抜き砕いていく。
「取った」
もうもうと立ち込める煙と水蒸気の中から、何かが矢のように飛び出したと思った次の瞬間、突如サ・ファイ・ザーの身体がガクンと下に引っ張られた。
「何っ……!? ミミロップだと!?」
それは、サ・ファイ・ザーの長い尾にしがみついたミミロップだった。
「“ほうでん”だ! 振り落とせ!」
サ・ファイ・ザーの身体が帯電し、周りにガムシャラに電撃を飛ばし始めた。
当然、その身体に密着しているミミロップにも電流が流れ、苦悶の表情を浮かべる。
「……ごめん。少しでいい、耐えて……! ……“れいとうパンチ”!」
ミミロップはそのまま“れいとうパンチ”の要領で冷気を集め、掴んだ尾を凍結させ始めた。サ・ファイ・ザーの尾そのものが冷気を放っているため、凍結面積は瞬く間に広がり、あっという間に尾の70%ほどが氷に包まれた。
「こ、これは……!?」
さながら巨大な氷の塊をぶら下げているような形となったサ・ファイ・ザーは、上手く身動きが取れずに下降を始めたのだ。
役目を終えたミミロップはさっさと手を放し、“でんこうせっか”で飛んできたポポの脚に掴まって離脱していく。
「さぁ、この状態で上手くこおり技を使えるか! いや、使えるわけが無い! 冷気を操るといえど、まさか自身が完全に凍結してしまうなど想定外だろうからな! 冷気のエネルギーは氷の中に閉じ込められたも同然だ!」
「お、おのれ……! 小賢しい真似をっ!!」
もはや余裕の仮面は完全に剥がれ落ち、ルプスの激昂が露となる。
だが、ギャラドスもミミロップもダメージが大きく、もうここで決めなければ後が無いのはこちらも同じだ。
当然、ポポだけが残っても勝ち目など皆無。相手のメカニズムがわかり始めたので上手くいなせるようにはなったが、そもそものエネルギー量は桁違いなほど差があるのだから、3つの力をポポ1体に集中されてはどうしようもない。
だからこそ、決め手の一撃を次で叩き込まねばならない。
3人は顔を見合わせ、言葉こそ交わさないものの、互いに考えている事は同じと信じて頷き合い、一斉に自身と一体となったポケモンへと指示を飛ばした。
「終わりだ! “ぼうふう”!」
「“ぼうふう”だよ!」
「“シャドーボール”」
2つの暴れ狂う風は1つに重なって勢力を増し、叩き付ける台風もかくやという勢いにまで増幅されてサ・ファイ・ザーを襲う。
さらに、その風に乗ったギャラドスの背中から、ミミロップが両手に作り出した影のエネルギー弾も放たれて風と共に襲来する。
「“10まんボルト”! “エアスラッシュ”!」
迎撃のため、サンダーの頭から電撃が、翼から空気の刃が放たれ、迫り来る旋風の壁と激突して拮抗し始める。
“コールドフレア”よりも威力・貫徹力共に劣る技にもかかわらず、ここまで持ちこたえられる辺り、やはりサ・ファイ・ザーのパワーは凄まじい。
「“ブレイブバード”!!」
押し合いへし合いを3、4回ほど繰り返したその時、風の中から周囲の空気を巻き込みながらドリルのように回転するポポが飛び出し、サ・ファイ・ザーの胴へと渾身の突撃を仕掛けた。
これによって技への集中が一瞬途切れた事で形勢は一気に傾き、サ・ファイ・ザーは風とエネルギー弾の雨霰を全身に浴びる事となってしまった。
「“ほうでん”と“ねっぷう”で弾き飛ばせ!!」
サ・ファイ・ザーの6つの目が見開かれ、電撃と炎がバラ撒かれる。
「“アクアテール”!」
「“とびひざげり”!」
「“ブレイブバード”!」
飛び散る電流と炎を浴びながらも、ギャラドスがサンダーの頭部へ水流を纏った尻尾を巻きつけて締め上げ、ミミロップがフリーザーの頭部へ折り曲げた膝を高所から叩き付け、そして全身にオーラを纏ったポポがファイヤーの頭部へまるでアッパーのように下から突進して突き上げた。
まさに大ダメージ覚悟。肉を切らせての突貫を敢行した3体。
恐らくここが最初にして最後の好機……そう判断したトレーナー達は、同時に後ろへと振り向き、叫びを上げた。
「サンダー!!」
「……ファイヤー!」
「フリーザー! お願いっ!!」
その声が向けられた方をルプスが見上げると、サンダーを頂点にして三角形の陣形を取る三鳥が、今まさにここまで蓄えたエネルギーを一気に開放しようとしていた。
「お……おのれぇぇぇーーーーっっっ!!! “10まんボルト”! “かえんほうしゃ”! “れいとうビーム”!」
翼を振るい、身体をよじり、纏わり付くポポ達3体を蹴散らしたサ・ファイ・ザーは、3つの頭部から電撃、炎、冷気の光線を斉射し、上空の三鳥を撃墜せんと試みる。
呼応するようにサンダーの両翼の間に激しい電流が迸り、1本の電撃となって発射された。
「“かみなり”か!」
ファイヤーの翼や尾羽の炎が縮小し、全身から口の一点へとエネルギーが集束していき、“かえんほうしゃ”や“だいもんじ”すら上回る勢いと熱量の炎が一気に噴射された。
「……“もえつきる”……!」
フリーザーの周囲の気温が急激に低下し、身体の前で交差させた翼を勢いよく開くと、瞬時に周りの水分が雪へと変わり、突風と共に降り注いだ。
「これが本物の……“ふぶき”……!」
三鳥が残る力の全てを懸けて放った大技は、互いを打ち消さない距離を保ちながら速度を増していく。
そして、空中でサ・ファイ・ザーの3つの技と激突し、ほんの一瞬の押し合いの後にそれらを飲み込み、そのままの勢いでサ・ファイ・ザー本体をもその激しい奔流の中へと取り込んでしまった。
「なっ……ば……馬鹿な……!?」
迸る電流、燃え上がる業火、凍てつく吹雪……それら全てを一斉に浴びたサ・ファイ・ザーは、身体を黒く焦がしてしばしそのままの姿勢で静止し……ゆっくりと後方へと倒れて動かなくなった。
科学技術によって複製され、継ぎ接ぎされた悲しき合成獣は……今、本物に敗れたのだ。
「…………馬鹿な…………ありえん……何故だ…………最高峰の戦闘力を持つ……我が……キメラが………………負けた…………?」
ルプスは気も力も完全に抜け、コートをはためかせてその場に膝をつく。
「……確かに、単体で見ればとんでもない怪物……凄まじいパワーだった。だが……本来決して相容れない生命を、ありえるはずの無い歪な形へ、強引に組み合わせたのだ。……ならば、互いをよく知る三鳥同士、そして私達3人が一体となれば、負ける道理は無い! ポケモンも人間と同じだ。互いを認め合い、高め合う事で、その力は際限無く増していくんだ! 貴様はそこを履き違え、個の力のみを高める事に腐心し、生命を軽んじた! その時点で遅かれ早かれ限界が訪れる事が決定していたんだ!!」
放心したルプスへと、イソラの怒号が飛ぶ。
だが、彼女はすぐに呆れたような顔になって溜め息を吐いた。
「……まぁ、偉そうに言ったものの、結局トドメを刺したのは三鳥……私達と合わせれば、6対1でやっと倒したんだが、な……。ふぅ……本当にとんでもない怪物を作り出してくれたよ、まったく……」
「……は……はふぅ~……お、終わったぁ……」
一気に気が抜けたツバキはどうやら腰も抜けたらしく、ペタリとへたり込む。
「…………ふぅ……」
スカーレットも片膝をついて肩で息をしている。ツバキもそうだが、張り詰めていた空気が和らぐと同時に、維持していたメガシンカが解除された事による影響もあるのだろう。
「おいおい……」
そんな2人に呆れながらも、イソラの脚もガクガクと震えている。
そうこうしている内に、メガシンカを解除したポケモン達が、それぞれのトレーナーの元へと戻ってきた。
イソラは自身に擦り寄るギャラドスの頬を撫でて労う。
「ふふっ、本当によくやってくれたな、ギャラドス。ありがとう」
ツバキはバサバサと目の前に着地したポポを抱き締め、その身体に頬擦りする。
「ポポくんもすごかった。すごく頑張って、すごく格好良くて……戦ってる間も負けたくないって気持ちが伝わってきた。……ありがとう、ポポくん」
スカーレットはミミロップに肩を貸してもらって立ち上がると、ミミロップと拳を突き合わせる。
「…………さすがミミロップ。ありがとう。……言えない。それしか。……本当にありがとう」
3人がそれぞれのポケモンと喜び合う一方、三鳥も力を使い果たし、互いに背中を預けて伝説ポケモンらしくもなくぐったりしている。
……その時だった。
〈……愚かなり、人間……浅はかなり、人間………………許し難し……人間〉
「……!? な、なんだ……?」
「こ、声……?」
「…………!」
その場の全員の頭に響くような声が直接送られ、大きな地鳴りと共にアジトの壁を極大の光線が突き破った。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
いやー、1週間もかかっちまったぜハッハッハ!…ごめんなさい。
これでも体調戻り始めてから突貫作業で書いたの…許して…。
とりあえずロケット団編は次回辺りで終わりを迎え、その後は改めて8つ目のジムバッジ獲得に向かいます!
途中で投稿ペース落ちたのもあってロケット団編がかれこれ1ヶ月と半月近くかかってますからねぇ…。やれやれ。