蒼天のキズナ   作:劉翼

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ロケット団アジトに突入してきたその正体とは!?
というわけで第74話スタートです!


第74話:海神の審判

 ツバキ達は三鳥との共闘の末、とうとうサ・ファイ・ザーを撃破し、ルプスの……ロケット団のクローンキメラ量産計画、プロジェクト・キメラを頓挫させる事に成功した。

 メガシンカ体3体と三鳥での撃破とはいえ、撃破は撃破。それぞれ死力を尽くした自身のポケモンを労い、その勝利を共に喜ぶ。

 そんな時、ツバキ達の脳内に怒りの感情が込められた声が響き渡り、部屋の壁をオレンジ色の光線が貫き、粉砕した。

 

 

 

〈……嗚呼……人間とはかくも愚かにして恐れを知らぬ生き物……決して折れぬ心は美徳にして罪悪……此度の事象はその悪しき面が作用したが故か……〉

 

 壁にぽっかりと空いた穴から、巨大な翼を広げ、それは現れた。

 

「な…………なぜ……ここに……!?」

 

「…………初めて見た……」

 

「こ…………これが……!」

 

 

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「……ルギア……」

 

 きめ細かな粒子を放つ白銀の身体に、海のような青い色合いが映える。

 長い尻尾を靡かせ、そのポケモン……ルギアは、深海のように冷たい視線でルプスを見下ろしていた。

 

〈人間よ……我が同胞を捕らえたばかりか、その生命を歪め、冒涜した罪……断じて許し難い〉

 

「これは……テレパシー……? それも特性のそれとは比べ物にならない……! この場の全員の脳にこれほど鮮明に自分の意思を直接伝えるとは……!」

 

「す……すごい……そんな事までできるなんて……!」

 

 イソラもツバキも、そして表情にはあまり出さないが、スカーレットも本物のルギアを初めて見た事で呆気に取られ、ただただ見上げるばかりだ。

 一方のルギアは、倒れたサ・ファイ・ザーを一瞥して目を伏せる。

 

〈……神ならぬ身にして生命を創造せし愚行……一体幾度繰り返せば気が済むのか……嗚呼……度し難し……許し難し…………人間よ……我が同胞までも手に掛けた以上、最早見過ごす事はできぬ〉

 

 厳かでありながら、心に響き渡る心地良さをも内包するその声が紡ぐは、三鳥達を捕らえてキメラを作り出したルプスへの怒りの言葉。

 

「ぐっ……!」

 

 その迫力に圧され、ルプスはまともに口を開く事さえ叶わないようだ。

 

〈汝の罪は既に度を超えている…………せめてもの慈悲……我が手によりて汝の心身を灼き、その魂魄を浄化し、輪廻の輪へと送らん〉

 

 その言葉が意味するのは、早い話が……『死』である。

 ここまで聞いた限りでは、ルギアと三鳥とは仲間であり、その仲間をここまで傷付け、冒涜された事で、ルプスに対する怒りは頂点に達しているという事らしい。

 

「……えっ……心身を灼くって……つまり……」

 

 ツバキが目を見開いてイソラを見上げれば、彼女は静かに首を振るばかり。

 

「……そういう事だ。同情などできん。奴は怒りを買って当たり前の事をしたのだから……」

 

 次いでスカーレットを見ても、返ってくる反応は同じ……沈黙だ。

 

「くっ………………ふ……ふふふ……我が生……ここまで、というわけか……」

 

 ルプスはもはや助かる事はできぬと諦め、その場に座り込む。

 

「後追いとはいえ、サカキ様と同じ道を一時でも歩めた……そう思えば悔いは無い。我が計画は潰えたが、潜伏しているロケット団は我々だけではあるまい。必ずやサカキ様と共にロケット団は再起するだろう」

 

 そして、腰のモンスターボールをベルトごと外して投げ打つと、胡座をかいてルギアをキッと睨む。

 

「……よかろう、ルギア! 私は己の信じる道を進んだのだ! 謝罪の言葉も弁明の言葉も無い! 貴様の思う通りにするがいい!」

 

 その言葉にはルギアも少し驚いたようで、わずかに目を細めた。

 

〈潔い事よ……汝もその覚悟を誤らなければ、善き存在となれたであろうな。……なれば、その最期の勇姿……我が瞳に刻もう。……心安らかに逝くが良い〉

 

 死の覚悟を決めたルプスの態度に感じ入ったルギアが口を開き、周囲の空気を急激に吸い込み始める。

 そして、集めた空気を超高密度に圧縮し、膨大なエネルギーの塊へと変化させたのだ。

 これこそはルギアだけが使えるとされる技、“エアロブラスト”。圧縮した空気の渦を一気に噴射し、その威力は山の表面を抉り、吹き飛ばしてしまうほどと伝えられる。

 言い伝えと実物とは多少違いがあるが、それが今、1人の人間の断罪のために放たれようとしている。

 臨界。

 数秒後にはルプスの身体が一欠片も残さず消滅しているであろう事は、誰もが予想できた。

 許す事のできない悪党とはいえ、その無惨な最期はさすがに直視できず、イソラもスカーレットも顔を背けて目を瞑る。

 

 

 

 ……だが、その時はいつまで経っても訪れなかった。

 

〈……どういうつもりだ……? ……人の子よ〉

 

 頭に響いたその声にハッとしたイソラが顔を上げ、思わず叫び声を上げる。

 

「……っ!! ツ……ツバキっ!!」

 

 そう、ルプスとルギアの間に、両腕両脚を広げたツバキが立ちはだかっていたのだ。

 

 

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「バ、バカっ! 戻れツバキ!!」

 

「ツバキ!」

 

 イソラとスカーレットの声にも応じず、ツバキはそこに仁王立ちし続ける。

 

〈……何故にその者を庇いだてするのか? 同じ種族の情故か? 汝はその者の罪を許すと……そう言うのか?〉

 

 その問いかけに、ツバキはブンブンと髪を振り乱して首を横に振る。

 

「違います! 許せません! 許しちゃいけないと思います! ……でも……でも、それでも……!」

 

 ゆっくりと目を開いたツバキが、まっすぐにルギアの目を見つめる。

 

「それでも……この人の命は1つしか無い……代わりの利かないかけがえの無い物なの! お願い……奪わないで!! どんな人でも! どんなポケモンでも! 命の重さに違いなんて無いはずでしょ!?」

 

「ツバキ……」

 

 一瞬で人間をバラバラにできる技を放つ寸前の伝説ポケモンの前に立ち塞がり、救いようの無い悪人の命を助けようと身体を張るツバキの姿に、イソラは絶句し、その名を絞り出す事しかできなかった。

 

「(……ああ……そう……そうだった。この子はこういう子だった……。気が弱いのに他人を気遣い、時に感情に任せて後先考えずに飛び出していく……そんな……呆れるほどにどこまでも優しい子だった……)」

 

 ルギアは自身を見上げる人間の少女をじっと見つめている。

 

〈(……なんという……曇り無い清流の如き瞳……恐怖はある。この人間への怒りもある。だが、それをたった1つの想いを以て塗り替えている……)〉

 

 ルギアはしばし考え込む。

 

〈……人の子よ。その尊き生命を、その者は弄んだのだぞ。自然の摂理に背きし歪なる生命を創造し、いずれはそれを幾百幾千と繰り返すであろう。……それでもこの場で裁くを良しとせぬか?〉

 

「そんな事はさせません! 絶対に! 何度でも止めます!」

 

 ルギアからの度重なる問いかけに強く反論するツバキ。まっすぐに見つめてくる瞳からもその決意の程が窺える。

 その時、ツバキの前に大きな翼を広げたシルエットが飛び出してきた。

 

「……! ポ……ポポくん!?」

 

 そう、それは満身創痍だったポポである。

 それに反応してか、ツバキのベルトに装着されたモンスターボールもカタカタと揺れ始め、5つの影が飛び出した。

 

 

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「ファ、ファンファン……ナオ……ケーン……シェルル……バルディ……」

 

 ポケモン達はポポに続くようにツバキとルギアの間に割って入り、鳴き声を上げる。

 

〈主を護ろうと言うのか……汝らは己が命を投げ出すまでにその人の子を信じ、愛すると……〉

 

 さらには三鳥もルギアの足下に集い、何かを訴えるかのように声を上げ始めた。

 それはまるで……いや、まず間違いなくルギアにツバキの助命を嘆願しているのだろう。

 

〈……! 汝らまでも……。理解しておるのか? その人間こそは汝らを虜とし、冒涜せし元凶なるぞ〉

 

 ルギアからそう諭されても、三鳥は口々に声を上げ続ける。

 彼らからすれば、強引に捕らえられ、実験に使われ、クローンを作られ……人間不審に陥りかけていたところへ、純粋な思いやりを以て献身的に接してくれたツバキは数少ない信用できる人間。

 人間を再び信用できるようになるかもしれない切っ掛けとなる人物なのだ。

 

〈……此度の件の当事者は汝ら。その汝らがそれで良いと言うのならば………………よかろう、人の子よ。我が同胞達の願い、そして我が前に立った汝の勇気に免じて此度は引こう。人間の罪は人間の理の下に裁くが良い。だが……次は無いぞ〉

 

 そう言うと、ルギアは目を光らせて念力でサ・ファイ・ザーの身体を持ち上げる。

 

〈この者も歪とはいえ同胞の一部を持つ者……なれば、我らの元へと受け入れようぞ。どのみち人の世に在っては手に余る存在であろう。我が朋友ならば、正しき生命として再生できるやもしれん。……往くぞ、同胞達よ〉

 

 そのまま三鳥を率いて最初に空けた穴へと向かうルギア。

 

「あっ……ま、待ってルギア!」

 

 だが、その背中にツバキが声をかけて手を伸ばす。

 

「あ…………あの………………よ、4年前……グレン島にかかってた火山灰を払ってくれて……ありがとう!」

 

 大きな声で感謝の言葉を告げたツバキに、ルギアは不思議そうな顔を返す。

 

〈……火山灰…………嗚呼……記憶に在る。……そうか、汝はあの場に在って見ていたか。だが……〉

 

「わかってる。わたし達人間のためじゃないんだよね。……でも、あの時消えていく火山灰の間から見えた蒼い空が、わたしにもっと広い世界を見たいって思わせてくれた。だからポポくんやたくさんのポケモン、人に会えて、今のわたしがいるの。あなたが何を思ってやったんだとしても、その結果としてわたしがわたしになれた。この『ありがとう』は、そういう意味。わたしに希望を見せてくれたあなたに、ずっとずっとお礼が言いたかったの」

 

 肩に掴まったポポを見て目を細めながら言葉を紡ぐツバキ。

 

〈……そうか。なればその謝意を受け取ろう。そして、我も礼を返すとしよう。……人の子よ。我が同胞を、悪意在る者より救い出してくれた事、感謝する〉

 

 ルギアはツバキの前に着地し、その長い首を垂れる。

 

〈……名を……聞いておこう。純粋なる人の子よ〉

 

「……ツバキ! わたしはツバキっていうの!」

 

〈……記憶しておこう。……ツバキよ。その曇り無き瞳と心に、この先も陰りが差さぬ事を願っているぞ。……さらばだ〉

 

 そして、その場で羽ばたいて浮遊すると、今度こそ穴の中へとその白銀の身体を溶け込ませて消えていった。

 

 

 

〈……人間か。愚かで脆く弱く罪深く……優しく暖かく強く慈愛に満ちている。彼の者らの本質は何処に在るのであろうな……〉

 

 ルギアの自問に、サンダーが答えるように甲高い声を上げる。

 

〈……そうだな。我らと同じやもしれん。本質など個によって異なるのであろう。なれば、今暫くは見守るとしよう……〉

 

 やがて岸壁に空いた穴から5つの影が飛び出し、先頭を往く白銀の影が、潮風に乗せて世界中に響かせんばかりの威厳に満ちた声を上げた。

 

 

 

「…………はふっ…………」

 

 ルギア達の消えた穴をしばらく見つめていたツバキが、不意にその場に崩れ落ちる。

 

「ツバキっ!」

 

 それを見て我に返ったイソラが慌てて駆け寄ると、ツバキは困ったような表情のまま小さく笑う。

 

「あ……あはは…………ま、また……腰抜けちゃった……」

 

「……まったく……無茶をする」

 

「ご、ごめん……でも、気付いたら動いちゃってて……」

 

「……やれやれ」

 

 呆れながらも笑みを浮かべてツバキに肩を貸すイソラを見ながら、スカーレットは座り込んだままのルプスを一瞥する。

 

「…………逃げないの?」

 

 その問いに対し、ルプスは完全に諦めたという顔で答えた。

 

「人の道を外れた私だが、最後の矜持はある。……あのようなモノを見せられては、醜くジタバタするなどその矜持が許さん。私が見苦しければ見苦しいほどサカキ様にも会わせる顔が無いからな」

 

 そう言ってルプスはその場に留まり、目を閉じて瞑想を始めた。

 

 

 

 それから1時間後、警官隊の突入が始まった。

 

「おーい、ツバキぃっ!」

 

 雪崩れ込む警官の中から、明らかに場違いなサラシを巻いた女性が駆け寄ってきた。

 

「えっ……ネリアさん?」

 

 それはタマムシシティジムのジムリーダー代理であるネリアだ。警官隊だけだと頼りないので、カツラから連絡を受けて参加したのであろう。

 ネリアはツバキの首に左腕を回すと、右手でその頭をわしゃわしゃとやや乱暴に撫でる。

 

「バッカお前……どこから入ったのかくれぇカツラのオッサンに言っとけ! 入口探しちまったじゃねぇか!」

 

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

 そう、ツバキどころかイソラとスカーレットさえも、突入に集中しすぎて完全に連絡を忘れていたのである。

 

「しかもアジトん中で会う奴ことごとく手持ち戦闘不能とかで速攻降参してくるしよぉ……お前ら暴れすぎだろうがよ………………しかしまぁ……よく頑張ったよな、お前」

 

 乱暴だった撫で方が次第に優しくなり、ツバキが見上げればネリアの表情には微笑みが浮かんでいる。

 

「ったく、良い顔になりやがってよ。タマムシにカチコミかけてきた時からさらに別人みてぇになってんぞ」

 

「えっ……そ、そうですか? えへへ……♪」

 

 ネリアに撫でられてツバキの顔が蕩ける影で、先の言葉通り、ルプスがなんら抵抗せずに警官に手錠をかけられて連行されていく。

 

「んーと、そっちのあんたがこないだ来たスカーレット……つーこたぁ、そっちの姉ちゃんがイソラか。タマムシジムリーダー代理のネリアだ、よろしくな」

 

「ああ、よろしく。イソラだ」

 

「聞いてるぜ、アケビのダチになってくれたんだってな。さんきゅ。あいつ無駄に明るくて前向きなくせに寂しがりでよ。あんたとツバキの事嬉しそうに話してやがったよ」

 

 タマムシジムトレーナーのアケビ。

 ツバキとはタマムシジムで、イソラとはシオンタウンで出会い、その無邪気さと爛漫さで瞬く間に打ち解けた。

 あの無邪気な笑顔を思い出し、イソラは笑いが込み上げてきた。

 

「……ふふっ、アケビか。どうやら変わらず元気そうだな」

 

「おう。その内タマムシジムにも遊びに来いよ。とーぜん、チャレンジャーとしてでもかまわねぇぜ」

 

「そうだな、考えておこう」

 

 

 

 ツバキ達が警官隊とネリアと共にアジトを出ると、なんと突入から丸1日が経過しようとしていた。

 

「ふあ…………どうりで眠いわけだよね……」

 

「ああ……まさか1日中ロケット団と戦っていたとはな……」

 

 欠伸混じりにふと見上げた岸壁には、ぽっかりと大きな穴が空いている。

 

「あそこからでっけぇポケモンが飛び出してきてよ。そんで調べに来たらここの入口を見つけたっつぅわけよ」

 

「ルギア……あそこからあんな地下深くまで入ってきたの……?」

 

「“エアロブラスト”か……噂に違わぬ凄まじい威力だな」

 

「…………凄い」

 

 そんな威力の技の前に自分が飛び出していたのかと思うと、今になって身震いのしてくるツバキであった。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

てなわけで正体はルギアでした!
とりあえずだんだんツバキがお前のような10歳児がいるか!なキャラになってますね…。
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