蒼天のキズナ   作:劉翼

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今年最後の投稿となる第75話です!


第75話:特訓開始!ダブルバトル再び!

 ロケット団のプロジェクト・キメラはツバキ達の手によって潰えた。

 そこへ乱入してきた海の守り神と呼ばれるポケモン……ルギアは、仲間達の命を弄んだルプスを断罪せんとするが、その前にツバキ、そして彼女のポケモン達が立ちはだかり、その必死の説得によってこの場を見逃す事とする。

 かつて自身に未来への希望をくれたルギアに、かねてよりの願いだったあの日のお礼を届けたツバキは、駆けつけたネリアらと共に地上へと帰還を果たした。

 

 

 

「…………すー…………すー…………」

 

 警察での聴取を終えたツバキ達は、そのままタマムシシティのポケモンセンターに宿泊。

 ほぼ丸1日に渡るロケット団との激戦、その疲れと睡眠不足から、昼を回ってもツバキは布団の中で寝息を立てていた。

 

「…………すぅ…………」

 

「…………くー…………」

 

 そしてそれは、イソラとスカーレットも同様。

 結局3人は夕方近くに目覚め、慌ててポケモンをボールから出してみると、ポケモン達も同じく眠っている者が多かった。

 遅めの昼食を食べると、本物のルギアに出会った感動が蘇り、三鳥と共闘したという経験も手伝い、3人で昨日の思い出を語り合う。

 その内、イソラがネリアから聞いた話へと話題を移行させる。

 

「なんでも、逮捕者は120人にも上るようだぞ。直接犯罪行為には関わっていない研究員や外部の協力者なども合わせれば150は下らん」

 

「120……すごい数だね……」

 

 少なくとも、その内の半数ほどはツバキ達に手持ちを撃破されて抵抗の術を失った事で、突入した警官隊に投降したのだが、無我夢中だったツバキは自分がそこまでの戦果を上げていた事には気付いていないようだ。

 

「そうだな。しかし、どうも警察が突入してくる前に逃亡した奴もそこそこいるようだ。まだ芽は摘みきれていないという事だな」

 

「…………潔くない」

 

 甘い香りを漂わせるエネココアのカップを口に運びながら、スカーレットが不機嫌そうな顔をする。

 

「そもそも今回のロケット団残党も、往生際の悪さの極みだからな。いわゆる悪の組織というのは大体そんなもんさ。他の地方で活動していた組織の連中も、逃亡して潜伏している者は少なくないと聞くしな」

 

 それに対してグランブルマウンテンのカップを傾けるイソラは呆れ顔。

 

「どうしてポケモンを悪い事に使う人は減らないんだろう……ポケモンはそんな事するための道具なんかじゃないのに……」

 

 ツバキがミックスオレを飲み干して溜め息を吐くと、その頭をイソラが撫でる。

 

「誰もがお前のように考えられるわけじゃない。お前もわかっていると思うが、ポケモンは大きな力を持った生き物だ。人間は力を手にすると、普通ならしない事、できない事をしようとする。言ってしまえば、お前がジム巡りの旅をしているのも、ポケモンという力あってこそ…1人だったらまずしなかったはずだ」

 

「それは…………うん……そうかも……」

 

「……だが、それ自体は悪い事じゃない。問題はその先……手にした力をどの方向へ使うかだ。そこでの舵の切り方で人としての質を問われる」

 

 ツバキを撫でているというのに、イソラはいつもの変態的にやけ顔ではなく真剣そのものの表情で語り続け、ツバキも耳を傾け続ける。

 

「人間、大きな力が手元にあると、気も大きくなってその力を振るいたくなるものだ。その結果の1つが私達ポケモントレーナーであり、奴らロケット団でもある。自分の良心でその衝動に歯止めをかけられるか否か……奴らはその一線を越えてしまった方。私達もどこかで1つ間違っていたら、奴らと同類になっていたかもしれない……人の心とは、そんな危ういバランスで成り立っているんだ」

 

「……バランス、かぁ……」

 

 眉をひそめて悩むツバキを見て、イソラは小さく笑う。

 

「ははっ、そう気にする事でもない。小難しく言ってしまったが、結局のところその人間の心根次第……なら、お前はお前らしくポケモン達に接すれば大丈夫さ。お前はその舵取りを間違えるような子じゃないからな」

 

「……そうだよ。ツバキ」

 

 撫でていた頭をポンポンと軽く叩いて手を離すイソラの言葉に、スカーレットも頷いている。

 

「わたしらしく…………うん、わかった! わたしはわたしらしく、ポケモン達と一緒に強くなっていくよ! そうと決まれば特く……」

 

「待て待て待て」

 

 立ち上がって特訓に向かおうとするツバキの腕をイソラが掴んで引き止める。

 

「窓の外を見ろ、もう夕暮れだ。さすがに始めるには遅すぎる。明日にしよう」

 

「あう……本当だ…………そういえばスカーレットさんはバッジはいくつになったんですか?」

 

 再び座り直したツバキが、ふと気になった事をスカーレットに尋ねる。

 するとスカーレットは両手を開き、親指を畳んだ状態で見せてきた。つまり。

 

「え……えぇっ!? もう8個集めたんですか!?」

 

「……むふぅ」ドヤァ……

 

「ふっ、驚くには及ばないぞツバキ。なにしろこれはスカーレットにしては遅いくらいだ。イッシュリーグの時はスタートがほぼ同じだったのに、私がバッジ6つの時にはもう集め終えていたからな。こいつのパワーとスピードを兼ね備えたバトルスタイルは、ジムリーダーといえどもそうそう止められん」

 

 その話を聞いたツバキは、改めてスカーレットがとんでもない実力者である事を実感して息を飲む。

 ……まぁ、普段のぼーっとしたスカーレットの姿からはイマイチ想像がつかない……とはいえイソラやロケット団とのバトルでその一端は見ているので、信じる信じないという話でもないのだが。

 結局ツバキ達は、しばらくしてから一緒に夕食を済ませ、明日に備えて早めに寝る事にした。

 

 

 

「よぉし、今日こそ特訓するよ! 頑張ろうね、ポポくん!」

 

 1日ほぼ休みだった事もあり、目覚めたツバキはすっかりリフレッシュして気合い十分だ。

 と、その時。腰のモンスターボールから大きめの影が飛び出した。

 

「わっ!? も、もうシェルル~……出てくるならそう言ってよぉ…………ん? どうしたの?」

 

 勝手にボールから現れたシェルルは、ツバキの腰に装着した他のボールを爪で小突いている。

 

「……? これはバルディのボールだけど…………もしかして、バルディが出たがってるの?」

 

 シェルルがこくこくと頷き、応じるようにバルディの入ったボールも揺れる。

 

「そっか……そういえば、ロケット団のアジトでも全然出さなかったからなぁ……うん、じゃあ出ておいで、バルディ!」

 

 勢いよくボールから飛び出した小柄なドラゴンは、スタッと着地し、ツバキの方を向いてファイティングポーズを決める。

 

「…………ひょっとしてジム戦に出たいの?」

 

 ツバキの言葉に我が意を得たりとばかりに首を縦に振りまくるバルディ。

 それを見て不安げな顔なのはイソラだ。

 

「うーむ……グレンジム戦などに触発されたのかもしれんが、バルディはまだ経験がな……いきなりトレーナーレベル8のジム戦に出すのは不安があるな……やる気はかなりあるようだが……」

 

「………………」

 

 ツバキはしゃがみ込んでバルディを抱き上げ、目線を合わせてしばし見つめ合う。

 そして。

 

「お姉ちゃん。わたし、バルディを鍛えてトキワジム戦に出してあげたい。バルディの目……すごく燃えてる気がするんだもん」

 

 バルディと共にイソラへ向けたツバキの視線に込められた想いは、決して興味半分や半端な気持ちではない、ポケモンの意を汲み、全力で歩みを共にしたいという意志の表れ。

 ポケモンに寄り添うトレーナーとしてのその気持ちがわかるだけに、イソラにはそれ以上の口出しなどできるはずもなかった。

 

「……わかった。お前のジム戦でお前が決めた事だからな。私もできるだけの協力はしよう」

 

 イソラが協力を申し出たその時。

 

「話はー」

 

「きかせてもらったぁ!」

 

 ゆったりとした声と、やたら元気な声が割り込んできたのだ。

 その聞き覚えのある声に振り返れば、2人の少女がビシッとポーズを決めていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「アケビさんじょー!」

 

「ラニーさんじょー」

 

 そう、それはタマムシジムのジムトレーナー・ラニーとアケビである。

 しばしポーズを維持して伸ばした腕がぷるぷるしてきた頃、ようやく2人がポーズを解除して歩み……いや、アケビは駆け寄ってきた。

 

「ツバキちゃんひさしぶりー! イソラさんにスカーレットさんも! って、もしかしてツバキちゃん達とスカーレットさんて知り合いだったの?」

 

 ツバキに抱き付いたアケビが、後ろのイソラ達にも手を振り、ツバキとスカーレットの顔を見比べる。

 相変わらずちっちゃい。

 

「おー……あなたがアケビちゃんの言ってたイソラさんですかー。はじめましてー、ラニーですー。シオンタウンではうちのアケビちゃんがお世話になったそうでー」

 

「いや、こちらこそ」

 

 対してイソラとラニーは落ち着いた挨拶を交わしている。

 ラニーとアケビが同い年である事を知ったスカーレットがどんな顔をするのかは読者の方々の想像にお任せしたい。

 

「ツバキちゃんがジム戦に挑戦するときいて!」

 

「お手伝いに来ましたよー。今日はうちのジムお休みですしー」

 

「えっ……それは嬉しいんですけど……良いんですか?」

 

 せっかくの休みという事なら、それぞれ自分のやりたい事をした方が良いのではと申し訳なさそうな顔をするツバキだが、ラニー達はニッと笑う。

 

「気にしないで! ツバキちゃん! ホンネを言うと、あたし達、ツバキちゃんとバトルしたいの!」

 

「知らない仲じゃありませんからねー。どれだけ強くなったのか楽しみでもあるのでー。だから早くバトルしましょー」

 

 両腕を広げて走り回るアケビほどではないが、ラニーもバトルがしたくてウズウズしているようだ。……どうもおっとりした見た目や喋り方とは裏腹に、結構なバトルジャンキーらしい。

 

「それにー。実は私達もあれから新しいポケモンを育ててるのでー、その実力を試したいのもあるんですよー。これならお互いに協力し合う事になるしー、良いんじゃないー?」

 

「うーん……そ、そういう事なら……」

 

 ツバキが全て言い終える前に、ラニーとアケビがハイタッチ。

 

「オッケーだってー」

 

「やったね! じゃあ、前とおんなじ、ダブルバトルにしようよ!」

 

 2人はツバキからの答えを待たず、いそいそとバトルフィールドへと向かう。

 

「ははっ、相変わらず忙しないな、アケビは」

 

「うん、こっちまで元気になっちゃうね」

 

 笑いながらツバキ達3人も後に続く。

 そして、向かいに立ってラニー達と対峙するツバキの隣に、ボールを握ったイソラが立った。

 

「私も育てたいポケモンがいるのでな……参加させてもらっても?」

 

「もちろんですよー。ジムチャレンジャーのテストバトルじゃありませんしー。……それにー……あの『戦翼の女帝(フェザー・エンプレス)』とバトルできるなんて楽しみが増えますしねー」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 猫のような口の端を吊り上げてニヤリと笑うラニーと、今すぐにでもバトルを始めたくて落ち着きの無いアケビがボールを手にする。

 両チームを見渡せる位置に立ったスカーレットが、審判役となるようだ。

 

「…………ポケモンを」

 

「待ってましたー! 出ておいで、ポポッコ!」

 

「行きますー。出番だよー、エルフーン」

 

「よぉし! 行くよ、バルディ!」

 

「ミニリュウ! お前に任せる!」

 

 両者のポケモンがフィールドに出揃い、睨み合う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アケビが出したのは、頭に黄色い花を咲かせた緑色の身体を持つ、わたくさポケモンの『ポポッコ』。

 そしてラニーが出したのは、茶色い小柄な身体にモフッとした綿を纏った、かぜかくれポケモン『エルフーン』だ。

 

「エルフーンか……厄介だな。フェアリータイプにはドラゴンタイプの技が通用しない上、あちらからの攻撃はかなり効くからな。気を付けろ」

 

「わかった!」

 

 話し合いが終わったところで、スカーレットが右腕を振り上げる。

 

「…………では。バトル………………スタート!」

 

 その腕が振り下ろされたのを合図に、両者一斉に動き出す。

 

「エルフーン、“にほんばれ”ー」

 

「ミニリュウ、エルフーンに“しんそく”だ!」

 

「バルディ、あなたもエルフーンに“ひっかく”!」

 

「ポポッコ、“いかりのこな”!」

 

 エルフーンが身体を縮こませ、両手を広げると、太陽の輝きがより強くなってきた。

 その隙を逃さずミニリュウが高速で突進し、エルフーンの軽い身体を撥ね飛ばす。

 だが、同時に技を指示したはずのバルディは、なぜか赤い粉を撒きながらふわふわと浮かぶポポッコの方を追いかけて爪を振り回している。

 

「バ、バルディ!?」

 

「相手を刺激する香りの粉で攻撃を自分に引き付ける“いかりのこな”……素早い攻撃を仕掛けたミニリュウは影響を受けなかったが、バルディはまんまと引っ掛かってしまったな。しかも恐らくあのポポッコは特性が《ようりょくそ》か《リーフガード》。天気が晴れの時に真価を発揮する特性だ」

 

「じゃあ……!」

 

 ツバキが天を仰ぎ、燦々と降り注ぐ日差しに目を細める。

 

「特性《いたずらごころ》でこういう変化技を素早く出せるエルフーンとの連携……やるな、あの2人。気を付けないと相手のペースに飲まれるぞ」

 

 やはりというか、この2人のポケモンはダブルバトルでのコンビネーションを意識した育て方をしているようだ。

 

「今度はこっちから行っくよー! キバゴに“タネマシンガン”!」

 

「アケビちゃん、落ち着いてー。キバゴに“くすぐる”」

 

 ぴゅうっと風に乗ってバルディにしがみついたエルフーンが、全身の綿を細かく動かしてくすぐりまくり、笑い転げるバルディを残して再び飛び去る。

 直後、ポポッコの口から30発はあろうかという種の弾丸が連続して発射されてバルディに着弾し、その身体がゴロゴロと転がる。

 

「くっ……! 負けないで! “カウンター”!」

 

 だが、転んでもただでは起きない。

 尻尾で地面を叩いて飛び起きたバルディは、そのままの勢いで空中のポポッコに迫ると、首を振り回して口から生えた牙を叩き付けた。

 

「わわわっ! ポポッコ大丈夫!?」

 

「おー……やっぱりやるねー、ツバキちゃん」

 

「うむ、今の“カウンター”での切り返しはなかなかだったぞ、ツバキ」

 

「えへへ……でも、バルディすごいね! 尻尾のパワーであんなにジャンプできるなんて!」

 

 バルディは見せつけるように尻尾を振ってドヤ顔を披露する。

 

「むむむ……! ちっちゃいと思って油断したかな……!」

 

 ちっちゃいのはポポッコもキバゴと大差無い上、ついでにトレーナー自身も同年代よりちっちゃいのだが、本人はさほど気にしていないようだ。

 

「大丈夫大丈夫ー、まだまだ巻き返せるよー。“マジカルシャイン”ー」

 

 エルフーンの身体が眩い光を放ち、それは見る見る内に周囲の景色を飲み込んで白く染めていく。

 

「“しんそく”! バルディを乗せてよけろ!」

 

「ミニリュウに乗って!」

 

 広がる光に対し、ミニリュウは横へと大きく飛び出して加速し、その背にバルディを乗せて“マジカルシャイン”の回避を試みる。

 

「子供の頃観てたカントー昔話思い出すなー……じゃなくて速いねー……ミニリュウ自身大きいから、キバゴ1体乗ったくらいじゃスピード落ちないかぁ……」

 

「でも逃がさない! “タネマシンガン”!」

 

 ミニリュウの進行先へポポッコが種を連射し、そのスピードを落とそうとするが、ミニリュウは時々地面に着地して改めてジャンプ・加速する事でその射撃予測を狂わせる。

 

「むきーっ! 当たらないよぉっ!」

 

「はいはい、オコリザルの真似お上手ー。……逃げられたかー……」

 

 ラニーの言葉通り、エルフーンから放たれていた光は徐々に弱まり、終息していく。

 

「よし……! 反撃だ! ポポッコに“りゅうのいぶき”!」

 

 長い身体を横向きにして腹で急ブレーキをかけ、反転したミニリュウが口から猛烈な勢いのエネルギー波を放射する。

 

「エルフーン! 盾になってー!」

 

 エルフーンが綿を前面に広げてポポッコの前に立ち、“りゅうのいぶき”を受け止める。

 フェアリータイプを持つエルフーンには、ドラゴンタイプ技である“りゅうのいぶき”ではまったくダメージが入らない。

 

「ふっ……そう来ると思ったぞ!」

 

「っ!」

 

 そう、ダメージは入らない。ダメージは。

 

「“ひっかく”!」

 

 正面から吹きつける“りゅうのいぶき”で視界の悪くなったエルフーンの顔に、ミニリュウの背中からジャンプしたバルディの爪が振り下ろされる。

 思わぬ奇襲によろめいたエルフーンは、ポポッコを巻き込んで後ろへと倒れ込んでしまう。

 

「“つじぎり”!」

 

「“コットンガード”ー!」

 

 続けて爪による追い討ちをかけて畳みかけようとするバルディだったが、エルフーンは素早く綿を膨張させてクッションのようにする事でその衝撃を緩和する。

 切ったのがほぼ綿だったために予想よりも手応えが無く、体勢を崩したバルディの前にポポッコが浮遊する。

 

「ポポッコ! “つばめがえし”!」

 

 ギュルンッと回転してバルディへ体当たりを仕掛けるポポッコ。

 

「“まきつく”だ!」

 

 だが、その身体にミニリュウが巻きついて締め上げ、回転を無理矢理止めてしまう。

 

「っ! 今っ! “つじぎり”っ!」

 

 一旦着地したバルディが再度飛び上がり、ミニリュウに巻きつかれたポポッコに頭上から漆黒のオーラを纏った両手の爪を振り下ろす。

 ミニリュウがタイミング良く拘束を解き、バルディの爪はポポッコの頭頂部を直撃し、その身体を勢いよく地面へ叩き付けた。

 

「あわわわっ! ポ、ポポッコー!」

 

 妙に弾力のある身体をバウンドさせ、アケビの足元まで転がってきたポポッコはぐるぐると目を回している。

 

「……ポポッコ。戦闘不能」

 

「うー……やられちゃったぁ……ごめんね、ポポッコぉ……」

 

 ポポッコを抱いてへたり込んだアケビ。

 そんな彼女に、ラニーが姉のような優しい表情で微笑みかける。

 

「アケビちゃん頑張ったねー。あとは任せてー。“マジカルシャイン”ー!」

 

 バルディ達がポポッコの相手をしている間に起き上がっていたエルフーンの身体が、再度光り始めた。

 

「(くっ、この距離では退避は間に合わん……!)……地面に“たたきつける”!」

 

 ミニリュウがぐるんっと回した尻尾を叩き付け、地面を隆起させてバルディと共にその陰に身を隠す。

 そのわずか2秒後に“マジカルシャイン”の光が襲いかかり、バルディとミニリュウを守るめくれ上がった地面ごと飲み込んだ。

 

「バルディっ!」

 

「耐えられるか……!?」

 

 さしものイソラもこれは完全にポケモンのガッツに任せるしかなく、2人が固唾を飲んで見守る中、光が薄くなり、周りの景色が元の色に戻っていく。

 そして、その中で……2体は健在だった。無論、立っているのがやっとの状態ではあるが。

 どうやらミニリュウが長い身体でバルディを庇っていたようで、ミニリュウの方がダメージは大きそうだ。

 

「ミニリュウの方が多少レベルが上だからな……良い判断だ、ミニリュウ。よく耐えてくれたな」

 

「うう、ごめんねミニリュウ……でも、おかげでバルディも耐えられたよ、ありがとう! バルディも頑張ったね!」

 

 ツバキ達がポケモンを労う一方、トドメのつもりだったラニーは顎に手を当て不満顔だ。

 

「むむー……決めきれなかった……だけど、ここまで来たら一気に行くよー……! エルフーン! “マジカルシャイン”ー!」

 

「させん! “しんそく”!」

 

 三度身体から光を放とうとしたエルフーンに、真正面から驚異的な勢いで突撃してくるミニリュウ。

 エルフーンは風に流されるほどの軽い身体でふわりふわりとミニリュウ渾身の頭突きを受け流すが、そちらに意識を集中しているためか“マジカルシャイン”を出す余裕が無いようだ。

 ミニリュウが長い身体を活かした伸縮で頭を突き出し、それをエルフーンが軽やかによける……その攻防の裏で密かにツバキのポケモン図鑑からアラームが鳴り響き、ツバキが確認すると、表示されたバルディの個体データに新たな情報が追加されていた。

 

「……お姉ちゃん!」

 

 ツバキの呼びかけに顔を向けたイソラは、彼女の表情からその意図を察して頷いた。

 

「……よし、やるか!」

 

「うん! バルディ! ミニリュウ達の方へ走って!」

 

 答えるように一声を放ったバルディが腕を振り回して走り出す。

 

「キバゴが来てるよー! 注意してー!」

 

 ラニーの指示でちらりとバルディの姿を確認したエルフーンは、ミニリュウと挟み撃ちにされないように少しずつ方向を変えていく。

 1対多の場合、まず気を付けるべきは囲まれないようにする事。そういう意味ではここでのラニーの行動は定石だ。

 だが、基本や常識というものは、あまりにも当たり前すぎて、時として逆手に取られる場合もあるのである。

 

「“しんそく”!」

 

「“ダブルチョップ”!」

 

 エルフーンの眼前から一瞬にしてミニリュウが消え、その背後から突き出た牙を青く発光させたバルディが大きくジャンプしてきた。

 バルディはそのまま自由落下の勢いを活かし、首を思いきり振るってエルフーンの前の地面に2回連続で衝撃波を叩き込む。

 “ダブルチョップ”はドラゴンタイプの技なので、エルフーンに直接当てても効果は無い。……が、狙いはそこではない。

 6kg強という軽量のエルフーンは、この衝撃波が地面を直撃した際の風圧に耐えられず後方へ飛ばされてしまったのだ。

 

「エルフーン!」

 

 そして、その飛ばされた先には……。

 

「“たたきつける”!」

 

 そう、ミニリュウである。

 ミニリュウは飛んできたエルフーンを、大きくしならせた尻尾で地面へ叩き付ける。

 エルフーンは小さく呻き、綿を撒きながら転がり、動きを止めた。

 

「…………エルフーン。戦闘不能。勝ち。イソラとツバキ」

 

「……や……やったぁ! 勝ったよお姉ちゃん! バルディ~!」

 

 ピョンピョンと飛び跳ね、バルディへと駆け寄るツバキを見ながら、イソラもミニリュウへと歩み寄る。

 

「……ふぅ……。ラニー、そしてアケビか……かなりのコンビネーションだったな……お前も頑張ったな、ミニリュウ」

 

 イソラ手ずからオボンの実を与え、食べている間に身体にキズぐすりを塗り込む。

 

「は~……ごめんアケビちゃん、負けちゃったー。エルフーンもごめんねー」

 

「ううん! ラニーちゃんすごくすっごく頑張ってたもん! それに……楽しかったでしょ?」

 

 無邪気な笑みを向けてそう言うアケビの姿に、ラニーの表情にも柔らかさが戻る。

 

「……うん、楽しかったよー。アケビちゃんはー?」

 

「もっちろん楽しかった! でも、ツバキちゃんとイソラさんのコンビもすごいよね!」

 

「ホントだよー、私達もコンビネーションは悪くないはずなんだけどなー」

 

 ポケモンをボールへ戻したラニー達がツバキ達へと歩み寄り、手を差し出すと、ツバキとイソラは顔を見合わせてから笑顔で握手に応じた。

 

「いや、正直驚いた。私とツバキは付き合いが長いからな。息はかなり合っているという自負があるのに、だいぶ追いつめられてしまった」

 

「お姉ちゃんも思った? わたしが前に対戦した時よりももっと連携がすごくなっててびっくりしちゃいました!」

 

 ツバキ達が正直な感想を言うと、ラニーがアケビをひょいと抱き上げ、2人揃ってピース。

 

「だって私達はー」

 

「タマムシが誇るさいきょータッグトレーナーなんだから! 名付けてふたりはタグトレ!」

 

「……アケビちゃん、そのネタは古いよー。だいぶ前の魔法少女アニメじゃないー」

 

 ラニーのツッコミから一拍置いて笑い合う2人を見て、この凹凸コンビもまた自分達と同様、血の繋がりは無くとも姉妹同然の絆で結ばれている……そう実感したツバキ達であった。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

本当は大晦日に投稿して、作品投稿を以て1年の締めとするつもりでしたが、あんまりお待たせしてもアレだなと思った結果、こんな中途半端な日時での更新となってしまいました、ゴメンなさい。
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