蒼天のキズナ   作:劉翼

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強敵とのバトルになるとガクンと更新頻度の下がる男、劉翼。
というわけで遅くなりました第77話です。


第77話:最後のジムリーダー

 ジム戦に向けての特訓にひとまずの区切りをつけたツバキは、ついにトキワジムの門を叩く。

 そこでジムリーダーとして待っていたのは、以前にツバキとバトルし、そして圧倒したギンことシルバーだった。

 バトル形式自体は4対4のシングルバトルという単純な物ながら、全員持ち物ありでのバトルはツバキにとっては前代未聞。

 慎重にポケモンと道具の組み合わせを選んだツバキはシルバーの前に立ち、ついに最後のジム戦が幕を開ける……。

 

 

 

「まずはお前だ。頼むぞ、ゲンガー」

 

 シルバーの投擲したボールから、紫色の丸っこい体格をしたポケモンが現れ、真っ赤な目でツバキを見据える。

 シャドーポケモン『ゲンガー』だ。

 

 

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 すぐさまポケモン図鑑でタイプを確認したツバキは、迎え撃つポケモンを頭の中で選抜し、ボールに手を伸ばす。

 

「(ゴーストとどく……ポポくんならゴーストは効かないけど、最初のバトルで毒を受けたら……それならここは……!)」

 

 指先でボールの順番を確認し、目当てのポケモンが入ったボールを掴むと、大きく振りかぶってフィールドに投げ入れた。

 

「お願いっ! ルーシア!」

 

 宙を舞うボールから飛び出した紫の影は、コマのように回転しながら地面近くまで降り立ち、ローブのような身体を大きく広げる。

 

「(ムウマージか……ゴーストタイプ同士はドラゴン同様、お互いに弱点を突く事ができる……さぁ、それを踏まえて何を仕掛けてくる……?)」

 

 シルバーが向けるは、バッジ7つを集め、それからさらに一皮剥けたと感じられるツバキへの期待。

 彼女の纏う雰囲気などから、自身の全力とまでは行かずとも、その大部分を発揮しても受け止め、破りうる程度には実力をつけているはずだという確信があった。

 両者のポケモンが出揃い、審判のミラが1歩前に出て右腕を上げる。

 

「では、トキワジム戦第1戦、ゲンガー対ムウマージ。……バトル…………開始っ!」

 

「“あやしいかぜ”!」

 

「潜行」

 

 ルーシアが先手を取って周囲の空気の流れを変え、叫び声のような風切り音と共に吹き荒ぶ風の刃でゲンガーを襲うが、直後、ゲンガーは足元の影の中へと沈んでしまった。

 

「えっ……!?」

 

「“シャドーボール”」

 

 ツバキ同様呆気に取られていたルーシアの影が揺らめいたかと思うと、そこからゲンガーの上半身が飛び出し、合わせた両手の間に黒いエネルギーの球を生成して射出した。

 完全に不意を打たれたルーシアは身をよじって回避しようとするが間に合わず、両腕で身体をガードするのが精一杯だった。

 

「ル……ルーシアっ!」

 

 爆風で飛ばされながらも体勢を立て直したルーシアが足元を睨むがすでにそこにゲンガーの姿は無く、元の位置に留まっていたゲンガー自身の影の中から現れた。

 

「今のは……!」

 

「これがゲンガーが持つ能力だ。影に潜み獲物の様子を窺い、そして仕留める……シャドーポケモンと呼ばれる所以て奴さ。加えて俺の鍛えたゲンガーは自分自身の影から独立して行動し、他の影との間を移動する事ができる。この神出鬼没の戦術……お前はどう対応する?」

 

「くっ……!」

 

 影から影へ。実体の無いあやふやな存在の間を自在に行き来するという驚異の能力。

 当たり前だが、ツバキはまだこんな戦術を取るポケモンを相手にバトルした経験は無い。

 

「(これじゃあ下手に攻撃しても隙を作るだけ……どうにかしてあの能力を封じるなり予想するなりしないと、こっちが不利になるしか……!)」

 

 だが、影などという物はその気になれば作る方法はいくらでもある。言ってしまえば何かを投げるだけでもその下には影ができるのだから。

 そのいくらでも移動先を増やせるゲンガーのこの能力を封じるなど、そう容易い事ではない。

 

「考え込んでいる暇は無いぞ。“あくのはどう”」

 

 自身の影に下半身を沈めたゲンガーが、高速でフィールドを移動しながら両手に禍々しいオーラを持つエネルギーの塊を発生させると、そこから散弾銃のようにエネルギー弾を乱射してくる。

 

 

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「“あやしいかぜ”で壁を作って!」

 

 刃に変えて飛ばした先ほどとは異なり、今度は自身の周りに風を巻き起こして防壁を作り出し、飛散する“あくのはどう”を受け止める事に成功した。

 が、依然として相手の動きを捉える事ができない状況に変化は無い。

 己の影の中に浮沈し、さらには別の場所の影に瞬時に現れるゲンガーをどう攻略すべきか。

 

「…………あっ…………」

 

 そこで思いついたのは、確実に通る保証は無いものの、現状他の方法は存在しないであろう策。

 バトルでは決断力が重要だ。ならばここで動かずしていつ動くのか?

 ツバキが何か閃いた事を察したルーシアが横目でこちらを見る。

 

「……うん、動くのなら……今しか無いよね! ルーシア! “マジカルフレイム”!」

 

「潜行」

 

 ルーシアが両腕を広げ、口から呪文のような鳴き声を上げると、身体の前に炎の塊が現れて見る見る大きくなる。

 

 

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 ゲンガーが影に消えてもかまわずその炎を膨らませ、そして地面へ噴射した。

 

「かまわないからどんどんやっちゃって!」

 

 ツバキの指示でルーシアは空中で回転し、地上を薙ぎ払うように炎を放ち続ける。

 

「……! これは…………なるほどな……大人しい顔をして、なかなか大それた真似をするじゃないか」

 

 焼け野原と化していくフィールドを見て、シルバーはツバキの意図を理解した。

 すなわち、相手が地上のどこから現れるかわからないのなら、その地上を全て焼いてしまえば良い、という意図である。 

 ツバキらしからぬ過激な作戦だが、実際神出鬼没の相手に対抗するならばこれ以上の策は考えつかない。

 恐らく今頃ゲンガーは行く先々に火の手が回っていて四苦八苦している事だろう。影の中などどうなっているかはわからないが、もしかしたら普通に熱がっているかもしれない。

 ともあれ今の状態で迂闊に影から出れば、その瞬間にヒヒダルマとなってしまう事はまさに火を見るより明らかだ。

 

「(あとは……!)」

 

 今、ゲンガーがこの状態から逃れる手段は1つ。

 浮遊し、回転するルーシアの真下。唯一炎を撒かれる事を免れた……いや、あえて残しておいたその場所に逃げ込む事だ。

 

「……“マジカルフレイム”!」

 

「“ふいうち”!」

 

 直後、その影から飛び出したゲンガーの爪がルーシアの胴に食い込むが、崩れ落ちそうになるところをギリギリで踏ん張ったルーシア。

 そして、体勢を立て直すと同時に唱えた呪文で生成された炎が発射され、その全身に浴びる事となった。

 

「“こごえるかぜ”!」

 

 ゲンガーは両手を振りかざして冷気を帯びた風を真下へ吹きつけて落下先の炎を消し、そこにできた自分の影の中へ逃げ込んだ。

 

「(よし、逃げられはしたが状況はそう悪いわけではない。“マジカルフレイム”は術式を内包した炎で相手の精神を攪乱する事で、特殊攻撃能力を低下させる技。特殊攻撃を得意とするゲンガーには効果が大きい。……まぁ、ルーシアも“シャドーボール”と“ふいうち”で小さくないダメージがあるのが懸念事項だが……)」

 

 イソラは冷静に状況を分析するが、どちらに軍配が上がるかはまだわからない。

 ジムリーダー側はポケモン交代ができない都合上、能力を低下させる事は大きなアドバンテージとなる。

 だが、地力の違いから総合的なダメージレースではゲンガー側がリードしているのも事実。

 炎によって出現場所が限定されているのは今も変わっていないし、待ち伏せ自体は難しくないが、影から“ふいうち”で飛び出す際のスピードは対応できるようものではなく、1、2撃もらう事は覚悟しなければならない。

 

「(……あと1回……あと1回ルーシアが耐えられれば反撃できる……!)」

 

「(こいつ……まだ何かこのムウマージに仕込んでるな…………上等だ……! 飛び込んでそいつを暴いてやる……!)“シャドーボール”!」

 

 先ほど消えた影から再び顔を出したゲンガーが、ルーシアへ向けてエネルギー球を2発投げてまたも影の中へ消える。

 少し距離があった事も手伝いルーシアはこれを回避したが、それは囮。今度はルーシアの影からゲンガーが飛び出し、本命である大型の“シャドーボール”をゼロ距離でルーシアへ叩き込んだ。

 

「っ! お願い! 耐えてっ!」

 

 爆圧で吹き飛ばされたルーシア。

 だが、その中でツバキと視線がぶつかり……ツバキは賭けに勝利した事を確信する。

 

「……! “あやしいかぜ”!」

 

 直後、瞬時に身体を捻って持ち直したルーシアは、落下中のゲンガーの真下へ信じ難いスピードで滑り込んだ。

 

「なっ……速いっ!」

 

 シルバーは先ほどまでとまったく異なるそのスピードに度肝を抜かれるが、舌を出して口元を舐めるルーシアの姿を見てそのスピードの正体を悟った。

 

「……カムラの実……!」

 

 極めて大きなダメージを受けた時に食べる事によって、一時的に素早さを向上させるカムラの実。

 これがツバキがルーシアに持たせた道具だ。

 この木の実のおかげでゲンガーを上回るスピードを得たルーシアは、下から上へ向かって“あやしいかぜ”を巻き起こし、ゲンガーを風に巻き込んで影への逃走を遮った。

 

「特性《がんじょう》でもないのに、ギリギリまで使えないカムラの実とは……! リスキーな事をする……!」

 

「ルーシアは気まぐれだけど、やる時はやってくれる子です! “いたみわけ”!」

 

 風が霧散し、無防備に空中へ放り出されたゲンガーとルーシアの間にオーラの管が繋がり、互いの残り体力を均等に分割する。

 

「(っ! こいつ……限界まで体力が減らないと発動しないカムラの実を持たせたのは、この“いたみわけ”での擬似回復まで見越しての事か……! そのまま戦闘不能になるリスクは大きいが、成功すれば能力上昇とそこからの反撃でリターンも大きい!)」

 

 さらに、ゲンガーは威力の乏しい“あやしいかぜ”と、ゴーストタイプに特別有利なわけでもない“マジカルフレイム”を受けただけなので、ルーシアに比べれば体力は大きく残っていたのも結果として“いたみわけ”の効果をより強力にした。

 

「(……俺のゲンガーにどう対応するかとタカを括っていたら、逆にこっちを追い詰める状況に持ってきやがった………………ふっ……)」

 

 シルバーの口が吊り上がり、笑みが浮かぶ。

 

「(面白い……! 嫌でもゴールドを思い出させる奴だ……! こないだのスカーレットって奴と同じ……あれに比べればまだまだ荒削りだが、確かな強者の匂いだ……!)」

 

 トキワシティ近郊で出会った当初は見た目と態度から侮っていたが、その時のバトルの中でポケモンとの強い絆を感じて認識を改め、そして今、彼女はさらなる成長を遂げて自身に挑んできた。

 この状況に高揚せずしてポケモントレーナーと……ジムリーダーとは呼べないであろう。

 それこそはまさにポケモントレーナーとしての本能なのだから。

 

「フンッ…………ツバキ!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 突然大声で呼ばれ、思わず素っ頓狂な返事をしてしまうツバキに、シルバーは顔を上げて笑みを見せた。

 

「改めて認めよう。お前は強い。対応力、決断力、そしてポケモンとの信頼……どれもトレーナーレベル8に相応しい……いや、もしかしたらそれ以上の実力だ」

 

 シルバーからの思わぬ称賛を受けたツバキは、2回3回と目をパチクリさせていたが、やがて力強い笑みを返した。

 

「……ありがとうございます! でも、わたしにとってはまだまだ夢への道の途中なんです! さっきシルバーさんが言ったように、わたしはポケモン達ともっともっと強くなります!」

 

 ツバキの切った啖呵を聞くと、シルバーはますます嬉しそうに歯を見せ笑う。

 

「フンッ! そう……それでこそだ! ポケモントレーナーたる者、その強さへの貪欲さこそを原動力にしていかないとな! だが、俺のゲンガーはまだまだ負けちゃいない! 本気で行くぞゲンガー!」

 

「ルーシア! まだこのジム戦は始まったばかり……このまま一気に行くよ!」

 

 両者の檄にそれぞれのポケモンが答えるように吼える。

 

「……シルバー様があんなに楽しそうに……ふふっ、この前のスカーレットさんといい、ゲントさんといい、今回のポケモンリーグは有望なトレーナーが豊作ですね」

 

 だんだん生き生きとしてきたシルバーを見て、ミラが柔らかく微笑む。

 

「ゲント……どこかで聞いたような…………………………ああ、あの男か。あいつもここに来たのか……」

 

 ミラの溢したその名前を聞いて、イソラはしばし考える素振りを見せてようやく思い出す。

 元クチバジムトレーナーのゲント。ジム巡りの旅をして武者修行をしていると言っていたが、ここにも挑戦済みとは。

 

「(……私のツバキに馴れ馴れしい気に食わんロリコン男だが、実力自体は確かという事か……ますます腹の立つ奴だな……)」

 

 「今度会ったらとりあえずぶん殴ろう」とイソラが考えている間に、バトルは再開されていた。

 

「“こごえるかぜ”だ!」

 

 真上に向けて冷風を吹き上げるゲンガー。

 当たればせっかくカムラの実で上がった素早さを元に戻されてしまうので、ルーシアは身をよじって直撃を避ける。

 しかし、ハナからゲンガーはルーシアを狙ってはいない。

 その狙いは“こごえるかぜ”を噴水のように高所から拡散させ、地面を覆う炎の勢いを弱めて鎮火する事にあると気付いたツバキは、すぐさまその目論見を潰すために動く。

 炎が消えれば再びゲンガーは影に潜って縦横無尽にフィールドを移動し、こちらへの一方的な攻撃が可能となってしまう。

 

「……! ルーシア、“あやしいひかり”!」

 

 低空飛行で素早くゲンガーとの距離を詰めたルーシアの目が怪しく輝き、それを見たゲンガーの目から光が失われる……寸前、ゲンガーは取り出した緑色の木の実をかじって飛び退いたのだ。

 

「えっ……!?」

 

 混乱状態にして一気に状況をこちらへ傾けるつもりが、即座に回復されてツバキは目を丸くする。

 

「……危ないところだったぜ。万一のためにラムの実を持たせて正解だった」

 

「(混乱を含むあらゆる状態異常を回復するラムの実か……恐らくは麻痺や氷状態でゲンガーの素早さを封じられる事を警戒して持たせてあったのだろうな)」

 

 予想外の状況となり、ツバキが怯んだ隙をシルバーは見逃さなかった。

 

「炎はだいぶ弱まった! “シャドーボール”で一気に吹き飛ばせ!」

 

 ゲンガーの両手に“シャドーボール”が形作られ、爆風で炎を消し飛ばす準備が整いつつある。

 ツバキとしては何がなんでも防ぎたいが、“あやしいかぜ”は範囲調節が少々難しく、上にいるゲンガーを真下から巻き上げた先ほどのような状況でもなければ、どのみち風で周りの炎を消してしまう恐れがある。

 “いたみわけ”は1度使った後では効果が薄く、何より技の性質上相手を倒す事はできない。

 ならばここで相手を遮るために打てる手は消去法で1つしか無い。

 

「“マジカルフレイム”!」

 

 今まさに発射された“シャドーボール”に、接近しながら呪文を詠唱したルーシアの放った炎が激突。

 “シャドーボール”はゲンガーと同じゴーストタイプの技なので威力は上がるが、さっきの“マジカルフレイム”のヒットで特殊攻撃が弱まっている。

 そのおかげか“マジカルフレイム”でどうにか拮抗できている……ように見えたが、2つの回転するエネルギー球によって炎は徐々に削られるように小さくなっていく。

 ここでやはり顕著になるのは地力の差。

 

「(うぅっ……つ、強い……! これがトレーナーレベル8用のポケモン……!)」

 

 まさにジム戦における最強レベル。

 弱体化してなおこちらを押しつつあるのだから、とんでもない強さである。

 恐ろしいのは、このゲンガーはあくまで手持ち4体の先発にすぎないという事で、少なくとも同等かそれ以上の実力を持つポケモン3体が後に控えている事実。

 

「(でも……負けられない!)」

 

 ツバキは手で頬をぴしゃりと叩いて己を奮い立たせ、この状況での最善策を考案すべく脳をフル回転させる。

 ルーシアが押し負けてしまう前に、なんとしてでも。

 

「(炎……周りの炎は弱まってるし簡単に消えちゃう……ここで倒せればもう炎を維持する必要は無いけど……)」

 

 鎮火されるのを承知で別方向からの攻撃に切り替える手もあるが、それで倒せなければ戦況はまたあちら有利に傾く。

 だが、このまま押し負けてルーシアが破れれば、後続のポケモンにまでその不利な状況を引き継ぐ事になってしまう。

 ならばどれだけ分が悪かろうと、賭けに出る以外に道は存在しないだろう。

 

「……ルーシア、上昇! そこから下に“あやしいかぜ”!」

 

 ツバキからの決意の込められた指示を受けたルーシアは呪文を中断して大きく高度を上げ、周辺の空気に干渉を始めた。

 術者のいなくなった“マジカルフレイム”はあっさり打ち消されて“シャドーボール”がフィールドに着弾し、拡散した爆風が弱まっていた周囲の炎を吹き消してしまった。

 それでもスピードではゲンガーを上回っているルーシアの攻撃に対し、若干地面から浮いている状態から影に潜行しての回避までは間に合わないとシルバーは判断。

 

「チッ……! “シャドーボール”で撃ち落とせ!」

 

 ここでルーシアを倒しておく必要があると考えたシルバーは、“シャドーボール”での撃破を試みる。

 “あやしいかぜ”は攻撃範囲が広いが、それ故に密度はさほどでもないため、“シャドーボール”でピンポイント攻撃をすれば“マジカルフレイム”同様に押しきれるはずだ。

 ゲンガーの目が赤く光り、影から抽出した黒いエネルギーを大型の球状に成形して投げようとするが、“あやしいかぜ”の到達の方が早い。

 結果、真上から遅い来る風刃を、持ち上げた“シャドーボール”で支える形となってしまった。

 

「(……おかしい。さっき“あやしいかぜ”を使った時は、ここまで発動も到達も早くなかったはずだ……! ………………しまった……! “あやしいかぜ”の追加効果か!?)」

 

 そう、“あやしいかぜ”には、まれに自身の全能力を引き上げる効果がある。

 さっき真下からゲンガーに攻撃した時にその効果が発動し、カムラの実を食べた状態からさらに強化されていたのだ。

 無論、これはツバキにとっても予想外ではあるが、有利な状況になったのには違いない。

 

「そのまま! そのまま押しちゃって!」

 

「押せっ! 突破しろ!」

 

 2体のポケモンの技は上下から激突し、互いに相手に当てようと押して押されを繰り返す。

 緒戦の勝敗は後々に大きく影響する事を理解しているが故に、両者決して譲らぬ応酬。

 それを繰り返す内に、“シャドーボール”にかかる負荷が限界を越え……内包されたエネルギーが大爆発を起こした。

 

「ひゃっ!? ル、ルーシア……!」

 

「くっ……! ゲンガー!」

 

 もうもうと立ち込める煙の中に、地面が盛り上がったようなシルエットが浮かぶ。

 

「「……!」」

 

 ……煙が霧散し、シルエットが露になる。

 そこにいたのは、うつ伏せに倒れたゲンガー……そしてその上に折り重なってぐったりとうなだれたルーシアだった。

 ミラはひと塊になって倒れた2体に駆け寄り、その身体に触れる。

 

「…………ゲンガー、ムウマージ、共に戦闘不能! 引き分けとなります!」

 

「ひ……引き分け……」

 

「……俺のゲンガーと引き分けとはな……」

 

 2人はそれぞれのポケモンに歩み寄り、まずツバキがルーシアを抱き起こして、次いでシルバーが片膝をついてゲンガーを撫でる。

 

「ご苦労様、すごく頑張ったね……ありがとう、ルーシア」

 

「よくやってくれた、ゲンガー。……弱った中でずいぶん長く頑張ってくれた」

 

 双方自分のポケモンを撫でた後にボールへと戻し、視線をぶつけて闘志を確認し合うと元の立ち位置へと戻っていく。

 

「ふっ……トレーナーがトレーナーならそのポケモンも大したもんだ。よく鍛えてあるムウマージだったし、お前の期待に応えようと実力以上の奮戦ぶりを見せたようだな」

 

「はい。特訓の時以上に気合いが入っていました。だからこそ……ルーシアの頑張りを無駄にするつもりはありません!」

 

 ルーシアのボールを見て閉じた目が、シルバーに向けて開かれると、その瞳にはさっきよりも激しい闘志の炎が燃えている。

 

「なら、俺も全力で受け止めてやる。遠慮無くお前達の全てをぶつけてこい! 次はお前だ、フーディン!」

 

 シルバーの2番手か姿を現す。

 ボールから飛び出したのは、黄色い身体と、狐や逆向きの星のような形の頭部、そしてそこから伸びる長い髭が特徴的な、ねんりきポケモン『フーディン』だ。

 

 

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 両手に持ったスプーンを舞うように振るい、サイコパワーを増幅させているようだ。

 

「フーディン…………エスパータイプ、かぁ……。シェルルを連れてくればよかったけど、言っても仕方無いね。ゲンガーと同じように素早いみたいだから……」

 

 左手でポケモン図鑑を確認しながら、右手で腰に並んだモンスターボールを選ぶ。

 

「……初めてのジム戦だね。行っけぇ! スフィン!」

 

 ツバキが次鋒として選んだのはスフィンだ。

 フィールドにボールを投げ込んだはずなのだが、何故かツバキの頭の上で固着した。

 

「ふぎゅっ……! ……もう、スフィンったら……これからバトルなんだよ?」

 

 両手で抱いて頭から下ろしたツバキにフィールドを指差され、スフィンは納得したように短い手足でフィールドへと駆けていく。

 

「デデンネか。たまにトキワの森で見かけるな」

 

「この子はそのトキワの森で仲間にしたポケモンです! とっても元気で甘えん坊ですけど、すばしっこいですよ!」

 

「それは楽しみだ。……ミラ」

 

 シルバーに声をかけられたミラが頷く。

 

「はい。それでは第2戦、フーディン対デデンネ。バトル…………開始っ!」

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

強敵をどう強敵に見せるかですぐにスランプになる奴。はい、自分です。
本作のシルバーはHGSSのシルバーのその後ですが、オーダイル連れな辺りはポケスペ版をイメージしています。
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