蒼天のキズナ   作:劉翼

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こうしんがない ただのしかばねのようだ

ところがぎっちょん!生きてるんだなぁ!
はい、というわけで長らくお待たせしました。何度も文章消してやり直し繰り返してたらこんなに経ってしまっておりました第80話です!


第80話:天地激突!互いの信念を懸けて!

 シルバーの3番手として現れたマニューラは、そのスピードを以てツバキを翻弄する。

 バルディとスフィンの2体をマニューラによって破られながらもその撃破に成功し、とうとうお互い最後の1体の激突となる。

 ジムリーダーではなく、1人のポケモントレーナーとしてバトルを楽しみたいシルバーは自身のとっておきのポケモンを繰り出し、ツバキもそれに応じてエースポケモンで迎え撃つ……。

 

 

 

「お願いっ! ポポくんっ!」

 

「頼むぞ、オーダイル!」

 

 フィールドに投げ込まれた2つのボールから現れたシルエットの内、1つは大きな翼を広げて空へと舞い上がり、もう1つは咆哮と共に地面を踏みしめる。

 

 

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 ツバキの繰り出したポポとシルバーの繰り出したオーダイル。天地に分かれた2体は、互いに闘志燃える瞳で睨み合う。

 

「ん……」

 

 そこでシルバーはポポの右脚に取り付けられたリングと、そこに嵌まった虹色の石に気付く。

 

「……そうか、メガシンカをモノにしたのか」

 

「モノにした……そう言えるかもしれません。わたし達自身は考えすぎてたところをスッキリさせたくらいの感覚ですけど……」

 

 少し考えてからそう語るツバキを見たシルバーは、小さな笑い声を溢すと、紐を通してペンダント状になった青い宝石のような物を懐から取り出した。

 

「お前のポケモンだけ持ち物が明らかなのはアンフェアーだな。……こいつは神秘の雫。ポケモンに持たせる事で水を扱う能力を向上させ、みずタイプ技を使った時に与えるダメージを増加させる持ち物だ。オーダイル」

 

 シルバーから神秘の雫を投げ渡されたオーダイルは紐を首にかけ、それを見届けたシルバーがミラに視線を向ける。

 気付いたミラも頷き、最後のバトル開始の合図をすべく右腕を掲げた。

 

「それでは、トキワジム最終戦……オーダイル対ピジョット。バトル……開始っ!」

 

 バトルがスタートしてもシルバーはすぐには動かず、その意図を察したツバキはメガペンダントを取り出してしっかりと握る。

 

「……行くよ、ポポくん。今のわたし達の重ねた想いも、力も、全部……シルバーさんにぶつけよう! ポポくん! メガシンカ!」

 

 ペンダントから溢れた光が煙のように立ちのぼり、同じようにポポから溢れ出た光と絡み合ってポポの身体を包み込んだ。

 大型化したシルエットが翼を振るい、光の衣を脱ぎ捨てて粒子を飛散させる。

 

 

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 黄色とピンクで彩られた飾り羽を靡かせ、己を見上げるオーダイルを甲高い鳴き声で威圧するが、オーダイルも負けじと睨み返してきた。

 

「……見事、と言わせてもらうぜ。だが、それだけで俺のオーダイルに勝てると思うなよ! 行くぞ! “アクアブレイク”!」

 

 強靭な脚で飛び上がったオーダイルが両手の爪を水流でコーティングし、右手から順にX字状に振り下ろすと、その斬擊の軌跡に沿って水圧の刃が飛ぶ。

 

 

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「“でんこうせっか”!」

 

 ヒュッという空気の揺れる音と共にポポが一瞬にして急上昇し、かわされた水圧カッターが背後にあったジムの壁に爪跡を刻み込むと同時に、いまだ空中に留まっていたオーダイルの横腹へポポの放った高速の体当たりがヒットした。

 以前は背後からの“でんこうせっか”を片手で受け止めて見せたオーダイルだが、今回はポポ側の著しい速度向上もあってわずかに反応が遅れて直撃を許してしまった。

 それでも空中でバランスを取り直し、しっかり脚から着地するのはさすがである。

 

「前にバトルした時点でスピードはかなりのものだったが、さらに磨きをかけたな。なら前回同様、こっちもスピードを上げさせてもらう! “こうそくいどう”!」

 

 オーダイルが左右にステップを踏んだかと思うと、見る見る内にその速度が上がり、足腰の筋肉を最大限に活性化させる。

 オーダイルは重量感のある身体からは想像もできない軽やかなステップでポポを挑発して見せた。

 

「……もう1度“でんこうせっか”!」

 

「迎え撃て! “れいとうパンチ”!」

 

 真横へ高速で飛び出したポポに対し、オーダイルは右手に冷気を込めて待ち構え、背後に気配を感じ取ると反射的にその場で小さく飛び跳ねて180度回転し、拳から前腕全体を冷気で覆うと、ストレートではなくラリアットのように右腕を振り回す。

 予感的中。振るった腕は見事ポポの横っ面を殴りつけ、その身体を軽く吹き飛ばしてしまう。

 だが、ポポも決して負けてはおらず、翼と尾羽をいっぱいに広げて制動をかけると素早く体勢を立て直して再度突進し、腕を振り抜いて隙のできたオーダイルに激突してよろめかせた。

 バトルが始まったばかりだというのに、まるで力比べのように互いに全身でぶつかり合う。

 そんな激突を何度か繰り返した両者は一旦距離を取り、それぞれのトレーナーの前へと戻っていく。

 

「(ポポくんのスピードにあんなについてこれるなんて……!)」

 

「(オーダイルのパワーとこれだけやり合えるとはな……!)」

 

 お互い、自分のポケモンが得意とするバトルスタイルに相手が食らいついてくる事に驚きつつ、それすらも楽しんでいる。

 

「(“アクアブレイク”、“こうそくいどう”、“れいとうパンチ”……たぶん残り1つは……)」

 

 相手の技の最後の1つに、ツバキは心当たりがあった。

 前回のバトルで、“ぼうふう”を撃ち貫いた上でその先にいたポポまでも一撃の元に撃墜した、みずタイプ最強の大技……“ハイドロカノン”。

 後からイソラに教えてもらった事だが、あの技は威力が絶大な一方でエネルギーの消耗が激しく、身体にかかる負担も大きいために連発できず、使用後はしばらく動く事もままならないリスキーな一面を持っているのだという。

 

「(つまり、使ってくるのは確実にこっちに当てて……倒せる時!)」

 

 そうなると遠距離攻撃は“アクアブレイク”で飛んでくる水圧カッターくらい。

 相手も追いつきつつはあるがスピードに関してはまだこちらが1歩リードしている現状では、“れいとうパンチ”はかわそうと思えば行けるだろう。

 それらをかわす過程で動き回っていれば、自然と“ハイドロカノン”は撃ってこないようになるはずだ。

 逆に言えば、それらを受けて動きが鈍ってしまえば、あの一撃必殺に等しい威力の水圧砲が躊躇無く撃たれるというわけだ。特に氷状態になりうる“れいとうパンチ”は極めて危険である。

 “こうそくいどう”でさらにスピードが強化される前に決着をつけたいところだ。

 

「ポポくん、“すなかけ”!」

 

 視界を奪う事さえできれば、このバトルはかなり優位に立ち回れる。そう考えたツバキの指示で、ポポが大きな翼を振り下ろし、オーダイル目掛けてフィールドの砂を巻き上げる。

 だが、そんな単純な手が効くならば苦労はしないものだ。

 

「“アクアブレイク”から“れいとうパンチ”だ!」

 

 左手の爪に水を、右手の拳に冷気を纏わせたオーダイルは、まず左手を全力で振り下ろして洪水のように多量の水分を飛ばし、砂の大部分に水を含ませると、今度は手刀で横方向に切り払うような動きで右腕を振るう。

 すると、砂だった物は拡散した冷気で凍結し、ロクに飛距離を稼げぬまま小さな氷の粒子へ変化して空中で砕け散ってしまい、後にはキラキラとした破片が舞うのみとなった。

 これをものの2、3秒でやってのけたのだから怪物じみている。

 

「(す、砂が一瞬で氷にされちゃった……!)」

 

 少々オーダイルの“れいとうパンチ”を甘く見すぎていたかもしれない。腕力に物を言わせて、冷気を乗せた風圧すらも武器にしてしまうとは。

 通常よりも腕を大振りにしなければならない上、射程も大した事はないとはいえ、なかなかに厄介な特技を持っている。

 スカーレットのミミロップといい、彼らほどの手練れとなると“れいとうパンチ”1つ取っても本来の用途と違う使い方をしてくるという事か。

 

「今度はこっちから行くぜ! “アクアブレイク”!」

 

 再度両手に水流を纏わせたオーダイルは、“みだれひっかき”の如く連続してガムシャラに腕を振り回す。

 当然、水圧カッターもその分だけ生成され、無数の水の刃がホバリングするポポに襲いかかってきた。

 

「(数が多すぎるし、あちこち飛びすぎてる……! かわすのはむしろ危ない!)……“ぼうふう”で守って!」

 

 ポポは光で覆って大型化した翼をはためかせて周囲の空気の流れを前面に集中させ、風の壁を作り出す。

 高い切断力を持つとはいえ、所詮は水である“アクアブレイク”のカッターは吹き荒れる風に遮られて縮小し、やがて霧散していった。

 ……ちなみにツバキはシルバーのオーダイル以外の“アクアブレイク”を知らないので当然のように受け入れているが、本来は爪や指の先に作った水の刃で切りつける近接攻撃であり、水圧カッターを遠距離へ飛ばす技ではない。

 これもまた“れいとうパンチ”同様、元々の用途の枠を超えた技へ昇華されていると言えるだろう。

 

「そのまま“ブレイブバード”!」

 

 翼の動きを一旦停止して後方へ宙返りをしたポポは、ぐんぐん加速して自ら張った風の壁を突き抜け、全身を鳥のような形のオーラで覆い、オーダイル目掛けてまっすぐに突撃していく。

 

「速いな……! 受け止めるぞ! “アクアブレイク”の水流を使え!」

 

 シルバーからの指示で、オーダイルは両手を手袋やグローブのように水を集中させて覆い、足でしっかりと地面を踏みしめて強力なオーラを纏うポポを迎撃する。

 ポポの勢いは凄まじく、激突と同時にオーダイルの身体は押し出され、踏み込んだ地面に深い跡が掘り込まれていく。

 だが、オーダイルのパワーはその勢いに勝利した。

 オーラと水流は互いを蒸発させ合っていたが、とうとうそのオーラを破ってオーダイルの両手がポポの両翼を捕らえたのだ。

 

「あっ……!?」

 

「そのまま地面に叩き付けろ!」

 

 翼の付け根を掴んだままポポを持ち上げたオーダイルは、その身体を勢いよく地面へ振り下ろし、腹から叩き付けた。

 あまりの勢いにポポの身体はバウンドし、本人の意思とは関係無く宙を舞う。

 

「ポポくんっ!」

 

「“れいとうパンチ”だ!」

 

 そして、その無防備なところへ冷気を纏った右ストレートが打ち込まれ、ポポは盛大に回転しながら吹き飛ばされてしまった。

 

「もう一撃!」

 

 まだまだ追撃の手は緩めない。

 地面を蹴ったオーダイルは、冷気放つ拳をさらに打ち込もうと、飛ばされるポポに追い縋る。

 そして、右腕を大きく振りかぶった瞬間。

 

「“すなかけ”!」

 

 ポポはカッと目を見開いて、地面側にあった左翼の先端で砂を掻きながら振り上げる。

 何枚もの羽で掻き出された砂が舞い、オーダイルの顔面を直撃すると、オーダイルはたまらず技を中断して顔を押さえる。

 

「あの体勢から“すなかけ”だと……!?」

 

「“ブレイブバード”!」

 

 翼を前面に振るって風を起こす事で急停止したポポは身体を回転させながら上昇し、しっかりと狙いを定めると再度弾丸のようにオーダイルへと突進する。

 両手で顔を押さえて悶絶するオーダイルは、抵抗らしい抵抗もできないままに“ブレイブバード”を腹に受け、初めて全身で地面へ倒れ込んでしまう。

 

「チッ……! 水で洗い流せ!」

 

 オーダイルは“アクアブレイク”の要領で爪に水分を集めて上空に水を撃ち出すと、重力に従って落ちてきた水で目を洗い始めた。

 パチパチとまばたきして洗浄を終えたオーダイルが立ち上がると、シルバーもホッと一息。

 

「(こいつは気が抜けないな……わずかでも隙を見せれば、あのスピードで怒涛の連続攻撃が襲ってきやがる。ここまで“すなかけ”を厄介に感じる日が来るとは思ってなかったぜ……!)」

 

「(あっという間に“すなかけ”を打ち消された……! なんてみずタイプらしいやり方……! ……基本的にもう“すなかけ”は効かないと思った方が良いかも……)」

 

 ツバキもシルバーも、自身の予想を越えてくる相手の発想力に脱帽し、同じ手は通用しないであろうと次なる戦術を練り上げる。

 

「……“アクアブレイク”!」

 

 交差させた両腕を開くように振るい、元通りの位置に戻っているポポへと水圧カッターを飛ばすオーダイル。

 

「“でんこうせっか”でよけて!」

 

「今だ! 接近しろ!」

 

 ポポが加速して上空へ飛び上がる回避動作を取った瞬間、オーダイルも走り出してカッターの後を追う。

 

「“れいとうパンチ”だ!」

 

 そして、ポポが飛翔してカッターを回避したその時、その後に続くように走っていたオーダイルが右腕を振り回した。

 

「っ! ポポくんよけて!」

 

 だが、カッターに気を取られていたポポは反応が遅れ、強力な冷気を秘めた風圧に煽られてバランスを崩してしまった。

 どうにか精一杯翼を振るって着地できたが、どうもこの“れいとうパンチ”の風圧、さながら“こごえるかぜ”のような効果も持ち併せているようで、ポポの翼の表面に霜が付いてしまっている。

 鍛え抜かれた技の冴えと、オーダイルの腕力だからこそ実現した副次効果というわけだ。

 

「っ……!(これ……何度も受けると危ない……!)」

 

 幸い本家よりも影響力は弱いようだが、それでも若干ポポの動きが鈍ってしまっているのだ。

 これを2回3回と食らえば翼を動かす事もままならず、飛行すらできなくなると考えて良いだろう。

 

「続けて行くぞ! “れいとうパンチ”!」

 

 オーダイルはポポへ駆け寄りながら、両腕を右に左にと順番に振り回して冷風を飛ばしてくる。

 前述した通り、腕が大振りになるのでそこまで連射速度は早くないが、危険な攻撃である事には変わり無い。

 

「“でんこうせっか”!」

 

 このままでは動き出しが遅いが、そこは“でんこうせっか”によって最大限に引き出される瞬発力でカバー。

 素早く飛び上がり、バレルロールや旋回、急降下等を組み合わせて吹きつける冷風の塊を回避していく。

 だが、当然の事ながら近付けば近付くほど相手から射出されてからのタイムラグが減り、かわすのは困難になっていくもので、次第に翼の先端を掠めそうになるため、結局一旦距離を取る事に。

 しかし、ここでこの回避し続けるという行動が、明確な結果として実を結んだ。

 

「(……! チッ、時間をかけすぎたか……!)」

 

 “アクアブレイク”、そしてこの“れいとうパンチ”というオーダイルの主力技2つには共通する動作がある。それは、腕を大きく振るという事。

 シルバーのオーダイルはかなりスタミナがある方だが、すでにこのバトルが始まってから左右合わせて80回以上は振っており、さすがに腕と肩が疲れてきたようでだんだんと振るスピードが落ちてきているのだ。

 ツバキとしては突破口を見出だせないので回避に専念していたのだが、それが思いがけず相手の疲弊を招いたのである。

 そしてシルバーからすれば、これまでのバトルはその多くが今の半分ほどの時間で終わっていたため、この事態は本来想定していたオーダイルのバトル時間をオーバーしたが故に起きた計算のズレというわけだ。

 

「(ったく……いつもは勝つにしても負けるにしても、もっと早く決まってるってのに、ここまで白熱するとはな……! ……だからこそ面白い!)」

 

 今はそんなズレすらも面白い、楽しい。

 放浪のトレーナー時代に経験した数多の強豪達とのバトルのように、立場にも時間にも囚われずにひたすら全力をぶつけ合うのが楽しくてたまらない。

 

「……オーダイル! 少しセーブするぞ!」

 

 シルバーの指示を受けたオーダイルは、両腕を軽く折り畳んで身体の前で構える、迎撃を重視したファイティングポーズを取る。

 この構えは大きく振りかぶるストレートより威力は落ちるが、非常に早くジャブを打つ事ができるため、“こうそくいどう”を使ったオーダイルの反応速度ならば“でんこうせっか”で攻撃されても咄嗟の反撃が間に合う。

 “れいとうパンチ”の威力と攻撃範囲を抑え、近接攻撃を仕掛けてきた相手を素早い反撃で凍結させる戦術に切り替えたわけだ。

 相手が唯一の遠距離技である“ぼうふう”を使ってきたなら、その間は風のコントロールのために移動はできないので、そこに“ハイドロカノン”を撃ち込めば良い。

 耐久力ではオーダイルに分がある以上、この戦術ならば体力の消耗を差し引いても優位に立った上でバトルを進める事ができる。

 

「……くっ……!」

 

 ツバキはまばたきも忘れて、ごくりと息を飲む。ツバキにも理解できるほどに、オーダイルの構えには隙という物が見られないのである。

 シルバーの個体は“アクアブレイク”も“れいとうパンチ”も中~遠距離の攻撃が可能になっているので忘れがちだが、鋭い牙と爪、逞しい手足、そしてガッシリとした体格などからも察せられる通り、本来オーダイルは近接戦闘でこそ真価を発揮するポケモンなのだ。

 オーダイル自身、自分の身体の得意とする戦い方を本能で理解している上、シルバーも決してその点の修練を疎かにはしていない。

 それがこの隙の無い構えとして表れ、ツバキの手出しを躊躇させている。

 

「(……だいぶダメージを与えたはずだけど、たぶんポポくんの方が危ない。“アクアブレイク”も何度か掠ったし、“れいとうパンチ”も受けちゃってる)」

 

 ……という理屈もあるにはあるが、実のところメガシンカの影響か、ポポの感じているらしき疲労感をツバキも感じ取っている。

 そして、そこから導き出された結論は、ズバリ「もう後が無い」である。

 ここから反撃体勢を整えている相手に対し、馬鹿正直に正面から接近戦を挑めば、体力差で押し負けるのは目に見えている。

 

「(……そうなると残った手は……一か八かあれしか無い、かな……)」

 

 そのままでは接近戦ができないとなれば、使える技は1つ。“ぼうふう”だ。

 だが、考え無しに使えばそれは間違い無く相手の“ハイドロカノン”を誘発して致命的なダメージを受けるため、一工夫が必要となる。

 しかもツバキの『工夫』は、それでもなお分の悪い賭けでしかないのだ。

 ツバキは最後のジムバトルでまでこれまで同様のイチバチの賭けに出なければならない事に苦笑しつつ、顔を上げてポポを背中に声をかける。

 

「……ポポくん!」

 

 ツバキからの呼びかけにわずかに首を動かしたポポはその意図を察してか、すぐに視線をオーダイルへ戻し、尾羽をパタつかせて返事の代わりにする。

 

「……うん! ポポくん、“でんこうせっか”!」

 

 その指示が聞こえた瞬間、ポポはバサバサと大きく羽ばたき、急加速してオーダイルへ全身で向かっていく。

 オーダイルは脚幅を広げて身構えるが、そこをシルバーが制止した。

 

「待て、動くな! ……横に逸れる……?」

 

 最初はまっすぐオーダイル目掛けて進んでいたのが少しずつ左へ逸れていき、そのままオーダイルの横を通過してしまった。

 

「(……“ぼうふう”……! “でんこうせっか”のスピードで攪乱して、こっちの“ハイドロカノン”発射態勢が整う前に片をつける気か!)」

 

 両者スピードに優れたポケモン同士のこのバトルでは、正面に撃つのと背後へ身体ごと振り向いてから撃つのとでは所要時間の差がより大きく影響する。

 これだけの高速戦闘となれば対応の一瞬の遅れが命取りとなるなど、さほど珍しい事でもない。

 だが、後ろ脚の発達したオーダイルの中でもシルバーの個体は特に運動能力を重点的に育てられており、片脚を軸に素早く方向転換する事など造作も無い。

 これまでもスピード自慢のポケモンは幾度も相手にしてきたが、オーダイルのその機敏さとパワーで打ち破ってきたのだ。

 

「……そこだ! “ハイドロカノン”!」

 

 右斜め後方の上空にポポの姿を捉え、右脚だけで立ったオーダイルはその場で回転し、間髪入れずに四つん這いになって射撃態勢を取る。ガッシリとした体格からは想像もつかないこの見事なバランス感覚には、その太い尻尾も大いに貢献しているのだ。

 さて、それはさておき、すでに周囲の風を操って自身を中心とした暴風域を作り出しつつあるポポに対し、オーダイルの開いた大口へは急速に水分が集められている。

 先に放たれるのは風か。水か。

 

「……発射だっ!!」

 

 結果は水。

 圧縮された水がカノン砲と見紛う高圧水流となって発射され、風のカーテンを突き進んでいく。

 ツバキが口を開いて何事か叫んでいるが、騒音に掻き消されてシルバーには聞こえない。

 結局は“ぼうふう”を破った“ハイドロカノン”でポポが撃墜される、前回とまったく同じ終結を見る。

 そう思われたその時、シルバーは異常に気付いた。

 

「…………? な……なんだ……あれは……!?」

 

 “ハイドロカノン”がヒットした“ぼうふう”の真ん中が渦を描き、そこへ2つの技が吸い込まれていく。

 

「ま……まさか……!?」

 

 言うまでも無い。この状況を作っているのは暴風域の中心にいるポポだ。

 ロケット団アジトでドラピオンとバトルした時のように、“ブレイブバード”のオーラを纏いながらドリルの如く回転するポポの周りで風が逆巻き、それに巻き込まれる形で“ハイドロカノン”の水も巻き上げられているのだ。

 

「もっと! もっと!! もっと!!! 空気も! 風も! 水も! 全部を巻き込んで!!」

 

 ツバキは高く掲げた右腕を振り下ろすと同時に、最後の指示を力の限り叫んだ。

 

「“ブレイブバァァーーーードォォッッ”!!」

 

 風と水とオーラの3つが高速で絡み合って螺旋を描き、天井ギリギリにまで上昇。カクンと先端がオーダイルを捉え、急降下する。

 “ハイドロカノン”の反動で身体の自由が利かないオーダイルに、これをかわす術など存在していなかった。

 真っ向から“ハイドロカノン”を受け止め、それすら己の力に変えて生み出した巨大な渦……名付けるならば。

 

 “勇気の大渦(ブレイブ・シュトローム)

 

 一歩間違えば力とするどころか己の身を滅ぼす事になるであろう、捨て身の戦法。

 覚悟と勇気が形となった渦の中へ飲み込まれかけたオーダイルがやっとの思いで左目を開くと、その膨大なエネルギーの奔流の奥から、ポポがまっしぐらに突撃してくるのが見えた。

 自身をしっかりと見据えるその瞳に宿る炎は、バトルへの闘志であり、トレーナーへの信頼であり、そしてトレーナーと共有する信念。

 それを見てとったオーダイルは、目を閉じて満足げな笑みを浮かべ、光の中へと消えていった。

 視覚も聴覚も使い物にならないフィールドの状況。

 ツバキ、そしてシルバーも、無駄と知りつつもそのフィールドから目を離せない。

 それはイソラとミラも同じであり、眩い光と旋風が支配するフィールドを見守り続けていた。

 

「(どっちだ……!?)」

 

「(立っているのは……!)」

 

 どちらが立っていてもおかしくはないし、どちらも倒れていてもおかしくない。

 故に、誰もが一刻も早く状況を把握しようと、目を凝らしてフィールドの中の様子を窺っている。

 徐々に目が慣れてくると共に、光が薄くなってフィールドが鮮明に見えてきた。

 全員の目に飛び込んできたのは、背中合わせに立っているポポとオーダイルの姿だった。

 

 

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 どちらも脚が震え、肩で息をしている状態。

 次の瞬間、オーダイルが一際大きな咆哮を上げると、最後の力を使い果たしたかのように膝をつき、うつ伏せに倒れ込んだ。

 ポポは両翼を地面につき、プルプルと震えながらも決して胴を接地させようとはしない。

 

「……おいっ!」

 

 シルバーに声をかけられ、我に返ったミラが慌てて腕を振り上げる。

 

「っ! オ、オーダイル戦闘不能! ピジョットの勝ち! よ、よって勝者……チャレンジャー・グレンタウンのツバキ!」

 

 その宣言が耳に入ると同時にポポの全身から力が抜け、ボスッと土煙を上げて倒れ伏して身体が一瞬光ったかと思うと、その光が剥がれて宙へと消えていき、後にはメガシンカの解けたポポが残された。

 

「あっ……! ポ、ポポくっ……!」

 

 思わず駆け寄ろうとしたツバキだったが、脚が思うように動かずに崩れ落ちてしまった。

 

「あ……あれ……? お、おかしいな……」

 

 自然と顔が下を向き、地面を見つめる事になっているツバキの視界に、見覚えのある靴が写り込んだ。

 首に力を込めて顔を上げると、そこにはポポを抱いたイソラが立っていた。

 

「これだけの時間メガシンカを維持したのは初めてだろう? 疲れて当然だ」

 

 イソラは目線を合わせるように片膝をついてしゃがむと、へたり込んだツバキにポポを手渡す。

 

「……ポポくん。……ありがとう……こんなになるまで頑張ってくれて……」

 

 ポポの身体を抱き締めるツバキに微笑みながら、イソラはキズぐすりを取り出してポポ、そして他の傷付いたポケモン達の手当てを始めた。

 シルバーも同じようにオーダイルを手当てしながら、ツバキ達を眺めていた。

 

「……負けたな、オーダイル。よくやってくれた。ツバキ……本当に面白い奴だ」

 

「シルバー様……お疲れ様でした」

 

「ん……悪いな」

 

 ミラにサイコソーダを手渡され、クイッと一口飲んだシルバーは、ポケットからプラスチックケースを取り出してミラに何事か伝えるとツバキへ歩み寄る。

 それを見たツバキは、イソラに肩を借りて立ち上がった。

 

「……良いバトルだった。礼を言わせてもらう」

 

「シルバーさん……こちらこそ、ありがとうございました」

 

「つい熱くなって、トレーナーレベル不相応のオーダイルを使っちまったが……お前はそれすらも見事に打ち破った。これはつまり、お前とお前のポケモン達は、ジムバッジ8個分よりも上の実力を持ってるって事だ」

 

 苦笑しながらケースを開いたシルバーは、中から葉っぱのような形をしたバッジを取り出した。

 

「ま、それでも証は必要だからな。……これがポケモンリーグ公認、トキワジムを突破した者の証……グリーンバッジだ。受け取れ」

 

 ツバキはイソラの顔を見て、笑顔と共に頷きを返されると、右手を伸ばしてバッジを受け取った。

 

「あ……ありがとう……ございます」

 

 そして、握り込んだバッジの感触がツバキに実感を抱かせる。すなわち、自分はシルバーに勝利したのだ、という実感を。

 

「…………や…………やったぁぁーーーーっっっ!! ……っとと……わわわっ!」

 

 喜びのあまり大きな声を上げて両腕を振り上げるツバキだったが、まだ少し脚がふらついて後ろに倒れそうになってしまう。

 その背中を大きな翼と紫色の腕が、そして脚をオレンジと緑、2対の手が支えた。

 

「っと……」

 

 ツバキが振り返ると、そこにはイソラの手当てを受けたポケモン達が笑顔で待っていた。

 

「……ポポくん……ルーシア……スフィン……バルディ……」

 

 共にこの激戦を戦った大切なポケモン達のその笑顔を見て、ツバキにも自然と笑顔が戻る。

 

「……ありがとう、皆! 皆のおかげだよ、シルバーさんに勝てたのは!」

 

 しっかりと足をつけてから振り向いたツバキは両腕を広げ、心からのお礼を口にしながらポケモン達を包み込む。

 

 

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「シルバー様、お持ちいたしました」

 

「ああ。……ツバキ」

 

 ポケモン達と抱き合って喜びを分かち合うツバキに、シルバーは3枚のディスクを差し出した。

 

「え……これ……」

 

「それぞれ“きあいだま”、“あくのはどう”、“マジカルシャイン”の技マシン。どれも使い勝手の違う技……どのポケモンにどういう目的で使わせるかはお前次第だ」

 

 技マシンを受け取り、ギュッと胸に抱いたツバキは、満面の笑みをシルバーへ向ける。

 

「……ありがとうございます! シルバーさん! ……でも、3つも良いんですか……?」

 

「気にするな、熱いバトルの礼だと思え。……それはそれとして、これでお前はバッジ8つ。つまり、ポケモンリーグ……セキエイスタジアムで行われるトージョウリーグへの出場資格を満たした事になる」

 

 「そういえばそうだ」という表情のツバキに、シルバーは若干呆れながらも言葉を続ける。

 

「開催は1ヶ月後。カントー及びジョウトから、8つのジムを突破した強豪達が集う大規模な大会だ。……気を抜くなよ、ツバキ。周りも自分と同等か、それ以上と思ってトレーニングを欠かさない事だ」

 

 ゴクリと息を飲んだツバキは、力強く頷いて答えた。

 

「……はいっ! が、頑張ります!」

 

 ツバキがグッと握り拳を作ると、ポケモン達も同じく拳を握る。

 

「……ぷっ…………はっはははは……! ったく、本当に面白い奴らだよ、お前らは。……期待してるぜ、ポケモンリーグ」

 

 シルバーが笑うと、ツバキも周りのポケモン達が自分の真似をしている事に気付いて「えへへ」と笑う。

 

 大丈夫。

 自分と、このポケモン達なら、どんな厳しい戦いにでも支え合って挑んでいける。

 そんな確信のようなモノを抱き、ツバキは改めてポケモン達を抱き締めた。

 

 

 

つづく

 

 

 

【ツバキの現在の手持ち】

 

■ポポ(ピジョット(♂️))

レベル62

特性:するどいめ

覚えている技

・すなかけ

・ぼうふう

・でんこうせっか

・ブレイブバード

 

■ミスティ(ラフレシア(♀️))

レベル53

特性:ようりょくそ

覚えている技

・エナジーボール

・どくどく

・ムーンフォース

・ねむりごな

 

■ケーン(マグマラシ(♂️))

レベル45

特性:もうか

覚えている技

・えんまく

・だいもんじ

・でんこうせっか

・ニトロチャージ

 

■ルーシア(ムウマージ(♀️))

レベル42

特性:ふゆう

覚えている技

・マジカルフレイム

・あやしいひかり

・いたみわけ

・あやしいかぜ

 

■スフィン(デデンネ(♀️))

レベル44

特性:ほおぶくろ

覚えている技

・ほっぺすりすり

・じゃれつく

・10まんボルト

・かいでんぱ

 

■バルディ(キバゴ(♂️))

レベル30

特性:かたやぶり

覚えている技

・りゅうのいかり

・カウンター

・つじぎり

・ダブルチョップ

 

【シルバーの使用ポケモン】

 

■ゲンガー(♂️)

レベル56

特性:のろわれボディ

覚えている技

・ふいうち

・あくのはどう

・シャドーボール

・こごえるかぜ

 

■フーディン(♂️)

レベル58

特性:マジックガード

覚えている技

・サイコキネシス

・みらいよち

・くさむすび

・マジカルシャイン

 

■マニューラ(♂️)

レベル61

特性:プレッシャー

覚えている技

・でんこうせっか

・バークアウト

・つららおとし

・じごくづき

 

■オーダイル(♂️)

レベル90

特性:げきりゅう

覚えている技

・こうそくいどう

・れいとうパンチ

・アクアブレイク

・ハイドロカノン




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

いやー、今回のスランプは長かったです。
ジム巡り編最後を飾るバトルなもんだから、なかなか納得のいく文章にならず、うんうん唸る事10日あまり…大変お待たせしてしまって申し訳ないです。
ただ、これでポケモンリーグ編まではそこまで気を遣わねばならんバトルは無いはずなので、幾分気が楽になりました。
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