互いに次々にポケモンが戦闘不能となり、とうとうポポとオーダイルのエース同士での激突となったトキワジム戦。
メガシンカしたポポ相手に引くどころかパワフルさを活かした戦い方で優位に事を運ぶオーダイルだったが、ポポの放った捨て身の一撃を受け、ついに地に倒れ伏した。
激闘の末、8個目のジムバッジを手にしたツバキは、晴れてポケモンリーグへの参加資格を得る。
開催を1ヶ月後に控えたトージョウリーグ。そこには一体どんな強敵が待ち受けているのだろうか……。
「……これで夢だったポケモンリーグに参加できるんだ……」
ジム戦の後、ポケモンセンターのラウンジでバッジケースの中に揃った8つのバッジを眺め、ポツリと呟くツバキ。
それを見たイソラが、その頭にポンと手を乗せて語りかける。
「ふふっ、だが、ここまで来たらもっと夢を大きくしたらどうだ?」
「……そ、そうだよね! うん……せめて予選突破…………うぅん、優勝目指していく!」
「ああ、その意気だ。ま、シルバーも言っていたが、他の参加者も同じ条件……バッジ8個を集めてやって来る実力者なのだから、簡単な話ではないがな」
特にトージョウリーグはカントー地方とジョウト地方の両方から参加者が集まるため、競争率が高くなりがちだ。
参加動機も様々で、ポケモンリーグに夢を抱いて参加する新人トレーナー、腕試しのため参加するベテラントレーナー、さらには全地方リーグ制覇を目指す強者までいる。
思うように捕まえられなかったり育たないポケモン、手強いジムリーダー、そして洞窟や山、水上など過酷な道程に挫折する者も少なくない中、それを乗り越える根気と実力を兼ね備えた者達が集まるのだから、厳しい戦いとなるであろう事は間違い無い。
「……うん、そうだよ! 今までも大変な事はたくさんあったけど、ポケモン達と一緒に乗り越えてきたんだもん! よぉし……目標はトージョウリーグ優勝!」
ツバキは自分を奮い立たせるように腕を突き上げて宣言する。
……が、その大声に周りの利用者が一斉に振り返った事で我に反って縮こまってしまった。
「………………あ、そうだ」
ふと思い出したように立ち上がったツバキは、備え付けの電話機へと走る。
――――グレンタウン
「あー……今日は忙しかったなぁ……」
トレーナー装束の入った鞄を肩にかけ、コキコキと首を鳴らして歩いているのはツバキの父であるシャコバだ。
ジムトレーナーである彼の仕事は、当然の事ながらジムへの挑戦者の数や質に応じて暇にもなるし忙しくもなる。
そして、今日はなんと挑戦者が14人にも上ったのだから忙しいのなんの。その内5人が自身を突破してカツラと戦い、見事バッジを手にしたのはさらにその中の2人に留まった。
「(リーグ開催が近いからか、滑り込み狙いのトレーナーが多いからなぁ……しかし、最後のあのトレーナー……強かった。俺だけでなくトレーナーレベル8のカツラさんもあれほど苦戦させるとは。ありゃ生粋のどくタイプ使いだな……)」
その日のバトルを思い出しながら家路を進むシャコバが自宅に到着して玄関を開けると、なにやら話し声が聞こえる。
「……まぁまぁ、良かったわねぇ。……えぇ……えぇ……うん、わかってるわよ♪」
見れば、ミミナが受話器を持って嬉しそうに会話しており、シャコバに気付くと笑顔で手招きしてきた。
「あ、パパが帰ってきたわ。替わるわね? ……はい、あなた。ツバキからですよ」
「何っ!?」
この時期、そしてミミナの様子から、もしやと思ったシャコバは受話器を受け取り、その向こうの愛娘に声をかける。
「……もしもし、ツバキか?」
「あっ、パパ! 聞いて聞いて! わたし、とうとう8個目のジムバッジを手に入れたんだよ!」
「やはり」と思いつつも、だからといって嬉しくないわけではなく……。
「……! そうか……! やったなツバキ! これで晴れてポケモンリーグ参加ってわけだ! 頑張ったな!」
自分の事のように嬉しさを抑えきれない夫の様子に、ミミナも満面の笑み。
「うん! トージョウリーグは1ヶ月後、セキエイスタジアムでだって! ……それで……あの……」
「当然、直接応援に行くとも! どうせリーグ期間中はジムは休みだ!」
「もちろんママも行くからね~♪」
ツバキに聞こえるように横から割り込むミミナ。
それを聞いたツバキの声に喜色が籠るのがわかる。
「……! うん! それまで特訓、頑張るね!」
「はっはっは! 特訓で頑張りすぎて本番でへばるなよ?」
父からの忠告に舌をペロッと出すツバキの姿が、シャコバの脳裏には鮮明に浮かぶ。
「はーい! それじゃ、そろそろ切るね。おやすみなさい、パパ、ママ!」
「ああ、おやすみ、ツバキ」
「おやすみ~♪」
ツバキが受話器を置くのを確認すると、シャコバもそっと元に戻し、それを待っていたミミナが笑顔で話しかける。
「うふふ、さすがあなたと私の娘ですね♪」
「才能はママ譲りだからな」
「それなら努力家なところはあなた似ですねぇ~」
2人は笑い合い、1ヶ月後に訪れる我が子の晴れ舞台に向けた準備を始めた……。
「ん~~~っ! よく寝たぁ……」
ツバキは思いきり身体を伸ばし、頭の真上まで昇った太陽に目を細める。
後ろを向けばポケモン達がポケモンフーズにがっつき、特に昨日ジム戦をした4体の食欲は凄い。
と、あまりにかき込みすぎて喉に詰まらせ、目を白黒させるバルディの背中を、ミスティが慌てて叩いて吐き出させた。
「バ、バルディ大丈夫!? ……はぁ、良かった……ミスティ、ありがとう。……それと、ごめんね。せっかく進化したのにジム戦に出してあげられなくて」
ツバキに謝られて不思議そうな顔をしたミスティは、「気にするな」と言わんばかりに手をパタパタと振っている。
この辺りはさすが姉御肌。あまり気にしない性質らしい。
「ツバキ、昼食を終えたらセキエイ高原に向かうか? 早めに参加登録しておいた方が良いと思うが」
グランブルマウンテンを飲んでいたイソラに声をかけられると、ツバキはハッとした様子で口に手を添える。
「あ、そっか。バッジ集めただけだと、参加資格をもらえただけなんだよね……」
そう、資格を得ても、参加登録を済ませなければ意味が無い。
開催は1ヶ月後だが、試合スケジュール調整などの兼ね合いから、登録手続きはその1週間前までに済ませる事になっているのだ。
「早めに着いても選手用の宿舎はもう開放されているし、トレーニング施設も使えるはずなので、さして困る事は無い……と、言いたいところだが……」
「……ところだが?」
「向こうでの特訓は必然、他の参加者に手の内を晒す事になる。逆にこちらも相手を探れるというメリットにもなるが。なので、この辺りで一通りの特訓をして、その仕上がりに納得してから向かってもいい」
参加登録をうっかり忘れる前に現地へ向かえば、そんな憂いも無くリーグ開催まで特訓に集中できるが、ライバル達に手持ちポケモンや技を見られる恐れがある。
ギリギリまでトキワシティ近郊で特訓していけばバレる事は無いが、1週間前には行かなければならない上に向こうでは特訓しないという事になるため、特訓に割ける総合的な時間が少なくなる。
どちらにしてもメリットとデメリットがあるため、一概にこちらが良いという選択肢は無い。
「うーん……」
ツバキは腕を組んでしばし考え込んでいたが、結論を出したのか目を開けてうんうんと頷く。
「……まだまだ経験不足のわたし達には、少しでも多く鍛える時間が必要だと思う。だから、早めに行こうかなって」
「そうか。なら、早速準備をしようか」
自分達のカップとポケモン達の皿を片付けてポケモンセンターを出たツバキとイソラは、まずフレンドリィショップでキズぐすりなどの消耗品を補充し、シルバーからもらった技マシンでポケモン達に新たな技を覚えさせ……ようとしたのだが、その途中。
「……ツバキ……残念だが、デデンネは“マジカルシャイン”を覚えないんだ……」
「立派なフェアリータイプで特殊技のが得意なのに……スフィンかわいそう……」
そう、念願のフェアリータイプ特殊技を手に入れたぞと思いきや、まさかの習得不可能だったのである。
2人からの哀れみの視線を受け、スフィンはなんとも言い難い気分になってしまった……。
さて、そんな準備を一通り終え、いよいよセキエイ高原ポケモンリーグ本部を目指してトキワシティを出ようとする2人。
「よぉ」
そこへ後ろから声がかけられた。
「えっ? あ、シルバーさん! ミラさんも!」
「お疲れが残っていないようでなによりです、ツバキさん」
振り返れば、ズボンのポケットに手を突っ込んだシルバーと、礼儀正しくお辞儀するミラが並んでいた。
「やっぱりもう行くんだな。お前ならトレーニングに費やす時間を重視すると思ったぜ」
「うっ……わ、わかっちゃいますか……?」
「ああ。俺も昔ポケモンリーグに参加した時は、周りの目を気にする暇があったらポケモンを鍛えようとしてたからな。……ほら、餞別だ」
そう言ってシルバーが差し出したのは、黒く長い帯だ。
「それは達人の帯。そいつを持たせたポケモンは、相手に効果の大きい技を使う時、より効率的にダメージを与えるコツを掴めるように……わかりやすく言えば相手に与えるダメージが大きくなる。色々なタイプの技を覚えたポケモンに持たせてやれ」
「わぁ……! ありがとうございます!」
ツバキは物珍しそうに帯を眺め、嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、用事はそれくらいなんだが………………頑張れよ。お前らならポケモンリーグでも良い線まで行けると思うぜ」
「はいっ!」
シルバーの激励を受けて元気よく返事をしたツバキは、イソラと共に手を振って別れを告げ、22番道路へと進んでいった。
「……ポケモンリーグか……」
「シルバー様?」
シルバーは遥か彼方を眺め、ここからは見えないセキエイスタジアムを思い浮かべる。
「レッドとグリーンはアローラ、ゴールドの奴はカロス……どいつもこいつも好き勝手にあちこち行ってやがる。俺も誰か適当にジムリーダー押し付けられそうな奴を見つけて、またポケモンリーグに挑戦してみるかな。……ミラ、やってみるか?」
「ご、ご冗談を! 私如きにシルバー様の代わりなど務まりません……!」
シルバーの冗談混じりの発言に、ミラは慌てて拒否の意思を見せる。
「ふっ、冗談だ。……なぁ、ミラ。昨日ツバキに負けた時……俺は負けたのが……なによりオーダイルを使って負けたのが悔しくて仕方無かったんだが、その時に思ったのが……親父もレッドに負けた時にこんな気持ちだったのかもって事だ」
「……サカキ様が……?」
「ああ。俺はポケモン、親父はロケット団て違いはあるが、どっちも自分を慕って、信じてついてきてくれる連中ってのは同じだ。当然、ロケット団を肯定する気は無いがな。……で、そいつらの頭として戦って、そして負けた結果、自分はその期待と信頼を裏切っちまったんじゃないかってな。要するに……自分が不甲斐なくて仕方無い……そんな気持ちさ」
シルバーは空を見上げ、そこにもう何年も会っていない父親の顔を幻視する。
「だから自分を磨き直そうとして姿を消した……向けられる信頼に応えられる強さを求めて。……あの頃の俺には、親父の背中が情けなく見えていたが……今になってあの時の親父の気持ちがなんとなく察せられるとはな……」
「シルバー様……」
胸元に手を当て、不安そうな顔をするミラに、シルバーは不敵な笑みを向けた。
「……安心しろ、俺まで消えようとは思わねぇよ。それよりミラ。ちょうどティータイムだし、お前ら当時のロケット団員から見た親父の事を茶でも飲みながら聞かせてくれないか。……今なら親父の事にも、少しは真剣に向き合える気がするんでな」
「……かしこまりました。シンオウから取り寄せた茶葉がございますので、準備をいたします」
お茶を淹れる準備のためジムに戻っていくミラの背中を眺めた後、シルバーは再度空を見上げた。
「(……今度会ったら散々に文句と愚痴を叩き付けてやる。覚悟しとけよ、クソ親父)」
心中で毒づいたシルバーは、ミラの後をのんびりと追う。
あの甲斐性なしの親父にどんな文句をぶつけてやろうかと考えながら。
一方、セキエイ高原へ続く22番道路を歩くツバキとイソラは、周りに増えてくる木々や草の香りにトキワの森を思い出していた。
「あの時はびっくりしたよね~、いきなり周りの景色が変わっちゃって」
「ああ。あのオーロットはトキワの森のリーダー格みたいだったし、なかなかの実力者だったな。……しかし、あれも案の定ロケット団の仕業だったし、いつの時代も迷惑な連中だよ」
「でも、おかげでスフィンに会えてシェルルも進化できたからなぁ~。……迷惑だなっていうのはわたしも思うけど。……あっ」
緑豊かという事は、野生のポケモンも多いという事。
ツバキの指差した先には、ポポよりも一回り小柄なピジョット。そしてそのピジョットがクチバシで毛繕いしているのはさらに小さい2体のポッポと……1体のオニスズメだ。
「ほう、珍しいな。種の異なるポケモン同士があんなに仲睦まじくしているとは。まぁ、ガルーラやハハコモリなんかは他の小さいポケモンを世話する事もあるにはあるが」
「へぇ……! ポポくん、見て見て。ポポくんもあんなに小さい頃があったよね!」
脇を飛ぶポポに語りかけると、ポポも幼いポッポの頃を思い出したのか、懐かしそうに4体のポケモンを眺めている。
「……本当に仲良さそうだね。そういえば、ポケモンて違うポケモン同士でも言葉が通じるんだっけ」
「ああ、そう言われているな。まぁ、科学的に実証されたわけではないが」
実のところ、ポケモンの言語というのは謎が多く、人間にはポケモンの種類ごとにまったく異なる鳴き声にしか聞こえないのに、当のポケモン同士は会話しているかのように意思の疎通ができているのである。
人間の言葉のような鳴き声をしているひとがたポケモン『ルージュラ』を参考にポケモン言語を研究していた学者もいたが、結果は芳しくはなかったらしい。
「……そういえば……確か人間にもポケモンの言葉を完全に理解できる者がごくまれにいると聞いたな。カントー地方ではトキワ出身のトレーナーに確認された事があるらしいが……」
仲睦まじいピジョット達に心癒されたツバキ達は歩みを再開したが、ふと思い出したようにイソラが呟き、ツバキもそれに反応する。
「そうなの? いいなぁ……わたしもポケモン達ともっとお話ししたいなぁ」
一応、以前ディグダの穴でスカーレットがやって見せたように、特性《テレパシー》のポケモンを介する事でポケモンの意思を読み取る事自体は可能だが、やはり口から紡いだ言葉を伝え合うのとは違う。
「まぁ、これも科学的根拠は無いから、事実か眉唾かは解釈次第だな」
「えー……でも、本当だったら夢があるよね! ね、ポポくん?」
呼びかけられたポポは同意するように短い鳴き声を上げる。
「ポケモンと話せる人かぁ……会ってみたいなぁ……♪」
もしもそんな人物がいるのなら、聞いてみたい事がたくさんある。
自分とポケモン達は心が通じ合っているという自負はあるが、やはり直接言葉も交わしたいというのがツバキの本音で、ポケモンと会話する秘訣などがあればぜひ教えてほしいものである。
そんな事を考えながら進むツバキ達の前に、セキエイ高原へ続く最後の関門……チャンピオンロードが立ち塞がる。
その入口を覗き込み、ツバキは薄暗い洞窟の中を探ろうと目を細める。
「……お姉ちゃん、ここは……」
「チャンピオンロード。22番道路とセキエイ高原を結ぶ険しい洞窟だ。中には手強い野生ポケモンも生息し、しかも全体的に好戦的な傾向にある。入り組んだ洞窟と野生ポケモンの試練を見事に乗り切った者が辿り着けるのがポケモンリーグというわけだ」
イソラの説明を受けたツバキは、ごくりと息を飲む。
「そ、そっか……ここを抜けなきゃいけないんだね……よし……!」
ツバキは深呼吸して気合いを入れると、2つのボールを取り出す。
「ポポくん、一旦戻って。中は狭そうだからね」
左手に持ったボールにポポを戻すと、次いで右手のボールに視線を落とす。
「暗いところといえば……お願いね、ケーン!」
ボールの中から現れたケーンは、周りが薄暗い事に気付くとツバキの意図を察し、頭と背中に燃える炎の出力を上げて周囲を照らし始め、壁や天井のゴツゴツとした岩肌まで見えるようになった。
「ありがとう、ケーン。……それじゃあ……行こう……!」
ケーンと並んで歩き始めるツバキの背中に、確かな成長を見たイソラは柔らかく微笑む。
実のところ、イソラのポケモンならばセキエイ高原までひとっ飛びできるし、この洞窟をさらに明るく照らす事もできる。
だが、これはツバキの旅であり、自分はその同行者にすぎない。
彼女自身の試練である以上、手助けは最低限に留め、極力自分の力で突破させねば意味が無い。
ツバキを溺愛し、彼女に対しては甘いイソラではあるが、それはあくまで姉貴分としての対応。
ポケモントレーナーとしては極めて公平に接し、必要以上の助力をしないという節度はわきまえているのだ。
「(頑張れよ、ツバキ。お前とポケモン達の力で見事ここを抜けるんだ)」
可愛い妹分を手助けしたい姉としての衝動と、甘やかしてはならないトレーナーとしての自制心がせめぎ合い、どうにか自身を抑え込んだイソラは、少し遅れてツバキの背中を追い始めた。
ポケモントレーナーの憧れ。栄光のポケモンリーグ。
その輝かしい舞台を目指し、少女達は暗い闇の中へと足を踏み入れた……。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
サカキとシルバーの関係性を知った時の衝撃は大きかったですなぁ…ポケスペでさらに掘り下げられてわりとお気に入りの設定ですねあれは。
原作のチャンピオンロードは波乗りだ怪力だと面倒だった…。