蒼天のキズナ   作:劉翼

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面倒くささに定評のあるチャンピオンロードを進む第82話です!


第82話:栄光への道、チャンピオンロード

 8つ目のジムバッジを手に入れたツバキは、いよいよトージョウリーグへの参加登録のため、セキエイ高原目指してトキワシティを後にした。

 道中、野生のピジョットとポッポに混じって本当の家族のように仲良く遊ぶオニスズメを目撃し、違う種のポケモンでもあれだけ仲良くなれるのだと心を和ませるツバキ達。

 そのまま歩みを進める彼女達を待ち受けるは、セキエイ高原へ向かう者の最後の試練、チャンピオンロード。

 薄暗く起伏に富み、攻撃的な野生ポケモンが潜む洞窟へ、ツバキ達は足を踏み入れる……。

 

 

 

「うーん……広くなったり狭くなったり……思ってたよりずっと進むのが難しいなぁ……」

 

 狭い通路を横向きになってすり抜けるツバキのその言葉通り、チャンピオンロードの内部は狭く細長い通路と、少し広い小部屋のような空間で構成されている。

 おまけに分かれ道や段差、果ては梯子やロープで登り降りしなければならない場所もあるなど、予想以上に厳しい道だ。

 

「ああ、私が前に来た時よりもさらに険しく……む……んぐぐ……くっ!」

 

 自身の経験を語ろうとしたイソラが動きを止め、なにやら四苦八苦している。

 ……どうやら通路が狭すぎて胸が引っかかったらしく、一旦下がって幅の広い所まで戻り、身体の角度を変えてリトライする。

 

「(……わたしまだ子供で良かった……)」

 

 いつもは発育の良いイソラを羨ましく思うツバキであったが、今ばかりは身長が低く身体の凹凸も少ない自分に感謝しておく。

 

「むぅ……いくらなんでも体型によっては通る事もままならんというのは極端すぎる気がする……」

 

 イソラはブツブツと愚痴りながらツバキの後ろを少し遅れてついてくる。

 そして、だんだんと道幅が広くなり、久々の小部屋に到着した瞬間、炎の明かりで先導していたケーンが突然唸り声を上げ始めた。

 

「ケーン? ……ひゃあっ!?」

 

 様子の変貌したケーンに声をかけた直後、頭上を黒い影が素早く掠めていった。

 

「ツバキっ!? どうした!?」

 

「な、何かが頭の上を……っ! ケーン、炎を強くして!」

 

 ケーンがツバキからの指示で頭の炎の出力を上げると、前方を照らす明かりが強くなり、襲撃者の姿が浮かび上がってきた。

 揺らめく炎に照らされ、その宝石のような目はより輝きを増し、鋭く生え揃った歯を笑うようにカチカチ鳴らしている。

 

 

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「あれは……ヤミラミか!」

 

 ようやく追いついたイソラがそのポケモンの名を告げると、ツバキは即座にポケモン図鑑で相手のタイプを確認する。

 くらやみポケモン『ヤミラミ』。そのタイプは……。

 

「えっと……あくとゴースト…………ん? あれ……? って事は………………フェアリータイプでしか弱点を突けないの……!?」

 

「そうなる。とにかく弱点の少なさが特徴なポケモンでな」

 

 効果的にダメージを与えるには、相手がタイプ相性上苦手とする技で攻撃するのが最も手軽かつ確実。

 その苦手なタイプが少ないというのは、それだけでアドバンテージとなるのだ。

 

「ノーマル、かくとう、エスパーと無効にしてしまうタイプも3つあるし、搦め手を得意とするので厄介な奴だ。…………ツバキ、さらに厄介になりそうだぞ」

 

「え? ……うっ……」

 

 イソラに倣って周りを見渡すと、さらに4体のヤミラミが洞窟の奥から這い出してきているのが見えた。

 

「(5体……さすがにケーンだけじゃ厳しいかも……ポポくんが飛び回れるほどの広さは無いから……)」

 

 腰のボールに手を伸ばしながら脳をフル回転させて各選択肢をシミュレートし、ボールを掴む頃には結論が出ていた。

 

「ミスティ! スフィン!」

 

 構えた2つのボールから飛び出した光が大きな花と小さな球体を形成し、ケーンの左右にミスティとスフィンが並び立つ。

 

「(なるほど、ミスティとスフィンか。ポポは洞窟内では機動力を活かしきれないし、あくとゴーストを併せ持つヤミラミにルーシアは相性が悪い。バルディは複数の相手とのバトルは経験が無いからか? スフィンも慣れているわけではないが、フェアリータイプを持つので有利に立ち回れるだろう。ミスティは“ムーンフォース”を持つし、なにより経験が豊富だ)」

 

 イソラは並んだポケモンを見てツバキの選出理由を考察しつつ、納得して頷く。

 ヤミラミ達は相手が増えた事で刺激されたのか完全に戦闘体勢に入り、中央の個体が周りに指示を出すと、両端に位置する2体の宝石状の目が輝きを増し、光が弱まったと思った次の瞬間、光線を発射してきた。

 

「(“パワージェム”か)」

 

「ミスティ、“エナジーボール”! スフィン、“10まんボルト”!」

 

 ミスティが身体を傾けて頭部中心のめしべから緑色のエネルギー球を、スフィンが電気袋を帯電させてアンテナ状の髭から電撃をそれぞれ放って迎撃する。

 両者の技は空中で激突して爆発を起こしたが、今度はその煙の中から3体のヤミラミが紫色のエネルギーでコーティングした爪を振りかざして飛びかかってきた。

 

「気を付けろ! “シャドークロー”だ!」

 

「っ! “ねむりごな”!」

 

 向かってくるヤミラミ達へ向かってミスティの花びらから青白い粉が撒かれる。

 吸えばたちどころに眠気に襲われる“ねむりごな”。だが、その危険性を察知してか、ヤミラミの内の1体が近くにあった岩に左腕を絡めて固定具にすると右手でもう1体を掴み、さらに掴まれたヤミラミが残る1体を掴んで強引に引き戻した。

 

「かわされた……!?」

 

「かなりのチームワークだな……あの真ん中の奴がリーダーか」

 

 常に他4体の中央に立ち、こちらと距離を取りながら仲間に指示を飛ばしている個体。あのヤミラミによってこの集団はかなり統制が取れており、先のように2体が目眩ましを仕掛けて残り3体が近接戦闘を行うという連携も可能としている。

 おまけに洞察力にも優れ、“ねむりごな”が撒かれるやすぐさま仲間を引き戻してその回避に動いている。

 

「(……強いな。図鑑機能に従って数値換算をすると、少なく見積もってもレベル60はある)」

 

 恐らくはこの洞窟のヤミラミの中でも最上位に位置する個体であろうとイソラは睨む。

 

「(確かに強いけど、落ち着いていけばきっと……! ニビジムでのトリプルバトルを思い出して……!)」

 

 相手があの時より2体多いが、それでも複数同士のバトルは経験済みだ。

 となれば、この面子でどのような連携をしていくか。そして、相手の連携を如何にして崩すかが重要となるだろう。

 と、ツバキが考えている間に再び相手の攻撃が始まった。

 2体が“パワージェム”、もう2体が両手の間に紫色のエネルギー球……“シャドーボール”の発射体勢に入っている。

 

「ケーン、“だいもんじ”!」

 

 技が撃たれる前ならば隙の大きい“だいもんじ”も間に合うし、そもそも4体分のエネルギー総量に対抗できる大技となるとこれくらいだ。数で劣っている分、単発火力で補わねば。

 

「“エナジーボール”と“10まんボルト”で援護!」

 

 そこにミスティとスフィンによる支援も入れば、少なくとも押し負けるという事は無い。

 しかし、ケーンに少し遅れて2体が技の準備に入ったその時。真ん中のヤミラミの影が急速に伸びてきて、ケーンの背後で膨れ上がったかと思うとその背中に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「えっ……!?」

 

「(“かげうち”……!)」

 

 技を出そうとした瞬間に攻撃を受けてケーンが怯み、残る2体もそちらに気を取られた結果、ヤミラミ達の集中砲火をもろに浴びる事となってしまった。

 

「ミスティ! ケーン! スフィン!」

 

 もうもうと立ち込める煙の中、大きな影が揺らめく。

 煙が晴れると、ケーンとスフィンの前に大きな花びらを盾のようにして仁王立ちするミスティの姿が現れた。

 攻撃が止むと、ミスティは顔を上げながら花びらを叩いて汚れを払うと、鼻息荒くヤミラミ達を睨みつける。

 

 

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『母は強し』という言葉があるようにこういう時女性は強いようで、その迫力はまさに皆の姉御。

 

「ミ、ミスティすごい……」

 

 クサイハナの頃よりも遥かに大きくなった花びらの影響か、相対した相手に与える威圧感はかなりの物のようで、ヤミラミ達もリーダー格以外の4体は怯んで1歩後退り。

 だが、リーダーが鼓舞するように大声を上げると、どうにか戦意を取り戻してミスティらと向かい合う。

 

「ふむ……さっきのも上手いな。素早く攻撃できる“かげうち”で気を引いて、仲間の攻撃を当てやすくしたのか。ミスティのおかげでケーンとスフィンは無事だったが……」

 

 イソラはグラエナやマニューラが優れたチームワークで獲物を襲う事は知っているが、ヤミラミがこれほど戦術的に立ち回るのは初めて見た。

 色々な地方を巡って色々なポケモンを見てきたが、まだまだポケモンには自身の知らない面もあるのだなと、イソラは感慨深げに頷いている。

 

「……だけど、技のパワーはこっちが上のはず……!」

 

 ツバキは周囲を見渡して地形を観察すると、このヤミラミ達への対抗策を脳内で組み上げていく。

 

「……よしっ! ケーン、“だいもんじ”!」

 

 あまり悩んでいるとまたさっきのような連携攻撃が飛んでくるであろう今の状況では、大まかな戦術を決めたら戦いながら微調整をしていくのがベストだろう。

 ケーンの身体の炎が音を立てて噴き上がり、体内で増幅された炎が口から巨大な『大』の字となってヤミラミ達のど真ん中へと発射される。

 この小部屋はあくまで通路よりは広いというだけで、屋外とは比較にならないほど狭い。

 その真ん中を大きな炎が突き進んでくるのでは、纏まって行動しての回避は難しいと理解したようで、やむなくヤミラミ達は四方に散って“だいもんじ”をかわした。

 

「今だよ! “エナジーボール”をバラ撒いて!」

 

 この分散こそがツバキの狙いである。

 単体ではこちらに及ばない彼らが、リーダーによって統制されたチームワークで手強くなっているのならば、その統制を失わせれば良い。

 ミスティのめしべから浮かび上がった大きなエネルギー球は、細かい弾丸へと分裂してヤミラミ達へ散弾銃のように乱射される。

 バラバラに逃げていたヤミラミ達はこの畳み掛けるような広域攻撃には対処しきれず、1体、また1体と“エナジーボール”に被弾してしまう。

 

「“じゃれつく”!」

 

 そして、その被弾でバランスの崩れた相手へスフィンが自慢の素早さで接近し、尻尾を叩き付けて噛みついてと襲いかかる。

 分散させてからの各個撃破。相手に数で劣っている場合のシンプルかつ効果的な常套手段である。

 

「まず1体! スフィン、一旦戻って!」

 

 “じゃれつく”を食らった個体が倒れた頃、“エナジーボール”が止み、ヤミラミ達がまた集結しだしたのを見たツバキがスフィンを呼び戻す。

 相手は5体での行動が基本だったのか、1体が倒されてざわつき始めた。

 やはりというか、リーダー以外の個体は冷静さなどに乏しいようで、3体がそわそわと落ち着きを無くしているのがわかる。

 しかし、唯一微動だにしていなかったリーダーが一喝すると、3体はビクッとした後に顔を見合わせ、爪を構えて戦闘態勢に戻った。

 

「うぅん……あのリーダーを倒せれば早いんだけど、そう簡単にもいきそうにないなぁ……」

 

 先ほどイソラが推察した通り、このリーダー格の個体の基本能力はレベル60相当。他のヤミラミを残した状態で戦うのは少し難しい相手だ。

 

「(やっぱり1体ずつ倒していくのが1番確実、かな)スフィン、“10まんボルト”!」

 

 とにかく相手より先に動く。

 後手に回れば数の暴力でどんどん不利になっていくのは目に見えている以上、ひたすら攻める。

 スフィンから電撃が放たれると、リーダーのヤミラミはそれをかわしながら鳴き声を上げる。

 すると、2体が飛び跳ねながらミスティとケーンへ“シャドーボール”を放ってきた。

 

「“エナジーボール”で迎え撃って! ケーンは“でんこうせっか”でよけて!」

 

 ミスティは自分に飛んでくる“シャドーボール”へ素早く練り上げた“エナジーボール”をぶつけて空中で爆散させ、その脇をすり抜けてケーンに向かったもう1発は、“でんこうせっか”の急加速で回避されて壁に着弾した。

 だが、ツバキはすぐにそれが囮だった事に気付いてハッとする。

 

「っ! スフィン!」

 

 そう、今の“シャドーボール”は、ミスティとケーンの動きを一瞬封じるための物。

 リーダーともう1体は、その隙に“シャドークロー”でスフィンへと襲いかかっていたのだ。

 スフィンは尻尾を振り回す“じゃれつく”でこれに対応するも、1本の尻尾と4本の腕では文字通りの手数が違うのは当たり前であり、2、3回凌いだところで横からの薙ぎ払うような攻撃に吹っ飛ばされてしまい、そこをもう1体にも狙われて叩かれ、壁と天井でバウンドして落下する。

 ヤミラミ達は落ちてくるところへさらなる追撃をしようと待ち構えていたが、その頭上を何かが高速で通りすぎ、それと同時にスフィンの姿が消えてしまった。

 その『何か』はツバキの前に着地し、姿勢を低くして背中に乗せていたスフィンを降ろした。

 

「ケーン! スフィンを助けてくれたんだ、ありがとう!」

 

 それは“でんこうせっか”で加速していたケーンだ。

 “シャドーボール”をかわした後にスフィンのピンチに気付くと、そのまま勢いを殺す事無く駆けつけ、落ちてきたスフィンを回収したわけである。

 スフィンはどうにかこうにか自力で立ち上がるも、攻撃と壁への激突でダメージは大きい。

 壁の岩肌で傷付いたスフィンを見たケーンが眉をひそめ、ヤミラミ達へ向き直って頭と背中の炎をこれまでに無いほど燃え上がらせる。

 その炎は見る見る膨れ上がり、ついにはケーンの全身を包み込んで強烈な光を放ち始めた。

 

「ケ、ケーン……!?」

 

「この輝きは……進化か!」

 

 炎のようなシルエットがゆらゆらと燃えるように大きく伸びていき、ツバキが見上げるほどに高くなった。

 次の瞬間、その身体を包んでいた光が弾け飛び、キラキラと光る火の粉が舞う中、ケーンが目を開く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 これこそ首の回りからより激しくなった炎を噴き出す、かざんポケモン『バクフーン』だ。

 4足歩行が基本だったマグマラシから一転し、太くたくましくなった後ろ脚で立ち上がる2足歩行へと変化。

 首回りから炎を噴出しながら、鋭くなった牙の生える口を大きく開けて相手を威嚇する。

 

「お……おっきい……!」

 

 大きさ的にはバクフーンは一般的に1.7mほどで、シェルル……つまりグソクムシャの2mには及ばないのだが、身体から放つ熱気で周囲の空間が歪んでいるためか、さらに大きく見える。

 

「……す……すごいっ! おっきくて格好良いよケーン!」

 

 ツバキからの称賛を受けたケーンは、照れ隠しかヤミラミ達へ威嚇の咆哮を上げる。

 急激な温度の上昇も相まってか、ぶつけられる威圧感は圧倒的で、他3体はもちろん、ここまで冷静さを失わなかったリーダー格も思わずたじろいでしまう。

 と、同時にツバキのポケモン図鑑からアラームが鳴り響き、開いてケーンの個体データを確認すれば、そこにはかざんポケモンという分類に相応しい技が燦然と輝いていた。

 

「……よし……! ケーン! “ふんか”!」

 

 目を大きく見開いたケーンの炎の勢いがさらに増し、轟音を洞窟内に反響させながら激しく燃え上がる。

 薄暗い洞窟は真昼間のように明るく照らされ、暗がりに慣れたヤミラミ達はたまらず目を覆う。

 そして、燃え盛る勢いが最高潮に達したその瞬間、首回りの炎がヒュッと引っ込み、開いた口から前面へ怒濤の勢いで高温の炎が発射される。

 扇状に広がっていく炎の前に逃げ場など無く、ヤミラミは次々にその奔流に飲まれていった。

 

「……す……すごい……」

 

 ツバキがその火力に呆気に取られている内に炎が弱まり、後にはヤミラミ達がピクピクと痙攣して倒れていた。

 

「やったね、ケー…………あれ? 1……2……3……」

 

 ツバキは倒れたヤミラミ達の数を数え、1体足りない事に気付いたまさにその時、上から小石と砂が落ちてきて、何事かとケーンが顔を上げると、1体のヤミラミが落下しながら目にも止まらぬ速度で爪を振るい、がら空きの胴に強烈な一撃を浴びせた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ケーンっ!?」

 

「あいつ……! 天井に爪を突き刺して炎をやり過ごしたのか!」

 

 やはり他のヤミラミとは別物と呼べる実力を持つらしく、地面に着地するとバク転で一気に距離を取る。

 

「ツバキ! “ふんか”は受けたダメージが大きいほど威力が減る! 今の“シャドークロー”はかなり効いたようだから、さっきみたいな威力は期待できないぞ!」

 

「わ、わかった! ケーン、“ニトロチャージ”!」

 

 攻撃された部分をさすっていたケーンはマグマラシの時のような4足歩行体勢を取り、1度引っ込めた炎を再度メラメラ燃やしながら前脚で地面を掻くと、勢いよく炎を噴出し、それをトリガーに一気に加速してヤミラミへと突っ込んでいく。

 進化で筋力が大きく強化され、加速力もマグマラシの頃の比ではない。

 その一撃はヤミラミに回避の間を与えず直撃したが、相手もタダで攻撃を受けてやるつもりはさらさら無く、突進してきたケーンの頭に左腕でしがみつき、右手の爪で“シャドークロー”による攻撃を仕掛け続ける。

 だが、耐える。

 ひたすら“シャドークロー”に耐えながらますます身体を覆う炎を燃え上がらせて加速していく。

 そして、その先にあるのは……壁だ。

 それに気付いたヤミラミは離れようとするが、ケーンはヤミラミの脚に噛みついて逃亡を許さない。

 そのまま加速し続け、とうとうケーンはヤミラミを頭にへばり付けたまま壁へと激突し、盛大な土煙を上げる。

 

「ケ……ケーン……」

 

 まさかヤミラミごと壁に突撃していくとはツバキはおろかイソラにも予想外。

 パラパラと石の破片が転がり、煙が立ち込める中、ピクリと動いたケーンが後退りして立ち上がり、頭をぶんぶん振って砂を払う。

 そして、煙の晴れた先では壁にヤミラミが壁にめり込んでおり、ケーンが離れると石と砂と共に崩れ落ちた。

 

「か……勝った……! やったぁ! ケーン!」

 

 ツバキは喜びのあまりケーンへ駆け寄り、その背中に抱き付く。

 

「……あっついっ!!」

 

 そしてすぐに離れた。

 

「マグマラシに進化した時も同じ失敗をしたろう……抱き付くならバトルしてない時にしなさい。……ほら、ヤミラミ、オボンの実だ」

 

 呆れながら歩み寄るイソラは、伸びたヤミラミを抱き起こして黄色い木の実を食べさせ、水を飲ませて流し込んだ。

 目を覚ましたヤミラミはキョロキョロ辺りを見回していたが、自身がバトルに敗れた事を理解してうなだれる。

 他のヤミラミ達もオボンの実で回復するとリーダーの周りに集まり、互いに声をかけ合って励ましているようだ。

 するとリーダーが歩み寄り、洞窟の奥を指差してツバキの手を引く。

 

「えっと……ついてこいって事かな……?」

 

「……まぁ、行ってみるか」

 

 先導していくヤミラミ達の後を追い、段差をよじ登り、狭い通路を通り抜ける。

 そうして進む内に、正面に光が見えてきた。

 

「……! お姉ちゃん!」

 

「ああ、出口だ!」

 

 進むごとにその光が大きくなっていき、視界いっぱいに広がる。

 洞窟の闇に慣れつつあった目を擦って改めて瞼を持ち上げると、そこは洞窟の岩壁に空いた横穴で、地上の道端に生えた木の枝が幾重にも折り重なり、外側からは見えにくくなっているらしい。

 地上まで少し高さがあるが、目の前の枝を伝って木を降りれば問題は無さそうだ。

 そして、枝の隙間からは大きなドームが見えている。

 

「あれはセキエイスタジアム。……私の時はもっとチャンピオンロードを抜けるのに時間がかかったんだが……」

 

「……ヤミラミ、もしかして近道を教えてくれたの?」

 

 ツバキに尋ねられ、ヤミラミ達は口々に鳴き声を上げている。

 

「……ありがとう! すごく助かったよ!」

 

 ツバキがリーダーのヤミラミを抱きしめると、気恥ずかしさからか硬直してしまった。

 

「ふふっ、自分達を負かした強い相手へのご褒美といったところか」

 

「えへへ、そっかぁ……! 嬉しいな♪」

 

 手を振って洞窟の中へと戻っていくヤミラミ達に別れを告げ、ツバキとイソラは枝に乗り移る。

 そのまま木の幹まで移動すると、しがみついてよじよじと降りていく。

 

「よい……しょっと!」

 

 ストンと着地したツバキが顔を上げると、その前に聳え立つ巨大なドーム……セキエイスタジアムの大きさがよりはっきりする。

 

「巨大なセンタードームを中心とし、そこから四方に伸びる通路とその先のノース、サウス、イースト、ウェストという4つのドームで構成されるセキエイスタジアム。この中で行われるのが、カントーとジョウトの実力者がポケモンバトルの腕を競い合うトージョウリーグだ」

 

「い、いよいよ来たんだね……!」

 

「ああ。さぁツバキ、参加登録をしよう」

 

「う、うんっ……!」

 

 ついに到着した、夢にまで見たセキエイスタジアム。

 ツバキはここを拠点とし、1ヶ月後のリーグ開催に備える事となる。

 ――――物語はついに最終局面へ……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

バルディがまだキバゴなのが気になる?
なぁに、開催まであと1ヶ月もあるから大丈夫大丈夫!(楽観視)
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