というわけで予選開始の第86話でっす!
ついに始まったトージョウリーグ。
60名を越える参加者達は4つのブロックに分けられて予選を行い、決勝トーナメントへ進めるのはその中の8名のみ。
ツバキは自身を含めた16名が2つだけの決勝トーナメント進出の席を奪い合うBブロックへ振り分けられ、ここで勝ち抜いていかねばならない。
果たしてツバキの前にはどのような強敵、難敵が待ち受けているのだろうか……?
「選手、ならびに観客の皆様。大変お待たせいたしました! 只今よりトージョウリーグ予選1回戦を開始いたします! 選手はLSDにて指定された番号のバトルフィールドへお願いいたします!」
5つのドームにアナウンスが木霊し、観客の声援と共に全てのリーグ参加者がバトルフィールドへと向かう。
無論、ツバキも。
「開会式での説明通り、予選でのバトルは持ち物無しのダブルバトルとなり、相手のポケモンを2体とも戦闘不能にした選手の勝利です! なお、2回戦は1回戦の試合が全て終了してから5分間の休憩を挟んで行われ、3回戦も同様の手順となります」
選手達が位置につく間、改めて予選のルールが説明され、観客も選手も耳に入るその情報を頭の中で反復させている。
指定されたフィールドに立ったツバキの前に立ったのは、13、4歳ほどの金髪の少女。
頭の右側に纏めたサイドテールを靡かせて向かい側に立った少女は、強気な笑みを浮かべて腰のモンスターボールに手を添える。
「ふぅん、アナタがアタシの相手? もっと強面なのが来ると思ったけど……ま、良いわ。アタシはライモンシティのカルミア。イッシュの広大な大地に育てられたアタシのパワー、見せてあげるんだから!」
「グレンタウンのツバキです! わたしだってここで終わるつもりはありません!」
バトル前に互いに名乗り、自分を奮い立たせる意味合いも込めて意気込みを語る。
「両者、ポケモンを」
「はいっ! 行くよ、ナオ! ケーン!」
「レッツ・パーリィ! マラカッチ! ゼブライカ!」
ツバキのボールから飛び出したナオは、サイコパワーで浮遊し、空中でくるりと1回転してからゆっくりと下降。持っていたお気に入りのモンスターボールをツバキへと預けて相手へ向き直る。
同じく飛び出したケーンは、その横に一旦四つん這いで着地してから、2本の後ろ脚で地面を踏みしめ、自身の大きさを誇示するかのように上体を持ち上げて咆哮した。
対するカルミアが繰り出したのは、緑系統のカラーリングで、角のような部位にはピンク色の花を咲かせた植物型のポケモン、サボテンポケモンの“マラカッチ”と、黒を基調とし、稲光を思わせる白い縞模様が身体に走る馬のようなポケモン、らいでんポケモン“ゼブライカ”だ。
他のフィールドでもボールから現れたポケモン達が睨み合い、トレーナー共々バトル開始を今か今かと待っている。
「……全ての選手が位置についた事を確認しました! それでは、いよいよ本当の意味でのトージョウリーグ開幕です! 予選1回戦、バトル…………スターーーーットっ!!」
そのアナウンスを合図に、各バトルフィールドでバトルが始まり、あちこちで怒声混じりで指示するトレーナーの声と、荒々しいポケモンの鳴き声が上がり始めた。
ツバキ達も遅れるものかと視線をぶつけてバトルをスタートする。
「ケーン、“ふんか”! ナオは“マジカルシャイン”で援護!」
「“ニードルガード”と“まもる”よ!」
ケーンの首回りの炎が激しく燃え上がったかと思うと、それが引っ込むと同時に口から高温の炎が相手フィールドの広範囲に拡散しつつ噴射され、ナオの身体からは眩い光が周囲に広がっていく。
以前イソラに説明された通り、“ふんか”はダメージを負っていない時にこそ最大火力を発揮する技で、受けたダメージが大きくなるほどその勢いは衰えていく。
故に、使うべきタイミングは今のようなバトルが始まってすぐが好ましいが、言い換えればこの技を知る者にとっては使用タイミングを非常に読みやすい技なのだ。
炎と光が相手フィールドを覆って視界不良に陥ったが、やがて緑と青、2つの半透明な障壁が姿を現した。
「……っ! 防……がれた!?」
障壁を張っていたのは、言うまでもなく相手のマラカッチとゼブライカだ。
炎と光が消失すると、それに続くように障壁もチカチカと点滅しながら消えていき、後には無傷の2体が残る。
「ふっふふーん♪ “ふんか”はバクーダとバクフーンを象徴する技だもの、当然、場に出てきた時点で警戒するわ! そして見ての通り、ダブルバトルではこういう防御技はシングルバトル以上の重要性を持つの。覚えときなさい! さぁ、授業はおしまい! 今度はこっちの番よ! ニャオニクスに“じごくづき”! バクフーンに“ワイルドボルト”!」
マラカッチが踊るように身体を振るとカシャカシャと音が鳴り響き、そのリズムに合わせて右腕から生えた黄色いトゲが怪しく輝きを放つ。
その横ではゼブライカの四肢を微弱な電気が覆ったかと思うと、瞬く間に身体全体を包む激しい放電現象へと変化している。
次の瞬間、マラカッチは一見動き辛そうな根のような脚で勢いよく地面を蹴ってナオへ飛びかかり、ゼブライカは電気によって刺激された全身の筋肉をフル活用し、驚異的な瞬発力で電撃を纏った突進をケーン目掛けて放った。
「ナオ! “リフレクター”!」
それに対して、ツバキは守備を強化する指示を飛ばす。
普段折り畳まれているナオの耳が開くと、塞がれていた器官からサイコパワーが溢れ出し、物理的な壁となってナオとケーンの前面に展開された。
マラカッチとゼブライカは壁に激突するが、元の勢いが強かったため力任せに突破してしまった。
突き出されたマラカッチの右腕がまっすぐにナオの胴へ打ち込まれて身体が宙を舞い、ゼブライカの突進を受け止めようとしたケーンは撥ね飛ばされてしまう。
だが、“リフレクター”によって勢いが殺されていたおかげで、ダメージが減って2体はすぐに立ち上がった。
「(“ひかりのかべ”と迷ったけど、“リフレクター”を覚えておいて良かった……!)」
“ひかりのかべ”は特殊攻撃、“リフレクター”は物理攻撃を軽減してくれる障壁を展開する技。
イソラ曰く、ポケモンが元々覚えていた技ならば忘れても思い出す方法があるというので、“ひかりのかべ”を一旦忘れて技マシンで“リフレクター”を習得させる事で、ナオが苦手な物理面をカバーしていたのだがそれが運良く功を奏した。
「ナオ、ゼブライカに“サイコショック”! ケーン、マラカッチに“ニトロチャージ”!」
初撃をいなされてしまったが、ここから反撃開始だ。
ナオは軽やかに浮かび上がると、両手にサイコエネルギーをリング状に実体化させて投擲。形成されたチャクラムは大きく弧を描きつつ、逃げ道を塞ぐように左右に分かれてゼブライカへと飛んでいく。
一方で4足体勢となったケーンの首回りの炎を燃え上がらせ、その炎が生き物のように広がって身体を包み込むと、一気に加速してマラカッチへ突っ込んでいく。
「“シグナルビーム”で迎撃! マラカッチは“ニードルガード”よ!」
ゼブライカの鬣の内、前方に突き出た2房が発光し、赤と青2本の光線が発射されて絡み合うと、向かって右側のチャクラムへ伸びていく。
だが、チャクラムは急に加速して光線を回避し、旋回してゼブライカへ向かってきた。
撃ち落とそうと躍起になって“シグナルビーム”を連射してようやく撃墜したが、その意地が仇となる。
「ゼ、ゼブライカ、左! 左!」
カルミアの指摘で我に返ったが時すでに遅く、左から飛んできたチャクラムが激突し、ゼブライカは横倒しになってしまう。
ケーンの方はというと、炎を纏ってマラカッチへ一直線に突撃していたが、相手が両腕を前に構えるとさっきのように緑色の障壁が展開し、さらにそこから鋭い針が突き出てきた。
加速したケーンは急停止できず、障壁へ突っ込んだ上に針が身体に食い込み、大きな声を上げながら戻ってきた。
「ケ、ケーン! 今のは……!」
「これが“ニードルガード”よ! 攻撃を防いだ上、触ろうとした相手にダメージを与える技! ……ゼブライカ、大丈夫?」
声をかけられたゼブライカが起き上がり、短く嘶いて答える。
ピョンピョンと跳ね回っていたケーンも痛みが引いて平常心を取り戻し、改めて相手と向き合う。
今の攻撃は結果を見るとさしずめ痛み分けに終わったと言えるか。
「(ムムム……あんな変則的に動く“サイコショック”初めて見たわ。あのニャオニクス、かなりサイコパワーの制御が得意みたいね……。バクフーンの方も“ニードルガード”で防がなかったら危険な火力だったわ……)」
「(手強い……! 迂闊に手を出すと逆にこっちが追い詰められそう……。こんなに守りが固いなんて……やっぱりポケモンを見た目で判断しちゃダメって事だね……!)」
お互い一筋縄ではいかない相手に警戒心を強め、バトルの指示のため精神を集中していく。
「(……よし、向こうのニャオニクスを先に倒して、2対1の状態にするのが良さそうね。まずは……)ゼブライカ! ニャオニクスに“いやなおと”よ!」
「っ……!?」
ゼブライカの鬣が帯電したかと思うと、ナオの周りでパチパチという音が聞こえ、それがどんどん大きくなった上、次第にあちこちから響き始めたのだ。
優れた聴力を持つナオには不快極まりない音のようで、折り畳んだ耳をさらに両手で押さえて音を遮断しようとしている。
「ふふん、どーよ! 身体に力が入らないでしょ! “じごくづき”と“ワイルドボルト”でニャオニクスに集中攻撃よ! 多少の妨害は無視しなさい!」
“いやなおと”は不快な音を聞かせて脱力させ、物理的な防御力を著しく低下させる技だ。
ただでさえ物理攻撃には弱いナオには致命的で、もはや吹けば飛ぶ紙防御と呼べるほどに下がってしまっているだろう。
ともかく相手の数を減らすため、腕を振って構えたマラカッチと、全身を帯電させたゼブライカが同時にナオ目掛けて突っ込んでいく。
だが。
「……“マジカルシャイン”!」
ナオの閉じられた耳が展開し、見開いた目が強く輝いた次の瞬間、周囲の空間が湾曲。
そして、ナオの身体が激しく発光し、その光が一瞬にしてマラカッチとゼブライカを飲み込んだ。
「……は?」
飲み込まれた2体は、食らったのは光だというのにまるで物理攻撃を受けたように吹き飛ばされ、カルミアの眼前に落下してきた。
「な……なによこの威力……? さ、さっきまでと全然違うじゃない……!?」
カルミアは完全に予測の範囲を超えている“マジカルシャイン”の火力に度肝を抜かれ、思わず自分のポケモンとナオの顔を交互に見比べてしまう。
「これがナオの……ニャオニクスの特性、《かちき》です! 能力を下げられた時、代わりに精神力を研ぎ澄ます特性です!」
「か、《かちき》ですって!? そ、そんな特性持ったニャオニクスがいたなんて……!」
以前にヤマブキジム戦の最中にイソラが驚いていたように、特性が《かちき》のニャオニクスは大変珍しく、ニャオニクスの原産地と目されているカロス地方の人間ですらもその事を知らない者は多い。
ましてイッシュ地方出身のカルミアでは、むしろ知っていた方が不自然だろう。
そして、その驚愕によって生じた隙をツバキは見逃さない。
「ナオ! “マジカルシャイン”!」
三度ナオの身体から強烈な光が放たれ、見る見る内に広がってマラカッチ達に迫ってくる。
「くっ……! “ニードルガード”と“まもる”!」
起き上がったマラカッチとゼブライカは最初の攻撃を凌いだ時と同様、前面に障壁を展開して暴力的なまでの勢いで迫る光に備える。
いかに火力があろうとも、この障壁の防御力を破る事は叶わない。
……正面からの攻撃ならば、の話だが。
「“でんこうせっか”!」
“でんこうせっか”の加速力を活かしたジャンプで、ドーム状に広がっていく光を飛び越え、その前に降り立ったケーンがなおも止まらずに駆け続け、障壁を張っているマラカッチとゼブライカの間をすり抜けていく。
「ウソっ……!?」
そして、急ブレーキをかけたケーンの視界に、無防備な2つの背中が広がる。
「“ふんか”っ!!」
「し、しまっ……!」
カルミアは慌ててポケモン達へ指示を出そうとするが、すでに手遅れだった。
そもそも、この状況で守りを解けば、それまで防いでいた“マジカルシャイン”をモロに浴びる事になる。
想定外の《かちき》の発動に面食らい、咄嗟に冷静さを欠いた指示を出してしまった時点で、詰みだったのだ。
もしも防御でなく回避の指示を出していれば。
もしも片方をディフェンス、片方をオフェンスに回していれば。
もしもバクフーンの方から倒していれば。
そんな後悔の念をかき消すように、勢いよく放たれた業火がマラカッチとゼブライカを包み込んだ。
“リフレクター”越しの“ワイルドボルト”と“ニードルガード”を食らい、万全の状態よりも威力は落ちているが、《かちき》で著しく強化された“マジカルシャイン”を受けた相手には十分。さらにくさタイプのマラカッチには効果抜群だ。
「マ、マラカッチ! ゼブライカ!」
“マジカルシャイン”の光と“ふんか”の炎に挟み込まれて完全に姿が見えなくなってしまった2体にカルミアが大声で呼びかける。
だが、現実は非情だ。薄れる輝きの中から現れたのは、完全に戦闘能力を失って倒れ伏した自身のポケモン達だったのだから。
「……マラカッチ、ゼブライカ、共に戦闘不能! ツバキ選手、予選1回戦突破!」
フィールド近くに待機していた審判が左腕をツバキへ向ける。
「や、やった……! やったよ、ナオ! ケーン! まずは1回戦を勝ち抜いたね! お疲れ様~! ……あっつ!!」
勝者宣言を受けてナオとケーンがツバキへ駆け寄り、ツバキも2体を抱き締め返した。……もはや様式美とばかりにケーンのあっつあつの首回りに触れてしまったが。
「んぐぐぐ………………はぁ……マラカッチ、ゼブライカ、よくやってくれたわ。今のはアタシが冷静に対処できてれば……うぅん、何言ったって言い訳にしかならないわね。……ごめん」
カルミアは倒れた2体に歩み寄ると、しゃがみ込んでその身体を撫でる。
ポツリと落ちた雫にマラカッチとゼブライカがうっすらと目を開き、慰めようとするかのように身体をすり寄せた。
「……もう……チクチクするしピリピリするじゃない。……ありがと」
2体をボールに戻し、両腕で顔を擦ると、立ち上がってツバキに走り寄っていく。
「ツバキ!」
「カルミアさん」
「……アタシに勝ったんだから、半端なとこで負けたら承知しないからね! アタシはこんな奴と戦ったんだって胸を張れるくらいの結果は出しなさいよ! ……頑張ってよね、ホント」
カルミアの差し出した右手を眺めて一瞬呆気に取られたツバキであったが、すぐに笑顔を浮かべて握り返した。
「……はいっ! 頑張ります!」
夢へ近付く者がいる一方で、遠のく者もいる。勝者か敗者しかいないポケモンバトルの無情。
だが、その結果はどちらにとっても決して無駄ではない。
勝者は自信を、敗者は悔しさを糧に、より一層夢へ向けて邁進していくのだから。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきましてありがとうございました!
本当は予選なんてザーッと流しちゃおうかなとも思いましたが、せっかくなのでちゃんと書く事にしました。
余計に時間がかかってしまいそうですが、どうか作者の自己満足に付き合ってやってください。
あと、皆さんも腰をやっちまった時は、ちょっと良くなったからって調子乗って前と同じ生活にすぐ戻ろうとしない方が良いですよ。悪化しますので。(経験談)