今回は少しだけ過去のお話が出ます。
マチスらに別れを告げ、クチバシティを離れたツバキは、11番道路を抜けた先……12番道路に備え付けられたベンチに座り、ポケモン達と共に昼食を取っていた。
ポケモンフーズにがっつくポケモン達を微笑ましく見守りながら、クチバシティで買ったミックスサンドイッチを頬張る。
「……ん~♪このサンドイッチおいしい……。……あっ!? ミスティもファンファンも、喧嘩しちゃダメだよ……!?」
自分の分を食べ終え、ミスティの分に手を…もとい鼻を付けようとするファンファンと、それに抗議するミスティにツバキが割り込みそうになったが、その前にポポが間に入り、翼でチョップを繰り出して黙らせると、何事か説教を始めた。
早くもトリオのような物が形作られている事がなんとなく嬉しくなり、自然と頬が緩んだ。
サンドイッチを食べ終わったツバキは、ポケギアのタウンマップ機能を開いて次の行き先について考え始める。
「次はどっちに行こうかなぁ……シオンタウン……それともセキチクシティ……?」
ここ12番道路は、海の上に長い桟橋を架けた珍しい形態を取っており、釣りの名所とも呼ばれる。
北へ行けば、カントーラジオを発信しているラジオ局のあるシオンタウン。
西へ行けば、他地方と船で結ばれた港町クチバシティ。
13、14、15番道路という長い道程を経て南へ行けば、セキチクシティがある。
「……セキチクシティかな……これだけ長い道なら、また新しいポケモンに会えるかも……! ね、皆も新しい友達ができるかもしれないよ?」
ポポに両成敗されて大人しくなっていたミスティとファンファンが、ツバキの言葉に元のテンションを取り戻し、ポポも翼を広げて嬉しそうに鳴く。
「セキチクシティからタマムシシティ、そこからヤマブキシティ、シオンタウン……うん、この流れが良いかも。……ふあ……」
当面の指標が決まって安心したからか、単純にお腹が膨れたからか、急激な眠気と共に欠伸が出る。
「……朝が早かったからかな……。さすがにベンチで寝たら他の人に迷惑だし……あ」
目を擦るツバキの視線の先に、大きな木が見える。フカフカした芝に、適度な木漏れ日と日陰……眠気に襲われた今のツバキには、そこがとても魅力的な場所に見えた。
「……あそこで少しだけ休もっか、皆?」
ポケモン達を連れて木陰に入ったツバキは、バッグを枕にして寝転がり、ポポらもそれに続いて、ツバキの周りで身体を丸め始めた。ミスティとファンファンが、自分にすっかり気を許してくれている事に嬉しさを感じつつ目を閉じたツバキは、ゆっくりと微睡みの中に沈んでいった。
灰色の空。
大きな震動と轟音、人々の叫び声に流されるようにしてグレン島を離れ、ここで過ごし始めてどれだけ経っただろう。
空を覆う火山灰は晴れる気配は一向に無く、あれだけ見えていた蒼い空もどこにも無い。
「また空を眺めていたのか、ツバキ」
オニドリルを連れた近所の少女が話しかけてきた。
「イソラお姉ちゃん……お空は……どこにいったの……?」
「……空は、いつだってあそこにある。でも今は……ちょっと見えなくなってしまっているんだ」
「じゃあ、いつ見えるようになるの?」
「……それは……」
イソラは答えなかった。いや、答えられなかったのだ。
これまでも、日の光を見る事のできない不安から、島の人々の手持ちポケモン総出の“きりばらい”や“かぜおこし”で払おうとしたが、失敗した。自然の力のなんと強大で、そしてそれに対する人のなんと無力な事か。いつしか人々は行動を諦め、状況が好転する事を神に祈るばかりとなった。
そんな中、来る日も来る日も、ツバキは空を見上げた。また蒼い空と、眩しい太陽が見たかったからだ。
それが何度か繰り返された、ある日の事だった。
海の中から、突如巨大な何かが猛スピードで空へ向けて飛び立ち、同時に、火山灰の向こうに眩い光が輝き始めた。
「ツバキっ! どうしたんだ!? 何が…………っ!?」
腰を抜かしたツバキにイソラが駆け寄り、そしてツバキの視線を追って驚愕の表情を浮かべる。
空の上から射し込む2本の光の柱…そこを中心に、空を覆っている火山灰が霧散し始めたのだ。
「これは……一体何が……」
やがて、一際眩しい光がツバキ達の目に飛び込んできた。
太陽だ。あれほど焦がれていた太陽の光が、空に戻ったのだ。そしてもちろん…蒼い空も。
太陽を背にした2つの鳥のような影は、片方は虹色の粒子を残して飛び去り、もう片方は、最初と同じように猛スピードで海中へと沈んでいった。
「……ポケモン……?」
あの日に見た2体のポケモンと、彼らが起こしたであろう奇跡。
思えば、まだ知らない世界を旅する事への憧れは、あの出来事も関係しているのかもしれない。
無論、一番の切っ掛けは、その直後の彼との出会いではあるが。
たった4年前……しかし、ポポと出会い、共に過ごした日々の充実感から、ずっと昔のように感じる、そんな記憶。
旅の切っ掛けを思い出させるかのような夢の世界から、ツバキの意識は徐々に浮上し……。
「……重い……」
目を覚ましたツバキは、自身の身体に重くのしかかる何かに、寝惚ける間も無く意識が覚醒する。
「……ファンファン……」
一体何がどうなったのか、ツバキの足元で丸くなっていたはずのファンファンは、ツバキのお腹の上で仰向けになって寝息を立てている。
上半身を起こしたツバキは、両手でファンファンを掴んで身体の上から降ろすと、大きく伸びをして身体を解す。
「ん……はぁ……。2時間くらい寝ちゃった……。ポポくん、ファンファン起きて。ミスティは……」
ポポとファンファンの身体を優しく揺さぶり、次いでミスティの姿を探すと、身体を半分地面に埋めて光合成していた。少し悪いとは思いつつも、起こさないわけにもいかないので、その頭をポンポンと叩く。
ミスティが目を覚まして地面から出ると同時に、ポポがツバキの帽子をくわえて差し出す。
「ん、ありがとポポくん。……ねぇ、ポポくん。さっきね、懐かしい夢を見たよ」
ミスティとファンファンをボールに戻しながら、ツバキはポポに語りかける。
「ポポくんと会う少し……ほんの少し前の夢。すごく大きくて、強そうで、優しそうなポケモンだったの」
自分に再び蒼くて広い空を見せてくれたポケモン達の姿を脳裏に浮かべ、ツバキは柔らかい笑みを浮かべ、ささやかな願いが口から零れる。
「……会えるかな、あのポケモン達に。会って、あの時のお礼が言いたいな。なんだか、ポポくんと会えたのも、あのポケモンのおかげな気がするし……」
ポポはツバキの頭の上に乗ると、彼女を激励するかのように一声を上げる。
「……そうだよね、きっと会えるよね、旅をしてれば。……うん、会えた時のために、少しでも立派にならなくちゃ……!」
そしてツバキは決意を新たに歩き始める。
「さ、セキチクシティに行こう。皆で強くなるために……えい、えい、おー……!」
気合いを入れたわりに小声のえいえいおーに、ポポが若干呆れた様子で追従する。
次に目指すはセキチクシティ……2つ目のポケモンジムの存在する街だ。果たして無事にジムバッジ獲得なるか……?
つづく
ツバキの過去をちょっとだけ掘り下げた8話終了です、お疲れ様でした。
そろそろ箸休めは終わりにして、次回辺りまたバトルを描きたいと思います!
ちなみにポッポはダブルチョップは覚えません。念のため。
【ちょっとした裏話】
ツバキとイソラを漢字で書くと、それぞれ『翼姫』と『愛空』です。