てなわけでようやくツバキのバトルとなる第91話です!
ポケモンリーグ決勝トーナメント1回戦。
ツバキとゲントの第2試合に先駆けて行われたマユリとスコーピオの第1試合。
積極的に先制攻撃を仕掛けるマユリだったが、スコーピオのペースはまったく乱されず、ポケモンの特徴を熟知した戦術で圧倒されてしまう。
結局マユリは、スコーピオのポケモンを倒すどころか3体目を引きずり出す事すらできずに敗退。
スコーピオはマユリにはほとんど興味を示さず、バトルが終わるとさっさとフィールドを去り、マユリだけが悔しさに身体を震わせていた……。
「ふむ……コガネシティのマユリ、か……。素早い相手には瞬発力に補正のかかる先制技。動きの鈍い要塞型の相手にはスピードを維持しつつ遠距離攻撃。恐らく先鋒の時点で相手がどくタイプ使いと感付いて、後続はエスパーのキリンリキとはがねのエアームドを選んだのだろう。バトルのセオリーを押さえた堅実なバトルだったな」
観客席のイソラは、直前まで行われていた試合内容から、敗れこそしたもののマユリも優秀なトレーナーであった事を再確認する。
「……が、いかんせんセオリーに忠実すぎる。ポケモンの持つあらゆる特徴を駆使して変化球を投げてくる相手にはめっぽう弱いタイプだ。まぁ、まだ若く伸び代もある。ここでへこたれずに頑張ってほしいところだな」
基本を忘れず、それを忠実に守る事は強みでもあり弱みでもある。
もっと臨機応変な思考ができるようになれば、マユリは今よりも格段に強くなるであろうとイソラは評価した。
それこそツバキが今回だけでなくこの先もポケモンリーグへの挑戦を続けるならば、手強いライバルになる可能性も高いであろう、と。
一方、第2試合を戦うツバキとゲントは、選手控え室を別々の扉から出てフィールド左右のゲート前で待機していた。
「(ゲントさんはでんきタイプ使い……ファンファンなら有利に戦えるけど、じめん対策を何もしてないなんてあるかな……? ……まずは様子見をした方が良さそう)」
「(ツバキはたしかドンファン持ってたよな……けど、あいつの事だから、こっちがじめん対策してると思って、初手で出してくる事は無い……だろう。たぶん)」
ツバキとゲントは、向かいの扉の先にいる対戦相手の思考を読み合いながら、最初に出すポケモンを脳内で選抜する。
そんな静かな脳内シミュレートの時間を、熱いアナウンスが破った。
「さあぁっ! いまだ第1試合の興奮冷めやらぬ会場ですが、そろそろ第2試合に移りたいと思います! まだまだ熱く燃える試合は控えているぞぉっ!! ゲート開放! 選手……入ぅぅ場ぉぉぉぅっ!!」
大きく分厚い扉が左右に開き、隙間から射し込む光が暗闇に慣れてきていた視界を奪っていく。
その眩しさに右手を一瞬だけ目の前にかざしたツバキは、息を飲んでゆっくりと歩き出す。
「まずは……グレンタウンのツバキ選手ーーーーっ!! トレーナー登録して半年! 初のジム巡りの旅にして無事バッジを集め終えたばかりか、リーグ予選も突破して見事この場に立ちました! この若き才女の戦いを見逃すなぁーーっっ!!」
妙に持ち上げられた紹介を受け、気恥ずかしさとこそばゆさからツバキの頬がやや赤く染まる。
「さぁ、それと対峙するは……クチバシティのゲント選手ーーーーっ!! なんとこのゲント選手、元ジムトレーナー! 特定タイプのエキスパートを目指すトレーナーにとってのエリート街道を捨ててまでフリーになった彼の真意はいかに!?」
一方のゲントはというと、ツバキのように照れたりはしていないものの、だからと満更でもなさそうな表情というわけでもない。
「……こうしてバトルすんのも久々な気がすんな、ツバキ。9番道路以来か」
「はい。あれから色々あって……強くなりましたよ。ポケモン達も、わたしも!」
眉を吊り上げ、自信に満ちた真剣な眼差しを相手に向ける、ツバキにしては珍しい表情。
ゲントはツバキと初めて出会った時を思い出し、本当にツバキは変わったのだと思うと同時に、浅はかで傲慢だった自分の愚かしさまで思い出してしまい、バツが悪くなって頭を掻く。
「……ま、俺も遊んでたわけじゃない。自分なりにできる限りの特訓を重ねて、バトルを繰り返してそれなりに強くなったつもりだ。だけどな、そういう地道な特訓をする気になったのも、今俺がこうしてここにいられるのも、お前のおかげなんだ。……だから」
ズボンのポケットに突っ込んでいた両手を抜いたゲントは、モンスターボールへと手を伸ばす。
「感謝の念を込めて……生まれ変わった俺達の全力でぶつからせてもらうぜっ!」
ツバキもそれに応じ、ボールを掴んで睨み合う。
「わたしもわたし達の全部を見せますよっ!」
――――ポケモントレーナーのゲントが勝負を仕掛けてきた!
「どうやらこの2人の選手は顔見知り! ライバル同士のバトルともなれば、きっととてつもない熱さになる事でしょうっ! さぁ、それでは両者ポケモンをっ!」
実況のブルースに促され、2人は手にしたボールを同時に空高く放り投げた。
「お願い、ミスティっ!」
「かますぜデンチュラっ!」
空中で開いたボールから飛び出したミスティは、5枚の大きな花びらを揺らして豪快に着地すると、同じタイミングで正面に現れた相手ポケモンに睨みを利かせる。
全身を黄色い毛に覆われ、背中側に青いラインの入った4本脚の虫系ポケモンだ。
でんきグモポケモン『デンチュラ』。非常に珍しい、むしとでんきの複合タイプである。
でんきタイプらしくその身体は帯電しているようで、時折ふさふさとした毛先がスパークしている。
また、図鑑の姿との相違点として口に当たる部分に牙のような物が装着されている。これは自身の攻撃を相手に当てた時、その迫力で相手を怯ませる事のある鋭い牙という道具である。
「ツバキ選手の1番手はラフレシア! ゲント選手はデンチュラ! 単純なタイプ相性ではお互い可も無く不可も無くといったところ! トレーナーの戦術眼が試されます!」
ポケモンが出揃ったところでブルースに目配せされ、フィールドの端に立った審判が1歩前に出る。
「それでは、これより決勝トーナメント1回戦第2試合を始めます! 両者構え! ……バトル………………スタート!!」
審判が両手に持った旗を振り下ろし、それがバトル開始の合図となった。
「“エナジーボール”!」
「“ねばねばネット”!」
ツバキの素早い指示に従ってミスティがめしべにエネルギー集束を始めるが、デンチュラの行動は早かった。
口から発射された糸が広がり、5つのクモの巣状に展開してミスティの周りに設置された。
だが、自身に当たったわけではないため、ミスティは構わずエネルギー球を射出。
その弾速は速く、デンチュラは回避動作が間に合わず“エナジーボール”がヒットしてしまう。
まぁ、むしタイプなのでくさタイプ技はあまり大きなダメージにはならないのだが。
「初撃を決めたのはツバキ選手のラフレシア! このまま流れを引き寄せられるかっ!?」
「(デンチュラがよけきれない……!? なんて速さだよ……。あんまダメージはねぇけど、当たるよりは当たらねぇ方が良いに決まってるからな……気を付けねぇと)」
デンチュラの瞬発力にはかなり自信があったのだが、ミスティはゲントの予想を遥かに越えて“エナジーボール”を使い慣れており、元々のセンスも相まって、火力も速度もこれまで遭遇したくさタイプ達を大きく上回っていた。
「(……このフィールドに置かれたクモの巣……気にはなるけど、今は目の前のバトルに集中しなきゃ……!)」
ツバキはツバキで、設置された“ねばねばネット”が気がかりなようで、集中せねばと思いつつも視界の端にネットが映るとついそちらへ意識が向いてしまう。
「“でんじは”だ!」
だが、それが相手に付け入る隙を与えてしまい、対応が一瞬遅れた。
デンチュラが全身の毛を逆立てて微弱な電気を放つと、瞬く間にミスティの身体の神経と筋肉が麻痺し始め、たまらず膝(?)をついてしまった。
「あぁっと! ラフレシアが“でんじは”を食らって麻痺してしまったぁ! これは痛いっ!!」
「しまった……!」
初めての大舞台の空気や、数えきれない人々の目もあってか、普段通りの集中力を出せなかったが故の不覚。
麻痺状態となってしまっては、思い通りに動く事は叶わない。初手から不利に傾き始めてしまった。
「へっ、油断したな! こうなっちまえばデンチュラの素早さには追いつけないだろ! “シグナルビーム”!」
ガサガサと4本の脚を器用に動かしてミスティの周囲を走り回るデンチュラ。
6つの複眼の内顔の中央に並んだ4つが点滅し、赤と青2色の光線が発射され、螺旋状に絡み合いながらミスティへ迫る。
ミスティは回避しようと身体を起こすが、麻痺した脚の筋肉が言う事を聞かずあえなく直撃してしまった。
「ミ、ミスティっ!」
どくタイプを併せ持っていたおかげで大ダメージとはならなかったものの、小さいダメージというわけでもない。
デンチュラの動きを追おうと身体を回転させようにも、手脚が痺れて満足に動く事すらままならない。
「速いっ! そして容赦が無いっ! ゲント選手のデンチュラ、4本の脚を駆使した高速機動でラフレシアを翻弄します!!」
「(一旦戻す……? うぅ、でも戻せる回数も限りがあるし、麻痺したままじゃ………………あ……。……そうだ、どうして気付かなかったんだろ……むしろそれがくさタイプの……ミスティの本領発揮じゃない……!)」
ふらりと立ち上がるミスティを見て焦りを感じていたツバキであったが、頭の中でふと考えた『麻痺』という単語から、普段であれば真っ先に考えたであろう戦術を閃く。
やはり、緊張とは人間の思考を大きく阻害するようだ。
「(……落ち着いて。見てる人が多くなっただけで、基本は今までのジム戦やリーグ予選と同じ。…………うん、行ける……!)」
ツバキは相手が攻撃に出ていない事を確認すると、静かに深呼吸をする。
「……ミスティ、反撃するよ!」
平静を取り戻したツバキの様子にミスティは安堵の溜め息を吐くと、痺れる脚を力尽くで動かし、ダンッと地面を踏みしめて応えた。
トレーナーとポケモンはただ指示をする側と聞く側というだけの関係ではない。
ポケモンという生き物はとても賢く、トレーナーと認めた相手の心の機微にも敏感なので、トレーナーに迷いがあればポケモンはそれを本能的に感じ取り、そちらに気を遣ったり、「本当にその指示で大丈夫なのか?」と疑念を抱いて全力を発揮する事はできない。
逆にトレーナーが常に自信を持って堂々としていれば、ポケモンも安心し、「その指示には決して間違いは無いだろう」という信頼から眼前の相手にのみ集中できる。
新人トレーナーとポケモンの息がなかなか合わない事が多いのも、これが原因の場合がほとんどだ。
……まぁ、早い話が……。
「ミスティ、“どくどく”!」
今のツバキとミスティは、麻痺による不利など撥ね除けうる……という事である。
動き回るデンチュラに対し、ミスティは口から毒液を連続で発射し、放物線を描きながら雨霰と降らせて見せる。
元よりくさタイプは状態異常を駆使した搦め手を得意とするタイプであり、ましてミスティはどくタイプでもあるのだ。
こんな基本を忘れるなど、まったく自分らしくないと、ツバキ自身も呆れ気味だ。
「っと、やべぇ……! よけろデンチュラ!」
4本脚の機動性はさすがであり、降り注ぐ毒液を左右に走り回り、飛び回り回避していく。
その動作は非常に軽快で、確かに今のミスティで真っ向から対峙するのは困難であろう。
……が、その回避動作自体がすでにツバキの術中である事にゲントは気付いていない。
「そんなもんじゃデンチュラを捉えるなんざできやしねぇぜっ! “シグナルビーム”!」
毒液をかわしながら、再びデンチュラの4つの目が点滅する。
……しかし、光線が放たれる直前、デンチュラは突然目を見開いて叫び声を上げた。
「っ!? こ、これはぁぁーーっっ!?」
ブルースが実況席から立ち上がり、フィールドを見下ろす。
「な、何ぃっ……!?」
ゲントも思わず上擦った声になってしまい、フィールドを右に左にと確認する。
……毒。
毒。毒。毒。
フィールドのどこを見ても毒液の水溜まりだらけなのだ。
「(アンズさんとのバトルが役に立った……!)」
そう、これはセキチクジム戦で使った、『“ようかいえき”地雷原』の応用である。
今回はそのアンズからもらった“どくどく”の猛毒を使い、さらに凶悪になっている。
いかに素早く、攻撃を当てづらいデンチュラでも、これで毒状態にしてしまえば、あとはじわじわと自滅を待つだけとなる。
「な……なんという事でしょう! フィールドのあちこちが降り注いだ猛毒液で侵食されています! ツバキ選手、可愛い顔してえげつない!! デンチュラ猛毒に苦しんでいるぅーーっっ!!」
空から降ってくる毒液を飛び跳ねながら回避していたデンチュラは、地に落ちて水溜まりを作っていた方の毒にまで注意が向かなかったのだ。
「くっ……デンチュラ、大丈夫か!? しっかりしろ!(どうする……デンチュラを戻すか……!? ……くそっ、こんな事なら“ボルトチェンジ”でも覚えさせとくんだった……!)」
“ボルトチェンジ”は電気を纏って加速した体当たりを行い、その勢いのままトレーナーの元へ戻って控えポケモンと交代する技……つまりは“とんぼがえり”のでんきタイプ版である。
技や特性による交代は公式試合の交代回数制限にカウントされないため、覚えておくとなにかと便利なのだ。
というかこの系統の技が無いと、特に交代可能回数の少ない1回戦ではラストエ○クサー病になってなかなか交代を使えない場合が多い。
「……続行だ! もう少しの辛抱だぞデンチュラ! 先に相手を倒しちまえば良い! “シグナルビーム”!」
必死に励ますゲントの声に応じ、倒れかけていた脚を立ててデンチュラが身体を起こして複眼を点滅させる。
瞬く間に身体を蝕んでいく猛毒によって意識が途絶えてしまう前に、せめてミスティを倒してしまわなければ、せっかく麻痺にして有利な状況を作ったのが無駄になってしまう。
「“ムーンフォース”で迎撃! その場から動かなくていい!」
ミスティの場合、平時の“ムーンフォース”は身体から抽出した強力なエネルギーを、空中で球状に固めてから圧縮した光線として発射するが、今は身体が自由に動かないし時間も無い。
相手の“シグナルビーム”を防いで毒の回る時間を稼げば良いので、ピンク色の光を放った花びらから放出されたエネルギーは集束せず、頭頂部を正面へ向けてそのまま障壁のように広範囲に展開する。
直後エネルギー同士の衝突が発生し、それはやがて爆発を引き起こして爆風と爆煙が周囲に飛散するが、両者にダメージは無い。
先ほどから攻撃技を“シグナルビーム”しか撃ってこないところを見るに、恐らく残る攻撃技はミスティに効果の薄いでんきタイプ技。
“シグナルビーム”は弾速こそ速めだが、弾道は直線的なのでデンチュラとの位置関係に気を付ければ防げなくもない。
互いに決定打となる攻撃技は無いとなれば、こちらが連続攻撃によって倒されるか、それを捌ききって相手が毒で倒れるかの根比べだ。
「(毒は受けても素早さが下がったわけじゃない! 守りの隙を突けば行けるはずだ!)頑張れデンチュラ! そのまま“シグナルビーム”連射!」
「(くっ……これなら“ムーンフォース”より連続で使える方が……)同じ要領で“エナジーボール”!」
デンチュラはじわじわと毒で弱らせられながらもその機敏さは健在で、ミスティの周りを駆け回りながら2色の光線を放って一気に勝負を決めようとする。
対するミスティは“ムーンフォース”の代わりに、素早くエネルギー生成のできる“エナジーボール”を防御に使用して防ぐ。
「なんという不思議な光景でしょう! 使っているのは互いに遠距離攻撃技だというのに、行われているのは至近距離でのギリギリの攻防っ! 果たしてこの応酬に勝ち残るのはどちらだぁぁーーっっ!?」
だが、デンチュラは動けば動くほどに毒の回りが早くなり、ミスティは麻痺のせいで反応が遅れて“シグナルビーム”を受けてしまう。
もはやどちらのダメージの方が大きいのかポケモン達自身にすらわからない。
互いにかなり足取りが怪しく、少なくとも限界は近いらしい事だけがかろうじて読み取れる。
「「((くっ……まだ倒れない……!?)」」
当人達は知る由も無いが、あまりにも泥沼と化した状況に、ツバキとゲントの2人は一言一句まったく同じ台詞を脳内で呟いていた。
先に倒れるのはデンチュラか? ミスティか?
着実に疲弊が溜まっているにもかかわらず一向に決着のつかないこの事態は、戦っている2人とそのポケモンだけでなく、観客達の心をもハラハラさせ始める。
そして、会場中に伝播したその不安の感情が、プレッシャーとなってフィールドに立つ2人へと還元された。
「(これ以上は……)」
「(時間をかけられねぇ……!)」
バトルが長引きすぎて、麻痺と毒で苦しむ相手をこれ以上見たくないという感情まで湧いてきた2人は、示し合わせたわけでもないのに、一か八か攻勢に出る事を同時に決意する。
「「((……行くしかないっ!!))」」
トレーナーの意思を感じ取ったのか、2体のポケモンは最後の一撃を放つために距離を開ける。
「……“ムーンフォース”!」
「……“シグナルビーム”!」
チャージもそこそこに高速で撃ち合っていた先ほどまでとは違い、互いに自身に残されたエネルギー全てをその一撃に込めるかのように、全身の神経を攻撃を放つ一点に集中させていく。
ミスティの頭上には巨大なエネルギーの集積体が渦巻き、複眼を激しく点滅させるデンチュラの顔の前には赤と青が混ざり合う大きなエネルギー球が生成される。
「「……発射ぁぁっっ!!」」
そして、2つのエネルギー体が一際強く発光したかと思うと、それまでで最も眩く、そして太い光線が伸びていく。
残る力の全てを乗せたピンク、そして2色の光線は空中で激突し、力比べをするように押しては押され、押されては押し返す。
しかし、突然ミスティがガクリと体勢を崩してしまい、エネルギー制御に乱れが生じる。
「あっ……!?」
麻痺によってほんの一瞬、脚の筋肉から力が抜けたのだ。
そして、その一瞬で“シグナルビーム”は矢のように“ムーンフォース”を貫いていき、ミスティに正面から直撃した。
赤青の光線に押し出され、ミスティはツバキの脇を横切って壁へと叩き付けられた。
「わっ……!? ミ……ミスティっっ!!」
光線の消失と共にミスティの身体は完全に脱力して崩れ落ち、目を回して動かなくなってしまった。
「……ラフレシア戦闘不の……」
審判が宣言しようとした瞬間、フィールドからも物音が響く。
審判、そしてミスティの方を向いていたツバキもその音の方向へ振り向くと、デンチュラが青い顔をしており、4本の脚を伸ばしきって地に伏せていた。
全エネルギーを使いきった反動か、身体から力が抜けて、とうとう毒に屈してしまったようである。
「ラ、ラフレシア、デンチュラ共に戦闘不能! 引き分けっ!!」
緒戦からの引き分け宣言に、観客席からは歓声とどよめきが混ざり合った声が上がる。
「ななななんとっ! 先鋒戦はまさかまさかの引き分け! 初っ端から引き分けです! これでますますどんな形の決着となるかがわからなくなりました!」
「……ミスティ、お疲れ様。ゆっくり休んでてね」
「よく頑張ったなデンチュラ。お前の頑張りは無駄にゃしねぇ……!」
ブルースの実況が鳴り響く中、ツバキとゲントは状態異常を押して必死の戦いを演じた自身のポケモンをボールに戻してその努力に労いと感謝を告げる。
「……(最初からちゃんと落ち着いていれば勝てたかもしれなかった………………うぅん、『たら、れば』なんて言っても仕方無い。この失敗を次に活かさなきゃ……!)」
「……(あの毒液にさえ気付いてたらなぁ…………つっても過ぎた事か。問題はこの後どうするか、だな……)」
どうもこの2人、バトルスタイルなどは別物なのだが、思考の方向性自体はかなり似通っているらしい。
2人は改めて現在の状況を整理しつつ、次のポケモンの入ったボールに手を伸ばす。
「(ちょっと“どくどく”をあちこち撒きすぎたかな……あれは気を付けなきゃ自分が踏んじゃいそう。なら……この子……!)」
「(ったく、まるで“どくびし”だなありゃ。となりゃ……こいつの出番か……!)」
そして、選んだボールをこれまた同時に放り投げた。
「お願い、ルーシアっ!」
「頼んだぜ、シビルドンっ!」
次鋒として選ばれたのはルーシアだ。
でんきタイプに強いわけではないが、掴み所の無いトリッキーな戦い方は大いに相手を悩ませられるはずだ。
そんなルーシアの身体に、長い影が投影される。
見上げれば、太陽光に照らされて身体の表面がぬらぬらと光る魚のようなポケモンが、宙を泳ぐように舞いながらゆっくりと降下してくるではないか。
……でんきうおポケモン『シビルドン』。魚のようだが、みずタイプは持たない、歴としたでんき単タイプである。
よく見てみれば、その身体は地面に接地しておらず、わずかに浮遊している。
「で、でんきタイプなんだ……」
見た目からは想像のつかぬタイプ構成に驚くツバキに対して、ゲントは自慢げに鼻を擦る。
「いやぁ、チョンチーでも釣ろうと糸垂らしてたらシビビールがかかっちまってな。釣り上げるのにかなり苦労させられて、その根性が気に入ったんで育てる事にしたんだ。……けど、進化に必要な雷の石持ってねぇ事に気付いちまってな……」
「雷の石……あっ、だからこの前……!」
そう、ツバキは先日、ゲントに雷の石を譲り渡している。
「大当たり。お前のおかげで、こいつはようやく実力の全部を発揮できるようになったってわけさ。……さぁ、ツバキ。ここからが本番だ。……行くぜ……!」
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
さすがに主人公のバトルを1話でさくっと終わらせるわけにもいかんので2話に分割する事にしました。
デンチュラかわいいよデンチュラ。