蒼天のキズナ   作:劉翼

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大変遅れてしまい申し訳ありません。
あと、ゲント戦は2話に分けると言ったな。あれは嘘だ。
というわけで前半後半のつもりが、なぜか中盤戦となってしまった第92話です!


第92話:ひこうじゃないけど空中戦!?地に足つかぬ激闘!

 スコーピオがマユリを容易く下した第1試合に続く、ツバキとゲントが戦う第2試合。

 ツバキはミスティ、ゲントはデンチュラを繰り出し、双方状態異常を駆使して一進一退の攻防を繰り広げるが、ミスティは“シグナルビーム”の直撃を受けて戦闘不能となり、デンチュラもまた猛毒のダメージ蓄積により倒れてしまい、先鋒戦は引き分けに終わる。

 迎えた次鋒戦は、ミスティの撒いた“どくどく”の水溜まりを意識してか、ツバキはルーシア、ゲントはシビルドンと、浮遊するポケモン同士のバトルとなった。

 

 

 

 

「互いに最初の1体を失い、次いで出てきたのは、どちらも現在確認されている特性が《ふゆう》のみのポケモンです! ひこうタイプ同士のような空中戦とはいかないでしょうが、一風変わったバトルが見られるのではと、わたくし年甲斐もなくワクワクドキドキが膨らんでおります!」

 

 ブルースの癖である『隙あらば自分語り』を流しつつ、審判が両手の旗を両者に向ける。

 

「それでは、バトル………………再開っ!!」

 

 旗の動きを追っていたツバキとゲントは、その合図と共に同時に動きを見せるが、ゲントの方が1歩早かった。

 

「“アクアテール”だ!」

 

 空中を揺蕩うシビルドンの尻尾の周りに、渦を巻いて水分が集められていき、ドリルやタービンのように激しく回転する水流が形作られる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シビルドンの長い尻尾が荒天時の海のように荒れ狂い、右に左にと振り回されながらルーシアへ迫ってきた。

 

「(先に動かれた……!)ルーシア、“あやしいかぜ”!」

 

 長い胴を持ち、尻尾を用いた攻撃を仕掛けてくる相手ならロケット団アジトでアーボックとの対戦経験のあるツバキだが、あちらがあくまで地上という平面上での動きだったのに対し、シビルドンは空中を自在に泳ぎ回る事で、極めて立体的な3次元攻撃動作を可能としている。

 無論、そこから繰り出される打撃攻撃の回避はアーボックの時以上に困難だ。

 だが、回避が難しいなら防御。逆巻く風で水を巻き上げる事で“アクアテール”を妨害してしまおうというのがツバキの狙いである。

 ツバキの意図を察したルーシアが、空気そのものに反響するような不気味な鳴き声を上げると、悲鳴とも喜声ともとれる音を出しながら、その周囲に風が渦を巻く。

 

「へっ、やっぱ防御に出たな! だが、そっからすぐに次の動きには移れねぇよなぁっ! シビルドン! 水を吸われちまう前に“アクアテール”を地面に叩き付けろ!」

 

「えっ……!?」

 

 風で壁を作って待ち構えていたツバキとルーシアの思惑に反し、シビルドンは身体をくねらせて回頭すると、尻尾をぐるぐると回しながら思いっきり地面へ振り下ろした。

 回転力、遠心力、重力。全てを乗せた一撃によって、尻尾に纏っていた水は凄まじい勢いで周囲へ飛び散り、濁流のように地面を覆っていった。

 

「っ! これは……!」

 

 ここに来てツバキもゲントの意図を理解した。

 驚異的な量と勢いの水が、瞬く間にフィールドを侵食していき、それまで地面を蝕んでいた“どくどく”の猛毒液を洗い流してしまったのだ。

 

「そうさ、厄介な毒液の掃除をさせてもらったぜ! そっちが防御を固めてくれた間にな!」

 

 ゲント側のフィールドに点在していた毒の水溜まりは、そのままにしておけば設置技である“どくびし”に似た効果を発揮し、ゲントの3番手が地面に足をついた瞬間にその身体を毒で侵してしまう。

 だが、何も考えずに漠然と処理しようとしても、それが大きな隙となってルーシアの攻勢を許す事になる。

 そこでゲントは、回避の難しい技で攻撃をするふりをし、ルーシアが防御態勢をとるように仕向け、毒液処理を行うための隙を作り出した、というわけだ。

 

「ゲ、ゲント選手荒業ーーーーっっ!! “アクアテール”の水で“どくどく”トラップを洗い流してしまったぁぁーーっっ!!」

 

 “なみのり”や“だくりゅう”のような多量の水で相手を押し流す技ならともかく、打撃技である“アクアテール”でこんな芸当をするのは想定外。

 ブルースの実況にも熱が入っているのがわかる。

 

「(……やっぱり一筋縄じゃいかない……強い!)」

 

 9番道路でのバトルでも感じた事だが、今のゲントはクチバジムで戦った時とはまるで別人だ。

 それは性格や人相という話に止まらず、バトルスタイルも大きく変化している。

 ポケモンの能力差に物を言わせた力任せの戦い方は見る影も無く、デンチュラの4足歩行の機動力、そしてシビルドンの浮遊能力と蛇のような身体が生み出す変幻自在の軌道……言うなれば『形状』をバトルの中核に据えている戦い方だ。

 通常はまずどんな戦術を取るかを決め、その戦術に合致した能力を持つポケモンを選ぶ。

 彼の場合はその順番が逆で、そのポケモンがどんな形をしていて、どの程度まで変形させられるのか。そして、その形が得意としている移動方法は何か……などを正確に理解し、その範囲で実現可能な戦術をリアルタイムで構築しているのだ。

 ……とはいえ、もちろん使用ポケモンを先に決め、その特徴をフル活用した戦い方を後から考えるトレーナーも皆無というわけではなく、他でもないツバキもそのクチである。

 ここでもまた2人の似ている部分が露となったわけだ。

 ともあれ、最初に戦った時とは比較にならない強敵となったゲントに、ツバキはさらなる激戦を予感して息を飲む。

 

「(守りに回ったら一気に相手のペースに飲まれる……!)ルーシア! “マジカルフレイム”!」

 

 初手は相手の思惑通りに防御に回り、まんまとトラップを解除されてしまったが、ここから攻勢に転じればまだ巻き返しは図れるだろう。

 ルーシアが空中へ浮かび上がり、呪文を唱えるようなボソボソとした鳴き声と共に、身体から溢れ出した黒いエネルギーが炎へと変化し、大きな火の玉が作り出される。

 

「シビルドン! “10まん”……いや、“アクアテール”だ!」

 

 ルーシアを追うようにシビルドンが身体をくねらせながら上昇し、その尻尾にまたも水流が渦巻く。

 

「両者飛んだーーっ! 舞台は空中へ移り、どんなバトルを見せてくれるのかーーっ!?」

 

 シビルドンの水流は見る見る内に水量と勢いを増すが、発動が早かった分、先に攻撃したのはルーシアだ。

 向かってくるシビルドンに対して、炎が踊るように襲いかかった。

 

「今だ! 水をばら撒けっ!」

 

 水を纏う尻尾を大きくしならせたシビルドンは、勢いよく横薙ぎに払い、大量の水を迫る炎目掛けて撒き散らした。

 水と炎がぶつかれば、発生する事象はわかりきっている。

 案の定、大量の水蒸気が膨れ上がり、ルーシアとシビルドンの姿が誰の目にも映らなくなってしまった。

 

「わっ……!? ル、ルーシアっ!」

 

「…………捕まえたぜっ!」

 

 驚くツバキに対し、静かに水蒸気を見つめていたゲントが、おもむろにグッと拳を握る。

 晴れ行く水蒸気の中、2体のシルエットがひと塊になっているのが見えてきた。

 

「そ、そんな……まさか……!?」

 

 まさにそのまさか。

 ゲントの言葉通り、ルーシアはシビルドンの長い身体に巻き付かれ、締め上げられていたのだ。

 

「あんな水蒸気がいきなり発生しちゃぁ、誰だって一瞬動きが止まる。つまり、直前に位置を覚えてりゃ、シビルドンのリーチなら十分に捕獲可能ってわけよ! そのまま“10まんボルト”だ!」

 

 シビルドンが頭を振りかぶり、ルーシアの帽子のような頭頂部をすっぽり口で包むと、4本の牙から激しい電撃を流し始め、眩い閃光と共にルーシアが苦しげな声を上げる。

 

「あぁっ!?」

 

「こ、これは凄いっ! あの水蒸気の中、見事ムウマージを捕らえたシビルドンの追撃っ! ムウマージ危うしぃぃっっ!!」

 

 当然ルーシアは逃げようともがくが、黒光りする長い胴に巻き付かれている上、大きな両腕でもがっちり拘束されており、とてもじゃないが脱出はできそうもない。

 電撃を浴びている状態では、呪文を唱えられないので“マジカルフレイム”は使えず、“あやしいかぜ”も風速や風向きのコントロールには相応の集中力を要する。

 ルーシア……ムウマージは魔女のような見た目通りに特殊技を使用した遠距離攻撃を得意とするが、それ故に近接攻撃手段に乏しいため、こうした至近距離での戦闘には滅法弱い。

 

「(……今ルーシアが動かせるのは……!)」

 

 苦しむルーシアの姿に焦りが生まれるが、バトルで大切なのは、状況を冷静に見極め、その後の展開まで見据えた指示を出せる冷静さだ。

 

「(……っ!)ルーシア! “あやしいひかり”!」

 

 ツバキの指示をどうにか聞き取ったルーシアは、唯一拘束されていない部位である首を目一杯に振ってシビルドンの牙を外すと、関節の許す限り後方へ首を回し、ギリギリのところでシビルドンと視界がぶつかる。

 これ幸いと見開いたルーシアの目が怪しい紫色に光ると、シビルドンが低い唸り声を上げながら拘束を解いてしまった。

 

「しまった……!? お、おいシビルドンしっかりしろーっ!」

 

「ムウマージ脱出! シビルドン、“あやしいひかり”で混乱してしまい、狂ったように空中をのたうち回っているぅーーっ!」

 

 目の焦点の合わぬまま、風に煽られる鯉のぼりのように空中を泳ぎ、壁や地面に頭を激突させるシビルドン。

 

「今の内に距離を!」

 

 解放されたルーシアはふらふらとシビルドンの側から離れ、ようやく一息つくと、取り出した黄色い木の実を食べ始める。体力が半分ほどに減った時に、少し回復してくれるオボンの実だ。

 ツバキはこの1ヶ月、リーグ戦に向けた特訓をする傍ら、イソラから木の実栽培のレクチャーを受け、購買で調達したプランターで様々な木の実を育ててきたのだ。

 トキワジム戦で使用したカムラの実のような能力上昇系の木の実も一考したが、あちらは本当に体力が限界ギリギリまで減らないと使えないため、リスクが大きい。あの時使えたのは、その博打にたまたま勝てたからに過ぎない。

 そんなわけで持たせたオボンの実のおかげで多少傷を癒やせたが、混乱するシビルドンが無差別に電撃を放ちまくっているため、あまりのんびりもできない。

 

「(相手が混乱してる今が巻き返しのチャンス!)“マジカルフレイム”!」

 

 相手が思い通りに動けないからと容赦などしない。

 詠唱される呪文と共に大きくなっていく炎が生き物のように揺らめき、一直線に空中のシビルドンへ伸びて、その身体を一瞬にして包み込んだ。

 

「うわぁぁーーっ!? か、蒲焼きにされちまうぞシビルドンっ!!」

 

「シビルドン炎上ーーーーっっ!! “マジカルフレイム”は、特殊な術式を込めた炎を受けたポケモンの精神を掻き乱し、特殊攻撃の威力を弱めてしまう技! シビルドン大丈夫かぁーーっ!?」

 

 ブルースからも熱く心配されてしまうシビルドンであったが、不意に口から何かを空中へと吐き出した。

 

「あれは……葉っぱ?」

 

 ひらりひらりと宙を舞うは、真っ白な葉のような物だ。

 と、そちらに目を向けていると、その葉の真下にいたシビルドンが、唐突に空気を震わせるような大きな鳴き声を上げたではないか。

 

「ふえっ!? ……あ、あれ……? なんだかシビルドンが元気になってるような……」

 

 それはきっと気のせいではあるまい。

 シビルドンは先ほどまでの狂乱が嘘のように落ち着き、弱った様子などまったく見られない。

 

「こ、これは白いハーブ! ポケモンの能力が下がった時、心を落ち着かせる不思議な香りで、下がった分を元に戻せる持ち物です! “マジカルフレイム”の能力低下を無効にしましたぁーーっ!!」

 

「(“ばかぢから”用に持たせてたんだが、思わぬところで役に立ったぜ……!)」

 

 “ばかぢから”は、一時的に限界を越えた怪力を発揮し、驚異的なパワーで相手を叩き潰す物理技だが、無理をした代償として、その直後に疲労と筋肉痛に襲われて攻撃力と防御力が低下してしまう。

 高火力物理技を使いつつ、そのデメリットを白いハーブで相殺……というのが狙いだったわけである。

 しかも、“マジカルフレイム”の熱によって、混濁していた意識をはっきり取り戻し、さらに白いハーブの香りで落ち着いた事で混乱が解除されている。

 思いもかけぬ混乱状態の回復で、まだまだ戦況がどちらへ傾くかはわからなくなった。

 とはいえ白いハーブは消耗品。計算外の消費をしてしまったため、おいそれと“ばかぢから”は使えなくなってしまったとも言える。

 

「(……ダメージレースじゃ並ばれちまったが、向こうの技は3つ明らかになった。対してこっちはまだバレてんのは2つ。幸いっつぅべきか、ムウマージ相手ならかくとう技の“ばかぢから”は効かねぇからまず使わねぇ。少なくとも、こいつと戦ってる間は「どんな技を隠してるのか」って疑心暗鬼にしておける。白いハーブ持ってるだけなら、弱体化技を警戒してただけって可能性もあるしな)」

 

 直接的な技の応酬だけがポケモンバトルではない。情報戦もまた重要なポイントだ。

 相手がどういう技を持っているかわからないと、警戒心と猜疑心が生まれ、それによって無意識の内に思い切りの良さが鈍る事もある。

 逆に言えば、いかに4つの技それぞれをここぞという場面まで温存し、手の内を悟らせないかが肝要なのだ。

 そういう観点で言えば、シビルドンの手を半分は隠し通しているゲントは優勢であると言えるだろう。

 それでなくともシビルドンは習得可能な技のレパートリーがやたら広く、何をしてくるかわからないポケモンなのだから、ツバキも迂闊な事はできないはずだ。

 

「“マジカルフレイム”!」

 

「え? あっ、ちょ……ア、“アクアテール”で迎え撃て!」

 

 そう思っていた矢先、ツバキはまったく躊躇無く攻撃を再開した。

 ツバキはさっき、守りに徹すれば追い込まれる事を理解し、攻めに転ずる事を決心した。

 それに加え、ツバキも経験を積んで強くはなったが、まだまだ駆け引きという点では未熟な部分のある新米の域は出ていないため、ゲントが思っていたほど過剰な反応はしてくれなかったのだ。

 

「ツバキ選手攻める! 攻める! 舞い踊る炎がシビルドンを襲います!」

 

 慌てて出されたゲントの迎撃指示を聞いたシビルドンの水を纏った尻尾と、ルーシアの放った炎とがぶつかり、再び水蒸気が発生して膨らんでいく。

 

「急上昇して“あやしいかぜ”!」

 

 だが、同じ轍は踏まない。

 真っ白な水蒸気の中から、コマのように回転しながら勢いよく飛び出したルーシアが金切り声を上げ、共鳴するように周囲の風が不気味に泣きながら渦を巻く。

 風は水蒸気を巻き上げると同時に、中にいるシビルドンを風の刃で切りつけていく。

 

「くっ……追え! シビルドン! “10まんボルト”で牽制しながら距離を詰めろ!」

 

 ゲントもバッジ8つを集め、予選を突破してここにいる実力者。

 このまま止まっていては風に切り刻まれるだけだが、だからと慌てて出ていくのもまた愚策と理解している。

 視界を遮っている水蒸気の向こう側で、出てきたところを狙い撃ちしようとルーシアが待ち伏せている可能性も十分にある。

 故に、何は無くともまず牽制。

 指向性の電撃を4発5発と向こう側へ発射し、出ていった瞬間が無防備にならないようにしておく。まぐれでもルーシアに当たれば儲けものだ。

 一方、立ち込める水蒸気の外側にいるルーシアは、ゲントの予想通りに“マジカルフレイム”の攻撃準備をして待ち構えていたが、中から飛んできた電撃に驚いて、空中で体勢が崩れてしまう。

 

「……! 出てくる! 上昇!」

 

 ツバキの指示が飛び、ルーシアは慌てて高度を上げる。

 間一髪、さっきまで浮かんでいた場所に、水蒸気の中から飛び出したシビルドンが突っ込んできた。

 もう1度あの身体に巻き付かれて近接戦に持ち込まれたら勝ち目は無い。

 

「距離を取って! 近付かれたらおしまいだよ! “マジカルフレイム”!」

 

「逃がすな! 近付きさえすりゃ終わりだ! “10まんボルト”!」

 

 “マジカルフレイム”発射用の火の玉を維持し、時折炎を噴射して牽制しつつ宙を舞うルーシア。

 シビルドンも蛇のように不規則に身体をくねらせて炎をかわし、ルーシアを減速させようと電撃を放ちながら後を追う。

 

「凄い! どんどん上昇していくぅーーっ!! 炎と電気が幾度と無く交差し、互いに紙一重でよけながら一定の距離を保っています!」

 

 いつの間にか両者の高度はかなり高い位置にまで上昇しており、少なく見積もっても地上10m以上……15mはあるだろうか。

 “10まんボルト”が放たれれば、ルーシアは錐揉みして回避し、体勢を立て直しながら“マジカルフレイム”で反撃する。

 その炎を中心に螺旋を描くように避けたシビルドンが、再度“10まんボルト”でルーシアを狙う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それを繰り返しながら、2体はぐんぐん上昇を続けていく。

 バトル開始時、ブルースがひこうタイプのような空中戦とはいかない……と言っていたが、とんでもない。2体は今まさにその空中戦を演じているのだ。

 ……だが、さすがにこれ以上高度が上がっては、指示を出すのもままならない。

 スタジアムのドーム状天井は展開し、その先には広大な空が広がっている。つまり、ほっとくと際限無く上昇してしまいかねないのだ。

 

「「……下降っ!!」」

 

 このままだとマトモにバトルができないと判断したツバキとゲントは目を合わせ、互いに同じ事を考えていると察すると、声を揃えて高度を下げるよう、大声で指示を飛ばす。

 その指示がギリギリで耳に入ったルーシアとシビルドンは、自分達が知らず知らずの内にとんでもない高さまで来ていた事にようやく気付き、我先にと急降下していく。

 

「あっ! 両者降りてきました! わたくし正直ホッとしています! 姿が見えなくなってしまうと、実況のしようがありませんので!!」

 

 実況できなくなる状況というのは、実況者としては1番困る事態である。

 ルーシア達が高度を下げてくれた事に安堵しつつ、爪先立ちをしていたブルースは席につく。

 さて、戻ってきた2体はというと……疲れている。どう見ても疲れている。

 まぁ、当然と言えば当然だ。浮遊できるとはいえ、それには多少なりとも体力を使う。それをぐんぐん急上昇しながら攻撃まで絡めて繰り返していたのだから、疲れない方がおかしい。

 

「……ルーシア、まだ行ける?」

 

「シビルドン、まだ大丈夫か?」

 

 ツバキもゲントも自身のポケモンが疲弊しているのを見て気遣うが、どうもこの2体、激しい空中戦を演じている内にライバル心が芽生えたのか、どちらも相手に背中を見せるつもりは無いと言わんばかりに首を横に振りまくる。

 

「あはは……わ、わかったよルーシア。もう少し頑張ろうね!」

 

「根性あんのは良いけど、あんま無理すんなよ、シビルドン」

 

 2人はポケモン達の意を汲み、再度フィールドへと送り出した。

 

「おっと! どうやらどちらも引く気は無いようです! 双方ダメージはほぼ同じくらいでしょうか? まだまだ勝敗の行方はわかりません!」

 

 ブルースの言葉通り、受けたダメージと疲労が相まって、2体の様子は目に見えてバトル前とは違う。

 それでも互いに相手を睨み、闘志の炎を燃やし続けている。

 

「……“あやしいかぜ”!」

 

 ルーシアの周囲で風が怪しく流れを変え始める。

 ……だが、ゲントはその攻撃準備の隙を狙っていた。

 

「っ! ここだ! “アクロバット”!」

 

 軽く飛び跳ねたシビルドンが身体を丸め、一気に伸ばしたかと思うと驚異的なスピードでルーシアに肉薄し、尻尾を振って地面へ叩き落としてしまった。

 

「っ!? 速い……!! ルーシア!」

 

 “アクロバット”。

 持ち物を持っていない場合、通常より動きが軽やかになって威力の上がる、ひこうタイプの技だ。

 白いハーブを消費した後、この技を使う機を窺っていたが、常に動き回る空中戦ではなかなか隙が見つからなかったのだ。

 高度を下げて仕切り直しとなり、両者の距離が十分離れているが故にツバキの警戒が緩んだ今こそ絶好のチャンスだったわけだ。

 

「畳み掛けるぞ! “アクアテール”!」

 

 シビルドンは地面に落下したルーシアへ突っ込み、周囲を水流がコーティングした尻尾を振り下ろす。

 すんでのところでルーシアは転がって回避したが、高速回転する水流の当たった地面は、掘削用ドリルを押し当てられたかのように削られてしまう。

 “アクアテール”は連続で振り下ろされ、ルーシアもそれに合わせて必死の形相で回避運動を繰り返している。

 浮かび上がる事さえできれば良いのだが、間断無い連続攻撃にその隙が見つけられない上、相手と視線を合わせている余裕も無いので“あやしいひかり”も使えない。

 そうこうしている内に“アクアテール”がルーシアの身体を掠り始めてしまい、回避が追いつかなくなるのも時間の問題となってきた。

 

「あぁーーっと! ムウマージ避けるので精一杯で抵抗できず! このままあえなく敗れてしまうのかーーっ!?」

 

「(終わりだぜ、ツバキ!)」

 

 ルーシアを倒して2対1となれば圧倒的に有利。

 ツバキの残る1体に2体がかりなら勝算は十分だ。

 

「くっ……本当はもうちょっとダメージに差をつけてから使いたかったけど……このまま倒されたら意味が無い! ルーシア! “いたみわけ”!」

 

「何ぃっ!? い、“いたみわけ”だとぉっ!?」

 

 勝利のビジョンが見えていたゲントだったが、唐突に現実へ引き戻されてしまった。

 ルーシアから伸びた紫色のオーラの管がシビルドンと結び付き、咄嗟の事にシビルドンの動きが止まる。

 そして、一瞬にして両者の体力を均等に分かち、戦況を変えてしまった。

 

「こ、ここで“いたみわけ”ぇぇーーーーっっ!! これぞまさに逆転の一手! シビルドン苦しんでいますっ!!」

 

 強烈な脱力感に襲われたシビルドンは思わず両手を地面について身動きが取れなくなってしまい、その隙にルーシアは回復した体力で一気に抜け出した。

 

「しまったっ!!」

 

「“マジカルフレイム”っ!!」

 

 動けないシビルドンの背後に回ったルーシアが呪文を詠唱し、炎の塊を作り出す。

 膨張した炎は二又に分かれながら空中へ舞い上がり、獲物目掛けて急降下。

 蛇が巻き付くような炎の動きによってシビルドンの身体は激しく燃え上がり、大きな叫び声は徐々に小さくなっていく。

 

「シ……シビルドンっ!!」

 

 10秒ほど燃え続けた末に鎮火したシビルドンはゆらゆらと揺れた後、空中のルーシアを振り返って虚ろな目で見据え、そのまま小さな呻きと共に横倒しになって目を回した。

 

「シビルドン戦闘不能! ムウマージの勝ち!」

 

「決まったぁぁーーーーっっ!! 接近戦、空中戦、そしてまた接近戦と戦いの舞台を切り替えながらの激戦! 制したのはツバキ選手のムウマージ! ゲント選手、最後の1体まで追い込まれたぁぁーーーーっっ!!」

 

 激しい戦いを終えたシビルドンがボールへと戻っていき、ゲントはそのボールを指先でとんとんと軽く叩いた。

 

「ご苦労さん。あとは任せな、シビルドン」

 

 そして、取り出された3つ目の……最後のボール。

 それはゲントの右手の中で、パリパリと微弱な電気を帯びているようにも見える。

 

「っ! ……そうか、お前も覚えてるんだな、ツバキを。……そうだ。やっぱここを決めるのは……お前しかいねぇっ!!」

 

 どうやら本当に帯電していたようで、一瞬驚いたような表情を見せたゲントは、ボールの中にいる相棒の意を察し、不敵な笑みを浮かべてボールを大きく振りかぶった。

 

「ぶちかますぜ、ライボルトっ!!」

 

 空高く投擲されたボールから飛び出した光が、稲妻のようにジグザグの軌道を描きながら地面へと落下する。

 

「……! あのポケモンは……!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 避雷針のように逆立った黄色い鬣と、しっかり地面へ踏み込んだ四肢がバチバチと音を立てて放電する。

 開いた瞼の奥から覗く赤い瞳がツバキを捉え、闘争心を高めるかのように全身を電撃が駆け巡る。

 

「ゲント選手最後のポケモンは……ライボルトだぁぁーーーーっっ!! なんかもう物凄くバチバチ言っています! 観客席の皆様にも見えているでしょうか? あの青白い電光が!」

 

 ツバキの初めてのポケモンバトル。

 初めてのトレーナー戦。

 初めての敗北。

 そして……初めての勝利。

 目の前に立つのは、それら全てをツバキに教えたポケモン。

 旅に出たツバキの、その後の全てを決めたポケモンと言っても過言ではない。

 

「ライ……ボルト……!」

 

 ほうでんポケモン『ライボルト』。

 始まりの雷撃が、今この大舞台で再びツバキに牙を剥く……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

えー、というわけでゲント戦は3話構成となってしまいました。
こんな事なら無理矢理にでも前回にシビルドン戦入れとけば良かったかも…?
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