蒼天のキズナ   作:劉翼

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今欲しい物:時間。
というわけでゲント戦ラストの第93話です!


第93話:迅雷一閃!雷撃の向こう側へ!

 ツバキとゲントのバトルは中盤へ突入し、共に特性が《ふゆう》のルーシアとシビルドンは激しい空中戦を展開して会場の目を釘付けにする。

 シビルドンの長い身体を駆使した戦術に苦戦を強いられるツバキであったが、起死回生の“いたみわけ”で戦況をひっくり返し、トドメの“マジカルフレイム”によって決着をつける。

 そして閃光と共に現れたゲントの3体目は、ツバキにとっても思い出深い、あのライボルトだった……。

 

 

 

「さぁ、素晴らしい空中戦を見せてくれた両選手ですが、残りポケモン数ではツバキ選手が1歩リード! ゲント選手は追いつめられましたが、その表情に焦りらしいものは窺えません! ライボルトへの絶対的な信頼の成せる技かっっ!!」

 

 ブルースの言葉通り、ゲントの顔にはむしろ余裕の色すら見える。

 

「へへっ、ライボルトまで引きずり出されるとはな。だが、こいつもお前と戦いたかったようだぜ、ツバキ!」

 

 ゲントの言葉に同意するかのように咆哮するライボルトの姿を見たツバキの頬を1筋の冷や汗が流れる。

 あれからそれなりに経験を積んだツバキだからこそ、このライボルトもゲント同様、以前のバトルから劇的な変化を遂げている事がわかるからだ。

 恐らくその強さは先のデンチュラ、シビルドンをも遥かに上回っているだろう。

 

「(それでもわたし達は……勝って先に進む!)……ルーシア、一旦下がる?」

 

 決意を固めたツバキの問いかけに、ルーシアは首を横に振って交代を拒否。

 ルーシアは理解しているのだ。シビルドンとの戦闘で消耗している自分が下がって、後に備えたとしても、大した意味が無いのだと。

 それならば、体力の続く限り戦闘を続行してライボルトの手の内を引き出しながら疲弊させ、3体目に全てを託すべきなのだ。

 そして、そんな「捨て駒になりなさい」という非情な指示はツバキには出せないだろう、とも理解できているが故、ルーシア自らが率先してその道を進むわけである。

 

「ツバキ選手、ムウマージ続投っ!! シビルドンに続いてこのままライボルト撃破までを狙うかぁぁーーっっ!?」

 

「それでは、バトル…………再開っ!!」

 

 審判の合図とほぼ同時に、2人の目付きが変わり、意識をバトルへ集中する。

 

「“マジカルフレイム”!」

 

 呪文と共に湧き上がった禍々しいオーラが赤黒い炎を形成し、ライボルトへ向けてフルパワーで発射される。

 

「目には目を、炎には炎をってなぁ! “かえんほうしゃ”!」

 

 対するライボルトも、口の端から火の粉を踊らせたかと思うと、高温の炎を勢いよく放射して“マジカルフレイム”へぶつけた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「熱うぅぅぅぅいっっ!! 炎と炎の激突っ! 両者の炎が空中でぶつかり、互いを飲み込もうと巨大化しつつあります!」

 

 2つの炎が混ざり合い、フィールドを赤々と染めていく。

 やがてその炎は、太陽かと見紛うほどの高温の球体へと変化し、あまりの熱に周辺の景色が蜃気楼のように揺らめき、視界が利かなくなってきた。

 

「頃合いだな……“でんこうせっか”! 足元へ潜り込め!」

 

 口から炎を吐きながらもライボルトの四肢が帯電を始め、そこから一瞬にして加速する。

 使用者の消えた“かえんほうしゃ”を“マジカルフレイム”が撃ち抜き、ライボルトのいた場所を焼き払うが、すでにそこに敵の姿は無い。

 

「……!?」

 

 ……真下。

 空中から炎を放っていたルーシアのちょうど真下に、それはいた。

 “でんこうせっか”で一気に加速したライボルトは、形成された炎の塊の下を熱さを感じる間すら無い速度で駆け抜け、ルーシアの死角に潜り込んだのだ。

 

「“かみなり”だっ!!」

 

 ルーシアが気付くよりも早く、身体に溜まった電気が上空へ放出され、それに驚いたルーシアの動きが止まる。

 そして、ライボルトが尖った尻尾を避雷針のように高く掲げると、拡散した電気は空中で集束し、1本の稲妻となってライボルトの尻尾へ……つまり、間にいるルーシアへ直撃した。

 

「なんとぉぉぉーーーーっっ!? ゲント選手のライボルト、“でんこうせっか”の加速を利用してムウマージの真下へ回り込み、命中に難のある“かみなり”を《ひらいしん》で誘導したぁぁーーーーっっ!!」

 

「ルーシアっ!!」

 

 “かみなり”はでんきタイプ技の中でも最高峰の威力を誇る技だ。

 しかも、ポケモンの技は技を使用するポケモンとタイプが合致すればダメージが上がるという特徴がある。

 結果、シビルドンからの連戦で疲弊したルーシアを戦闘不能にするには十分すぎる電圧の“かみなり”が降り注ぐ事となった。

 身体の表面を電気が走り、しばらく浮いていたルーシアの身体は、くるくる回りながら落下してしまった。

 

「ムウマージ、戦闘不能! ライボルトの勝ち!」

 

 これを以て、とうとう最後の1体同士のバトルとなる事が決まり、観客からも様々な色の声が上がる。

 

「まさに電撃的! ライボルト、雷のごとき驚異の速さでムウマージを撃破! ツバキ選手もラスト1体へと追いつめられました!!」

 

「お疲れ様、ルーシア。よく頑張ったね。ゆっくり休んでて」

 

 両手で持ったボールを撫で擦り、優しく語りかけたツバキは、3体目の入ったボールを取り出した。

 

「……ミスティとルーシアの繋いだバトン、絶対に無駄にしないよ……! お願いっ! ファンファンっ!」

 

 ツバキの投げたボールから、大きなタイヤ……いや、丸まった状態のファンファンが空高く飛び出して着地した。

 その状態でフィールドの真ん中辺りを旋回してツバキの前へと戻ってきたファンファンが防御形態を解き、4本の太い脚で地面を踏み鳴らす。

 

「ツバキ選手最後の1体はドンファン! さぁ、タイプ相性ならライボルトに有利ですが……はたして!!」

 

 ファンファンの姿を見たゲントは、ブルースの暑苦しい声とは対極の静かな声で語る。

 

「ドンファンか……考えてみりゃ、クチバジムじゃあいつを見る事無く俺達は負けたんだったな、ライボルト。9番道路じゃ戦ったのはレアコイルだったし……。お前にとっちゃ、ようやくその雪辱を果たせる機会ってわけだ。……やろうぜ、相棒っ! あいつを倒して俺達はツバキを超えるんだ!!」

 

 だんだんと語気の強くなったゲントの喝に対して、ライボルトもファンファンへ闘気をぶつけるかのように全身から放電する。

 

「(ファンファンはじめんタイプだから、“かみなり”は効かない……。でも、あのライボルトのスピードは早めになんとかしなきゃ……!)」

 

 ツバキが思考する間も状況は動いていき、審判が旗を持った両手を高く振り上げる。

 

「それでは、バトル…………再開っ!!」

 

「(まずはこれで……!)ファンファン、“じしん”っ!」

 

 ファンファンが雄叫びと共に重々しく前脚を上げようとするが、どうにも動きが鈍い。

 

「ファンファン……? ……あっ……!?」

 

 疑問を感じたツバキがファンファンを観察すると、すぐにその理由が明らかになった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ファンファンの脚回りや足裏に、粘り気のある糸が付着し、動きを阻害していたのである。

 

「っ! 最初の“ねばねばネット”……!」

 

 それは、先鋒戦で相手のデンチュラが最初に使用した技、“ねばねばネット”。

 使われたミスティ自身には影響が無く、宙に浮いていたルーシアもその罠にかからなかったが、ネットはツバキ側のフィールドに設置され、地に足つける獲物が現れるのを待っていたのである。

 

「おぉっと! ドンファンが“ねばねばネット”に引っかかってしまった! これはバトルへの影響が大きいぞっ!!」

 

 ただでさえファンファンとライボルトではスピードに差があるのに、この状態ではとてもその動きを追うなど不可能だ。

 攻撃を当てようとするなら、かなり高度な予測が必要となるだろう。

 だが、フィールド全域に震動を引き起こす“じしん”ならば、速さなど関係無い。

 ファンファンは言う事を聞かない脚を懸命に持ち上げ、どうにか地面へと叩き付けて地響きを起こす。

 地響きが徐々に大きくなりつつある中、ゲントは焦るどころか笑みすら浮かべて次なる指示を飛ばした。

 

「へっ! 対策は万全だぜ! “でんじふゆう”だっ!」

 

 ライボルトの身体の表面を流れていた電気が四肢へと集まり、それはさらに周辺の地面へ拡散していく。

 次の瞬間、ライボルトの身体が宙へと浮かび上がった。

 

「……!!」

 

 震動で打ち上げられたわけではない。

 4本の脚と、その周囲に作り出した磁場によって、地面と反発するように浮いているのだ。

 

「ライボルト浮いたぁぁーーーーっっ!! これではじめん技は効きませんっ!!」

 

「くっ……!」

 

 しかし、これで4つの技全てが判明した。

 “かえんほうしゃ”、“でんこうせっか”、“かみなり”、そして“でんじふゆう”。

 この内、“かみなり”はファンファンには効果が無いため、攻撃技は“かえんほうしゃ”と“でんこうせっか”に限定される。

 が、頼みの広範囲攻撃である“じしん”を無効化された以上、その2つだけでも相当な脅威だ。

 なにしろ、あちらは驚異的なスピードでこちらを一方的に攻撃できるのだから。

 

「(……あのスピードをどうやって捉えれば良い……?)」

 

 さすがにひこうタイプやシビルドンのように自在に空を飛んでいるわけではなく、ある程度は地面と近い必要はあるが、それでも機動力は飛躍的に向上している。

 宙に浮いてスピードもあるライボルトに対し、こちらは元々鈍重な上に“ねばねばネット”でさらに動きが鈍くなっている。

 ……正直かなり厳しいと言わざるをえないだろう。

 

「今度はこっちから攻めさせてもらうぜ! “かえんほうしゃ”!」

 

「うっ……! “ころがる”!」

 

 空中のライボルトから噴射された炎が迫る。

 ファンファンは小さく飛び跳ねて身体を丸めると、車のタイヤのように転がり出し、頑強な表皮と回転によって防御を試みた。

 いわタイプの技なだけあり、ほのお技である“かえんほうしゃ”への耐性はあるようで、ファンファンに当たった炎が左右に分散していく。

 

「上方からの火炎攻撃っ! ドンファン、得意のタイヤ形態でなんとか防御に出ます!!」

 

 しかし、やはり熱いものは熱い。次第に表面が赤く染まっていき、ファンファンの呻きも聞こえるようになってきた。

 

「……! 方向転換!」

 

 しつこく追い縋る炎を撒くようにジグザグに転がり回り、フィールドの端でUターン。

 ライボルトも息切れしてきたようで、炎の噴射が一旦中止された。

 どうにか凌いだファンファンが、土煙を上げながら戻ってきて防御態勢を解除した。

 

「ふぅ……危なかった……。…………あれは…………」

 

 額の汗を拭ったツバキの視界に映ったのは、ファンファンが転がりまくった事でもうもうと巻き上げられた土煙、砂埃。

 

「(……ちょっと待って? あれとこれで……これをこうしたら…………行けるかも……!)」

 

「考え込んでる時間は無いぜ! “でんこうせっか”!」

 

 ライボルトの四肢を覆う電気が激しくスパークして筋肉を刺激し、驚異の加速力で空中を駆けるように突っ込んできた。

 複雑な軌道で徐々に高度を下げるライボルトに、ファンファンは目が追いつかず、対応しようと身体の向きを変えようにも、足の裏のねばねばが邪魔をする。

 当然、相手の動きは捉えられず、真横から当て逃げされてしまった。

 そこそこ体重があって防御力も高いファンファンに効果は薄いが、それでもこのままではジリ貧だ。

 

「……それなら賭けに出るしかないっ! ファンファン、“ころがる”っ!」

 

 ファンファンが再度防御態勢を取り、猛スピードで地面を転がり始める。

 

「おぉーーっと!? ツバキ選手のドンファン、凄まじい勢いで転がり出しました! まるで暴走トラックだぁぁーーーーっっ!!」

 

「いくら地べた走り回ったって空中のライボルトには…………っ!!」

 

 余裕の表情を崩さなかったゲントだったが、円を描くようにフィールドを転がるファンファンによって、見る見る内に砂埃が巻き上げられるのを見て、その表情がわずかに動いた。

 

「(煙幕か! こっちの視界を塞いで、動きを封じようってわけだな……! だが、甘いぜツバキ!)……乗せられるなライボルト! 確かに煙は広く舞ってるが、ぶ厚いわけじゃない! ドンファンの図体なら必ず影が映るぞ!」

 

「っ……!」

 

 ゲントはあくまで冷静な対処をライボルトに促し、ツバキの眉がぴくりと動く。

 ライボルトはその指示に従い、空中から煙の中を慎重に見回し、そして、砂のベールの向こうにファンファンのシルエットを発見すると遠吠えを上げた。

 

「! 見つけた! 向こうはこっちのスピードには反応できねぇ! “でんこうせっか”で一気に近付いて至近距離から“かえんほうしゃ”をぶち込んでやれっ!!」

 

 ライボルトのスパークが激しさを増したかと思うと、まるで自分自身が雷であるかのように超高速でファンファンへ肉薄。

 

「速いっ! さすがライボルト、圧倒的スピードっ!! 疾風迅雷! 電光石火! ドンファンはこれに対抗できるのかぁぁーーーーっっ!?」

 

 一瞬でファンファンとの距離を詰めたライボルトは、ほぼ零距離から減衰の無い火炎を…………吐かない。

 

「ライボルトっ……!?」

 

 なぜかライボルトは炎を吐かず、眼下のファンファンを見て目を白黒させている。

 そして、目を凝らしたゲントにもその理由がわかった。

 

「な……なんだありゃぁっ!?」

 

 砂埃の中に映るファンファンの影が、ライボルトが近付いた途端、石の落ちた水面のようにゆらゆらと揺れ、ゆっくりと消えていったのである。

 

「今だよファンファンっ!」

 

 そして、それに気を取られていたライボルトの真横からファンファンが飛び出し、全身でのしかかり、地面へ強引に引きずり下ろしたのだ。

 

「なっ!? ラ、ライボルトっ!!」

 

「こ、これは何が起きたのでしょうっ!? ドンファンを追いつめたはずのライボルト、逆にドンファンにのしかかられてしまいましたっ!!」

 

「“じゃれつく”!」

 

 ファンファン……つまりドンファンは鈍重な分、その体重はライボルトの3倍近い。

 そんな重量でのしかかられた上、振り回した鼻で打たれ、脚でダンダンと踏みつけられてはたまったものではない。

 元々ライボルトは打たれ強いポケモンではなく、パワーも体格も圧倒的に優れているファンファンに連続で攻撃を食らい、見る見るダメージが蓄積していく。

 

「脱出しろ! “かえんほうしゃ”!」

 

 苦しんでいたライボルトが目を見開き、今度こそ至近距離から炎を浴びせかける。

 ファンファンはたまらず後退し、ライボルトはどうにか脱出に成功した。

 しかし、いくら“かえんほうしゃ”を食らったとはいえ、ファンファンの弱り方は尋常ではない。まるで、攻撃以外で体力を使ったかのような……。

 

「……っ! さっきのは“みがわり”か!!」

 

「そうです! 技マシン、ありがたく使わせてもらいました! そして……!」

 

 砂埃の中から出てきたファンファンは、黄色とオレンジの混ざったような木の実の欠片を口から放り出して見せた。

 

「体力が減った時に攻撃力を上げるチイラの実……!?(……そうか……! “みがわり”は自分の体力を削り取って抽出したエネルギーで自分そっくりの分身を作る技……! くそっ、やってくれるぜ……!)」

 

「ツバキ選手、“みがわり”と目眩ましを使い、反撃に成功! さぁ、これでまだまだバトルの結末は読めなくなりましたぁぁーーーーっっ!!」

 

 確かに、一方的に翻弄されていたところからの反撃はできた。

 だが、“みがわり”も相まってファンファンの体力もかなり削られており、チイラの実で強化した攻撃力で短期決戦を挑まねば勝ち目は無いだろう。

 そのための仕込みもさっきの接触時に済んでいる。

 

「……ちょっとばっか油断したがなツバキ。……能力が上がったのはそっちだけじゃないんだぜ!」

 

「えっ……?」

 

 ゲントに言われて見てみれば、ライボルトもファンファンのように口から果汁を垂らしながら咀嚼をしている。

 

「攻撃力を上げるチイラの実と同じように特殊攻撃力を上げるヤタピの実だぜ! そして、けっこうなダメージはもらったが、機動力の差が埋まったわけじゃねぇ! 仕切り直しだ! “かえんほうしゃ”!」

 

「くっ……!? “ころがる”でよけて!」

 

 またも空中から地上へ炎を吐き、ファンファンを襲うライボルト。その炎の勢いはそれまでの倍はあるだろうか。飛び散る火の粉の大きさも量もまるで別物だ。

 ファンファンは先ほどと同じようにフィールドを転がって炎から逃れるが、さっきとは決定的に違う事がある。

 ライボルトの首の旋回が遅いのだ。それによって、炎がファンファンに追いつきそうになっても、方向転換されるとすぐさま引き離されてしまう。

 

「!? ど、どうしたんだライボル…………なぁっ!?」

 

 目を細めて空中のライボルトを観察したゲントは、その異常の原因を悟る。

 ライボルトの顎から胴にかけ、白くねばついた糸が絡み付いていたのである。

 

「“ねばねばネット”……!? ……あぁっ! ま、まさかさっき踏まれた時に……!?」

 

 そう、“みがわり”に惑わされてのしかかられた際、“じゃれつく”ついでにファンファンの足裏の“ねばねばネット”を擦り付けられ、まったくありがたくないお裾分けをされてしまったのだ。

 

「なんという事かぁぁーーーーっっ!? ゲント選手が最初に仕掛けた“ねばねばネット”! ドンファンに効果覿面と思いきや、巡り巡って自分に返ってきてしまったぁぁーーーーっっ!!」

 

「おいおいおいおい……! こんな返しありかよ……!? くそっ……! ライボルト! 旋回する時は身体ごと動かせっ!」

 

 こうなったらもう、首は動かないものと諦め、身体自体の向きを変えて追う方が良い。

 幸いにして“ねばねばネット”は磁場による浮遊能力そのものにはなんら影響を及ぼさないので、首や関節を動かしにくい事を除けば機動力に変化は無い。

 つくづく“でんじふゆう”様々である。

 

「“ころがる”を続けて! 止まったらすぐに炎を浴びちゃう!」

 

 右へ炎が迫れば左へ避け、左へ迫れば右へ避ける。

 ドンファンはこの防御形態における地上での機動性が最大の武器であり、同じようないわゆる重戦車タイプのポケモン達の中での差別化点となっている。

 ライボルトの炎はなかなかファンファンを捉えられないが、さすがにファンファン側も転がり通しで疲労の色が見える。

 砂埃が上がり始め、ライボルトの息切れも近そうなので良い頃合いだ。

 

「ファンファン! 煙の中に入って!」

 

 大きくカーブしたファンファンは、その勢いのまま砂埃の中へ突入し、炎の追跡が途絶えた事を確認すると、通常形態へ戻って息を整える。

 空中のライボルトも炎を吐きすぎて呼吸が荒くなっている。

 

「ドンファンもライボルトも息絶え絶え! 両者の疲労は限界に近いようです! 会場の誰もが、この激戦の決着……その時が近い事を肌で感じているのではないでしょうか!?」

 

 まさにブルースの言葉通り、ファンファン、ライボルト共に疲労困憊であり、どちらも相応にダメージを受けている。

 特にファンファンは攻撃に加えて“みがわり”を使ったのでかなりキツい。

 さらに、双方攻撃に関する能力を向上させる木の実を使用しており、疲弊した今の状態ではほんの一撃が冗談抜きに致命傷となりうる。

 お互いの疲労故に暗黙のインターバルとなっている今が、恐らく最後の戦術構築期間となる。

 

「(だいぶ動きは鈍らせたけど、相手が空を飛んでるのは変わらない……。たぶんもう誘い出しは引っかからないし、そもそも体力的に“みがわり”が使えない……どうやって攻撃を当てよう……?)」

 

 ツバキはフィールドを見回すが、空中のライボルトに届く攻撃を出せそうな物は……。

 

「…………!(……これしかないっ!)」

 

 ツバキは必死に記憶の糸を手繰り寄せ、この状況を打開する起死回生の戦術を組み上げていく。

 いつも通りに賭けにはなるが、そもそもそういう事を考える時は大抵賭けに出ざるをえない状況なのである。

 

「よぉし……! “ころがる”だよファンファンっ!」

 

 呼吸を整え、身体を休めたファンファンが小ジャンプの後身体を丸め、高速回転しながら砂埃の外へと飛び出した。

 

「ツバキ選手動くっ! 相変わらず凄い回転です!」

 

「今度はどう来る気だ……!? 気を付けろよライボルト! まずは観察だ!」

 

 少なくともいきなり大ジャンプして襲ってきたりはしないはずなので、ライボルトの動きが自由とは言い難い現状では迂闊に動かない方が賢明だ。

 それでなくともツバキは何をしてくるかわからないトレーナーなのだから、その一挙手一投足にはしっかり気を配っておくべきであろう。

 そうしている間にも地上のファンファンはぐんぐん速度を上げていく。

 と、そこでゲントは、ファンファンの動きに法則性がある事に気が付いた。

 

「(あいつ……ある程度走り回ったら最終的には特定の1ヶ所に……? ……っ! あれは……! ……そうか、そういう事かよ)」

 

 ゲントの注視するその場所にあるのは……盛り土。

 シビルドンの“アクアテール”や、ファンファンの“ころがる”で舞い上がったフィールドの土や砂を1ヶ所に集めているのだ。

 

「(土のジャンプ台ってわけかよ……! だが、詰めが甘いぜ! そのジャンプ台が向いている方向は、ライボルトとは真逆だ!)」

 

 そう、あれを使ってジャンプして空中のライボルトへ攻撃するにしても、向きが合っていなければ無意味なのだ。

 

「(……よし! そろそろ……!)ファンファン!」

 

 ツバキの合図で、ファンファンは軌道を変えてジャンプ台へと向かう。

 

「(こっちは浮かんでるんだ! あいつが何を企んでるにしたって、ジャンプしてから反応したって間に合う!)」

 

 むしろ空中で無防備になった瞬間こそ攻撃のチャンス。飛ぶなら飛んでみろといったところだ。

 そして、転がり続けるファンファンがジャンプ台を駆け上がり、その勢いを利用して一気に空高く跳ね上がった。

 

「今だ! “かえん……!」

 

「“じしん”だよっ!!」

 

「ほうs”……何ぃっ!?」

 

 予想外の無効技の指示に、思わず“かえんほうしゃ”の指示を途中でやめてしまうゲント。

 これ幸いとライボルトよりも高く跳んだファンファンは、高々度からの自由落下で過去最大級の震動を引き起こす。

 

「うわあぁぁぁぁーーーーっっ!? こ、これは凄い揺れです! 天災と見紛うほどの恐ろしいほどの震動っ!! し、しかし、“でんじふゆう”中のライボルトには効果がありませんっ!!」

 

 ブルースの実況通りにその威力は凄まじく、落下地点を中心にフィールドが滅茶苦茶に隆起し、まるでゴツゴツとした岩場のようになってしまい、しかもそれらは治まらぬ震動で上下を繰り返している。

 だが、どれだけ威力があろうとも、所詮は地上での出来事であり、空に浮かぶライボルトにとっては対岸の火事のようなもの。

 ……と、思っていたのだが。

 

「……!? こ、これはどうした事っ!? ライボルトの動きが怪しいぞおぉぉっっ!?」

 

「なんだとっ!?」

 

 ゲントが見上げれば、ライボルトはわたわた慌てふためき、四肢を懸命に動かしているが、浮沈しつつもその高度は徐々に下がってきている。

 

「っ!! こ……これは…………しまった……!? あの時と同じだっ……!!」

 

 ゲントの思考にフラッシュバックしたのは、9番道路で行ったレアコイルを使用してのツバキとのバトル。

 まだゴマゾウだったファンファン相手に終始優勢に立っていたが、ドンファンに進化して放たれた“マグニチュード”で足元を崩された瞬間、レアコイルが今のライボルトのようになってしまったのだ。

 ……電気で浮遊しているポケモンは、常に地面との距離を一定に保つため、高度な演算を行いながら微細な磁場の操作を行っている。

 つまり、現在のこの地面があちこち隆起し、しかも動き続けている状態は……。

 

「……磁場を……乱された……!!」

 

 ……というわけである。

 今のライボルトは、脳内での計算が掻き乱されて高度の維持がまったく上手く行かず、軽いパニック状態となってしまっているのだ。

 

「やっぱり! レアコイルとおんなじ! ファンファン、決めるよ! “ころがる”から“じしん”!」

 

 ファンファンは何度目かの形態変化を行い、ゴツゴツとしたフィールドをものともせずに転がっていき、一際大きく隆起した地面へ乗ると、壊れてしまった先ほどのジャンプ台代わりに転がり、そして跳び……高度の下がったライボルトの真上で通常形態へ戻った。

 

「ライボルトっ! ライボルトしっかりしろ! 上だ! 上に“かえんほうしゃ”だっ!!」

 

 喉の潰れそうな大声で叫ぶゲント。

 その声が辛うじて耳に届いたのか、ライボルトは虚ろな目はそのままに、トレーナーから指示されたポケモンとしての反射で身体を上へと向け、即座に出せるだけの出力を出して炎を噴射した。

 当然だが、ファンファンに飛行能力は無いので回避動作などできるはずがない。

 

「!? そんな……!」

 

 ライボルトが完全にパニックに陥っていた事に油断していた。まさかパニックになりながらも指示通りの行動が取れるとは。

 この反撃はツバキにとっては想定外なのだ。

 だが、ファンファンは身体の前半分のみを軽く丸め、黒く頑強な外皮部分で炎を受け止めて見せた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ファンファンっ!!」

 

 先に述べた通り、熱いものは熱いし、今度は身体が回転しているわけでもないので受け止めた炎はほとんど逃げていかない。

 それでもファンファンは、迫る炎を裂きながら落下し、そしてライボルトに激突してそのまま地表へご同行願う。

 その様はさながら大気圏外から地上目掛けて落下する隕石もかくや。

 そして、団子状態の両者が地面へとなんのクッションも無しに突っ込み、さっき以上の衝撃と震動が発生し、フィールドが盛大に陥没した。

 

「うおぉぉぉぉーーーーっっっっ!!! なんっっっという衝撃っ!? 120kgの質量があの高さから落下したのだから無理もありませんっっ!! フィールドをの修繕チームが待機していて良かったっっ!!」

 

 激しいバトルが頻発するポケモンリーグでは、最新の科学技術とポケモンの力を併用した協会お抱えのチームが常に待機し、バトル終了と共にフィールドの修復と整地を行う。

 そして、これほどまでにフィールドが破壊されるのは、今大会では初の事。

 恐らくフィールドの惨状を見ただけなら、決勝戦でも行われたのかと思う人もいるであろう……というぐらいのクレーターができあがっているのである。

 

「ファンファン……」

 

「ライボルト……!」

 

 ツバキ、ゲントはもちろん、ブルースも息を飲んで見守り、荒れに荒れた地面を進む審判の言葉を待つ。

 そんな彼ら、そして会場に響き渡ったのは、ずしん、ずしんとクレーターの中から上がってくるような足音。

 そして……黒い外皮を泥だらけにしたファンファンが姿を現し、鼻を高々掲げて大声で鳴いた。己の勝利をその場の全てに知らせるかのように。

 審判がクレーターの底を覗き込むと、痙攣しながらも起き上がる気配の無いライボルトが横たわっていた。

 

「……ラ………………ライボルト戦闘不能っっ!! ドンファンの勝ち!! よって、勝者! グレンタウンのツバキ選手っっ!!」

 

 一瞬の静寂。

 そして、そこからの会場を震わせる大歓声。

 

「決まった……決まりましたっっ!! 激戦の末に2回戦……準決勝へと駒を進めたのはツバキ選手ですっっ!!」

 

 ブルースの実況、観客の歓声。それらが響くフィールドの中をゲントが進み、クレーターを滑り降りていく。

 

「よっ……と。…………ライボルト」

 

 片膝をついて鬣を撫でるゲントの声に反応し、うっすらと目を開けるライボルト。

 

「……ははっ……負けちまったな。だがな、お前はお前にできる事を全力でやってくれたんだ。……誇れよ、ライボルト。お前は誰にも恥じないバトルをして見せたんだ。デンチュラもシビルドンもきっと褒めてくれるさ」

 

 にかっと歯を見せて笑ったゲントは、ライボルトをボールに戻すとクレーターをよじ登る。

 ……と、クレーターの縁に掴まったところで、上から手を差し伸べられた。

 

「……ゲントさん」

 

 ツバキだった。

 太陽を背にして四つん這いになり、微笑みながら手を伸ばしてくるツバキの姿にドキッとしてしまったゲントは、慌てて首を振ると、照れ隠しの笑みを浮かべてその手を取る。

 

「わりぃな、ツバキ」

 

「ん……しょっ!」

 

 小さな身体で精一杯ゲントを引っ張り上げたツバキは、ニコッと笑みを返してきた。

 

「……ありがとうございました、ゲントさん。すごくドキドキするバトルでした」

 

「こっちこそな。お前のおかげで俺もこんなバトルができるようになったんだ。お前には本当に感謝しかねぇよ。……けどな」

 

 そして、ポンっとツバキの頭に手を置くと、不敵に笑う。

 

「次は負けねぇ!」

 

 それに対して、ツバキも同じような表情を浮かべた。

 

「次も負けません!」

 

 修繕チームが忙しく行き交うその横で、2人はどちらからともなく声を上げて笑い合った。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

いやほんと…1話更新するのにどんだけかかってんのよ…。
ほぼ毎日残業なもんで、まともに時間取れるのが休日くらいなのが原因なんですが、なんか良い方法無いものか…。
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