蒼天のキズナ   作:劉翼

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お待たせしました!
第94話は第3試合となります!


第94話:戦鬼と指揮者

 ツバキとゲントとで行われたセキエイリーグ決勝トーナメント1回戦第2試合は熾烈を極めた。

 ミスティを失いながらもデンチュラ、シビルドンと撃破したツバキの前に現れたライボルトは、驚異的な加速力でルーシアを破ってファンファンと対峙する。

 “でんじふゆう”で空中へ浮かび上がってじめん技を無効にするライボルトに、有効打を持たないファンファンは大いに苦しめられる。

 だが、フィールドを粉砕して磁場のコントロールを乱す作戦で相手の高度を下げる事に成功。

 決死の突撃によって地面へ叩き落とし、全体重をかけた“じしん”を打ち込む事で勝利をもぎ取る。

 互いに全力を振るってのバトルを終えた2人の間に、初対面の頃の確執など微塵も存在しなかった。

 

 

 

「いやぁ~、凄いバトルだったね~」

 

 間延びした喋り方ながらも感嘆の色の籠るボックの言葉に、イソラが頷いた。

 

「うむ……ツバキに馴れ馴れしいのが気に入らんが、実力はそこそこと認めざるを得ん。ポケモンの育て方も悪くない。甚だ遺憾ではあるが。……さて……」

 

 イソラが選手入場ゲートへ目を向ける。

 

「来るぞ。『鬼』が……」

 

 

 

「ツバキ選手とゲント選手の手に汗握る激闘っ! 会場はいまだその興奮冷めやらぬ雰囲気ですが、フィールドの修繕が完了いたしましたので、第3試合を始めたいと思います!! 選手! 入ぅぅぅ場ぉぉぉう!!」

 

 殊更よく響くブルースの声と共にフィールドへ続くゲートが開き、2人のトレーナーが入場してくる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さぁ、まずは……キンセツシティのロウィー選手ーーーーっ!! 各地のリーグやイベントで上位に食い込む優れた分析力と判断力はさながらコンピューター! 今大会においてもそれらは健在! ポケモンとの呼吸もバッチリです!! 『電子の指揮者(エレクトロ・コンダクター)』とも呼ばれる知将は、この試合ではどのような知略の冴えを見せてくれるのでしょうかぁぁーーーーっっ!?」

 

 静かな足取りで入場してきた長髪の男性は、揃えた人差し指と中指で眼鏡の位置を調整しながら、向かい側から歩いてくる人物に目を向ける。

 

「対するは……ズイタウンのスカーレット選手ーーーーっ!! もはや知る人ぞ知るの域を越えた強豪! 実はわたくし、『真紅の戦鬼(クリムゾン・オーガ)』の異名に違わぬ圧倒的な強さを生で見るのは初めてで、興奮気味であります!!」

 

 今日だけでどれほどの言葉を大音響で紡いできたのかわからないブルースであるが、声量は落ちるどころかますますヒートアップしていく。まったくもって喉が心配になる男である。

 そして、そんな熱く騒がしいブルースの声とは真逆のテンションでゆっくりと歩く女性は、紅い瞳で対戦者をじっと見つめている。

 ぼんやりとした表情とは裏腹に、その眼差しは獲物を品定めする狩人のそれの如く鋭い。

 

「『真紅の戦鬼(クリムゾン・オーガ)』……ふっ、1度手合わせ願いたいと、常々思っていたのですよ」

 

「…………ん。よろしく」

 

 礼儀正しく会釈するロウィーに対し、スカーレットも彼女なりに最大限の礼儀を以て応えようと、軽く頭を下げる。

 

「両選手、試合前の挨拶を済ませたようです! それでは、早速出していただきましょう! 最初のポケモンをっ!!」

 

 その言葉を待っていたかのように、2人はモンスターボールを手に取り構える。

 

「行きましょうか! カクレオンっ!」

 

「…………コジョンド」

 

 回転しながら宙を舞うボールが開き、中から放たれた白い光が2体のポケモンを形作る。

 ロウィーが出したのは、緑色の体色をした2足歩行の爬虫類といった姿をし、腹部にギザギザとした赤いラインが走っている。

 いろへんげポケモンの『カクレオン』だ。

 

 

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 その向かいに着地し、両腕の長い体毛を演舞のように振るうイタチのようなポケモン。

 ぶじゅつポケモン『コジョンド』である。

 

 

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 右目にはス◯ウターのようなレンズを持つ装置が取り付けられている。相手の急所を見極めて大ダメージを狙いやすくなるピントレンズという道具だ。

 

「この試合の先鋒戦を飾るのは、カクレオンとコジョンドだぁぁーーーーっっ!! タイプ相性ではロウィー選手がやや不利かっっ!!」

 

「(ふっ、コジョンドですか。やはりスピードとパワーを兼ね備えた、あなたの定石通りのポケモンですね。……さて、どこまで僕の分析通りに行きますかね……)」

 

 まずは想定通りの傾向を持つポケモンが現れ、心中でほくそ笑むロウィー。

 だが、分析でどうにかできる相手ならば、ここまでその名を高める事はできなかっただろう。

 奥の深いポケモンバトルというもので勝ち続けられるのは、発想力と対応力を際限無く鍛え、他者の予想を上回った者だけなのだ。

 

「それでは、セキエイリーグ決勝トーナメント、1回戦第3試合。バトル………………スタートっ!!」

 

 審判が掲げた両手の旗を振り下ろすと同時に、まずロウィーが動いた。

 

「“ねこだまし”です!」

 

 姿勢を低くしたカクレオンが、脚で地面を掻いたと思った次の瞬間、コジョンドと一気に距離を詰め、その眼前で両手を勢いよく打ち合わせた。

 コジョンドは驚いて転倒しそうになったが、両足で地面を踏み締めてこらえて見せた。

 

「“はどうだん”」

 

 スカーレットも即座に反撃の一手を打つ。

 踏みとどまったばかりか、カクレオン側へ踏み込んだコジョンドの右手に、瞬時にエネルギー弾が生成される。

 

「ロウィー選手速攻っっ!! しかし、スカーレット選手も負けていません! すぐさま反撃に移りますっ!」

 

 全身の闘気を攻撃用のエネルギーに変換し、一点に圧縮した“はどうだん”。生成から発射、そして弾速も速く、回避はほぼ不可能な強力技である。

 

「(やはり特性は相手の攻撃を受けても怯む事の無い《せいしんりょく》!)しかし、それも想定通りです! “かげうち”!」

 

 コジョンドが“はどうだん”を発射したのと同時に、カクレオンの影がコジョンドの背後へ伸びていき、そこから黒い針のような物が突き出してその背中を襲った。

 カクレオンも“はどうだん”を食らい、最初の攻防は痛み分けに終わった。……と、思われたのだが……。

 

「………………っ!」

 

 スカーレットが目を細め、戦況を正確に捉えようと真紅の瞳がフィールドを見つめる。

 その視線の先で立ち上る爆煙の中から現れたのは、まるでダメージが見られないカクレオンだった。

 よく見れば、赤かった腹部のラインは薄紫色に変色している。

 

「こ、これはどうしたのでしょう!? 効果抜群のはずの“はどうだん”を受けたカクレオン、まったく動じる事無くピンピンしております!!」

 

 ブルースもわけがわからないという様子で実況をする中、スカーレットがわずかに口を動かした。

 

「…………《へんげんじざい》」

 

「ふっ……さすが博識でいらっしゃる。そう、僕のカクレオンは非常に珍しい《へんげんじざい》の特性を持ちます。自身の出す技に応じたタイプへ己を変化させる、トリッキーな特性ですよ」

 

 眼鏡の位置をくいっと直しながら語るロウィーのその言葉通り、《へんげんじざい》は極めて稀少な特性で、確認されている所持ポケモンは4種類。内3種類は同じ進化系統なので、実質的には2種類しか存在していない。

 しかも、その該当するポケモンですら他の特性である場合がほとんどで、この特性自体知らないという人もいる。

 

「ロウィー選手のカクレオン、まさかまさかの《へんげんじざい》っっ!! これはかなり厄介な特性ですっ! この特性により、“かげうち”を使ったカクレオンは現在ゴーストタイプに変化しております!! かくとう技の“はどうだん”は無効にされましたぁぁーーーーっっ!!」

 

 珍しい特性を持つポケモンの登場によって、序盤から会場の盛り上がりが物凄い事になっている。

 一方のスカーレットは何事か考えているのか、カクレオンをじっと観察し、ゆっくりと口を開いた。

 

「………………“はどうだん”。跳ねて」

 

 身軽な身体で大きく飛び跳ねたコジョンドの両手にエネルギー弾が形作られていく。

 だが、先の通りに“はどうだん”は現在のカクレオンには効果が無い技だ。

 

「おっと! スカーレット選手何かの作戦でしょうか!? 通用しない“はどうだん”を再び指示しましたっ!」

 

 と、実況している間にコジョンドが2つのエネルギー弾を地上目掛け投擲する。

 

「カクレオン、下手に動かぬように」

 

 対してロウィーは、落ち着いて相手の出方を見る方向で行くようだ。

 飛来した“はどうだん”は、カクレオンの左右の地面に着弾し、大きく砂埃を巻き上げた。

 

「(やはり目眩まし……。このパターン、次は煙に紛れて強化技を積む確率が8割といったところですか)」

 

 事前に主だったトレーナーの記録を確認していたロウィーは、スカーレットのこれまでのバトルデータから、彼女が強化技を絡めたパワー&スピード戦術を得意とする事を把握している。

 

「“つるぎのまい”」

 

 コジョンドの身体から放出された闘気が青く発光し、2本の剣を形作ると、コジョンドはそれを両手に握り、しなやかに、軽やかにステップを踏みながら舞う。

 振られた剣の軌跡が空気を裂き、青い帯を引くが如く煌めいている。

 “つるぎのまい”は、舞によって精神を統一し、攻撃に覇気を乗せる事で攻撃力を引き上げる技……つまり、ロウィーの読みが的中したわけである。

 

「(予想通り。ここまでは想定した通りに進んでいますが……こちらも次の布石を打っておきましょう)……カクレオン! “ステルスロック”です!」

 

 ロウィーがカクレオンを呼びながら指を鳴らすと、煙の中から鋭く小振りな岩が無数に飛び出し、スカーレット側のフィールドに浮遊する。

 そして、フィールドを覆っていた砂埃が晴れていくと……。

 

「……っ!? い、いませんっ! カクレオンの姿がどこにも見えませんっ!!」

 

 ブルースの驚愕の声が響き渡り、観客からもどよめきが上がる。

 

「………………いわタイプ」

 

 スカーレットがぼそりと呟く。

 カクレオンは周囲の景色に溶け込むように体色を変化させる事ができるが、腹部のギザギザ模様だけは通常は消す事ができない。

 だが、ロウィーの個体は《へんげんじざい》という稀少特性を持つが故か、その模様部分を自身のタイプに合わせた色に変える、特異な能力を身に付けているようだ。

 今のカクレオンは“ステルスロック”を使用していわタイプへ変化し、恐らく模様は茶系に変わっているだろう。

 そして、フィールドは茶色い土や砂で構成されているので、姿勢を低くすればほぼ完全な保護色となっているのだ。

 

「ふふっ……さぁ、どう対処しますか?」

 

 姿の見えぬ敵。

 ポケモンも生き物である以上、対象を観測する上で視覚は大きなウェイトを占めている。それがほぼ役に立たないのだ。

 しかし、スカーレットの表情は平時と何も変わらない。……ように見える。

 

「…………コジョンド」

 

 左右に首を振ってカクレオンを探すコジョンドへ、スカーレットが声をかけた。

 

「…………落ち着いて。感じて。相手を」

 

 そのアドバイスにより、コジョンドはそれまでの張り詰めていた雰囲気から一転し、両腕をだらりと下げ、瞼を閉じ、鼻先を軽く持ち上げて精神を落ち着かせる。

 

「コジョンド脱力しております! 相手の居所を探っているのでしょうか……!?」

 

 周りの喧騒などどこ吹く風とばかりに、静かでゆっくりな呼吸を続けるコジョンド。

 

「……面白い。捉えられるなら捉えて見せてもらいましょうか! 接近して“つばめがえし”!」

 

 離れた位置から“つばめがえし”の準備をしてしまうと、模様の色がひこうタイプのそれに変わってバレてしまうので、至近距離から発動するのだ。

 目には見えないが確かにそこにいるカクレオンは、じわりじわりとコジョンドへ接近していく。

 誰もが事の成り行きを固唾を飲んで見守る中、コジョンドの鼻先がぴくりと動いた。

 

「“ストーンエッジ”」

 

 スカーレットの指示でコジョンドが足で地面を叩くと、その右斜め後方に尖った岩が1本突き出し、模様が空色になったカクレオンが姿を現して空高く打ち上げられてしまった。

 

「なっ……!?」

 

「“どくづき”」

 

 一旦獲物を捉えてしまえば、後にはコジョンドの身軽さを活かした連続攻撃が控えている。

 自ら作り出した岩の柱を飛び跳ねながら駆け上がり、その頂点で大きくジャンプすると、コジョンドは落下中のカクレオンに追いつき、毒を帯びた貫手が目にも止まらぬ速さで連続してカクレオンへと打ち込まれる。

 

「“はどうだん”」

 

 そして、優に10発は打ち込んだところで右手をカクレオンへ押し当て、そのまま闘気を圧縮したエネルギー弾を生成して発射した。

 カクレオンは“はどうだん”諸共に地面へ叩き付けられ、エネルギー弾の爆発に巻き込まれてしまった。

 慌てて審判が爆心地へ向かい、状況を確認する。

 そこには、大の字になって倒れ、目を回しているカクレオンの姿。

 口からはオレンジ色に白っぽいラインの走る木の実が転げ落ちている。相手の物理攻撃を受けた時に食べる事で防御力を上げるアッキの実だが、怒涛の連続攻撃で飲み込む暇が無かったようだ。

 

「…………カクレオン、戦闘不能! コジョンドの勝ち!」

 

 観客席から大きな歓声が上がる。

 

「コジョンド、姿の見えないカクレオンを見事捉え、まず1勝をもぎ取りましたっ!! 序盤から熱いバトルをありがとうっ!!」

 

 

 

「凄いな~……あれ、本当に気配を察して当てたのかな~?」

 

「まぁ、確かにかくとうタイプは感覚の鋭いポケモンも多いから、不可能ではないだろう。だが、今の場合は違うな」

 

 不可視のカクレオンに普通に攻撃を当てたコジョンドに驚いていたボックであったが、イソラは彼の言葉をさらっと否定した。

 

「肝はあの腕から垂れ下がった袖のような体毛だ。姿が消えているとはいえ、カクレオンは地上を歩行するポケモン……どんなにゆっくり歩いても、振動は地面へ伝わる。コジョンドは地面に付けた体毛でその振動を感知してカクレオンの動きを読んだんだ」

 

「……なるほど~……」

 

 

 

「ご苦労様です、カクレオン。良くやってくれました(……さすがは『真紅の戦鬼(クリムゾン・オーガ)』。易々とこちらの予想を上回ってくれますね。ですが、僕もまだまだ諦めるつもりはありません。飽く無き探究心と知識欲こそが僕の原動力ですからね)」

 

 ロウィーは自身の予測を破られたというのに、悔しがるどころか嬉しそうな表情をして次のボールに手を伸ばす。

 と、それを制するようにスカーレットが右手を上げ、自身が手にしたモンスターボールを指差した。

 

「おっと、どうやらロウィー選手が次のポケモンを出すこのタイミングで、スカーレット選手もポケモンを交代するようです! それでは両者ポケモンを!」

 

 1回戦の交代可能回数はわずか2回。

 だが、スカーレットは惜しげ無くその権利を行使する選択をした。

 恐らくはコジョンドの手の内を全てバラしてしまったため、相手がそれを考慮した選出をしてくるのを警戒したのだろう。

 コジョンドも相当に鍛えられた実力者ではあるが、ポケモンのスペックを過信せず、細心の注意を払いながら戦術を構築する堅実さもまた、スカーレットの強さを支えている要素の1つなのである。

 

「さぁ、頼みましたよ! ネンドールっ!」

 

「…………ゴウカザル」

 

 カクレオンに次いでロウィーが投げたボールから飛び出したのは、太ましい体格の黒い土偶や埴輪といった姿をし、頭部にずらりと横並びになった赤い目が特徴的なポケモン。

 どぐうポケモン『ネンドール』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 サイコパワーでふわふわと浮遊するネンドールの目が捉えたのは、燃えるような頭部と長い手脚を持つ猿のようなポケモンだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 かえんポケモン『ゴウカザル』。シンオウ地方での初心者用ポケモンとして知られる、こざるポケモン『ヒコザル』の最終進化形態である。

 

「ロウィー選手の2番手はネンドール! そして、スカーレット選手はゴウカザル! さぁ、ここからこの2体はどのようなバトルを展開してくれるのでしょうかっ!?」

 

 

 

「あれ? またかくとうタイプ……? スカ~レットさんてかくとう使いってわけじゃないよね~?」

 

「ああ。スカーレットは……まぁ、例外もいるが、火力と素早さを併せ持ったポケモンを好む。そして、かくとうタイプは大体が鈍足重戦車系と高速速攻系に分かれ、それ故に後者を良く使うんだ。得意戦術とタイプ傾向が合致しているわけだな」

 

「ふ~ん……あ、始まるみたい~。……あれ? でも……」

 

 腕を組んで唸るボックの視線の先で、審判が両手に持った旗を掲げる。

 

 

 

「それでは、バトル…………再開っ!!」

 

 勢いよく振り下ろされた旗を合図に、2人が動き出そうとした瞬間、フィールドに浮いた岩が次々とゴウカザルへ襲いかかった。

 ゴウカザルは両腕を交差させ、顔を守るような防御体勢を取って耐える。

 

「おぉっと! ゴウカザル、設置技“ステルスロック”によってダメージを受けてしまったぁぁーーーーっっ!!」

 

 そう、“ステルスロック”は発動後、相手の場に浮遊し、新たに登場したポケモンに自動でダメージを与えるトラップと化す技なのである。

 

「(しかし、彼女は恐らくそれも踏まえた上でゴウカザルを出してきました。……その程度のダメージは大した障害ではない……という事ですか)」

 

 ゴウカザルはお世辞にも耐久力に優れたポケモンではないが、スカーレットはあえてその選出をした。

 そのダメージはハンデにすらならないという意味なのか、ダメージを受ける事自体が戦術なのか……それはスカーレット本人にしかわからない。

 

「“グロウパンチ”」

 

 ガードを解いたゴウカザルは、スカーレットからの信頼に応えるかのようにニヤリと笑い、ファイティングポーズを取って軽く足踏みすると、飛ぶように加速してネンドールの懐に潜り込み、その胴に素早く拳を打ち込んだ。

 かくとう技なのでエスパータイプを持つネンドールにダメージは少ないが、狙いはそこではない。

 

「ゴウカザルさすが速いっ! ネンドールに先んじて一撃を叩き込みました!! しかも、“グロウパンチ”は相手に当てるほど拳が頑丈になって与えるダメージが増す技! 機先を制しつつパワーアップも怠りませんっ!!」

 

「(ふふ……やはり速い。しかし、その速さこそ命取り……!)ネンドール! “トリックルーム”を!」

 

 ネンドールの目が全て開かれて赤い光を放つ。

 光は立方体状に広がっていき、一瞬にしてフィールドをすっぽり覆ってしまった。

 

「こ、これは“トリックルーム”っ!! スカーレット選手これは苦しいっ! この空間の中では、普段動きの素早いポケモンほどその動きが鈍くなってしまいますっ!!」

 

 ゴウカザルは自身の身体の重さに違和感を感じて手脚を動かすが、まるでスローモーションをかけているかのようにゆっくりとした動きになってしまっている。

 

「ポケモンバトルにおいて、素早い事がメリットだけを生むとは限りませんよ。“チャージビーム”!」

 

 ネンドールの胴の横に浮いていた漏斗やスポイトのような形状の両腕が切り離され、空中を乱舞しながらゴウカザルを左右から挟み込み、先端から細く黄色い光線を発射した。

 動きの重いゴウカザルは回避が間に合わず、次々と光線を浴びてしまう。

 

「ゴウカザルよけられないっ!! 自在に飛び回るネンドールの両腕からの攻撃がことごとくヒットーーっ! しかも、“チャージビーム”は攻撃後、余った電気を体内に蓄えて特殊攻撃能力を引き上げる効果を持ちます! “トリックルーム”で動きの鈍った相手を一方的に攻撃しつつ火力を補強していくぅぅーーーーっっ!!」

 

 一旦攻撃が止み、ゴウカザルが防御の構えを解除すると、視線の先のネンドールが何か食べているのが見えた。

 リンゴの芯のように見えるそれは、食べ残しという道具だ。

 一見するとただの残飯だが、持っているポケモンの体力を少しずつ回復してくれる、耐久ポケモン御用達の持ち物なのだ。

 

「さぁ、耐久に乏しいゴウカザルでどこまで耐えられますか? “だいちのちから”!」

 

 両腕がネンドール本体の周囲を高速で回転し、付近の地面が発光し始めた。

 

「これは危ないっ! ほのおタイプのゴウカザルには、じめん技の“だいちのちから”は効果抜群だっ!! どうするスカーレット選手ぅぅーーーーっっ!!」

 

 ブルースの熱気とは裏腹に、スカーレットはまったく表情を変えずに呟いた。

 

「こうする。“ストーンエッジ”」

 

 ゴウカザルが両腕を地面へ打ち付けると、さほど大きくない岩柱が突き出した。……かと思うと、それは地面からすっぽ抜けて空中へ舞い上がり、ゴウカザルもそれを追うように渾身の力を込めてジャンプした。

 

「なっ……!?」

 

「えっ……!? こ……こ……これは……なんとぉぉーーーーっっ!?」

 

 ロウィーもブルースも審判も……そして多くの観客も、その光景に目を丸くしてしまう。

 

 

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「ゴ……ゴウカザル……! “ストーンエッジ”の岩をサーフボード代わりに、下から噴き上げる“だいちのちから”に乗りましたぁぁーーーーっっ!!」

 

 まるで“なみのり”のように“だいちのちから”のエネルギーを利用して空中サーフィンを披露するゴウカザルに、誰もが口を開いて呆気に取られてしまった。

 この状態ならば、ゴウカザルはバランス維持と方向転換のためにわずかに手脚を動かせば良いだけなので、動きの重さもほとんど障害にならない。

 

「ス……“ストーンエッジ”をこんな扱い方をするなんて……!? くっ! “チャージビーム”!」

 

 ロウィーも驚いてばかりではいられない。

 すぐさま迎撃の指示を出し、浮遊したネンドールの腕が、岩の上のゴウカザルに光線を浴びせる。

 しかし、耐える。

 両腕でガードし、岩が破壊されない体勢になりながら耐える。

 連射される“チャージビーム”の威力は高くなっていき、ダメージの蓄積度合いも増していくが、それでも耐える。

 そして、攻撃が止んだ瞬間、ゴウカザルの頭部が激しく燃え上がった。

 

「っ!! 《もうか》!?」

 

「ありがとう。火力と機動力。……“フレアドライブ”」

 

 炎の尾を引きながらゴウカザルはネンドールへ方向転換し、岩を蹴って大きく跳ねた。

 その手にはオレンジと黄色の果実が握られ、一気に半分以上を齧り取った。

 先の試合でファンファンも使用した、ピンチの時に攻撃力を向上させるチイラの実だ。

 

「ネンドール! “サイコキネ”……」

 

 比較的近い距離となったため“サイコキネシス”で捕らえようとしたが、ゴウカザルの乗り捨てた“ストーンエッジ”がネンドールの顔面に激突し、その身体がぐらりとよろけてしまった。

 そして、空中のゴウカザルは身体を丸め、高速で回転しながら全身を炎で覆っていく。

 その炎は秒単位で強くなっていき、空中にはあっと言う間にネンドールよりも巨大な火の玉が完成し、周囲に陽炎が揺らめく。

 

「あ、熱いっ! ここまでその熱が伝わってきます!! わたくし、お恥ずかしながらこんな規模の“フレアドライブ”を見るのは初めてでございますっ!!」

 

 観客席からも歓声に混ざって「熱い」という声が上がる中、火の玉は瞬く間にネンドールを飲み込み、盛大な爆発を引き起こした。

 

「ネ、ネンドールっ!!」

 

 爆ぜる炎が徐々に弱まり、爆煙も晴れてくると、切り離された腕が無造作に転がり、ネンドール本体も体色の黒さを増した状態で目を回して倒れていた。

 

「あちち…………ネンドール、戦闘不能っ! ゴウカザルの勝ちっ!!」

 

「決まったぁぁーーーーっっ!! “トリックルーム”による不利をものともせず、ゴウカザルが決めましたぁぁーーーーっっ!!」

 

 “グロウパンチ”、チイラの実で攻撃力が上昇したところに、ほのおタイプ技を強化する《もうか》が発動し、さらにその状態でほのおタイプ最高峰の威力を誇る“フレアドライブ”。

 当然、一撃必殺級の火力である。

 ゴウカザルが勝利の雄叫びを上げ、その咆哮を会場中へと鳴り響かせる。

 

 

 

「いや~、スカ~レットさん凄いね~! あのピンチを切り抜けるなんて~……!」

 

「ピンチか……どうかな」

 

「え?」

 

「確かにゴウカザルはかなり体力が削られていた。一見ピンチだ。……だが、あいつは受ける攻撃と捌く攻撃を正確に見極め、《もうか》とチイラの実のためにダメージコントロールをしていたように見える。こう言ってはなんだが……最大火力のためにピンチを演出した感じだな」

 

 イソラはやれやれといった表情でスカーレットを見つめる。

 

「とぼけた顔の裏で緻密な計算を繰り返し、時として自分にも自分のポケモンにも背筋が凍るほどの冷徹さを見せる。決して力だけではないんだよ、あいつの恐ろしさは」

 

 

 

「……良くやってくれましたね、ネンドール。休んでいてください」

 

 ロウィーはネンドールを労い、ボールへと戻すと微笑む。

 

「……また……予測の上を行かれましたか。……ふ……ふふふ……」

 

 そして、スカーレットに向き直ると、閉じていた瞼を開いた。

 

「……素晴らしい! やはりポケモンバトルは素晴らしいっ!」

 

 まさかの歓喜の声を上げるロウィーに、スカーレットも少しだけ目を丸くした。

 

「刻々と戦況が変化し、まったく同じ状況になる事は皆無……予測、計算、分析……それら全てが瞬く間に上書きされていく! そうでしたよ……僕はかつて、この果ての無い『未知』の渦巻く世界に魅せられた!!」

 

 先までの冷静さとは裏腹のハイテンションのまま、ロウィーは指先をピンと伸ばしてスカーレットを差す。

 

「あなたとのバトルはまさにその極地! 常にこちらの想定を上回る状況を作られ、知るべき事、知りたい事が無尽蔵に湧き上がる! いや、もはや建前など不要……! 僕はもっとあなたとバトルがしたいっ!!」

 

 しばし沈黙していたスカーレットの表情に笑みが浮かび、ゆっくりと口を開いた。

 

「………………そうだね。楽しい。バトルは。……やろう。最後のバトル」

 

 スカーレットがゴウカザルをボールに戻し、ロウィーと同時に次のボールを構える。

 交代回数を使い切ってでも、彼の願いに応じるつもりなのだ。

 戦鬼と指揮者最後のバトルが、幕を開ける……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

ピントレンズの形状は公式の物だとコジョンドに装着できないため、独自の形にさせていただきました。

ところで前々から気になってたんですが、挿絵ってちゃんと見えてますかね?
スマホ変えてから写真のサイズが大きくなりすぎてしまったので、リサイズアプリで小さくしてから掲載してるんですが、自分のでは表示されてるけど読者の皆様には見えてるのかなぁと…。





続編の主人公のデザインできました。今度は男の子です。

【挿絵表示】

まぁ、今はこの作品を完結させなきゃなりませんし、続編を連載するかは未定です。
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