そんなスランプの末の第95話です、どうぞ。
トージョウリーグ決勝トーナメント1回戦は、半ばを過ぎて第3試合へ。
『電子の指揮者』・ロウィーと、『真紅の戦鬼』・スカーレット……異名を持つ者同士のバトルがスタートし、両者のポケモンは序盤から激しくぶつかり合う。
まずはコジョンドが姿の見えないカクレオンを振動で察知して撃破。
次いで“トリックルーム”を駆使するネンドールをゴウカザルが想定外の強襲を仕掛けて撃破し、バトルはスカーレット優位で進んでいく。
だが、分析の上を行く展開が次々起きた事で、知識欲に貪欲なロウィーの興奮は頂点に達した。
そもそものポケモンバトルを始めた切っ掛け……謎と未知に溢れた世界に魅了された事を思い出したロウィーは、それまでの冷静の仮面を脱ぎ捨て、全力でバトルを楽しむ姿勢を見せる。
スカーレットもそれに応じ、ゴウカザルを戻して3体目を披露するのだった。
「さぁ、ネンドールを破られたロウィー選手、そしてスカーレット選手も新たなポケモンを繰り出す模様です! これでスカーレット選手は今試合での交代権を全て使い切りました!」
ブルースの声に後押しされるように、ロウィーとスカーレットはボールを手にした右腕を同時に振りかぶり、フィールドへ投げ込んだ。
「楽しみましょうか、メタグロスっ!」
「ガブリアス」
ロウィーのボールから飛び出したのは、青い金属質の身体から伸びる4本の腕と、頭部の中央にある白いX字が特徴のポケモン。
これはてつあしポケモンの『メタグロス』と言い、ヤマブキジムでツバキが戦ったメタングの進化形態だ。
それに対するは、予選でボックも使用したガブリアス。
ただ、スカーレットのガブリアスはボックの個体よりも大柄な身体をしており、牙も爪もより鋭い。
さらに、メタグロスは右前腕、ガブリアスは首に虹色に輝く石……メガストーンを装着している。
「ガブリアスか……本気だなスカーレット」
「やっぱりガブリアスって格好良いよね~。で、本気って事はスカーレットさんのガブリアスって強いの~?」
スカーレットの出したポケモンを見て顎を撫でるイソラへ、大好きなドラゴンに見惚れつつボックが質問を投げかけた。
「スカーレットはシンオウ、イッシュのポケモンを中心に多種多様なポケモンを所持している。その中でもスカーレットが強敵と認めた相手にのみ使用される、『
マッハポケモンの分類通り、驚異的なスピードで飛行可能なガブリアスの乗り心地が大層お気に入りなスカーレットは、わりと頻繁にその背中に乗っている。
おかげであまり特別感は無く、ガブリアス当人も他2体と並べられる事に疑問を抱き始めている今日この頃。
しかも、ロケット団アジトでのサ・ファイ・ザーとのバトルでは、相手が次元の違う強さの怪物だったとはいえ、あえなく撃破されてしまい、ますます自分に自信を無くし始めていた。
スカーレットとしては、ロウィーに本気で応えると同時に、ガブリアスに自信を取り戻させようという魂胆があっての選出なのである。
「アナタはワタシの自慢」なのだという事を、全幅の信頼という形で伝えたいのだ。
「さぁ、両選手の3体目はそれぞれメタグロスとガブリアス! どちらも非常に強力なポケモンとして有名です! これまで以上の熱戦が期待できそうですっ!!」
「……それでは、バトル………………再開っ!!」
審判が両手の旗を振り下ろして試合再開の合図を出すと同時に、“ステルスロック”がその切っ先をガブリアスへ向けて襲いかかるがじめんタイプのガブリアスは回避も防御もせずに涼しい顔で受けきって見せた。
そして、そんなものは大勢に影響は無いとばかりにトレーナー2人はすぐには動かず、ゆっくりした動きでそれぞれ白衣とショートパンツのポケットに手を突っ込むと、ロウィーはペンデュラム、スカーレットはコンパクトを取り出した。
「応じていただき嬉しく思いますよ、スカーレットさん」
「ん」
そして、2人はそれぞれのアイテムに仕込まれたキーストーンを握り込み、瞼を閉じる。
始まるのだ。メガシンカ同士の戦いが。
「絆が生む力……それはあらゆる計算を超越したその先にある! 鋼の如く硬く、炎の如く熱く、水の如く変幻自在なるその力、お見せしましょう! メタグロス!」
「……砂塵も吹き飛ぶワタシ達の絆。刃に変えて敵を断つ。……ガブリアス」
2人の握ったキーストーンと、ポケモン達が身に付けたメガストーンが同時に輝きを放ち、2対の石は共鳴反応を起こして空気を震わせる。
「「メガシンカ!!」」
輝きが最高潮に達し、激しく波打つオーラへ変貌しながら2体のポケモンの身体を包み込むと、そのシルエットを変化させる。
メタグロスの身体が浮かび上がり、X字の装飾が伸びていく。
接地していた4本の腕が全て前面へと向けられ、その先端の爪も大きく、そして鋭くなっていくのがわかる。
ガブリアスの方は、身体の表面に牙か棘のような物が生え、特に肩から手先にかけての変化は著しく、爪と翼が溶け合うように大きな鎌状へ再構成されていく。
そして、両者の変化が止まると、覆っていたオーラが弾け飛び、メガシンカという力を得たその姿を現した。
「なんとなんとなんとぉぉーーーーっっ!! まさかの両者メガシンカ披露っっ!! 1回戦からこんなバトルを見られるとは……! さすがは厳しい予選を勝ち抜いた猛者達ですっ!!」
同時にメガシンカした2体を見て、ブルースも観客も一気にテンションが突き抜けてしまったようで、会場は凄まじい熱気に包まれつつある。
だが、対峙する2人は目の前の相手に意識を集中し、その他の喧騒は雑音として無意識に処理する。
すでに試合開始の合図は出ているのだ。
「さぁ、始めましょうか! メタグロス! “でんじふゆう”です!」
メタグロスの全身が帯電し、その電気が底面部に集まると、体重940kg以上にまで増加した鋼鉄の身体がふわりと空中へ浮かび上がった。
「メタグロス浮きましたっ! はがね最大の弱点であるじめん技への対策も怠りませんっ!!」
ハイテンションなブルースの実況の傍らで、ロウィーは人差し指を立て、忠告するように口を開いた。
「先に言っておきますが、先の試合のライボルトのように磁場を乱してどうにかしよう……などとは思わない事です。メタグロスの4つの頭脳ならば、どれだけ地面が震動し、隆起しようとも、リアルタイムで再演算をし続ける事が可能ですからね」
そもそもメタングは、その進化前であるてっきゅうポケモン『ダンバル』が2体合体した姿であり、メタグロスはそのメタング2体が合体……つまり、ダンバル4体の集合体と言えるポケモンなのだ。
要するに4つの脳を持っているのだが、それらは独立した思考はしておらず、一種の神経ネットワークで繋いで並列化する事によって1つの大きな頭脳となっているため、スーパーコンピューターに匹敵、あるいは凌駕する高い知能を有するに至ったのである。
そして、その頭脳にかかれば戦闘しながら周囲の状況を把握しつつ計算や演算を継続するなど容易い事なのだ。
「……なら、こうする。“だいもんじ”」
ガブリアスの口から炎が溢れたかと思うと、一瞬会場が真っ赤に染まったと錯覚するほどの火炎が噴射され、巨大な『大』の字の形となってメタグロスへ迫る。
じめん技を封じられたからと有効打が消えたわけではない。
はがねとエスパーを併せ持つメタグロスに対しては、ほのおも効くし、ゴーストやあく技も効果的なのだ。
「“サイコキネシス”です!」
メタグロスの目が青白く光り、周囲の空間が歪んだと同時、酸素を燃焼させながら進んでいた炎がその動きを鈍くし始めた。
強力な念力によって、手を触れる事無く対象物を動かす“サイコキネシス”だ。
主に相手を浮遊させて地面や壁に叩き付けたり、サイコエネルギーをそのままぶつけてダメージを与える攻撃技だが、ロウィーは“だいもんじ”に対して防御技のように使用したのだ。
だが。
「(勢いを殺しきれない……!? なんて火力なんだ……!)」
炎は確かにスピードが落ちたが、それでもなお進行を止めず、ガブリアスから放たれた2射目を受けて加速した。
「……回避ですっ!」
炎がじわじわと迫り、完全に防ぐ事は不可能と判断し、防御から回避へ作戦変更。
即座に“サイコキネシス”の対象を炎から自身に切り換えたメタグロスは、恐るべきスピードで空中を横に滑り、勢いを取り戻した炎を回避した。
「ロウィー選手上手いっ! “サイコキネシス”を駆使して“だいもんじ”の回避に成功しました!」
ブルースは興奮気味だが、当のロウィーは渋い顔だ。
「(メガシンカによってさらに向上したサイコパワーでも抑えきれないとは……彼女のガブリアスは何度か映像記録で見ましたが、やはり日々強くなっている……!)」
やっぱりというか成長速度が早い上、それによる変化が著しい生き物であるポケモンに関しては、過去の記録はあまりアテにはならないものだとロウィーは苦笑。
せいぜい得意とする戦法や、大まかな能力傾向がわかる……くらいの認識でいた方が良いだろう。
「(ふふっ……だからこそポケモンバトルは、常に新鮮な気持ちで挑める……!)今度はこちらから行かせていただきますよ! “コメットパンチ”!」
メタグロスがロケットのように急上昇し、遥か上空で停止すると、前部に展開した4本の腕の内、上部の1対2本を伸ばして全身からエネルギーを集中する。
そして、赤い瞳でガブリアスを捉えると、急加速で隕石のように落下し、剛腕を覆うエネルギーを半ば暴走させるように荒れ狂わせていく。
その速度は恐ろしく速く回避は困難であり、また、メタグロスのコンピューターの如く正確な判断力ならば、仮に回避したところで逡巡も動揺も無く方向転換して襲いかかってくるだろう。
無論その場合、落下状態から直接激突するわけではなくなるのでダメージは多少軽減されるだろうが、ガブリアスも回避のために動いた直後はどうしても無防備になり、恐らく最終的なダメージはどちらでも大差無いだろう。
ならば。
「“ドラゴンダイブ”」
こちらも真っ向から突撃技を使用して受け止める。
衝撃こそ大きくなるが、表面がエネルギーコーティングされ、さらに受ける体勢もある程度コントロールできる分、ダメージを抑えられるだろう。
スカーレットとしては少々気になる事もあるのだが……。
後方へ飛び退いたガブリアスの上半身をドラゴン型のオーラが包み込み、落ちてくるメタグロスをキッと睨むと一気に飛び出した。
上下から猛スピードで距離を詰めていく2体は空中で激突し、互いを覆う膨大なエネルギー同士がぶつかり合って、激しい音と火花を会場中へ散らしていく。
「取った! “れいとうパンチ”!」
「っ! “だいもんじ”!」
メタグロスの上部2本の腕はガブリアスと激しい鍔迫り合いを続けている。
その時、下部にあるフリーだった2本が周囲の水分を凍結させて表面を氷で覆い、振り上げるようなパンチでガブリアスを襲った。
ガブリアスは素早く離れて口から炎を吐いての迎撃で氷を溶かしたが、“れいとうパンチ”を防いだ代償として妨げる物の無くなった“コメットパンチ”を叩き込まれ、地面へ墜落する事となってしまった。
「これは凄いっ!! ロウィー選手のメタグロス、“コメットパンチ”をしながら同時に“れいとうパンチ”も繰り出しましたっ!! “コメットパンチ”を受けたガブリアス大丈夫かぁぁーーーーっっ!?」
“コメットパンチ”と“れいとうパンチ”の同時攻撃。どちらかに対処すれば、もう片方への対処が疎かとなってしまう。
4本の腕と、常識外れの処理能力を誇る頭脳持つメガメタグロスだからこそ可能となる戦術だ。
墜落したガブリアスは砂埃を払って起き上がり、落下の衝撃で揺れる意識を、頭を振って正常に戻した。
「このまま決めますよ! “れいとうパンチ”!」
今度は4本全てを冷気で覆ったメタグロスが、まっすぐに突っ込んできた。
だが、スカーレットは表情を変えぬまま口を開いて指示を出す。
「………………読めた。“りゅうのまい”」
「!? 弱点技が迫る中で強化技……!?」
「ス、スカーレット選手どうしたのか!? このままではガブリアスは4倍ものダメージを受ける事になりますが、いったいどんな作戦を考えついたのかぁぁーーーーっっ!?」
一見すればただの自殺行為。
本来バトルを優位に進めるための強化技を使っている隙に倒されましたではまったくの無意味、骨折り損でしかない。
しかし、指示を出すスカーレットも、その指示を受けたガブリアスも迷い無くその選択に踏み切った。
ガブリアスの両手脚を青いオーラが覆い、咆哮を上げながら荒々しく舞い始める。
その間もメタグロスは迫り、ついにそのリーチにガブリアスを捉えて冷気纏う拳を突き出した。
が、最初の一撃は舞い踊るガブリアスの背中をすり抜けてかわされてしまう。
だが、メタグロスの腕は4本ある。すかさず2発、3発とパンチを繰り出すメタグロス。
「ば……馬鹿な……!?」
ロウィーは目の前の現実が本当に現実なのかわからないという表情。
当然だ。4本の腕から連続して繰り出されるパンチを、ガブリアスは舞いつつも全て紙一重で回避し続けているのだから。
胴を狙ったパンチはターンでかわし、脚を狙ったパンチはステップを踏んでかわす。
左右から挟むようなパンチは、鎌を器用に使ってのバク転で空振りさせる。
何度打ち込んでもまったくガブリアスに当たらず、冷気が地面を凍結させるのみ。
「…………頭良い。メタグロス。……でも」
一旦瞼を下ろしたスカーレットが、ニヤリと笑いながら目を開く。
「…………変えられない。身体の可動域だけは」
「(!? ま、まさか……ここまでのやり取りだけでメタグロスの身体の動き……各関節や筋組織の収縮でどこまで腕が動き、どこに死角があるかを完全に見切ったというのですか……!? トレーナーのみならずポケモンまでも……!?)」
まさかとは思うが、もはやこの回避に次ぐ回避はそうとしか思えない。
いずれのパンチも、当たりそうなところまでは行くが、どうしてもヒットどころか掠りすらしない。
冷気で多少寒そうにはしているが、ダメージとは言い難い。
「“だいもんじ”」
“りゅうのまい”によって、回避動作がさらに速くなったガブリアスの口から炎が漏れ出る。
「距離を取るのです!」
ガブリアスからの弱点技を察し、メタグロスは攻撃を中止し、地面に身体をぶつけ、擦り付けながらも急いで離れ、間一髪で頭上を通過した炎をかわした。
「(危なかった……! 近接戦はやはりリスクが大きい……ならば!) メタグロス! “サイコキネシス”!」
面でなく点の攻撃であるパンチが当たらないのなら、当たるような攻撃をするだけだ。
“サイコキネシス”はサイコパワーの届く距離内で相手を視界に収めてさえいれば使えるので、反応速度など関係無い。
メタグロスが距離を取り、意識を集中してサイコパワーを高め始める。
「凍った地面を斬って」
スカーレットは即座に指示を出し、ガブリアスが交差させた鎌状の腕を地面へ向けて左右に振り抜くと、綺麗に切断された大きな氷の板が宙を舞う。
結果、“サイコキネシス”はガブリアスではなく、その前に落ちてきた氷板を捉えてしまう。
「投げ飛ばしなさい!」
メタグロスはすぐさま邪魔な氷を横へと放り、本来の獲物へ再度狙いを定める。
「“ドラゴンダイブ”」
だが、メタグロスが氷に対処した2秒ほどの間にオーラの展開を終えたガブリアスが、メタグロスがこちらへ振り向くまでの一瞬の隙を突き、砂を巻き上げながら猛突進する。
マッハポケモンの名は伊達ではない。
地面からホバークラフトのようにわずかに浮いて、滑るように突撃するガブリアスの速度にメタグロスは驚きこそしたものの、すぐにガブリアスへサイコパワーをぶつける。
が、あまりにもガブリアスの速度が速すぎたために“サイコキネシス”で勢いを抑えきれず、オーラを纏ったままのガブリアスがメタグロスの顔面に激突した。
「メタグロスっ!(くっ……ガブリアスが速すぎて、“サイコキネシス”発動の距離が近すぎた……!)」
いかに“サイコキネシス”といえど、動く物体の慣性を完全に消す事はできない。
対象が速ければ速いほど、止めるのに必要な距離も長くなるのだ。
驚異的なエネルギー量のオーラを纏ったガブリアスの突進を受けたメタグロスの巨体が傾ぎ、呻き声が上がる。
「もう1度。“だいもんじ”」
「“れいとうパンチ”! 冷気集束!」
“サイコキネシス”の拘束から解放されたガブリアスが大きく飛び上がり、メタグロスの頭上から『大』の字型の炎を噴射する。
対するメタグロスは身体ごと上方へ向き直り、4本の腕をいっぱいに伸ばして周囲の水分を前面へ集中し、一斉に凍結させて氷の盾を作り出した。
高温の炎と分厚い氷が衝突し、激しい水蒸気が膨れ上がるように周辺に広がっていく。
「あぁーーーっと!! 凄い水蒸気ですっ!! フィールド面積の半分は包み隠されてしまいましたっ!!」
「(ガブリアスの頭部の突起はセンサーになっています。恐らくはこの水蒸気の中でもこちらを発見してくるはず……!)」
ガブリアスは本来、砂塵渦巻く砂漠に生息するポケモンだ。
吹き荒れる砂嵐の中でも獲物をしっかり捕らえられるように感覚器を発達させた、まさに環境に適応した進化を遂げたポケモンと言えるだろう。
「(しかし、対象の位置は探れても、その体勢まではわからないはず……)……メタグロス、“れいとうパンチ”用意……!」
ロウィーは声を荒げていた先ほどまでから一転、メタグロスにギリギリで聞こえる程度の声量で指示を出した。
メタグロスは4本の腕を可能な限り別々の方向へ伸ばして冷気を纏わせ、どこからガブリアスが飛び出してきても迎撃できる体勢を取る。
この状況で懸念すべきは、遠距離から放たれる“だいもんじ”だが……。
「(……彼女のガブリアスがポケモンリーグ協会企画のイベントやミニ大会含む公式戦で登場したのは6回。その全てで“だいもんじ”が使われていますが……5回より多く使った事は皆無! 5回使ったら、長引くバトルでもその後は使用していない。つまり、ガブリアスが“だいもんじ”を使える限界が5回の可能性が高い……!)」
そして、この試合でガブリアスが“だいもんじ”を使ったのは4回。
従来通りならば、猶予はあと1回。その貴重な1回を、センサーで位置自体は探れるとはいえ、視界不良の中での遠距離攻撃で使い切るだろうか?
使うとすれば、もっと必殺の距離、タイミングで使うのが定石だ。
まして、ガブリアスの技の残り1枠がメインウエポンのじめん技であるならば、“でんじふゆう”状態のメタグロスへの唯一の有効打となるのが“だいもんじ”なのだから、最後の1発の使用には慎重にならざるを得ないはずだ。
“りゅうのまい”を使う可能性もあるにはあるが、メタグロスのスピードは“サイコキネシス”も併用すれば、直線的なルートに限ってはガブリアスにも匹敵する。
そんな高速を誇る相手と対峙し、しかも水蒸気で技の予備動作を読めない状況下で、悠長に舞う選択など普通ならばしない。
そこから導き出される選択肢は、“ドラゴンダイブ”による近接攻撃。
“ドラゴンダイブ”の加速で一気に接近さえすれば、“だいもんじ”を必中の距離で放つ事も可能なのだから、この選択をする可能性が極めて濃厚だ。
そういった結論の末に、現在できる最善策を取ったロウィーではあったが……。
「(さぁ………………僕の予想を裏切って見せてください……!)」
その内心では、彼女が自身の計算の先を行く戦術を見せてくれる事に期待してしまっている。
先にロウィー自身が心中で語ったように、彼のポケモンバトルにかける熱意、その原動力は知的好奇心が大部分を占めている。
それ故、自分の想定を上回るような事態……自分の知識に無い事態こそ、本来彼が求めて止まないバトル展開なのだ。
そして……スカーレットはそれに応えた。
「…………ガブリアス。“だいもんじ”。……そして」
ガブリアスが炎を口の中で増幅する間に、続く指示。
「“だいもんじ”の中に“ドラゴンダイブ”」
「な……にっ……!?」
ガブリアスは一際大きな『大』の字の炎を吹き出すと、間髪入れず全身にオーラを纏って地面を蹴り、自らその炎の中へ飛び込んでいった。
「こ、こ、こ、これはなんとぉっ!? ガブリアスが炎の中に入ってしまいましたぁっ!? 大丈夫かっ!? 熱くないかっ!?」
「(ば、馬鹿な……! いくらドラゴンタイプはほのお技に耐性があるからといって、あのように全身を炎で包んでしまっては火傷が………………っ!)」
あまりにも予想外の出来事に心配まで始めたブルースと、スカーレットの無謀な行動に絶句するロウィー。
だが、当のガブリアスは顔色を変える事無く、炎に包まれたまま水蒸気の中へと突入した。
「そ……そうか……! “ドラゴンダイブ”は……全身から放出したオーラ……エネルギーの膜で身体を覆って突進する技…………オーラの鎧で炎を……!」
つまり、現在のガブリアスは本体の外側にオーラ、そして炎の2層の膜を纏っている状態であり、炎を直接浴びているわけではないため、多少熱さは感じているだろうがダメージと呼べるほどではないのだ。
「は……ははは…………これが……『
完全に想定範囲をオーバーした手を打ってきたスカーレットに対し、ロウィーは諦めと喜びの入り交じる笑いを溢す。
スカーレットは右手の手袋を外すと、腕をゆっくり、高く伸ばして瞼を閉じる。
「…………強い。凄く強い。アナタのメタグロス。……でも……ワタシのガブリアスは……もっと強い」
そして、炎とオーラを纏うガブリアスがまっすぐにメタグロスへと突撃し、“れいとうパンチ”の冷気を蒸発させてメタグロス本体へ激突。
空気が悲鳴を上げているかのような音を出しながら、940kgの鋼鉄の塊をぐんぐん押し出していく。
そのままフィールドの端まで来た瞬間、スカーレットの掲げた指先が滑り、フィンガースナップが鳴り響く。
「チェックメイト」
スカーレットのその声が合図だったかのようにガブリアスが目を見開き、ジェット機のように加速してメタグロスをフィールドのバトルエリア、その遥か先の壁へと叩き付け、完全にめり込ませた。
その衝撃は観客席にまで伝わりぐらぐらと震動が襲うが、それは観客達の興奮をさらに加速させたらしい。
「……ふっ……」
小さな笑い声を漏らして振り向いたロウィーは、静かな足取りでメタグロスへと近付いていく。
そのメタグロスは身体が一瞬発光し、直後、弾けた光の粒子と共にメガシンカ前の姿へ戻り、ぐらりと地面へ倒れ伏した。
「……メ……メタグロス戦闘不能っ!! ガブリアスの勝ちっ!! よって勝者! ズイタウンのスカーレット選手っ!! 1回戦突破っ!!」
「……見事なバトルでした、メタグロス。しかし、それでも彼女には及ばなかった……ポケモンバトルとは本当に果ての見えぬものですね……」
「…………お疲れ様。ガブリアス。……やっぱりアナタは最高、だね」
2人は戦い終えたポケモンをボールへと戻し、心からの労いを送る。
「き……決まりましたぁぁーーーーっっ!! 準決勝への切符を手にしたのはスカーレット選手っ! ロウィー選手も素晴らしいバトルを見せてくれました! 皆様、どうぞ激戦を演じた2人に惜しみ無い拍手をっ!!」
ブルース、審判、観客からの拍手が響く中、ロウィーとスカーレットの両者が歩み寄り、互いの手を握った。
「負けこそしましたが、実に充実した時間でした。感謝します」
「……こっちこそ。ありがとう」
互いを称賛した2人はそれぞれ相手に背を向けると、そのまま控え室へと歩き出す。
ポケモントレーナーという、バトルの勝敗を競う者達は常に別々の道を歩み、同じ道を共に進む事は無い。
だが、同じ目的地を目指す以上、時としてその道は交わり、違う分岐を生み出す。
彼らトレーナー達の道、可能性は、そうして無限に広がっていくのである……。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただき、ありがとうございます!
ロウィーも強いと描写しつつ、スカーレットはさらに強いという描写にするのが非常に難しく、何度も執筆と消去とを繰り返しました
…。
そう考えると、次の試合は気が楽かもしれませんね。