蒼天のキズナ   作:劉翼

97 / 103
大変お待たせいたしました!
1回戦最終試合開始の第96話です!


第96話:銀世界への招待状

 ロウィーとスカーレットの決勝トーナメント1回戦第3試合。

 常に自身の想定を超えた戦術を披露するスカーレットに対し、ロウィーは最後の賭けとしてメガシンカ対決を仕掛ける。

 ロウィーはメタグロス、スカーレットはガブリアスと、それぞれ自分にとって自慢とするポケモンを繰り出してメガシンカさせる。

 メガシンカ同士の激闘が繰り広げられるが、次第にメタグロスの動きを学習したスカーレットとガブリアスが優位に立つ。

 水蒸気で動きを読まれにくい事を活用し、“れいとうパンチ”によるカウンターを狙うロウィーだったが、まず使わないと考えていた“だいもんじ”に、さらに“ドラゴンダイブ”を加えた突撃を受けて敗北を喫する。

 それでも、想定外の戦術の数々を目の当たりにして知識欲を満たす事ができた上、熱いバトルを楽しめたロウィーはスカーレットに握手を求め、彼女もそれに応じ、互いの健闘を称えあったのだった。

 

 

 

「あー…………今回の決勝トーナメント……1回戦から凄い事になってると思いませんか皆様っ!?」

 

 燃え尽きたかのように椅子にもたれていたブルースが、再燃焼とばかりに立ち上がり、マイクに叫ぶ。

 

「ロウィー選手とスカーレット選手のメガシンカ対決でお腹いっぱい? いやいや、まだまだ続きますよっ!! 次の対戦カードも大いに興味を引く組み合わせ! では! 本日最後の試合を飾る2人に……登場していただきましょぉぉぉぉうっっ!!」

 

 第4試合……1回戦最後のバトルだ。

 ゲートが開き、髪も肌も真っ白な少女と、それとは対照的な燃える炎を思わせるオレンジ髪の男性が入場する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「片や、エイセツシティのスノウ選手ーーーーっ!! またの名を『銀世界の姫君(ブリザード・プリンセス)』! 敵という敵をことごとく凍てつかせてきた氷の申し子っ!! 幻想的な戦いに見惚れて凍らないように気を付けろぉぉーーーーっっ!!」

 

 左目を覆い隠す髪を鋤くように掻き上げた少女が柔らかな笑みを浮かべながらバトルフィールドへと歩みを進める。

 

「対するはぁっ! コニコシティのガラム選手ーーーーっっ!! アローラ地方で人気のバトルロイヤルにおいて、圧倒的なパワーを以て対峙する相手全てを瞬く間に粉砕するパワーファイターっ!! その力の前には一瞬の油断が命取りっ!!」

 

 少女とは真逆、歩幅が大きく堂々とした歩き方で、男性は少女よりも早くフィールド前へ到着して腕を組んで待機。

 そして、少女……スノウが自分と向かい合う位置につくと、息を吸い込み、大きく両腕を回すような仕草と共に爆発かと思うような大声を上げた。

 

「…………アロォォーーーーラァァーーーーッッ!!」

 

 突然の咆哮に、その場の全員が驚いてギョッとしてしまう。

 

「……ぬっはははは! やはり大きく挨拶をするのは気持ちが良い!! ……ん? ああ、すまんすまん! 今のはアローラ地方特有の挨拶だっ!! 驚かせるつもりは無かったんだがな! ぬっはははは!!」

 

 右手をひらひらさせながら豪快な笑い声を上げるガラムに目をぱちくりさせていたスノウだが、すぐに平静を取り戻して口元に笑みを浮かべる。

 

「……なるほどです。こんな感じです? あろーらー♪」

 

 ふわりとした動作で身体の前から外側へ両腕を回すスノウを見ると、ガラムはうんうん頷いてまた豪快に笑う。

 

「おう、そんな感じだ!! ……ああ、いかんいかん。つい話し込んでしまうのが俺の悪い癖だ!」

 

 ガラムがちらりと審判に目をやると、あちらも空気に飲まれていたのか、ハッとして口を開いた。

 

「……あっ……。そ、それでは両者、ポケモンを!」

 

 2人は同時にボールを手にすると、真逆のテンションで空高く投擲した。

 

「始めるです、アマルルガさん」

 

「行くぞぉぉっっ!! オニシズクモぉぉっっ!」

 

 開いたボールからまず飛び出したのは、以前におつきみ山でニビジムリーダー・エーデルが出していた、ツンドラポケモン『アマルルガ』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 青や水色などの寒色系に彩られた身体を持ち、長い首と、後頭部から背中にかけて生えたヒレを揺らして臨戦態勢といったところ。

 首には氷柱のような青い刺の生えた岩を、紐を通してぶら下げている。

 これは冷たい岩という道具で、持たせたポケモンが天候を霰にすると、通常よりも長い時間その天候を維持できる。

 そして、その向かいに水音を立てながら降り立ったのは、すいほうポケモンの『オニシズクモ』。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 楕円で構成された身体からは6本の長い脚が伸び、胴と同じく楕円形の頭部は分類名通りに水泡で覆われている。

 頭の水泡の中には、植物の根のような物が浮かんでいるのが見える。

 体力を吸収する技を使用した際、より多く回復を行えるようになる大きな根っこだ。

 

「(初めて見るポケモンです……ごく最近までアローラ地方は他地方との交流が少なかったらしいですし、そのせいでわからない事も多い地域です……)」

 

 この世界にはポケモンリーグという物が存在する地方は非常に多いが、実はポケモンリーグ協会に承認されている物は意外にも少ない。

 独自に行われていた慣習などが形を変えてリーグになったり、地方活性化のために新たにリーグ文化を興したりと、その発祥は様々。

 そういった地方の有力者が協会に加入と承認を求めてきたり、逆に協会側からコンタクトを取る事で、本格的な交流が始まり、トレーナー達の出入りも多くなっていくのだ。

 そういう意味では、古くから残る試練と大試練なる風習を発展させて発足したアローラリーグは、まだまだ若いリーグと言えるだろう。

 なんでも、現地のポケモン研究者であるククイ博士がカントーにやって来た際、こちらのリーグに感銘を受け、地元アローラにもリーグを作りたいと考えたのがそもそもの始まりらしい。

 そのため、他地方に流れるアローラ地方の情報はあまり多くはなく、協会から正式なリーグと認められた事でようやく広まり始めたのである。

 

「スノウ選手はアマルルガ! そして、ガラム選手はオニシズクモです! お恥ずかしながらわたくし、オニシズクモの実物を見るのは初めてでございますっ!!(ぐぬぬ……アローラのポケモンはまだ勉強中……! だが……だがしかしっ! 実況者の誇りに懸けて必ず盛り上げて見せるぞ!!)」

 

 実況者として日々ポケモンに関する勉強は欠かさないブルースではあるものの、いかんせんポケモンという生き物は奥も謎も深すぎて、専門の研究職ですらその種類や生態の全てを把握はしていないとすら言われるのだから、実況者の得られる知識も限られてくる。

 が、それでもなお燃えるのが実況者。

 「よくわからん」で済ますのは、彼のプライドが許さないのである。

 

「さぁ、それではそろそろ幕を開けましょう……1回戦最終試合、スノウ選手対ガラム選手のバトルを!!」

 

 実況席のブルースからの目配せを受けて、審判が両手に持った旗を掲げる。

 

「では、先鋒戦……アマルルガ対オニシズクモ。バトル…………開始っ!!」

 

 試合開始の合図が出ると同時、アマルルガの首の結晶状器官とヒレが発光し、甲高い鳴き声が木霊した。

 そして、突如空が黒く染まったかと思うと雪が降り始め、やがてそれは固形化が進み霰へと変化した

 

「なんだ……!?」

 

「ふふふ……これがアマルルガさんの特性、《ゆきふらし》です。場に出るだけで雪と霰を降らせてしまうのです」

 

 突然降り始めた霰に驚いたガラムへ向けて、スノウが自慢げに語る。

 

「《ゆきふらし》だと!? そんなアマルルガ聞いた事が無いぞ!?」

 

「私のアマルルガさんは少し特殊なのです。というのも、この子は化石から再生されたのではなく、南極の永久凍土……その地下深くでアマルスの状態で眠ったまま氷漬けになっていたのです」

 

 フィールドから飛び出たアマルルガの尻尾を撫でながら、スノウは空を見上げる。

 

「然るべき研究機関に送られて粗方調査が終わった後、南極調査隊のリーダーだった私のお父様が預かり、私に譲られた直後に覚醒したのです。恐らくですが、この子はこの特性によって降らせた雪と霰で自分自身を氷漬けにする事で絶滅を免れたのです」

 

「ほうほう……なるほど、古代の厳しさをその身で体験し、そして生き延びた太古の生き証人というわけか。ぬっはははは! 相手にとって不足無し!! ラナキラマウンテンに山籠り修行をした俺とポケモン達には、この程度の寒さは蚊が刺すようなものよ!!」

 

 と、その時、不意に風に煽られた大きめの雹が、大口を開けて笑っていたガラムの額に激突した。

 

「あ」

 

「……ぬっはははは! まぁ、さすがに霰が当たると痛いがな! ぬっはははは!!」

 

 赤くなった額を擦り、なおも笑うガラムに、スノウは微妙そうな表情。

 

「……今度は私が話しすぎたみたいです。そろそろ始めないと、皆さんも退屈です」

 

「うむ! さっきは俺が話しすぎたからな! おあいこになったところで始めるかっ! 行くぞ嬢ちゃん! バトルをエンジョイしようぜぇぇーーーーっっ!! オニシズクモ、“たくわえる”だっ!」

 

 本格的にバトルスタートという事でより声量の増したガラムが指示を出すと、オニシズクモは大きく息を吸うような仕草で水泡を膨らませる。

 力を蓄え、防御関係の能力を向上させる“たくわえる”だ。

 

「さぁっ! まさかの《ゆきふらし》を持つアマルルガには驚きましたが、ついに両者動き始めましたっ! ガラム選手、まずは下準備といったところでしょうか!」

 

 ガラムは風体こそ脳筋に見えるが、そこはやはり相応の実力者で、こういうバトルの下ごしらえにも気を配る事を怠りはしない。

 

「それなら、こちらから攻めさせてもらうです。アマルルガさん、“10まんボルト”です!」

 

 アマルルガのヒレの動きが激しくなり、明滅と共に周囲がスパークし始める。

 そして、長い首を振って雄叫びを上げると、強烈な電撃が空中を走り、オニシズクモを襲う。

 オニシズクモの巨体では回避は叶わず、あえなく被弾し、感電してしまう。

 

「(見た目からしてオニシズクモはみずタイプとむしタイプ! それなら“10まんボルト”が効くはずです!)」

 

 スノウの目算は正しく、オニシズクモのタイプ構成はまさにその通り。

 弱点であるでんき技を受けたオニシズクモは水泡を震わせて電撃に耐えるが、次第に呻き声を上げ始める。

 

「オニシズクモ、早速弱点技を受けてしまった! これはバトルの展開に大きく影響するかぁっっ!?」

 

「なんのぉっ! 気合いだオニシズクモぉっっ!!」

 

 マイクでも持ってるのかと思わんばかりの声量で叫ぶガラムに鼓舞されたオニシズクモが大きく左右に身体を振り、前2本の脚を持ち上げて叫ぶと、なんと全身を襲っていた電撃をはね除けてしまった。

 

「えっ!?」

 

「ぬっはははは! こいつに生半可な特殊技は効かん! そんじょそこらのオニシズクモとはオニシズクモが違う!」

 

 ガラムが豪快に笑うのはこの日だけで何度めか。

 自慢するように笑うガラムに同意するかのように、オニシズクモはまだまだ行けるとばかりに水泡を膨らませて余力をアピールしている。

 シズクモは通常、オニシズクモや他のシズクモと共に群れを作り、一人立ちできる程度に育つまでは集団生活をするポケモンだ。

 だが、ガラムの個体は手のひらよりも小さい頃から1体で生きてきた特異な境遇であった。

 そのたくましさと根性を気に入ったガラムはシズクモを仲間に誘い、今日まで他のポケモン達共々修行に次ぐ修行の日々を送ってきたのだ。

 その過程で鍛えられた忍耐力はバトル中における防御能力向上へと繋がり、この非常に打たれ強いオニシズクモが出来上がったわけである。

 降ってくる霰もぶつかりまくっているが、その耐久力故か、はたまた強がりか、ダメージを感じさせない。

 

「(特殊攻撃に強いみたいです……こおり技は効きにくいし、それならいわ技一択です!)アマルルガさん! “いわなだれ”です!」

 

 アマルルガが持ち上げた前脚で地面を叩くと無数の岩が空高く浮遊し、オニシズクモ目掛けて一斉に降り注ぐ。

 いわタイプの物理技にはさらに威力の高い“ストーンエッジ”もあるが、あちらはやや命中に難があるため、安定性を重視するトレーナーは“いわなだれ”を使用する事が多い。

 また、こちらは広範囲に岩が落下する性質上、攻撃範囲が非常に広く、複数の相手へのヒットが期待できるためにダブルバトルではこちらが優先的に使われやすい。

 

「なんのなんのぉっ! “アクアブレイク”だっ!!」

 

 オニシズクモの6本の脚を逆巻く水の渦が覆ったかと思うと、その巨体からは想像もできない跳躍力で跳ね、空中で脚を全て伸ばすとコマか風車のように回転を始めた。

 次々に落下してくる岩塊は、水の車輪と化したオニシズクモの脚に弾かれ、切断され、粉砕されていく。

 

「オ……オニシズクモ凄いっ!! 降り注ぐ岩をことごとく破砕し、弱点技を物ともしませんっ!!」

 

「あらら……無茶苦茶な防ぎ方です……」

 

 予想しようの無い防御方法で“いわなだれ”を凌がれてしまい、スノウは驚くような呆れるような表情を見せる。

 

「形ある物ならば必ず壊せる! パワーは最強の攻撃と最強の防御を同時に実現するっ!! さぁ、今度はこっちから行くぞぉっ! “ギガドレイン”っ!!」

 

 咆哮と共に膨らんだオニシズクモの水泡から緑色のエネルギー波が放たれてアマルルガの身体を一瞬にして覆い、激しく点滅する。

 苦しむアマルルガからオニシズクモへ向けて、無数の光の粒が送られ、オニシズクモは見る見る内に体力を回復していく。

 相手にダメージを与えると同時に、ダメージ量に応じて自身の体力を回復するくさタイプ技“ギガドレイン”。

 いわタイプを持つアマルルガにとっては弱点になる上、大きな根っこの補助効果もあって両者の体力差が広がりつつある。

 

「“10まんボルト”で振りほどくです!」

 

 アマルルガはスノウの指示によって全身から放電。

 自身に纏わり付いていたエネルギーの膜を稲妻で引き裂き、オニシズクモと距離を取るために後退する。

 

「し、信じられません! ポケモンバトルはタイプ相性が全てではないとはいえ、むしタイプのオニシズクモがいわタイプのアマルルガを一方的に押しておりますっ!!」

 

 相手の攻撃を力尽くで受け止め、反撃の吸収技で削りを入れつつダメージを回復……さすがガラムがその根性を気に入っただけあり、このオニシズクモはかなりの実力者。

 工夫すればアマルルガだけでも突破できそうではあるが……。

 

「うーん、参りましたねー、予想以上の相手です。……仕方無いです。アマルルガさん、戻ってください」

 

 ゴリ押しは下策と判断したスノウは、モンスターボールを取り出してアマルルガを一旦控えに戻した。

 

「おっと、スノウ選手ここでポケモン交代です! あまり無理をしない堅実な判断です」

 

「(ぬぅ……《ゆきふらし》という事は、霰が止んだ頃にまた出すつもりだな……厄介な。次のポケモンを出すタイミングが縛られるぜ……)」

 

 腕を組んだガラムが苦い顔を見せる。

 なんだかんだ言いつつも、ガラムはトレーナーとして平均以上の実力を有する人物であり、観察眼も戦術眼も相応のものを持ち併せている。

 それは、彼が得意とするバトルロイヤルというバトル形式を繰り返す内に培われたものだ。

 4体のポケモンが向かい合い、その全てが敵同士。

 誰がどのような思考の下、どのように行動するかを読み、自身も誰を優先して倒すか、そして誰が自身を狙ってきて、それにどう対処するかなど、考えなければならない事はいくらでもある。

 その中に長らく身を置いてきた彼は、勝ちも負けも味わう内、やがてその見た目とは裏腹の鋭い思考能力を得るに至ったのだ。

 

「ふふふ……次はあなたにお任せです。ユキメノコさんっ」

 

 スノウの投げたボールから白い影が飛び出し、不規則かつゆっくりと降りてきて、地面すれすれで浮遊した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 一見すると着物を着た少女のようにも見えるが、頭部から直に腕が伸びているなど、よく見れば異形。

 さらには胴体が空洞になっている関係上、入り込んだ風が反響し、常に不気味な音を響かせている。

 各地の雪女伝説と関わりがあるとされる、ゆきぐにポケモン『ユキメノコ』だ。

 

「スノウ選手の2番手はユキメノコですっ! 重量級のアマルルガとは打って変わって身軽なポケモンが出てきましたっ!!」

 

 ブルースが話している間に、審判が旗を掲げる。

 

「それでは、バトル………………再開っ!」

 

「先手必勝ぉっ! “アクアブレイク”だぁっ!!」

 

 機先を制して動いたのはガラム。

 先ほどのように跳躍したオニシズクモが、水流を纏った前2本の脚を交差させてユキメノコへ迫る。

 

「“ふぶき”です」

 

 ユキメノコが左右に開いた両腕を前方へ向けて振ると、周囲の空気の流れが乱れ、冷たい風と共に雪と霰も混じった猛吹雪が吹き荒れ始めた。

 だが、オニシズクモはまったく意に介さず突進していく。

 

「特殊技は効かんと言ったぁっ!! ましてみずタイプにこおり技ではなぁっ!!」

 

 スノウ自身も考えていた事だが、みずタイプに対してこおりタイプ技は効果が薄く、基本的に使用する事は無い。

 事実、オニシズクモは気にも止めずに吹雪の中をユキメノコ目掛けて落下し、長い脚のリーチにユキメノコを収めると、交差した脚で切りつけるように左右へ振り抜いた。

 ……しかし、技が当たったと思われた次の瞬間、ユキメノコの姿が粉雪のように崩れ、吹き荒ぶ吹雪の中へ消えてしまった。

 

「何っ!? ……《ゆきがくれ》か!!」

 

 《ゆきがくれ》。

 天気が霰の時、その中に身を溶け込ませる事で回避率を上げる特性である。

 

「……うふふふ……ここまで勝ち進んできた以上、相応の実力だとは思っていましたが、予想を遥かに上回る方でした。私も全力で応じないと失礼というものです。……“シャドーボール”」

 

 それまでのおっとりとした声色から一転し、抑揚の無い技の指示が出されるや、吹雪に閉ざされた真っ白な世界の向こうから、背景とは真逆……漆黒のエネルギー球が飛来し、オニシズクモの背中にヒットする。

 

「っ! そっちか! “アクアブレイク”!」

 

 再度脚に水流を纏わせて、攻撃の飛んできた方向へ向けて振るうが、ほんの一瞬白いベールに切れ間ができただけで、何かに当たった手応えは無い。

 かと思えば、またも背後から、横から、上から、前から。

 あらゆる方向から無数に“シャドーボール”が撃たれ、次々にオニシズクモを襲った。

 

「なっ……!?」

 

 相手の動きを読むどころか姿を見る事すら叶わないのでは、ガラムの得意な読み合いもへったくれもありはしない。

 そうこうしている内に10発以上の“シャドーボール”を浴びたオニシズクモが、とうとうその脚を伸ばしきって力尽きてしまった。

 吹雪に覆われた先にかすかに見えていたそのシルエットの変化に、ガラムは絶句する。

 

「馬鹿な……! 俺のオニシズクモが……!?」

 

「うふふふ……まず、ひとつ……」

 

 確認に向かった審判が雪まみれになりながら吹雪の中から現れ、呼吸を整えると大声で宣言した。

 

「はぁっ……はぁっ…………オ……オニシズクモ戦闘不能! ユキメノコの勝ちっ!」

 

「おぉっと! 力と技の応酬が続いた試合ですが、ここに来てようやくポケモンの数に変化がありましたっ! アマルルガはだいぶダメージを受けましたが、先に相手を減らしたのはスノウ選手っ! 正直申し上げまして、視界が真っ白で何が起きたのかよくわかりませんっ!! スタッフ! サーマルゴーグルお願いします!」

 

 まさに実況者泣かせの状況。

 こうもフィールドを白銀に染め上げられては、戦況の把握もままならない。

 急ぎ熱源を感知できる機器を用意して観客にバトルの状況を伝えなければ、実況者の名折れである。

 

「ぬうぅ……! よくやったぞ、オニシズクモ! お前の熱い闘志、確かに受け取った!」

 

 オニシズクモをボールに戻したガラムは、吹雪を隔てた向かいに立つスノウへと目を向けるが、当然その姿は見えない。

 ……にもかかわらず、まるであちらこちらから視線を向けられているかのような不快感に襲われる。

 

「……ふふふふ……ユキメノコさんが見せる銀世界の幻想(イリュージョン)はまだまだ始まったばかり……どうぞごゆっくりお楽しみください。……身も心も……凍てつくまで……♪」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 白銀の世界に君臨する姫君が笑う。

 無邪気に。

 優雅に。

 淑やかに。

 そして……冷酷に。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

最後のスノウはもっと狂気に満ちた表情も描いてみたのですが、女の子がして良いレベルじゃないほどの凶悪な面構えになってしまったのでボツにしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。