蒼天のキズナ   作:劉翼

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第97話:切り札『Z』!白銀砕く鉄拳!

 小さな雪の姫。

 大きな炎の闘士。

 霰に紛れた強襲を得手とするスノウと、攻撃も防御も圧倒的パワーで両立するガラムのバトルが始まった。

 いわタイプを持つアマルルガに対し、本来不利なはずのむしタイプ・オニシズクモでガンガン押し込んでいくガラム。

 スノウは形勢不利を悟ると、アマルルガを戻して2番手ユキメノコを繰り出す。

 オニシズクモは悪天候に身を隠して襲い来るユキメノコの動きを捉える事叶わず、一方的な攻撃によって自慢の耐久を活かせぬまま倒れてしまった。

 『銀世界の姫君(ブリザード・プリンセス)』……その異名の所以たるスノウの本気が、とうとう露になる……。

 

 

 

 オニシズクモを破られたガラムは、2番手を収めたモンスターボールを手に握る。

 

「(銀世界の幻想ね……確かに幻みてぇに動きが見えねぇ。……だったらよ、こっちもこの霰を使わせてもらうぜ……!)……打ち壊せ! サンドパンっ!!」

 

 ヒビが入るのではと心配になるほど握られたボールが投擲され、放たれた光が形を成していく。

 地面に着地すると同時に完全に固着したそのポケモンが、ゆっくりと顔を上げる。

 

 

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 ねずみポケモン『サンドパン』だ。

 透き通るような白と水色の身体、手足から伸びる太く鋭い鉤爪。

 だが、何より目を引くのは、その頭部と背中から伸びる鋭利な氷柱。

 これはどうやら氷のコーティングのようで、太陽光に照らされた氷の中には、本体と呼ぶべき鋼鉄のトゲがうっすらと見える。

 その首からは命の珠と呼ばれる、体力を攻撃力に変換する不思議な宝珠がぶら下がり、これも寒色系のカラーリングによく馴染んでいる。

 

「あ……あれがサンドパンです……!?」

 

 スノウは驚いたように目を丸くする。

 

「ぬっはははは! 驚いてるな嬢ちゃん。俺もジョウトに来てこっちのサンドパン見た時は驚いたぜ。アローラじゃ雪山に住んでるポケモンが、他の地方じゃ砂漠や砂地に住んでんだからな」

 

 そう、驚くのも無理は無いのだ。

 一般的にサンドパンというポケモンは、砂漠で暮らすじめんタイプのポケモンだからだ。

 しかし、ガラムらアローラ生まれにとって馴染み深いこの姿は、雪山や雪原を住み処とするこおりタイプとはがねタイプの複合タイプなのだ。

 

「観客の皆様! 我々は今、とても珍しいものを見られました! これは噂に聞くリージョンフォームっ!! 本来とは異なる特定の環境下で生き抜くため、長い時をかけて己の生態を変化させた姿のポケモンなのですっ!!」

 

 カントーでもジョウトでも珍しくはないサンドパンが、まるで異なる姿で登場した事で、会場は大いに沸き立った。

 

「……雫のような大きな目……走破力に優れた爪の形……氷柱のような美しいトゲ…………素敵です……次はアローラに行きたいです……」

 

 特にこの美しい姿はこおりタイプ使いであるスノウの琴線に触れたらしく、彼女の胸には早くもアローラサンドパンのゲットという野望が燃え上がっていた。

 審判もアローラサンドパンの姿に見惚れていたが、気を取り直して1歩進み出ると、スノウとガラムを交互に見ながら呼びかける。

 

「それでは両者、準備はよろしいですか?」

 

「はい」

 

「おうっ!」

 

 その返事を確認すると、両手の旗を振り上げ……。

 

「では、バトル………………再開っ!!」

 

 振り下ろした。

 

「“シャドーボール”です」

 

 今度は先の意趣返しのようにスノウ側からの先制攻撃。

 真っ白な身体を吹雪の中に溶け込ませたユキメノコは、合わせた両手の間に黒いエネルギー球を作り出し、サンドパンへ向けて発射した。

 高速で飛来した影の豪速球は、サンドパンに回避の間を与えず、その背中に直撃する。

 

「……へっ! “メタルバースト”だ!」

 

 だが、ガラムが不敵に笑ったかと思うと被弾したサンドパンの身体が光を放ち、それが一旦体内へ集束した直後、サンドパンを中心として強烈なエネルギーの波が広範囲に拡散し、ユキメノコもその中に飲み込まれてしまった。

 

「(しまった……! まさか“メタルバースト”とは……! ……いえ、はがねタイプを持っているのなら、当然警戒すべきでした……!)」

 

 スノウらしからぬ勝負の急ぎ具合であるが、当然理由はある。

 というのも、このアローラサンドパン……スノウとの相性が最悪なのである。

 彼女が得意とするのは、霰に姿を隠した攪乱及び奇襲と、その霰によるスリップダメージの併用。

 そして、命中に難はあるがこおりタイプ最高峰の威力を誇る“ふぶき”。これは霰が降っている場合にはほぼ必中となる上、その強力な冷気によって相手を凍結状態にしやすい技だ。

 上記戦術に加え、あわよくば“ふぶき”で凍らせてしまうのがスノウのバトルの基本。

 ……なのだが、こおりタイプのアローラサンドパンは凍らない上、はがねタイプもあるのでこおり技がほとんど通用せず、霰もダメージどころか、むしろ降れ降れといったところ。

 さらに、あちらからははがね技で大ダメージを叩き込まれてしまうのだ。

 バトルが長引いてこちらの手を明かせば明かすほどに不利を強いられる事になるというわけだ。

 なので、それなりに効果の見込める“シャドーボール”で速攻をかけるのが正解と判断した上で攻撃を行ったのだが、その焦りが“メタルバースト”への警戒を怠らせてしまった。

 “メタルバースト”は主にはがねタイプが習得する反撃技であり、受けたダメージに自身のエネルギーも加えた反撃を行い、より大きなダメージとして跳ね返す。

 習得可能ポケモンが限られる分、物理技に反応する“カウンター”と特殊技に反応する“ミラーコート”の長所を併せ持っており、どちらの攻撃を受けても問題無く反撃可能という強力な技なのだ。

 反撃ダメージ量では少し劣っているのだが、対応力の面では大きく上回っており、反撃系の中では扱いやすい技と言えるだろう。

 

「スノウ選手のユキメノコ、サンドパンにダメージこそ与えたものの、“メタルバースト”による手痛い反撃を受けましたっ!! オニシズクモを破った勢いを維持して行きたいところですが……!?」

 

「残念だがそうは問屋がなんとやらぁっ!! “アイアンヘッド”だ!」

 

 “メタルバースト”のエネルギー波でダメージを与えた際に聞こえたユキメノコの声の方向へ、頑強な爪で雪を蹴ったサンドパンが驚異的な速度で突進していく。

 

「(速いっ!?)“まもる”ですっ!」

 

 ユキメノコが咄嗟に展開した障壁によって、鋼鉄のような輝きを放つ頭突き攻撃は間一髪で防御成功。

 

「おせぇっ!」

 

 ……したはずなのだが、見えない壁にぶつかったサンドパンは一旦身を引き、異様に機敏な動きで横向きにステップを踏むや、障壁の脇をすり抜けて頭を振りかぶり、その額をユキメノコの頭に激突させた。

 

「(……! この速さ……!?)……《ゆきかき》……ですか」

 

「ご明察だっ! アローラのサンドパンは普通はユキメノコと同じ《ゆきがくれ》なんだがな! こいつはサンドの頃、ラナキラマウンテンの雪原でいやに速く走り回っていたんだ! 仲間にしてみたらこの通りよっ!!」

 

 強烈な頭突きでユキメノコを吹き飛ばしたサンドパンは、「どうだ」とばかりに鉤状の爪を振り回して降り注ぐ霰を切り裂く。

 《ゆきかき》は霰が降っている場合に限り、降り積もった雪や霰を掻き分けて動きに勢いを付ける特性なのだ。

 一方のユキメノコは、起き上がりながらクラクラする頭を手のひらで叩いて治そうとしている。

 

「こいつで決めるぜっ! “アイアンヘッド”っ!!」

 

 サンドパンは4足歩行状態になると足元を踏み固め、雪原で鍛えられた強靭な脚力で一気に加速し、硬化した頭で再度ユキメノコへ突進を敢行した。

 

「同じ手は食わないです。“かなしばり”っ」

 

 それに対し、ユキメノコはゆっくりと目を見開き、その瞳から不気味な輝きをサンドパンへ向けて放つ。

 すると、まさに金縛りに遭ったかのようにサンドパンの動きが鈍り、両手両足の爪を突き立てて緊急着地した。

 “かなしばり”。

 直前に相手の出した技の動作を学習し、その動きを適切に封じ込められるタイミングを見計らって超能力で筋肉を麻痺させる技。

 これによってしばらくの間その技を出す事ができなくなってしまい、場合によっては決定打となる技を完全に封じられ、手も足も出なくなってしまう可能性もある。

 

「(ぬっ……! “アイアンヘッド”を封じられたか! だがしかし! それだけが攻撃技じゃぁねぇぜ!)……よし! “つららばり”だっ!」

 

 サンドパンは四つん這いの体勢になると背中を空へ向ける。

 すると、背中のトゲが青白く発光し、5本の太い氷の針が打ち上げられた。

 

 

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「おぉっと、ガラム選手のサンドパン、“つららばり”を発射しましたが、姿の見えないユキメノコにどのように攻撃するのでしょう……!?」

 

「へっ……! こうすんのさっ!! サンドパンっ!!」

 

 ガラムの合図と共に、発射された“つららばり”が光ったかと思うと爆散し、一回り小さい氷柱が地面へ降り注ぐ。

 それはさながら、空中で分裂して無数の子弾をバラ撒くクラスター爆弾のようだ。

 

「っ! これは……!」

 

「《ゆきがくれ》はあくまで雪景色に溶け込んでるだけだ。実体が消えたわけじゃねぇっ!!」

 

 ユキメノコはこおりタイプなので、こおり技の“つららばり”はダメージには期待できない。

 だが、そこそこの質量がある氷柱が上空から降り注いでぶつかったとなれば、呻き声のひとつも出てしまうのが生き物である。

 一面の雪景色の中で、サンドパンは“つららばり”を発射した体勢のまま微動だにしない。

 周りには氷柱が落下する音だけが響いていたが、その中にほんのわずかな鳴き声が混ざると、サンドパンは大きな爪を振って雪を巻き上げながら方向転換し、声のした方へ一直線に突っ込んでいく。

 《ゆきかき》の効果もあり、そのスピードはオニシズクモとは雲泥の差。

 加えてあちこちに刺さった氷柱がユキメノコの進路を塞ぐ一方、鋼鉄もかくやという頑強な身体のサンドパンは、それらを平然とへし折りながら突き進める。

 

「食らえぇぇーーーーいっ!! “アクアテール”っ!」

 

「“シャドーボール”を爆発させるですっ!」

 

 銀世界を駆け抜けながら尻尾に水流を纏わせるサンドパン。

 対するユキメノコは、両手の間にエネルギー球を生成し、一瞬にして自身の半分ほどの大きさへ肥大化させていく。

 サンドパンの“アクアテール”が先か、ユキメノコの“シャドーボール”が先か。

 結果は……“シャドーボール”だった。

 迫るサンドパンに向けて発射された“シャドーボール”は、少し飛んでから膨張して爆散し、その爆風に周囲の氷柱とサンドパンを巻き込んだ。

 

「ちっ……!」

 

「(タイプは変わってもサンドパンはサンドパン……特殊攻撃は苦手なはずです)続けて“シャドーボール”です!」

 

 相手が爆発に怯んだ隙に勝負を決めようと、第2射のチャージが始まる。

 

「2枚抜きなんざさせるかよぉっ! サンドパン! お前のパワーを見せてやれっ! “アクアテール”っ!!」

 

「同じ手は食わないと言ったです! 発射っ!」

 

 ユキメノコから“シャドーボール”が放たれ、白いカーテンの向こうで爆発音が響く。

 

「やったですか……?」

 

 スノウは目を細めるが、やはりユキメノコのシルエットが薄く見えているのみ。

 しかし……。

 

「……っ!?」

 

 巨大な何かが近付いてくる。それもかなりの勢いで。

 その正体は……サンドパンだ。

 鉤状の爪を凍結した地面に突き刺し、バリバリと引き剥がして分厚い氷の盾に変えて突っ込んできたのだ。

 

「な……なんとぉぉーーーーっっ!! サンドパン、周囲の地面から氷を剥がし、それで身を守りながら突撃してきたぁぁーーーーっっ!! なんてパワー! なんてスピード! これが凍てつく氷の世界に適応したサンドパンかぁぁーーーーっっ!!」

 

「(あ、あんな物持ってあれだけのスピード……!? どういうパワーしてるんですか!?)」

 

 ユキメノコもサンドパンの気迫に圧されて立ち竦むが、すぐに我に返って“シャドーボール”を放ちながら後退する。

 だが、氷の盾は少しずつひび割れながらもエネルギー球に耐える。

 

「逃がすなあぁぁーーーーっっ!!」

 

 サンドパンは水流が音を立てて渦巻く尻尾を振りながら身体ごと回転すると、爪で刺していた氷の板を、《ゆきがくれ》で逃れようとするユキメノコ目掛けてフリスビーのように投げつけた。

 まだ距離があると思っていたユキメノコはあえなく氷が直撃し、その下敷きになってしまった。

 飛び上がったサンドパンは、ユキメノコを捕らえた氷の直上で身体を横向きにして回転。

 まるで奇術の切断ショーで使う回転ノコギリのように、動けないユキメノコへと襲いかかったのだ。

 

「……! 仕方無いです……“シャドーボール”を暴発させてください!」

 

 その指示を聞いたユキメノコは、それもやむ無しという表情を浮かべると、氷の下の両手にエネルギーを集束させる。

 直後、空中から迫っていたサンドパン、そしてユキメノコ自身も巻き込む巨大な爆発が起き、無数の氷の破片があちこちに飛び散った。

 

「ユキメノコ捨て身の自爆っっ!! 吹雪の中はエネルギーの奔流であちこち赤くなっております!! 審判、確認はもう少し待たないと危険ですよっ!」

 

 サーマルゴーグルでフィールドを確認するブルースが、吹雪の中へ入ろうとした審判を制止した。

 

「自爆たぁな……根性あるなんてもんじゃねぇぜ……」

 

 さしものガラムも、この展開には驚きを隠せないようだ。

 

「……ごめんなさい、ユキメノコさん……」

 

 一方のスノウはというと、目を伏せて沈痛な面持ちのままフィールドを見つめている。

 こおりタイプの使い手という事で冷たい部分があると見られがちな彼女ではあるが、感情を押し殺した冷徹な面こそあれ、決して冷血というわけではなく、むしろポケモン達への思いやりは人一倍だ。

 冷徹な指示にも躊躇い無くポケモンが従うのは、普段から強い信頼関係を築けているが故なのである。

 間も無くフィールドの状態が収まり、霰も弱まった事で審判が確認に向かった。

 

「…………ユキメノコ、サンドパン、共に戦闘不能っ!」

 

 審判の宣言で、またも観客席が沸き立つ。

 

「ユキメノコ決死の“シャドーボール”で両者撃沈っ!! これでガラム選手は最後の1体となり、対するスノウ選手はアマルルガ含め2体を残しております!」

 

「……っし、よくやったなサンドパン。……さぁて、数の上じゃぁ俺が不利か。……へっ! 元より俺も俺のポケモンも逆境こそが真骨頂っ! 周り全て敵のバトルロイヤルで鍛えた忍耐はここからが本領発揮だっ!! 俺達の闘志でお前の銀世界を解かし尽くしてやるぜぇぇっっ!!」

 

「ご苦労様です、ユキメノコさん。……ふふっ、あいにくですが、あなたの闘志が凍って永久凍土に沈むのが先なのです」

 

 2体目を戻した2人は、バチバチ音がしそうなくらいに闘志をぶつけ合い、次なるボールを手にする。

 

「さぁ、お前の力をあの嬢ちゃんに見せてやりなっ! キテルグマぁっ!!」

 

「ユキメノコさんの頑張りでタイミングばっちりです。もう1度お願いします、アマルルガさんっ!」

 

 ガラムが投げたボールからピンク色の物体が飛び出し、空中でカラダを丸めて回転しながら落下し、地鳴りと共に着地した。

 

 

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 ごうわんポケモン『キテルグマ』。

 その名の通りに熊の着ぐるみのような愛嬌のある姿をしている。

 ……が、その実恐ろしく筋力が発達しており、しかも力の加減が極めて苦手な上、親しい相手を抱き締める習性がある。

 これらの要素が合わさった結果、仲良くなった相手ほど絞め殺される可能性が増すという危険極まりないポケモンと化し、アローラ地方で最も危険なポケモンとして注意が呼びかけられている。

 特にガラムが繰り出したこの個体はよほど鍛えられているのか、その場にいるだけで周囲の空気を圧迫しているかのような雰囲気すら漂わせている。

 そのプレッシャーは向かいに立ったアマルルガも戦慄させ、氷の冷たさとはまったく異なる悪寒を感じさせている。

 

「(なかなか愛らしいポケモンですけど……なんでしょう、この感じ……視線だけでじりじりと焼かれているかのようです……)」

 

 それまで少なくとも表面上は平静を保っていたスノウの頬を冷や汗が伝う。

 

「……負けません。アマルルガさん、《ゆきふらし》をお願いします」

 

 圧に負けそうになったアマルルガが、自身を奮い立たせる事も兼ねて咆哮し、上空で霧散しそうになっていた黒雲を再度結合させて霰を降らせる。

 だが、その悪天候の中にあってもキテルグマは微動だにせず、じっとアマルルガを見つめ続けている。

 確かに一見可愛らしいのだが、今の状況ではその表情の読めない面構えが逆に不気味さを醸し出している。

 

「両者、準備は良いですね? ……では、バトル…………再開っ!」

 

「アマルルガさん、“ふぶき”です!」

 

 キテルグマを警戒するスノウは再び速攻に動く。

 アマルルガの鳴き声が木霊し、雪と霰と風のオーケストラがフィールドを覆う。

 

「構わねぇ、突っ込めキテルグマっ!! “ドレインパンチ”っ!」

 

 キテルグマは身体を温めるかのようにその場で2度3度と軽く跳ねて肩を回すと、見事なクラウチングポーズを取って走り出し、吹き荒ぶ“ふぶき”の中へと突っ込んでいった。

 

「キテルグマ、“ふぶき”も気にせず突撃したぁぁーーーーっっ!?」

 

「ト、トレーナーも無茶苦茶ならポケモンも無茶苦茶です……」

 

 アマルルガの図体では素早く移動する事はまず不可能。

 キテルグマは先ほどまでアマルルガがいた場所へ方向を一切変えずに走っていくと、案の定大きなシルエットを発見し、闘気を込めた右腕を引き、そして地面を蹴って一気に距離を詰めると同時にストレートを繰り出した。

 アマルルガは白いベールを引き裂いて現れたキテルグマに対応できず、その胴に強烈なパンチを受けてしまう。

 いわとこおりという、かくとうタイプが弱点となる2つのタイプを併せ持つアマルルガにこれは致命的なダメージだ。

 しかも“ドレインパンチ”は“ギガドレイン”同様、与えたダメージに応じて自身の体力を回復する技であり、アマルルガの受けた絶大なダメージはキテルグマの“ふぶき”によるダメージを帳消しにしてしまった。

 

「畳み掛けろっ! “ぶんまわす”っ!!」

 

 あまりのダメージにふらつくアマルルガの背後に回ったキテルグマは、その長い尻尾を掴むや力任せに持ち上げ、そして振り回す。

 

「アマルルガさんっ……!?」

 

「こ、これは凄いっ!! 体重225kgもの巨体が、まるでハンマー投げのように振り回されておりますっ!!」

 

 ガラム以外の全員が呆気に取られる中、キテルグマはアマルルガを引きずって走り回ってそのままジャンプすると、振り上げた武器を振り下ろすようにアマルルガを地面へ投げ飛ばした。

 身体が大きく体重が重いというのは、地上にいる時は安定性などの恩恵を受けられるが、このように空中から叩き付けられてしまうような場合には全身にかかる負荷が大きくなりがちだ。

 地響きと土煙を引き起こして落下したアマルルガへ、審判が駆け寄る。

 

「……アマルルガ、戦闘不能っ!」

 

「アマルルガ敗れたぁぁーーーーっっ!! ガラム選手、数の不利を一瞬にして覆し、1対1へ持ち込みましたっ!!」

 

 歓声響く中、スノウは優しい眼差しでアマルルガをボールに戻すと、一転して苦々しい表情でキテルグマの方を見つめる。

 

「よく頑張ってくれましたね、アマルルガさん。……やっぱりさっきの悪寒は気のせいなんかじゃなかったです。あのポケモン……強いです。……と、なると……あなたしかいませんね」

 

 そして、最後の1体の入ったボールを取り出し、願いを込めるように両手で握り……。

 

「……決めますよ。オニゴーリさんっ!」

 

 一切の笑みが消えた真剣な表情でフィールドへと投げ込んだ。

 込められた願いに応えるかのような咆哮を上げてボールから飛び出したのは、白い球体状の身体から黒いツノの生えた、鬼の頭のようなポケモン。

 

 

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 がんめんポケモン『オニゴーリ』だ。

 冷気を纏うその右ツノには虹色に輝く宝珠を括り付けている。

 

「最後はオニゴーリか! ……なるほど、すげぇ冷気だ。俺のキテルグマが寒さで身震いしてやがる」

 

「このオニゴーリさんは、さっきのユキメノコさんとほぼ同時に生まれた兄妹のようなもの……どうやら仇討ちをしたくていつもより荒々しくなってるようです」

 

 その言葉通り、オニゴーリはキテルグマを睨んで威嚇するように上下の歯をガチンガチンと噛み鳴らしている。

 

「へへっ……残念だが、そのオニゴーリもキテルグマには勝てねぇ! こいつの拳はどんな氷も岩も鉄も砕くんだぜぇっ!!」

 

「やれるものなら」

 

 言うなりスノウは左手で前髪を掻き上げて後ろへ流し、それまで長い髪で隠されていた左耳を露にする。

 そして、そこに光るイヤリング……正確にはその先端にぶら下がるオニゴーリの装着している物と似た宝珠……キーストーンを露出させた。

 

「こ、これはもしや……キーストーンっ! スノウ選手はオニゴーリをメガシンカさせるつもりなのかっ!? えーと……や、やはりスノウ選手のこれまでの公式戦績ではメガシンカは使用されていませんっ!! これが、彼女の公式記録に残る初めてのメガシンカですっ!! というか、お恥ずかしながらわたくし、オニゴーリのメガシンカを見るのは初めてで興奮気味でありますっっ!!」

 

「ふふふ……では、ご期待に応えて……行きましょうかオニゴーリさん」

 

 スノウは祈るように両手を合わせて目を閉じると、オニゴーリと呼吸を合わせ始めた。

 

「(メガシンカ……通常の進化を超えてさらなる力を与える、トレーナーとポケモンの絆が形になるシンカか。アローラじゃあまり見かけねぇが、かなりのパワーアップと聞く……。へっ、面白いじゃねぇか……!)」

 

「……ふふっ……私達の絆の色で、白銀の世界を染め上げましょう。そして、世界凍てつく氷の顎門(あぎと)が全てを砕くっ! オニゴーリさん! メガシンカっ!!」

 

 メガイヤリングから眩い光が放たれ、オニゴーリの全身を包み込んでその形状を変化させていく。

 身体はひと回り大型化し、下半分の凹凸が多く、そして大きくなる。

 額からは左右のそれに続く第3のツノが伸びて変化が緩やかになると、オニゴーリを覆っていた光が弾け、粒子となって立ち上るように消え去る。

 そして、新たな力を得た氷の魔人が人々の前に姿を現した。

 

 

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「……これがメガシンカ……! メガオニゴーリか! ますます冷気が強くなりやがったな!! だがっ! さっきも言った通りに逆境の時ほど俺達は強くなるんだぜぇぇっっ!!」

 

 顎に当たる部分が黒く染まり、大口を開けて周囲を凍てつかせるメガオニゴーリを前に、ガラムもキテルグマも全身に力を込めて闘志を燃やす。

 審判は闘気渦巻くフィールドへ息を飲んで近付くと、いよいよ最後の戦いの幕を開ける旗を振りかぶる。

 

「そ、それでは、バトル………………再開っっ!!」

 

「“ふぶき”ですっ!」

 

「“ドレインパンチ”っ!!」

 

 それはアマルルガ戦の再現。

 大きく開かれたオニゴーリの口から放たれた冷気と周囲の荒れ狂う風が混ざり合って発生した猛烈なブリザードがキテルグマを襲い、そのキテルグマが力任せに突破を図る。

 ……図っているのだが……。

 

「あぁっとぉっ!? アマルルガの時は見事に“ふぶき”を突き破って“ドレインパンチ”を打ち込んだキテルグマですが、メガシンカしたオニゴーリから放たれる“ふぶき”を越えられないっ! 先へ進めませんっ!! 足を前へ出すも押し戻されていますっ!!」

 

 アマルルガの“ふぶき”を突破し、その巨体を持ち上げて振り回す驚異の筋力を見せつけたキテルグマが、進む事すらままならない。

 

「(くっ……!? これがメガシンカの力ってわけかよ……!)……だったらこいつはどうだっ!! “アームハンマー”っ!!」

 

 降りしきる霰、雪。そしてアマルルガ、ユキメノコ、オニゴーリ全員が使用した“ふぶき”によって、フィールドには分厚い氷の層が出来上がっている。

 サンドパンの時にそうしたように、再びこれを利用する策を思いついたガラムはさっそく行動に移す。

 足幅を広く取って踏みとどまったキテルグマが両腕を持ち上げ、一気に地面へ振り下ろす。

 まるで“じしん”を使ったかのように激しく地面が震動するが、目的はそこではない。

 

「気合だっ! 根性だっっ!! キテルグマぁぁーーーーっっ!!」

 

 ポケモンのように咆哮するガラムの檄に応え、キテルグマは地面に突き刺さった腕に力を込める。

 直後、震動に加えて地鳴りが響き、オニゴーリも思わず周囲を確認する。

 ミシミシ……。

 バキバキ……。

 バリバリ……。

 軋む音、ヒビの入る音、割れる音。

 

「な…………ぁ……え…………!?」

 

 元々霰で視界は悪かったが、さらに視界が暗くなってきた。

 スノウは目を丸くして首の仰角を上げてその障害物を見上げる。

 オニゴーリの、スノウの眼前には、直径4m……いや、5mはあろうかという氷の壁がそびえ立っていたのだ。

 

「……は…………剥がしたぁぁーーーーっっ!? キテルグマ、ほぼフィールド全体の凍結した地面を腕力で抉り、引き剥がしましたぁぁーーーーっっ!! 氷の盾を作ったサンドパンの時ですら驚かされたのに、まったくもって常軌を逸したパワーですっっ!!」

 

 だが、剥がしただけで終わるわけがなく、氷の壁が音を立ててオニゴーリの方へと倒れてくる。

 さすがに対象の質量が大きすぎて、“ふぶき”では押し返す事ができない。

 

「ならば……! オニゴーリさん! “アイアンヘッド”ですっ!」

 

 メガシンカによって爆発的にパワーアップしたオニゴーリは、その頑強な氷の鎧を纏った球体状の身体自体が破壊力抜群の弾丸……いや、砲弾のようなものだ。

 オニゴーリは赤く染まった瞳でしっかり前を見据えると、頭部をさらに硬質化させ、ロケットのように勢いよく飛び出していった。

 砲弾の種類に徹甲弾という物がある。

 厚い装甲を撃ち貫くために使用される弾であり、硬い金属の円錐に高い運動エネルギーを加える事で貫徹力を追求した砲弾で、主に主力戦車の主砲弾として使用される。

 厚さ40cmにもなる氷壁を先端のツノで穿ち、それによって空いた穴を硬い本体で突き破っていくオニゴーリの姿は、この徹甲弾を彷彿とさせる。

 

「貫いたぁぁーーーーっっ!! 押し潰されそうなほどの氷の壁を、オニゴーリは驚異のパワーで突き破りましたぁぁーーーーっっ!! なんなんだこのパワーとパワーの応酬はっっ!?」

 

 ズズゥンと地鳴りを上げて倒れた氷によって、周囲には強い風圧が発生し、オニゴーリも一瞬だけ目を閉じてしまう。

 

「“ドレインパンチ”だっ!」

 

 その隙を逃さない……というよりその隙を作るのが目的だったガラム側が攻勢をかける。

 キテルグマの進行を阻むほどの“ふぶき”を止めるには、大質量による陽動が有効であると判断したが故だ。

 

「“かみくだく”ですっ!」

 

 スノウ側もこれに即応し、予備動作の少ない技での迎撃に出る。

 白い靄の中から右腕を引きながら突っ込んでくるキテルグマの方へ向き直ったオニゴーリの口に、禍々しいオーラで構成された牙が現れ、キテルグマへ攻撃を仕掛けた。

 キテルグマは咄嗟に左腕でそれを受け止め、鋭く邪悪な牙が食い込んだ。……はずだったのだが。

 ……なんというか……手応えというか歯応えというかが圧倒的に足りず、綿を噛んでいるかのようなもふっとした感触に、オニゴーリも目を丸くしてしまう。

 

「隙あり“ドレインパンチ”だぜぇっっ!!」

 

 左腕で受け止めたオニゴーリへ、右腕を振り抜いてその顔面に強烈な一撃を叩き込む。

 同時にオニゴーリから体力を奪いつつ、大きく後方へ飛び退いて態勢を整えるキテルグマ。

 

「(“かみくだく”がまったく効いていない……あのポケモンがかくとうタイプと考えても、単なるタイプ相性にしてはダメージの軽減量が大きすぎるです。……と、なると……)」

 

 ダメージらしいダメージの見えないキテルグマを見つめ、スノウが脳内で分析をしていると、それを察したガラムが腕を組んで話し始めた。

 

「不思議に思ってるみてぇだな嬢ちゃん。ダメージが異様に小さすぎると考えてるんだろう? ……ご明察。これがキテルグマの特性……《もふもふ》だっ!」

 

「もふ…………え?」

 

「……《もふもふ》だっっ!!」

 

 ガラムの強面な見た目のイメージからかけ離れた可愛らしい単語に理解が追いつかないのか、思わず聞き返してしまったスノウへ、律義に同じ台詞を繰り返すガラム。

 

「こいつはそのもっふもふした感触のおかげで、相手に直接触れる……いわゆる接触技のダメージが軽減されるって特性なのさっ!!」

 

 ガラムの言葉に合わせるように両手を顔の前で揃えて首を傾げるあざといポーズを決めるキテルグマだが、化け物じみた圧倒的なパワーを見た後なのでむしろ狂気しか感じない。

 

「(《もふもふ》……特性名こそ愛嬌がありますが、生半可な接触技が通用しないのは厄介です。ここは特殊技主体で攻めるのが上策ですけど……“ふぶき”を独力で突破できない事こそわかりましたが、あちらもそれは理解してるはずですし、易々とは使わせてくれないでしょうね)」

 

 このキテルグマ相手では力比べのような接近戦は自殺行為と早々に判断し、特殊技メインの戦術を構築していくスノウ。

 

「……オニゴーリさん、“めざめるパワー”です!」

 

 オニゴーリの身体が光り輝き、その光が6つの茶色いエネルギーの弾丸へと変化してオニゴーリの周囲を高速で回転し、咆哮と共にキテルグマへ発射された。

 

「(むっ……! やはり特殊技で攻めてきたか! しかもあの色……かくとうタイプかっ!!)」

 

 “めざめるパワー”は、使用するポケモンによってタイプが変化する一風変わった技である。

 しかも同じ種類のポケモンでも個体ごとに異なるのだ。

 これはポケモンが体内に蓄積している『気』とでも呼ぶべきエネルギーを攻撃に転用しているためだが、この技の存在によって思わぬ相手から思わぬ痛手を負わされる事も決して珍しくはなくなっている。

 そして、このオニゴーリが使ったのは、ガラムの読み通りにかくとうタイプの“めざめるパワー”。

 こおりタイプの弱点となるいわタイプ、はがねタイプに対して大きな効果が見込める、オニゴーリのタイプと噛み合ったタイプになっている。

 かくとうタイプにノーマルタイプを併せ持っているキテルグマにもかなりのダメージが期待できるし、当然これは接触技に該当しないので《もふもふ》に軽減される事は無い。

 

「(さすがにマトモに食らいたくはねぇな……)よし、キテルグマっ! その辺の氷に“ぶんまわす”だっ!!」

 

 一際大きな氷はさっきの陽動に使ってしまったが、それが倒れた際に砕けた大きめの破片は周辺に散乱している。

 キテルグマはその中の1つを両手で掴むと、勢いよく振り回して飛来するエネルギー弾を叩き落としていく。

 しかし、高い威力を誇るが素早さの低下する“アームハンマー”を使ったために少し動きが鈍く、6発中2発の迎撃に失敗して脇腹と右脚にヒットしてしまった。

 

「(ちぃっ……! やっぱさっきの“ドレインパンチ”で決めきれなかったのは痛ぇな。メガシンカで氷の外殻がさらに頑丈になってやがるせいか……! 霰もじわじわダメージと疲れを蓄積させてきてるし、さっさと決めねぇと危ねぇな……)」

 

 基本的には豪快なガラムではあるが、遠距離攻撃中心の戦術に切り替え、霰のスリップダメージと併せて消耗戦を仕掛けてきたスノウとオニゴーリには危機感を抱く。

 これを読んでいる方もすでにお気付きだろうが、キテルグマはその特性による接触技への優れた耐性と、現実離れした怪力を駆使した接近戦を得手とするポケモンで、相手に遠距離攻撃に徹されると分が悪いのである。

 ごうわんポケモンの分類が示す通りの戦いが得意な一方、てんで苦手な戦い方もあるのだ。

 

「(さっさと終わらせねぇとジリ貧だ……! ……しゃぁねぇ、こいつで決まるかはわからねぇ……いや、決めなきゃならねぇんだっ!!)……キテルグマっ! “じだんだ”だっ!」

 

 キテルグマは両腕を振り回しながら、その場で地面をダンダンと踏み鳴らして大地を揺らす。

 

「地面に“アイアンヘッド”です!」

 

 対するオニゴーリは軽く跳び跳ねると、硬化させた頭部を下にして落下し、衝突した反動で飛び上がって地響きを回避した。

 

「っし! 行くぞキテルグマっ!!」

 

 オニゴーリに隙ができたのを確認すると、菱形の窪みが彫られた銀色のリングを取り出して右の手首に装着する。

 

「おっと、ここでガラム選手、メガバングル…………いや、これはまさか……!? ゼ……Zリングっ!?」

 

「Zリング……!?」

 

 ブルースが驚きながら発した単語を、スノウも反復する。

 

「……癒しを司る気まぐれなる守り神カプ・テテフよ。遥かアローラより我に加護を与えたまえ」

 

 一方のガラムは、それまでのハイテンションが嘘であったかのように目を閉じてリングに手を翳すと、一節一節をゆっくり紡いで祈りを捧げる。

 

「アローラ地方に伝わる秘伝の奥義・Z技っっ!! トレーナーとポケモンの全力を、バトル中たった1度の攻撃に注いで放たれる必殺技ですっ!!」

 

 トレーナーとポケモンの絆を、別の姿への変化という形で具現化するメガシンカに対し、Z技は1発こっきりながらも絶大な火力の必殺技として発現するのである。

 

「……俺達の全身全霊、耐えられるか嬢ちゃんっ!!」

 

 Zリングに嵌め込まれた茶色のクリスタルが虹色の光を放ち、ガラムとキテルグマの動きがリンクする。

 ガラムが足幅を広く取ると、キテルグマも同じように動いて闘志を激しく燃焼させる。

 

「っ! 来る……! オニゴーリさん!」

 

 スノウの指示でオニゴーリがキテルグマから距離を取って警戒を強める。

 

「大地に迸る雄々しき『Z』よぉっ!! 俺達の闘志を拳に変えて、堅牢なる氷を砕けぇっっ!!」

 

 左右に広げた腕を前へと伸ばして交差させ。

 

「“全力(ぜぇぇぇんりょく)!」

 

 腰を落として獲物を見据え。

 

無双(むそぉぉぉぉ)!」

 

 腰だめにした右腕を弾丸のように勢いよく前へ突き出し。

 

(げきぃ)!」

 

 勢いを増しながら左の拳と交互に連続して打ち込む。離れた相手へ思念の拳を飛ばすかのように。

 

(れぇぇつ)!」

 

 すると、ガラムとキテルグマから溢れ出たオーラが巨大な拳を形作り。

 

(けぇぇぇぇん)!!”」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 20発以上の拳がオニゴーリ目掛けて撃ち出された。

 

「っっ! “ふぶき”ですっ!!」

 

 オニゴーリは怯む事無く浮遊し、自身の冷気で周辺の空気を急速冷却させると、降りしきる霰を巻き込んで凍える暴風を発生させ、拳の群れへと噴射して迎撃する。

 拳は4発5発とその強風に煽られて失速し、地面に落下して爆発を起こす。

 だが、その爆風によってわずかに“ふぶき”の勢いが弱まった合間に残りの拳が食い込んでいき、また同じ工程を繰り返す。

 

「(相殺しきれない……!?)」

 

 その数と威力は絶大で、見る間に“ふぶき”に穴が空けられていく。

 そして、ついにオニゴーリ側のコントロールが根負けし、一際大きな爆発で“ふぶき”が拡散してしまった。

 

「なっ……!?」

 

「ぶち抜けぇぇぇぇーーーーっっっっ!!!!」

 

 渾身の力で放たれた最後の1発が、うっすらと白い靄の残った空間に風穴を空けて飛来し、オニゴーリの顔面を直撃。そのままL字状に方向を変えると、オニゴーリを拘束したまま高度を上げていく。

 

「オニゴーリさんっっ!!」

 

「……どんな雨だろうが、雪だろうが、霰だろうが……必ず消し飛ばしてやるっ!! その先の太陽を掴むためによぉっっ!!」

 

 ガラムが空中へ向けて開いた右手を強く握り込むと同時に上空で大爆発が起き、その爆風が周囲の黒雲を吹き飛ばす。

 そして、遮られていた太陽が顔を覗かせると、眩しい陽射しが会場へと射し込み、その中をオニゴーリが虹色の衣を脱ぎ捨てながら落下してきた。

 地面に激突したオニゴーリの身体は3回ほどバウンドした後、力無くごろごろと転がり、そのまま動かなくなってしまった。

 

「……オ…………オニゴーリ戦闘不能っっ!! キテルグマの勝ちっ! よって勝者、ガラム選手っ!! 1回戦突破っ!!」

 

 オニゴーリの様子を確認した審判が立ち上がり、旗を掲げながら高らかに宣言すると、会場のボルテージが最高潮となる。

 

「ついに決まりましたぁっっ!! 1回戦最後の試合を制したのはガラム選手っっ!! 数多の強豪を凍結させてきたスノウ選手の霰戦術をも自慢のパワーで粉砕して見せましたぁぁっっ!! メガシンカとZ技の激しいバトルに、お恥ずかしながらわたくし、いまだ震えが止まりませんっっ!! 冷たくも熱いバトルをありがとうっ! ありがとうっっ!!」

 

 ブルースから始まり次第に大きくなる拍手の中、スノウはメガシンカの解けたオニゴーリへ歩み寄ると、その額をゆっくり優しく撫でる。

 

「……オニゴーリさん、お疲れ様でした。まさかオニゴーリさんの“ふぶき”が真正面から破られるなんて…………ふふっ、どうやら私に驕りがあったようです。……雪はいずれ解けるもの……太陽のようなあの人は天敵かもしれませんね、私達には。……でも……」

 

 スノウとオニゴーリが視線を向けた先では、ガラムがキテルグマとハイタッチして勝利を喜び合っていた。

 

「雪は解けるしかありませんが、氷は条件さえ揃えば厚みを増して堅固になっていく…………そんな決して砕けない氷のように、これからも精進をしていくです。オニゴーリさん達と一緒に」

 

 いまだ闘志冷めやらぬガラム達から視線を外したスノウは、左手を額に翳して目を細め、空を見上げる。

 

「……あの眩しい陽射しにも負けないような、氷山のように硬く、強いトレーナーに、きっとなるです……!」

 

 何度太陽の輝きに解かされそうになろうとも、その都度より強くなって立ち上がって見せる。

 スノウのそんな決意と共に、この日最後の戦いはその幕を下ろしたのだった。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

夏バテと夏風邪のダブルパンチを食らったところで軽い鬱状態になり、何もやる気の起きない期間が続きましたが、だいぶ落ち着きましたので、更新を再開すると同時に皆様の作品も見て回らせていただきます!
本っ当に個人的な理由でお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした!
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