蒼天のキズナ   作:劉翼

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準決勝スタートの第98話です!


第98話:侵蝕者の罠

 スノウとガラムの激戦は、ガラムの繰り出したリージョンフォームのサンドパンによってさらに白熱していく。

 《ゆきかき》を駆使した高速戦闘でユキメノコを押していくサンドパンであったが、“シャドーボール”を意図的に暴発させたユキメノコによって相討ちに持ち込まれてしまった。

 ガラムが3番手として繰り出したキテルグマは、スノウが再度出したアマルルガをその圧倒的なパワーで真正面から瞬殺し、彼女の切り札であるオニゴーリを引きずり出す。

 メガシンカしたオニゴーリの“ふぶき”はキテルグマでも容易には突破できず、ガラムはキテルグマのパワーを活かした奇策で隙を作り、起死回生の一手としてアローラに伝わるZ技を発動する。

 バトル中1度限りのチャンスながらも絶大なパワーを発揮するZ技の前にメガオニゴーリは惜しくも破れ去ってしまう。

 こうして決勝トーナメント1回戦は全ての試合が終了し、準決勝へ進む4人のトレーナーが決定したのだった。

 

 

 

「えー、選手並びに観客の皆様。大変お疲れ様でした! ただいまの試合を以て、決勝トーナメント1回戦は終了となりますっ! 明日は激戦を制した強者達による2回戦……準決勝が行われます!」

 

 ブルースも観客もまだまだ激闘観戦の興奮が治まらず、宣言も客席のガヤもかなり声量がある。

 

「では、1回戦を勝ち抜いた選手の確認も兼ね、明日の試合の組み合わせを発表いたします! 準決勝第1試合! スコーピオ選手対ツバキ選手! 圧倒的な実力を誇る謎の仮面トレーナーと、無限の可能性を秘めた新人トレーナーの試合となります!!」

 

 スクリーンにスコーピオとツバキの姿が映し出されただけで客席からは歓声が上がる。

 テンションの上がった人間というのは、ちょっとした事でも騒いでしまうものらしい。

 

「続いて第2試合! スカーレット選手対ガラム選手! 遥かアローラよりやって来た熱き闘士が『鬼』へと挑戦状を叩き付けるぅぅーーーーっっ!!」

 

 観客はバトルの余韻に浸る間も無く、明日の試合への期待で興奮に興奮を重ねられ、血圧が大変な事になっている。

 

「第1試合開始は明日の昼12時きっかり! 選手も観客の皆様も明日に備えて今日はごゆっくりお休みください! 実況は熱さだけなら一級品のブルースでお送りしました!」

 

 

 

「ツバキ! お疲れ様、だったな!」

 

 控え室から戻ってきたツバキにイソラが抱き付き、煙が出そうな勢いで頭を撫でまくる。

 

「お姉ちゃん熱い! 冗談じゃなくて本当に熱い!」

 

 慌ててイソラから離れて帽子を被り直し、守るように頭を両手でカバーするツバキ。

 

「あはは~、でも良いバトルだったよツバキ~。相手が空中にいるのに“じしん”を指示した時はどうするのかと思ったよ~」

 

「ありがとうございます、ボックさん。あれは前にゲントさんとバトルした時の事を思い出してもしかしたら……と思って」

 

 ボックからも称賛を受け、強張っていたツバキの表情に笑顔が戻る。

 

「ゲントくんか……グレンジムに来た時も思ったが、あれもなかなか面白いトレーナーだ。クチバジムのジムトレーナーだったらしいが、戦術の中に確かにマチスさんの影響らしい部分もあり、それでいてオリジナリティもあるバトルスタイルだった。ツバキといい、ボックくんといい、ああいう若者がいると嬉しくなるな!」

 

 シャコバはしみじみといった感じに腕を組んで頷いている。

 

「あいつツバキを狙ってますよ」

 

「うむ! どうもハナから信用できんと思ってたんだ!! そう易々と娘は渡さん!!」

 

 が、イソラの耳打ちひとつで華麗な手のひら返し。これが父親の業である。

 

「あらあらまぁまぁ……」

 

 ミミナはミミナで表情こそ笑顔だが、纏う雰囲気が一変している。

 どうも年頃の子を持つ親というのはかなり神経質になるようだ。

 

「まぁ、それはさておき明日はあのスコーピオとかいうのとバトルか。1回戦でのあの戦いぶりを見る限り、ゲントを遥かに上回る実力だ。……気を付けろよ」

 

「う、うん。わたしも控え室のモニターで見てたけどすごかった……。でも、気持ちで負けちゃダメだよね! ファイトっ! オー!!」

 

 ツバキは両手を握り込んで気合いを入れ、マイナスに傾きそうになる心に自ら喝を入れた。

 

「その意気だ。あの実況者も言っていたが、今日はゆっくり休む事だな。メンタルも体調も万全の態勢で挑もう」

 

「うんっ!」

 

 

 

 翌日、早起きしたツバキは1人パソコンを操作していた。

 

「(あのスコーピオさんて人はどくタイプ使い……毒を浴びないミスティはそのまま手持ちで、ポポくんもそのまま……残りの枠は……)」

 

 対どくタイプを想定したパーティと戦術を構築し、今の自分にできる最高の布陣で挑まねばならない。

 しかし、それでもまだ明確な勝利のビジョンは見えてこない。

 それほどまでに昨日見たスコーピオのバトルは凄まじかったのだ。

 どくに大ダメージを与えられるエスパータイプ、どく技を完全無効にするはがねタイプを使ったマユリですら、スコーピオの手持ちを1体も倒せずに敗退した。

 仮に有利なタイプばかりを揃えたとしても、相手はわずかな隙間から侵入し、侵蝕してくるだろう。

 

「……ダメダメっ! 気持ちで負けないっ!」

 

 ツバキは不安で押し潰されそうな心を勇気づけるように頭を振って頬を張る。

 

「(勝てるかどうか考えるんじゃない。勝つために戦うんだから!)」

 

 それから2時間かけて手持ちと持ち物の調整を行い、遅めの朝食を済ませたツバキは、精神統一を兼ねた小休止の後に会場へと向かう。

 11時に控え室に入り、先にいた3人のトレーナー達と視線を交わしてから席に座って合図を待つ。

 

「(勝ち抜いてきた。ツバキ。やっぱり侮れない)」

 

「(あんな嬢ちゃんが勝ち上がってくるとはな。やっぱポケモンバトルじゃ見た目なんざ当てになんねぇな)」

 

「(…………)」

 

 最後に入ってきたツバキに対し、他の3人も三者三様の感想を抱きつつ待機する。

 そして、控え室のスピーカーからアナウンスが流れ、立ち上がったツバキとスコーピオが別々の扉へ歩き出す。

 

「ツバキ」

 

 と、近くを横切る時にスカーレットがツバキの手を握ってきた。

 

「ひゃっ……!? ス、スカーレットさん……?」

 

「…………リラックス。大丈夫。ツバキなら」

 

 ほぐすような優しい力加減で手を握るスカーレットの言葉を聞いて、ツバキは自分がガチガチに緊張していた事に気付いた。

 周りの3人がいかにも強者という雰囲気を纏っている中に、自分1人だけ新米が混じっているのだから緊張するのも当たり前なのだが、それでは最高のコンディションでのバトルなど望めない。

 真剣試合で適度な緊張は必要だが、そちらに傾きすぎては逆効果なのだ。

 

「……ありがとうございます! いってきます!」

 

「……ん」

 

 互いに笑みを交わし、ツバキは扉の先にある戦いの舞台へと向かった。

 

 

 

「さぁ皆様! お待たせいたしましたぁぁーーーーっっ!! 只今よりトージョウリーグ決勝トーナメント、準決勝第1試合を始めまぁぁぁぁぁぁすっっ!! 実況は引き続き、わたくしブルースがお伝えいたしまぁぁーーーーすっっ!!」

 

 相変わらずやかましいブルースの声と共に、ついに準決勝が始まった。

 予選、そして1回戦を勝ち上がった強豪達のバトルという事で、会場の盛り上がりは前日以上だ。

 

「それでは、整備に整備を重ねたフィールドで本日最初のバトルを見せてくれる2人の選手に……登場していただきましょぉぉーーーーうっ!! ゲート・オープンっ!」

 

 分厚い鉄の扉が軋み、重々しく左右へ開かれると、2つの人影が暗闇から踏み出してくる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「謎が謎呼ぶ仮面の凄腕トレーナー・スコーピオ選手っ! 1回戦では相性の不利を容易く覆し、1体の損失も無く準決勝へ駒を進めましたっ! この試合ではどのような戦術を披露してくれるのでしょうかっ!?」

 

 ツバキよりも歩幅の大きなスコーピオは、いち早く位置についてツバキを見つめている。

 

「対するはっ! ジム巡り初挑戦ながらもリーグ参加、予選突破を成し遂げ、ゲント選手を破って1回戦をも勝ち抜いた新星・ツバキ選手っ! 彼女は1回戦でも見せてくれたような、意外性に富んだ奇抜な戦術を持ち味とするトレーナー! これは今試合にも期待が持てますっ!」

 

 ツバキが位置につくのを待ち、旗を手にした審判が2人へ呼びかける。

 

「準決勝は使用ポケモン4体。バトル中の交代はそれぞれ3回まで可能です。それでは両者、最初のポケモンを」

 

 2人は腰のベルトに並んだ中から選んだモンスターボールを同時に構え、フィールドへと投げ込んだ。

 

「ミスティお願いっ!」

 

「…………」

 

 赤い大きな花びらが、勢いよく落下し、そして着地する。

 それを見下ろすように空中に現れたのは、紫色をした大小の風船が連なったようなポケモン。

 どくガスポケモン『マタドガス』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ツバキ選手の先鋒は1回戦に続いてラフレシア! それを迎え撃つスコーピオ選手の先鋒はマタドガス! どくタイプ同士のスタートとなり、開幕から波乱の予感ですっ!」

 

「(やっぱりどくタイプが出てきた……!)」

 

 まずは相手がどくタイプ使いという予想が的中。毒状態を無効にするミスティを出したのは正解だった。

 だが、それだけではマユリの二の舞。

 タイプ相性だけでなく、戦術でも相手の先を行かなければ到底勝ち目など無いであろう。

 

 

 

「ラフレシアか~……毒状態にはならないけど~……」

 

「あぁ。ミスティ……ラフレシアの覚える攻撃技は、そのほとんどがどくタイプには効果が薄い。対してマタドガスは見かけによらず多才で、様々なタイプの技を覚えられる。……と、なればツバキの戦術は恐らく……」

 

 ボックに相槌を打ちながら、現状は決してツバキ有利とは限らないと語るイソラは、その先にあるツバキの閃きに期待を寄せつつ静かに見守る事にした。

 

 

 

「では、準決勝第1試合。先鋒戦、マタドガス対ラフレシア。バトル………………開始っ!!」

 

「ミスティ、“エナジーボール”っ!」

 

 花の上部を相手に向け、5枚の花びらからめしべへエネルギーが集められていき、緑色の大きなエネルギー球が生成され、一瞬のスパークの後に発射された。

 

「ツバキ選手の先制!」

 

「“かえんほうしゃ”」

 

 先手を取られてもスコーピオに焦りは皆無。

 連なった左右のドガースが交互に膨らんでは萎みを繰り返し、大きい方の口から灼熱の炎が吹き出された。

 くさタイプ技の“エナジーボール”はほのお技と相性が悪く、一瞬にして打ち消されてしまった。

 

「(取った!)ミスティっ!」

 

 だが、そこまではツバキの狙い通り。

 “エナジーボール”は相手にヒットした時、稀に特殊攻撃に対する抵抗力を弱体化させる事がある。

 マタドガスはどくタイプなのでダメージこそ小さいが、その後のバトルに響く能力低下は相手としても無視はできないはずなので、きっと迎撃するなり回避するなりしてくるだろうと踏んでの攻撃だ。

 フィールドを舞う爆風と火の粉に紛れて駆けたミスティが、めしべの中で睡魔を誘発する粉……“ねむりごな”を生成しながらマタドガスへ迫る。

 

「今っ! “ねむ”……」

 

「“ちょうはつ”」

 

 突如としてフィールドにガチンガチンという音が響き渡る。

 

「っ!?」

 

 何事かとツバキが視線を巡らせると、マタドガスが2つの口を交互に噛み鳴らし、時折歯軋りも混ぜ合わせて不快な音を鳴り響かせていた。

 すると、ミスティが突然足を止め、怒りを露にしてマタドガスを睨む。

 当然“ねむりごな”の生成も停止してしまっている。

 

「おぁぁーーーーっっとぉっ!! ラフレシア、マタドガスに“ちょうはつ”され、攻撃技しか使えないっ!」

 

「くっ……!」

 

 

 

「やられたな……やはりどくタイプを前にくさタイプを出し続けていたのだから目的もバレるか……。マタドガスはどちらかと言えば耐久タイプのポケモンで、状態異常や能力の低下をこそ警戒する。それらを防ぐために“ちょうはつ”を覚えていてもおかしくはない」

 

「出鼻を挫かれた感じか~……どうするんだろツバキ……」

 

「確かに最初の駆け引きはあちらに軍配が上がったね。……だけど、あの子はバトルの中でその場にある全てを使って二の矢三の矢を作り続ける。まだまだ倒れるような子じゃないさ」

 

 先の展開にも差し障りあるのではと危惧するボックだが、シャコバは我が子への信頼を込めた言葉と視線をツバキへ向け、ミミナとイソラ親子も肯定するようにじっとツバキを見守る。

 

「……頑張れ、ツバキ……!」

 

 それを見たボックも、両の拳を握ってライバルへと静かにエールを送った。

 

 

 

「さぁ! 補助技を封じられたラフレシアに対し、容赦の無い“かえんほうしゃ”の連続砲火が降りかかるっ! 紙一重でかわし続けていますが、頭の花びらが重いのか動きが鈍っているぞぉーーっ!」

 

 マタドガスの左右の口から噴射される炎が、ミスティの周囲を焼き払う。

 両方の口から同時に吐けば威力も増しそうではあるが、どうやら短い間隔で交互に吹き出す事で連射能力を重視しているらしく、マシンガンのように炎の塊を吐き続けている。

 

「(……これ、ミスティがかわしてるように見えるけど……違う。かわせるギリギリのところに攻撃してきてるんだ……!)」

 

 よけなければその大きな花びらに当たるが、わずかに身体を動かせばかわせるという絶妙なポイントへ立て続けに攻撃してきている。

 苛烈に見える連射も、散布界が広いために大部分はどうやっても当たらない場所に着弾しているのがツバキの位置からはわかる。

 

「……“ムーンフォース”で全部吹き飛ばして!」

 

 幸い炎の弾丸は1発1発の火力は大した事がないので、ミスティの“ムーンフォース”ならば弾幕を打ち消した上でマタドガス本体までのダメージが期待できる。

 “ムーンフォース”は稀に相手の特殊攻撃力を低下させる追加効果が発動するので、これが決まれば後々まで響いてくるだろう。

 仮に連射をやめて正面火力を増強されても、弾幕が無くなる分だけ回避は楽になる。

 と、なると、ここは多少の被弾を覚悟の上で攻めに転じるのが得策とツバキは考える。

 それに、弾幕の中を正面から突進していけば相手の意表を突けるかもしれない。

 発光した花びらから放出されたピンク色のエネルギーが空中で球体を形作る。

 ……しかし。

 

「“どくびし”」

 

「……!?」

 

 膨張したマタドガスの各所に空いた穴から毒液が噴出し、それらは飛び散りながら形を変え、さながら尖ったテトラポットとでも言うべき形状となってフィールド全体に散らばった。

 

「あぁっとぉ! “どくびし”は交代で出てきたポケモンを毒状態にしてしまう設置技! ツバキ選手、“ムーンフォース”の準備中の隙を突かれて厄介な技を使われてしまったぁっ!!」

 

「(やられたっ……! 威力を下げた“かえんほうしゃ”は、こっちにそれを払うための大技を使わせるのが目的だったんだ! そしてその隙に“どくびし”を……!)……発射っ!」

 

 それでも、わざわざチャージした技を使わないわけにはいかない。

 集束したエネルギーが“どくびし”を撒き終えたマタドガス目掛けて放射され、その身体を飲み込んだ。

 ……だが、やはりフェアリータイプの技はどくタイプには効果が今一つであり、元々耐久力に優れるポケモンである事もあってピンピンしている。

 追加効果が出たかどうかはまだ不明だが、少なくともツバキの望んだ結果になったとは言い難い。

 と、マタドガスはおもむろに身体に無数に空いた穴の1つから黒い粘液を吐き出し、それを食べてしまった。

 それは1回戦でドククラゲが持っていた黒いヘドロ。どくタイプの体力を持続的に回復させる道具だ。

 

「くっ……!」

 

 ここまでが全て相手の掌の上だった。

 地に足をつけるポケモンを、一部を除き毒で蝕む“どくびし”。まさにどくタイプ使いにとって最高のフィールドだ。

 しかも、黒いヘドロによる回復までを見越し、“ムーンフォース”を食らう事も厭わず“どくびし”を使用したように見える。

 

「(……遊ぶみたいにわざと隙を見せながら、相手の抵抗を逆手に取ってじわじわ追い詰めてくこの戦い方…………わたし、知ってる……!)」

 

 巻き戻しをかけたかのようにツバキの頭の中で記憶が巡り、1人の女性の姿が浮かび上がる。

 

「(っ…………とにかく今はこの状況をどうにかしなきゃ……! たしか……“どくびし”はどくタイプのポケモンを場に出せば消せるはず。ミスティを戻して、後で改めて交代すれば……)」

 

 これなら“どくびし”は消せるが、問題は交代先のポケモンだ。

 ひこうタイプのポポは影響を受けないが、手持ちの中でも切り札であるポポを早めに出して消耗させてしまうのは避けたい。

 だが、他のポケモンは誰を出しても“どくびし”で毒に侵される。

 はがねタイプでもいれば良かったのだが、今さらそんな事を嘆いても仕方無い。

 

「(……ちょっともったいないけど……そんな事言ってられない! 今はこれが1番良い手のはず!)戻ってミスティ!」

 

 ツバキはミスティのボールを取り出し、赤い回収用光線を放って収納すると、次のポケモンのボールと持ち変えた。

 

「ツバキ選手、早くも交代権を使用しました! やはりラフレシアでは相性が悪かったか!? これでこの試合での交代は残り2回となりました!」

 

「お願いっ! ナオっ!」

 

 投擲されたボールから飛び出し、片膝立ちで着地したナオに“どくびし”が刺さり、その身体に毒が回り始めた。

 が、ナオはすぐさま緑色の木の実を取り出して両手で頬張る。

 あらゆる状態異常を取り除くラムの実によって毒が中和されたナオが立ち上がり、精神を集中してサイコパワーで浮かび上がった。

 

「(もっとバトルが進んでから使いたかったんだけど、背に腹はかえられないからね……!)」

 

 ツバキとしてはどくタイプ相手に大ダメージを狙えるナオに、毒対策のラムの実を持たせて優位に立とうとしていたのだが、まさかの序盤も序盤でそれを消費する事になってしまった。

 “ねむりごな”で相手の先鋒を眠らせて攻撃機会を増やそうという思惑も潰され、かねてより用意していた作戦がことごとく狂わされている。

 

「(苦戦するとは思ってたけど、こんな序盤からなんて……!)」

 

 どくタイプ使いという事で毒状態を警戒していたが、やはりそれだけに頼っている相手ではない。

 ポケモンはよく鍛えられてトレーナーへの信頼も厚く、そのトレーナーも豊富な知識と優れた戦術眼で、刻々と変化する水の流れのように柔軟に戦い方を変えてくる。

 

「ツバキ選手の2体目はニャオニクス! “どくびし”を食らいましたが、ラムの実で即座に回復し、万全の戦闘態勢です!」

 

 万全どころかスタート前から先手を打たれているのだが、まぁ、ブルースに文句を言っても仕方無い。

 ともあれ、こうなったからにはせめてナオを温存した上でマタドガスを撃破くらいはしないと、この後が厳しいだろう。

 

「バトル……再開っ!」

 

 その審判の合図と共にツバキが動く。

 

「“サイコショック”!」

 

 ナオの両手にサイコエネルギーを固体化したチャクラムが出現し、左から順にマタドガスへ投げつける。

 マタドガスの技の内判明しているのは、“かえんほうしゃ”と“どくびし”、そして“ちょうはつ”の3つ。

 残りはどくタイプの攻撃技を持っているであろうと予想はできるが、とにかく少しでも相手の情報を得るため、他に何を覚えているのか探りを入れたいのだ。

 左右から弧を描いて飛ぶこの“サイコショック”は、予選でもカルミアのゼブライカの迎撃を掻い潜ってダメージを与えた技で、その軌道故に回避が難しい。

 “ムーンフォース”と異なり、どくタイプに効果の大きいエスパー技なのでノーガードで受け止める事は無いはずであり、挟み込むような配置故“かえんほうしゃ”での迎撃は困難……つまり、広範囲に攻撃する技を使わざるを得ない。

 

「(どんな技を使う……?)」

 

 ツバキは半ば期待のようなものも込めて相手の動きに注視する。

 

「“ヘドロばくだん”」

 

 マタドガスが身体を上に向け、真っ黒く大きなヘドロの塊を空中へ吐き出した。

 ヘドロは空中で爆散し、マタドガスの周りに滝のように降り注いでその身体をコーティングして黒く染め上げる。

 飛来した“サイコショック”は、ヘドロのカーテンとヘドロの鎧で二重に勢いを殺され、その先の本体には大したダメージを与えられずに消滅してしまった。

 

「(ど、どく技でほぼ完全にエスパー技を打ち消しちゃった……!)」

 

「“かえんほうしゃ”」

 

 驚いている合間に反撃が来る。

 今度は“サイコショック”の意趣返しのように、左右の口からV字状に放った炎の幅を徐々に狭めてきている。

 今なら真正面ががら空きだが、恐らくはそれもわざと作った隙で、そこへ突っ込んだ瞬間、より強力な技が撃たれる事だろう。

 炎がまだ残っている時に正面からそんな技を撃たれれば、逃げ場は上しか無く、垂直に上昇するその隙こそ真の狙い目。

 それでいてそれ以前のどこで判断をしくじっても結局はアウトという、十重二十重に敷かれたトラップだ。

 

「(……常識に囚われてたらダメっ! 常識でどうにかできる人じゃない! だからここは……!)ナオっ! 炎に“サイコショック”!」

 

 ナオは一瞬ツバキの方を見たが、すぐにその意図を読んで不敵に笑うと、左右から迫る炎へサイコエネルギーの塊を投げ、同時に自身もマタドガスへ接近していく。

 

「(“サイコショック”で炎を抑えて逃げ道を確保しつつ隙のある正面からってわけね。……悪くはないけど甘いのよ……!)“ヘドロばくだん”」

 

 炎の噴射が止まり、瞬時に“ヘドロばくだん”の発射態勢へ移行するマタドガス。

 だが、発射元が無くなったからと炎がいきなり消えるわけではないし、“ヘドロばくだん”は爆散して毒液を撒き散らす。

 この距離とナオの移動速度から計算しても回避は困難というか不可能である。

 

「っ! 今だよナオっ!」

 

 だが、ツバキの合図でその計算は狂わされた。

 炎に押し負けそうになっていた“サイコショック”のチャクラムが直角に軌道を変え、2つともナオの手元へ戻って一体したのだ。

 

「っっ!!?」

 

 初めて驚愕したような仕草を見せたスコーピオを置き去りにして、状況はさらに推移する。

 1つに纏まったサイコエネルギーは、リング状から長大な剣のような形に変化して唸りを上げる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 これは予選で戦ったカルミアがナオのサイコパワーコントロールの巧みさに驚いていた事から、“サイコショック”の軌道や形状、エネルギー量をかなり自由に操れるのではと考えた攻撃方法だ。

 形状変化に伴って著しく広がったリーチによって、爆発前の“ヘドロばくだん”を真っ二つに両断。さらにその間をすり抜けたナオが再び剣を上段に構え、マタドガスの頭上から振り下ろした。

 

「っ……! “ヘドロばくだん”!」

 

 目を見開いたマタドガスが、咆哮と共に特大のヘドロを放出した。

 “サイコショック”がマタドガスにヒットした瞬間、そのナオにも爆弾がヒット。両手に握る剣を形作っていたサイコエネルギーが弾けて霧散していく。

 

「マ……マタドガス、戦闘不能っ! ニャオニクスの勝ちっ!」

 

  力無く転がったマタドガスの様子を確かめていた審判の宣言と共に歓声が上がる。

 

「急ぅぅぅぅ所に当たったぁぁーーーーっっ!! どうやらドガース同士を繋ぐ結合部にクリーンヒットしたようですっっ!!」

 

 ブルースの暑苦しい叫びの中、ナオがフワフワとツバキの元へと戻ってきた。

 

「やったねナオ! 先に1体倒せたよ! ……でも、やっぱり……あの人……」

 

 完全に想定外の攻勢を受けながらも、即座に反撃を指示し、ただでは倒れない選択をした。

 その状況把握能力、そして決断力はやはり只者ではない。

 ツバキは確信し、向かいに立つ人物に対し、ある人物の名を告げた。

 

「……ベラさん……ですよね」

 

 マタドガスをボールへ戻したスコーピオは、ツバキのその言葉を聞くと軽く笑い声を漏らした。

 

「……ふふっ……やっぱり、1度正面から戦った相手にはバレるわねぇ……」

 

 スコーピオが身体を覆っていたマントの留め具を外してその場に脱ぎ捨て、女性的なボディラインを露にしながら、右手を仮面の縁にかけて持ち上げる。

 そして、その素顔が明らかとなるや、観客席でどよめきが起こる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……お久しぶり、とでも言うべきかしら? それとも『ベラ』としては……はじめまして、かしらね?」

 

 仮面の下から現れたのは、これまでツバキと2度に渡りバトルを行ってきた、ロケット団幹部『三凶星』の1人・ウィルゴこと、かつて『猛毒暴君(ベノム・タイラント)』の異名を取った元プロトレーナーのベラだったのだ。

 

「……どうして……」

 

 なぜここに、というツバキの呟きに、ベラの表情から笑みが消える。

 

「……あれからずっとおかしいのよ。何をしても心がざわついて落ち着かない、満足できない。胸の内側から引っ掻き回されてるような感じが止まらない。……今までバトルでこんな感覚になった事は無かったわ」

 

 胸元に添えた右手を握り締め、ツバキをキッと睨む。

 

「……アンタと戦った後からよ。そして、このバトルの中でもずっと胸が騒ぎ続けてる。……だから、アンタを叩き潰せば治るはず……消えるはずなのよ……! そのためにアタシは今ここにいんのよっ!!」

 

 湧き上がる未知の感覚への不安を掻き消すかのように、ベラは声を荒げ、伸ばした右手でツバキを指差す。

 

「続けるわよ……アタシの全力でアンタを完膚無きまでに叩きのめしてやるっ!!」

 

 ……歪みの中で研がれ続けた暴君の毒牙が、三度ツバキを襲おうとしていた……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

というわけでスコーピオの正体はウィルゴことベラでした!
…まぁ、かなりヒント散りばめてたっつーか隠す気あんのかって感じでしたが。

今の仕事の状況だと、2週間に1話更新くらいになっちゃいますかねぇ…もちっと短縮したいんですが…。



追記:マタドガスが5つ技を覚えていたので修正しました。

追記その2:“ちょうはつ”の存在を秒で忘れるアホな描写になってたとこを修正しました。ご指摘ありがとうございました!
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