超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 番外編 作:ホタチ丸
今回から3話、mk2編の完結記念としてノワルンを連載していきます。
まずは導入部分からどうぞ。
それでは、 騙されたヒロイン はじまります
騙されたヒロイン?
「ふんふふんふふーん」
その日、ラステイションの女神であるノワールはこれ以上ないくらいに機嫌がよかった。
普段なら女神として毅然と態度でいようとする気持ちと羞恥心が邪魔をして、絶対にしないであろう鼻歌交じりにスキップをしながら目的地に向かっていた。
(ついに、ついにこの時が来たのね!)
目的地である建物の影が見えてくると、ノワールは緩んでいた頬をさらに緩ませてしまう。
にやつきながらノワールは気持ちを落ち着かせようと、一旦歩くことをやめて立ち止まり、深く息を吸い始めた。
(夢じゃないのよね? ここまで来て夢落ちとか、本当になしよね?)
胸に手を当てて自分の心臓の鼓動が感じながら、ノワールは今が夢ではないことを何度も頭の中で確認する。
ドクン、ドクンと脈打つ心臓がいつもより速く感じられる。
落ち着こうと深呼吸をしても、興奮している気持ちを抑えられそうにないと思うと、ノワールはもう表情筋を引き締めることができなくなっていた。
「あーもー、こんな顔じゃ、絶対にネプテューヌ達に馬鹿にされるじゃない。平常心、平常心よ、私」
軽く頬を叩きながら顔を引き締めようとするが、ノワールの顔は元に戻らない。
頬をぐりぐりとほぐすようにしても、にやける顔を元に戻すことができなかった。
(でも、少しくらい浮かれていてもいいわよね? ……だって、今から……)
いくらやっても頬がだらしなく緩むことを止められないと悟ったノワールは、顔を上げて目的地である建物をキラキラとした眼差しで見つめる。
(アニメのアテレコを……声優デビューを果たすのよ!!)
* * *
……発端は、ノワールがいつもと同じように女神の仕事をこなしていた時であった。
ギルドに送る書類、教会内での決済、ラステイションの各地から寄せられた陳情が載せられた請願書、個人的な趣味のリサーチなどに、ノワールは忙殺されていた。
そんな風にノワールが1人執務室で仕事をしていると、前触れもなくドアが3回ノックされ、返事をする間もなく教祖であるケイが入室してきた。
「やあ、失礼するよ」
「……普通ノックをしたのなら、返事を返すまで待つべきじゃないかしら?」
「それについては申し訳なく思うけど、こちらの案件も何分急を要するものでね」
ノワールはケイの言葉を聞いて、ピクッと眉を動かして聞く体勢に移行した。
その際、仕事の書類と共に捌いていた個人的な趣味の情報は素早くケイから見えない位置へと退避させることを忘れない。
「それで、その案件と言う奴はいったい何なのかしら?」
「……それは、その……非常に言い辛いんだけど……」
言い辛そうに眉間にしわを寄せて視線をそらすケイを、ノワールは不審に思う。
女神としての仕事のことならば、ケイが言い淀む理由をノワールは見つけられない。
かと言って、ノワール個人に頼みごとをする時にもケイはこんな態度を取ったことがない。
ノワールの自分を見る目が怪しくなったのを感じたのか、ケイは決意したように顔を引き締めて口を開く。
「君に、いや君達女神にアニメの声優をしてもらえないかという話が来ているんだ?」
「……へ? 声、優?」
真面目な顔をして発せられたケイの言葉に、ノワールは目を丸くしてしまう。
その仕事の内容があまりにも予想外だったからだ。
「夢人君の【それゆけ! ゆうしゃくん】やワンダーの【鋼鉄巨人ハードブレイカー】のように、女神を題材とした番組を作りたいと先方、テレビ局のお偉方さん達からの依頼が来ているんだ。僕個人の意見で言えば、今回の件は受けた方がシェアの回復にもつながるし、十分利益があると思うのだけど……」
「当然受けるわよ!!」
ケイの説明を遮り、ノワールは執務用の机を強く両手で叩いて立ち上がった。
机に乗せられていた書類の山が崩れ、床に散乱したことなど、ノワールの視界には入っていない。
今ノワールの頭の中にあることは、ケイが持ってきた仕事の内容だけであった。
(声優……私がアニメの中の人になるのね!!)
妹であるユニにすら隠している趣味の1つ、大好きなアニメの制作に関われる仕事に、ノワールのテンションは急上昇していた。
しかも、今回は仕事という名目でノワールには女神としての役目という免罪符が与えられている。
仮にアテレコでテンションを上げ過ぎたとしても、普段の真面目なノワールのイメージが味方をして、思いっきり声優としての仕事を楽しめるはずだと考えていた。
何故ならノワールは女神と言ってもその道の素人を起用すると言うことは、つまり大事なのは本人達が声を当てていることだろうと推測していた。
「わかった。先方には僕の方から返事をしておくよ。それじゃ、失礼するよ」
ノワールが1人悦に入っている様子を見ているにも関わらず、ケイは嫌にすがすがしい笑顔で早々に部屋を後にしてしまう。
声優の仕事のことしか頭にないノワールは、ケイが退室したことにも気付かず、しばらくそのままの状態で1人口元をにやつかせるのであった。
* * *
そんな経緯があり、ノワールは現在収録スタジオと聞かされた目的地に向かっていたのである。
「えへへへ……おっと、いけないいけない。今回はあくまで女神としての仕事なのよ、仕事なの」
自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎながら、ノワールは再び頬の筋肉をほぐし始める。
痕になって残らないように手のひらでぐりぐりと押したり、指でつまんだりしながら表情を整えていく。
最後に口元に笑みが浮かぶように頬を引きのばすと、ノワールは満足そうに頷いて歩きだす。
(まずはスタッフさんの皆さんに挨拶をしないとね。おはようございます、今日は1日よろしくお願いしますって言わないと……うわぁ、緊張してきた)
スタジオに近づくにつれ、ノワールは段々と自分が緊張してきていることを自覚した。
頭の中でアレコレ考えながら、スタジオの入口に立つと、気持ちを落ち着かせるために胸に手を当てて大きく深呼吸をする。
ほどよい緊張感に包まれながら、ノワールは満面の笑みを浮かべて入口の扉を開けた。
「おはようございま……」
「確保ー!!」
「って、のわあああああ!?」
……しかし、開けた途端に声が響いて来て、頭から何かをかぶせられたノワールは拘束されてしまったのであった。
* * *
「ちょ、ちょっとこれはいったいどう言うことなのよ!?」
私は今、両手足縛られて椅子に拘束されている。
しかも、今いる部屋は真っ暗にされており、私にだけライトが当てられているので、もの凄く熱い。
私の抗議の声が聞こえたのか、ライトが灯る音が聞こえるとともに、1人の人物の姿が見えてきた。
その人物とは……
「ふ、ふ、ふ、それはわたしから説明しようではないか、ノワール君!」
「ネプテューヌ!? あなたいったい……って、それよりも早く解きなさいよ!?」
芝居がかったように両手を広げる動作をするネプテューヌを見て、私は困惑してしまう。
そりゃ、女神を題材としたアニメだから彼女がここにいることは不思議ではない。
でも、今はそんなことを疑問に思っているよりも早く自由になりたい!?
そんな風にふざけてないで、早く私を助けなさいよ!?
「駄目だよ。これからノワールには大事なお仕事があるんだから」
「はあ!? 仕事っていったい何よ!? 私はここに声優の仕事として……」
「あ、それ嘘だから」
「は、はいいいいい!?」
しれっと言ってのけるネプテューヌの言葉を理解した瞬間、私は思わず叫んでしまっていた。
……え、嘘!? 楽しみにしていた声優の仕事が嘘だって言うの!?
「本当はここで、ドッキリでした! みたいなプレートを出すところだけど、予算の都合で残念ながら用意できてないんだよね」
「そんなことはどうでもいいのよ!? ……え、えっと、ほ、本当に嘘なの? 私に声優の話が来ているって……女神を題材にしたアニメを作るって……」
「うーんと、実を言えばアニメって話は嘘だけど、女神を題材にした番組を作るっていうのは本当だよ。しかも、ノワールが主人公の」
「……はい? 私が、主人公?」
残念そうに肩を落とすネプテューヌの言葉を、私は未だ信じられずに聞き返してしまう。
すると、ネプテューヌは困ったように笑いながら訂正してきた。
……アニメは嘘だけど、女神を題材にした番組を作ることは本当なのね?
「うんうん、作品のタイトルにもノワールの名前が使われてて、本当にメインヒロインって言う活躍も見せちゃう番組なんだから」
「ふ、ふーん、そうなの?」
にこにこと笑うネプテューヌの説明を聞いているうちに、私は頬が熱くなるのを感じた。
アニメじゃないのはちょっと……ほんのちょっと残念だけど、私がメインヒロインって言うのは嬉しくないわけがない。
「そ、それで、その番組っていったい……」
「ふふーん、それは……これだ!!」
私が尋ねると、突然ドラムロールが聞こえてきて驚いてしまう。
目の前にはいつの間にかスクリーンらしきものが降りてきており、そこに向かっていくつもの小さいライトが当てられている。
随分と凝った演出だなと、私が視聴者でいられたのは番組のタイトルが出てくるまでだった。
スクリーン全体が照らされると、そこには丸みを帯びた文字でこう映されていた。
……【劇場版 魔法女神☆ノワルン 封印された女神】と。
「ちょっ!? ノワルンって!? しかも、何で劇場版!?」
そのタイトルを見た瞬間、私の脳裏にあの忌まわしい記憶がよみがえってくる。
ピンク色のフリフリしたスカートを穿いて、『変身』して銀髪になった髪の毛を2つに縛り、玩具のバトンを振り回す私の姿。
ネプテューヌに騙されてB.H.C.を飲んでしまった私の黒歴史の姿を。
「嫌!? 帰して!? 私は絶対にもうノワルンになりたくないの!?」
恥も外聞もなく私は拘束を振りほどこうと暴れた。
恐怖のあまり目尻には涙も浮かんでくる。
……あんな姿をもう1度晒すことになったら、私は恥ずかしすぎて死んでしまう!?
黒歴史を連発するのは夢人だけで十分でしょ!?
私はノワルンになんて絶対になりたくない!?
「まあまあ、落ち着きなよノワール」
「お、落ち着けるわけないでしょ!? お願い!? 一生のお願いだから、B.H.C.は……ノワルンはやめて!?」
「一生のお願いはちょっと惜しい気もするけど……今回ノワールはノワルンにならなくても大丈夫だよ」
「……え、本当に?」
私を安心させるようにほほ笑むネプテューヌの言葉に、思わず目を丸くしてしまう。
「今回のノワールの役目は、この劇場版に出てくる封印された女神っていう役だよ」
「……ちょ、ちょっと待って。1度話を整理させてもらってもいい?」
私は腕が自由だったら、眉間によってしまったしわをほぐしたい衝動にかられた。
色々ノワルンの衝撃が抜けきれず、冷静に物事を考えられない。
だから、1つ1つネプテューヌに確認することにしよう。
「え、えっと、まず声優の話は嘘だったのよね?」
「うん、そうだよ……というより、ノワールはわたしの話ちゃんと聞いてたの?」
「も、もちろんよ……それで、次に本当はノワルンを撮影するために、私をここに呼び出したのよね?」
「そうそう。ノワールには秘密にしていたけど、皆ノリノリで協力してくれたんだよ」
「……そう」
幾分か冷静になった頭でネプテューヌの言葉を理解すると、沸々とケイに対しての怒りが湧いてきた。
きっとケイはこのことを知っていたに違いない。
何となくだけど、そう思ってしまう。
……ん? 協力してくれた? 過去形?
ネプテューヌはまるで撮影がすでに終わったみたいな言い方をしていることを私は疑問に思った。
サブキャラやエキストラならともかく、ネプテューヌは確かに私がメインヒロインだと言っていた。
それなのに、もう撮影が終わっているような言い方をするのはおかしい。
「ねえ、協力してくれたって言ってたけど、もしかして撮影って終わってるの?」
「うん。後はノワールが封印された女神役をしてくれれば、映画は完成かな」
やはり、何かおかしい。
ネプテューヌの言っていることが理解できず、私は首をかしげてしまう。
……私の部分を撮影して終わりって、そんなことありえるの?
普通、他の役者さんと一緒に演じるんじゃ……あれ、もしかして封印された女神ってボッチなの?
ボッチだから、他の役者さん達との絡みがなくて1人悲しく演技をするみたいな……ノワルンとは違う意味でやりたくなくなってきたわ。
元からやる気があったわけではないけど、余計にこの映画に関わるのが嫌になって来た。
「ね、ねえ、私がノワルンを演じるわけじゃないなら、帰らせてくれても……」
「それは絶対にダーメ! もう1人のノワールともちゃんと出演させるって約束しちゃったし」
「……もう1人の私?」
「あ、そっか。まだ会ったことなかったっけ? ちょっと待ってて」
私が疑問を口にすると、ネプテューヌはNギアを取り出して誰かに連絡をし始めた。
……まあ、話の流れからもう1人の私だってことはわかってるんだけど。
「あ、もしもし、ノワール? ……そうそう、その話でこっちのノワールがさ……え? それは別にいいけど……うん、それじゃ代わるね……はい、ノワール」
「な、何よ?」
「あっちのノワールが何か話があるみたいだから、ちょっと代わって欲しいんだって」
いきなりNギアを差し出されて戸惑ったけど、そう言うことならと思い、私はネプテューヌからNギアを耳元に当てられた。
「え、えっと、もしもし?」
〔……あなたがそっちの私なの?〕
「あ、う、うん。あっちとかこっちとかよくわからないけど、私の名前はノワールよ」
聞こえてきたのはNギア越しのせいなのか、低く聞こえる自分とよく似た声。
一瞬、自分と似た声が聞こえてきたことに驚いてしまうけど、Nギアの向こうにいるのも私なんだから当然、なのよね?
……いまいち要領が掴めないけど、そう言うことだって納得しておくことにした。
〔……そう。あなたのせいで……あなたのせいで!〕
「は、はい? ちょ、ちょっとどうし……」
〔あなたのせいで、私はあんな姿をする羽目になったのね!! 変な薬を飲まされて、あんな格好までさせられ、しかもあの変態達にも……っ!! う、うぅぅぅ〕
「え、え、え?」
〔あれのせいで私は……私は……〕
「え、え、あの、もしもし? もしもーし!?」
いきなり怒鳴られたと思ったら、泣きだして怨嗟の声を吐きだすもう1人の私の声が、突然聞こえなくなってしまったことに、私は焦ってしまう。
……へ、変なところで切れないでよ!?
すごく不安になってきちゃったじゃない!?
そんな慌てる私の様子を見て、ネプテューヌはにやりと笑いながら口を開く。
「というわけで、もう1人のノワールの犠牲を無駄にしないため、ノワールも映画の作製に協力してもらうからね」
「ぎ、犠牲って……わぷっ!? こ、これ何!?」
ネプテューヌに抗議しようとした瞬間、私の頭の上に何かがぶつかった。
それはヘルメットみたいに私の頭をすっぽりと包んでいるみたい。
「ベールの話だと、それは今度リゾートアイラン島で実験するヴァーチャルリアリティーシステムの実験機らしいんだ。何でも本人はゲームの世界を体験するために作らせたみたいなことを言ってて、今回の映画の話が渡りに船だったらしいよ」
「ちょ、実験機って本当に大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫。安全面は保証するって製作に協力してくれたジャッジも言ってたし、もーまんたいだよ」
ネプテューヌは笑顔で説明してくれるけど、私の不安は全然晴れてくれない。
むしろ、余計に嫌な予感がしてきたんだけど。
「それで、ノワールには生の演技をしてもらうために、前もってわたし達が撮っておいた映画の世界に飛び込んでもらうよ」
「そ、そんなので映画が作れるわけないじゃない!? そもそも私はまだ……」
「そこら辺も大丈夫だよ。ノワールが予想外の行動をとっても、こっちからある程度フォローできるし、ノワールは映画の世界で自由にしてくれればいいからね」
「ちょっと!? 私の話を聞きなさいよ!?」
話を無視して親指を立ててみせるネプテューヌの姿に、私はいよいよ本気で逃げるために暴れ出す。
……もうこんなことに付き合ってられないわ!?
早い所逃げないと……
「それでは、夢と希望にあふれるノワルンの世界に……いざ、レッツゴ―! ……ぽちっとな」
「あっ……」
リモコンらしきものを取り出してボタンを押すネプテューヌの姿を見たのを最後に、私の視界は真っ暗になってしまう。
意識も段々と遠のいていき、体も鉛のように重くなって動かなくなってしまった。
そして、次に目を開けた瞬間、目の前に飛び込んできたのは……
と言う訳で、今回は以上!
まあ、今回は導入部分だけでしたので、次回からノワルンワールド全開で行きます。
それでは、 次回もお楽しみに!