超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 番外編 作:ホタチ丸
今回で番外編ノワルンはおしまいです。
それでは、 さらば、ノワルン? はじまります
この日、ネプテューヌは隣の席に座っている親友、ノワールの機嫌がいいことを不思議に思っていた。
別に普段からノワールが不機嫌そうに仏頂面でいるわけではなく、ネプテューヌから見ても誰にでもわけ隔てなく接することができる自慢の親友である。
それでも、いや親友だからこそ、今日のノワールの機嫌がいいことがネプテューヌにははっきりとわかる。
「ねえねえ、何かいいことでもあったの?」
「うーん、ちょっとね」
思い切って尋ねてみてもノワールは笑みを崩すことなく、曖昧に返事をするだけでネプテューヌの疑問に答えてくれない。
もやもやとする気持ちを隠そうともせず、ネプテューヌは明らかに不満だと言わんばかりに眉間にしわを寄せてノワールに再び尋ねようとした時、教室の扉が開かれた。
〔おーい、皆席につけ〕
ガヤガヤと騒ぐ教室の中にこのクラスの担任であるワンダー先生と、ネプテューヌ達と同じ制服を着た少女が入室してくる。
2人が入室すると、教室は水を打ったように静まり返った。
何もワンダー先生の注意を素直に聞いているわけではない。
いつもならワンダー先生の注意を受けても尚、話を聞ける程度にはおしゃべりをしている。
しかし、ネプテューヌ達の視線はワンダー先生と一緒に入室した少女に固定されている。
ある者は驚愕のために目を見開き、ある者は教室にいるとある人物と交互に見比べ、ある者は眼鏡が曇っているのではないかと強く何度もレンズを磨いていた。
全員に共通しているのは、少女の姿に驚いて言葉も出ないことだろう。
〔さて、もう言わなくてもわかっていると思うが、彼女はこのクラスの新しい仲間だ。では、早速自己紹介をしてもらおう〕
「……はい」
静まり返っている生徒達を見て、ワンダー先生は好都合だと思い、少女に自己紹介をしてもらうように促した。
少女は一歩前に出て、クラス全体を見渡しながら口を開く。
「て、転校してきましたノワ……じゃなかった。ブラックハートって言います。これからよろしくお願いします」
ブラックハートと名乗った少女が丁寧にお辞儀をすると、それをにこにこと見守っていたノワールがパチパチと拍手をし始める。
それに触発され、ネプテューヌ達も戸惑い気味に拍手を始め、ブラックハートをクラスに歓迎した。
……そして、歓迎されている張本人はその事実に頬を引きつらせていた。
(……どうしてこんなことになったのよ)
『変身』した姿で制服を着ているブラックハートことこの世界に来てしまったノワールは、1人心の中でこんなことになった経緯を思い出していた。
……この世界のノワールが女王イストワ―ルに自分の学校に留学させるのはどうかと提案した後のことである。
当然、早く元の世界に戻りたいノワールはすぐさまこれを拒否した。
しかし、女王イストワ―ルはまったくと言っていいほどノワールの話にとり合うことはなかった。
ノワールを置いてけぼりにして、この世界のノワール、マジェコンヌの2人とともに嬉々として学園への留学手続きを完了させてしまったのである。
これは学園長であるピーシェがマジカルワールドのことをよく知っていたからである。
この時、彼女はこんなことを言っていた。
『みんなであそんだほうが楽しーもんね! ……ところで、がくえんちょーってなにをすればいいの?』
『この書類に判子をペタペタと押してくれればいいですの』
首をかしげるピーシェ学園長の机にがすと教頭が書類の山と判子を置く。
がすと教頭からの説明を受けたピーシェ学園長はけらけらと笑いながら、書類1枚1枚に判子をペタペタと押していくのであった。
……余談ではあるが、その書類の1枚に撮影に使用したB.H.C.の請求書、ネプテューヌ個人に向けたものがあったことは内緒である。
後日、撮影スタッフから手渡されたネプテューヌが顔を青くするのをまだ誰も知らない。
〔ブラックハートの席は……そうだな、ノワールの隣がいいだろう。ノワール、学級委員として彼女のことを頼むぞ〕
「はい! 任せてください!」
〔うむ。では、ブラックハートも席につきなさい〕
「……わかりました」
『変身』したノワール、ブラックハートが現実逃避をしている間、ワンダー先生は事前に転校生が来ることを知っていた唯一の生徒であるノワールに声をかけた。
学級委員としてブラックハート用の机を用意してあることと明るく返事をするノワールを確認すると、ワンダー先生は満足そうに頷いて見せる。
そして、未だ現実逃避を続けていたせいでどんよりとした雰囲気を纏ったブラックハートにも席につくように促した。
「これからよろしくね、ブラハちゃん」
「……うん、よろしくね」
暗い顔のまま席についたブラックハートに小声でノワールはほほ笑みかける。
しかし、すでに諦めの境地に達していたブラックハートはちゃん付けのあだ名で呼ばれることに照れることもなく、心の中で涙を流し続けていた。
* * *
「……うん、よし。ここで間違いないよね」
その頃、1人の少女がしきりに目の前の扉と手に持っている冊子を見比べて頷いていた。
因みに、その冊子の表紙には『劇場版 魔法女神☆ノワルン 封印された女神』と印刷されており、少女の開いているページには明るい色のマーカーが引かれていたりもする。
「ふぅ、緊張するな……でも、私も頑張らないと」
緊張のせいか、うるさいくらいに高鳴る心臓を押さえようと胸に手を当てて、少女は深呼吸をする。
1度大きく息を吐くと落ち着いたようで、少女は顔を引き締めて手に持っていた冊子を丁寧に地面に置いた。
そして、扉を勢いよく開けると口角を大きく吊り上げて、芝居がかったように両手を広げる。
「ようやく見つけたぞ! さあ、私の封印を解いた報いを……」
少女は最後まで言葉を紡ぐことができずに沈黙してしまう。
それもそのはず、少女は事前に確認していた段取りとは違う光景を目の当たりにしてしまったのだ。
「……え、えっと、その、ボクが言うのも何なんだけど、部屋間違えてないかな?」
「ご、ごめんなさーい!?」
部屋の中にいた唯一の人物、5pb.は気まずそうに少女から視線をそらしながら口を開く。
学園の音楽教師でもある5pb.は、担当するネプテューヌ達の授業の準備をするために生徒用のギターを用意していたのだ。
授業内容は歯ギターでの演奏である。
曲目は作曲家箱崎チカによる『お姉さま讃美歌』と言うヘビィメタルに分類される曲である。
5pb.に声を掛けられると、少女は顔を瞬時に真っ赤にしてバタンと強く扉を閉めてその場から逃げてしまう。
「あ、あはは……」
5pb.は先ほど顔を真っ赤にして行ってしまった少女と、これから教師と生徒と言う立場で対面するノワールのことを思い、乾いた声で笑うことしかできなかった。
* * *
(もうダメ。早く私を元の世界に帰してよぉ……)
机に突っ伏したままブラックハートは心の中で弱音をこぼしていた。
理由は、体験してきた授業の数々と学園の教師達である。
担任であるワンダー先生がバイクであることが、そもそもおかしいと思いつつも、意外とまともな人選でもあるかもしれないと油断したのが運のつきであった。
ワンダー先生の担当する教科は『人間心理学』であった。
しかも、その教科書は皮肉なのかわからないが、“機械でもわかる心理学”と可愛らしいイラストが添えられていた。
……この際、『イラスト:ロム&ラムwithアカリ』と書かれていたのをブラックハートは意識的に無視している。
「大丈夫? 具合が悪いのなら、保健室に行った方がいいよ。私も付きそうから」
「……ううん、大丈夫よ。それに、保健室だけにはもう2度と行きたくないから」
隣の席に座っているノワールが心配そうに尋ねてきても、ブラックハートは顔を上げない。
顔を上げる気力もないほど、ブラックハートは精根尽き果てていた。
ワンダーの授業以外にも、この学園の授業はブラックハートの理解を越えていたのである。
『コミュニケーション学』と立派な名前を冠する携帯端末を使っての二次元少女の育成記録観察、通称W.Y.1.(アタシの嫁が1番だ!)を担当するREDちゃん先生。
『体育』の授業を担当するケイブ先生なんて、準備運動をした後に軽い運動として弾幕避けと言うハードなレクリエーションが含まれていた。
この時、ブラックハートは授業の内容に戸惑っていたため、いの1番に弾幕の波に飲み込まれてしまった。
そのためノワールに付き添われ、保健室に1度入室したことがあったのである。
だが、保険医であるアノネデス先生の自分を見る目が怪しかったせいで、ブラックハートは何故だか保健室にいる間は悪寒が収まらなかった。
その後の昼食では、学園内の施設である食堂に案内されたのだが、ブラックハートは配膳を担当する職員を見て眩暈を覚えてしまう。
白い三角頭巾やフリルがふんだんに使われた清潔感あふれるエプロンをつけているキラーマシン達が生徒達に食器を手渡していたのだ。
しかも、ちーんと電子音が鳴ったと思ったら、ブラックハートが知らないキラーマシンの胸に付けられていた取っ手を開き、中からほっかほっかのハンバーグが出てきた時には、もう彼女は気絶してしまいたかった。
だが、気絶してしまえば、再びアノネデス先生がいる保健室に戻されてしまうと思い、ブラックハートは真っ青な顔のまま500円の日替わりランチをゆっくりと咀嚼していた。
……誰が作っていたのかはともかく、味は確かに美味しかったとブラックハートもわかっている。
(いったい何時になったら帰れるのよぉ……もうこんな世界に1秒でも居たくないのに……)
すでに本日の授業はすべて終わっており、後は担任であるワンダー先生が来てホームルームを終えれば帰りだと言うこともあり、周りの生徒達は浮足立っている。
その中で憂鬱な雰囲気を纏っているブラックハートは、ため息をつきながら隣の席にいるノワールの奥にいるネプテューヌに非難めいた視線を送る。
そもそもネプテューヌが変な機械で自分をここに送ったのが原因だと思い、ブラックハートの目尻は次第に吊り上っていく。
(そうよ。いつまでもこんな世界に居られないわ。こうなったら、実力行使で……)
「あ、ああー!? アレは!?」
ブラックハートの険しい視線に気付いたのか、ネプテューヌは冷や汗を流しながらわざとらしく窓の外を指さした。
すると、何だ何だと他の生徒達も窓際に来て外を見渡す。
そこには学ランを着た4人の男が校門からグラウンドに入って来ていた。
ノワール達の通う学園は男子の制服は学ランではなく、ネクタイ着用のブレザータイプなので他校の生徒であることは明らかである。
だが、その中の1人が本当に学生なのかと疑ってしまう程の肉体を持っているのを見つけ、ブラックハートは数えていないため今日何度目になるかわからない現実逃避をしてしまう。
「うぬ、着いたようだな」
「そうですね……おい、テメェら見てんじゃねェぞ!!」
「おいおい、そんな風に怒鳴ったらレディ達に失礼じゃないか」
「……と言うか、何で僕達この人と一緒にいるの?」
ブラックハートが学生でないと疑った人物、ケン・オーは学ランの上着には袖を通しておらず、肩に乗せているだけの状態で、腕組みをしながら校舎を見上げた。
すでにぱつんぱつんの上着は、今にも破けてしまいそうに見える。
相槌を打つ茶髪の青年、シュンヤはノリノリで校舎の窓から身を乗り出す野次馬達を威嚇するように声を張り上げた。
その隣でやれやれと肩をすくめる金髪の青年、エースケはやんわりとシュンヤをなだめつつ、野次馬をしている少女達へと流し眼を送ることを忘れない。
それを見て呆れながら口を開く黄緑色の髪をしている少年、カケルは額に手を当てながらため息をついていた。
ため息をつきたいのは自分の方だとブラックハートは窓から見える4人組に向ける視線が剣呑なものになってしまう。
これ以上見ていても疲れるだけだと判断したブラックハートが視線を外す直前、校舎からスーツを着た誰かが飛び出した。
「何をやってるんだ、お前達!!」
校舎から飛びだしたのは用務員と言う名のピーシェ学園長の遊び相手兼がすと教頭の貴重な実験協力者である御波夢人であった。
とある理由でリストラされてしまい、さまよっていたところをピーシェ学園長に拾われ、今では学園の立派な雑用係と言う認識が教師や生徒の間で広まっている。
「いったい何の用があってこんなところに……って、うおっ!?」
「目標の確保に成功したな」
「ちょっ、苦しいし怖いって!? 離してくれ!?」
4人組に近づいた夢人であったが、すぐさまケン・オーに胸ぐらを掴まれて高く持ち上げられてしまう。
突然の事態に夢人は慌てて足をばたつかせるが、ケン・オーは胸ぐらを掴む手を離そうとはしない。
シュンヤ達、ユピテルの3人もケン・オーの行動を咎めることなく、何故か生温かい目で夢人を見上げていた。
「まあ、なんだ。これも仕方がないことなんだよ」
「そうそう、レディの頼みを断るわけにはいきませんからね」
「年貢の納め時って奴かな?」
「はあ? お前ら何を言って……」
「夢人」
ユピテルの3人の言葉の意味がわからず、夢人は疑問の声を漏らすが、その答えはすぐに理解した。
夢人の名前を呼ぶ声が聞こえると、ケン・オーは今までその巨体のせいで隠れていた女性の前に彼を下ろし、自分は彼の逃げ道を塞ぐように背後にピッタリとくっつく。
「迎えに来たよ。さあ、デートに行こう」
「……はい? ナナハ何を言って……」
「元々私と夢人の出番は少ないみたいだし、多少のアドリブはオーケーだってケイさんも言ってたよ。このままクランクアップしちゃってもいいって。だから、これからデートしよう」
「お、おい、待てって!?」
にこにこと笑みを浮かべながら手を差し出す黒いセーラー服を着ている少女、ナナハに夢人は戸惑ってしまう。
ナナハがベールとは違う学校に通っている理由は、姉からの過剰なスキンシップを回避するためである。
そんな様子の夢人に構わず、ナナハは撮影的には危ない発言をしてから強引に彼の手を引いて街へと繰り出そうとする。
「ちょっと待ちなさいよ、アンタ達!!」
そんな2人に待ったをかけながら、校舎から1人の女生徒が飛びだしてきた。
その女生徒は無理やりシュンヤを突き飛ばすと、ナナハが掴んでいる夢人の腕とは逆の腕を掴んで、彼女を険しい目つきで睨み出す。
「何でそんなに怒ってるのユニ?」
「そんなの言わなくてもわかるでしょ!! 何でアンタと夢人がデートする流れになるのよ!! 真面目にやりなさいよ!!」
意味あり気に口元に笑みを浮かべるナナハを睨みつける女生徒、ユニは大声を上げて怒りをあらわにする。
夢人をデートに誘うとしたのはもちろん、ナナハの不敵な笑みがユニの癪に障った。
「じゃあ、ユニも入れて3人でデートしようか」
「はあ? アンタ何言って……」
「そうと決まれば、早速行こうか2人とも。時間は有限だよ」
「ちょ、ナナハ!? 引っ張らないでくれって!?」
「夢人も踏ん張りなさいよ!? って、アンタ達も押すんじゃないわよ!?」
名案だと言わんばかりに提案するナナハに、ユニは正気を疑ってしまう。
だが、ナナハは本気であり、ユピテルの3人とケン・オーに目配せをすると、夢人とユニを連れて何処かへと行ってしまった。
そんな7人を見て、ブラックハートは心の中で安堵する。
ノワルンの世界に染まっていないナナハの様子と振り回される夢人とユニの姿に、ブラックハートは知らずうちに癒されていたのであった。
* * *
放課後、校舎の屋上でブラックハートとノワールは2人で夕焼けを眺めていた。
校舎を案内するとノワールにあちこち連れまわされ、最終的にここに来たのである。
……また、その案内でブラックハートの精神はガリガリと削られた。
科学実験室の主であるブロッコリーや、放送委員のアブネス、学園で飼育している小鳥の世話を担当するアクダイジーン、ノワール達の学年主任であるジャッジ・ザ・ハード、何故か人体模型の隣に並べられているぬいぐるみサイズのブレイブ・ザ・ハード、学園内に侵入しようとして鼻血を流しながら地面に倒れ伏し指で“ら……”と書き残している国王トリック、プールで学園指定の水着を着ながらダイエットのために泳ぐマジック・ザ・ハードなど、学園の名所を巡る度にブラックハートの胃はきりきりと悲鳴を上げていた。
「夕陽が綺麗だね」
(……本当、目にしみるわ)
「ふふ、私達の学校はどうだった? すごくいいところでしょ?」
(……ああ、私もそう考えられたらどれだけ楽だったことか)
夕日を眺めながら目に光るものを浮かべているブラックハートに、ノワールは勘違いをしてしまう。
その涙が感動のあまり流れたものだと思い、ブラックハートのことをほほ笑ましく見つめながら目を細める。
……実際には、ブラックハートの涙は純度100パーセントの悲しみから来るものであり、見当違いにも程があった。
「これからも毎日、こんな楽しい日々が続いていくと……ブラハちゃん!?」
(そんなのお断り……って、何でそんなに驚いてるのよ? って、あれ? これってもしかして!?)
うんざりとしながらノワールの言葉を聞き流していたが、突然声を荒げたことを不思議に思い、ブラックハートは眉をひそめる。
その際、自分の腕が透明になっていることに気付き、ブラックハートは目を大きく見開いてしまう。
(ついに帰れるのね!? これはそう言うことなのよね!?)
ブラックハートは口元を緩めて、自身の体に起こっている変化を推測する。
自分の体が透明になって消えかかっていると言うことは、元の世界に帰れるかもしれないと希望が見えてきたのである。
「ブラハちゃん!? 何で体が透明に……って、まさか!?」
「……うん、そろそろ時間みたい。私の体が消えかかっているの」
「っ、そんな!?」
今にも決壊しそうなほどに涙をためた目で自分を見つめるノワールに、ブラックハートはもっともらしい台詞を言いながら目を伏せる。
にやける顔をノワールに見せなようにするためだ。
しかし、ノワールにはブラックハートが辛そうにしているようにしか見えない。
「仕方のなかったことなのよ。元々私はこの世界の……いえ、この時代の女神じゃないの。だから、元いた場所に帰るだけなのよ」
「……どうにもならないの?」
「うん。だから、さよならしなきゃ駄目みたい」
「……そっか」
ブラックハートの言葉を聞き、ノワールは1度視線を下げると指で涙を拭った。
そして、夕陽の色でない赤色に染まった目でブラックハートを見つめながら、笑みを浮かべて口を開く。
「また会えるよね?」
「……さあ、わからないわ」
「じゃあ、約束しよう。必ずまた会うって」
(……私はもう2度とこんな世界に来たくないわよ!?)
雰囲気的に本音を叫べないブラックハートは口を固く閉じて顔を上げて夕陽を見つめる。
もう体のほとんどが透けており、程なくしてブラックハートは消えてしまうだろう。
(さよならノワルン!! 私は元の世界に帰るわ!! そして、こんな目に合わせてくれたネプテューヌを……)
「うふふ、そうはさせないわよ!!」
「っ、誰!?」
元の世界に帰ってからのことを考えていたブラックハートの背後から、突然笑い声と共にトンと言う軽い音が鳴った。
2人が慌てて振り向くと、そこには薄い紫色の髪が光っているように見える水色の瞳をした黒いビキニを着て黒いマントを見に纏っている少女が立っていた。
……しかし、何故だか知らないが少女の瞳は潤んでおり、鼻をすすっていた。
「ようやく……ようやく会えました……ぐすっ……私こそ、マジカルワールドに伝わる伝説の“魔法女神”であるデルフィ……」
「……さすがにその格好はないんじゃないの、ネプギア?」
「言わないでください!? 私も恥ずかしいんです!?」
少女、デルフィナス役としての役目を全うしようとするネプギアにブラックハートは冷静にツッコミを入れる。
ネプギアも自分の格好を自覚していたようで、顔を赤くしてもじもじとマントで自分の体を隠すように身を縮めてしまう。
「と、とにかく……え、えっと、何だっけ……そ、そう! よくも私の封印を解いてくれたな! その報いを存分に受けるがいい! ……だったかな?」
顔を赤くしたままネプギアは台本に書いてあった台詞を思い出しながら、ブラックハートを指さす。
すると、ブラックハートを庇うようにノワールがネプギアとの間に入り、彼女をキッと睨みつける。
「そんなことさせないわ! ブラハちゃんは私の大切な友達なの! あなたなんかの好きには絶対にさせないんだから! マジカル・トランス・アクセス!!」
ノワールが力のこもった不思議な言葉を口にすると、彼女の体は光の柱に包まれる。
光の中で制服は粒子の結晶となり、ノワールの体に新しい服が再構成され始める。
ピンク色の大きなリボンが付いているワンピースを着て、黒髪から銀髪へと変化した髪の毛はレースの黄色いリボンによって2つに縛られる。
手にはいつの間にか全体がピンク色で先端に水晶が付けられているバトンのような物が握られていた。
「きゅるるるるるるん! 愛と正義のマジカルヴィーナス、ノワルン!! ゲイムギョウ界の平和を守るため、華麗に降臨!! キラッ!」
「ぐっ!?」
魔法女神に変身したノワールを見てダメージを受けたのは、背後にいたブラックハートであった。
後ろ姿を見ただけで胸が抉られたような痛みを覚えたのである。
ブラックハートは思わず胸を押さえて膝をついてしまう。
「安心してブラハちゃん! あなたのことは、このマジカルヴィーナスノワルンが必ず守ってみせるわ!」
「……う、うん、ありがと……っ!?」
「っ、これは!?」
苦しそうにしているブラックハートを安心させるように笑みを浮かべながら、ノワールは手を差し伸べる。
深く考えず、ブラックハートはその手を握り……後に後悔してしまう。
繋いだ2人の手の間から光が溢れだし、ブラックハートの全身を包み込んだ。
すると、先ほどのノワールのようにブラックハートの着ていた制服が消え、代わりに新しい服が姿を現す。
それは色違いであるが、ノワールが着ている服と同じものであった。
違いは青色であることと、髪を縛るリボンが現れなかったこと、握っているバトンの先端が星形になっていたことである。
「ブラハちゃんも“魔法女神”の姿に……奇跡が起こったんだね!!」
(なによこの服!? しかも、透明だった体も元に戻ってるし!?)
感極まりノワールが涙を浮かべる一方で、ブラックハートは帰れると思っていた自分の体に起きた変化に慌ててしまう。
「さあ、2人であの人を倒そう! 2人なら、どんな敵にも負けないんだから!」
「……や」
「デルフィナス!! 私達マジカルヴィーナスが相手よ!! かかってきなさい!!」
「いやああああああああああああ!?」
意気揚々とネプギアに向かってバトンの先端を向けるノワールの後ろで、ブラックハートは頭を抱えて嘆きの声を上げるのであった。
* * *
「……ハッ!? ここは……」
ガクッといきなり感じた奇妙な感覚に驚いた私は慌てて顔を上げて周りを見渡した。
そこはいつもと変わらない執務室であり、机の上には書類の山が大量に残されている。
……あれ? 私いつの間にか寝てたの?
私は頬に感じる熱と腕が赤くなっているのを見て、自分が寝てしまっていたことに気付いた。
口元を指で軽く触れ、よだれが垂れていないかを確認する。
……何かすごい怖い夢を見ていたような気がするんだけど……なんだったっけ?
寝ている間に見ていた夢を思い出そうとするのだが、まるでそれを拒否するように頭に頭痛が走る。
そのため、私は深く考えることなく寝癖がついていないかどうかを机の引き出しから手鏡と櫛を取り出して髪を整えていく。
「失礼する……っと、何をしているんだい?」
「……何よ? 私が身だしなみを整えてちゃおかしいわけ?」
「いや、そうじゃなくて、君が仕事中にそんなことをするなんて珍しいなと思ってね」
ノックの音と同時に入室してきたケイの驚いた顔に、私は顔をしかめる。
私だってずっと仕事に集中しているわけではない。
時折息抜きとして趣味のリサーチを隠れながらしているんだから……って、隠してるんだから珍しいと思われても仕方ないわね。
「っと、そうだ。ノワールに新しい仕事の依頼が来ているんだ」
「新しい仕事? それっていったい……」
何故だかデジャヴを感じてしまい、妙な不安が募ってくる。
そんな私の心情などお構いなしに、ケイは頬を軽く緩めて言葉を発する。
「声優をやってみる気はないかい?」
……この時は気付かなかったけど、私の悪夢はまだ終わってはいなかったらしい。
ノワルンと言う悪夢は、まだ始まったばかりだった。
と言う訳で、今回はここまで!
……書いてて思ったことは、これ連載で最初から書いた方が楽だったと思う。
いろいろと設定も作ってたので、いつかまた番外編で作りたいなあ。
その時は出せなかった皆も出したいし……
ラブリー眼帯レイヴィスちゃんとかプリズマ☆アイエフとか、ネタだけはいろいろ考えていました。
またいずれ日の目を見ることがある……ことを祈って今回のノワルンはおしまいです。
それでは、次回の投稿をお楽しみに!