超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 番外編   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日は1日遅れですけど、ホワイトデー記念を投稿させていただきます。
それでは、 後ろではなく、隣で はじまります


後ろではなく、隣で

「……ほ、本当にこれをやらなきゃ駄目なのか?」

 

 御波夢人は目の前の現実に慄いていた。

 顔色も悪く、頬も引きつらせている。

 

「そうだよ。ほら、せっかく用意したんだし、早く準備してくれないかな?」

 

 しかし、夢人の願いも虚しく、ナナハは現実を突き付ける。

 その表情は満面の笑みであった。

 

「頼む!? それだけは勘弁……」

 

「駄目よ。そもそもアンタが言い出したことじゃない――何でも言うことを聞くって」

 

「いや、確かにそう言ったけどさ!?」

 

 両手を合わせて頭を下げる夢人に、ユニはにやりと笑って返す。

 逃げ道がないことを悟った夢人は思わず頭を抱えて、あの日口走った約束を後悔してしまう。

 

 ――事の発端は、先月のバレンタインデーのことである。

 急に不安に襲われたネプギアを抱きしめていた夢人は完全に油断をしていた。

 狭い室内で思い人と密着していたこともあり、極度の緊張と興奮状態で来客の存在に気付かなかったのである。

 その来客とはネプギア以外の女神候補生達だ。

 示し合わせたかのように連続でやって来た4人に、夢人とネプギアはお互いに抱き合っている姿を目撃されてしまった。

 顔を真っ赤にしたユニが怒鳴り、ロムが羨ましがり、ラムが2人の間に跳びこみ、ナナハが密かに夢人の腕に抱きついたりと、大きな騒ぎに発展してしまった。

 自分でも大胆な行動をしてしまったことに思い至り、夢人も冷静ではなく、突発的にこう言い放ってしまったのだ。

 

【ああもう!? 何でもするから、とにかく落ち着いてくれ!?】

 

 その叫びはまさに鶴の一言であった。

 途端に静まり返る室内の様子に、夢人は早まったかとも思った。

 しかし、いつの間にかうつ伏せの体勢でラムに背中を踏まれている現状を考えれば、仕方なかったのだ。

 結局、この一言により場は納まり、その日に蒸し返されることはなかった。

 だが、ナナハが去り際に【ホワイトデー、期待しているよ】と耳元で囁かれると、夢人は途端に慌てた。

 ただでさえ就職が決まらず金欠なのに、5人分のお返しを用意するための蓄えなどなかったのだから。

 仕方なく、あまり頼り過ぎないようにしていたイストワ―ルに頭を下げて仕事を斡旋してもらい、どうにかプレゼントを5人分用意することができた。

 

「わたし達、今日のことを楽しみにしていたんだから! ねえ、ロムちゃん!」

 

「うん、すっごく楽しみ(わくわく)」

 

 無邪気に笑いあうロムとラムに、夢人は何も言えなかった。

 

 まずはネプギアにホワイトデーのお返しを、と思っていた当日――夢人は朝早くにやって来たユニ達に囲まれて逃げ場を失ってしまった。

 この場にネプギアはいない。

 どうやらネプギア以外の4人で考えていた事らしい。

 バレンタインデーのことを考えれば、ある意味当然とも言えるだろう。

 だが、まさかあの時に口走ったことがこのような形で災いをもたらすとは思ってもみなかったのである。

 夢人としては、てっきりホワイトデーのお返しを少し奮発する程度で済むかなと考えていたのだ。

 しかし、現実は甘くなく、夢人は打ちのめされそうになっていた。

 

「ほら、男が吐いた唾を飲み込もうとするんじゃないわよ。のんびりしていたら、ネプギアも来ちゃうわよ」

 

「夢人お兄ちゃん、ファイト(きらきら)」

 

「早く早く!」

 

「そう言うことだから、よろしくね、夢人」

 

 急かすユニ達とナナハから渡された物を見比べ、夢人は諦めたように大きく息を吐いた。

 ネプギアなら自分の味方をしてくれるかもとも考えたが、2人になっても4人に逃げ道を封じられてしまうのは目に見えていた。

 そもそも自分が言い出したことが原因であり、夢人は覚悟を決めたのである。

 

「分かったよ。準備するから、ちょっと待っててくれ」

 

 

*     *     *

 

 

 今日は3月14日ホワイトデー……なんですけど、何故かユニちゃんに呼び出されてしまいました。

 バレンタインデーみたいに私が変なことをしないように一緒に夢人さんに会いに行こうって話なんですけど……

 

「アレはその……不可抗力って言うか何て言うか……」

 

 夢人さんの所に向かう途中、私は先月のことを思い出して頬を熱くさせていた。

 誰もいないのにぶつぶつと言い訳をしている私は外から見れば、ちょっと危ない人に思われるかもしれない。

 でも、あの時の事を思い出すと、今でも恥ずかしくて顔が上げられなくなってしまうんです。

 

 あのまま告白しちゃえばよかったのかなぁ――って、私何考えてるの!?

 確かにいい雰囲気だったかもしれないけど、アレはどう考えてもNGだよ!?

 勝手に逃げようとして、夢人さんに抱きしめられて安心して、このままずっと……って、他には何も考えられなかったし!?

 それに、告白はもっとムードとか雰囲気とかある場所で夢人さんからしてもらいたいなぁなんて思っていたりも……

 

「アンタ、何にやついているのよ?」

 

「ひゃあっ!? ゆ、ユニちゃん!? 何時の間に!?」

 

 急に声がかけられたことに驚いて顔を上げると、そこには呆れたように私を見ていたユニちゃんがいました。

 慌てて周りを見てみると、近くにはロムちゃんやラムちゃん、ナナハちゃんもいました。

 

「ネプギアちゃん、大丈夫? ボーっとしていたみたいだけど……」

 

「だ、大丈夫だよ!? うん!? ちょっと考え事をしていただけだから!?」

 

「本当に? 今、ちょっと夢人っぽかったわよ。夢人のあの病気が移ったんじゃないの?」

 

「……あ、あははは」

 

 心配するロムちゃんと疑わしそうに見つめてくるラムちゃんの瞳が、私の心に突き刺さってくるよ。

 夢人さんぽいって、多分あの変になった時のことだよね?

 ほら、いつもアイエフさんやユニちゃんに叩かれていた時の変な笑い方をしている夢人さん……え、私そんなに変な顔をしていたかな?

 た、確かに、夢人さんに告白されるところを想像して少し締まりがない顔をしていたかもしれないけど、まさか声まで出していたのかな!?

 

「とりあえず、いつも通りのネプギアも来たことだし、みんなで夢人の所に行こうか」

 

「え、あの、いつもどおりってどう言う意味……」

 

「そうね。早く行きましょう」

 

「だから、あの……」

 

「夢人お兄ちゃんに会うのが楽しみだね、ラムちゃん(にこにこ)」

 

「まあね。夢人に会うのも久しぶりだし、偶にはルウィー

 

に来なさいよって思うものね」

 

「ねえってば!?」

 

 うぅぅ、何だかすごく扱いが悪い気がする。

 みんな酷いよぉ。

 このポジションは普通ユニちゃんなんじゃ……

 

「――ていっ!」

 

「アイタッ!? きゅ、急に叩かないでよ!?」

 

「アンタ、今また変なこと考えてたでしょ?」

 

「……そ、そんなこと、ない、よ?」

 

 ユニちゃんって、もしかしてエスパーなの!?

 私の考えを読むなんて!?

 

「本当にもう、アンタってば正直よねぇ! それで、何かアタシに言うことがあるんじゃないかしら?」

 

「ひょひぇめんなしゃい!? ひゃかりゃ、はひゃして!?」

 

「えー? もっと思いっきり引っ張って欲しいって言ってるみたいね。それなら遠慮なくやらせてもらうわよ」

 

「ひひゃ――いちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!?」

 

 顔を逸らした隙をつかれて、私はユニちゃんに思いっきり頬を引っ張られてしまった。

 上手くしゃべれないけど、私の言いたいことはちゃんとユニちゃんに伝わってるはずだった。

 それなのに、ユニちゃんは意地悪をしてわざと頬を引っ張り続ける。

 だって、今ユニちゃんすごくいい顔で笑っているもの。

 

「ユニちゃん、もうやめてあげて。ネプギアちゃん、すごく痛そうだよ」

 

「分かってるわ――よっと!」

 

「ぶっ!?」

 

 ロムちゃんに言われて、仕方なくと言った感じでユニちゃんは私の頬から指を離した。

 でも、安心したのも束の間、ユニちゃんはそのまま私の顔を挟みこむように両手で頬を叩きて来たのだ。

 伸ばされてひりひりとした痛みを覚えていた頬が余計に熱を持ってしまう。

 堪らず、私は痛みに涙が出てしまいそうになる。

 

「まったく、ネプギアとユニちゃんってば、いつもそうなんだから」

 

「仕方ないよ。ほら、ユニって不器用だから、ああいうコミュニケーションしか取れないんだよ。温かく見守っておこう」

 

「うーん、ツンデレってやつだっけ?」

 

「そうそう、ユニはツンデレツンデレ」

 

「――アンタ達ともじっくり話し合う必要があるわね」

 

 ラムちゃんとナナハちゃんの会話が、ユニちゃんの怒りに再び火を灯してしまった。

 いつの間にかいつもの私達になっていて、何だか少し安心してしまう自分がいる。

 ……でも、ユニちゃんももう少しスキンシップをソフトにして欲しかったなぁ。

 

「ネプギアちゃん、大丈夫? 痛いなら、わたしが魔法で……」

 

「ううん、そこまで酷くないから大丈夫だよ」

 

 涙目で頬をさすっていた私を心配して駆け寄ってくれたロムちゃんの優しさに、心が温かくなった気がする。

 

「コラ!! 待ちなさいよ、アンタ達!!」

 

「べーッだ! 捕まらないよーっだ!」

 

「ユニももっと頑張らないとね」

 

 残りの3人は仲良く追いかけっこしてるし、本当平和だなぁ。

 こう言うところを見ていると、私達もいつかお姉ちゃん達みたいな固い信頼関係で結ばれる日も遠くないと思う。

 最初はバラバラで、途中で色々あったけど、私達ももっと絆を深めていきたい。

 

「おっと、すっかり忘れるところだった――よっ!」

 

「ちょ、急に止まるんじゃ――っと!?」

 

「ごめんごめん。何時までもこんな所にいないで、早く夢人の所に行こう」

 

 急に止まったナナハちゃんに驚いて転倒しそうになるユニちゃんだったけど、なんとか地面に手をつくことに成功して難を逃れた。

 でも、今明らかにナナハちゃんが前に出した足に引っ掛かったよね?

 謝ってるけど、わざとだよね、ナナハちゃん?

 

「もー、ユニちゃんってば足が遅いわね。これで逃げ切ったわたしとナナハちゃんの勝ちね!」

 

「……まったく、今のはアタシが本気じゃなかったからに決まってるじゃない。アタシが本気を出したら、今頃アンタ達のほっぺもあの変態の舌みたいにべろんべろんに伸びきっていたわよ」

 

「トリックちゃんの舌みたいなほっぺ……ちょっと見てみたかったかも(どきどき)」

 

「ふふーん、負け惜しみにしか聞こえないわ。本当、ユニちゃんってば素直じゃないんだから」

 

「いや、でも、これが正しいユニの形なんだよ。今のはツンデレのツンの部分が表面化して素直になれないだけで、本音は……」

 

「――アンタは何変なことを勝手に分析してんのよ!!」

 

 ワイワイガヤガヤと、いつも通りのユニちゃん達。

 やっぱり、みんなと一緒にいる時が1番――あれ? 私会話に混ざれていない?

 え、もしかして、忘れられてる?

 いるのにいないって思われてるの?

 ま、まさか、そんなわけない……よね?

 う、うん! きっと大丈夫!

 今、私が会話に入ってもきっとみんなは快く受け入れてくれるもん!

 

「ユニちゃん、落ち着いて!? ユニちゃんがなかなかデレを見せてくれないのはみんな分かってるから!?」

 

「うるさい!! アンタまでアタシのことをツンデレって言うんじゃないわよ!!」

 

「イタッ!?」

 

 ――フォローしたのに叩くなんて理不尽だよ、ユニちゃん。

 

 

*     *     *

 

 

 ――まあ、そんなこんなんで私達は楽しくおしゃべりしながら夢人さんの住んでいるアパートに辿りつきました。

 何時見ても年季の入っている建物の様子に、夢人さんがちゃんと生活できているのかどうか不安になってしまいます。

 

「何をボーっとしてるのよ。ほら、さっさと入りなさいよ」

 

「あ、うん、ごめんね」

 

 アパートが崩れてしまわないかと不安を感じていると、ユニちゃんが急かすように私へと声をかけてきた。

 理由は、ここに着くまでに何故か私がみんなの先頭に立っていたからだ。

 そうなると、当然扉を開けるのは私なので、ユニちゃんが早く入れと急かすのも納得できる。

 

「ごめんくださーい。夢人さん、入りますよ?」

 

『あ、ああ、どうぞ』

 

 扉越しに聞こえてきた夢人さんの声が上ずっていたような気がするけど、多分私の気のせいだろう。

 深く考えず、私は扉を開けて……

 

「お、おか……」

 

「っ!?」

 

 ――すぐに勢いよくまた扉を閉めてしまう。

 バタンと強く閉めた扉の前で、私は激しくなる動悸を押さえようと必死に呼吸を整える。

 

 あ、あれ? 今のはなんだったの?

 え、部屋を間違えてないよね?

 私、ちゃんと夢人さんの部屋を開けたよね?

 

 アパートの入居者が夢人さんだけなのを知っていても、私は何度も部屋を間違えてないかを確認してしまう。

 当たり前だけど、私が今開けた部屋が夢人さんの部屋で間違いない。

 

「もー、何やってるのよ。早く入りなさいよ」

 

「ご、ごめん。ちょっと待ってて――すぅ、はぁ」

 

 いきなり扉を閉めてしまった私に、ラムちゃんは不満をぶつけてきた。

 でも、ラムちゃんには悪いけど、私にも少しだけ落ち着くための時間が欲しい。

 

 ……うん、さっきのは見間違いだよね。

 きっとそうに決まってるよ。

 よし、それじゃ、改めて夢人さんの部屋に入らなくちゃ。

 

 呼吸を整えて、さっきのことを気のせいだと言い聞かせながら、私が再び扉を開け……

 

「お……」

 

「っ!?」

 

 ――られず、また扉を閉めてしまった。

 しかも、さっき見た光景とまったく同じ物が目の前に広がっていたこともあり、私は扉が勝手に開かないように押さえつけてしまう。

 

 やっぱり、見間違いじゃなかったの!?

 でも、アレっていったい何なの!?

 どうしてあんなことが起こっているの!?

 

「んふふ……ネプギア、何かあったの?」

 

「な、何でもないよ!? うん、何でもない!?」

 

「そう、だったら、早く中に入らせてもらおう?」

 

 私の行動が面白いのか、ナナハちゃんは何故か少し笑っていたような気がする。

 でも、扉の奥に広がっていた光景に驚愕していた私にナナハちゃんのことを気にしていられる余裕はない。

 

「ネプギアちゃん、早く早く(わくわく)」

 

「う、うん。そうしたいのは山々なんだけど、ちょっと心の準備を……」

 

「まったく、愚図愚図しているんじゃないわよ。アンタが開けないのなら、アタシが開けてあげるわ」

 

「っ、だ、ダメ!? ダメだよ、ユニちゃ――むぐっ!?」

 

 いつも以上に瞳をキラキラさせているロムちゃんには申し訳ないけど、扉の奥の光景と向き合うための心の準備をさせて欲しかった。

 しかし、そんな風に1歩を踏み出せないでいた私の後ろから、ユニちゃんが代わりに扉を開けようとしてしまう。

 慌てて止めようとしたけど、誰かに口を塞がれてしまった。

 目の前にユニちゃんがいるから、背丈の問題で必然的に私を押さえているのはナナハちゃんだと分かる。

 でも、口を塞がれたせいで私はユニちゃんを止めることができない。

 

 離してよ、ナナハちゃん!?

 このままじゃ、ダメなんだよ!?

 このままだと夢人さんが……

 

「さあ、開けるわよ。夢人、入るわね」

 

「お邪魔します」

 

「やっほー」

 

 ユニちゃんが何の躊躇いもなく扉を開けて中に踏み入ると、続けてロムちゃんとラムちゃんも部屋に入って行く。

 ナナハちゃんに捕まっている私は必死に手を伸ばすけど、3人を止められない。

 そして、遂に私達の前に信じられない光景が広がったのでした。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様方!? ほ、本日はごゆっくりお寛ぎください!?」

 

 ――何故か、タキシード服を着ていた夢人さんが自棄を起こしながら私達を出迎えたのでした。

 もしかしたら燕尾服って言うのかもしれないけど、夢人さんは黒いスーツ姿で玄関に立っていたのです。

 前髪も全部後ろへと整えているので、恥ずかしさで赤くなっている顔がよく見えてしまいます。

 そんな夢人さんを見た私達の反応はと言うと……

 

「プッ、あははははは!! あ、アンタ、それ全然似合ってないわね!!」

 

「本当よ!! んふふふふ、笑い過ぎて涙が出てきちゃう!!」

 

 案の定、夢人さんの姿を見て、ユニちゃんとラムちゃんはお腹を抱えて笑いだしてしまいました。

 こう言う言い方は失礼ですけど、確かに夢人さんに今の服装はまったく似合っていません。

 私は2人みたいに目の前で笑いだすわけにはいかず、そっと夢人さんから目を逸らすことしかできませんでした。

 

「夢人お兄ちゃん、ナナハちゃんが持ってきた服がピッタリでよかったね(安心)。それと、わたしはかっこいいと思うよ。元気出して(ぽんぽん)」

 

「ロムの言う通りだよ。初めて着たんだから、私達が違和感を覚えて当然だよ」

 

「……あ、ありがとうございます、お嬢様」

 

 着ている服装の役になりきっているのか、夢人さんは項垂れながらもロムちゃん達をお嬢様と呼んでいた。

 一方で、私はと言うと、この状況を上手く飲み込めないでいた。

 まるで、私1人だけ仲間外れにされたような疎外感を覚えてしまう。

 

「ああ、ネプギアには内緒だったけど、今日1日夢人はこの格好で過ごしてもらうことになってるからさ」

 

「……えっ、それってどう言う意味なの?」

 

「だから、ホワイトデーのお返しとして、夢人には1日執事をやってもらうことにしたんだよ。まあ、真似事だけどね」

 

 ナナハちゃんの言っていることの意味がまったく分からない。

 執事とホワイトデー、いったいどんな関係があるんだろう?

 

「あまり深く考えちゃ駄目だよ。ベール姉さんのやっていたゲームのシチュエーションの1つだし、適当に面白そうだと思って夢人にお願いしただけだから――それと、はい、これはネプギアの分だから」

 

「……へっ?」

 

「バレンタインデーにネプギアだけがいい思いをした罰だよ。ネプギアはメイドだから、今日1日よろしくね」

 

 手渡されたメイド服一式を返すこともできず、私はナナハちゃんの笑顔の威圧に負けて頷くしかなかったのでした。

 

 

*     *     *

 

 

 正直、自分でも似合っていないことは自覚しているから、笑われるのは仕方ないと割りきっている。

 普通のスーツと同じ感じで着ればいいのかと思ったけど、どうしても執事と言うことを意識すると恥ずかしくなる。

 しかも、ユニ達を“お嬢様”だなんて呼ぶのはもっと気恥かしい。

 ……あっ、でも、ユニにはふざけて“ご主人様”って言った覚えがあったっけ。

 

「――お疲れ様です、夢人さん」

 

 ユニ達にいいように遊ばれながらもホワイトデーのお返しを渡してホッとしていると、メイド服を着たネプギアが声をかけてきた。

 俺と同じように1日メイドとして遊ばれたネプギアは、困ったように眉根を下げていながらも楽しそうに口元を綻ばせている。

 

「ネプギアもお疲れ。ごめんな、何だか変なことに巻き込んじまってさ」

 

「気にしないでください。最初はちょっと抵抗がありましたけど、今はちょっと楽しいかもです」

 

 はにかみながらスカートの裾を摘むネプギアに、俺の胸はトクンっと跳ね上がる。

 ネプギアのメイド服は露出の一切ない白と黒の地味な服装に思えるかもしれないけど、俺にはとても魅力的に映ってしまう。

 メイド服姿のネプギアを見れるのなら、俺はいつでも執事になりたいとすら思える。

 いや、でも、ドレス姿のネプギアを“お嬢様”って呼ぶのもいいかも……

 

「夢人さん?」

 

「――ハッ、いや、何でもない!? ちょ、ちょっと考え事をしていただけさ!?」

 

 危ない、もう少しでいつものように変な妄想をしてしまうところだった。

 さすがに今日は執事なんだから、自重しないと駄目だよな。

 何事も形から入るのが大事だろうし、例え無茶ぶりでもユニ達と約束したことなんだから、今日はしっかりと執事をしないといけない。

 

「ふふふ、最初は驚いちゃったけど、夢人さんは変わりませんね」

 

「え、それってどう言う意味なんだ?」

 

「教えません」

 

「ね、ネプギア!? ほ、本当にどう言う……」

 

「だから、教えませんよ。自分で考えてください」

 

「うっ」

 

 こ、これはいったいどういう状況なんだ!?

 悪戯っぽく舌を出すネプギアなんて、初めて見たんだけど!?

 俺、どこかおかしいのか!?

 そんな秘密にされるようなことが今の俺に起こっているってことなのか!?

 くっ、ネプギアの可愛さにドギマギしている場合じゃないぞ!?

 ユニ達に笑われるよりも、ネプギアに笑われる方がもっと恥ずかしい!?

 この状況を打開するためには、いったいどうすれば――って、そうだ!!

 

「ふふふ、そろそろユニちゃん達の所に戻りま……」

 

「――お、お嬢様!」

 

「きゃっ……え、えええ!?」

 

 ユニ達の所に戻ろうとしたネプギアを引き止めるため、俺は壁に手を押し付けて進めないようにした。

 これは所謂壁ドンって奴なのかもしれないけど、俺はネプギアを止めることしか考えてなかったせいで、この状況からどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

 

 この状況は非常にマズイ!?

 ネプギアもすごくアタフタしているし、このままだと俺が襲うと勘違いされてしまうかも知れない!?

 そうならないうちに、早く用事を済ませなければいけないのに、手が震えてポケットからアレを上手く取り出せない!?

 な、何か言わないと、このままじゃネプギアに嫌われる!?

 

「お、お嬢様、少しだけお時間をくださいませんか?」

 

「は、はい。ど、どうかしたんですか?」

 

「実はお渡ししたい物がございまして――これをお受け取りください」

 

 ようやく取り出せた物をネプギアの手のひらに乗せることができ、俺は安心して口元を緩める。

 

「ホワイトデーのお返しです。お嬢様――ネプギアに似合うと思うんだ」

 

 執事になりきって渡してしまうかと思ったけど、やっぱりネプギアのことを“お嬢様”って呼ぶよりも名前で呼びたくなった。

 俺が渡した物は、青く光る丸い髪留めだ。

 俺でも買える安物のガラス玉だけど、ネプギアに似合うと思って衝動で買ったものである。

 

「――ありがとうございます。嬉しいです」

 

「そ、そうか。それとさ、今度……」

 

「え、何か言いましたか?」

 

「っ、な、何でもない!? ほ、ほら、ユニ達の所に戻ろうぜ」

 

 安物のプレゼントなのに、まるで壊れ物を扱うかのように大事に抱えるネプギアに、俺の顔は熱くなってしまう。

 そして、つい口にしてしまったことを誤魔化しながら、ネプギアよりも先にユニ達の所に戻る。

 今の俺はおそらく耳まで真っ赤になっているだろう。

 ちゃんと言えずに誤魔化してしまったことは悔やんでしまうけど、次はちゃんと言えるようになりたい。

 

 ――今度は2人っきりで出掛けたいって。




という訳で、今回はここまで!
本当は昨日に間に合わせたいと思っていたのですが、遅れてすいません。
これも雛祭りの時と同じように、次のコラボ話を投稿した際に順番が入れ替わりますのでご注意ください。
それでは、次回をお楽しみに!
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