超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 番外編 作:ホタチ丸
ユウ様とのコラボ編もそろそろ終わりが見えてきました。
それでは、 勝負の前の様式美 はじまります
「それで、その夢人って人はいったいどんな人なの?」
エルは街へと向かう途中で、不意に疑問に思っていたことを投げかけてみた。
ネプギア達にとって大切な人であることは間違いないと思うけど、女装とか変態とか気になるワードが出てきてよく分からなくなってしまったのである。
「……うーん、一言で言うと、馬鹿?」
「いや、それじゃ分からないから」
「そう言われても、アイツはいろんな意味で馬鹿なのよ。突拍子もないことを突然すると思ったら頭が固くて融通がきかないし、うじうじ悩んでるくせに1人で抱え込もうとするところとか、後は……」
「――ああ、もういいわよ」
次から次へと流れだすユニの愚痴を、飛鳥はうんざりした顔で遮った。
正直にいえば、エルも飛鳥の気持ちがよく分かる。
知らない人に対する愚痴を延々と聞かされても、こっちが困っちゃうよね。
「ユニはそう言っているけど、実際のところはどうなの?」
「まあ、だいたいそんな感じかな。ユニが夢人のことを馬鹿って言うのは愛情表現の一種だか……」
「って、アンタは何勝手なことを言ってんのよ!?」
耀が隣にいるナナハに尋ねると、ユニが顔を真っ赤にして否定の叫びを上げた。
「お兄さんにとって、馬鹿って言うのはある意味で褒め言葉なんですよ。馬鹿だ馬鹿だって思うような行動でも、誰かのために全力で打ち込んでいくのがお兄さんなんですよ」
「当たり前だけど、誰にでもできるような行動じゃないからね。夢人君も完全に打算がなかったわけじゃないけど、いつも一生懸命だったから。そう言う姿が色々な意味で、馬鹿ってことなんだよ」
ナナハに詰め寄るユニを放置して、フェルとファルコムは柔らかくほほ笑みながら人物像を補足してくれる。
おかげで、エルの中で夢人さんの人物像の輪郭がつかめたような気がする。
「でも、よく分からないわ。あなた達が慕っているって言うのはよく分かるんだけど、もっとパッとした特徴ってないの? 例えば、特徴的な容姿をしているとか何か特別な力が使えるとか……」
「――うむ、それなら特別に1つだけ教えてやろう」
イメージが固まりきらない飛鳥が具体的な情報を要求すると、何故かトリックが自信満々に声を上げた。
「奴は吾輩の同士であり、共に切磋琢磨するライバルでもあるのだ。アクククク、初めて会った日のことは今でも鮮明に思い出せるぞ。そう、あの日も今日みたいに澄み切った青空が広がっておった。あの時奴に殴られたおかげで吾輩はより一層自分の理想を追い求めようと……」
「何をしみじみ話しだそうとしているのよ!! この変態!!」
「おおう!?」
不敵に笑いながら語りだすトリックを止めたのは、ラムの罵倒だった。
罵られた途端にトリックはだらしなく頬を緩めて気色の悪い声を出す。
傍から見ていたエル達も、さすがに今のトリックには引いてしまう。
「あの変態夢人を思い出させないでよ!! わたし、アレが1番嫌いなんだから!!」
「そうなの? わたしはそうでもないけど……」
「ロムちゃんはもっと気にしてよ!! アレだよ!! おっぱいとかみんなの前で言っちゃった夢人だよ!! あんなの夢人じゃないじゃないの!!」
「そんなこと言っちゃダメだよ(めっ)。ちょっと変になっても、夢人お兄ちゃんは夢人お兄ちゃんなんだから」
「そうだけど!!」
……何だか、エル達を置いてけぼりにしてロムとラムが変なことを言い合い始めた。
夢人さんって人のことなのは分かるよ。
でも、その内容が全く分からない。
「……あー、ごめんなさい。とりあえず、その夢人さんについて知っていることを初めから話してくれないかしら? 話を聞いているとまたよく分からなくなっちゃって」
「まあ、こればっかりは仕方ないか。それじゃあ、夢人君に最初に会ったネプギアから話をしてもらおうか」
「……へっ、え、えっと、なんですか?」
額に手を添えて弱音を吐く飛鳥に、ファルコムは苦笑した。
でも、ファルコムに話を振られたネプギアはと言うと、エル達の話をまったく聞いていなかったらしい。
今もゲーム機のような物をチラチラと見ていて、妙にそわそわしている。
「アンタね、夢人とアカリが心配なのは分かるけど、少しは落ち着きなさいよ」
「そうだよ。ケイブからも、ただのど自慢大会に出て歌うだけってメールが来たし、心配し過ぎだよ」
「で、でも……」
「あーもー、本当にアンタって奴は面倒くさいわね!!」
ユニとナナハに詰め寄られても、ネプギアはシュンとして項垂れるだけだった。
そんなネプギアに、ユニは呆れたようにため息をつく。
「はあ、アンタのそう言う悪いところは妙に夢人に似ているわよね。まったく、どっちが似たのか知らないけど」
「確かに、夢人もネプギアも変な時にだけ行動力あるものね」
「え、それってどういう意味!? それに変な時ってどう言うことなの!?」
ユニからのアイコンタクトを受け取ったナナハはにやりと笑いながら言葉を続けた。
さすがにネプギアも反論しようとして顔を上げるが、2人は取り合おうとしない。
それどころか、2人はロム達の方へと目配せをする。
「そーよねー、ちっちゃいことで悩んじゃうところとか、本当にそっくりよね。ねえ、ロムちゃん?」
「うん、ネプギアちゃんと夢人お兄ちゃんはそっくり(にっこり)」
「2人まで!? そ、そんなこと言われても……」
「まあ、否定できないですよね。2人とも墓穴を掘るタイプですし」
「それでも何とかしちゃうところが2人の凄いところなんだけど、その方法も微妙だったりする時があるからね」
「フェル君やファルコムさんまで!?」
……何だか、圧倒されちゃうなぁ。
俯いていたネプギアがいつの間にか顔を上げてるし、元気になっている。
それに、みんな笑ってる。
不意に胸がチクリと痛んだような気がするけど、それ以上に温かくなってくる。
ネプギア、ユニ達みたいな友達が傍にいて本当によかったね。
「うむ、ところでそののど自慢大会には幼女は出場するのだろうか?」
『……なんか色々と台無しだと思うんやけど』
『同感~』
「ぬら」
――あと、どんな状況でもトリックがぶれないことはよく分かったよ。
* * *
ケイブから突然夢人くん達を大会に参加させて欲しいって言われた時は驚いたけど、それ以上にボクには信じられないことが起こっている。
別にのど自慢大会が急な悪天候で延期になったり、参加者が出場を取りやめたりしているわけじゃない。
空は快晴だし、出場者や観客のみんなのモチベーションも高まっているように思える。
でも、ボクの目の前に広がる光景はそれらすべてを嘲笑うかのような不吉なフラグへと変えてしまう。
「ふん、ふふーん、ふーん」
――出場するはずの夢人くんが余裕で鼻歌を歌っている!?
こう言うのはアレだけど、夢人くんは自信を持っている時が1番怖いと思うんだよね。
慌てても突発的な事態への対処は上手いんだけど、前もって準備してあることになると予定通りに行動に移せないみたいな……上手く説明できないけど、夢人くんが自信満々の時はとにかく何か悪いことが起こりそうで怖い。
「おっ、ビビってるかと思ったら結構余裕そうじゃねえか。お前にしては珍しいな」
「確かに緊張はするけど、そんなに気合入れてるわけじゃないからな。それに、歌には自信があるからさ」
「へえ、そうだったんだ。何だか意外だね」
「おいおい、2人とも。勇者くんにだって、取り柄の1つくらいあるに決まっているだろう。そんな野暮なことを言ったら失礼じゃないか」
「お前が1番失礼だよ!?」
夢人くんとユピテルのみんなが楽しく話しているところで悪いんだけど、ボクは嫌な予感が止まらない。
むしろ、さっきよりも不安になってきた。
「ね、ねえ、本当に夢人くんは大丈夫なの?」
「……分からないわ」
「ええっ!? それじゃあ、どうして歌対決なんてことにしたの!?」
隣にいたケイブに小声で話しかけると、思いっきり顔を逸らされてしまった。
そもそもケイブが言い出したことなのに、どうしてそんなに自信がないの!?
「他に方法が思いつかなかったんだから仕方ないでしょ。それに、負けたからと言って夢人が怪我をするわけじゃないわ」
「それはそうだけど……」
「だから、後は任せたわ。私は警備の方に戻るから――5pb.も頑張りなさいよ」
「ちょ、ちょっとケイブ!?」
呼び止める間もなく、ケイブはサッと舞台裏から飛び出して行ってしまった。
明らかに逃げたよね?
後の責任を全部ボクに任せて、言い出した張本人は逃げたよね?
酷いよ、ケイブ!?
「でも、歌に自信があるって言うのは素直にすげーって思えるよ。お前がどんな歌を歌うのか楽しみにしているぜ」
「おう――って、そう言えば、曲の方はどうすればいいんだ? 参加登録をした時は何も聞かれなかったけど……」
「何を言っているの? 参加者は全員楽器持参かアカペラだよ」
「……はい?」
カケルくんの言葉に表情を凍りつかせた夢人くんを見て、ボクは自分の予感が的中したことを確信した。
あの顔は絶対予想外のことが起こって混乱しているよ。
うん、いつもの夢人くんらしい反応だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? え、それじゃ、何も持っていない俺はアカペラで歌うしかないってことなのか!?」
「いえ、あなた達みたいに急な参加者のために楽器のレンタルもしていますよ」
「ほ、本当か? はあ、よかっ……」
「でも、お前って何か楽器を使えたのか?」
「――はい、楽器なんて使えないです!?」
頭を抱える夢人くんの言葉に、ボクは少しだけ首を傾げてしまう。
B.H.C.を使った時、夢人くんは確かにギターを掻きならすような仕草をしていたはずだ。
それなら、ギターの演奏はできるんじゃないのかな?
「よう、何騒いでるんだよ?」
慌てる夢人くんに、一緒に参加することになった逆廻くんが笑いながら話しかける。
その手にはレンタルしてきた青いギターが握られている。
「も、もしかして、君はギターが弾けたりしちゃったり……」
「いや、適当に選んできただけさ」
「そう、なのか?」
「ああ、これならそれっぽく弾いてりゃ何とかなるだろ」
「――そんないい加減な理由!?」
楽しそうに笑う逆廻くんとは対照的に、夢人くんの顔色は悪い。
確かに聞いているだけだと、見栄えだけで選んだように思えるもんね。
「そう驚くことじゃないだろ? 見た感じお前も楽器を使いながら歌うのが得意って訳じゃなさそうだし、条件的には同じだ。だったら、そこからどれだけ自分を有利な状況へと持っていけるかが勝敗を別けることになる。生憎だが、勝負事に手は抜かねえ主義でな――全力で勝ちに行かせてもらうぜ」
「うっ、それはそうだけど……」
「まあ、それでもやる気がでねえって言うのなら、賭けをしようぜ」
にやりと逆廻くんは意地悪そうに笑う。
もう嫌な予感しかしないよ。
「シンプルに勝った方が負けた奴に1つだけ命令できるってのはどうだ? 単純だからこそ、スリルがあるだろ」
「……因みに、君が勝った場合、俺にどんな命令をするの?」
「――そんなの全力のワンパン勝負に決まってんじゃねえか」
「やっぱり!?」
……ケイブ、歌勝負にした意味がなくなりそうだよ。
このままだと、確実に夢人くんが大怪我を負って入院しちゃう。
もう絶望しか残ってないよ。
「そんじゃ、アンタが俺に勝つためにどんな歌を歌うのかを楽しみにしておくぜ」
「ちょ、ちょっと待って!? 賭けはやっぱりなしの方向で……」
「勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ」
夢人くんの制止の声も無視して、逆廻くんは楽しそうに笑いながら歩いて行ってしまう。
逆廻くんの言葉は正しいけど、夢人くんとしては一気に危ない状態になってしまった。
――勝てばそれで終わりだけど、アカペラで上手く歌える自信はない。
――負けたら逆廻くんと全力で戦って、明日からしばらく入院生活を約束されている。
さっきまでの別に負けてもいいかな、みたいな雰囲気はもう微塵も感じられない。
真剣に勝つための方法を考えようとしているけど、焦って何も思いつかないって顔をしているように見える。
だから、ボクは1つだけアドバイスを送ることにした。
「夢人くん、上手く歌おうとしちゃ駄目だよ」
「えっ?」
「夢人くん達が参加するのはのど自慢大会であって、カラオケ大会じゃないんだよ。だから、上手い下手よりももっと大事なことがあるんだ」
きょとんとしている夢人くんに、ボクは諭すように言う。
この大会の目的は歌の上手い人を決めることじゃない。
犯罪組織がなくなり、平和になったリーンボックスを盛り上げていこうって言う目的がある。
だから、参加者に求められるのは歌の良し悪しじゃなく……
「心にどれだけ響かせるかが重要なんだよ。楽しい歌でも悲しい歌でも、夢人くんの思いを声に出して表現すればいいんだよ」
「思いを声に、か」
「うん。採点はボク達以外にも集まってくれたみんなの投票も入るからどうなるか分からないけど、のびのびと楽しんで歌えばいいと思うよ」
「そっか……うん、そうだな。ありがとう、5pb.。おかげで、どうすればいいのか分かった気がするよ」
にかっと笑う夢人くんに、ボクの安心して頬を緩めた。
歌勝負については助けられないけど、気持ちを前向きにしてあげることぐらいはできたと思う。
「そうと決まったら、早速楽器をレンタルして……」
「パパ!!」
「え、アカリ? お前、ケイブと――その手に持っているのは何だ?」
ケイブと一緒にいるはずのアカリちゃんがよちよちと歩きながらやって来た。
その手に持っている物を見て、夢人くんは頬を引きつらせている。
実を言えば、ボクもまた嫌な予感がしてきた。
多分、アカリちゃんの次の言葉は……
「パパのがっき!! わたし、えらんできたよ!!」
そう言って笑うアカリちゃんの顔はとても無邪気に輝いていた。
でも、問題はその楽器だった。
――なんでタンバリンを選んできたんだろう。
という訳で、今回はここまで!
期間的な意味で長引かせてしまって、書かせてもらっていますユウ様には申し訳ないです。
いよいよクライマックスです。
どのような形になるのか、次回をお楽しみに!