超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 番外編 作:ホタチ丸
今回で遂にコラボ編が終了です。
それでは、 去り際は鳥のように はじまります
「おーい!? 誰かー!? 誰かいませんかー!? ……ハァ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
アベルは項垂れながら自らの不幸を呪った。
無駄な抵抗と分かっていながらも叫び続けて喉はカラカラ。
得意の魔法で何とかしようとしても、こんな摩訶不思議な状況で役立つ呪文は存在していない。
八方塞のまま、アベルは空中に開いた“穴”から上半身だけをゲイムギョウ界に突き出していたのであった。
当然、下半身は箱庭に繋がっているはずなのだが、すぐ近くに黒ウサギの姿は既にない。
助けを呼ぶと言っていたが、アベルには黒ウサギが逃げたようにしか思えない。
その証拠に青空は既に綺麗な茜色に変わろうとしている。
鮮やかな色彩が余計に虚しく感じられ、アベルの目に涙が浮かんでしまう。
「僕、これからどうなるんだろう」
弱音をこぼすアベル。
心の中で飛鳥達のように十六夜のことを放っておけばよかった、と後悔すらしてしまっていた。
もしかして、一生このまま過ごすんじゃないかと頭の中で嫌な予感がよぎってしまう。
「――よう、随分と面白いことになってんな」
だが、そんな絶望も聞こえてきた声に吹き飛んでしまう。
アベルがガバッと勢いよく顔を上げると、そこにはいつものようににやりと笑って片手を上げる十六夜の姿があった。
「うわぁ、アベルさんってそういう趣味があったの?」
「変なの」
『見事に嵌まっとりますなぁ』
「さすがにちょっと気持ち悪いかも」
『足とかどうなってるの?』
よく見れば、十六夜の後ろには何故か飛鳥達の姿もあった。
十六夜が見つかっただけでなく、アベルはようやくこの状況を脱することができそうだと思った。
しかし、アベルの涙は止まらない。
嬉しいし喜ばしいはずなのに、次々と浴びせられる罵倒の数々に心が折れそうになってしまう。
「おいおい、裏側はどうなってんだ? まさか本当にそんな不気味に半分になっちまったわけじゃねえだろ?」
「やだもう、そんなことを言わないでよ。晩御飯が食べれなくなっちゃうじゃない」
「私もご飯前には遠慮したい」
「エルはご飯を食べた後でも見たくないよ」
「――って、待ってよ!? 色々と言いたいことはあるけど、待ってってば!?」
好き勝手言い放題の十六夜達に、アベルも絶句している暇はない。
このままだと色々と不名誉な称号を頂いてしまうと危惧したのだ。
「とりあえず、みんな助けてよ!? 僕、ずっとこのままでどうしたらいいのか……」
「えっ、それって自分でやってたわけじゃないの?」
「そんなわけないじゃないか!? 僕にそんな趣味はないよ!?」
心底驚いたと言わんばかりの飛鳥に、アベルの心は深く抉られてしまう。
顔を真っ赤にして否定するアベルが面白いのか、十六夜はヤハハと笑って白い歯を見せる。
「マジかよ。てっきり、遂に目覚めちまったんじゃないかって思ったぜ」
「遂にって何!? 今までそんな風に見られてたの!?」
「まあ、それは別にどうでもいいが、お前の下半身はちゃんと箱庭に繋がってんだろ?」
「どうでもよくないよ!? ――ハァ、うん、そうだけど」
自分の不幸を笑い飛ばす十六夜に、何を言っても無駄だと思ったアベルは深くため息をついた。
それでも律儀に答える辺り、アベルも十六夜達との関わりに慣れてしまったのだろう。
すると、十六夜はフッと柔らかく頬を緩めながら口を開く。
「なら、帰るか――箱庭によ」
* * *
時間は少し遡り、夢人が歌い終えて舞台裏に戻って来た時のことだった。
ステージの上で歌を披露すると言う緊張感から解放されても尚、夢人は興奮を隠せなかった。
最初はどうなるかと思っていたが、終わってみれば歌い切った達成感が胸に溢れてきたのである。
激しく脈打つ鼓動を押さえようと胸に手を当てていた夢人に、十六夜はヤハハと笑いながら近づく。
「何だよ! あんなに自信なさ気だったのに、随分と思い切りのいい歌うたいやがって!」
「え、あ、うん――ダァッ!? ちょっ、痛いって!?」
十六夜にバシバシと背中を遠慮なく叩かれ、夢人は思わず悲鳴を上げてしまう。
いきなりの不意打ちでもあったため、余計に痛く感じてしまっていた。
「そんなに痛いか? これでも軽くやったつもりなんだぜ」
「……いや、軽く人を吹き飛ばせる君の軽くは充分に強いと思うよ」
悪びれた様子も見せない十六夜を見て、夢人は呆れたように肩を落とした。
歌い切った高揚感も治まり、一気に疲れが出てきたのである。
(さて、これからどうするか)
そんな無防備を晒している夢人に対して、十六夜はこれから先のことを考えていた。
歌勝負で自分が負けたとは思っていない。
1度ルールを決めた以上、それを破ってまで夢人のブレスレットに触れようとも考えていない。
しかし、十六夜には1つだけ腑に落ちないことがあった。
――夢人の背中に触っても、十六夜は何も感じなかったのである。
別に叩いた感触がなかったわけではない。
幽霊でもあるまいし、生身の人間なのだから触れるのは当然だろう。
だが、十六夜は夢人にアカリやブレスレットのような違和感を感じなかったのである。
つまり、それは夢人がただの人間であることを十六夜が理解するには充分な証拠だったのだ。
(何とも分かんねえ野郎だな。ガキやブレスレットが特別なだけで本人は平凡ってか? ――いや、そんなはずはねえ。偶然なんてつまらねえもんで片づけられるような安っぽい感覚じゃなかった。つまり……)
「どうかしたのか?」
「いや、何でもねえよ」
思考の末に結論を導き出した十六夜であるが、そんな様子は全く見せようとしない。
不思議そうに首を傾げる夢人を前にしても、十六夜は笑って話を終わらせる。
「えっと、1つ聞きたいことがあるんだけど……」
「聞きたいこと?」
会話が途切れ、少しだけ居心地が悪そうにしながらも夢人は十六夜へと声をかけた。
突然のことで目を丸くする十六夜に、夢人は躊躇いがちに口を開く。
「もしかしたらなんだけど、十六夜君って日本の学生だったりする?」
「……はあ?」
「あっ、ごめん。変なこと聞いちゃって……」
「そんなの見りゃわかるんだろう。元、がつくがな」
「って、ええっ!? 本当にそうだったの!?」
まさか自分の考えが当たっているとは思えず、夢人は目を大きく見開かせて十六夜を凝視してしまう。
すると、十六夜は呆れたように肩をすくめる。
「あのなあ、普通言わなくても気付くようなもんじゃねえのか? コレ、どこからどう見ても学ランだろ」
「いや、それは分かるんだけど、俺の知っている学生とかけ離れ過ぎてて……」
学ランの襟を摘む十六夜から、夢人は視線を逸らしてしまう。
夢人の知る学生は軽い力で人を吹き飛ばしたりしないので、十六夜のことを学ランを着ているだけのゲイムギョウ界の住人としか認識していなかったのだ。
だが、十六夜本人に自分の予想を肯定され、夢人の中で学生に対する常識が崩れかけてしまう。
「ったく、そんなつまらねえことを聞くんじゃねえよ。一瞬、何を言われたのか分からなかったじゃねえか」
「本当にごめん。でも、それならどうして十六夜君は……」
「――おっと、そっちが質問してばかりじゃアンフェアだろ? 次は俺から質問させてもらうぜ」
続けて質問しようとする夢人の言葉を遮り、十六夜はニッと口の端を持ち上げた。
「アンタにとってそのブレスレットはどんなもんなんだ?」
「コレがどんな物なのか、か……そうだな、うん」
十六夜の意図が分からず、最初はきょとんとしてしまう夢人。
しかし、すぐに慈しむようにブレスレットに目を落とし、優しく触れながら答える。
「大切な――そう、大切な贈り物だな」
改めて言い直すほど、夢人は右手首に巻かれたブレスレットに強い思い入れがある。
大切な娘の1人――フィーナが最後に残してくれた物なのだから、それも当然だろう。
「なるほど、贈り物……贈り物ねえ」
夢人の答えを聞いて、十六夜は1人静かに納得していた。
分からなかった謎を解く鍵を手に入れた気分になったのである。
『それでは、のど自慢大会も最後の出場者となりました! では、最後はこの子――アカリちゃんにお願いしたいと思います!』
「……はい? って、アカリ!?」
聞こえてきた5pb.のアナウンスに、フィーナのことを思い出していた夢人は驚きの叫びを上げてしまった。
舞台裏からこっそりとステージを覗くと、そこには確かにアカリが両手でマイクを持って立っている。
『うにゅ! わたし、がんばる!』
『曲は【はじめてのチュウ】……って、こんなタイトルの歌をこの子に歌わせてもいいのか?』
* * *
「――ってなことがあってよ、思わず笑っちまったぜ」
「へえ、それは随分と楽しんできたじゃないですか」
ヤハハと笑いながら十六夜は黒ウサギへと話しかける。
黒ウサギもほほ笑ましそうに目を細め……
「って、何をやっていたんですか、このお馬鹿様!?」
――られるわけがなく、問答無用で十六夜の頭をハリセンで叩く。
場所は不気味に開いていた“穴”があった箱庭の森の中。
近くには呆れた様子で十六夜達を見つめる飛鳥や、我関せずと三毛猫とコルルを撫でる耀とエル。
……そして、仰向けに倒れるアベルの姿しかない。
しかも、アベルの顔はまるで何かに蹴られたかのように見事な足痕がついている。
「どれだけ心配したと思っているんですか!? そんなに黒ウサギを困らせて楽しいのですか!? 十六夜さんのせいで、美味しいはずのご飯もあまり喉を通らなかったんですよ!?」
「でも、食べたんだろ」
「食べたのよね」
「食べたんだ」
「食べたのは食べたんだ」
「――当たり前じゃないですか!! ご飯を抜くなんて考えられませんよ!!」
開き直ったようにクワッと目を見開く黒ウサギに向ける十六夜達の視線は冷たい。
慌てて失言に気付いた黒ウサギが両手で口を覆っても後の祭りである。
「はあ、まあそれはともかくとして、結局あの“穴”は何だったのかしら?」
「何も分からなかったね」
「調べようとしても“穴”自体もなくなっちゃったし」
ゲイムギョウ界と箱庭を繋いでいた“穴”があった場所を眺めながら、飛鳥達はネプギア達のことを思い出す。
のど自慢大会はそれまでの盛り上がりもあり、アカリが最も高評価を得る結果に終わった。
当然、歌唱勝負大会ではなかったため、夢人と十六夜のどちらが優れていたかの結果は公表されていない。
つまり、引き分けに終わってしまったのである。
そして、アカリが5pb.に抱えられながらユピテルのメンバーとも最後に歌を披露して、のど自慢大会は終了を迎えた。
大会が終了した後、ネプギア達はすぐさま夢人へと詰め寄った。
夢人自身、まさかネプギア達がいたとは思っていなかったため慌ててしまい、いつもの漫才のようなやり取りをしながら騒ぎ始めてしまった。
一方で、十六夜は近づいてきた飛鳥達に対して別段驚いた様子も見せず、こう言い放ったのである。
【こんな所で何やってんだ? さっさと帰るぞ】
自分勝手な言い分に怒りを露わにする飛鳥を無視して、十六夜は夢人達を遠巻きに見ていたファルコム達に一言を断わりを入れて、さっさとアベルの嵌まっていた“穴”に向かってしまったのである。
そして、“穴”に嵌まっていたアベルの顔面を十六夜が蹴り抜き、無事に全員で箱庭に帰って来たのが事の顛末である。
「まるで夢みたいな出来事だったわね……誰かさんのせいでちゃんとしたお別れにならなかったけど」
「ちゃんとさよならできなかったなぁ」
「せっかくロムとラムにもっと色々な子達のことを紹介してもらおうと思っていたのに」
「お3方も何をのんきなことを言ってるんですか!! 皆様も十六夜さんと同罪ですよ!! これからはどこに向かうのかを黒ウサギに話してから出かけてください!!」
「お前は俺達の母親かっての……まあ、いつまでもこんな所にいないで、さっさと帰って飯にしようぜ」
森の中で騒いでいるのにも飽きたのか、十六夜はポケットに両手を突っ込んだまま歩きだす。
その背中にはゲイムギョウ界に対する未練など微塵も見られない。
「……薄情な奴ね。出会いは一期一会と言うけど、もう少し感傷に浸らせなさいよ」
「感傷だ? ハッ、そんなもんは必要ねえよ」
「どう言うこと?」
飛鳥の非難を鼻で笑い飛ばし、十六夜は足を止めて振り返る。
十六夜は楽しげに口元を歪め、耀の質問に答える。
「アイツらにはまた会える、多分な」
「……多分、って適当すぎるわよ」
「勘だからな。でも、馬鹿には出来ねえぜ。ファルコムだってあっちこっち行ったり来たりしてるみたいだしよ」
「それは多分ファルコムにかけられている呪いだと思う」
「あ、あははは、さすがに船に乗った途端にいなくなったのを見たら、ね」
ヤハハと笑う十六夜の感化され、飛鳥達も表情を綻ばせ始める。
適当な言い方だが、十六夜の言葉を聞いてまた夢人達に会えるような気がしてきたのである。
(今度はちゃんと見せてもらうからな、お前の贈り物――お前だけのギフトをな)
十六夜は夢人の右手首に巻かれていたブレスレットの正体を半ば確信していた。
しかし、それが正解かどうかを確かめる術は既にない。
答え合わせなんて、ありきたりなことで満足もできない。
だから、十六夜は次に夢人と会った時に期待する。
自分の予想を遥かに超えていてくれることを……
「ちょっと待ってください!? まだ黒ウサギの話は終わってないんですよ!?」
「はいはい、それよりも腹減ったから飯が先だっての」
「それじゃ、次はお風呂ね」
「お風呂上りには冷たいデザートを所望する」
「次はふかふかのお布団にごろんとなりたいなぁ」
「そして、気がついたら朝日が出ていると言うわけですね? ――もう、いい加減にしてくださいよ!? 今日と言う今日は本気で皆様に黒ウサギの苦労を理解してもらいますからね!!」
ギャーギャーと喧しく騒ぐ黒ウサギさえ懐かしく思え、十六夜達の表情に笑みがこぼれる。
顔を真っ赤にして怒鳴る黒ウサギから逃げるように、十六夜達は自分達のホームへと駆け出すのであった。
「……ぼ、僕を、忘れない、で」
――ただ1人、ピクピクと体を痙攣させるアベルを残したまま。
という訳で、今回はここまで!
最後は駆け足になりましたが、これにてユウ様とのコラボは終幕となります。
私が期間を延ばしてしまったせいで最初の構想とは違った着地点になってしまいましたが、いかがだったでしょうかね。
そして、本編の再開をお待ちになっていた皆様方、お待たせいたしました。
次の投稿から本編を再開いたしますので、どうぞお楽しみに!