一部、原作と乖離している部分もあるかもしれませんがご了承ください。
また、ルートとしては夢ルートを想定しています。(EternalHeartではどのルートでも同じような状況になるように表現されていますが)
満月が昇っている。
金色の満月。やわらかい、春の夜のような。
そう、春だ。
桜が舞っている。
絹織物の月影の中、わずかに紅をさしただけ、白雪の花びらたちが舞っている。
桜のひとひら。
雪のひとひら。
見分けはつかない。見分ける必要もない。
金と黒と白の漆絵の世界に、遠く誰かの歌と、蒸気機関の音が響いていた。
「こさめ、こもも、あんたたち頭良いんだから月ヶ咲の大学ぐらい行けるでしょ?」
なんの気まぐれか私たちの進路を聞きはじめたお母さんの感想はそんなものだった。
「でもお母さん、私は」
「こもも、これ持ってなさい」
私の反駁を無視して、お母さんは手の中に収まるぐらい小さな瓶を取り出し、姉さんに渡した。
「何これ?」 砂のようなものが入っている。灰色。わずかに金属光沢が見える。ちょっと不思議だが、それ以上に見ていて胸がざわついた。
「お母さん、これ…」
「雲雀ヶ崎星天宮名物、星の砂、ってね」
「ええええー! まさか、お母さん!」
姉さんが卓袱台を蹴飛ばしそうな勢いで立ち上がりいなくなる。私はそういう所作はしないわけだけど、気持ちは同じだった。
「あああー!!」と遠い叫びを聞きながら、私は同席していた雪菜先輩の様子を伺った。放心しているようだった。
「……やったのは一昨日ですか?」
「お、名推理」
「一昨日から雪菜先輩の様子がおかしかったですからね。その前からもなんか緊張している様子でしたし。……どうして雪菜先輩にやらせたんですか?」
「そりゃ自分でやったら手が汚れるから」
私も腰をあげた。
「ーーってのは冗談よ? 座りなさい? こももじゃなくてあんたが立つとシャレにならない感じで嫌ね……。ああ、でも、こさめと同じで雪菜もシャレにならないところがあるから、先に巻き込んでおこうと思ったわけよ」
「……どっちにしてもロクデモナイ、ですね」
「親に言うセリフじゃないわよ、それ」
「雪菜先輩、母が申し訳ありませんでした」
道義的な言葉を吐く道義的とは言いづらい母親を無視し、私は先輩に頭を下げた。
しかし意外にも、私に話しかけられてやや意識を取り戻した様子になった先輩は、「いや」と首を振りながら言った。
「いいんだ、こさめ、私も必要だと思ったからやったんだ」
「どういうことですか、それ」
のしのしと帰ってきた姉さんが、憤りを圧縮したような声音で問いかけた。
「私も万夜花さんに賛成だったってことさ。……ある程度は。経緯や事情はどうあれ、君たちは普通の選択肢だって持っている。何らかの形でこの神社を継ぐとしても、それだけが君たちの人生ではない」
「なんですか、それ。意味がわからないです」
切り捨てるような姉さんの言葉。だけど私も、雪菜先輩の言うことがわからないという点では同じだった。そんなばっさり言うことはないと思ったけど。
雪菜先輩も言葉に迷っているようで、時々見せる、普段の凛とした様子とは逆の、気弱そうな笑顔で言うのだった。
「なんだろうね。私もよくわからないよ」
「まあ、とにかく!」
そこでお母さんが強引に場を引っ張った。
「母親命令よ。あんたたちは月ヶ咲の大学とかを見てくること。お小遣いは十分にあげるから遊んで来なさい。そろそろ大学祭もあるから良いんじゃないの?
あ、おみあげにポプラ並木ってお酒買ってきてね」
最後まで無茶なお母さんだった。