「うわ、やっぱりこっちの道は通れそうにない…っていうか、通りたくないわね」
「あっちから行きましょう。たぶん行けるはずよ」
姉さんが私の手を引いて進んでいく。はじめて来た場所のはずなのに迷いがない。というよりかは、道を選ぶセンスがいいのだ。そういった機転を働かせるほど、今の姉さんは大学祭と同時に行われている学部展示に興味を持っているということだ。
姉さんはつれない素振りをしていても、いざ着手したりするととたんにのめり込んだりする人だ。今回もそういうことなのか、あるいは、
「……今まで見た中ではどこが一番面白そうですか、姉さん?」
「そうねえ…、はじめはどうせだったら医学部かなと思ったけど、薬学部も面白そうだし、理学部とかも良いわよね」
「理系寄りですね」
「こさめは文系よね。図書委員やってさらに本にも詳しくなったりもしてたし」
「ええ、まあ……」
だからといって文学部に興味を持った…ということもない。今の私にあるのは…当惑。
そればかり。
強くなっていく。
「どうやらここはなんとか通っていくしかないみたいね。でないとすごく遠回りになるわ。こさめ、良い?」
「はい、姉さん」
私は素直に応える。だけど……。
多くの人たちとすれ違っていく。雲雀ヶ崎で見るよりはるかにたくさんの人たち。この人たちはそれぞれの人生や物語、夢や目標を持ってここに来ている。この人たちにとっては、私というものも世界の片隅の取るに足らないもので、それよりも力を尽くすべきことを知っている。
この人だかりの中を歩いていく姉さんもまた、きっと、ずっと同じ次元に生きてきた。姉さんにとっても世界とはそういうもの。普通のこと。
でも私は……どうだっただろう。
私は……違う。そう意識した時、足が止まった。足が竦んだ。
……待って、姉さん。
「姉さん…」
「え…?」
そのとき、私の眼前を白い何かが過ぎ去った。
思わず足を止め、目で追いかける。
ひら。
ひら。
ひらり。
それは一つではなかった。いくつも、舞う。ひとひら。それは……雪。
「これは…姉さん……っ?」
「こさめ?」
気づけば、私は姉さんと繋いだ手を離していた。訝しげな表情の姉さんと目が合った、その瞬間、風、白い光の影が――私を世界から切り離した。
「こさめーー!!」
視界が晴れたとき、辺りは一面の銀世界だった。
場所は同じようだった。けれど、あんなにたくさんいた人々の姿はなく、出店の屋台もなく、雪に覆われた大学の建物だけが並んでいた。
白い、白い、広い、世界。
雪が降っている。
雪が降り続けている。
微かに虹色の光をまとう六花は、触れても冷たくなく、手や服を濡らすことなく消える。雪のようだが雪ではないようだ。それはまるで……光。空から降る様はまるで。
「星の光……?」
空もまた青く、白く、不思議な光を放つ水晶細工だった。私の知る星ではない。でも、知っている気もする。それは、私が私というような存在だから。これは……異なる星の光景。
――歌が聴こえる。