月に桜、ありふれた初夏の小旅行   作:白亜迩舞

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かたん。かたたん。

 

 

枕木と鉄路の上を走る音がまどろみの中に響く。繰り返し。

雪の幻のあと、少しだけ大学祭をまわって、私たちは帰路についた。雪の幻景を歩いて少し疲れてはいたけど、自分の在り様を決められたので、少しだけでもその気持ちで大学を見たかった。どこか充実感のある気持ちでシートに座ったあと特に会話はなく、ほどなくして姉さんはまどろみ始めた。私も、気を抜くと姿が揺らいでしまうかもと思いつつ、人と同じように、姉さんと同じように、瞼を降ろし……

 

 

 

 

 

 

 

――鼓膜を高く震わせる汽笛の音に目を覚ますと、景色がまた変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木と、薄いクッションがついた椅子の並ぶ、古風な内装。まるで、ひと昔前と資料などで見る蒸気機関車の装い。いや、それそのものだろうか。

車窓から外を伺うと、深い闇と、それを埋め尽くすような光の粒。万華鏡の景色。ややあって、それが万華鏡ではなく星空と気づいたけれど、この星空は上方だけではなく下方にも広がっていた。私は……どうやら星空の中にいる。しかも、進行方向の後方に青い星……地球が見えた。

がらら、と連結部のドアが開いて、小さな少女が入ってきた。古風な列車車内に似つかわしい「車掌」のステレオタイプのような詰め襟の服装。

 

「急に呼んでしまってすまないね」

 

私の正面に座った彼女は、少女の声音で、大人びた口調で言った。

 

「うん……そうだなあ。どこから説明したらいいだろうか?」

 

それは私が聞きたいことだが、最初の質問は、彼女が一番に言った言葉から考えた。

 

「私は、呼ばれたのですか?」

 

「うん、そうだよ。私たちが呼んだ。私たちの魔法で」

 

「魔法……。それは、どうしてですか?」

 

「それは……あなたに、救ってほしいものがあるからだよ」

 

「救う? 何をですか?」

 

魔法。それに、救済。非日常的な言葉に気圧される私を前に、彼女は重々しく言う。

 

 

 

 

 

「この世界、そのものを」

 

 

 

 

 

と、言うのは冗談だよ、と彼女は続けた。

 

「本当は、私たちの友人を助けてほしいんだ。まあ、世界を救うというのもあながち嘘ではないんだけど。……彼女を止められなければ、この世界がどうなるか、ちょっと予測がつかないからね」

 

重々しい口調のわりに、深刻なのか深刻ではないのか読み取れない様子で彼女はそう話した。

 

「よくわかりませんが……どうして私に。私にできることなのですか?」

 

「あなたは謙虚なのかな。それとも、あなたはあなたの力を使いたくないのかな。ああ……うん、あなたが力を喜んで使う人ではないことぐらいは知っているつもりだけど」

 

「知っている?」

 

「うん。……姫榊こさめ。星の神を祀る巫女。そして……いや、これ以上を面識のない者が並び立てるのは良くないね。ああ、そういえば、あなたは私のことを知らないよね。私は……ナナちゃん、とでも呼んでくれれば良いよ。人にもらった名前で、私自身は名前もないし、役割はあるけど、それ以外に何か定められるような存在でもないから、自己紹介するのも難しいのだけど」

 

漠然とした定められた役割。非定常の存在。それはまるで……。

 

「星神、なのですか?」

 

私の問いかけに、彼女――ナナちゃんは首を振った。

 

「さあね。私のことを夜の神さまと呼ぶ人もいるけど……たぶん、あなたの言う「星神」とは似て非なるものだよ」

 

そこまで話して、私はなんとなく彼女という存在が分かった気がした。星神ではない、星神のような存在。彼女は……私に似ている。

だから、私は言う。

 

「わかりました。えっと……ナナちゃん、さん、私にしてほしいこと、話してください」

 

「ありがとう」

 

そして私たちは契約を交わした。

 

 

 

 

 

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