月に桜、ありふれた初夏の小旅行   作:白亜迩舞

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「わー、すごい! ほんとに……ほんとに、星の海! それにお月さまと桜!」

 

「ねえねえ、これって銀河鉄道ってやつだよね! UFOだよね!」

 

「なんでもUFOにするな愚妹。あと明日歩、ここでも落ちるのは危険だと言われているだろう、気を付けてくれ」

 

「こら、洋くん。水を差すようなこと言っちゃダメでしょ」

 

「騒がしい……むしろもっと静かにしてほしい」

 

「夢の中までつきあうのはさすがに疲れるな」

 

音のない、ただ星の光が散らばるだけのはずの闇に、にぎやかな一角。

数多の夢、星、時空すら超える蒸気機関車の屋根の上に、私の友達を集めた。みなさんはめいめいに、星と、月と、桜を見ていた。

 

「まさか死神の私も呼ぶなんて……まあいいけど。でもどうして桜なの、こまめ?」

 

「こさめです。まあ、その方が夢っぽいかなって思いまして。この世界では桜が重要……名物みたいですし」

 

「名物って……今日のあなたはばかばかね」

 

「夢、ですから」

 

そう、これは夢。夏の夜に、春の桜を懐かしんで見るような。桜に星月夜を添えるような。意味もない、ありふれた、気まぐれで、正真正銘の夢幻。

これが私を“夜の国”に呼んだあの人たちの代償、私にとっては報奨と呼べるもの。選択肢はいくつもあった。意味のあるもの、価値のあるもの。そして私は意味も、価値も、儚く散って消えるものを望んだ。桜と、星と月の、夢。

 

「でも、あなたはこれを忘れないんでしょう? こさめ」

 

姉さんの問いかけに私は頷いた。

 

「そう、ですね。そこは、ちょっとルールが違うと言いますか」

 

たとえ姉妹だとしても、そこは違う。違ってしまう。

少しだけ痛む胸。しかし姉さんはこともなげにこう言った。

 

「なら、私も忘れないでおくわ」

 

「……どうしてですか?」

 

「だって、忘れなければ、思い出になる。こんな素敵な、あなたとの思い出、忘れるなんてもったいない。――それだけよ」

 

いつもの姉さんらしい、ぶっきらぼうな言い方。でも、そんな言葉にこもった想いが、私を何より満たしてくれる。

 

「でも……それはそれで残念なような」

 

「はあ? どうしてよ?」

 

「だって夢ってことにしてくれれば、キスしても夢で片付けられたじゃないですか」

 

「いやいや。夢でもさせないから」

 

 

 

 

 

夢を見ることが普通なら、夢を見たことを覚えているのも普通だろう。

そうやって、私たちは生きていく。昼の現と、少しの夜の夢の中で。

星を見たり、お花見したり、旅行したり。そんなありふれた日常が続きますようにと、私は月に祈った。

 

 

 

 

 

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