ガルパ☆ピコの奇妙な冒険   作:4kibou

10 / 24
スカーレットは曇らない
懐郷赤朱


 落ち着いた部屋のなか、周りを囲む四人の少女。

 彼女はいまだ、穏やかな夢の中にいる――

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 ――それは一面の、燃えるような夕焼けだった。

 校舎の屋上から覗いた空の景色。

 斜陽に照らされる街の姿。

 行き交う赤い人の波。

 暖かな昼の終わりと、深い夜のはじまり。

 その境目である黄昏時。

 思えばその光景を一度も忘れたことはなかったろう。

 すべてが行き着く原初の風景。

 なにがあっても、どんなことがあっても。

 彼女たち五人は、この夕焼けのもとに結ばれた。

 ――『Afterglow』

 そう名付られたバンド名は、悪くない、と思う。

 不意に、そっと瞼を閉じる。

 茜色の空の下には、いつも声が飛び交っている。

 初めは雑で、次第に固まって、結局自分たちらしいものとなった音が響く。

 ――次に目を開けると、そんな、幼馴染みたちの顔が見えた。

 

「大丈夫か、蘭!?」

「学校来てないから心配したよ~!」

「蘭のクラス覗いても居なかったから、また屋上にでも行ってるのかと思ったよー」

「…………っ!」

 

 霧のかかったみたいに朦朧とした意識でも、その言葉は聞き逃せなかった。

 

「モカ……ッ、ぅ、げほっ、ごほっ」

「蘭! おまえ声が……!」

「大丈夫……!」

 

 ――ああ、でも、なんでこんなに苦しいんだっけ。

 記憶はごちゃごちゃしている。

 たしか朝方に香澄たちと会ったのは覚えている。

 けれどそこから、どうやって。

 どういう経緯で、こんなコトになってんだっけ――?

 

「蘭、本当に辛そう……」

「もういいから寝てろ!」

 

 巴の言葉に抵抗もせず、ゆったりと体をベッドに戻す。

 〝……そうだ。たしか、喉を、裂かれて――〟

 どうなったのだろう、と首元に手をやった。

 包帯の感触、手当てした痕、傷口のカタチは……ない。

 

「(あれ……? ああ、でも、そっか……)」

 

 〝――これは、夢〟

 ガラにもない――こともなく感傷に浸っていたところを切り上げて、彼女はほうと息を吐いた。

 体が妙に熱い。

 全体的に怠くて力も入らない。

 夢の中で眠る……というのも変な話だが、とりあえずは眠りに就くことにした。

 幸い、眠気はすぐにやってくる。

 苦しみから遠退く意識が気絶ではないことを祈って、そっと自分を手放す。

 

「ウンガロホガンガ族は風邪を悪魔の仕業と考えて、精霊ババンボに祈りを捧げて――」

 

 まだ遠い本当の夢見を、心から待ち望んで。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 翌日の朝、当たり前のように熱は下がっていた。

 

「(なんだったんだろう……昨日の)」

 

 なんかみんなが必死で看病してくれていたのは思い出せるが、どうも意識がはっきりとしなかったせいか記憶が曖昧だ。

 蘭はぐっと一日ぶりに起きた体で伸びをしながら、ベッドから腰を上げる。

 

「……顔、洗わないと」

 

 今日は学校だ。

 授業もある。

 いつも通りの一日。

 とりあえずと洗面所まで向かった彼女は、無意識のうちに掴んだコップに違和感を覚えた。

 

「……あれ?」

 

 〝そういえばいま、あたしコップなんて持ったっけ――?〟

 ……鏡を、見る。

 彼女の右手は蛇口を捻っている。

 左手はいまだ眠気の残る寝惚け眼をこすっている。

 ならば、今し方コップを取ったのは何者か。

 

「……な、に? これ……」

 

 その背後に佇むのは、緋色の輝くヒトガタの像。

 彼女が初めて神秘に触れた、忘れがたい――けれど直ぐさま上塗りされることになる、奇妙な一日のはじまりだった。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 家から出た瞬間、美竹蘭の赤メッシュが爆発した。

 

「うわァッ!?」

 

 ドパン、と血がはじけ飛ぶ。

 ドクドクと流れる赤い液体に思わず動揺する。

 

「(え、なに……? なにが起こって……!?)」

「――おはよう、蘭ちゃん」

「つぐみ……?」

 

 玄関の先には、彼女の幼馴染みが待っていた。

 羽沢つぐみ。

 羽丘女子学園生徒会に所属する少女。

 実家は喫茶店を経営しており、時折そのお手伝いを彼女もしているのだが――

 

「どう、したの……っていうか、なんでそんな平然と……」

「――蘭ちゃんこそ、どうしたの? その傷」

「え、いや、あれ……?」

 

 どくん、と蘭の心臓が跳ねる。

 なんだろう。

 こう、なんというか。

 凄い不思議で奇妙な感覚だが……けれども、たしかに。

 

「(あたし、つぐみにドキドキしてる……?)」

「ほら、絆創膏だよ」

「あ、ありが、とう……」

 

 照れながら受け取って、蘭はハッとした。

 〝――ダメ! なんか違う!〟

 なにが違うのかは分からないし、なにがダメなのかと聞かれれば反応に困るが。

 とにかくダメなのだ、と彼女は直感した。

 つぐみからもらった絆創膏をすぐにポケットへしまい込んで、一歩、距離をとる。

 

「……? 蘭ちゃん?」

「つぐみ……だよね?」

「そうだよ。……どうして離れるの?」

「それ、は――」

 

 ――どうしてなのだろう。

 そんなことは蘭自身にも分からないし、分かりたくもない。

 大体、朝からおかしなことばかりが続いている。

 これもその延長線上だろうかという疑心まで抱いている。

 鏡に映った背後霊、爆発する赤メッシュ、突然家の前に現れたつぐみ。

 どれもこれもが、彼女のペースを乱していた。

 

「……足りないのかな、やっぱり、一発じゃ」

「え……?」

「じゃあもう一回っ! ごめんね、蘭ちゃん!」

「つ、つぐみ……?」

「『大いなる普通(グレート・コモン)』! 個性を――」

「ッ!?」

 

 ゾン、とつぐみの背後から現れた像が蘭を睨む。

 ――同じだ。

 同じヒトガタの、背後に佇む謎の悪霊。

 どうしてつぐみが、なんて驚く暇もない。

 

「――爆発させるッ!!」

 

 カチ、とつぐみの悪霊がなにかのボタン(・・・)を押した。

 

「ッ!!??」

 

 ボゴン、と二度目の爆発が蘭の赤メッシュを襲う。

 にわかには信じがたい。

 いや、彼女にとっても信じたくもないが――

 

「(いま、の……さっきの爆発は……つぐみ、だった……!?)」

 

 そんな馬鹿な、と現実と直面したいまでも考えてしまう。

 なにかの間違いだと。

 こんなのはつぐみじゃない、と叫んで飛び出したくなる。

 けれど、でも、それより、そんなことより。

 二度目の爆発は彼女の皮膚を裂いたのに、そんな傷すら気にする余裕はなく。

 ――ドクン、と一際大きく心臓が跳ねた。

 目の前で、幼馴染みの――綺麗な――普通の――美少女の――いつも通りの――いつも以上に――普通のつぐみが――素敵なつぐみが――こちらを見ている。

 

「(な、に……これ……ッ!?)」

 

 思考が混線している。

 ダメだ、違う、そうじゃない、となにかが訴えている。

 けれども分からない。

 分かるハズもない。

 大体眠る前から状況なんてさっぱりだ。

 やっぱり夢は夢で、今もまだ夢で、とにかくこんな現実はありえない……ハズなのに。

 

「(痛み(・・)がある……たしかなのは、痛み(・・)があるっていう事実……じゃあ、本当に、でも……なんで、あんな、普通の――綺麗な――つぐみ、が――?)」

「……あ、あれ? 蘭ちゃん……?」

 

 もはやワケが分からない。

 思考回路はすでにショート気味だ。

 目の前の幼馴染みに不自然なぐらいドキドキするし、爆発された赤メッシュのあたりがズキズキと痛むし、なにより目の前の光景を直視したくない。

 悪霊が堂々と、つぐみの声に応えるみたいに動いた。

 もしかして、と彼女は欠片ほどになった冷静な部分で考える。

 まさか、とは思うが。

 あの悪霊は、自分たち自身で操作できるものなのか、と――

 

「な、ならもう一発!」

「――――ぅ」

「……?」

 

 〝――そうだ。〟

 でも、ひとつだけ、たしかに言えることはあった。

 それだけはたしかだ。

 曖昧で、ぼやけていて、自信なんてこれっぽっちもないけれど、これだけはたしかに言える。

 美竹蘭だからこそ、胸をはって言える事実がある。

 

「違う……」

「え……?」

「こんなのは、つぐみじゃない……! あたしの知るつぐみじゃない! うわああああああッ!!」

「ら、蘭ちゃ――」

Cry out(叫べ)!』

 

 ――その想いに、ソレは応えた。

 絶対と信じる精神の強さ。

 困難を撥ね除けた揺るぎない心と身体。

 血に塗れてなお赤い緋色の幻影が、悠然と蘭の背後に立つ。

 

「だから、とりあえず! That Is How I Roll(これがあたしのやり方だ)ッ!!」

 

 

 ――ガルパ☆ピコの奇妙な冒険 第二部

 

   『スカーレットは曇らない』

 

 ガールズバンドを巻き込んだ奇妙な戦いは、次のステージへと向かう――!      




>爆発する個性
つぐってるからね

>赤メッシュ
イキリ赤メッシュはやめてさしあげろ

>大いなる普通
あのッ! 約一名ッ! ネタに塗れるしかない娘がいるんですけどッ!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。