前回までのガルパ☆ピコの奇妙な冒険は――
「SHOUTッ!!」
「うぐあーーーッ!?」
「さすが友希那! アタシたちにできないことを平然とやってのける!」
「Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?」
その叫び、まさに本格派ガールズバンドの先駆けッ!
漆黒のネコが湊友希那の背後に立つッ!
「(ところでこれは撫でてもいいのかしら……)」
「(あ、またネコのこと考えてる……)」
なお『スタンド』がネコ型なだけで厳密にはネコではない。
が、そんなことはいまの湊友希那にとってどうでもいいコトなのかもしれなかった。
「ハッピー!」
「ラッキー☆」
「「スマイルー、イェーイ!!」」
「ああ……儚い……」
「ふええ……」
「(あー、吐きたい)」
混沌とする弦巻邸! ハローハッピーワールドッ!
「ところで私たちはいつまで飛んでればいいのかしら……」
「さあ……ジブンも分からないです」
「心頭滅却すれば風もまた涼し……!」
「あと数話ぐらいだねー」
これはすべての音楽に捧げる音楽のための物語である。
なお一切音楽要素がないのは目を瞑ってもらいたい。
「あっ!」
「どうしたの、あこちゃん……?」
「漆黒の堕天使……ダークネス……エンジェル……えっと……」
「……フォール」
「フォール!!」
ガールズバンドたちの戦いはまだ始まったばかりである――!
☆★☆
「く、クッキーを叫ばせるとは……さすが、本格派ガールズバンドね……!」
「…………、」
ふらつきながらも立ち上がったまりなと、友希那の視線が交錯する。
ふりだしに戻った、と彼女は言ったが実際は違う。
貫いたはずの少女の腹は元通りになり、逆にまりなには叫びの傷が出来上がった。
音を止める、というのは圧倒的な能力だがそれを除いてしまえばまりなだって単なる人に過ぎない。
常に音を止められるワケではない彼女にとって、はじめて認識した致命的な弱点だった。
「(まずいわね……音の停止はまだ五秒が限度……! それ以上を求めるなら場所を変えなくてはならない……!)」
「……どうしたのかしら、音を止めないのは」
「……ッ!?」
ぎっ、と友希那の目が鋭く光る。
相対したどのバンドガールたちもその点に疑問は覚えなかった。
否――能力の凄まじさに気を取られてそこまで行き着かなかった問題。
月島まりなの音の停止には背減がある――
そんな、見落としてしまいそうな部分に、目の前の少女は手をかけている。
「(……っ、なめていたわ……! やはり他のバンドガールよりも一枚上手……!)」
「クールダウンが必要……もしくは、ここぞという時にこそ使うべき理由がある……時間制限のようなものが……違うかしら?」
「!!」
「――当たりのようね。なら容赦はしないわ」
黒猫がにゃあと鳴く。
不穏な声がもたらすのは決して不幸や不運ではない。
ましてやそれらに繋がる切っ掛けですらない。
それはただ只管に単純な――精神を解き放つ渾身の叫び声を。
「行くわよッ! 『ブラックシャウト』!」
「――ッ! 『CiRCLE』ッ!! 止まれいッ! 音よッ!」
ピタリ、と迫っていた黒猫が動きを止める。
眉をヒクつかせながらも湊友希那は指一本動かせないまま音に呑まれる。
既に展開された音の停止のなかで、動けるのは真にまりなひとりだけ。
「ふ……ふふふ……!」
「……っ」
「動けないわ……無駄なのよ……例え時間制限を見破ろうがッ! この月島まりなの停止した音のなかでッ! 我が絶頂の時間のなかでは何者も無力よォーーーーッ!!」
たまらず笑い出すまりなを、しかし友希那は睨みつけるしかない。
音の停止。
すなわち日常的に彼女たちを取り囲む音が止まった空間。
自動車の騒音から街の雑踏、小さな呼吸に虫の羽音に至るまで。
日々の生活に音はつきものだ。
無音の空間なんて作り上げるのも一苦労。
あたりまえのように過ごす彼女たちに、さらにはバンド活動をする少女であれば音と切り離した生活など考えられないだろう。
――故にこそ、月島まりなの『CiRCLE』は日常のなかに紛れこんでこそ真価を発揮する。
「終わりよ……反撃すらさせない……やはりガールズバンドのボーカルはこの手に限るわ!」
「!!」
ずらり、とまりなの取り出したピックの群れに、友希那の目が見開かれる。
彼女は知る由もない。
だがそれは、紛うことなき最強の一角であったひとりのバンドガールを瀕死に追い詰めた必勝法だ。
「せいぜいが数十枚だった前とは違うわッ! 今回は百二十枚! とくと味わうが良いわッ!」
投げられたピックが友希那の数センチ手前で不自然に停止する。
それが立て続けに五枚、十枚と重ねられていく。
スタンドパワーで投げられたピックはまさしく脅威だ。
友希那自身にもその経験がある。
肩に突き刺さったピックを抜くのには苦労した。
それこそ、刃物かと思うほどの殺傷能力――!
「(友希那……!)」
「(っ……!)」
「さらば湊友希那……私を追い詰めた少女よ……これでRoseliaも終わり……覚悟はいいかしら? ――そして音は響き出す」
戸山香澄のようなキラキラのラッシュは期待できない。
山吹沙綾のように踏ん張って耐え忍ぶ方法もできない。
打つ手はまりなのなかでかき消えた。
解けた音が動きを伴って一斉に再開する。
多数のピックはすでに少女目掛けて放たれた。
止める術は、まりなにだってない。
「――『ブラックシャウト』」
「無駄なあがきよ……無駄無駄……すべてが無駄だわ……」
ガン! と鋭いネコパンチがピックを弾き飛ばす。
にゃあと鳴く黒猫は主人の意思に従って両手を振るう。
けれども、それは比べるまでもなく星の連撃よりも遅い。
おまけに精度まで足りていない。
すでに0.1秒で取りこぼしが出ている。
このままいけば、ほぼすべてのピックが少女の体を貫いて――
「
――命を断つ、ハズであった。
「……なに?」
「――悪いけれど」
パラパラと、勢いを失ったピックが地面へ落ちる。
無傷のままの湊友希那がゆっくりと歩を進める。
「こんな小細工は通用しないに決まっているでしょう……私たちを甘く見てもらっては困るわ」
「……ええ……本当に……甘く、見ていたわ……!」
取りこぼした? 違う。
あれはわざと拾わなかったに過ぎない。
ピックの飛んでくる速度、タイミング、位置関係まできっかりと把握しての取捨選択。
必要な場所へ最低限の拳を打ち込んで、すべてを一掃する叫びをあげさせたのだ。
なんという判断力。
それでいて追い詰められていながらも失われない冷静な思考力。
「(これが……本格派ガールズバンドの実力……!)」
「さあ、次はどうするのかしら? なにをしようと構わない。私たちはそれを越えるだけよ……Roseliaに不可能なんてないわ」
「……さすが、友希那」
目の前にあるのはただの障害物ではない。
運命の用意した『壁』なのだとまりなは認識した。
たかだかバンドガールの後付けスタンドなんかでは済まされない。
彼女たちこそが、最も自分にとって不利な状況をつくりだす可能性の欠片だ。
「恐れ入ったわ……けれど、これならどうかしら――『CiRCLE』ッ!!」
「!」
「ま、また!?」
再度、音が止まる。
いまだまりなを決定的な敗北へと結び付かせない停止した音の世界が広がる。
少女たちはピクリとも、物音ひとつ立てることなく固まった。
「――ロードローラーだッ!!」
「!!」
「ッ――!?」
見上げれば天高く飛ぶまりなの姿。
彼女のスタンドが巨大な車体を持ち上げて振り下ろす。
陽を覆って、視界を塗り潰して。
――とてつもない重量のソレが、たったひとりの少女を押し潰すために向けられる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ! ぶっ潰れよォーーーッ!!」
「っ……、…………!!」
「(ゆ、友希那ッ!?)」
地響きと共に、呆気ないくらい簡単に決着がついた。
停止した音はすべてのモノの自由を奪う。
ただひとり、月島まりなを除いてその世界で動く権限は与えられない。
無抵抗の湊友希那はそのまま、車体に押し潰された。
「そして音は響きだした……ふ……」
「……っ、……そん、な……! 友希那……っ」
「ふふ……ふははははは……! 勝った……勝ったわ……! やはりこの私に勝てるものなど――」
「――いない、というのかしら」
「!!」
ひとつ、大きな亀裂がロードローラーに走る。
「そうなると、疑問だわ。私は此処に、今」
ガソリンを撒き散らして、破片を吐き出して、車体がどんどん壊れていく。
「生きている……
木っ端微塵に、本物のロードローラーがはじけ飛ぶ――!
「まだ勝負なんて、ついていないでしょう」
「……湊……友希那……!」
黒猫の咆哮が、赤い夕陽に響いた。
>見破る友希那さん
さすがだぜボス……!
>まりなさんの世界
いじめる会なので……
>湊さん強すぎない?
ネコ見せたらポンコツだから(目逸らし)
>ピックナイフ全撃破
うーんこれは本格派ガールズバンド
>ロードローラーだッ!
当たり前のように対応しちゃった……