ガールズバンドたちの隠れた聖地。
ライブハウスさーくる。
この憧れの舞台に今日、彼女たちは立とうとしていた。
「調子はどう?」
扉を開けて入ってきたのは月島まりなだった。
ここ「さーくる」のスタッフであり、香澄たちにとって頼れる大人である。
「今日の私は……テンションしてます!」
「大変だー!」
「おたえ!?」
「電車が止まって……他のバンドメンバーが間に合わないって!」
「そんな!?」
「いや全員揃ってるだろ」
ズバッと切り裂いた有咲の鋭いツッコミが光る。
本番前、Poppin‘Partyの面々は緊張することもなくいつも通りの様相を呈していた。
これにはまりなも思わず苦笑い。
シリアスな話をしに来たのにどうしよっかなー? とかちょっと引き気味になっちゃうぐらいの空気である。
「すいませんまりなさん……これ、うちの焼きたてです」
「あ、ありがとう沙綾ちゃん。なんか、みんな大丈夫そうだね」
「練習沢山しましたから。とくに香澄はずっとあんな調子で……」
「元気なのは良いコトだよ。元気がないと……うん。精神が強くなきゃ、ね」
「?」
薄く笑うまりなに、沙綾はどこか違和感を覚えた。
……別に、顔がどうとか、そういう問題ではない。
髪も目も変わったところはない。
ただ、いつもの彼女とすこし違うような――
「りみちゃんは?」
「あ、りみりんならそこで――」
すっと、部屋の中央にあるテーブルを指す沙綾。
「チョココロネ食べてます」
「……美味しそうに食べてるね」
「はい。持参したのか知りませんけど、朝からずっとなんですよ」
「へえ……」
ふむ、と試しにまりなはその姿を観察してみることにした。
牛込りみがチョココロネ好きというのは有名な話である。
脇目も振らずに食べているのは珍しいことではない。
だが――
「(感じる……想像以上に早い……やっぱり音に導かれている……音が彼女たちを繋いでいる……!)」
「……? あの、まりなさん?」
「ううん。なんでもないの。ところで――」
ここしかない、とまりなは確信した。
話の流れの持っていき方、自分の立ち位置、その場所関係。
すべてが彼女にとって都合の良いところにある。
最大のチャンスを棒に振るワケにはいかない。
なによりこのシーン、威厳を持たせなくては最年長の肩書きが廃れると。
ニッと笑って、まりなは静かに扉を開けた。
「――見えてるかな、何人かは」
「!」
「なにっ!」
「なんだよ!?」
「今のって」
「……?」
間近で見たのが沙綾ひとり。
他のソレに気付いたのがふたり。
それでもなお気付いていないのがもうふたり。
結果としては上々、とまりなは笑みを深くする。
「香澄の悪霊と、同じ……?」
「そう。正解、けど悪霊じゃない。これこそがガールズバンドの新たなる時代を切り開く奇跡の産物……生命エネルギーのつくりだすパワーあるビジョン……そうして私たちを支える音楽の可能性! すなわち――」
ガン、と勢いよく床を踏みならしてまりなは扉に穴を開ける。
「スタンドッ!」
うっすらと……彼女の体に隠れてよく見えないが……沙綾はその背後にたしかに居る影を視認した。
戸山香澄に取り憑いた正体不明の悪霊。
それと同じものを持っている目の前の彼女。
長らく考えないようにしてきた異常と、ここに来て向き合う羽目になった。
「いずれはそう……音の繋がりがあなた達の隠れた才能を引き出すわ……けれども、五人だけじゃあ足りない。これはあなた達だけの問題ではないの」
「私たちだけの……」
「ガールズバンドは革命の時代に突入したの。もう誰にもこの流れは止められない。その流れにあなた達は身を任せていくしかないの……これはッ! 『運命』という渦が引き合った結果なのッ!」
「え、いや、あの、まりなさん……?」
「――だから、期待しているわ。みんな」
そう、期待している。
流れはすでに始まった。
その勢いを加速させるのは真実彼女たちだ。
星の鼓動に導かれた五人の少女。
Poppin‘Party……それこそが始まりの五つ星。
「この『サークル』を……存分に盛り上げてちょうだい」
音もなく扉を閉めて、まりなはゆっくりと歩きだした。
これ経費で落ちるかな、とぽっかり開いた破壊痕を気にしながら。
☆★☆
満員の「さーくる」で行われるPoppin‘Party主催ライブ。
その熱気は凄まじいの一言に尽きた。
鳩のように空を飛ぶボーカル。
容赦なく観客席に投げつけられるチョココロネ。
不意をついて行われた歯ギターのソロ。
それをさらに盛り上げる三刀流ドラムの絶技。
挙げ句キーボードのすべてを擲ったかのような演奏に、会場のボルテージは最大限まで引き上がる。
さらにはステージから飛び立った兎が束の間の癒やしさえ与える完璧な空間。
大成功だ。
これを見て失敗と言えるものはいない。
そんな達成感に包まれる中、唐突に悲劇は起きた。
「――っ!」
バツン、と。
それは戸山香澄のギターから無情にも響いていく。
「(あ……!)」
常識を文字通り飛び越えたパフォーマンス。
限界を突き抜けた香澄の高速ピッキングが、彼女のギターに異変をもたらしたのだ。
「(香澄!?)」
「(うそ、こんなときに……っ)」
「(香澄ちゃん……!)」
「(弦が……切れてる)」
「――っ」
現実は非情である。
すべてが上手くいっていた。
だから失敗などするワケにもいかなかった。
勢いで誤魔化すとか、ハプニングも楽しむとか、そういう問題ではない。
この最高潮に盛り上がった状態で、最大級のミスを犯した――
それが、香澄の心に火をつける。
「(――まだ)」
そう、まだ。
「(まだ、終わりじゃない……!)」
ほんの少し、ライブ前に訪れたまりなの話を彼女も聞いていた。
曰く、自身に取り憑いた悪霊の正体。
新しい音楽の可能性。
生命エネルギーによってつくられた
ならば――と。
香澄は迷いなくギターを構え直す。
躊躇いはない、迷いなんて一ミリも持ってはいない。
何故なら彼女は知っている。
自分の中に響く最高の鼓動を、どこまでも繋がる音の強さを。
それが正真正銘、星の導きによるのなら疑うまでもない。
――間違いなく、『運命』こそがそこにある。
「まだ、終わってない……!」
マイクから口を離して、香澄は静かに呟いた。
奏でる音がかき消すぐらいの小さな声。
だがそこに込められた意志の強さは遙かに強大だ。
〝『音』は絶やさない、『熱気』も冷めさせない。〟
「わたしたちの……!」
彼女とてひとりのバンドガールである。
この状態が最高にキラキラドキドキしていると理解している。
故に、戸山香澄が手放しでこの場を放り投げるなどありえない――!
「STAR BEATーーーーッ!!」
――瞬間、彼女たちはたしかに見た。
音と光の粒子が巻き上がるステージの上。
堂々と歌を紡ぐ香澄の背中側から。
輝くように、揺さぶるように、現れた悪霊の正体を。
――星だ。
歪な星、まさにそう言うに相応しいインパクトのヒトガタ。
生物的な形のくせに無機物的な外観が奇妙に噛み合っている。
全身にあしらわれた歪んだ星の紋様がその不気味さを神秘的に見せている。
それは出現と同時に勢いよく香澄の背後に立ち、ぐっと拳を握りこみ、そして、
『キラァ!』
「!?」
思いきり、香澄のギターを殴りつけたのだった。
ギャグです(真顔)
没ネタ
香澄「……はっ! いや、まだ!」
香澄「弦のスペアがまだ
四人『!?』
香澄「私はまだ
香澄「うああああーッ! チューニングフルパワー!」
~観客席~
友希那「地獄よ……彼女は地獄を揺さぶっている」
友希那「
ウオォーッ!
ヘールシェイク! ヘールシェイク ヘールシェイク…