前回までの――
「まりなさんが逃げた」
「そんで私らが追っかけた」
以上ッ!
☆★☆
「(ま、まだ追ってくる……!?)」
後ろを確認しながら、まりなは全力で街中を駆け抜ける。
朝一番から出会ったPoppin‘Party一同。
彼女たちに挨拶をかけたところで、まりなの一日の運命は容易く狂い果てた。
「まりなさーーん!」
「な、なに!? なんなの!?」
「それは捕まえてから言います!」
「えッ」
〝――駄目だ、それは困る!〟
まりなの中で思い描いていた華麗なラスボスムーブが粉々に崩れ去った瞬間だった。
これから「さーくる」でゆっくりとスタッフとして待ち構えつつ、目指してくるバンドガールたちに刺客を送り込んでいくという計画が台無しだ。
もっとも思い当たる刺客とかいないのだが。
「(こうなったらもう、急いでやるしか――)」
「……あれ? 香澄たち……と、まりなさん?」
「!!」
と、そこへ通りがかった少女と目が合った。
黒髪のショートヘアーに、よく目立つ赤メッシュ。
――僥倖だった。
それはもう、タイミングが良すぎて恐ろしくなるぐらい。
まりなはすかさず右手を伸ばして、曲がり角から顔を出した少女――美竹蘭を後ろからがっちりと拘束した。
「動かないでッ!」
「! おい、香澄。あれって……」
「蘭ちゃん!?」
「まずい……人質」
「ど、どうしよう沙綾ちゃん……!?」
「りみりん、落ち着いて……」
ずざざっ、と一斉に足を止める五人。
およそ五メートル先に立つまりなは、不敵に笑いながらゆっくりとピックを蘭の首に当てる。
「ちょ、ちょっと……これ、なに……?」
「動くんじゃあないわよッ! 一歩でも動けば、さもなくば……この娘を刺すわ!」
「刺すって……あの、まりなさん。それピックじゃ……」
「さあ、大人しく下がりなさい! Poppin‘Partyィーーーッ!!」
叫ぶまりなの手に、ぐっと力が込められる。
彼女の右手に握られたピックが蘭の首――それも血管のあたり――に食い込んでいく。
「い、いたっ……! ちょっ、いたいっ!?」
「さあ、早くしないとこのピックが抉りこむわ……手遅れになるわよッ!」
「くっ……なんて卑怯な手を……!」
「有咲、任せて」
「おたえ……?」
「ここは私の――」
「おっとー!? 『スタンド』も禁止よ! 出した時点で敵意があると見なすわ!」
「そんな……!」
ぎり、と歯噛みしながらおたえは後じさった。
否、彼女だけではない。
有咲も、りみも、沙綾も、人質の存在に黙って下がるほかない。
そんな中、彼女だけはしっかりとそれを見ていた。
「(あのピック……!)」
「あとはあなただけよ! 戸山香澄ッ! あと三歩……いや、『スタンド』を使えるあなたはあと六歩は下がってもらうわッ!」
「おい、香澄!? なにしてんだ!?」
「……有咲。私、言ったよね」
「は、はあ? なにをだよ」
「ピックが刺さったって……あのピック……あの黄金色のピック……! 間違いないよっ! 私はあのピックに
「な、何ィ――――ッ!?」
バーン、と指をさすと共に香澄は宣言した。
忘れたくとも簡単には忘れられない。
ほんの数週間前、彼女の胸に飛来した黄金色の不思議なピック。
色も形もまったく同じだ。
その後の行方が一切分からなかったコトだけが違和感だったが、なるほど、と香澄はここに来て納得する。
彼女がピックに貫かれたのは「さーくる」のお手洗いだった。
ならば、目の前のその人が回収していても――ましてやその犯人だとしても、なんらおかしなコトではない――!
「じゃあ……あれが!?」
「――気付いたのね! けれどスデにッ! 美竹蘭ッ!」
「ぐぼぉっ……!?」
「――彼女は貫いたッ!!」
「「「「「し、しまったァ――!?」」」」」
ぶすり、と食い込んだピックが少女の喉を切り裂いた。
真横に一直線。
まるで赤い絵の具を走らせたみたいに、血が尾を引いて散っていく。
誰にとっても見慣れぬ光景で、意識だけをはっきりと保てたのは不可思議な現象のたまものか。
ワケも分からない『スタンド』という現実を直視するよりも、脳で理解する『出血』のほうが彼女たちにとっては分かりやすかった。
だが、それも度合いによる。
蘭の喉からはホースのように血が噴き出ている。
止まらない赤い液体が、急速に彼女の顔から温度の色を奪っていく。
どさり、と力なく倒れ込んだ体には、到底力が入っているとは思えなかった。
「――蘭ちゃん!」
「これで追っては来れない……この少女を助けるために、あなたたちは私を諦めなくてはならない……それが例え、
「――っ、『ランダムスター』ッ!!」
「遅いッ!」
『キラッ!!』
香澄の『スタンド』から放たれた拳を、まりなはゆらりと受け止めた。
――否、ゆらりと現れたソレが、平然とランダムスターの拳を受け止めている……!
「まさか……いや、まりなさんもかよ……!?」
「あれは、やっぱり……っ」
「私たちと、同じ……?」
「うん……『スタンド』……!」
歪んだ星を防ぐ、ひび割れた石の人形。
見たコトなんてこれが初めてなのに、どこか懐かしい感じを覚えさせる。
色合い、雰囲気、形――すこし考えて、香澄たちはそれがなんなのかを理解した。
思えばそう、月島まりなにとってそれだけが唯一のカタチだ。
「ランダムスター……そう名付けたのね……でも、敵わないわ。そんなちっぽけなスタンドじゃあ! 私の『サークル』には勝てやしないッ!」
「! 逃がさないっ!」
「いいえ逃げさせてもらうわ! 倒れた女の子を無視はできないでしょうッ!」
「っ!」
ダンッ、と地面を蹴ってまりなは再び走り出していく。
もとより射程距離はギリギリを維持していた。
すこしでも離れれば彼女の『スタンド』であっても手を届かせることはできない。
加えて、いまは何より怪我人の手当てが先決だ。
香澄は『ランダムスター』を仕舞って、直ぐさま蘭のもとへ駆け寄った。
「蘭ちゃん!」
「う……すげえ血……と、とにかく救急車……!」
「ま、待って!」
と、不意に沙綾が制止の声をあげた。
「さーや?」
「ねえ……気のせいじゃなかったら、その……あれ、だけど」
「……あ、あれってなんだよ、沙綾……?」
「……傷、ふさがってない……?」
彼女の言葉に、ばっと一斉に五人の視線が蘭の首を向く。
傷のまわりは依然変わらず真っ赤に染まっていて、とても見られたものではない。
その血も吹いてしまえば裂かれた皮膚が露わになるはずだ。
……だが、
「ほ、本当だ……! なんだよこれ……? 傷が、ない……!」
「……ぅ」
「! しかも息をしてるぞ!? おい、どうなってんだよ――香澄っ」
「もしかして……」
ふと、脳裏をよぎった予想にごくりと唾を呑む。
――同じだ。
状況はまったく一緒。
あのとき彼女――戸山香澄も胸を貫かれてトイレの洗面所に血を撒き散らした。
思えばそのときの傷は跡形もなかったように思う。
消えたとか、ふさがった、なんてモノではない。
初めからそんな傷などなかったみたいに、傷自体が消えたのだ。
「――沙綾。蘭ちゃんをお願い。とにかく、家まで連れて行ってあげて」
「わ、分かった……けど、まりなさんは……?」
「私とおたえ、有咲とりみりん。二手に別れて探そう。まりなさんの狙い、なんとなくだけど、分かった気がする」
「お、おい、香澄。それって……?」
問いかける有咲に、決まってるよ、と彼女は真剣な表情で答えた。
「私たちみたいなガールズバンドを増やすつもりなんだ……なんの目的があって、どんな意味があるのかは知らないけど、でも……私たちはそれを止めなきゃいけない!」
「そりゃあまあ、こんなの見たらそう思うけど……その、具体的な理由は?」
「なんとなくッ!」
力強い解答だった。
力強すぎて有咲の意見を挟む余地もない。
ともあれ、こうして彼女たちは奇妙な世界へと足を踏み入れることになる――
とりあえず完結まで方向性が決まったので即行。
ウダウダやるより駆け抜けたほうがマシ(白目)
>通りすがりの美竹さん
反 骨 の 赤 メ ッ シ ュ
ボーカルが喉裂かれてる時点でわりとシリアスとか言ってはならない(戒め)