前回までの――
「なんとなく!」
――以上ッ!
☆★☆
――新人アイドル水着deコマーシャル。
今を駆け抜ける人気アイドルバンドグループ、Pastel*Palettesが出演したその番組の最中に事件は起きた。
「――突撃ッ! となりの収録スタジオーーーっ!」
『!?』
ガッシャーン、と窓ガラスを突き破って現れる一条の流星。
月島まりなは華麗な着地と共に、鉄棒に必死でぶら下がる五人の少女を見た。
「ま、まりなさん!?」
「見つけたっ! 丸山彩ッ!」
「えっ、えっ、なに!?」
「とどめくらえ! これが私のピックだァァアァアア!!」
鋭く走るピックが線を描いて丸山彩の喉元に走る。
よもやそれはただのピック投げと侮るなかれ。
並の銃弾すら凌駕する速度と回転力で放たれたピックは、容易く人の身を貫通する。
「うぶっ……!?」
『彩
「これで本日二組目ッ! スタンド使いは惹かれ合うッ!」
「――そこまでだーっ!」
バリーン、とまたもや別の窓ガラスを突き破って現れるふたつの流れ星。
くるりと反転して着地した花園たえと、顔面から思いっきり地面に熱烈なキスをかました戸山香澄が立ち上がってあたりを見回す。
「おたえ、状況は!?」
「彩先輩がやられてる! 一手遅かった!」
「そんな! あっ、これテレビ! テレビだよおたえ! 血が出たら放送事故になっちゃう!」
「それなら大丈夫! ほら――」
す、と差したおたえの指の先には、泥のプールに溺れるピンク色の髪の毛が見えた。
「血が出ても分からないよ、香澄」
「そっか! なら大丈夫だね!」
無論、ぜんぜん大丈夫ではない。
「あなたたちのせいでもう駄目なのだけれど……」
「なんか、るん♪ってきた!」
「ジブン、状況が掴めないです……」
「あの着地……まさにブシドーの神髄を垣間見ました……!」
ざわつくスタジオを無視してはしゃぐバンドガール……というより主にふたり。
だが、そんな香澄とおたえを嘲笑うかのようにまりなが声をあげる。
「遅いわPoppin‘Partyィーーーッ! すでにッ! Pastel*Palettesはもう貫いた! 残るバンドはあと
「くっ……まりなさん……どうしてこんなことをするんですか!?」
「決まっているわ戸山香澄ッ! あなたたちから私の職場を守るためよッ!!」
切実な話だった。
予想外に切実すぎて、言われた香澄ですら「そっかー」と納得しかけるぐらいだった。
「いまよ! さらばバンドガールたちッ!」
「あっ、逃げた! 追うよおたえ!」
「うん! 行こう香澄!」
勢いよく逆方向の窓ガラスから飛び出したまりなを、ふたりの少女が追いかけて行く。
当然窓ガラスを突き破って。
唯一冷静に状況を見ていた白鷺千聖は、果たしてガラスを破る必要があるのかどうか非常に考え込んだ。
が、答えは出そうにないので早々に思考を放棄した。
嵐の過ぎ去った後に残るのは、破壊の跡と泥に落ちたPastel*Palettesボーカル担当の姿だけである。
☆★☆
「(こ、ここまで逃げれば、大丈夫よね……?)」
乱れた呼吸を整えながら、まりなはブロック塀に背中をあずけた。
どれぐらい走っただろう。
景色の見覚えはあるから、そう遠くまでは来ていないはずだ。
ここからならば、勤務先である「さーくる」までは走っても十分以上はかかる。
腕の時計を見ればすでに長針が八の数字をさしていた。
完全に遅刻確定コースである。
「(しまったなあ……でも、悪いコトばかりでもない――)」
道中、ピックを突き刺したバンドグループはふたつ。
美竹蘭の「Afterglow」と、丸山彩の「Pastel*Palettes」だ。
特に後者を撃ち抜けたのは幸いだった。
アイドルバンドということもあり、「さーくる」活用の機会が他と比べてすくない彼女たちは狙いにくい。
それをこうも早く成し遂げられたのは、偏に己の幸運だとまりなは直感した。
「(ええ……そうよ、やっぱり……『運命』は私に味方している……!)」
確信なんてものはない。
だが、感覚はすこし前から手元にあった。
そう――あの日、「さーくる」で戸山香澄の胸を貫いた時から。
「(できるわ……このまま行けば、あの子たちを……!)」
――と、胸中でまりながくつくつと喉を鳴らしていたときだった。
ぴょこり、と塀の角から出てきた白い毛玉に、ほんのわずか目を見開く。
「ウサギ……?」
珍しい、とまりなはそのウサギを抱え上げた。
野良ウサギだろうか。
首輪なんてモノはついていないが、けれど妙に人懐こい。
ウサギは寂しいと死んでしまう……なんてデマを信じている彼女ではなかったが、それでも一介の女子――誰がなんと言おうと女子――である。
可愛いものに反応してしまうのは、仕方ないコトと言えた。
「(逃げ出したのかな……? こんな街中でウサギなんて、あんまり見かけないけど)」
不思議に思いつつも、一度抱え上げてしまうとどうにも離しがたい。
見た目以上に撫で心地が良かったのもある。
このまま一時の休息と洒落込もう、なんて彼女が思い始めたとき。
「……って、多っ!?」
ふとあたりを見渡せば、アスファルトの道路が白い綿毛の絨毯に変わっていた。
コンクリートジャングルを覆い隠すのはウサギの群れだ。
一体どこにこんな数が居たのだろう、と思うほど大量の白い毛玉。
ウサギたちは一匹一匹が好き勝手に跳ね回り、わらわらとまりなの足にも構わずしがみついてくる。
見た目が愛くるしいだけに、その光景はどこまでも癒やされるが――
「(うーん……なんだろう。なんか、見落としてるような……忘れてるような……ウサギがいっぱいいるのは変だけど、でも……なにが変なんだっけ……?)」
――〝ああ、もういいや〟と。
数多のもふもふに埋もれて、彼女は面倒な思考を真っ先に投げ捨てた。
体中を包む柔らかな毛玉の群れ。
どこまでも心をくすぐる可愛らしい姿。
天国はここにあったんだ、とまりなは笑顔で迫り来るウサギを受け止め――
「……え?」
――ようとして、それらが一瞬で〝茶色〟に変わったの視認した。
「なッ――」
飛び退く、がすでに襲い。
もとより彼女は塀に背を預けて休息中。
後ろに逃げようにも動けない。
前も左右にも前述の状況から必然的に逃げ場はない。
――いや、そうではなくなっていながらも、月島まりなの逃げ場は塞がれている。
「こっ……これはっ!?」
一斉に飛来する茶色を、まりなはすんでの所で出した『サークル』で殴りつける。
生物特有の肉を打ち付けた感触……なんてある筈もない。
バゴン、と砕け散ったその破片は、どこからどう見ても生き物の構成要素ではなかった。
「石畳っ!? し、しかも歩道の石畳だわ! どうして、こんなものが――!」
石畳は飛び跳ねたウサギの勢いそのままに鋭く彼女へ突っ込んでくる。
彼女のスタンド――『サークル』で捌けないワケではないが、問題はそこだけではない。
飛んできたウサギが変化したのなら、足下にしがみついていたモノも同様だ。
ズッシリとした重量を感じる両足には、幾つもの
「くっ……動けない……! 重すぎて
それでも抵抗できないコトはない。
飛び込んできた最後の
「はぁっ……はぁっ――」
やっと開けた視界を、肩で息をしながら見遣る。
そこには、
「なっ――」
ぽっかりと、全部なくなって剥げてしまった歩道の光景。
土の部分まで丸見えだ。
遠くには一部の欠けたレンガ作りの屋根も見える。
そのどれも、妙なことに彼女の足下に集まったソレと一致する。
「まさか……これは……!」
「――香澄は」
不意に、背後から響く声が耳朶をうつ。
つい先ほども聞いた声だ。
どこか落ち着いた……けれどその中にほんの少し不思議なトーンを潜ませる音。
「ランダムスター……って呼んでた」
カツン、といまだ石畳の残った歩道から響く靴の音がいやにうるさい。
土曜日の朝、閑静な住宅街には物音なんてそうそう無い。
流れる冷や汗がまりなの頬を伝う。
生唾を呑み込んでしまったのはその雰囲気によるものか。
よもや、まさか、この月島まりなが気圧されるとは――!
「あ、あなた、は……!」
「なら、私
異様な気配をまとって、少女はまりなの傍に立つ。
距離にしておよそ七メートル。
そこが彼女の射程圏内である、と言わんばかりに。
「やっと追いついた……そして、やっと捕まえた」
「――花園……たえ……!」
「――『スナッパー』……それが、私のスタンド」
静かに構えるおたえに、まりなはやっと自分が「追い詰められた」ことに気付いた。
目標は24~26話におさめること……ができたらいいなあ。
アニメ2クール分で頑張りたい……頑張れ……