ガルパ☆ピコの奇妙な冒険   作:4kibou

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兎の輪をみつめて☆新撰組

 

「花園……たえ……!」

「これが私のスタンド……『スナッパー』……!」

 

 彼女の背後で静かに佇む像は、人のカラダに長い耳を頭から生やしていた。

 陶器のような白い外見に、青いラインの走った人形じみた姿を見る。

 モデルがあればウサギ人間……そう言ってしまえるほどの複雑怪奇な融合。

 しかし、それをまりなは一笑に付した。

 

「そう……それがあなたの。けれど、底は見えたわッ! 『サークル』ッ!!」

 

 突きの連打で足下のレンガを砕く。

 彼女のスタンドのパワーは人の――すくなくとも少女ひとりの――力を越えている。

 たかだか積み上げられたレンガ程度に足止められるモノではない。

 

「逃がさない……!」

 

 瞬時の判断。

 おたえは己のスタンドを操作して歩道の石畳を殴りつける。

 まりなの『サークル』と違って、彼女の『スナッパー』にレンガを砕くほどのパワーはない。

 しかし――否、だからこそ、そこにはたしかな能力(チカラ)が存在する。

 ヒビひとつ入らない石畳に変化が起きたのは、直後のコトだった。

 彼女のスタンドが触れたモノが、生命へと生まれ変わる。

 ――白い毛を身にまとった獣へと。

 

「今度は、三十匹……!」

「甘いわッ! タネは分かった! ならばそんなチンケ(・・・)な能力など恐るるに足らずッ! 私の『サークル』の前ではどんなスタンドも無意味! 無価値! 無謀! そうして〝無駄〟なのよォーーーッ!!」

 

 飛び跳ねるウサギの群れを、まりなは冷静に観察する。

 触れた物体を兎に変える。

 花園たえの『スナッパー』の能力は大方そんなところだろう。

 ならば知らずに受けた奇襲こそ恐怖であれ、既知となった今ならば脅威ではない。

 言ってしまえばたかだかそんな程度(・・)の力だ。

 すべてのバンドガールを支配する彼女の道程に、その程度の能力は道ばたで躓く小石ほどにも怖くない。

 

「無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!」

 

 殴り抜いたウサギは、けれどやはり生き物の感触ではない。

 当然、壊れれば元に戻る。

 然るに、彼女の意思でもオン・オフは可能だろう。

 故にこそ、可愛らしいから、愛くるしいからと手加減をするのも馬鹿らしい。

 すべて撃ち砕けば良い、というのは分かりやすくてまりなとしても非常に宜しい。

 

「無駄無駄ッ! これで終いよォーーーッ!!」

 

 バギン、と砕いた石畳の破片が地面に落ちる。

 手応えはちょうど三十。

 時間稼ぎにもならない、とまりなは眼前を見つめて――

 

「――なにッ!?」

 

 誰も居なくなった剥げた歩道に、思わず己の目を疑った。

 

「そんな、馬鹿な……逃げたっていうの……?」

 

 可能性は十分ありえる。

 少女たちからしてしまえばまともにやり合うのは愚策だ。

 隙を見て捕らえるほうが可能性も確実性もある。

 冷静に考えて一旦撤退した、というのは無理な話でもない。

 

「――いや、違う。逃げてはいない……ここで気を抜くべきではないわッ! 彼女はすぐ側にまで近寄っている…………!」

 

 ――不意に、彼女の耳が後ろから届く物音を拾った。

 

「そこよッ! くらえ『サークル』!」

「…………、」

「なッ――違う、これはウサギ……!」

 

 騙された、とまりなは振り抜いた拳を瞬間的に緩めた。

 今は石畳やレンガなどの片手間で事足りるものに反応している時ではないと考えてのことだ。

 だが必然、その一瞬の判断こそが命運を分けるのが勝負というもの。

 

「――残念、私」

「!!」

 

 力をゆるめた拳に威力はない。

 掠ったとしても痛みすら与えない。

 その隙をかいくぐって、飛び跳ねたウサギがぐにゃりと変化して〝腕〟が生えてくる。

 ――花薗たえと、彼女の『スナッパー』の腕が。

 

「もらった……まりなさん!」

「くッ――」

 

 〝――まさか自分の体をもウサギにするとはッ!!〟

 見誤っていた。

 侮っていた。

 彼女をただのバンド活動に勤しむ学生だと甘く見ていた。

 結果を掴もうとするハングリー精神。

 自らの体すらなげうった圧倒的なまでの覚悟の強さ。

 それは他の生徒たちにはない、ガールズバンド故の強さか。

 迫る『スナッパー』の鋭い拳撃が、彼女の頬を真っ直ぐに打ち――

 

「『CiRCLE(・・・・・・)』ッ!!」

 

 ――抜ける、ハズだった。

 

「……え?」

「ふぅ……肝を、冷やしたわ……」

 

 がっしりと、放った拳を防ぐ交差したスタンドの腕。

 彼女の『サークル』がまるでなんともないように受け止めている。

 今し方、攻撃をしかけた直後である筈のスタンドが。

 

「いま……なにが……スタンド……? そんな、まさか――」

「でも、誉めてあげるわ。私をここまで追い詰めるとは……誇っていいのよ、たえちゃん」

「――『スナッパー』ーっ!」

「遅い『サークル』ッ!!」

 

 ガツン、と真正面からぶつかる拳が悲鳴をあげた。

 砕けたスタンドの像も、破れた皮膚も、飛び散る血潮も。

 ――ぜんぶが彼女の、花薗たえの体から。

 

「うぐっ……!?」

「フフ……どうやらあなたの『スタンド』……パワーはあまり無いようね……生っちょろい拳よ。そんな拳では、私に傷ひとつ付けられない……!」

「――――ッ!」

「ダメ押しよ! 無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!」

 

 音速の拳がおたえの体を穿つ。

 抉りこまれた打撃は容赦なく肉を打ち、骨を砕き、内側を破壊していく。

 耐えきれずに口から血がこぼれた。

 あまりにも膨大な痛みの情報に目が翳んでいく。

 脳が強制的にシャットダウンしようとしているのだ、と気付けたのは土壇場での直感か。

 彼女は唇を深く噛みしめて、傍らのブロック塀を殴りつけた。

 

「……っ、『スナッパー』……ッ!」

「足掻いても無駄よ! すでにあなたの『スタンド』は見切った! 物をウサギにしたのならともかく! あなた自身がウサギになったのならその行動には知性が反映される!」

 

 消えたおたえの体には一切の無関心を示し、まりなはあふれかえったウサギを見る。

 木を隠すなら森の中、というのは賢い判断だが、花園たえはどう足掻いても本物のウサギにはなれない女子高生だ。

 たとえ気持ちを理解しようが人間としての性がでる。

 どこかにウサギという生き物との齟齬がでる。

 ――それを、まりなは目敏く発見した。

 

「そこよッ! 花薗たえ――――!!」

 

 グオン、と拳を向けたのは明らかに他とは違う行動の個体だ。

 まりなの元から迅速に、けれど気付かれないよう回りくどく距離を取っている。

 本来なら見落とすべきその慎重さが、焦った今では逆に目立ってしまう。

 反撃をもらっても手痛くはない。

 花薗たえの『スナッパー』に致命傷を負わせられるほどのパワーはないと先ほど分かった。

 ならば、迷いなくこの拳を振り抜くだけで、あとは一瞬でカタが付く。

 

「くらえッ! 『サークル』!!」

 

 迫るスタンドの拳に、ピタリ、とウサギが動きを止めた。

 〝――ビンゴ!〟

 これで一人目、と内心で笑みを浮かべるまりな。

 動きを止めたウサギは、ゆっくりと首をまわして後ろを向く。

 今さら気付いた、とでも言いたげな動作。

 だがそんな行動すらも作り物(・・・)すぎて話にならない。

 気付かれないと思っているのなら甘い、と彼女は躊躇なく拳を叩き付けて、

 

『キラァッ!』

「――!?」

 

 バゴォッ! と自身の側頭部を撃ち抜いた拳に、一瞬、理解が追い付かなかった。

 パワー、スピード、イロとカタチ。

 なにもかもが違いすぎる。

 想定を遙かに超えたシチュエーションに、対応がどこまでも遅れた。

 殴り飛ばされたまりなは、激突したガードレールをへこませて崩れ落ちる。

 顔からは血が流れていた。

 強く打ち付けたのか、肺の中の空気が抜けて息苦しい。

 ――だが、その朦朧とした意識のなかで。

 しかし決定的なまでの天秤を動かした少女の姿を、彼女はたしかに視界へおさめた。

 

「そん、な……今まで……いったい、どこへ……!?」

初めから(・・・・)です。初めから、私たちはふたりで行動してました」

「……そう、だったわ……あなた、たちは……ふたりで追いかけて来ていた……なる、ほど……簡単な部分を、見落としていたというワケね……してやった、というワケね……ランダム、スター……いや…………戸山香澄(・・・・)……!」

「――Yes! I Me!」

「香澄……それは違うって、有咲からメッセージが」

「あれ?」

 

 歪んだ星を背後に構えて、少女はてへっと舌を出した。




前回までのあらすじは犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな……
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