ガルパ☆ピコの奇妙な冒険   作:4kibou

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心に小麦粉響かせて

 

 前回までのガルパ☆ピコの奇妙な冒険は――

 

「死ねぇいガールズバンドォー!!」

「うぐっ!」

「ぐはっ!」

 

 戸山香澄、花園たえ――両名リタイア!

 

「次はあなたたちよ……」

「有咲ちゃん……!」

「落ち着けりみ……! ここはもう、逃げるしか……!」

「逃げられると思ったかァーーーッ!!」

 

 Poppin‘Partyに迫り来る危機! 絶体絶命!

 だがしかし無情にもッ! 彼女たちの旅路は終わりを告げる!

 

「私の――『サークル』でッ!!」

 

 月島まりなに敵う相手はいないのか――!

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 一方そのころ、山吹沙綾は必死に美竹蘭を抱えて走っていた。

 

「――――っ」

「ぅ……」

「蘭……! 我慢、してね……!」

 

 後ろの彼女はずっしりと重たい。

 それは体重云々の話ではなく、力の入り具合だ。

 ぼうと翳んだ瞳にいつもの力強さが消えている。

 耳にかかる吐息が妙に熱い。

 ぐったりと背中にのしかかる体は、どう見ても健康とはほど遠かった。

 

「(凄い熱……! 蘭、まさか風邪をひいて……!?)」

 

 と、遠くから聞こえてきた破壊音に一瞬だけ足を止めた。

 ――香澄たち、ひいては有咲たちも同じく向かったほうだ。

 なにかあったのだろうか、と不安がよぎるも、いまはそれどころではない。

 彼女に任されたのはこの少女を無事に送り届けることだった。

 ならばそれが最優先、と沙綾は止めていた足を再び動かそうとして――

 

「――無駄よ」

「!!」

 

 耳に響いた声に、ぞっと背筋をいやなものが走った。

 彼女は驚いて後ろを振り返る――

 

「(な、に……!?)」

 

 ――ことが、なぜかできない。

 

「やはり鬼門は戸山香澄だった……あとは取るに足らぬ少女たちよ……Poppin‘Party……少々危なかったけれど、でも……この私の宿敵にはなりえないッ!」

「(ま、まりなさん……!)」

 

 空を飛ぶ鳥も、そよ風に揺れていた草花も、揃って動きを止めている。

 沙綾自身だって例外もなく動けない。

 停止した音の世界を認識こそすれ、そこで動けるのは真実彼女だけ。

 

「この腕に……なってはしまったけれど」

「(あ、あれは……!)」

 

 つと、まりなの掲げた左手が視界に入る。

 沙綾はそれに非常に見覚えがあった。

 否、見覚えなんてモノではない。

 彼女は彼女自身の実家で、ソレを毎日、何度も見てきている。

 中にチョコが詰め込まれた、バンドメンバーのひとりである少女の好物――

 

「牛込りみの『スタンド』ッ! やれやれ……私の腕をチョココロネにするなんて……恐ろしい能力だわ……だが所詮は能力だけ! それだけで言えば私の『サークル』に敵う筈もないのよッ! そして山吹沙綾ッ!」

「っ!!」

「気付いているわ! 感付いているわ! あなたにはまだ『スタンド』能力が発現していない! 市ヶ谷有咲と同じで掌握できていないッ! ならばいまこそがッ!! この時こそがチャンスになるッ!!」

 

 ゆっくりと、まりなは獲物をなぶるように、じっくりと近付いてくる。

 停止した音のなかを、反撃のできない絶対的な時間のなかを。

 静かに、だが高く音を響かせて、まりなは沙綾との距離を縮める。

 

「くたばれPoppin‘Partyィーーーッ!! ここがあなたたちの行き着く終わりよォーーーッ!!」

「(まずっ――)」

 

 指先ひとつすら動かせない体。

 そんな沙綾の体に、鋭い拳が打ち込まれる。

 口の中に広がった血の味と、右手に走った衝撃だけがたしかに残っていた。

 

「――そして音は響き出す」

「うぐあっ……!!」

 

 思わず背負っていた蘭を投げ出して、沙綾はその場に倒れ込んだ。

 痛みが脳を麻痺させる。

 冷静であればまともな考えも巡っただろうが、そも痛みにロクな耐性を持たないバンドガールにそこまで求めるのは酷だ。

 沙綾は砕けた右手を庇いながら、血を吐き出してまりなを睨む。

 

「残るはあなただけなのよ……大人しく、負けてもらうわ……」

「香澄、たちは……!」

「すでに敗北しているッ! 諦めなさい山吹沙綾ッ! あなたに抵抗する意味なんてもう無いのよッ! 〝無駄〟というワケよ!」

「――――!」

 

 拳を構えたまりなの『スタンド』が、今度こそはと沙綾をしっかり捉える。

 いまの初撃は遊ばれた。

 ならば次こそが本命……致命傷になる、と沙綾は踏んだ。

 本気でマズいと思うがどうしようもない。

 まりなの『スタンド』は見えても、沙綾はいまだスタンド使いではない。

 

「最後は音を止める必要もない! そのまま倒れていきなさい! Poppin‘Party最後の少女よ! これでジ・エンドってワケねェーーーッ!!」

 

 振り抜かれた『サークル』の拳が沙綾に迫る。

 打開策、対抗策ともになし。

 これまでと、言ってしまえる危機的状況。

 ――しかし、それでも沙綾は最後まで目をそらさなかった。

 精神の強さ、あるいは覚悟の強さか。

 彼女に秘められた想いの強さが、その内側に眠る力を引き出した。

 バシン! と。

 

「…………な、に?」

「無駄、なんかじゃないですよ」

 

 溶ける、溶ける、溶ける。

 山吹沙綾の背後から『サークル』の腕を掴んだソレが、容赦なく『スタンド』を溶かしていく。

 

「くっ……! な、に……!? これは、この腕はァ――ッ!?」

「いま、やっと理解(・・)した……香澄たちの言ってたこと」

 

 ぐにゃり、と曲がって歪むまりなの腕。

 スタンド越しに入った能力の作用が、完全に彼女の両腕を使い物にならなくする。

 

「パ、パン生地ッ!! 私の腕がパン生地になっているッ!? な、なんてことなの……なんてことなのよ……! この、私の腕がーーー!?」

「スタンド……そういうことだったんだ……なら、私も役目を果たさないと」

 

 左手はチョココロネ。

 右手はパン生地。

 よもや物を掴むことさえ困難になったまりなを前に、沙綾は堂々と立ち上がる。

 

「せめてこの場は保たせる……いいえ、下がってもらいます。まりなさん。大人しく退いてもらいます……!」

「う、う、うわぁぁあぁああぁん! こ、こんな腕でっ! どうやってレジ(・・)を打てばいいって言うのよぉ~!」

「――まりなさん、なんになりたい(・・・・)ですか?」

「え…………!?」

 

 姿を現したPoppin‘Party四人目のスタンド像。

 山吹色の色彩溢れる『スタンド』を背後に、沙綾は静かに問いかけた。

 

「なりたいパン(・・)を言ってください……メロンパンですか? それとも左手と同じチョココロネ? もしくは無難にコッペパン……なんて、どうですか」

「……ッ!!」

 

 やはりガールズバンドは侮るものではない。

 一人目の戸山香澄には強烈なパワーとスピードの『ランダムスター』が。

 二人目の花園たえにはウサギへの変化能力を持った『スナッパー』が。

 そうして三人目、四人目の牛込りみと山吹沙綾には厄介な肉体に影響を与える力が。

 

「(まだ見ぬスタンドはひとつ……けれど市ヶ谷有咲はまだ目覚めていなかった……! その前に仕留められたのは幸運だったわ! やはり、Poppin‘Party! 彼女たちは星に導かれている!)」

「決められないなら――私が!」

「だが! 『CiRCLE』!!」

「!?」

 

 ピタリ、と停止する沙綾のスタンド。

 拳が体を穿つよりも早く、まりなの『サークル』が音を止めた。

 

「止めてしまえば問題ないのよッ! さっきはちょびっとだけ取り乱したけど……なってしまったものは仕方ないわ! このパン生地、変えるというならケチャップをたらふくかけたホットドッグにしてしまうわ! もちろん山吹沙綾! あなたの〝血〟でぇ~ッ!!」

 

 両腕が使えなくとも攻撃は可能だ。

 鋭い『スタンド』の蹴りが沙綾の脇腹に直撃する。

 今度こそ内臓がやられた。

 口元からこぼれた血を、彼女は動けないままにただ見つめる。

 ――一般的に、足は腕の何倍もの力を持つとされている。

 沙綾に放たれたのは『ランダムスター』に敵わずとも十分すぎる威力を持つ『サークル』の脚撃だ。

 当然、無事ではすまない。

 〝――だから、そんなことは分かっていた……!〟

 

「そうして音は――」

「――響き出す」

「!! なッ…!」

 

 ガシッ、と沙綾の『スタンド』がまりなの『サークル』の足を掴む。

 じっくりと、しっかりと。

 痛みで歪んだ苦悶の表情のまま、彼女は力強く『サークル』の足を握り続ける。

 

「う、うぉぉおおぉおぉぉおぉぉおおッ!!?? そっ、そんなッ! 足が! 足が溶けていくッ! パン生地(・・・・)になっていくッ!! 馬鹿なッ! 攻撃は通った! なのになぜッ!? どうして動けるの!? 山吹沙綾――――!」

 

 衝撃に全身から血を噴き出しながらも、沙綾はギロっとまりなを睨む。

 強い意志と、覚悟を持った瞳で。

 

「みんなとの約束を……果たすために! 無事で送り届けるために!」

「ひ、ひぃぃいいいぃぃいッ!? さ、『サークル』! 『さーくる』!! 『CiRCLE』ッ!! 音よ、止ま――」

「させないッ! ふるえるぞハート(・・・)!」

 

 ドガン、と鋭い一撃がまりなの喉を叩く。

 

「うげぇッ……!?」

「燃えつきるほどブレッド(・・・・)!!」

 

 二撃、三撃、とまりなの体を沙綾の『スタンド』が殴りつける。

 

「ぐっ、あはぁッ!?」

「おおおおおっ! 刻むぞ血液のビート(・・・)!」

 

 四撃、五撃、六撃――その感覚が、鋭さが、高鳴る彼女の鼓動に合わせて加速する。

 

山吹き色の(サンライトイエロー)天火疾走(オーブンドライブ)!!」

「――――ぐ、ふっ……!?」

「響けッ! 私のッ! ハートビートォーーーーッ!!」

 

 それは過去の記憶――

 遠い遠い音楽を呼び覚ます彼女の唄――

 仕上げとばかりに叩き込まれた拳に、全身が黒焦げとなったまりなが吹き飛んでいく――!

 

「ば、かな……! この、私、が……ッ!?」

「ふう……焼き加減が、強すぎた……みたいですね。ごめんなさい……焦げちゃうと、商品にならないんですよ、まりなさん」

「こんな、こんな……クッキー(・・・・)……にも、劣る……スタンドに……ッ!?」

「――どうですか? やまぶきベーカリーの味は……またのご来店、お待ちしております」

 

 にっこりと営業スマイル(イイ笑顔)で微笑んで、沙綾は『スタンド』の像を戻した。

 

「……けど、無理が、あるよね……」

 

 がくん、と力の抜けた足を誰が責められようか。

 噴き出す血を拭う力もなく、傍で倒れる蘭を抱き起こす余力もない。

 辛勝――まさしく勝ちは勝ちであるが、捨て身の末の結果がこれだ。

 沙綾は唇を噛みながら、ふらりとその場に倒れて――

 

「一体これは、どういうことかしら……ッ!?」

 

 ――自身を抱える湊友希那の姿と、その肩に突き刺さる黄金のピック。

 そんな光景を瞼の隙間から見ながら、ゆっくりと意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一部『スタービートクルセイダース』

                   ~完~      




ということで次回から第二部です。

>有咲は?
満を持した登場が待っているので……(震え声)

>なぜ波紋疾走ッ!?
山吹でハートビートとかもうそれしか考えられない(お目々ぐるぐる)

>友希那さん……?
貫かれてないだけ風格は断然トップ……!
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