【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第十一話

その後、諸々の後片付け……主に囚われていた人達の救出などが完了し、私は帰路につく。

もう神の国-ゴッドランド-に関しては心配は要らないだろう。

 

 

そして、その帰りの道中、おぼつかない足取りで一人歩く少年を見つける。

すでに目が見えていないのか、今にも高所から落ちようとしている、という危ないところだったが、なんとか間一髪で助けることが出来た。

 

 

……私は原作で彼の存在を知っていたからそのつもりで探していたが、ケンシロウさんはよく見つけたものだ。

 

ともかく、脱水症状を起こしかけている彼に、手持ちの水を分け与える。

貪るように飲み終え、ようやく人心地が着いたようだ。

……念のために質問しておこう。

 

「君は、一人で歩いてきたのですか? この先のオアシスを目指して?」

「は、はい……その、ぼくの村を助けてくれる、大人の人を探していて……」

 

やはり、間違いないか。

 

 

少年の名は、タキ。

あのバットくんが住んでいた村の少年だ。

 

彼の村は井戸が突然枯れ、それにより多くの人達が村を捨て出ていった。

しかし、新しい井戸さえ完成すれば水はかならず出る、と信じここまで人手を求めに来たのだ。

それ自体は間違っていない……が、間違っていないばかりに、それが後の悲劇を生むことになる。

 

私の知る原作では、今の私と同じようにタキくんに水を与えたケンシロウさんは、そのまま別れてオアシスのバーに戻る。

そしてそれに遅れてタキくんがバーに現れ、改めてこの依頼をすることになる。

 

しかし、その話を同じバーで聞いていたのが、ここら一帯に君臨する野盗の王、ジャッカル。

非常に狡猾かつ慎重な彼はその後、ケンシロウさん達との戦いを全力で避けた上で、水が出たタキくんの村を襲い、惨劇をもたらすのだ。

 

……正直なところ、あの男に対しては私がスペード達に使ったような、生半可な策が通用するとは考えづらい。

直接的な戦闘能力は低く、私やケンシロウさんが戦えば勝つことは造作でも無い。が、ジャッカルの恐ろしさはそんなところには無いのだ。

 

なので、ここで私が打ち出した方針は。

 

 

「────そうですか、それでは、一緒にオアシスまで行きましょうか。せっかくなので、詳しい話を聞かせてもらえますか?」

 

 

────そもそも、村の話を奴らに聞かせない、だった。

 

すでに協力者がここに居る以上、わざわざ誰が聞いているか分からないバーで話をすることはない。

ここで情報を手にした上で、後ほど改めて、人が居ないところででもケンシロウさん達に伝えれば良いのだ。

 

「い、いいんですか……? 水までもらったのにそんなことまで……あ、ありがとうございます……神様!」

 

神様とかご冗談を、とむず痒さから反射的に否定しかけて、ふと思いとどまる。

 

……思えば彼は、原作でも水を与えたケンシロウさんを神様と呼んでいた。

 

(神様が……自分を助けてくれる人が、まだこの世界にはいるって信じたいんだろうな)

 

純真な子供には生き辛すぎるこの世紀末で、呼び方一つで彼の心が慰められるなら……わざわざとがめることも無いか、と思った。

 

 

でも人前で呼ぶのは、出来れば勘弁してください。

 

 

 

 

そして、バーに戻った私達をいの一番に出迎えたのは、ガシャ~ンとグラスの割れる音。

……どうやら私の姿を見たマスターが、信じられないとばかりに手に持っていたそれを落としたようだ。

 

「あ……あんた! い……生きていたのか!?」

「マコト!! もう、何やってたんだよ遅いなー!」

 

そう言って笑顔を見せるバットくんとリンちゃん。

ケンシロウさんもいつもどおりの無表情に見えるが、その中に少し、安堵の色を覗かせているのがわかった。心配をかけてすみません。

 

「なっだから言ったろう! マコトなら神の国-ゴッドランド-なんて壊滅させられるって! 何しろ北斗神拳の使い手なんだぜー! どうだい納得したかおっちゃん!!」

「あ、ありがとうございます。あの、それは良いので、話したいことがありまして、とりあえず一旦ここから出ませんか?」

 

原作の知識がある私は、とにかくあまりここに長居したく無いのだ。

……が、その思いも虚しく、二人の男がぬっと私の背後に現れる。

 

 

「あんたか、神の国-ゴッドランド-を一人で潰したという女は……捜したぜ」

 

 

ゾワッとした。

それは、いきなり男二人に後ろから声をかけられたから……というわけではもちろん無く、その内容にだ。

 

(崩壊させたことを言ったのは、今が最初のはずなのに……すでに情報を掴まれている────)

 

後片付けで少々時間を取ったことを考えても、恐るべきアンテナの広さだ。

これが、この男たち……正確にはそのボスである男、ジャッカルが持つ危険性なのだ。

 

 

「お前のウワサを聞いて俺たちの組織に入れてやろうと思ってな。お前が入りゃ鬼に金棒、どんなことでも思いのままだ」

「あーいえ、そういうのはちょっと、興味ないって言いますか……」

 

と、ここでサッと割り込むバットくん。

あ、まずい。

 

「おっとぉ! そういう話はまずマネージャーのオレを通してもらわなくっちゃ!」

 

邪魔をされたと感じた男は躊躇なく、「ザコは引っ込んでろ!!」とバットくんに拳を振り上げるが、すかさず私は手を差し込みそれを止める。

 

……子供をどかせるだけにしてはあまりに強い勢いだ。

止めなければ少年の小さな体は血を吐きながら吹き飛ばされていただろう。ひどいことをする。

 

「────勧誘しようってところに、人の仲間に手を出そうとは、ずいぶん良い教育を受けていますね」

「あぁ!? てめぇ下手に出てりゃぁつけあがりやがって! 良いからこっちに」

「フッ────!」

 

もはや彼らと話すことはないだろう。

そう判断すると私は小さく息を吐きながら、男二人まとめて秘孔を突いて気絶させた。

 

 

……その様子を見ていたタキくんが、後ろから信じられないとばかりに声を上げる。

 

「え……すごい、大人の男を倒したんですか? これなら、村の井戸も……!」

「な……お前、まさかタキ、タキじゃねえかおい!!」 

「あっ!! そ……その声は、バ……バット兄ちゃん!! どうしてここに!?」

「いやどうしてってこっちのセリ」

 

 

「とにかく!! ここは!! 人が多いので!! 一旦!! 出ましょうか!!!」

 

 

こうして、話が進んでしまう前に力技で押し込むようにして、私達はバーを後にしたのだった。

 

 

 

 

「────おい、貴様ら。……分かってるな?」

「────へいッ」

 

 

 

 

「な、なんでぇあのババァまだ生きてやがるのか!!」

 

こうして、人通りのないところを選び、タキくんから私達は改めて話を聞く。

 

バットくんは憎まれ口を叩いているが、この厳しい世界で身寄りのない子どもたちを、自分を顧みず世話し続けるおばさん。

おばさんのことを含めた、村の困窮とタキくんの願いを聞いた私達は、満場一致で村に行くことを決めたのだった。

 

……その時。

 

 

「…………」

「……? どうかしたの、マコトさん?」

「ううん、なんでもないですよ、リンちゃん」

 

 

ほんの僅か、北斗神拳の使い手が、さらに気を張ってようやく分かるくらいの、微かな人の気配を感じた。

距離は遠く、普通に考えれば全く関係ない通行人か何かの可能性のほうが高いだろう。

 

しかし。

 

 

(……少し、覚悟をしておいたほうが良いかも知れない)

 

 

 

 

 

道中、何度も尾行者が居ないか、不審な点は無いかと目を光らせてはいたが、結局見つかることは無く。

そのままタキくんの案内のもと数日ほど歩き通し、目的の村が見えた。

住居の多くは壊れ、人通りは無く、作物などもほぼ見られない。

多くの村人が捨てた、というのもうなずける荒れようだ。

 

 

「ひゃ~~ひでぇ荒れ方! これじゃ誰だって見捨てらぁ、もうババァもとっくにくたばってんぜ! 帰ろうぜケン、マコト!」

 

……これで本当にじゃあ帰ろうか、て言ったら多分一番焦るんだろうな、バットくんは。

 

そんな事を考えながらも、さらに案内されるまま歩く。少ししたところで、話にあった井戸にたどり着いた。

 

 

「おばちゃ~~ん! バット兄ちゃんが帰ってきたよ~! それに手伝ってくれる人も見つかったよ!」

「ヤロ~ババァ! せっかく俺が戻ってきたのに出迎えぐらい出来ねえのか! ……いてっ!?」

 

バットくんの頭にごちんっと、小石がぶつけられたのはその時だった。

 

「どの面下げて帰ってきた! この道楽者のバカ息子!!」

 

そうして小石を片手に現れた壮年の女性。

この人がバットくんの育ての親であり、この村の取りまとめ役でもあるトヨさんだろう。

 

「や……やりやがったなこのくそババア~!」

 

どうどう、と抑える私達のところに来て、トヨさんはニッコリと笑う。

 

「よくおいでくださった、わしがトヨですじゃ。お疲れになったでしょう」

「はじめまして、マコトといいます。バットくんには、いつもお世話になっております」

「おぉおぉこんなカワイイ娘がバカ息子にお世話だなんて……ご迷惑ばかりおかけしてるでしょうに」

「おま、おま! いらねえ事ばっか言ってんじゃねえよババア!」

 

……ほんの少し、話すだけで伝わるのはトヨさんの暖かい人柄。

そして憎まれ口を叩き合いつつも、トヨさんとバットくんが互いに向ける深い愛情。

 

 

原作では後ほど明かされることだが、実はこのバットくんが村を一人で出たのは、他より身体が大きい自分が出ることで口減らしをするため……つまり、他でもない村を。トヨさんを想っての行動なのだ。

生来の気性・資質もあったとはいえ、この世紀末において少年が身一つで旅立つというのは、並々ならぬ覚悟を要したことだろう。

そして、そのことはトヨさんも分かっている。だからこそあえて厳しい態度を取って、バットくんの未練という形で負担になることを避けているのだ。

 

……この事実は、原作でトヨさんがジャッカルの手により殺され、その今際で明かされたこと。

最期はバットのおかあさん、という叫びと共に彼女は息を引き取ることになる……が。

 

(────そんなこと、絶対にさせるものか)

 

何事も無ければ、明かされることもないこの事実。

この世界で、それを知るのは、私だけでいいんだ。

 

少なくとも、今は。

 

 

また、それとは直接の関係は無いにしろ、私は今、必ず真っ先にやらなければならないことがある。

 

「さあさあ、長旅でお疲れでしょう、作業は明日にして、今日は水を飲んでゆっくりと休んでいってくだされ」

「よっしゃ! 水だぜ水ー! もう疲れたぜ~!」

 

そう言って飛び跳ねるように喜ぶバットくん。確かに私達も疲れてはいる。

休めるなら休みたいし、普段なら当然そのお言葉に甘えたい、が。

 

「────いえ。せっかくのご厚意ですが、私達は水を出すために来たのです。なので早速ですが、井戸を見せていただけますか? ……ケンシロウさんも、良いですよね?」

「む────いいだろう」

 

「え、いえ、しかしそんな……」

「えぇ!? お、おいどうしたんだよマコト! そんなもん明日で良いじゃねえかよー!」

 

明日では、ダメだ。

 

こんな、厚意を無下にするような失礼な態度を取ってまで、井戸の件を解決したい理由。

それは、この村の……正確には、トヨさんの困窮具合にある。

 

元気な態度で上手く……それこそ、ケンシロウさんすら欺くほどに見事に隠しているが、実のところ、このトヨさんは水を一滴も飲んでいない。子どもや私達に振る舞う水を確保するためで、それもあと二日もつかどうかという状態だ。

自分が無茶をしてしまっては元も子もないとも思うが、そんな優しいトヨさんのためだからこそ、タキくんは一人で砂漠を渡るなんて無茶をしたのだ。

 

……そして、その優しさは最悪の結末を呼ぶ。

今日に至ってなおトヨさんが水を飲んでいないことを知ったタキくん。

彼は今日の夜中、なんと水を盗むために隣村に一人侵入する。そして水の番人に見つかりあえなく射殺され、その痛ましい躯をトヨさんの前に晒すことになるのだ。

トヨさんのためを思ってやったことで、他ならぬ彼女が嘆き苦しむことになる……あとたった一日待てば避けられたこの事態を、私が居る前で起こすことはあってはならない。

 

……それに、これほどどこも水不足であえいでる現状、水泥棒は人命に関わりかねない大罪だろう。

原作では門番はケンシロウさんに殺されたが、泥棒をしたのはこちらな以上、子どもとはいえ正直撃ち殺されてもあまり文句は言えなかったと個人的には思う。

これは、本来生まれる必要など無いはずの罪を、まだ七つのタキくんに背負わせないためでもあるのだ。

 

 

そんな内心を抱えながら、私とケンシロウさんは井戸の底にたどり着く。

 

────これは、確かに。

 

「硬い……それに、かなり厚い岩盤ですね」

 

「え、えぇ、これさえ割ることが出来れば、とは言われていますが、いかんせんこの厚さでして……やはり、明日からじっくり時間をかけてやっていただいた方が」

 

と、井戸の上から心配そうにトヨさんが声をかける。

なるほど、前提として一日二日で割れるようなものではない、とわかっているからこそ、タキくんはあれ程の無茶をしたのだろう。

 

 

しかし、何も問題はない。

 

 

「────よし、ケンシロウさん。やっちゃいましょう。今、ここで」

「良いだろう。併せろ」

 

「え……? 今って、まだ道具も……」

 

 

コォォォォっという呼吸と共に、身を流れる闘気を右拳に、ケンシロウさんは左拳に集中する。

 

この動作の目的はただ力を込めるだけでなく、精神のコントロールも兼ねている。

心の強さがモノをいうこの世界で大事なこと。それは、とにかく出来る、と信じることだ。

 

なりたい自分をイメージして修行をし強くなった時のように。今の自分の速さなら大佐を倒せると信じた時のように。

"北斗神拳なら出来て当然"と強く、強く認識し、そして────振り下ろす!

 

 

「おぉぉぉぉお────ッッッ!!」

 

 

さらに、ここには北斗神拳の使い手が二人。

本来起こり得なかった、生まれるはずがなかった破壊力が……奇跡が。

この狭い井戸の底で炸裂する。

 

原作ではタキくんの死によって生まれた哀しみの心の力もあったとはいえ、ケンシロウさんが一人、一撃のもと叩き割った岩盤……それは、この二つ分の威力の前に"当然の如く"崩壊し。

 

「お、おおぉ……き、奇跡、奇跡じゃ……! み、みんな、水だ! 水が出たよぉ!」

 

ゴボボボォォォ、という濁音……この村の人達が心の底から渇望していたその恵みの音と共に、井戸は復活したのだった。

 

 

 

 

「神様……タキはあなたのことをそう言っていたけど、あなた……いえあなた方は一体……」

 

「巡り合わせが良かっただけですよ。……それよりトヨさんは、ちゃんと水を飲まれましたよね?」

「なんと……えぇえぇ、もちろん、頂きましたよ。まさしく生き返った心地でした。……隠していたつもりでしたが、お見通しでしたか。これも神の御業なのでしょうか」

 

神の御業(カンニング)です。

確かにトヨさんの肌にも先ほどとは違って艶が出ている。

もうこれでタキくんが無茶をすることも無いだろう。

 

 

さて、気を取り直して、改めてトヨさん達に注意しなければならないことがあるわけだ、が。

 

「いいですか、水が出たことを誰にも知られてはいけません! 知られたらたちまち野盗共の餌食になってしまいます。隠し通してください」

 

ケンシロウさんが先に言ってくれた。

 

もちろん、永久に隠し通せるものではないが、少なくともジャッカルには情報を渡さないよう立ち回っていることから、これですぐに危険が及ぶことはない……はずだ。

あとはこの村で自衛手段を整えるなり、他の……例えば、原作で残された子どもたちがこの後お世話になることになる、マミヤさんがいる村へ受け入れてもらうよう薦めるのもいいだろう。

すぐには難しくても、野盗達が目の色を変えて狙うほどの豊富な水を手土産にすれば、交渉もきっと捗るはずだ。

 

 

(…………ふぅ…………)

 

 

……今回は直接戦闘こそなかったが、考えること、先回りしてやるべきことが多くてなかなか精神をすり減らした。

ただ、このまましばらく様子を見て何事もなければ。

 

 

(────なんとか、なりそうかな。よかった)

 

 

 

「ヒャッホ~~~!!」

「水だ~~~!!」

「おら~~どけどけ~~!!」

 

 

バイクに乗ったカラフルなモヒカン複数名が村になだれ込み、私が頭を抱えてうずくまったのは、そんな風に希望を持った瞬間のことだった。

 

 

 

ジャッカルの、偵察隊だ。

 

 

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