【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第十六話

「マミヤさんは、まだ戦うの?」

「もちろん戦うわ。……どうして?」

「でも、コウさんは助かったし……その、マミヤさんが戦ってる姿って、あんまり幸せそうに見えない」

 

牙一族の村への強襲から一夜明け。

このままただ攻められるのを待つわけにはいかない、とマミヤさんは牙一族達の許に打って出ることを決意した。

 

そしてその準備のさなか、リンちゃんが投げかけたのがこの質問だ。

 

「マミヤさんって誰か好きな人とか……愛してる人っていないの……?」

 

主に元の世界の方の私に、何故かナイフのようにぐさっと来た言葉にも、マミヤさんは顔色一つ変えずに答える。

 

「いないわ。私はもうそんな感情は失くしたのよ! そんなことに割く時間は無いわ!」

 

……生き残った弟のコウくんを大事に想う気持ちはあるだろう。

しかし、その気持ちが強いからこそ、村のために一度は見捨てる選択をした自分は、戦士として強くあり続けなければならない。

そんな風に考えているように、私には見えた。

 

そして、足早に外へ出ようとするマミヤさんの前に立ち塞がるのは、レイさんだ。

 

「……どいて」

「お前が戦う必要はない! お前は女だ」

 

その言葉を鼻で笑いながら、力強くマミヤさんは宣言する。

 

 

「私はとうに女を捨てたわ! 今あなたの目の前に立っているのは女では無い、この村を守るただの戦士、マミヤよ!」

 

 

それを聞くとレイさんはフッと笑ったかと思うと、南斗聖拳の動きを以て眼の前の彼女に腕を振る。

 

 

たちまちシュバァっという音と共に服が破け、マミヤさんはその裸身を晒した。

……器用にもショーツだけ残っていたのは、せめてもの優しさと言える……のだろうか。

反射的に彼女は、自分の腕であらわになった胸を隠す。

 

思わずとったその行動に対し『女でなければ胸を隠す必要もない』と突きつけられ、硬直するマミヤさん。

そのままレイさんは、どこからか出したケープをマミヤさんに優しく被せ、言う。

 

「いいか、女は自分の幸せだけを考えていればいいんだ! ……女は武装よりもこれがよく似合う。……妹が、アイリがつけるはずだったケープだ」

 

そう言って私が知る原作通り去ろうとするレイさんだった、が。

 

 

「な、なら! マコトさんはどうなの! 彼女だって、女の身で戦うことが出来ているわ!」

 

「────!?」

 

 

まさかのここで矛先が飛んできた。

それを聞いて振り返ると、レイさんは無言で私の目の前に立ち、私はそれを内心焦りながら見上げる。

 

 

(────いやいやそんな、まさかでしょう)

 

……おそらく違うだろうが、念の為、万が一に備えていつでも動けるように心構えはしておく。

これは私の羞恥心やらの問題もあるが、何よりも……私の自惚れなら良いのだが、マミヤさんと同じことを私にした場合、なんとなくだが。

私よりも誰よりも、後ろに控えるあの人がとても怖いことになるのではないか……そんな予感がしたからだ。

 

そんな私の心配をよそに、レイさんは私の肩にぽんっと手を乗せ、笑う。

 

 

「確かに、な。彼女のような者は今まで見たことがない。……このマコトは女でありながら、すでに戦士として自立しているといえる」

 

照れます。

 

「俺はマコトの過去は知らん。だが、それでも戦う様子を見た今は、ある程度ならその心の在り様も分かる……おそらくお前との違いは」

 

それは、と続ける。

 

「強くありたいという執念か、強くならなければならなかったという義務感、その差だろう」

 

────おお、と思わず息を飲んだ。

さすがレイさんだ。この短い間によく人を見てくれている。

 

 

より正確に言うと私も、その始まりは記憶を取り戻した時の罪悪感や、マミヤさんと同じ義務感からだった。

が、しかし紆余曲折あった今は自らの意志で、むしろ強くなることを楽しみ、私はこの世紀末を前向きに生きているのだ。

 

村を守って死んでいった両親の後を継ぐ形で、戦士という道を選んだマミヤさん。

本来の心優しく穏やかな気質とは相反する生き方をする彼女とは、おそらくモチベーションが、心の在り方が違う、とレイさんは見切ったのだろう。

 

かといって、マミヤさんが間違っているというわけでも、もちろん無い。

こうして戦ってきたことにより、今まで村を守り、導いてきたことも。

そして何より、これまではマミヤさんの代わりが居なかったこともまた事実なのだから。

 

 

というわけで私からも一つ、言えることを言っておこう。

 

「確かに、義務感や責任感に縛られて、本来の在り方、やりたいことと異なる生き方をし続けること。それは、経験者である私から見てもオススメ出来ません」

 

具体的には……頑張りすぎて自分を見失なった時、夜間にその自分の姿が映った時などに、漏らしかねないぐらい酷いことになる。というかなった。

心の影響が強いこの世界では、心の歪みがもたらすモノも大きいのだ。

 

 

「とはいえ、これまでの状況から、マミヤさんも戦わなければならなかった、というのも分かります。なので……」

 

なので。

 

「このまま戦った先に、もしリンちゃんが言うように好きな人、愛する人が出来たなら。それを無理に否定するのでなく、その人に一緒に荷物を持ってもらう……そういう生き方も、良いのではないかと思うんです」

「────ッ」

 

そう、やらなければならないことは、何も自分一人だけでやらなければならない、とは限らない。

自分一人で持てないような荷物なら、誰かに投げてしまってもいいのだ。

これまで、ずっと一人で頑張ってきたのなら、なおさら。

 

「────そう、ね。……もしそんな人が出来ることがあったなら……それも、考えてみるわ」

 

こんな言葉だけでいきなり、これまでやってきた生き方を変えられる、ということは無いだろう。

それでも、この先そういうことが選べる状況になった時に、少しでも無理のない方向に進める……それぐらいには、背中を押せただろうか。

私はそんな風に考えながら。

今、マミヤさんが私やレイさんに向ける、多分出会ってから一番に柔らかく、自然な笑顔に、同じく笑顔で返した。

 

 

……ところで。

差し当たっての相手に、なにげに出会ったときからず~っと、不器用にマミヤさんのことを心配している漢が居るんですが……その辺どうですかね。

なんて無粋なセリフも頭をよぎったが、さすがに言うのは辞めておいた。

 

今は、だけど。

 

 

この世界では、無事に結ばれると良いな。

 

 

 

 

「俺には、妹が居た────」

 

牙一族の討伐のため、村を出て歩く私達。

メンバーはケンシロウさん、私、レイさん、そしてマミヤさんだ。

 

村の代表として見届ける義務がある、と力強く言い放ち付いて来るマミヤさん。

心配ではあったが、この世界の人達の行動力を考えると、下手に目の届かないところに置いて行動するのも余計に危ない、と判断しそのまま合流してもらった。

 

そしてその道中、レイさんが自分の過去を私達に明かしてくれたのだ。

 

結婚を迎えるという、幸せの絶頂期にあった妹のアイリさんを連れ去られたということ。

彼女を探すために泥をすすり、汚いことに手を染めてまでこれまで生きてきたということ。

彼女がつけるはずだったケープはすでに血に染まっているが、それでも、なんとしてもこれを彼女の許に返したいということ。

 

そして。

 

「────そして、アイリを連れ去ったという胸に七つの傷を持つ男! やつを殺すまでは死んでも死にきれん!」

 

北斗の者としては、身内の不始末でもある。

……この戦いで生き残れたなら、これにも決着をつけなければならないだろう。

 

 

レイさんの話が終わった、その時。

 

 

カッとライトが灯り、強い光に"崖の上が照らされる"。

 

見上げると、そこには。

 

 

「あ……アイリッッ!!!」

「なに!?」

「あれが、レイの妹……!」

 

照らされた先に居る女性を見たレイさんの言葉に、驚きの声を上げるケンシロウさんとマミヤさん。

 

その一方で私は。

 

(くっそ……)

 

内心、歯噛みする心を抑えることが出来なかった。

 

牙一族が仕掛けたものであろう、そのライトが照らした先にいるのは、レイさんの妹、アイリさん。

そして、そのアイリさんを後生大事に抱え、こちらを見下ろす屈強な大男。

 

「はっはっは~~っ!! お前のかわいい妹は、わしの手の中だ~~~っ!」

 

────牙一族の長、牙大王だ。

 

 

(やはり……警戒されている!)

 

もし、原作のように一度近くの岩にアイリさんを立たせて、レイさんが近づいた瞬間牙一族が襲う、といった罠の張り方をしていたなら、私は必ず先んじて助け出すことが出来た。

 

そのために、歩きながらも気を張り詰め、いつでも動けるよう闘気を練り込んでいたのだ。

 

しかし牙大王はそれを警戒し、生半可な罠に頼ることをせず、最初から人質を手中に収めたままでいることを選択したのだ。

それは紛れもなく、私が一番取ってほしくなかった戦法だった。

 

 

 

 

────華山角抵戯。

牙大王が使用する拳法の名だ。

 

その拳法の特性は、瞬時に肉体を鋼鉄化させること。

それがどのくらいの硬さかというと、原作のケンシロウさんですら一度秘孔をついて身体を柔らかくし、トドメを刺すという二ステップを踏むことになったほど。

もしかしたら、最初から渾身の力で必殺の秘孔を突くことも可能ではあったかもしれないが、それでも普通の拳では一切ダメージを与えられない硬さだったことは間違いない。

 

そしてその特性は、アイリさんを抱え、さらに遠距離攻撃を警戒しているという今現在の状況に於いて、私が取れる手に対する最善であり……私の立場からすれば最悪のカウンターと言えた。

間違いなく、ただ正面から撃ってもアイリさんを危険に晒すだけで、救出には繋がらないだろう。

 

 

(────私は、原作の北斗の拳を読んでいたころ、一度疑問に思ったことがある)

 

それは、どうして北斗神拳使いがラオウ達を始めとする強者に拳を当てた時、モヒカンと同じようにすぐに倒せる秘孔を突かないんだろう、ということだ。

 

これはこの世界で修行し、闘気という概念を身に着けた時、感覚でわかった。

闘気は攻防において要となる、この世界においてとても重大な要素。

どんな人間でも、大なり小なり闘気は常に身体を纏っているが、多くの人間はそれを使いこなすことが出来ない。

しかし、達人はそれを意識的か、あるいは無意識のうちに身体の致命的な部分に張り巡らせ、守る。

それにより、お互いの実力差が少なければ少ないほど、致命の秘孔を突くことが困難になっているのだ。

 

原作でケンシロウさんが北斗神拳、あるいは北斗琉拳の使い手と戦った時、本来一撃必殺の暗殺拳同士のぶつかり合いであるにも関わらず長期戦となったのは、彼らが他者に比べより強力な闘気を持ち、さらに秘孔を守るすべに長けていたからに他ならない。

 

 

この事実を踏まえた上で考える。

相手はより防御面に特化した拳法の使い手である牙大王。

こちらが撃てるのはタネの割れている、おまけに人質に気を遣わざるを得ない遠距離攻撃。

 

(通じる可能性は……極めて低い)

 

今この時が、これまでこの世界で生きてきた中で、最も厄介な状況である……そう私は考えていた。

 

 

そんな私の内心を知ってか知らずか、牙大王は人質を手に、にやにやと佇む。

 

 

「貴様ら、よくもわしのかわいい息子たちを殺してくれたな。フッフッ……これからこのわしと同じ思いを味わわせてやる!!」

 

そう言い放つと、手持ちの刀をアイリさんの肌に這わせ、薄く皮を切り裂く。

 

「いや────っに、兄さん!!」

「アイリ────!!」

 

流れ出る血にレイさんが叫び、牙大王がそれでこそ気が晴れる、と笑った。

 

……すでに、牙大王自身の言葉とレイさんの呼びかけにより、アイリさんは目が見えないながらも、今自分の前にレイさんがいることは把握している。

 

しかし、その兄妹が再会の喜びにひたることは……まだ出来ない。

 

「おっと、動くなよ!! 南斗の男、お前にはどうすることも出来ん!! そこで喚いておれ!!」

「くくっ!!」

 

確かに、今のこの状況。

全ては牙大王の胸三寸であり、私達が出来ることは何も無いように思える。

 

が。

 

 

(────やれることは、ある)

 

 

と、その時。

獣のような……いや、獣そのものといっていい雄叫びが木霊し、一人の男が現れる。

 

「なっお前たち、なぜあんな凶暴なやつを連れてきた! マダラがやつらを襲ったらいたぶる暇もない!!」

 

男の名は、マダラ。

牙一族において、牙大王を除いた最大戦力とも言っていい、凄まじい殺人狂だ。

 

私の闘気か、もしくはケンシロウさんが持つ死の雰囲気か。

それにあてられ取り乱すと、牙大王達が止める間も無く私達に襲いかかった。

 

 

 

 

「────貴様は、すでに死んでいる!!」

「おおお!! …………あわっ!?」

 

鋼鉄をも切り裂く爪や牙を持つ野獣も、北斗神拳の前では敵にならない。

 

原作通り、マダラをあっさり撃退するケンシロウさん。

そして、その様で牙一族に恐れの色が見えると、すかさず眼光ギラリと宣言する。

 

「その女を殺すなら殺せばいい。俺はお前達を抹殺するために雇われただけだ!」

 

その言葉を聞き牙大王はしばらく考え込んだかと思うと……ニヤリっと口元を歪めた。

 

 

「フフ……そのハッタリもいつまで続くかな?」

「なに?」

 

「そこの北斗の男はそう言ったが、お前たちはどうだ!? 南斗の男のかわいい妹を犠牲にして、このわしを倒すことが出来るかぁ!?」

「────ッ」

 

「お前たちが人質を無視して来るのならば仕方がない、だがこのアイリといったか、妹だけはこの場でいたぶって殺してやる! それでも良いならかかってくるがいい!」

「や、やめろ! やめてくれ! 俺はこいつとは違う!! アイリだけは殺さないでくれ! たのむ!!」

「ほう、ならば……」

 

 

ザッ、と。

レイさんの狼狽を見た牙大王が次の言葉を吐く前に、私は一歩、前に出る。

 

 

「────ならば、どうすればアイリさんを解放してくれますか?」

 

「…………フフッ」

 

(ぅ……っ)

 

じろぉっ、と全身を舐め回すような、ねばついた牙大王の視線。

単純な力関係ではない部分から来る怖気に、ブルっと震えそうになるが、表情に出さないようつとめる。

 

 

「そう、お前、お前だ。知っているぞ。そこの北斗の男に身内はおらん、が! 同じ北斗神拳を使うというお前はなんだ? 妹弟子か何か……そう、妹と言っていい存在ではないのか?」

 

ならば、と牙大王は高らかに続ける。

 

「お前がこの南斗の妹と同じ状況になったなら、その男の死神のような鉄面皮が苦痛に歪むところが見られるんじゃないか? それが叶うのならば、こんな人質は要らん!」

 

 

「────分かりました、私が、代わりに人質になれば良いんですね」

「ッそれは!」

「マコトさん!?」

 

 

レイさん、マミヤさんの静止の声を尻目に、私は自ら牙大王の下に歩みを進める、が。

 

「待てぇい!!」

 

それにストップをかけるのは、他ならぬ牙大王だ。

 

 

「息子達から聞いているぞ! 貴様も北斗神拳を、それも恐ろしい闘気を腕から撃ち出すとな! そんなヤツをのこのこと近づかせると思ったか、バカめが!!」

「…………ならば、どうすれば? 近づかなければ、人質になれません」

 

 

「人質になりたくば、今! 自分でその右腕をへし折るところを見せろ!! 自分で鍛えたその腕を、自分の手で破壊するのだ!!」

「────ッ」

「…………」

 

ケンシロウさんが、とてつもない形相で前に出ようとするのを、手で。そして目で制止する。

 

 

……頭こそ回っているが、牙大王の意識はすでに狂気に染まっている。

下手な刺激を与えてこれ以上アイリさんに被害を与える訳にはいかない。

 

 

「きさ、まら……そんな、ことを……彼女、に…………!」

 

レイさんが苦悶の表情で絞り出すように呟く。

人生の目的と言えるほどに探し求めようやく出会えた最愛の妹と、今ここで、犠牲になろうとしている私。

その間に揺れ動くレイさんを見た私は……不謹慎ながら、天秤にかけてもらえただけ少し嬉しい、と感じていた。

 

こんな優しい人を、いつまでも苦しめてはおけない。

どのみち選択肢なんて無いのだから、私がやることは決まっているのだ。

 

 

「ほぅ、それならば、この妹を見殺しにするか? ワシはどちらでも良いのだがな!」

「ぐ……」

 

それは嘘だろう。同じ復讐対象の身内として見るならば、戦闘力という意味では離しても脅威にはなりえないアイリさんより、私のほうが人質としての価値は大きいはずだ。

 

だからこそ、私の考えが正しければ……下手を打たなければおそらくアイリさんはこれで助かる、はずだ。

 

 

 

────ならば。

 

(諦めるしか、無いな)

 

牙大王に……牙一族に。隙は最後まで無かった。

彼らが上手くやったと言わざるを得ないだろう。

が、それはここに来る前から覚悟していたことだ。

 

 

ゆっくりと座り込もうとする私に、ケンシロウさんが静止の声をかける。

 

「待て、マコトよ」

 

「いえ、良いんです。……ケンシロウさん、そしてレイさん。あとは、お願いします」

 

「ぐ……ぅ……」

「マコト、さん……」

 

私は彼らの目を見ながらそう言うと、座り込みながら左手を自身の右肩にかける。

 

 

……怖い。

いくら鍛えたといっても、これから確実に襲い来るであろう激痛。

それを自分の手で起こさなければならないということは、怖い。

そして何より、この先が……"────"が正直なところ、怖くてたまらない。

 

それでも、心だけは折れず、前を向き続けなければならない。

そう、改めて覚悟を決めるように、すぅっと深く息を吸う。

 

 

────その時、一瞬。

心配そうな姉さん、ユリアの顔が、頭をよぎった。

 

 

そして。

 

 

「────ッッ!」

 

 

バキィッッ!!

 

 

 

いっそ、気持ちが良いとすら思えるほど。

それほどに分かりやすい、骨がへし折れる音が辺りに響き渡った。

 

 

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