そろそろ『独自解釈』タグが本気を出し始めそうです
第十八話
「むぅ~~ん……ぬ~~むりゃ…………どう、ですかね? 効いてそう?」
牙一族達との戦いの後、村へ戻ってしばらく体を休めた私は、その戦いで身につけた
「うーん、なんか……ちょっと暖かくて気持ちがいい……ような、気がする……多分」
今試しているのは、側頭部を少し怪我してしまった村の少年の治療だ。
切れている箇所をそのまま触っても痛いだけだと思うので、その周囲の箇所に触れたり撫でたり押したりもんだりと、ペタペタ弄っていた。
が、少年の反応を見るに、現状私が振るえる癒しの効果はそこまで劇的な、都合の良いものでも無さそうだ。
(さすがに、いきなり姉さんのようにはいかないか)
これは、軽い怪我に対して大仰な癒しを使わなくても……という必要性の有無から生まれる、私の心の方の問題もあるかもしれない。
実際、私の折れた左腕、右脚に関してはすでにほぼ完治しているのだから、現金なものだ。
逆に言うと、患部の状況が深刻であれば効果が大きくなり、延命などに繋がる可能性もあるにはある。
が、そもそもそんな状況にしないことの方がよほど大事だ。
私が姉さん、ユリアと同じぐらい慈愛だとか優しさだとかを纏った気質だったなら、怪我の大小に関わらずに高い効果を発揮できていた可能性もあるが……まあ、そんなものなのだろう。
そして、それでいい、とも思う。
私が居ればなんでも救えるから、誰がどんな大怪我をしても大丈夫……そんな、緩んだ心のままに生きることは、きっと自分のためにもならないだろうから。
癒しは、あくまで数ある選択肢のうちの一つ。
────私はこれまで通り、私が出来ることをし続けていくだけだ。
そう考えをまとめると、協力してくれた少年にお礼を言い、頭を撫でた。
……癒しのために触れた箇所だけでなく、少年の顔全体がかなりの熱を持っているように見えたが、癒しの効能で新陳代謝が進んでいるとか、そんな感じだろう。
……多分。
★
「私を連れ去った男の顔は知らない……あの男はいつも黒いヘルメットを被って顔を隠していたわ」
連れ去られた際に、絶望のあまり自ら目を閉ざしたアイリさん。後日彼女の治療を行い、同時にケンシロウさんが、自身の胸に七つの傷があることをレイさんに明かした。
それでも、ケンシロウさんではない別人が連れ去った、と確信しているレイさんは改めてアイリさんにあの日のことを聞いたのだった。
「紛らわしいやつだなぁ、ケン」
そう声を掛けるのはバットくんだ。が、その声が耳に入ったのかどうか、ケンシロウさんは何事かを心当たり有り気に呟く、と。
「う、ごっほ!」
(────ッ)
一度だけ、深く咳をした。
…………あまりの強さと普段のケンシロウさんの態度から、それこそ私以外は忘れてしまいかねないが、ケンシロウさんへの死の灰の影響は、今もケンシロウさんの肉体を蝕んでいる。
原作のトキさんに比べると、その症状は軽い。とはいえ、レイさんとの激しい戦いで傷つき、計画通りとはいえ一時仮死状態にまで至った身体の負担は大きいだろう。
癒しの力を意識しケンシロウさんの背中をさすりながら、私はしばらくは、ケンシロウさんを休ませるべきだろう、と考える。
ただ、今に至ってもやはりわからない。
(犯人は一人しか考えられない……でも、なぜ彼が……? それに、原作と同じくヘルメットまで)
★
────北斗四兄弟が三男、ジャギ。
究極の暗殺拳、北斗神拳の使い手であり伝承者候補の一角。
……で、ありながら、私が知る原作での扱いは……不遇の一語に尽きる。
まず、この世界における強者達の考えはおおむね、"鍛えた拳こそ全て"というものである。
そしてその中にあたって、含み針や銃といった道具に頼るジャギは情けない、間違っている男……そんな風にばかり扱われている。
ラオウからはジャギではケンシロウに勝てぬ、と言い捨てられ、師のリュウケンさんからはお前もケンシロウを少しは見習え、と(実際の想いはともかく)なじられる。
トキさんに至っては絡んでいる描写すら皆無という有様だ。
果ては、後に現れる他の強者たちからは"北斗三兄弟"とされ、ついには存在すら無かったものとして扱われる。
やったことがやったこととはいえ、彼からしたらたまったものではないだろう。
その一方で私としては、彼の戦い方は別に間違いでも何でも無い、と思っている。
これは、元の世界で生きていた男としての知識や価値観も影響しているのだろう。
拳一つで悪を打倒し、全てを解決するスーパーヒーローへの憧れはもちろんある。
が、今ある手札の中で最善を尽くすために努力する、というカッコ良さもあることを、私は様々な漫画で知っているからだ。
もとより、暗殺拳である北斗神拳はキレイ事ばかりの拳法ではない。
ケンシロウさんや私自身、闇討ちや騙し討ちのような真似をすることもある以上、ジャギだけが拳を使わないことを責められるいわれも無いのではないだろうか。
もし、ジャギの戦いに問題があるとすれば……それは武器などを使うことではなく、基礎となる拳法の練度不足の方だろう。
表があるから、裏が活きる。
如何に含み針などを隠し玉として使おうとも、それを隠すための北斗神拳自体が小さくまとまってしまっているならば、そもそも裏の選択肢も脅威になり得ない。
だから、最初から武器ありきで頼るのではなく、それを活かすための拳法を限界まで鍛え上げる……その脅威を知らしめた上で、突然それ以外の手段を躊躇なく使ってきたならば、どうか。
その時こそが、これまでの北斗神拳の歴史上にも現れなかった、恐ろしい拳法が誕生する瞬間となる……そんな可能性もあるのではないか。
────────と、そんな考えを、"私はジャギ本人に言ったことがある"。
……そう、実は私はこの世界で目覚めてから一度、ジャギと話す機会があった。
★
それは、ケンシロウさん達が死の灰を浴び、シンが襲いかかってくるまでの間。
彼らの世話のため、一人で買い出しをしていた時の話だ。
「よぉ~~。ユリアの妹の……マコトだったか? 出来の悪い弟の世話ぁやらされて大変だなぁ~?」
突然、馴れ馴れしく……それでいて、何かを窺うような、そんな不思議な距離感で話しかけてきた男、ジャギ。
挨拶代わりとばかりにケンシロウさんを悪し様に言われたことに、むっとする気持ちはあった。
が、それを口にする前に私は、このタイミングで一つのアイデアが思い浮かぶ。
(────ここで彼の、ケンシロウさんへの劣等感をある程度除くことが出来れば……後の悲劇が避けられるんじゃ?)
原作に於いて彼が歪み、凶行に走った理由。
その多くは、ケンシロウさん……自分の後から北斗神拳を学んだ年下であるにも関わらず、最高の才能を持ち誰からも認められる、彼への嫉妬、劣等感。
さらにその劣等感の根本の原因を辿るなら……それは、自分のことを誰も認めてくれない、という承認欲求の飢えに他ならないだろう。
ケンシロウさん達と比較され見下される彼とて、厳しい北斗神拳の修行を、今日まで伝承者候補として生き延びてきた選ばれし者。
そのありのままを認める者がもし一人でも現れたならば、アレほどに歪んで悪事に手を染めることも、もしかしたら無くなるのかもしれない。
そんな下心もあり、私は会話の流れで、ケンシロウさんへの劣等感を彼自身の主張として引き出し……そして、私の考えを伝えた。
内容としては、貴方の考えが間違っているとは思わない、ただ素人意見だがこうこう、こうすればより良くなるのではないか、といった具合で、それも割と長い時間話し込んでいたはず。
かといって、下手に出て彼を喜ばせよう、持ち上げようとするような殊勝な態度でも無い。
あくまでも対等に、大したオブラートにも包まずにどうにでもなーれ、と意見をぶつけた形だ。
……この時の私は、この世界に来たばかりという混乱や、ケンシロウさん達への罪悪感で、半ばヤケっぱちになっていたように思う。
今考えれば、相当危ない橋を渡っていたのかもしれない。
とはいえ、言ったことや考えていたことに嘘や欺瞞は一つもない。
幸いそれが通じたのか、その時のジャギは激高したりすることもなく、一通り話を終えると何事かを考えながら、去っていったのだった。
★
あの時の彼の態度は……すでに荒いものにはなっていたが、即座に犯罪に手を染めるほどに危ういものには見えなかった。
その上、ケンシロウさんが伝承者に選ばれていない以上、彼が発狂しケンシロウさんに襲いかかることもなかったはず。
だからこそ、アイリさんを攫い、売るという悪事を働く犯人像に繋がらなかったのだ。
考えられる原因としては、私と同じくジャギを思い浮かべていそうな、ケンシロウさんぐらいしか無さそうだが……
ひとまず彼に問いただしてみようか。そう考え声をかけようとする、と。
(うん……?)
何やら、見慣れぬ男がこちらに近づいて来た。
顔つきはどう見てもカタギのものではない、かなり凶悪な部類の人相……だが、その服装はなんというか、よくあるモヒカン的な出で立ちではなく、やたらと小奇麗に整えられている。
これは礼装、だろうか。しかし普段からつけているような感じでは無く、まるで服に着られているような覚束なさが印象に残った。
男は私の前に立つと、にっこりと笑みを浮かべ、かと思ったら妙にたどたどしく口を開く。
「探してい……お探し、そう、お探しいたしており、ました。……マコトさんですね?」
「あ、はいそうですが。あなたは?」
使い慣れていないであろう敬語のまま、彼は答える。
「私は使いのものだ、でございます。どうぞこちらへ……北斗神拳伝承者、ケンシロウ様があなたをお待ちです」
────ケンシロウさん、そこに居ますけど。
ケンシロウさんが増えた! なんてわけはもちろん無く。
このタイミングで彼の名を騙る人物は、やはりジャギしか居ないだろう。
隣りにいる本物ケンシロウさんも同じ考えのようで、ただ一言つぶやく。
「やはり……ジャギか」
私はその声を拾うと、とりあえずは何も知らないという体で、ケンシロウさんに改めて質問を投げる。
「ジャギって、あのケンシロウさんのお兄さんのジャギですよね? 彼が騙っているってことですか?」
「────む、おそらくは、だが」
このタイミングで彼がそう確信を持つ、ということは、つまり。
「────えっと、もしかして、なんですが、その……」
……私は、間違っていて欲しいと思いながらも、おそるおそる予測のままに問いかけた。
「ケンシロウさん、ジャギに何かしちゃいました?」
「した」
したんかい。
そもそも私が呼ばれた理由もまだいまいち分からないが……
それを知るためにも、使いの人には申し訳ないが、少し待ってもらうことになりそうだ。
「ケンシロウさん。詳しい話を、聞かせてもらえますか?」
マコトくんは海賊漫画でいうなら
船長のバトルもいいけど狙撃手のバトルもいいよねってタイプ