【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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本日二話目です
もし二十話を見ずにこちらに来た人が居たなら、前話からどうぞ



第二十一話

★★★★★★★

 

 

意識を失っていたのは数秒か、それとも数時間か……ともかく、ジャギが目を覚ました時、最初に視界に入ったもの。

それは、戦闘前と一見変わらぬ様子で、じっとこちらの様子を伺うマコトの姿だった。

 

「…………」

 

正直なところ、負けた時点で殺されることも覚悟していたし、そうでなくても目を覚ました時にはもう誰も居なくなっている、ということも……想定はしていた。

だが、幸いというべきか自分はまだ生かされ、そしてまだマコトが眼の前に居て、話すことも出来る。

 

それならば、と息をついて、ジャギはその言葉を吐き出す。

 

「────俺の、負けだ。つええな、お前は。…………最後に、信じてたって言ったが、あれは……読んでいたのか?」

「そう……ですね、うん。信じてました。今の貴方ならあれぐらいやれるんじゃないか、って」

「あれぐらいって……はっ、簡単に言ってくれるぜ。俺がどれほど…………」

 

そう自嘲気味に呟きながら自分の頭に手をやって……そこで、ジャギは気づく。

 

────そもそも今しているこれは、何の話だ? 俺とマコトは、何をやった、という話をしているんだ?

 

起きたばかりでぼやけていた思考が、それに追いつき。

そして、気づく。

 

 

自分が今、ヘルメットを完全に壊され、隠していた素顔をさらけ出してしまっているということに。

 

 

「ぁ、うぉ、ああぁあ!!」

 

 

反射的に頭を抑え、マコトから身を隠そうとする。

 

もう遅い、気絶している間からとっくに見られている、と。

そう理性では分かっていても、戦いが終わった今。

それを晒す恐怖に逆らうことは、ジャギには出来なかった。

 

 

見られたくなかった。

純粋に醜いものだと思っていたということもある。

が、それ以上に苦しいのがこれが仇敵に襲いかかり、返り討ちにあった結果の傷という事実だ。

それは、自分が強いと。強くなると信じてくれたマコトに対して、明確な弱さを見せることになる、と思っていたから。

彼女の前では、どこまでも強くありたいと思っていたから。

 

 

「その……ジャギが、人さらいをしたのは……」

 

おずおずとマコトが発した言葉を受け、もはや取り繕うことなど出来ないと半ば自棄になり……それでも、傷だけは手で隠し続けながら、返す。

 

「……こんな形相で、まともな仕事になんざありつけるわけがねぇ」

 

戦いの前に、マコトに切った啖呵は事実だ。

生きるためには食料や水が必要……たとえ修行だけをしていたかったとしても、それは変わらない。

だからそれを稼ぐために、弱者を踏みにじってでも手っ取り早く済むその手段を選んだ。

それに併せて、どうせやるなら、と後にマコトをケンシロウから引き剥がすために、ケンシロウを騙ることも考えたのだ。

 

もとよりジャギは、マコトと出会うことで改心し正義に目覚めた、という訳では断じてない。

 

ただ、こうした生きるための食い扶持を稼ぐ……

その必要最低限の悪事以外を働く暇も無いほどに、強くなることに精一杯だっただけだ。

 

 

そして、それももう終わった、とジャギは思った。

 

もし彼女に勝っていたなら、彼女を手にする障害であり、仇敵でもあるケンシロウを殺しに向かっていただろう。

 

が、そこに至る前の今。

自分に出来る限界を、死力を尽くして戦って、その上で正面から敗北した。

その相手は、自分の力を、成長を見てほしかった唯一の相手、マコト。

 

そして、自分の醜い傷も、弱さも、働いた悪事も。全て彼女のもとに曝された。

 

ならば。

 

────戦いでは生き残ったが、もはやこのさき生きる理由も、意味も無い。

そう、ジャギはすでに己の生涯を見限っていた。

 

 

「────────」

 

マコトが、何かを喋ろうとして、やめるところをジャギは見る。

それは、ジャギからしてもありがたいことだった。

 

……おそらくマコトは、この傷を醜いだとか、やった悪事はダメなことだとか、そんなことを自分に言うことはないだろう、と思う。

が、それでも内心ではどう思っているかまでは分からないし、下手な言葉による慰めで憐れまれることも、ジャギは望んでいなかった。

 

だからジャギも、スッと無言で立ち上がり、背を向ける。

 

────これで、いいだろう。

最後に会って、拳を合わせたのがこの女なら……望むものは手に入らなかったが、それでもある程度の満足を抱いて死ねるだろうから。

 

そんな思いを胸に、そのまま歩いて立ち去ろうとした。

 

 

立ち去ろうとするジャギの前に、北斗神拳の歩法まで活用したマコトが素早く回り込んだのは、その時だった。

 

 

 

「……?」

 

そして、自分の頭を押さえながらも訝しげに見やるジャギを、しばらく真顔で見つめたかと思うと────

突然、その腕をガシッと鷲掴みにし、動かそうとしてきた。

 

それも、潜在能力解放をふんだんに使った、万力を思わせるような力でだ。

 

「ぅ、ぅぉ……な、なんだっ……!?」

 

思わぬ奇行にジャギも抵抗するが、敗北し精魂尽きた今では、その力も弱々しい。

 

そして、あっさりと腕を広げられ、再びあらわになる傷。

すかさず、シュバァっと鋭い音を伴うほどの速さでマコトは手を差し込み────

 

 

ジャギの傷に、触れた。

 

 

「……ッ!」

 

 

その時、ジャギが感じたものは、突然触れられた刺激による一瞬の痛み。

そのすぐ後に自覚したのは、一瞬、焼けたかのように錯覚するほどの熱い感覚。

 

…………そして。

 

 

「ぁ……ぁ……?」

 

 

(…………あった……けぇ……)

 

 

陽だまりのような、どこまでも優しく、どこまでも淡い。

そんな……暖かさだった。

 

 

あの日以来ずっとジクジクと苛んでいた傷が、触れられている今は全く疼かない。

それどころか、全身が何かに包まれているような安らかな感覚すらする。

 

 

「…………ぁ……? なん、だ……?」

 

気づけば景色が、ほんの一瞬前と全く違うものに変わっていた。

 

立って、マコトを見下ろす形になっていた視界は、いつの間にか、何故か横向きに地面を眺めている。

 

……これは、再び倒れているのだろうか。

 

いや、それにしては地面の冷たい感触が無い。

頬にほんのりと感じるのは人肌の暖かさと、ショリショリとしたナイロン独特の感触。

 

 

そこで気づく。

 

今、ジャギは。

 

 

(……うそ、だろ……?)

 

 

自身が全く気が付かない間に、マコトの膝の上で横になっていたのだった。

 

 

★★★★★★★

 

 

『戦いの動機はどうあれ、それは名誉の傷で恥じることはない』

『自分はそんなもの気にしない、増えた傷より得た力のほうが大事だ』

『難しいと思うが、出来れば、私を守るために戦ってくれたケンシロウさんを恨まないでほしい』

 

…………それを見た時、言いたいこと、言えることはたくさんあった。

だが、なんとなく、どれも違う気がした。

それでも、このままジャギを行かせてしまうのは良くないと思った。

 

そうして、何か出来ることは無いか、と考え……直前の戦いで目覚めた"あの力"を使ってみることを思いついた。

 

ただそれにしたって、いきなり頭に触れて大丈夫なのか、私に触れられるのは彼が一番嫌がることなんじゃ無いか……

そんな考えが浮かび、躊躇をしてしまう。

するとその態度に思うところがあったのか、ジャギが背を向けてどこかへ行こうとした。

 

それを見た私は焦りとともに……『もう面倒だ、怒られたら謝ろう』という発想に至る。

 

そもそも戦いに勝って、生殺与奪を握っているのは私のはずだ。

ならばこれは……そう、勝者特権というやつだ。

 

そうして私は、強硬策に出る。

 

幸いというべきか、いきなり手を弾かれたりすることもなく、ジャギは目を細め癒しの力を受け入れる。

…………どうやら、効いているようだ。

 

やはり患部の深刻さや私の心持ち次第で効果が変わる、という仮説は正しそうだ。

それが分かっただけでも重畳、と満足気に一人頷いていると。

 

「……ぅぇ?」

 

いつの間にか、ジャギがぼーっとした目のまま膝を折り、さらにこちらに倒れ込もうとしていた。

慌てて支え直しながら無理なく姿勢を変えようとすると、ジャギを横に倒すしか無かった。

 

そうしているうちに、私自身ほとんど意識しないままに……膝枕という形になっていた。

 

「ぉ、ぉぅ……」

 

 

(さ……さすがにこれは少し、は、恥ずかしいぞ)

 

ジャギ的にこれは良いのだろうか、と思い改めて彼の表情を見ると……本人も目を見開き、驚いているようだ。

無意識のうちにこうなった、ということはこれを本能が求めていた、ということになるだろうか。

 

我ながら律儀なことに癒しの力は続けているが、誰かに見られても事である、とさすがに一旦身を捩って離そうとした。

 

 

その時。

 

 

小さく……本当に小さく。北斗神拳使いの鍛えられた聴力を以てして、ようやく可聴域ギリギリというほどの、そんなささやかな声で。

ジャギが確かに呟いたのを…………私は、聞いた。

 

 

「…………かぁ……ちゃん…………」

 

「────────ッ」

 

(……あぁ……)

 

ここに来て私は、彼が本当に心の底で求めていたモノの正体に気がついた。

 

……前世の意識が目覚める前のマコトの記憶で、聞いたことがある。

彼は両親が……確か火災だったか。事故で亡くなり、ここに流れ着いたという経歴である、と。

 

拳法家としての承認欲求だとか、伝承者として認められることだとかの、それ以前。

純粋な親の……それも、母からの愛というものに飢えていた、というのが、彼の本質なのではないだろうか。

 

 

…………ただ。

 

「────────えっ、と。その」

 

「うお!? ち、ちがう、今のは────」

 

……そう、違う。

癒しの力による効果で何かを思い出したのか、一瞬母の影を見たようだが……残念ながら私は私で、彼の母の代わりにはなれない。

なれる、なんて思うのはきっと彼の本当の母親にも失礼な話だろう。そもそも私は年下である。

 

実際、ジャギ本人もそれは分かっているようで、気の迷いだった、と理性を取り戻し、慌てて抜けようとしている。

 

 

「あ、あはは。そうですね、私は母ではないので、今のは────」

 

 

────お互い、なかったことにしましょう。

 

そう続けようとして…………なぜか、口が止まった。

 

 

(…………あれ?)

 

 

口を止めたのは、私自身。

……いや、違う。

 

正確には(マコト)ではなく……元の世界で生きていた、男としての自分だ。

 

 

基本的にマコト側に引っ張られているはずの、私の男としての本能が、感性が。

この場面を前にそれを覆し……こう叫んだ。

 

 

────誤解を恐れずに言ってしまおう。

 

 

────男はみんな、マザコンである、と!

 

 

(…………!?)

 

 

その言葉を受け、衝撃と共に……私の中で、次々と理屈付けがなされていく。

 

みんな、と言っても、みんながみんな自立できないだとか、そういう話ではない。

ただ、それとは全く別のところで、どこかで男は自分を包んでくれる女を、安らぎを……母性を求めている、ということだ。

 

……そうだ。私が知る限り、この世界で一番多くの男に求められる姉さん、ユリア。

彼女が持つ慈母星など、まさにその象徴と言えるではないか。

 

ケンシロウさんやシンはもとより、ラオウやトキさんに至るまで姉さんに惹かれた理由。

それは、彼らのような強さを持ってしてなお……いや、むしろ強いからこそ、それ以上の母性で包み込んでくれる女を、無意識に求めていた。

そんな風に考えることも出来るのではないか。

 

それは、この世界で生きたマコトだけの意識では、まだ決して分かるはずの無かった機微。

だが、少なくとも、元の世界で生きた私の男としての意識は、彼らの考えに共感が出来る……出来てしまう。

 

 

そこまで考えた上で、改めて私の膝上でもがく一人の男を見る。

 

幼い頃に両親を無くし、その愛を十分に受けられないまま育ち、そして唯一の拠り所だった拳もずっと認められないままに生きて……

今ようやく、心の底で母の面影を。安らぎを得ようとしかけていた、彼。

 

 

そして、私は年下でもあるが……元の世界の意識や記憶も足してしまえば。

彼らよりもずっと年上であると……まあ、言えなくもない。

 

(…………それなら…………)

 

 

 

それなら。

 

 

 

まあ。

 

 

 

────────いいのかな。

 

 

 

「ぅ、お……?」

 

 

私は、身を起こしかけていたジャギの頭を、再びぐっと押さえつけ、再度膝に寝かせる。

 

そして身体を曲げると、困惑するジャギの耳元に顔を近づけ……

先程のジャギの呟きと同じぐらいの、か細い……だけど確かな声色で。

 

 

頭を撫でながら、それを……囁いた。

 

 

 

 

「────はい、お母さんですよ。…………本当に今まで、よく頑張りましたね、ジャギ」

 

「────────────────ぁ」

 

 

…………ジャギは、しばらく目を見開いたまま固まって……

 

そして、決壊した。

 

 

 

「ぅ、ぅぶ! ふっぅう、ぶう、ぐううぅ~~!!」

 

 

「うぉおおぉおぉ、おおおぉぉおおおぉお~~~~~~っっ!!!!」

 

 

ずっと、満たされなかった。

 

 

そんな、彼の。おそらく二十数年分の想いが、叫びが。

 

 

 

いつまでも、響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

(…………流れで、どえらいことをしてしまった気がする…………)

 

ようやく落ち着いたものの、様々な理由から、お互いに直視出来ずに頭を抱えていた私とジャギ。

が、いつまでもそうしているわけにもいかず、私は咳払いをすると改めて話をする。

 

「おほん、えー、えーっと、ジャギ……さん。その……この後、あなたはどうするんですか?」

 

「ジャギでいい……。そう、だな。もう、俺がしたいことは……ああ、そうだ」

 

ジャギもようやくこちらを見て、言葉を続ける。

 

「マコトの仲間に……俺がさらった女の兄が居るって言ったな。なら、俺はそいつのところに」

「いや、それはちょっと……やめて欲しいです」

 

すでに彼らは新しい人生を、幸せを掴み歩き出している。

そんな彼らのもとに今更贖罪だ、と出たとしても、レイさんからすれば、殺すしかないだろう。

アイリさんにしたって余計なトラウマを思い出させ、兄がさらに血を流すところを見るはめになるだけだ。

 

「誰のためにしろ、もし償いたいって気持ちがあるのなら……簡単に死ぬよりも、出来ればもっと別の形にしてくれる方が、私は好きです」

「……初めて話した時から思ってたがお前って……案外厳しいよな。強くなる方法にしたって、無茶苦茶言ってくれてるぜ」

「ぅ……ま、まあそれも期待のあらわれってことで……」

 

 

「……まあ、そういうことなら、なんとか別のことで生きていくことにするよ」

 

……レイさん達に相談もせず勝手に話を進めてしまっているが、これも勝者特権ということにしておこう。

 

それに、同列扱いはちょっと違うかもしれないが、言ってしまえば目的のために後天的に悪事を働くようになった、という意味なら実はレイさんも同じだ。

 

彼は言った。妹をさらった仇を探すため、汚いことにも手を染め、人を裏切り、騙し。泥をすすって生きてきた、と。

それは、原作であったような悪党から食糧を巻き上げるだけではなく、おそらく何の関係も無い善人達の被害も含んでいるだろう。

そうでなければ自嘲気味にこんな事を言う必要も無いし、実際最初に出会った時は、牙一族側から村に潜入し襲わせるという手引きだった。

ジャギの悪事がなければ起こっていなかった、とも言えるが、その論もレイさんの被害者たちからしてみたら何の関係も無いことだ。

 

 

そんな彼が、彼いわく人間に戻れたことで、幸せを掴むことが出来ているのなら。

今、憑き物が落ちたかのように穏やかな顔を見せるジャギ。彼もそうなることを、私が望むのは間違ったことではない……はずだ。

 

だから、私はジャギの断罪などをしないことを決めた。

 

そして私が彼に言うこと、指し示せるもの……そんなものは、最初に話した時からずっと変わっていない。

 

 

どうしたものか、と先行きを悩むジャギの前に立ち、私はバッと両腕を広げて、力強く。

 

それを言う。

 

 

「ジャギ」

 

 

「────────未来の、話をしましょう!」

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

────聞いていない、聞いていない、聞いていない!!

 

 

野盗の男は今、明確な混乱と、それ以上の死の恐怖に頭を支配されていた。

 

 

最近、野盗たちの間で、とみに話題になっていたとある村。

 

なんでも、関わる大半の人間が一度は見捨てたほどに困窮した村でありながら、突然湧いた水により、今ではオアシスと化したその場所。

だが、ある程度は男連中も戻ってはいるが、まだまだ自衛力は乏しいものだ。

実際村長をやっているというのは、どう見ても武力など持ち合わせていない年老いた女。

 

それを聞いた野盗の男は、仲間内と綿密な準備の末、そのオアシスを自分たちのものにするため襲いかかり……

 

そして今。

桁外れの武力の前に、為すすべなく壊滅しようとしていた。

 

 

「な、なんだ……なんだよ、てめぇ……! なんでこんな化け物が、こんなところに…………!」

 

その時、別の場所からぎゃぁあっという悲鳴が上がる。

思わず見るとそこにあったのは、脚を押さえて転げ回っている仲間と。

 

「さぁさぁ、こんなもんかい、悪党ども! さっさと出ていかないなら、もっと痛い目みるよ!」

 

脅威でもなんでも無かったはずの村長の女が、今仲間の脚を撃ち抜いたばかりの銃を振り回し、気勢を上げている光景だった。

 

 

まるで想定していなかったその事態。

ただ呆気にとられるだけの野盗のもとに、一人の男が近づく。

 

それは、見るも異様なヘルメットと胸についた七つの傷を携えた、どう見てもこんな村に居るには似つかわしくない、あまりに凶悪な面相の男。

にも関わらず村の人間は、その男を畏れるでもなく、平然としている。

 

そして、男が口を開いた。

 

「おぅばあさん、こいつで最後みたいだぜ」

「おお……さすがですね、ほんに助かります。銃のことまで教えてくださり……おかげさまで、村は何の心配もありませんですじゃ」

「は……俺が言うのも何だが、ばぁさんも村のガキどもも。良くこんな人相のやつを信じたもんだな?」

 

そういって自嘲気味に笑う男に、村長が笑顔で答える。

 

「確かに来られた始めはみんなびっくりしましたが……他ならぬあの方、救世主様のご紹介とあらばもう。無下にするはずもありませんて」

 

 

(……舐めやがって!)

 

まだ五体満足の自分が目の前にいることを忘れたか、と野盗の男は隠し持っていたナイフで突き刺そうとする……が。

 

「な……う、動けな……!」

 

全く気付かないうちに自分の腕に数本、細い針が刺さっていた。

経絡秘孔に寸分の狂いなく刺しこまれたそれは、野盗に抵抗すらも許さない。

 

 

「さあ~~て、覚悟は出来ているんだろうなあ~~?」

 

拳を鳴らしながら歩み寄るその男を前に、再び恐怖に顔を引きつらせ、野盗の男は絞り出すようにただ叫ぶ。

 

「な、なんだよ! なんなんだよ、何者なんだよ、お前はぁ!」

「あ~ん、お前、俺を見ても誰だかわかんねえのか?」

「し、知らねえ、お前なんか知らねえ! 知ってたら、こんなところ来るわけねえ!!」

 

「なら、教えてやろう、俺は────」

 

その言葉と同時、集まってきていた村の子どもたちが、声を揃えて、満面の笑顔で。

 

 

ヒーローの、その名を叫んだ。

 

 

「ジャ、ギ~~~~っっ!!」

 

 

 

「────そうだぁ! 俺こそが! ジャギ流北斗神拳使いの、ジャギ様だぁ!!」

 

 

 




もうちっとだけ続くんじゃ

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