【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第二十三話

その後も、彼らはしばらく逡巡していたが、私達からしたらどの道進むしか無いわけで。

開かないなら無理矢理にでも通るぞ、とレイさんが態度で示すと、彼らは覚悟を決める。

 

そして、改めて力強く門を開け放ったのだった。

 

 

これまで一度も門が開けられることなど無かった、とどよめく看守たちを尻目に入場する私達。

それと同時、対角線上の奥にある扉が唸り声のような低い音とともにゆっくりと開き、巨大な影が現れる。

 

まず入ってきたのは、複数の囚人達。

彼らはいずれも、苦悶の表情を浮かべながら何かを担がされている。

 

そして、それに遅れて悠々と入ってきたのが、彼らに神輿のように担がせた椅子にふんぞり返る、巨大な体躯にもっさりとしたヒゲをたくわえた男。

 

そう、彼こそがこのカサンドラを……"表向き"統べる男。

 

 

「獄長、ウイグル様だ────ッ!!」

 

 

「フッフフ……よくぞ来たな、無謀なる挑戦者どもよ。その勇気だけは褒めてやろう」

 

と、嬉しそうにニヤつき、私達を見下ろすウイグル獄長。

私が知る原作でもそうだったが、彼は獄長という立場にありながら、自分に挑戦する存在を心待ちにしている節がある。

鍛え上げられた拳法家としての肉体に、その精神性。彼は悪党ではあるが、意外にも武人然とした在り方をしているのだ。

 

ウイグルの言葉に対し、私は一歩前へ出ながら返す。

 

「そうでしょうか。私には、無謀とは思えませんが」

 

────少なくとも、この段階ではね。

 

「ほう……」

 

 

「お、おい……彼女が出るのか?」

 

その様を見てレイさんに声をかけたのは、門を開けた衛士……ライガさんとフウガさん。

 

強者である彼らなら、私やケンシロウさんが拳法家であることは看破しているだろうが、やはり自分達と直接戦った男が出るものと思っていたのだろう。

その声色には若干の困惑と焦りが見られる。

 

「フ……彼女なら何の問題もない、上手くやるさ。……まあ見ていると良い」

 

そう言うレイさんも、隣に立つケンシロウさんも、腕組みをしながらすでに観戦モードである。

……彼らからの信頼が重い。いや嬉しいけど。

 

 

「フン……貴様たちはそいつの心配などしている場合じゃないだろう、えぇ? ライガ、フウガ」

「う…………」

 

「────連れて来い!!」

 

号令を受け、カサンドラの看守達が連れてきたのは、柱にくくりつけられた一人の青年。

 

「「ミツッッ!!」」

 

体格や顔つきはあまり似ていないが、彼はれっきとしたライガさん達の弟。

レイさんが看破した通り、彼らはこの弟を人質に取られたことで、衛士として戦わされていたのだ。

 

「グフフ……もはやこの人質も必要が無くなった。ワシのペットの餌にしてくれよう」

 

そう言って指笛を鳴らすと、何処からともなく巨大な……タカのような猛禽がやって来た。

ウイグルのペットである彼(?)は主人から差し出された、おあつらえ向けのそのご馳走に狙いを定める。

 

「ミ……ミツ……許せ!」

「先に向こうで待っていろ、俺たちもすぐに行く!」

 

待ちわびた救世主が現れたことを説かれ、覚悟を決めて頷くミツさん。

 

その彼のもとへ、猛禽の鋭く尖ったクチバシが迫り……

 

 

「グェアッ!」

 

 

────当然、私がそれを見過ごすはずもなく、闘気弾で秘孔を突き、気絶させる。

 

 

「むぅ……!」

 

原作のようなウイグル獄長の気まぐれを祈る必要も無い。

驚く彼らを尻目にミツさんのもとに跳ぶと、ロープを切断し解放。

 

「……頑張りましたね」

 

彼を抱え、ライガさん達のもとへ合流したのだった。

 

「み、ミツ……!」

「おぉ……おぉ……!!」

「あ、アニキ~~ッッ!!」

 

無事生還し、再会した喜びに咽び泣く兄弟達。

 

それを見やるウイグル獄長は一度不機嫌そうに鼻を鳴らす。が、すぐに思い直したのか、再びにやけた表情を顔に張り付けた。

 

 

「フン……まあ良いだろう。貴様らが言う救世主とやらが無様に敗れれば、その希望もさらなる絶望に変わるのだからな!」

 

そうして椅子から降りると、両手に持った自慢の鞭をぴしり、ぴしりと鳴らしながら、私と相対した。

 

 

 

 

「フフ、救世主が……その美しい顔が痛みと恐怖に歪む時が楽しみだな……! 行くぞ! 泰山流双条鞭!!」

 

気合とともに、二本の鞭が縦横無尽に踊る。

ウイグルが腕を振るうたびに地面が抉られ、私の皮膚や服がなすすべなく裂かれていく。

 

「ま、マコトッッ!」

「鞭のスピードは人間では見切れない……しかも奴は相当の達人!!」

 

心配そうに漏らすマミヤさんやレイさんの声が聞こえる。

 

……確かに現代においても、鞭とは人力で音速を超えるほどの速さを発揮するとされる武器。

それをこの世界の達人が振るう以上、その速度を完全に見切ることは、如何に北斗神拳使いでも困難と言わざるを得ないだろう。

 

「どうだ、恐怖の味は~~!!」

 

 

────が。

 

(痛っ、いたた、でも、もうちょっと……。こう、かな……よし、ここ!)

 

「ワハハ、ワハハハハハッ!! ────ハ?」

 

がくんっと。

ご機嫌に私の身体を蹂躙していたはずの鞭は、突然その行き先を予定から外したかと思うと、達人が振るう強烈な勢いのまま持ち主のもとに戻り……

 

牙を剥いた。

 

 

「あんぎゃッッ!!」

 

 

ベチィィッと快音を鳴らしながら獄長の顔にめり込んだその鞭の形。

それを見た観衆たちがどよめき、声を上げる。

 

「う、嘘だろ……!? 鞭、が……!」

「ちょ、蝶々結びにぃ!?」

 

多くの囚人達の血を吸ったであろう凶悪な鞭は、我ながら見事に左右対称な蝶々となって、強面なウイグル獄長の顔にその美しい跡を残したのだった。

 

「なああ!! ば、バカな、いつの間に……き、貴様~~ッッ!!」

「ふふ、似合ってますよ」

 

 

……この対策自体は、私が知る原作のこの戦いで、ケンシロウさんがやったことと同じだ。

 

鞭の軌道を見切って鞭同士を結び、獄長の身体以上に、プライドにダメージを与える。

と、いっても私が見切ったのは鞭自体ではなく、それを振るう獄長の筋肉の動きや癖だ。

如何に先端が音速を超える鞭の達人とはいえ、振るう本人までもが音速を超えるわけではないのだ。

 

あとは、それに合わせて鞭が通る場所に、予め手を置くような感覚で素早く結べばこの通りである。

おそらく、ケンシロウさんも同じ方法で鞭を結んだ……はず。

 

……さすがに鞭自体まで見えてたってことないですよね?

 

 

(とりあえず、これでどうかな……)

 

わざわざこんな回りくどい形で双条鞭を攻略したのは、何も意地悪やカッコつけのためではない。

……いや、カッコ良かったケンシロウさんを真似たいという気持ちがゼロ、というわけではないが、それはそれだ。

 

これは、今回ここに乗り込んだ目的の一つを果たすためである。

 

「し、信じられん……み、見えたか今の!?」

「おぉ……あの女なら、もしかしたらカサンドラ伝説を……」

「賭けよう……! 俺たちも、やつに……救世主に……!」

 

……そう、ライガさん達も出会ってから何度も発言している、"カサンドラ伝説"の打倒。

これは、ただ獄長であるウイグルを倒しただけで為せるものだとは限らない。

 

原作でも、獄長の仇討ちに燃える看守達全員に格の違いを見せ、自ら武器を落とさせることでようやくカサンドラが落ちた、とされたのだ。

今回も余計な犠牲が出ないその勝ち方を目指すのなら、この男、獄長には明確に格付けをした上で勝つことが望ましい。

そのために、獄長の手札を晒させ、その上を行くという形で対応をしているというわけだ。

 

 

もちろん、ご丁寧に挑発をされたと受け取った獄長の怒りは、推し量るまでもない。

憤怒の声とともに結ばれた鞭を引きちぎると、自身が被る兜の二本の角に手をかける。

 

「ハァッ!!」

 

そして、それを引き抜くと出てくるのはまたも鞭……

しかし、今度のそれは先ほどのような柄一つにつき一本というものではない。

十を超える数の鞭が柄にまとめられた、異様な形のその武器を見せつけ、獄長は笑う。

 

…………原作を読んだときから思っていたが、これは。

 

「あ、あの、すみません。それ、どうやって兜の中に納めていたんですか?」

 

『脳みその代わりに頭の中に収納されてました』

なんて言われても、うっかり信じてしまいそうなほどのその大質量。

 

それを前におもわず私が漏らしたのは純粋な疑問だったが、ウイグル獄長は恐れと受け取ったのだろう。

勝利の確信ににやりと笑うと、その武器を振るった。

 

「ウワッハハハハ、今度は避けられんぞ!! 泰山流千条鞭────ッッ!!」

 

その掛け声を受け、視界一面を覆い尽くす獄長の鞭。

自在に蠢きながら私に迫りくるそれは、さながら一本一本が別々の生き物の触手の大群だ。

 

ケンシロウさんでも「今度は結べそうにない」と呟くこの物量を以て対象を絡め取り、動きを封じることで次なる必殺の一撃に繋げる……

それこそがウイグル獄長の必勝の戦術で、このまま眺めていては私もその餌食となるだけだろう。

 

 

────が、この対策はすでに考えている。

 

そう思い、ちらっと。後ろで観戦している"彼"を見る。

幸いにして、最新の『お手本』を見ることが出来たのは、つい先程のことだ。

 

鞭の群れが迫るまでの一瞬の間に、修行時代からずっと続けてきたイメージトレーニング、そしてこれまでの戦いで見た全てを反芻し────

 

私は、それを放つ。

 

「フゥッッッ!!」

 

その手は、巨岩をも切り裂く鋭利な刃物。

その腕は、刃物を支えつつも自在にしなる万能の柄。

そして、それらを振るう様は華麗に羽ばたく鳥のごとく。

 

シュパァッと。

素手から放たれるものとしては不自然なほど軽く、そして鋭い。

そんな音が鳴った、と同時。

 

 

「なっぁ、ああぁ!? わ、ワシの、千条鞭が……!!」

「おぉ、アレは……! 俺の……!」

 

 

"私が振るう南斗水鳥拳"によって、ウイグル獄長が誇る千条鞭は、あえなくバラバラになった身を地に晒すこととなった。

 

(……ずっこいなー。北斗神拳)

 

自分で使っておいて内心で思わず呟いてしまったが、これは北斗神拳の真髄の一つ……

これまで見た、あるいは手を合わせた技を我が物として振るう奥義、水影心だ。

これによってこの場面で最も有効と思われるレイさんの技を借り、私は無事獄長の鞭を攻略したのだった。

 

「おのれ、おのれ、おのれぃ~~!! ならば、このワシの、不落のカサンドラ伝説の真の姿を見るがいい!!」

 

しかし、それでもなお。

萎えること無く溢れ出る闘志を剥き出しにすると、獄長は右肩を爆発的に膨らませ、それを前に突き出す異様な構えを取る。

 

見かけ上はボディビルダーが行うポージング、サイドチェストに近いものだろうか。

ただし、この構えに込められた気迫は、殺意は。競技用のそれとは当然違い、どこまでも禍々しいものだ。

 

そしてその構えのまま、彼が持つ巨体の常識からはそうそう考えられない速度で私のもとに突進してきた。

 

これこそが、ウイグル獄長の切り札にして最強の闘法。

その名も。

 

 

「蒙古覇極道────────ッッ!!」

 

 

目の前まで迫ったそれに対し、私は衝突の寸前で横っ飛びをし、身をかわす。

それにより、私の後ろにあった頑丈な鉄柱に獄長は突っ込むことになった。

 

「うわぁっ!? 獄長が!?」

 

観戦している者の多くが、自身の勢いのせいで自滅する獄長の姿を幻視する。

 

────が、実際に彼らが目にしたものは。

 

「おお、見ろ!!」

「あ、あの太さの鉄柱が、完全にひしゃげている!!」

 

肩に傷一つつかないまま、自身の力を誇る獄長の姿だった。

 

 

「……ふぅ」

 

分かっていたことだが、蒙古覇極道の破壊力自体は相当なものだ。

何しろこの技は、まともに受ければケンシロウさんですら、血反吐を吐きながら一瞬失神するほどの威力を持つ。

当然、純粋な体格で劣る私が受ければ同じか、それ以上に酷いことになることは疑う余地も無いだろう。

 

その威力を改めて目の当たりにし、私はほんの一瞬、考える。

遠距離から撃ち抜く、足を狙うなど、これに付き合わずに攻略する方法はいくつもあるが……

 

────いや、ここは。

 

 

ビッ、と。

私は二本、揃えた指を獄長と観衆に見えるように掲げる。

 

「んん……? なんだぁ~~!?」

「あなたの切り札……その力は分かりました。……二本、です。私はこの二本の指で、あなたの技を破ってみせましょう」

「き、貴様どこまでも……!! 俺をここまでコケにしたことは許せん、覚悟しろ!!」

 

 

私が知る流れのケンシロウさんは確か六本だったか……といっても、別に対抗して指を減らした、というわけではない。

ケンシロウさんは六本の指だけで蒙古覇極道を正面から受け止め、力技で引き裂くという荒業で攻略した。

一方の私は、正直なところアレが出来る自信はまだない。

 

ならばどうするか?

決まっている。単純な破壊力で勝てないのなら、いつもどおり技を、力学を駆使するのみだ。

 

そして。

 

(────その上で、正面から打ち破ってやる!)

 

 

「追い詰めたぞぉっ! ひしゃげて潰れろッッ!! 蒙古覇極道────ッッ!!」

 

 

迫りくる、重戦車もかくやという圧力を前にした私は、すかさず左手で右手首の秘孔を突く。

 

「む……あれをやるか、マコト」

 

 

……この技の基本的な発想は、デビルリバースを屠ったあの技、龍渦門鐘(りゅうかもんしょう)と変わらない。

秘孔による瞬間的な強化を以て、インパクトの一撃にかけるというスタンスだ。

 

異なるのは、強化箇所。

龍渦門鐘が右腕から拳にかけて強化することで面の破壊力を発揮するならば、これは指に強化と闘気を集中することで、点の貫通力を追求したものだ。

強化箇所が狭い分負担も小さく、また発動にかかる時間も短い。

 

「スゥッ────」

 

小さく、静かに息を吸う。

秘孔によって精鋭化された指先を一度収めるように、右手を脇近くで構える。

そして、目前に迫りくる鋼鉄の肉塊に打ち放った、その技の名は。

 

 

「────龍牙穿孔(りゅうがせんこう)

 

 

イメージするのは、現代世界のライフル弾のような回転力、貫通力。

ゴゥッと轟音を伴うほどに旋回しながら到達したそれは────。

 

 

「ビギッ!? ア、ギィイァアアアアッッッ!!!?」

 

 

狙い通り、鋼鉄以上の硬さを誇るウイグル獄長の蒙古覇極道すらを、貫き穿つ一本の槍となった。

 

そのまま体内に侵入した私の指は、容赦なく獄長の秘孔を内側から突き、肩を完全に爆散させる。

激痛という言葉も生ぬるいであろう、生き地獄をもたらす衝撃に絶叫の声をあげ、呻く獄長。

 

────が、この期に及んでなお、獄長は折れない。

 

どういう仕組みか、兜の一部が剥がれたかと思うと頭頂部が鉄製の鋭利な刃となった。

それを私に突き立てようと、頭を突き出す。

 

「貴様、ごときがぁ────ッ!!」

「────ッ!」

 

……これだ。

私が知る原作でもそうだったが、この精神の強さこそがこの獄長が他格闘家と一線を画するところだ。

人質を取ったり、囚人をなぶり殺しにしたりと外道であることに疑いは無いが、それでも闘士としての不屈のメンタリティは、この世界を見渡してもそうそうお目にかかれるものではない。

 

しかし。

 

「ぐぶぇぇ!?」

 

この攻撃が苦し紛れであることには変わりがない。

 

すかさずアゴを蹴り上げると、がら空きの身体を晒した獄長。

そこに私は、致命の秘孔を含めた連撃を叩き込む。

 

 

「えぶっげぼ、ぐぼべべばぁ~~~~っ!?」

 

 

不落のカサンドラ伝説を作り上げていた、350キロもの強靭な肉体。

それが今、なすすべなく宙を舞い、最後は血溜まりに沈むこととなった。

 

 

 

 

「か、げぅ……おゔぉろる、ぶべぇえっえぇ……」

 

……凄まじいことに、これでもまだ辛うじて息があるようだ。

 

原作で一度、ケンシロウさんが殺したと判断したにも関わらず、墓穴から這い出たほどの執念は、伊達ではないということか。

とはいえ、さすがにもう戦える状態では無いだろう。

 

(────これ以上、無駄に長く苦しませる必要もない)

 

そう判断した私は、息も絶え絶えの獄長のもとに、とどめを刺すため歩を進める。

 

 

 

コツ────ン、コツ────ン、と。

 

 

足音が聞こえたのは、その時だった。

 

歓声を始めとした雑多な音。

それに賑わうはずのその場所に、そんな足音一つは、本来はかき消されてしかるべきはずのもの。

 

にもかかわらず、ここに居る全員の耳にはっきりと届くそれが示すもの。

それはすなわち、だんだんと近づいてくるその音の主が、それだけ強烈な存在感を放っている事実に他ならないだろう。

 

 

やがて、一斉に静まり返る私達の前に現れたのは……精悍な顔つきの、一人の男。

 

 

「あ"、あなだ、は~~、お”ぶ、あゔぁばろ~~! どうが、どうがやづをごろしぃ、でぇ~~!!」

 

すでに死に体となっているウイグル獄長がその男にすがりつくが、男はそれをただ黙って見下ろすのみだ。

 

その冷めた目を見やった周りの囚人や看守達は、一斉に震え上がり身を縮こませる。

 

(…………これは……)

 

────瞬間、ドゥッと独特の音が鳴った。

 

「おご……? こ、ごへ……?」

 

何かが破裂したかのように鋭く、激しく響いたそれは、風を切る……すなわち、攻撃の音。

 

自分が殺されたことにも気づかないウイグル獄長は、遅れて自分の胸元を見て……そこが完全に抉られ、抜き取られているところを知覚する。

 

そして、白目を剥きながら、血に沈みながら。それでも辛うじて絞り出せたものは、最期の断末魔。

 

「ざ……」

 

 

()()()()……!?」

 

 

……ウイグル獄長が絶命したのを確認すると、男は私達を……いや、違う。

 

"私"を真っ直ぐに見据えて、何かを噛みしめるかのようにゆっくりと口を開く。

 

 

「久しいな。見違えたものだ」

 

「…………ッ!」

 

 

────私は、この拳法を知っている。

────私は、この拳法を使う男を知っている。

 

────そして、この男もまた、私を知っている。

 

 

 

男が使う拳法の名は、泰山天狼拳。

 

 

 

この地、カサンドラで待っていたその男とは。

 

 

「我が妹、マコトよ」

 

 

拳王軍配下にして私の兄、リュウガだった。

 

 




墓穴に叩き込まれてなお
ケンシロウとトキを会わせるなと言うためだけに起き上がった
ウイグル獄長とかいう忠臣の鑑
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