【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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北斗の兄妹編-2
第二十六話


★★★★★★★

 

 

────"死"が。

目の前に、明確に、形をなしていた。

 

蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、今この時において感じる圧力は、力の差は。

 

南斗水鳥拳の使い手にして南斗六聖拳の一角、レイをもってして、それ以上のものだと。

 

 

「……一つだけ聞こう。北斗七星の横にある星を、貴様は見たことがあるか」

 

「…………ある!!」

 

 

その男、世紀末覇者拳王……ラオウを前にして、そう感じざるを得なかった。

 

 

そして、それだけの力を感じたからこそ……"だからこそ"、レイは────────

 

 

★★★★★★★

 

 

「ところで、結果的に勝ったのは私、ということになるのですが……結局、リュウガの目的は果たせたのでしょうか」

 

戦いを終え、無事に解放出来たトキさん、ケンシロウさんとも合流出来た私は、座り込むリュウガにそう質問をした。

 

ちなみに呼び方はリュウガのままだ。

二人の時ならまだともかく、人の目もある状況で兄さん呼びは少々照れくさいものがある。

ケンシロウさんも感極まった時はトキさんやラオウを兄さんと呼ぶが、普段は名前呼びなわけだし、私もそれに倣う感じでいいだろう。

 

「む……そうだな、確かにお前の力は、この乱世に希望を見出すに十分なものだと感じた。……しかし」

 

しかし、ですね分かります。

 

リュウガの迷いは、当然のものだ。

何しろ天秤にかけられる世紀末覇者、ラオウは現時点でも最強の力を持っているにも関わらず、まだまだ成長の余地が残されている男。

そしてそれは、肉体的にも精神的にも、だ。

 

私は原作知識という形でそれをよく知っているが、リュウガは己の使命や宿星から来る観察眼で、事前知識なしにそれをうっすら見抜いているのだろう。

 

むしろ安心した。

今の時点で「マコト最強や! 拳王なんて指先一つでダウンや!」なんて太鼓判を押される方がよほど困る話である。

 

……それにもちろん、まだまだ成長をするのはラオウだけではない。

 

「……分かりました、それなら。完全に納得できるその時まで、私達を見ていてください。……おそらく、直接雌雄を決する時も近いでしょうし」

 

今は、これで十分だ。

明確な私達の味方になったわけでなくても、少なくともこれで、原作のような魔狼となってまで見定めを急ぐ必要は無くなったはず。

そして、そのスタンスとリュウガの状況も、これでケンシロウさん、トキさんと共有出来た形になる。

 

 

それならば、もうここに用は無い。

リュウガはダメージのためどの道しばらくは動けないし、あとは急ぎ、私達三人でレイさんを追うだけだ。

敵の居なくなったカサンドラの後始末は、ライガさん達兄弟が買って出てくれている。

 

そう話もまとまり、私達は彼らから背を向け、出ようとし────

 

(…………)

 

 

一つだけ。心残りというかなんというか……

 

そう。"余計なこと"を言いたくなって、私は足を止めた。

 

「リュウガ」

「む……どうしたマコト」

 

……迷いながら、言葉を探しながら。

それでも確かに、ゆっくりと、口を紡ぐ。

 

「……宿星に、宿命に生きるあなたの生き方を、否定する気はありません。ですが……『自分の宿星がこれだから、自分はこうしか出来ない』と。そんな風に決めつけて生きるのは、なんていうかその……もったいない気がするんです」

 

それは、変わったあとの、未来の話。

 

心の在り様で何もかも変わってくるこの世界では、きっと、なおさら大切なこと。

 

一時期、私も運命を、宿命だけを再現するための奴隷になりかけていたから良く分かる。

……そう考えると、やはり私達は似たもの兄妹だ。

 

「だから、宿命以外に出来ることを……この世界に生きる一人間としての、その可能性を探すことは……これからも、辞めないでくれると嬉しいです」

 

────きっと、出来るはずだ。

なにしろ、すでに原作と違う道を、彼は辿ることが出来ているのだから。

 

「…………そう、だな。他ならぬお前がそう言うのだ、その通りなのだろう。……天狼ではなく、一人の男として、か」

 

『他ならぬお前』という言葉が彼にとってどれほどの意味を含むものなのか、今の私には分からない。

ケンシロウさん達が戻ってくるまでに話せたことも、そこまで多くは無いし。

 

ただ、この場で私は言うべきことは言い、彼はそれを受け取ってくれた。

今は、それでいい。

 

 

そうして、今度こそ私達は。

アイリさん達の村へ急ぎ歩を進めたのだった。

 

 

先んじて村へ向かっているであろう、男の無事を祈りながら。

 

 

(────どうか、無理だけはしませんように……本当に、お願いしますよ)

 

 

★★★★★★★

 

 

レイの妹、アイリ。

彼女にとっての争い、あるいは戦いとは。当然忌避するべき、遠い存在であるはずのものだった。

 

元々心穏やかで、優しい気性だったということもある。

ただ、兄のレイがそういった事柄からアイリを遠ざけ、守ってきたというのがその大きな要因となっているのも、また事実だ。

 

そして、彼女自身それが自分の……いや、この世紀末における"女"の役割だ、と。

女の身である自分は戦えないが、戦う男を支え、寄り添うことで幸せを目指していくものなんだ、と。

そうごく自然に考え、納得していた。

これは、アイリに限らず、この世紀末における男女ともに普遍的な、大多数が持つ考え方であるといえる。

 

それは、ある日悪漢に攫われ、未来に絶望し目を閉ざした後も同じだ。

状況に抗い、自ら道を切り開くことなど、考慮の余地にすら無い。

 

そうして流されて、人形のように従順に振る舞えば、こんな世界でも少しはマシな人生になるはずだ、と。

そんなか細い考えに縋って、日々を過ごしてきた。

 

あの日、彼女たちに出会うまでは。

 

 

『────────分かりました、私が、代わりに人質になれば良いんですね』

 

 

自分より年下で背丈も小さく、自分と同じ女で……なのに、自分の兄にも負けないほどの強さを持つ彼女。

そんな彼女が、こんな自分を助けるために自らを犠牲にし捕まる羽目になり、その上で活路を切り開いたという事実。

それは、彼女の価値観を一変させるには十分すぎるものだった。

 

変わりたい、と。守られるだけではいけない、と。

再び目が開き、彼女の姿かたちを初めて確認した時、改めて強くそう思った。

 

 

が、しかし。

いざそう思ったとしても、そこはこれまで戦う術など知るはずも無かった女性一人。

現実問題として、自分に出来ることが何なのかも分からない。

置いてもらっている村は、野盗の脅威から解放されてからは平和そのものだし、かといって兄達の旅に着いていっても足手まといとなるだけだ。

 

おまけに。

 

「えぇ!? いやいやいや、アイリちゃんが無理に戦うことなんて無いって! これまでずっと大変だったんだからさ、その分ゆっくり幸せにならなきゃ!」

 

アイリの境遇を知る優しい村人達。

彼らは当然アイリを守る対象だとばかり思っており、いざ出来ることは無いかと聞きに行っても、こうしてたしなめられるだけであった。

アイリからしても、彼らが100%の善意で言っているのが伝わっているからこそ、無理に聞き出して迷惑をかける、ということもはばかられた。

 

 

そうして、どこか歯切れの悪い、やりたいことはあるがあと一歩を踏み出す……そんなきっかけが無いままの日々。

 

 

────彼女が居る村に、拳王侵攻隊の手が迫ったのは、そんな頃だった。

 

 

 

「…………ぅ……ぅぅ……」

 

その『きっかけ』が訪れた時、彼女の心を蝕んだものは、期待でも高揚でも無く……ただただ、ぶり返した恐怖であった。

 

当然だ。如何に変わりたいと心で思ったとしても、今はまだ実際に行動に移す前の段階。

戦い方など結局教わっていないままな上、以前同じようにして悪漢に攫われ、絶望した時の記憶もまだ新しい。

 

また、あの日々に戻ってしまうのか。一度取り戻した希望を、再び失うことになるのか。

こんなことなら、希望なんて持つべきではなかったのではないか。

 

────いや。

 

「結局、弱い私達はこうやって……今の世界に翻弄されて、流されて生きるしか……ない……!」

 

そもそも、自分が変わろうなどと思ったことが間違いなんじゃないか。

そうだ、マコトが女性でありながらああも強いのは、ただ彼女が特別なヒーロー……救世主であっただけなのではないか。

そして、そうではない、何も変われないままの自分は、ここで震えているのが似合いの矮小な存在なのではないか。

 

恐怖と混乱がもたらす、そんな黒く濁った泥のような諦観。

それに心が押しつぶされ、薄暗い倉庫のようなところで、ただ肩を震わせていた時。

 

「だめ!! アイリさん、そんな事言ったらだめ!!」

 

口を開いたのは、隣に居る幼き少女……リンだった。

名を表すかのように凛とした真っ直ぐな目で、彼女は語りかける。

 

 

「マコトさん達も、あなたのお兄さんも必ず戻ってくる! 信じるのよ、いつか必ず明るい明日が、希望の日が来るって。だから、最後の最後まで諦めずに頑張ろう!」

 

 

────ああ、と思った。

 

(この子も、強いんだ……)

 

この子も、マコトと同じだ。

特別な、揺らがない自分の意思を持った強い救世主なんだ、と。

 

恐怖を感じているばかりの自分とは、違う種類の人間なんだ、と。

 

そして、そんな彼女だからこそ、この場で死なせるような真似はしたくない。

こうしている間にも、すでに侵攻隊の男たちの足音はこちらに近づいている。

 

……それならば、いっそ。

マコトがしたように自分が身代わりに出て、彼女だけでも逃がすのが、今の自分に出来る最大の貢献なのではないか。

そんな、うす暗い自己犠牲に心が傾きかけていた時……

 

 

改めて目の前のリンを見たアイリは、それに気づいた。

 

(…………震え、てる……?)

 

「え、えへへ……ごめんなさい、偉そうなこと言っちゃって」

 

気丈に、揺らがずに強くある、そんな目と言葉にばかり意識がいっていた。しかし、よくよく見るとリンの脚は、肩は、その小さく幼い体躯は。

…………自分と同じく、今も恐怖に震え続けている。

その上で、それを必死に噛み殺して、戦っているのだ。

 

(────あっ)

 

そして、その事実に気づくと同時、今になって思い出すのは、マコトと始めて出会った時の記憶。

 

 

(そうだ……あの人も、そうだった)

 

自ら人質になり、綱渡りを続けた上で牙大王を撃破した時、ちらっと見えた彼女の表情。

それは『これくらい、出来て当然さ』とでもいうような、何の悩みも無い自信満々なものだったか?

 

いいや、違う。

あの時彼女が思わず表したそれは、素人目からしても心底安心した、というような。

そして、抱えていた不安がやっと解消されたというような、そんなどこまでも等身大な、一人の人間の……女の子の表情。

 

 

この考えに至り、アイリはようやく分かった。

 

そう、リンもマコトも、きっと他の誰だって。

 

 

────強いから、怖くないんじゃない。

 

 

(()()()()()()()()()()()()()……!!)

 

 

「おら~~!! 誰か居るのか~~ッ!?」

 

 

そして、いよいよ迫ってくる粗雑な足音と声。

これが自分達を助けに来た、援軍である可能性など当然、ありえないだろう。

 

同じ考えに至ったリンが、覚悟を決めた目で、近くにある大きな布に手をかける。

 

そのまま『アイリさん、出てきちゃダメ』と、アイリだけに布を被せようとし────

 

「あ、アイリさん……?」

 

────その手を、アイリに止められた。

 

困惑するリンに笑顔を向けると、アイリはただ黙って倉庫の中から"それ"を見つけ出す。

 

…………いや、本当は。

ここに来たときから、"それ"があることは分かっていた。

分かっていて、でも自分に使えるはずがない、と気づかないフリをしていた。

 

 

けれど、そんな時間は……怖さを、弱さを理由に流される生き方は、今この場で終わりだ。

 

 

その時。

ドガァッと荒々しくドアを蹴破る音ともに入ってきたのは、侵攻隊の男。

 

 

「ここか~~!! はっはは────ッ!! ……は?」

 

 

弱者を追い詰め、刈り取る愉悦。

ただそれだけを考え、歪めていた男の顔は。

 

今、追い詰めたはずの、にも関わらず堂々と佇む女。

彼女が手に持つ力……すなわち、ボウガンの矢に貫かれ────

 

「あゔぇっひぇっっ!?」

 

歪めた顔を張り付けたまま、最期を迎えたのだった。

 

 

(…………私は、もう大丈夫)

 

 

「行こう、リンちゃん!!」

 

「────うんっ!」

 

 

 

 

「お、おぉ……これは…………!!」

 

急ぎ、村に戻ったレイが目にしたもの。

それは、レイが覚悟していたような、侵攻隊の魔の手によって蹂躙された凄惨な状況……などではなく。

 

「うおおおおぉ!! 俺たちも彼女らに負けるな、続けぇ────!!」

 

「ぐああ、何だこいつら、急に!!」

 

闘志を掲げ、命がけで抗う村人達の姿であった。

……そして、その最前線で懸命に戦うのは。

抗う術を知らず周囲の風に流され、人形のように生きるしか出来ないと……そう思っていたはずの、妹。

 

「あ……アイリか!」

 

「兄さん、私は……こっちは大丈夫!! 思う存分戦って!!」

 

「そうか……そう、か…………!!」

 

 

もはや、レイに弱点や憂いなどは一切無い。

 

 

「はやあっ!!」

 

「ぇっえろばっ!!」

 

彼の喜びを表すかのように、いっそう華麗に、そして激しく舞う水鳥。

それは、最後に残っていた拳王侵攻隊を指揮していた男を相手に振るわれる。

 

結果、彼が用いるガソリンを呑み込んで火を吹くという火闘術など、当然のごとく歯牙にもかけずに切り倒したのだった。

 

たちまち、村人達の歓声が上がる。

 

そうして、彼らがお互いの健闘をたたえるのを横目に、レイもまたアイリのもとへ駆け寄ろうとした。

 

 

────その時。

 

 

「お前がレイか。……南斗水鳥拳、楽しませてもらった」

 

 

掴み取った希望に湧く村に、レイのもとに。

死兆星が、降り立ったのであった。

 

 

 

 

「うっくっ!! な……なんだ今のは!!」

 

北斗四兄弟の長兄にして世紀末覇者、ラオウ。

マコトやケンシロウをして想像を絶する強者と、そう言わしめるほどの男の力を量るため、飛びかかったレイが見たもの。

それは、巨大な馬にまたがり、手綱を握ったままにも関わらずレイの視界を覆った、無数の拳の影であった。

 

「フッ……真の奥義を、真髄を極めたものはその身に"(オーラ)"をまとうことが出来る。貴様が見たものはそれだ!」

 

「"(オーラ)"!!」

 

レイもまた、この世界有数の達人。

この一合で、たったこれだけのやり取りで、レイは十全に悟る。

マコト達の言葉は誇張でもなんでも無く、この拳王という男は紛れもない怪物であるということ。

 

そして、絶対に無理をするな、死ぬな、というマコトの言葉の意味を。

 

「…………フッ……!」

 

────だが、それでも……いや、"だからこそ"。

 

 

(たとえ、刺し違えてでも……こいつをこのまま、マコト達に会わせるわけには、絶対に行かぬ!!)

 

 

これが、レイという男の……義星を持つ男の、決して変わることのない(さが)

 

 

マコトとの約束を違えることになる心苦しさはある。

しかしそれでも、アイリを失い死んでいた魂を蘇らせてくれた彼女達に報いるためには。

ここを死に場所にしてでも、戦うしか無い、と。レイはそう考えたのだった。

 

 

最後に、必死に止めようと自分に対し叫ぶアイリやリンを見る。

心配ではある、が。彼女達はすでに自立した心を持ち、自分の道を歩むことが出来ている。

その事実もまた、レイのこの選択を後押しすることになった。

 

 

「────たとえ、この身が砕かれようと!!」

 

 

自分の、命を賭けてでも。

 

 

「でやああ!! 南斗究極奥義、断己相殺拳!!」

 

全生命力を注ぎ込んだ必殺の気迫とともに、レイは飛ぶ。

たとえトドメに至らなくともいい。これで与えた傷が、彼女たちの道の礎となるのなら。

 

 

────そんな、どこまでも義に殉ずる男の覚悟をあざ笑うかのように。

 

 

ラオウは突然、自らの外套を広げると、それでレイを包んだ。

 

 

それは、常のレイならば食らうことなどありえないはずの、詭道と呼ぶのもはばかれるほどの些細な小細工。

 

彼に誤算があるとすれば。

正攻法でも自分より格上の男が、このような手段を使うことなど、まるで考慮していなかった点。

ただでさえ極度の緊張状態にあった彼は、想定外の反撃に対応することが出来ず、視界は塞がれ、構えは崩れる。

 

拳王を前に晒したその一瞬は、あまりに致命的な隙だった。

 

 

すでにレイが北斗七星の脇で輝く星……死兆星を見ていることを知るラオウは、吠える。

 

 

「フ……愚かな……。どりゃっ!! 神はすでに貴様に死を与えていたのだ!!」

 

 

勝利の確信とともに、裂ぱくの気合で、指を突き出す。

その指突が狙う先は、レイの胸元。

……正確にはそこに位置する秘孔、新血愁。

 

それを突かれたものは、三日三晩苦しみぬいた上で、最後には全身から血を吹き出し絶命することとなる。

解除する手段は────無い。

 

少なくとも、それを知るものは今はまだ、いない。ケンシロウもトキも……そして、マコトも。

 

 

────結局、マコトの願いとは裏腹に、ラオウを前にレイが止まることは、無かった。

 

 

では、未来が変わることは無いのか?

レイが見た死兆星……死の運命は、決して覆ることのないものなのか?

 

いや。

 

マコトは知っている。

レイと言う男が、義星という星がどういうものなのか。

……もしかしたら、この世界の誰よりも。

 

『自分は戦うことでしか借りを返せない男だ』と彼が考えていることを。

"本来の道筋"でもリンやアイリの声を以てして止められなかったことを。

 

マコトは知っている。

死の運命を告げる死兆星は、必ずしも絶対のものではないことを。

死兆星が、人によってもたらされる死の運命を告げるなら……それを変えるのもまた、人の手によるものであることを。

 

だから彼女は、"もう一手"。

カサンドラに向かう前からすでに、それを打っていたのだ。

 

 

────ガァンッと。激しい轟音が鳴り響く。

 

 

それと同時、荒々しくも正確に、精美に秘孔を狙っていたラオウの指は、レイの身体に到達する寸前弾かれ、"ブレ"た。

 

「ぬぅっ!?」

 

「ぐぁ!!」

 

これにより、指こそレイの胸元を抉るものの、本命である新血愁の秘孔には至らず、レイの身体はずり落ちる。

 

 

しかし、拳王が注意を向けたのはレイではなく、音の出どころ。

バッ、と身体ごと視線を向けたその先にあったのは、一人の男と、彼が持つ"それ"から流れ出す煙。

 

彼が持つそれは、銃。

音の正体は、銃声。

 

 

「き……貴様は!!」

 

 

それを持つ、彼の名は。

 

 

────どうか、無理だけはしませんように……本当に、お願いしますよ。レイ、そして────

 

 

「よぉ……。元気そうで何よりだぜ、兄者?」

 

 

────────ジャギ。

 

 


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